むかしばなし とある悪役令嬢の物語・7(ミリス視点)
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
※6章のエピローグです
前回までのあらすじ。
噛みました。
はじめましての挨拶で噛みました。
一番最初。これから姉弟として仲良くしていきましょうという大切な場面で。どうして噛んでしまうのでしょうか私?
「……義父上。ミリス様――いえ、姉上も突然のことで混乱しているご様子。詳しい話はまた後日ということでいかがでしょうか?」
朗らかに笑いながらウィリス様がフォローしてくださいました。イケメンです。なんというイケメンでしょう。私と同い年(7歳)とはとても信じられません。義理とはいえ弟になるとは信じられません。中身が大人だと言われても信じてしまいそうです。
生暖かい目で見送られつつ部屋へと帰され、一息ついた私。
とりあえず、深呼吸してから現状確認といきましょう。
まず、この世界について。
ウィリス様が登場したのですからまず間違いなく『ボク☆オト』の世界でしょう。
いえ、私の思春期特有の妄想という可能性もなきにしもあらずですが、そんなことを考え出したらキリがないのでここは現実であると断定して話を進めます。
時系列が狂い、私(悪役令嬢)が王太子殿下の婚約者になる前に義弟となったのは……まぁ、よくある『ゲーム展開が変わっちゃった』系だと思います。問題と言えば問題ですが、今さらどうしようもないのでこのまま突き進むしかありません。
喫緊の課題としてはやはり『世界の終わり』の阻止となるでしょう。
一番の問題となるお父様については……今のところ大丈夫そうです。『悪落ち』の原因となるお母様はお元気ですし、ガングード家の財政も原作ゲームよりはマシになっていますから。
財政については私がお金を稼いでいることもありますが、前世の記憶を思い出したことによって私やお母様が無駄なドレスや宝飾品にお金を使わなくなったことも大きいでしょう。
もちろん公爵家の一員として質素倹約というわけにはいきませんが、ドレスなどは自分でデザインし、自分の会社で生産したものを使えますからね。最先端のドレスを身に纏いつつ節約できるという奇跡のような状況を演出できているのです。
高位貴族は冗談じゃなくパーティごとにドレスを新調しますからね。「あら、ガングード家は新しいドレスも買えないの?」と馬鹿にされるわけにはいかないのです。馬鹿らしいことですが。
そして、お母様の健康状態も良好。なんでも以前お母様がお父様の目の前で立ちくらみを起こしたらしく、それ以来お父様は過剰なまでにお母様の体調を気になさっていますから。
今でも月に一度は鑑定眼持ちの医者による診察を受けていますし、そのおかげで進行性の病気をごく初期の状態で発見・完治させることができたようです。
また、お母様自身も適度な休息を心がけてくださっているらしく、任せられる仕事はセバスさんたちに振り分けているみたいです。
前世の私もそうでしたが、働き過ぎは簡単に健康を害しますからね。自分で気をつけていただけるのは本当に助かります。
お父様は今のところ悪落ちする気配はなく、原因も取り除けています。
お母様も現状は健康を維持できています。
そして、私。原作ゲームの私は学園進学後に(何かとうるさく諫言してくる)セバスさんをクビにしてしまうほどの傍若無人さでしたが、さすがにそこまでではないはずです。……ないですよね? ないと信じています。
そして、私が悪役令嬢ルートから外れたのですから、義弟となったウィリス様も私を断罪してくることはない。……はずです。
さて。こう考えると破滅ルート回避は中々にうまくいっているのではないでしょうか? ガングード家の財政支援のために私が稼いだお金は受け取ってもらえていませんが、それは貯めておいていざというときに使っていただけばいいだけですし。
……あ、そうです。お金に余裕があるのですから、冒険者ギルドに世界の終わり関連の調査依頼を出すのもいいかもしれません。
原作ゲームでは古びたダンジョンを起点にして世界の終わりが発生しましたし、おそらくこの世界にも同じダンジョンがあるはずです。
まずはダンジョンがどこにあるのかを調査。可能であれば内部も調べてもらい、世界の終わり発生時期に関するヒントを得たいところです。できれば発生前に阻止したいですが、それは難しいでしょうか……?
しかし世界の終わりの起点となるダンジョンは当然危険度も高いでしょうし、内部の調査依頼を気軽に出せないのが悩みどころですね。ガングード公爵領は魔物の出没が多く、冒険者の質もいいと聞きますから、何とか高ランク冒険者に依頼をしたいところです。
まずは冒険者ギルドへ行き、ダンジョンの場所を探してもらいましょうか。公爵家令嬢である私が冒険者ギルドに向かうのは難しいですが、そこは新しい事業に関係がある的な言い訳を考えるとしましょう。
そして調査をしていただいている合間に私はウィリス様と交流を深め、万が一の破滅フラグを潰しておきませんと。私が断罪されてしまっては世界の終わりを止めることもできなくなりますし。
そして……。
(……ヒロイン、リリア・レナード様)
前世における『悪役令嬢もの』においては、ヒロインも前世の記憶を有しているパターンが非常に多かったです。であれば、リリア・レナード様も乙女ゲームの知識を持っている可能性は充分にあります。
(確かめるべき、でしょうか?)
できるならばした方がいいのでしょう。けれど、もしもリリア様が『悪い』ヒロインだった場合余計な影響を与えてしまう可能性があります。もしかしたら早々に『悪役令嬢』を潰すために行動されてしまうかも……。
こう言っては何ですが、平々凡々な貴族令嬢である私と、将来的に聖女となるリリア様では皆さんは後者の方を信じるでしょう。
そもそも、いくら私たちが貴族とはいえ、家族づきあいがない現状で上位貴族と下位貴族が接触する機会はまずありませんし、何の『伝手』もない状態からいきなり交流を持とうとするのは怪しすぎます。
いえ、怪しまれる程度ならいいのですが、『ガングード公の娘が成金のレナード商会の娘に媚を売っている』と誤解されたら色々と面倒くさいことになりそうです。
やはり、15歳で(ゲームの舞台となる)魔法学院に入学するまで待ち、学友として知り合うのが自然な流れでしょうか? もちろん接触するのはその時まで待ちますが、情報収集は進める方向で。
と、いうわけで、
1,世界の終わりの起点となるダンジョンを探す。できれば内部調査。
2,義弟であるウィリス様と仲良くなる。
3,リリア・レナード様に関する情報収集。
とりあえずこれからは以上の三つを中心に行動していこうと思います。
もちろん引き続き公爵令嬢としての勉強に、ドレスや宝飾品のデザイン。会社の運営、悪役令嬢小説の執筆、前世の記憶を活かした新製品を開発しての資金調達もやっていかなければなりません。
やるべきことを再認識した私は、いつかのように頭を抱えました。
「やることが、やることが増えてしまいました……」
どうしてこうなった、と。思わず前世のような乱雑な口調でつぶやいてしまう私でした。
ちょっと執筆時間が取れないので次回更新遅れます。
次回、1月14日更新予定です。




