閑話 少し前のミリスさま(ミリス視点)
悪役令嬢 (候補)ミリス・ガングード。なんやかんやで9歳となりました。
お父様もお母様も健康そのもの。ガングード家の財政に陰りはなく、二年ほど前にお義理の弟となったウィリス様との関係も良好……で、あると思います。さすがに最初の頃はギクシャクすることもありましたが、二年も経てばそれなりに仲良くなることもできた……と思います。
順調です。
順調に『悪役令嬢フラグ』はつぶせています。
……順調すぎて逆に不安になってしまうのは、心配しすぎでしょうか?
一部の人たちが「ウィリス様はガングード家の次期当主を狙っている」という陰口を言っていて、さらに一部の方が私に直接警告をしてくださっているのでそれが懸念事項といえば懸念事項でしょうか?
しかし前世庶民である私は次期ガングード公の地位に固執してはいませんし、ウィリス様はとても優秀な御方。平々凡々とした私よりも次期ガングード公に相応しい人間でしょう。
お父様もウィリス様ならガングード家を任せてもいいと考えて養子にしたのでしょうし、私がとやかく心配することではありません。
……ただ、やはりウィリス様は将来私を断罪するかもしれない御方ですし、理屈では分かっていても不安になってしまうのが人情というもの。
というわけで執事であるセバスさんにそれとなくウィリス様の様子を見るよう頼んだ私でした。
セバスさんは私の専属使用人ではないのですからあまりワガママを言うのは気が引けるのですが、最近はお父様からもなるべく私のことを手伝うよう指示されているようなので、ここは遠慮なく頼ることにしました。
後継者争いが日常茶飯事な貴族社会において兄弟のことを調べることは『普通』なのでセバスさんも調査を受け入れてくださいました。
……といいますか、養子とはいえウィリス様は『外様』ですし、ウィリス様のお父様であるエイリヒ・ウィルクード伯は野心溢れる方だと聞き及んでいます。そんなお二人の動向は当然調べているでしょうし、その調査結果を私にも教えてもらえるようになった、と言った方が適切でしょうか?
まぁとにかく。ウィリス様に何らかの問題があればいずれ報告が上がるでしょう。
残る懸念事項は世界の終わりの発生源となるダンジョン調査と、ヒロイン・リリア様ですが……。
最近は服飾関係の仕事から派生する形で戦闘用に動きやすい服の開発や皮鎧の製作に手を伸ばしていますし、そろそろ「実際に使用している冒険者や兵士の声を聞きたい」と冒険者ギルドに足を運んでも怪しくない頃合いだと思います。
ここ数年、服の流行の確認という体でときどき街に繰り出していますし、その流れでお願いすれば許可は出るはずです。もちろん護衛はつくでしょうけれど。
ギルドマスターと交流を持つことができれば、あとは直接出向かなくても依頼のやり取りはできると思いますし、世界の終わり発生源となるダンジョン探索のためにも、まずはギルドマスターとコンタクトを取らないといけないですね。そろそろお父様にお伺いを立ててみましょう。
……そして。最後の懸念事項。
リリア・レナード子爵家令嬢。
ガングード家ならとにかく、私個人は『影(密偵)』など有していませんから、お父様やお母様にそれとなく尋ねるか、お茶会で情報収集をするしかないのが現状ですが……現状、リリア様は信じられない成果を残し続けているようです。
新しい魔術理論を記した論文が王宮に提出され。
すでに複数体のドラゴンを討伐し。
最近ではリッチを浄化したと聞き及んでいます。
原作ゲームにおける『リリア・レナード』は少々厭世的であり、たとえ新しい魔術理論を発見したとしても他人に教えるようなことはしないでしょうし、大々的に発表するなどもってのほか。これは前世でキャラクター設定に関わっていたのですから断言できます。
原作でもドラゴンを討伐しますが、それは攻略対象との個別ルートに入ってから――15歳になり魔法学園に入学してからのはずです。
そして、リッチ。
もしも噂に聞くリッチが原作ゲームに登場したものと同じである場合。それはリッチではなく死者の王であり――ルートによっては魔王を差し置いてラスボスとなる存在です。
もしも、もしもそんなリッチを9歳の時点で浄化したのだとしたら。
少なくとも、すでに聖女としての能力には目覚めているのでしょう。
聖女として覚醒したとしても、あのリッチは複数のゲーム的ギミックを解除してからではないと倒せないのですから、倒せた=ギミックを解除できたなら前世の記憶を有している可能性は非常に高いでしょう。
いえ、悪役令嬢ものでよくある『ゲームと現実は違う』展開ならギミックなんて存在しないかもしれませんけれど……。ここはリリア様も前世の記憶を有していることを前提にして対応した方がいいかもしれません。
15歳になる前に接触した方がいいかも。
密かに決意した私でした。
ちなみにリリアさんはゲーム的ギミックごとぶち抜きました。力とパワーで。
参照:第13部分 王都のオバケ屋敷
第14部分 私ちょっと怒ってる(あるいは、シリアス・デストロイヤー)
このお話の時系列は↑のちょっとあと、ナユハを救ったくらいです。
次回、2月3日更新予定です。




