7.王宮へ
マリア様の復活の準備。
そしてガイさん関連の、陛下への報告をするために私は王城を訪れた。
城は相変わらず半壊したままで、再建のための資材があちこちに運び込まれていた。
それらを運搬しているのは作業用の麻の服に身を包んだ労働者たち……なのだけど、ボロを着ていても立派な体格や身のこなしは隠しきれていない。たぶん騎士団の人間を動員しているのだろう。
王城は機密の塊。身分不確かな労働者は使えないから、苦肉の策として騎士団に動いてもらっているのだろうね。
ときおり人の背丈の二倍ほどはあるゴーレムが資材運搬をしているけれど……うん、あまり上等なゴーレムじゃない。基礎術式は未熟だし強度もなさそう。必然的に運べる資材も少なめだし、何よりゴーレム一体を一人の術者が操っている時点で非効率的だ。私だったら半自動にしちゃうのにね。
「リリア基準で考えない方がいいと思うな私」
私(王太子の婚約者)の護衛という形で同行しているナユハから突っ込まれてしまった。ちなみにナユハは何かと差別されやすい黒髪黒目だけど、正真正銘の騎士爵なので王宮に来ても何の問題も無い。
私が黒髪差別をどうにかしようと画策している合間に自分で状況を改善してしまうとはさすが私のナユハたんだ。
『――ほぅ、いいところに来たなリリアとナユハ』
元王妃な幽霊、ミヤ様がふよふよとこちらに近寄ってきた。最近はレナード邸にいることも多いので忘れがちだけど、彼女は基本王宮に留まる地縛霊(?)なのだ。
『うむうむ、わらわの伴侶として足繁く王宮へと足を運ぶとは感心感心。褒美として『はぐ』してやろうではないか!』
嬉しそうに私を胸に抱き、ぐしぐしと頭を撫でてくるミヤ様だった。この世界の(力ある)幽霊は基本触れるのでハグも頭なでなでも普通にやってくるのだ。
王宮に足繁く通うのは王太子の婚約者兼宮廷伯という理由からなのですが……という指摘はグッと飲み込んだ私である。嬉しそうなミヤ様の笑顔を曇らせる必要はないからね。
うん、抱きつき(抱きつかれ)を継続するのはあくまでもミヤ様のため。私のためではないと声高に宣言したいのですよ、はい。
「……リリア、頬が緩んでいるよ?」
ナユハからジト目で睨まれてしまった。いや、ちゃうねん。まだナユハたちには存在しない大きな胸部装甲が顔に当たっているとかそんな理由は一切合切ないねん。頬が緩んでいるのは年相応な笑顔を浮かべるようになったミヤ様を見て心が温かくなっているからやねん。なぜか関西弁になってしまう私であった。
「……これが『むっつり』というヤツなんだね……」
HAHAHA,誰からそんな俗な前世言葉を――愛理しかいないか。彼女とはそろそろ拳で語り合う必要がありそうだね。
「その前に私が拳で語り合う必要があると思うな、リリアと。主に女性関係について」
「あ、あはははは……。ナユハさまの超握力な右手で殴られたらさすがの私でも死んじゃうんじゃないのかな?」
「リリアはそれくらいじゃ死なないと思うな私」
ナユハさんは私を何だと思っているのかな……?
そもそも、私、女性関係でナユハから殴られるようなことなんてしてないし。
「え?」
『え?』
ナユハどころかミヤ様までもが目を丸くして驚いていた。どういうことやねん。いや確かにいつの間にかハーレム(?)ができあがっているみたいだけど、私は女性を口説いたことなんてないし、ハーレムを作ろうとしたこともない。まったく。一度も。天地身命に誓って!
私が身の潔白をどこかの神様に誓っていると――、……うん? ナユハの後ろの方からなにやら黒雲がもくもくと現れたぞ?
『うむうむ、ほうほう』
そそくさと私から距離を取るミヤ様。そんな彼女の動きと連鎖するように黒雲は私の頭上まで移動してきて、止まった。
そして――
「――ぴぎゃあ!?」
雷落ちた!? 黒雲から雷落ちたよ!? 雷に打たれちゃったよ私!?
だ、大丈夫? アフロになってない私? アフロ聖女爆誕とか嫌だよ私。
「まず心配するところがそこなの?」
『一応は神罰だというのに『のーだめーじ』とは……。我が伴侶ながら非常識な……』
なぜか呆れの目を向けてくるナユハとミヤ様だった。雷に打たれたのだから少しくらい心配してくれてもいいんじゃないですかね?
あと神罰ってどういうこと? 私、神様に怒られるようなことは一切合切やっていませんけど?
「そういうところだよ……」
そういうところらしい。いやどういうところなのさ? 私は女の子を口説いたことなんてないし――ぴぎゃあまた雷落ちた!? 自動回復スキルなきゃ死んでるよこれ!?
『うむ、まぁ自覚がないのも罪ということか』
勝手に納得しないでくださいミヤ様。
というか天罰? あの黒雲、ナユハの背後から生まれませんでしたか? ナユハさまとうとう神にならせられ(←?)ましたか?
『ナユハも無事に勇猛にして神聖なる雷神の加護を得られたようだな。わらわの見込んだとおりだ。推薦したかいがあったというものよな』
勇猛にして神聖なる……? それってもしや建御雷神? 日本神話における超重要神じゃん。そんな神様からも加護をもらえるだなんて……ナユハには雷に縁があるのかな?
ちなみに竜列国って日本神話体系らしい。(ウィルド情報)そしてこの大陸は北欧神話体系なのだとか。
あと、神様の加護って推薦制度なの? 初耳なんですけど? そしてミヤ様の言葉が確かなら、私って建御雷から神罰を喰らっちゃったの?
……ふっ、しかし甘いよナユハとミヤ様。私だって日々成長しているのだ、この程度で「どうしてこうなった!?」と叫んだりは――しない!
と、私が中二病的ポーズを決めていると、
『加護が得られたのならば加護を扱えるようにならなければな!』
当然のことのように言うミヤ様だった。うん? 加護って自分の意志で扱えるようなものなのかな? 例えば私は加護のおかげで健康だし毒や呪いが効かないけれど、自分でどうこうはできないし……。竜列国ではそういうものなの?
私が首をかしげている間にミヤ様がナユハへの講義を始めた。
『まずは右手に意識を集中』
「こうですか?」
『うむ。相手に対する怒りや不満、やるせなさなどを込めれば“神”も答えてくれるだろう』
「…………なるほど」
じと~っとした目で私を見つめるナユハとミヤ様だった。
ふっ、甘いよミヤ様。私とナユハの絆を舐めてはいけない。ナユハが私に怒りや不満を抱いていることなんて――ない!
…………。
……ない、かな?
……ない、かも?
…………もしかしたらある、かもね?
ナユハの右腕に『雷気』とでもいうべきものが集まってくる。魔法魔力とはまた違った“力”だ。そんなものが腕に纏わり付いたら普通は大やけどをするはずなのだけど、まぁナユハの右手にはスクナ様から授かった聖痕(加護)があるから問題ナッシング。
いや、私の方は大問題だけどね? あれだけの雷気、弱いドラゴンくらいなら倒せるんじゃないのかな? あんなもの喰らったらさすがの私も痛いと思うのだけど、ナユハさんの腕から離れた雷気は迷うことなくこちらに向かってきて――
ど、どうしてこうな――(落雷)
璃々愛
「まったく、あれだけ女の子を口説き落としておいて無自覚とはひどい女の子だよねリリアちゃんは!」
オーちゃん
「お前が言うな。お前が言うな」
次回、11月21日更新予定です。




