5.国王陛下からの依頼
『クケーッ!(おうおうそこのヒューマン! いきなり撃ち落とすとはどういう了見だ!?)』
フェニックスさんと妖精さんの怪獣大戦争(?)が終結したあと。私は怒り狂うフェニックスさんの前で正座していた。
妖精さんとのバトルはともかく、その前の撃ち落とし事件は10:0でこちらが悪いので平謝りの私である。……いや妖精さんがまたイタズラしたんじゃないかなぁとは思うんだけど、その妖精さんをロケットに乗せたのは私だしなぁ……。
「わざとじゃなくてですね、ほんとに偶然と言いますか……」
そう、偶然。妖精さんのイタズラという名の偶然なのである。きっと。たぶん。おそらくは。
『クケーッ!(偶然であんなものが飛んでくるか!? 当たることがあるか!? 爆発することがあるか!?)』
「や~我ながらあり得ねーとは思うんですけどねー、」
『助け船。アンスールの運命力であれば必然とすら言える』
『クケ? (アンスール? ……そういえば、よく見ればこいつあの女神の転生体か。はぁん、二回も転生すればあの生真面目もここまでアレになるのか)』
不死鳥さんからジロジロ見られてしまう私だった。どうやらオーちゃん(前々世)と知り合いらしい。アレってなんやねんアレって。
あと、今さらのツッコミだけど、『クケーッ』とか『クケ』という鳴き声にそれだけの意味を収めるのは無理がありません? 副音声仕事しすぎですよ?
『クケ!(とりあえず、損害賠償と慰謝料を耳揃えて払ってもらおうじゃないか!)』
やだなぁ損害賠償とか慰謝料とか口走る幻想種。夢が壊れる……。いや悪いのは私なので支払いますけどね。
「え~っと、支払いはどういう形がいいですか? 金貨? 手形? 数は少ないですけど宝飾品もありますが」
これでもレナード商会の娘だし、ポーションやら何やらでそれなりの収入もあるので支払いに不安はなかったりする。
『クケーッ!(そんなのお前の魔力に決まっているだろう! 血を寄越せ!)』
「…………、……血吸い不死鳥?」
『クケ!(ぶん殴るぞコラ! お前の血だから価値があるんだよ!)』
妖精さんといい、なんで私の血を欲しがるのだか。いや血で解決できるなら安いものだけどね?
とりあえず妖精さんにするときのように人差し指の先を切り、不死鳥さんに差し出してみる。不死鳥さんは迷うことなく私の指先にくちばしを伸ばして――
『クケーッ!(ひゃっほう! 最高だぜー!)』
酔っ払っていた。瞬時に。即座に。本物の(?)千鳥足をして舞い踊っている。なんでみんな私の血で酔っ払うのか……どうしてこうなった?
◇
「り、リリア嬢。その、肩に乗っている鳥はいったい……?」
あのあと。ロケットの残骸を回収してから屋敷に戻ると国王陛下が吃驚仰天していた。そう、血を与えた不死鳥さんがなぜか私の肩に乗り、屋敷までついてきてしまったのだ。そんなに私の血が気に入ったの?
いやまぁ一滴で酔える酒と考えるとコスパ最高……なのかなぁ?
ちなみに不死鳥さんは羽根が燃えているけれど不思議と熱くはなかったりする。肩に乗っけてもヤケドしたりはしない。身体はデカいのですっごく邪魔だけどね。現在は首をものすっごく傾けております私。
「新しいペットですわ、陛下」
『クケーッ!(誰がペットじゃ! せめて友達とか家族とか言わんか!)』
羽根でペシペシ叩かれてしまった。いや出会ったばかりで友達や家族呼ばわりは展開早すぎじゃないですか?
「ペット……。余の目が確かなら、それ、不死鳥じゃ……?」
「えぇ、先ほどちょっとした事故で撃ち落としてしまいまして」
「不死鳥を撃ち落とした? 雲より高く飛び、普段は目視することができないと言われる、あの幻想種を?」
「大気圏突破を目指したロケットですもの、雲の上を飛ぶ程度で逃げられるはずがありませんわ」
「たいきけん? ろけっと? な、何を言っているのか理解できないが……いや、リリア嬢だしな」
奇妙な納得をした陛下。その納得の仕方には厳重に抗議したいです、えぇ。
『……長期連載のてこ入れに動物枠を投入するとは……リリアちゃん、恐ろしい子!』
愛理が昔の少女マンガのように白目を剥いていた。もはやどこからツッコミを入れればいいのか分からない。
私が愛理に白い目を向けていると、陛下から手で促されたので対面するソファに座る。
「宮廷伯に任命したからには、リリア嬢にもいくつか仕事をしてもらわないとならないのだ」
「あら、てっきり子爵家の娘を王太子殿下の婚約者に据えるために任命していただいたとばかり」
子爵家の娘なら家格が低すぎて難しいけど、伯爵ならまぁ婚約者もありえない話じゃない。
「そう考えている貴族も多いが、ポーションの製作やリュースの護衛などは宮廷伯に任命されるに足る実績だ。事実を知る者の中でリリア嬢の宮廷伯任命に異を唱える命知らずはいないだろう」
命知らずって。もうちょっと表現がどうにかなりませんか? 私10歳のか弱い女の子ですよ?
「だが、爵位には責任が伴う。領地があれば領を統治し、税を納めることで責任を果たせる。しかし領地を持たない宮廷伯は実務で職責を全うせねばならないのだ」
「理屈は分かりますが、では、私は何をすればよろしいのでしょうか?」
「うむ、まずは王城の修復に力を貸して欲しい。リリア嬢のゴーレムは評判だからな。石材の搬入や積み上げなどの協力をしてくれると助かる」
王城は機密の塊だし、敵国のスパイが盗聴器(もちろん機械じゃなくて魔導具)の設置などの工作をしたら大変だものね。日雇いの労働者を気軽に使うわけにはいかないのだろう。そして王城に出入りできる身分の者で石運びをしてくれる人がどれだけいるかっていうと……。
「まずは、ということは他にもあるのですか?」
「……マリア・ヒュンスターの復活に力を貸して欲しい」
マリーのお母様か。元々はヒュンスター侯やガングード公、ゲルリッツ侯に協力する形で『竜人』であるマリア様を復活させようという話になっていたのだけど、事情を知った陛下が『国王からの依頼』に格上げしたと。
陛下から宮廷伯への依頼となると今まで計画していた「こっそりやってしまおう」作戦は難しくなるし、下手をすれば前の騎士団長が(ドラゴンに変身して領民を守るために戦った)マリア様にとどめを刺したと知らしめることになりかねないのだけれども……。まぁ、陛下はもちろん考慮済みで、それでもなお依頼してきたのだろう。
「そちらに関しましては宝物庫からマリア様の『首』をお出しいただければすぐにでも取りかかり――あ、いえ、マリット様の処遇が決まらないと難しいでしょうか?」
なにせマリア様の息子であるマリット様はワイバーンを召喚してリュースを暗殺しようとした人物だものね。被害がなかったとはいえ処分しないわけにはいかないだろうし、そんな人物の母親を復活させるというのはちょっと難しいのかもしれない。
陛下からの依頼を達成するにはマリット様に『恩赦』を与えないといけないけれど……。
「そうなるな。そして、それに関することなのだが……二人、説得をして欲しい人物がいる」
「説得……二人、ですか?」
「一人はガイサン・デンヒュールド。一体目のドラゴン退治で騎士爵、此度の活躍により男爵位を授けることが決定している。だが、どうにも受けてくれなくてな」
平民が一代で男爵とか大出世どころじゃない超出世だ。なにせ一代限りの騎士爵とは違い、子供に爵位を受け継がせていける正真正銘の貴族様なのだから。
ちなみに邪神退治の勇者であるお爺さまは平民から子爵なので、それに次ぐくらいの凄さ。
しかし、なんで私が説得を? ガイさんの友達だから? 爵位はいらないって言うのなら無理にあげなくてもいいのでは?
「ナユハ嬢に騎士爵を授けたのに、同じく活躍したガイサンに授けないのは不公平だからな。ナユハ嬢が余計な非難を受けないためにも、ガイサンを説得してもらいたい」
あ~ナユハはただでさえ批判されやすい背景持ちだものね。陛下なりに気を遣ってくださっているのか。ありがたやありがたや。仕事を押しつけられるのはまったくありがたくないけどね。
「それで、二人目はマリット様ですか?」
「うむ。リュースが何度か面会しているが、未だに成功していないようなのでな」
マリット様は今現在ヒュンスター家の王都別邸地下で『療養中』らしい。もちろんマリット様は元気いっぱいなので、貴族らしい隠語というヤツだ。
「ガイさんはとにかく、マリット様の説得とは何をすればよろしいのです? 伝え聞いた話では、マリット様は素直に罪を認め捜査にも協力しているのでは?」
「竜使いの力は有用なのでな。これからは国のためにその力を使って欲しいと考えているのだ」
王太子殿下を暗殺しようとした人間を国防に使おうと? なんというアグレッシブさ。自分を殺そうとした人間を配下に加えろと命じられたリュースの心境、察するに余りある。彼女は(私のお父様と同じく)胃が弱いのだ。
(う~ん……)
理由があったとはいえ、リュースを殺そうとしたマリット様は許しがたい存在だ。
しかし一応はマリーのお兄さんだし、事情が事情だけに見殺しにするのも気が引ける。このまま放っておけば処刑だし、そうなるとマリーやヒュンスター侯にも責が及ぶだろう。
でもなぁ。私って説得とか苦手なんだよなぁ。キナの姉御なら得意なんだけど……。いっそのこと洗脳しちゃうとか? リリカルマジカルに不可能は無し。
『クケッ(真っ先に思いつくのが洗脳って……。やはりリースの孫だな)』
心読まないでくれません?
あとおばあ様の知り合いなんですか?
『クケ(リースが冒険者をやっているときにな。邪神対策に炎耐性の装備を作りたいと言って尾羽をぶち抜かれた……素材が欲しいのなら普通の不死鳥を狙えばいいのに、なぜわざわざこっちに……)』
「お、おばあ様が申し訳ございませんでした」
『クケ(いや『ろけっと』で撃ち落とされるよりはマシだからな、気にするな)』
「私の方がやらかしていた……。真に申し訳ございませんでした」
まぁとにかく。洗脳は置いておくとして。国王陛下からの依頼なのだから断るという選択肢はないよね残念ながら。う~ん、どうしてこうなった?
国王陛下たっての希望により、『義理の娘になる』リリアは少し砕けた敬語を使っています。
区分としては、
・神獣 神の子供とされる存在。基本一体。フェンリル、ヨルムンガンドなど。子孫繁栄すると『種族』として扱われることも。(当然子孫は格が落ちる)
・幻想種 神の時代、世界の創造を手助けしたとされる種族。ドラゴン、フェニックス、グリフォンなど。
魔石を取り出すと身体が消滅。それこそ幻のように。素材採集は生きているうちか魔石を取る前にしましょう。
・魔物 魔石を核にして生まれるとされる存在。体内の魔石にため込んだ魔力を使い、魔法を操る。
・動物 基本的に地球と同じ。ただし魔物によって滅ぼされた種族も多い。
次回、10月14日更新予定です。




