昔話 とある悪役令嬢の物語・3(ミリス視点)
ちなみにミリスさんの状態は『前世の人生を思い出し、知識も自由に引き出せるけど、人格は現世のミリスのもの(精神年齢はちょっと成長)』です。
最終目標は世界の終わりの阻止となるでしょう。
しかし、その前に断罪されてしまえば目も当てられません。
原作ゲームにおける時系列としては、魔法学園にヒロイン(リリア)が入学。攻略対象と絆を深めつつ、一年後の卒業記念パーティで悪役令嬢(私)を断罪。さらには連鎖する形で大悪人のガングード公(私の父)も断罪され、公爵家がお取りつぶしに……。と、なります。
そしてその後に二部が開幕。ヒロインは聖女となって世界の終わりを防ぐために奔走し、最終的に魔王と戦うことになるのです。
つまり、世界の終わりは、本来領軍を指揮するべきお父様が断罪され、公爵領が混乱の極みにある中で起こってしまうわけで……。お父様がいれば、万が一世界の終わりが起こってしまっても被害を最小限にできるはずです。
(真っ先にするべきなのはお父様の延命――お父様が悪事に手を染めないようにすること)
つまり目標はファンディスクですね。悪役令嬢が破滅回避のために奮闘するルート。なぜならファンディスクであればミリス(わたし)の行動によってお父様が悪事に手を染めなくなるのですから。
裏設定として。ガングード公が処刑&御家取りつぶしになるほどの大悪人になった理由は……お金がなかったからです。
もちろん、ギャンブルなどで散財した――わけではありません。
世界の終わりの前触れとして起こった魔物の大量発生。無限に湧き出る魔物共から領地と国を守るためにお父様は軍備増強を推し進めます。
もちろんそのためには先立つものが必要であり……公爵家所有の宝石や芸術品を売り払い、それでも足りずに借金を重ね、どうしようもなくなったお父様は最終的に密漁や密売、人身売買、国家機密の漏洩などをしてしまうのです。
このことからも分かるように、元々のお父様は決して悪人ではありません。ただ、領地と国を守るために無茶をしすぎたことと……愛する妻に先立たれ、精神に大きな負荷がかかっていたことが、お父様を狂わせたのです。
(となると、必要なのは魔物対策のためのお金儲けと……お母様の健康ですか)
魔物退治の助力ができればいいのですが、それは無理な話でしょう。
公爵令嬢である私は人より優れた魔力総量を有していますが、だからといって魔物相手に戦えるかと問われれば否。魔力が多いだけでは専門の訓練を積んだ騎士様には敵いませんし、貴族令嬢では護身術以上の戦闘訓練をすることも不可能。もしそんな『魔物と戦える貴族令嬢』がいるのなら見てみたいくらいで――
――ん? 遠くで誰かがくしゃみをしたような? ……気のせいですか。
とにかく、このような無才の私ではどれほどのことができるか分かりませんが、諦めるわけにはいきません。
そしてお母様の健康ですが……ゲームにおいてどのような病気であるかは設定がありませんでした。本編に名前すらも登場しないのだから仕方がないと言えば仕方ありませんが、現実問題としては困ってしまいます。
しかし、ファンディスクにおいてミリスは聖女としての力に目覚め、聖魔法(回復魔法)を使えるようになりますから、ある程度の病気であれば治せるはずです。
ただ、原作通りなら習熟度によって治せる規模が変わってしまうので、こちらの練習もしないといけないですね。……その前に聖魔法の力に目覚めないといけないですけれど。
・魔物退治のためのお金儲け。
・聖魔法に目覚める&回復魔法の訓練。
そしてもちろん世界の終わりに関する調査。できれば発生時期や規模を推測したいところですね。ゲーム通りなら魔法学院の二年生になったあとですが、魔物だって生き物なのですから多少の前後はあるでしょうし……。
こうして。
当面の目標を決めた私は――頭を抱えました。
「やることが、やることが多すぎます……公爵令嬢として勉強や礼儀作法の訓練もしないといけないのに……ゲーム通りなら王太子殿下の婚約者になって王妃教育も加わるし……」
どうしてこうなった、と。思わず前世のような乱雑な口調でつぶやいてしまう私でした。
・おまけ その頃のリリアさん、6歳。
リリア
「というわけで! 貴族のたしなみとして攻撃魔法の練習をしようと思います!」
シャーリー
「いやリリアちゃん。そんなたしなみはないからね? 護身術ならまだしも、攻撃魔法の練習は魔物と戦う騎士様や冒険者がすればいい話で……」
リリア
「? お爺さまは「見敵必殺! 可愛いリリアを誘拐するような愚か者には最大級の攻撃魔法を喰らわせてやれ!」と叫んでいましたけど?」
シャーリー
「……あの孫馬鹿ジジイ余計なことを……」
リリア
「あとおばあ様は「リリアはドラゴンと『縁』がありそうだし、今から鍛えておいた方が良さそうね」とか言っていたもの」
シャーリー
「いや鍛えるって何ですかリース様。ドラゴンって多少鍛えたところでどうにかなる存在じゃないですよ? というか6歳児に攻撃魔法を推奨する祖父母って……」
リリア
「大丈夫大丈夫! 去年はちょ~っと初級の攻撃魔法で失敗して森が吹き飛んじゃったけど、同じ失敗は二度と繰り返さないのがリリアちゃんなのですよ!」
シャーリー
「いやちょっと待って。森が吹き飛んだって何? 初耳なんだけど? 初級? 初級って木の板が割れるかどうかくらいの威力のはずよね?」
リリア
「安心してシャーリーさん! さっきも言ったけどリリアちゃんは同じ失敗は繰り返さないのです! よ~しいくぞ~……――は、くしゅんっ!」
シャーリー
「あっ」
リリア
「あっ」
シャーリー
「…………」
リリア
「……いや~急にくしゃみしちゃうだなんて誰か噂しているのかな~アハハハハ……」
シャーリー
「地形が……。これはさすがにリース様にご報告しないと……」
リリア
「どうしてこうなった!?」
シャーリーさんは今でこそリリアに敬語で接しますが、二人きりの時は普通に平語を使います。友達なので。
?「友達ねぇ? いつになったら『お義母さま』って呼べるのかな~?」
?「何のことか分からないわね。うん、まったく分からないわ」
オーちゃん
「世界の終わりの阻止や父の救済を真っ先に考えて、自分の破滅回避は後回しにしてしまうあたり、ミリスは根っからの善人だな」
璃々愛
「リリアちゃんの好みのど真ん中だね!」
オーちゃん
「あの子は人の悪意が『視える』からなぁ……」
次回、8月20日更新予定です。




