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幼女ヒロインは女の子を攻略しました ……どうしてこうなった?  作者: 九條葉月
第二章 幼なじみのメイド編

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12.私ちょっと怒ってる (あるいは、シリアス・デストロイヤー)



 12.私ちょっと怒ってる。 (あるいは、シリアス・デストロイヤー)




 愛理さんが少しは落ち着いたようなので私はこれまでの経緯を尋ねることにした。洋館風の建物の廊下にお互い示し合わせるでもなく正座してしまったのは元日本人としてのサガだろうか。


「それで、どうして愛理さんは異世界に?」


「え? えっと、私もよく分からないけど……こう、死んだぁ! と思ったらぐわわーん! ってなって、気付いたらリリアちゃんから黒歴史で言葉責めをされていたんだよ!」


 擬音たっぷりに今までの経緯を説明した愛理さん。うん、まったくわからん。あと言葉責め(?)をしたのは私じゃなくて璃々愛(わたし)であると声を大にして主張したい。


 う~む、愛理さんの説明から推測するに、死んだ直後にこちらの世界に来て、すぐ何者かに意識を奪われていたのかな? だからこそあの首輪を破壊された直後へと(愛理さんの主観では)時間が飛んだと。


 この世界が日本と同じ時間の流れかどうかは分からないが、もし同じだとしたら愛理さんは自分が死んでから璃々愛(わたし)が死んで転生するまでの10年ほど――いや、転生後にリリア・レナードとして9年生きているのだから+9年か。19年ほどを幽霊としてこの屋敷で過ごしていたことになる。


 ずっと。おそらくは首輪を付けられたまま。


「…………」


 私が誰にも聞こえないくらい小さな舌打ちをすると――まるでそれを聞きつけたかのように廊下の奥から一つの気配が近づいてきた。


 人にしては陰湿。魔物にしては荒々しさがない。何とも吐き気がする存在に向けて私は視線を動かした。


 ――ホネホネ○ン?


 骸骨がいた。

 いやスケルトンか。

 いやいやただのスケルトンがあんな禍々しい雰囲気を纏っているわけがないし……もしかして、アレが噂の“リッチ”というものだろうか? 高貴な人の幽霊じゃなくて魔法使いが不死になった方のね。


 骸骨(リッチ?)がカタカタと顎を動かした。


『よう、久しぶりだなぁガルド』


 お爺さまの知り合いかーい!

 さすがですわお爺さま、あんな一目見て悪役だと分かる方とお知り合いだなんて。いえむしろ気安い態度からして友人なのかしら?


「……てめぇは死んだはずだろうが。迷い出たのならもう一度殺してやるよ」


 対するお爺さまは不機嫌さMAX。元々荒々しくなっていた口調が完全に冒険者時代に戻っている。(もちろん私はそのころ生まれていないので話で聞いたことがあるだけだけど)


 しかし、私がいるのにお爺さまがあんな口調になるなんて……。いつ槍の一突きを繰り出しても不思議ではない。


 いや、すでに繰り出していた。


 おそらくは『殺してやるよ』と発言した直後。愛理さんと出会ったときから持ったままだった槍を文字通り目にもとまらぬ速さでリッチの心臓部に突き刺していたのだ。


 普通の人間なら刺されたことにすら気付かずに死ぬだろう。

 しかし、リッチはもはや普通の人間ではない。道を外れたバケモノなのだ。


 心臓に突き刺さった槍の穂先が黒ずんでいく。まるで呪いに犯されたかのように。

 いやあれは間違いなく呪いの類いだろう。


「……お爺さま。その槍は諦めた方がいいですわ」


 私の忠告を聞きお爺さまは槍を手放してくれた。直後、大業物であるはずの槍は漆黒の炎に包まれて燃えだした。

 その炎の勢いは術者の“怒り”そのものか。


『――死なないね。俺はこの腐った国に復讐せねばならんのだ』


 憎々しげな声が屋敷に響き渡る。声量は決して大きくはない。にもかかわらず窓は揺れ、気温が数度低くなったような気さえする。


「…………」


 きっとあのリッチには悲しい過去があるのだろう。

 涙を誘う物語があるのだろう。

 人としての姿を失ってもなお成し遂げようとする復讐だ、彼なりの正義が確かに存在しているはず。


 でもゴメン。

 興味ない。


 ここで本物のヒロインなら彼の心に救いをもたらすことができるのかもしれないのだけれどね。実際ゲーム本編にも似たようなイベントはあったし。

 しかし、残念ながら私はそこまで心優しくない。


 リッチがここにいると屋敷が解体できない。

 つまり、それだけナユハとの再会が遅れてしまう。

 私は骸骨の復讐よりも美少女との逢瀬を優先するよ。


 あ、でも成仏させる前に一つだけ聞いておこうかな。


「リッチさん、リッチさん。愛理さんはどうしてこんなところにいたのですか?」


 愛理さんはリッチが登場してから私の背中に隠れてしまっている。たぶん本能が警報を鳴らしているのだろう。


 私が子供であるせいかリッチは予想以上にあっさりと答えてくれた。


『あいり? あぁ、そこの幽霊か。異世界召喚の実験中に呼び出してな。甚大な魔力を有していたから隷従の首輪を嵌めておいたのだ。くくくっ、その女のおかげで俺は十分に力を蓄えることができた。今なら王城も楽に陥落させられるだろう』


 そう言ってリッチは左手の中指に装備した指輪を掲げて見せた。太陽を掴もうとするがごとく。


 魔力は電気とは違って長期間劣化させずに保管させることができる。

 たとえば、宝石。純度や透明度が高ければ高いほど魔力を充填させやすく、その意味では水晶が(この世界では)高価になっている。


 たとえば、髪の毛。長い年月をかけて成長し、なおかつ血管=魔力の循環からも切り離されているそれは充電器ならぬ充魔器として女性の魔法使いによく用いられている。自分の身体の一部だから貯めやすいし。だから女性の魔法使いはほぼ例外なく長髪だ。


 もちろんそれとは別に『貴族女性は髪を伸ばすべき』という価値観もあるから長髪の女性が即魔法使いとは限らないのだけど。


 閑話休題。

 つまりこのリッチは愛理さんを利用して力を蓄えていたわけだ。あの指輪の宝石へと。自分自身の復讐に使うために。


 はい有罪。

 はい私刑。

 判決は強制成仏となりました。


「――貪り喰らうもの(グレイプニル)


 光り輝く紐が廊下から生えてきてリッチの身体を拘束した。


『ほぅ、どの系統の魔法とも違うな。稟質魔法(リタツト)とは珍しい。だがこの程度の拘束では二十年力を蓄え続けた俺を――なに? な、なぜだ!? なぜ破壊できない!?』


 リッチが最初は余裕ぶり、最後の方は慌てふためき抵抗する。拘束を解くためにあらゆる魔術を行使しているが貪り喰らうもの(グレイプニル)はびくともしない。窓は吹き飛び、壁は焼かれ、あるいは凍り、あるいは引き裂かれる中――、お爺さまの槍を燃やした黒き呪いでさえ貪り喰らうもの(グレイプニル)には一切の効果をもたらさなかった。


 そりゃそうだ。

 あの紐は幻想より出でしもの。主神にして全知全能の神であるオーディンすら一飲みにするフェンリルを縛した唯一の存在。そして何より――神話において、かのフェンリルすら貪り喰らうもの(グレイプニル)を破壊することはできなかったのだ。


 神々の黄昏(ラグナロク)の際には『すべての封印は消えた』とあるので、神々の黄昏が来ればどうにかなるかもね。

 ただしもう神々の黄昏は終わっている。私の前々世がオーディンなのがいい例だ。オーディンは神々の黄昏のときフェンリルに飲み込まれて死んでしまうからね。


 原典ですら破壊されなかった神の紐を、亡霊ごときがどうにかできるはずも無し。


 しかし拘束しただけで成仏させることはできない。いや貪り喰らうもの(グレイプニル)の『力とパワー』で骨をへし折ってしまうのは簡単だ。けれども、それだけでは消えてはくれないだろう。


 だからこそ。

 アイテムボックスに手を伸ばし一冊の本を取り出す。


「たららたったら~! 大聖典~!」


 初代ドラ○もんの声真似をしながら取り出したのはこの世界の聖なる書。国家宗教である“大聖教”が編纂したもので、神々の言葉やら祝詞やらが記されているらしい。


 大聖典の登場にリッチは目を見開いて驚いていた。たぶん。瞼や眼球がないので目を見開いてというのは想像だけど。


『ば、ばかな!? 大聖典だと!? 聖教の秘蔵書をなぜお前のような子供が持っている!? それを下賜されるのは大神官以上でなければならないはずだ! ――まさか、貴様があの神童なのか!? 弱冠8歳で大神官に任命されたという!』


 長々とした説明ありがとうございました。

 もちろん私は神官などではない。あんなストイックな生活(一部の破戒官は除く)をしたら私のスローライフ心が死んでしまう。もしもファンディスクの修道院ルートに入ったら隣国あたりに逃亡しよう。

 あぁ、そういう意味でもお金を稼いで貯金しておかなきゃね。


 それはともかくとして。この大聖典は半年くらい前、姉御と呼び慕う女性から『これ、リリアにやるわ。こんなもん使うよりもメイスでぶん殴った方が早ぇえし。本を武器にするとすぐに壊れっからなぁ』という流れで押しつけられ――もとい、譲り受けたものなのだ。


 姉御、あの口ぶりだと本で幽霊をぶん殴ったことがあるよね……。


 しかし、これって簡単に譲られた気がするけど、本来は下賜されたものなの? 下賜ってことは高貴な方から与えられたものだから……陛下か神召長からかは分からないが……そんな大事なものを人にあげちゃうような破戒官が王宮内の教会で大神官をやっていて大丈夫なのだろうか?


 ちなみに王宮教会の大神官ともなれば国王陛下にも意見できる立場らしい。なにせ未来の神官長筆頭候補だ。


 ますます不安。姉御、陛下に神官の飲酒許可を求めたりしないだろうか……。というか姉御が王宮で真面目に仕事をしている姿が想像できない。酔っ払って近衛騎士に絡んでいる姿はありありと浮かんでくるのに。


 …………。


 ま、王宮のことはお偉いさんが考えればいいよね! 子爵家令嬢には関係のない話だ。登城する機会なんて一生に一度、デビュタントの時くらいだろうし。


 王宮の現状から目を逸らした私は大聖典を開いた。この大聖典はさすが秘蔵の書だけあって目次を使う必要がない。適当に開いただけで使用者が今一番必要としているものが浮かび上がってくるのだ。


 羊皮紙に表示されたのは一つの祝詞。神々を称えし聖なる歌だ。


「――六根清浄 急急如律令」


 疾く早く心身を清めよ。ってとこかな? 除霊する側の人間が汚れていたら意味ないし。ふふふ、前世からの中二病だから呪文には詳しいのだよ。


 え? なんで中世ファンタジー風な世界観で“神々を称えし聖なる歌”の始まりが陰陽師が使うような呪文なのかって? ……そんなこと、私が知るか。文句なら大聖典を書いた人に言ってくれ。


「――朱雀 玄武 白虎 勾陳 帝禹 文王 三台 玉女 青龍」


 これは確か前世で言うところの九字。

 意味はよく知らない。だって私は神官じゃないし。

 ただ、ゲームにおける未来の“聖女”である私が唱えたおかげか意味が分からないままでも十全の効果を発揮してくれた。


 リッチの足下に円陣と、その中に記された五芒星が浮かび上がる。五芒星の周りに記された文字はこの世界のものよりむしろ古文の授業で見た文体に近く……やはり陰陽師っぽい。


 そういえばソシャゲ版の職業に“陰陽師”があったな。中世ファンタジー風の世界観なのに。


 そんな知識を思い出している間に円陣が光り輝き、光の粒子がリッチの身体を包み込んでいく。浄化にして浄火の光だ。


『ばかな!? こんな小娘に! わが二十年の恨みが――』


 最後まで醜く。リッチとなった復讐者はあっさりとその物語を終えた。いやほんとにあっさりと。私でもビックリするほどに。ここは最後の力を振り絞って呪いでもかけてくる場面じゃないのかな?


「…………」


 背後でお爺さまが微妙な顔をしているのが分かる。見なくても分かる。そういえば知り合いっぽい感じでしたものね。空気読めなくてごめんなさい。


 さて。やらかしてしまったものはしょうがない。リッチのことは綺麗さっぱり忘れるとして……今は愛理さんのことを優先するか。


 この世界は幽霊に対してある程度寛大だ。地縛霊や浮遊霊などは魔物として分類され、害がないなら放置されるのが基本。というか王宮の大図書館の司書長はリッチであるという噂もある。


 だから愛理さんが望むなら幽霊として存在していてもいいし、成仏を望むならお手伝いもできる。この屋敷は解体するから地縛霊をやってもらうわけにもいかないけど、何だったら魔術を施しやすい宝石に他縛(・・)してしまって――


 私が今後の対応を考えていると、状況が動いた。


 私の後ろに隠れていた愛理さんが光の粒子に包まれ始めたのだ。

 ゆっくりと、まるで成仏するかのように天に昇っていく愛理さん。


 もしも愛理さんがこの世に止まっていた理由が地縛でも自縛でもなく、リッチによる他縛だった場合。そのリッチが成仏した以上愛理さんを縛り付けるものは何もなく。自然の摂理に従って魂が天に昇るのもおかしな話ではない。


 そう、おかしな話ではない。


 でも、それでいいの?

 自分の意志に関係なく成仏してしまうだなんて……。


 愛理さんは若くして死んだんだよ?

 もっと人生を謳歌したかったんじゃないの?


 二十年近くリッチに縛り付けられていたんだよ?

 解放されてすぐ成仏してしまうなんて……そんなのはおかしいとは思わない?


「…………」


 私は愛理さんと同じ時を過ごしたわけではない。親友だったのはあくまで前世の私であり、今世の私はその記憶を持っているというだけの話だ。


 でも、(わたし)は覚えている。


 夢を語った彼女の姿を。

 楽しそうに笑う彼女の姿を。

 失恋して泣いた彼女の姿を。


 時には希望に満ちあふれ、時には喜びを爆発させ、時には思い切り嘆き悲しんでいた――親友(ともだち)


 (わたし)の親友は誰よりも素直に、誰よりもはっきりと感情を表現していた。


 そんな親友の姿をもう少し見ていたいと思うのは……我が儘だろうか?


 ……我が儘でもいい。


 私は子供なのだから、ちょっとくらいの我が儘は許してもらえるはず!


「愛理っ! ちょっと待っ――へぶ!?」


『へ!? 痛っ!?』



 ……ここで状況を説明しよう。




 ①天に昇る愛理さんをとりあえず引き留めようとして腕を引っ張った美少女リリアちゃん。


 ②急に引っ張られて体勢を崩した愛理さん。足場のない空中なのでそのまま倒れる。


 ③私の鼻と愛理さんの顎がごっつんこ。


 ④私、鼻血出す。




 幽霊なのに堅いってどうなんだろうね? おかげで油断して鼻血出しちゃったよ。どうしてこうなった……。


 結構な勢いで――それこそ鼻血が出るほどの勢いで――ぶつかってきた愛理さんは必然的に私に覆い被さるような格好となり、当たり前のように鼻血は愛理さんの身体にかかってしまって……。



『じゃじゃじゃじゃーん!』

『ここに血の契約は結ばれたー』

『妖精さんの名においてー』

『笹倉愛理をリリア・レナードの使い魔(・・・)として認めようー』

『だってその方が面白そうだしー』



 とんでもない爆弾発言を妖精さんーズがしてくれた。


 いや魔法使いが血を使って契約するのは普通だし、超常的な存在である妖精さんが従僕契約の立会人になるのもまぁわかる。それに、この世界では幽霊も魔物扱いだから理屈的には使い魔にできるのだろうけど……いやいや『面白そうだから』ってなによ!? せめてその本音はひた隠してくれてもいいんじゃないのかな!?


 私との契約でこの世界との繋がりができたおかげか愛理さんの昇天は止まった。彼女を取り巻いていた光の粒子も霧散する。


 一応、左目で愛理さんを鑑定してみる。



 名前 笹倉愛理

 年齢 18歳(享年)

 職業 リリア・レナードの使い魔



 あーらしっかりとステータスに登録されていますね。なぜか頭の中で璃々愛が大爆笑しているし。


 どうしてこうなった……。





次回、10日更新予定です。

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