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幼女ヒロインは女の子を攻略しました ……どうしてこうなった?  作者: 九條葉月
第六章 悪役令嬢編

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むかしばなし とある悪役令嬢の物語・4(ミリス視点)


 


 運命を変える第一歩はお金儲けです。金は天下の回りもの。お金がなければ公爵家だって滅亡してしまうのです。


 未来のお父様とガングード家を救うためには、まず金銭を稼ぎ、魔物討伐のための費用としなければなりません。


 魔物を討伐するにもお金がかかります。

 騎士団を動かすとして、人件費だけでも基本給に危険手当、褒賞などなど。もちろん怪我をすれば治療費が必要になりますし、お見舞い金も出さなければなりません。不幸にも天に召されてしまった場合は遺族への補償も……。


 そして消耗する装備の修復や更新、もちろん糧食の準備。薪の手配など……。考え出したらどれだけお金が必要なのか分からないほどです。


 冒険者を使えば上記の費用は(基本的に冒険者の自己負担なので)かなり押さえることができます。

 けれど、冒険者は自由な職業。戦力が必要な場所に派遣されてくれるとは限りませんし、命の危険が迫れば踏みとどまることなく逃げ出してしまいます。たとえ背後に力なき民がいようとも……。


 まぁとにかく、ガングード領を魔物から守るには騎士団の協力が必須であり、そのためには少なくないお金が必要となるのです。


 妖精様によって思い出すことのできた前世の記憶を使ってのお金儲け……は、少し難しいでしょう。なにせ『日本』とこの世界は文化から何からまるで違うのです。まさか中世から近世風の世界観で『乙女ゲーム』を作るわけにもいきませんし……。


 ……いえ、しかし、応用はできるかもしれません。


 ファンディスクでのミリス(わたし)は前世の知識を活用したドレスのデザインやアロマの知識などによって貴婦人から高評価を得て、社交界にその名を轟かせ、自然と王太子殿下からも注目されるようになり――という展開を辿ります。


 前世の私はゲームの世界観を補強するために各時代のドレスデザインを十分すぎるほどに勉強し、それによって得られた知識は『前世の記憶』として私にも受け継がれています。


 また、仕事のストレスから逃れるためにアロマを……これは悲しくなりますから以下略です。


 とにかく、前世の知識を活かせばこの世界・この時代にまだ存在しない最先端のデザインを使ったドレスを作ることができます。『悪役令嬢もの』では主人公が前世の知識を活かしたお金儲けをして断罪後の平民落ちに備えるという展開もお約束ですし、私も先人たち(?)に倣うとしましょうか。


 下世話な話、貴族用のオーダーメイドドレスともなればデザイン料だけでかなりの金銭が動きますし。


 となれば、さっそくいくつかデザインを描いてみましょうか。名目としては「お母様の誕生日プレゼントにドレスを送るの!」といったところでしょうか。実際に作れるかどうかはともかくとして、この理由なら子供(現在6歳)が突然ドレスの絵を描き初めても不自然じゃないはずです。


 ちなみに、現時点でお母様に病気の兆候は見られず健康そのものです。宰相として王都に詰めているお父様に代わり、女主人としてよく領地を治めています。


 普通の貴族婦人は王都の社交界を通じて夫を影ながら手助けするものらしいですが、残念ながら辺境伯的な立ち位置であり武力で領地と王国を守り続けているガングード領にそのような余裕はありません。家族として、領主代行をできる立場ならばやらなければならないのです。


 そんなお母様から処分予定の書類を戴き、裏面にさっそくデザイン画を描き始めた私です。


 デザインの基本は手を動かすこと。

 頭の中にあるイメージを描き現すうちに『こっちの方がいいかな』となってきますので、そのアイディアをどう現実に落とし込むかが腕の見せ所です。こればかりは頭で考えるより手を動かした方が早く、いいものが作れます。


 この世界、この時代の流行は『大きく膨らんだスカート』です。しかし、恐竜的進化をするのはどこの世界も同じなのか、スカート(といいますかスカート内部の骨組み)が過剰なまでに大きくなってしまっているのが現状です。


 なにせ「スカートの骨組みが大きすぎて扉から出られなかった」とか、「転んだら一人で立ち上がれなかった」という笑えない話が出てきてしまうほどです。いずれ私もドレスを着てデビュタントを迎えるのですから、それまでにスカート(の骨組み)を小さくしなければ!



『ほっほ~う? いいドレスですなー』

『先進的ー』

『革新的ー』

『ちょっと時代を進めすぎな気もするけどねー』

『可愛いは正義だから、まぁよしとしようー』



 私が一枚目のデザインを完成させた頃、妖精様がわらわらと集まってきました。……いえ神聖なる妖精様に『わらわら』という表現が適しているのかは分かりませんけれど。


 妖精様から好意的な反応をいただけたことによりデザインに自信を持つことができました。


 上半身は今までのドレスとさほど変わりません。いずれ時代が進めば胸元を強調し、かつ、谷間が見えるデザインが流行するのでしょうけれど、わざわざそっち方面に時を進める必要はありません。好みじゃないですし。


 重要なのは下半身。スカート部分。

 内部の骨組みは思い切って除去してみましたが、いきなりマーメイドラインにしては先進的すぎて受け入れられないでしょうし、ともすれば貧相なイメージを与えてしまいます。


 スカートの膨らみを小さくしつつ、貧相に見えないように。この相反するデザインを達成するため腰部分の布は二重にしました。いわゆるオーバースカートですね。ひだも多めに使用してボリュームアップを図っています。布の多い下半身に負けないよう上半身とのバランスを調整しましてー、と。


「……我ながらいい感じじゃないでしょうか?」


 前世の知識を総動員したので自分一人の力じゃないところに少し思うところがありますが、それよりもまず優先するべきなのはお金儲けなので気にしてはいけません。


 私が妖精様たちに改めてデザイン画をお見せしていますと――


「――あら、今日はお絵かきをしているの?」


 背後から優しげな声が掛けられました。


 振り向いた先にいたのはふわりとした金髪が印象的な美人さんでした。私と同じ色をした、まるでブルーサファイヤのような美しい瞳。6歳の子供がいるとは思えない若々しさ。たおやかながらも一本筋の通った立ち姿はただただ美しいです。


 私のお母様。かつ、憧れの人。


 マカミア・ガングード。


 原作ゲーム開始時には病気によって天に召されてしまうお母様ですが、今現在そのような兆候は見受けられません。……人体透視に特化した鑑定眼(アプレイゼル)があれば病気を早期発見できるかもしれませんけれど、無い物ねだりをしても仕方が無いでしょう。


「は、はい。お母様の誕生日にドレスを送りたいなと思いまして」


「ふふ、嬉しいことを言って――あら」


 お母様は私からデザイン画を受け取り、まじまじと凝視し始めました。それはもうこちらが気恥ずかしくなるほどじっくりと。


「……うちの娘、天才なんじゃね?」


 公爵夫人にあるまじき乱雑な言葉遣い――い、いえ、私の憧れのお母様がこんな発言をするはずがありませんから、きっと聞き間違いでしょう。そうだと言ってくださいお願いします。


「――セバス!」


 お母様が右腕を高々と掲げ、指を打ち鳴らしました。突然の行為に思わずその手に注目していると……いつの間にか、お母様の背後に初老の男性が侍っていました。

 我が家の執事、セバスさんです。


「はっ、ここに」


「最高級の紙を用意しなさい。ミリスに他のドレスもデザインさせます」


 いや「させます」って、私の意志は無視ですか? というかこれがたまたまいい出来だっただけで、このクオリティを量産できる補償はありませんよ?


 お母様から私のデザイン画を受け取ったセバスさんは「これはこれは」と目を見開きました。


「素晴らしい出来ですな。まさかここまでの才覚を有しておられるとは」


「カリーナ女史に連絡を。さっそくこのドレスを試作させます。寸法はわたくしの体型に合わせて。来週の夜会に間に合うように発破を掛けて」


「ご随意に」


 あのちょっとお待ちくださいません? お母様が着ること確定ですか? 来週の夜会でお披露目する気満々ですか? カリーナ様ってアレですよね? 王都でも評判な新進気鋭のデザイナーさんですよね? こ、こんな子供の落書きでドレスを作らせるんですか? いや公爵家が頼めば作ってくれるでしょうけれど……。


 ど、どうしてこうなったのでしょう?









 おまけ その頃のリリアさん、6歳。



 リリア

「きゅぴーんときた!」


 シャーリー

「はい?」


 リリア

「なんだかドレスのデザインをしなきゃいけない気がする! 負けちゃいられねぇぜと魂が叫んでいる! 気がする!」


 シャーリー

「……あぁまた何か思いついたのね? そうやって思いつきで行動するから「どうしてこうなった!?」って嘆くことになるのよ? あなたも貴族令嬢なのだからそろそろ自覚をして自粛することを――」


 リリア

「おおぅ友達からガチめな説教が飛んできた……。どうしてこうなった? ……まぁいいや。お父様からもらった廃棄書類の裏にかきかきかき~と、完成! これが後に世界を変えることとなるドレスデザインだ!」


 シャーリー

「…………、……なにこれ?」


 リリア

「? 超最新鋭のドレスだよ?」


 シャーリー

「…………、…………? ……………うん? うん?」


 リリア

「ふっふっふ、そんなに首をかしげて、やはり前世(オーディン)の記憶を活用したドレスデザインは理解しがたかったかな?」



『……いやいや違うだろー』

『シャーリーは戸惑っているんだよー』

『そもそもドレスだと認識できないしー』

『あまりに下手くそすぎるからー』

『呆れるほどに下手くそだよねー』

『笑えるほど下手くそだよねー』

『感心するほど下手くそだよねー』



 リリア

「なんでそんなに下手くそ下手くそと連呼されなきゃならないのかな!? どうしてこうなった!?」






 リリアさんは絵が下手です(公式設定)



 ちなみに6歳時点でのリリアさんの『前世の記憶』はオーディンだけであり、璃々愛の記憶は思い出していません。(9歳で思い出す)


 しかしオーディンには『璃々愛に転生した記憶』がありますので、様々なドレスのデザインに関する知識はあります。


次回、9月5日更新予定です。



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― 新着の感想 ―
[一言] 過去なのにどうしてこうなったの年季が違いすぎ問題
[良い点] 作者さん、更新はお疲れ様です! なるほど、ミリスさんは家族や皆の為にそれなり真面目に考えていますね、優しいです! しかしどうやらこの作品に居て、そして妖精さんに狙われる以上、予想外の残念臭…
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