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4.ロケットと、不死鳥


 



 エレナ様を迎えにうちの屋敷までやって来た陛下は、昔なじみであるお爺さまたちとお話があるらしい。腹黒な陛下や腹暗黒なおばあ様の『お話』なんて恐い内容に決まっているので私たちは外で遊ぶことにした。具体的には私、ナユハ、愛理、ウィルド、(なぜか当然のようにいる)マリー、そしてリュース。


 もちろん王太子であるリュースがいるので護衛も複数ついてきているのだけど……「いや~、リリア嬢がいるならサボっても問題ないっすよね」「そうだな~」「久しぶりに楽ができるぜ」と雑談するのはどうかと思う。緊張感皆無である。


『解答。アンスールが側にいる現状リュース・ヴィ・ヴィートリアの身に危険が迫る可能性は究めて低い。……アンスールがやらかさない限り』


 ウィルドも最初の頃に比べてずいぶんと饒舌というか感情豊かになったものだ。毒舌は成長してほしくなかったけどね。


 ウィルドの成長を喜びつつ私たちは馬車で一時間ほどかかる森へと移動した。もちろん馬車を使うと時間がかかりすぎるので転移魔法でね。私の他にはウィルドが使えるので大人数での移動も問題なかったりする。


 さて、この森はリュースと初めて出会った場所だ。……リュースとはもっと前の夜会が初対面だったので再会したと言った方が正確かな? 私はついこの前まで忘れていたけど。


 まぁとにかく、この前と同じように木々の開けた場所に移動し、アイテムボックスから高さ二メートルほどのロケットを取り出した。


 知り合いの鍛冶師であるフレ爺さんに頼んで作ってもらった一品。鉄製でとても重いけどこの世界にはまだアルミニウム合金とか炭素繊維とかはないのでしょうがない。錬金術師の皆さんには頑張って素材開発をして欲しいところだ。


「リリア、また『ろけっと』を打ち上げるの?」


 どことなく呆れを含んだ声のナユハだった。前もここでロケットの発射実験をして、見事なまでの爆発墜落をしたからね。呆れる気持ちも分かるよナユハちゃん。


 しかぁし、同じ失敗を何度も繰り返すリリアちゃんではございませんともさ。あのときはリュースたちが現れたので実験の続きはできなかったけど、原因自体は“左目”で特定済みだ。


 どうやらあの失敗は魔石に魔力を込めすぎてしまったことが原因らしい。過剰となった魔力が暴走し行き場を無くして爆発してしまったと。


 とはいってもあのとき込めた魔力は成層圏突破に必要な量。そうなると魔石を燃料にしたロケット製作は無理という結論になってしまう。……普通なら。


 でも私は諦めなかった。

 魔力が過剰で爆発するのなら、爆発しない程度の魔力を込めればいいのだ。


 それだけだと魔力が足りないけれど、ならば魔石から放出した魔力――ロケット上昇のために使った魔力を回収・再利用すればいいだけのこと。


 そう! このまえ全自動代筆機のために作った『空気中の魔素を吸収・魔力へと変換する魔石』がそのまま使えるのだ! 何という伏線! 何というフラグ回収! さすがは美少女リリアちゃんだよね!


「……使用後に霧散した魔力の回収・再利用とかよく考えなくてもおかしいよね? 永久機関に片足突っ込んでいるよね?」


『今さらだよナユハちゃん。そもそも破壊も改造も不可能とされる魔石に術式を書き込むとかアタマ・オカシイ』


『同意。神様だってもう少し自重する』


「……わたくし思うのですが、一つの魔石で足りないのなら複数の魔石を準備すればいいだけなのでは?」


「いやうんその通りだよマリー嬢。普通ならそうするのに、なぜリリアはああも非常識な方向に突っ走ってしまうのか……」


 ナユハ、愛理、ウィルド、マリー、そしてリュースという順で大絶賛される私であった。ここまで期待されているなら答えないとね!


「期待はしていないからね? 不安は感じているけれど」


 リュースの声援を聞き流している間に設置完了。基本的な構造としては二段構成。上段には前回と同じように妖精さんが乗り込み、下段には爆発(的な燃焼をする)魔石と霧散した魔力を回収・再利用する魔石が搭載されている。


「リリア、この、爆発系魔石って……」


「ちっちっち、リュースちゃん、勘違いしてはいけないよ。これは爆発系の魔石じゃなくて、爆発的な燃焼をする系の魔石だから。爆発はしないから報告・提出の義務もないし法律には何の抵触もしていないから!」


「早口だね」


『グレーゾーンだという自覚があるんだろうね~』


『助言。裁判になったら負ける案件だと考える』


「お姉様、さすがに犯罪はいけないと思いますわ……」


 あっれー? 何でみんな冷ややかな目を向けてくるんだろうねー。ふっしぎだなー。


「…………」


 それぞれが冷たい目をする中、唯一リュースの目は熱かった。



「リリア」


 リュースが私の顔を見た。いつものような友達としてではなく。悶えたくなるような恋色もなく。その瞳は施政者としての決意に満ちあふれていて……。


 ……その目は嫌いだ。

 そんな顔をしないで欲しい。


 あなたが王様になることはもう止めない。


 でも、あなたには優しい王様になって欲しいのだ。


「この魔石、量産することは可能なの――」



「――リュース」



 自分でも驚くほど底冷えした声が出た。

 自分でも、今、冷たい顔をしていると分かる。


 それ以上は言わないで欲しい。


 お願いだから、それ以上は……。


「な、なにかな?」


「私はリュースの友達だから。リュースの婚約者だから。……聞かなかったことにしておくね」


 警告は一度。

 これを無視して無理強いしてくるなら、もうしょうがない。


「…………、……あぁ、すまない。ありがとう」


 リュースが頭を下げてくれたのでこれでこのお話は終了だ。……ちょっと前までの私だったら王太子殿下に謝罪させたことで「どうしてこうなった!?」と叫んでいたことだろう。良くも悪くも慣れてしまったみたい。私の周りは王族とのエンカウント率が高すぎである。どうしてこうなった?


『訂正。アンスールの周りではなく、アンスール個人のエンカウント率が異常なだけと判断する』


 うっさいわウィルドー。


 さて、重くなった雰囲気をぶっ飛ばすためにも一発大きなものを打ち上げようかな! 妖精さんがロケットに乗り込むのを見送ってから私はロケットの状態を視認するために一応左目の力を解放した。


「じゃあ発射します! カウントダウン開始! 5、4、3――」




『――弾道計算。命中する確率は0.25%と推測。このまま続行しても問題は無いと考える』




 ウィルドの独り言が耳に届いた頃にはもうカウントダウンは終了済み。轟音をまき散らしながら魔石が爆発的な燃焼をして、ロケット本体(と中に入った妖精さん)を天高く打ち上げた。


「よし! いける!」


 成功を確信した私が握り拳を作る……と、見上げた空の先、なにやら赤い点みたいなものを発見した。


 なんだあれ?


 鳥か?

 飛行機か?

 いや、あれは――不死鳥だ。


 常人では目視すら困難な距離。でも“左目”を解放していた私には確かに見えた。不死鳥。別名フェニックス。あるいは火の鳥。

 その羽根は上級ポーションの材料にもなる貴重な鳥であり、ドラゴンやグリフォン、ユニコーンと同じく『幻想種』に分類される伝説的な存在だ。


 見た目としてはキジによく似ている。尾羽がキジより長く、クジャクのような形状をしていることと羽根が燃えるような赤色(というか実際燃えている)であることが特徴か。体長は意外と大きく、尾羽を抜いた体長は私(10歳女子)の身長くらいだろう。尾羽を含めれば大人の男性より大きそう。


 滅多に人前に姿を現さない引きこもり――じゃなくて貴重な存在が、どうして人がいっぱいな王都付近の上空を飛んでいるのかな?


 いや、でも、問題は無い。はず。不死鳥は上空を飛んでいるけどロケットの進路からは離れている。ロケットが急に方向転換でもしない限り不死鳥に当たるはずは――


 ばっきぃん。と。


 不吉な音が空に響き渡った。

 途端に今までの真っ直ぐな軌道から、不規則な飛行に陥るロケット。“左目”を使っている私には理解できた。航行を安定させるためについている四枚の尾翼、その一つが吹っ飛んでしまったのだ。


 おのれフレ爺さんめ、テキトーな仕事をしよってからに……。


『いやあんなに激しく爆発――的な燃焼を続ける魔石を搭載して、バラバラにならないんだからフレ爺さんはいい仕事していると思うな~』


『同意。あそこまで震動してよくバラバラにならないものだと感心する』


 愛理とウィルドがそんなやり取りをしているとロケットが不死鳥に直撃。その衝撃で魔石が暴走したのか大爆発してしまった。ロケットの一段目に妖精さんを乗せたまま。


「よ、妖精さんと不死鳥さーん!?」


 叫んでおいた私だけど、まぁ大丈夫だろう。妖精さんはご存じの通り頑丈だし、不死鳥はその名の通り不死身とされている。あの程度の爆発で死ぬってことはない。はずだ。


「……いや『あの程度』って、ここまで爆風が届く大爆発をあの程度って……」


「リリアお姉様、完全に感覚が狂っていますわね……」


 なぜナユハとマリーは呆れているのだろうか。私ワカラナイナー。


 鈍い音を立ててロケットの残骸(と、たぶん妖精さんと不死鳥さん)が地面に衝突した。

 さてとりあえず不死鳥さんに謝って、それから示談交渉を――と考えていると、残骸の中から不死鳥さんと妖精さんが飛び出してきた。


『クケーッ!(いい度胸だのぅクソ神が!)』


『今日こそは焼き鳥にしてくれるわー!』


 なぜか剣呑な雰囲気で睨み合う不死鳥さんと妖精さん。それ自体はまぁ「昔の知り合いなのかな~?」と納得もできるけど、不死鳥さんの鳴き声に副音声(?)がついて聞こえるのはどういうことなのだろう?


『説明。アンスールは新たなスキル『自動翻訳(ヴァーセツト)』を獲得した』


「……いや、なんで? スキルってそんな簡単に獲得できるものじゃないでしょう?」


『回答。アンスールは転生特典として『スキル自動習得』が解放されているので、ふとした瞬間にスキルを獲得しても何ら不思議はない』


 何それ初耳。なんだそのチート。せめてスキルを獲得したときは自動で獲得通知してくれませんかね? 他の転生主人公みたいに。


 あと、自動翻訳系スキルならせめて(貴族令嬢のたしなみとして)三カ国語を習得する前に獲得して欲しかった……言語学習の時間と努力を返して……どうしてこうなった……。


 私が地面に両手を突いてうなだれていると、妖精さんと不死鳥さんのにらみ合いに変化が起きた。


『クケーッ!(もはやこれまで!)』


 不死鳥さんの身体が炎に包まれ、みるみるうちに巨大化していく。その姿はまるで北欧神話世界を燃やし尽くした炎の巨人、スルトのよう。


 いやいや不死鳥って変身できるの? 人型(巨人)になれるの? 初耳なんですけど? もはや不死鳥っぽい謎生物じゃないのアレ?


『なんのー!』


 と、近くにいた妖精さんたちが5~6体集まってきて、合体。負けじと巨大化した。何でもありだな妖精さん。


 全長数十メートルはある妖精さん(ただし三頭身)と、これまた数十メートルはある炎の巨人(不死鳥)がドシンドシンと大地を揺らしながら近づき、まずは妖精さんが一発ぶん殴った。負けじと不死鳥さんも殴り返して――


 いやいや、いやいやいや、なんで唐突に怪獣(?)大戦争が始まっているのかな? ど、どうしてこうなった……?







 ちなみに。リュースが強くお願いすればリリアさんも爆発(的な燃焼をする)系魔石の量産に手を貸してくれます。


 ただし、その場合はルート『軍事強国への道』が解放され、コマンド『軍事侵攻』が選択可能となりますが、リリア・レナードからの好感度は30マイナスとなります。



次回、9月30日更新予定です。



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― 新着の感想 ―
[一言] 誰が予想出来ようか激突劇!んでもって巨大化対戦
[一言] 妖精が意図的に壊した可能性あるな?
[良い点] いや、あの魔石の性能が高いですけど、量産は軍事しか利用できない訳じゃないだと思います。 あんな低い確率なのに、ロケットが不死鳥に当たるとは、リリアさんはどんだけ凄まじい運ですか!?(笑) …
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