むかしばなし とある悪役令嬢の物語・2(ミリス視点)
誤字脱字報告ありがとうございます。一応見返しているのですが、見逃しがあるので助かっています。
報告あり次第訂正していますので、よろしくお願いします。
前世の記憶を思い出した私は慌てて屋敷へと戻り、自分の部屋の姿見(鏡)に向かいました。
映ったのはよく見慣れた自分の姿。
高位貴族の証とされる金髪に、ブルーサファイヤのようだとお父様が褒めてくださった瞳。メイドさんたちの美容努力の結晶たる白い肌に……作り物であるかのような整いすぎた美貌。
……ここが乙女ゲームの世界であるならば、一応『作り物』ではあるのでしょう。創作物キャラクターという意味では。
そう、乙女ゲーム。
今の私の見た目は、6年間生きてきた私の見た目は、どこをどう見ても悪役令嬢ミリス・ガングードにしか見えなくて……。
今はまだ6歳なので顔つきに幼さが残っていますけれど、9年後、ゲームの舞台である魔法学園に入学する頃にはゲーム通りの美少女になっているのでしょう。
ゲーム通り……。
「……ここ、『ボク☆オト』の世界なのでは……?」
ボク☆オト。
前世の『私』が製作に関わったゲーム。新作を出すたびに赤字を積み重ねていったうちの会社を救った大ヒット作であり、続編やファンディスクを含めて7タイトルが発売され、ソーシャルゲーム化もした思い出深い作品です。
特に第一作目。惜しまれながらも早世した天才『ラブ☆リー』さんが紡ぎ出したシナリオは素晴らしいの一言でした。少々設定に雑なところがあるものの、それをねじ伏せる魅力に溢れていたのです。
特に愛する者と民を守ろうとした王太子殿下の言動は涙を誘うものがあり、一流の悲劇だと評されていました。あの悲劇があるからこそトゥルーエンドが光り輝くのだと社内でも話題になったものです。
……いえ、私の座右の銘は『一流の悲劇より三流の喜劇を』なので少々思うところはありましたが、そんな私でも面白いと思えたのですからあのシナリオは傑作だったということでしょう。
もちろん、前世の私にとっては色々な意味で印象に残るゲームであり、キャラクターの名前やストーリーの詳細などは細かいところまで記憶しています。それはもう、死んだあとも覚えているほどに。
王国の名前、実在する人物の名前、歴史的な事件などなど。これだけ一致するのですからここは間違いなく『ボク☆オト』の――、第一作目の世界なのでしょう。
それ自体は問題ありません。
制作者という立場にありながら、私はあの作品の大ファンだったのですから。
……問題は、私が『悪役令嬢』ミリス・ガングードだということ。
悪役令嬢ミリスにとってこの世界は過酷です。
母親と死別し、父親は悪事に手を染めて。いざゲーム本編が始まると魔王の復活と『世界の終わり』によって生まれ故郷である公爵領は魔物に蹂躙され……最終的には処刑から国外追放までバラエティに富んだ最後を迎えることになるのですから。
逆に、ファンディスクでの私は『悪役令嬢』から『ヒロイン』となり、本編よりもマシなエンディングを迎えることになりますが……結局生まれ故郷は世界の終わりに蹂躙されてしまうわけで。
何とかしなければなりません。
前世の記憶を思い出したとはいえ、私はこの世界で6年生きて、そのほとんどをガングード公爵領で過ごしてきたのです。
公爵令嬢ですから領民の方々との交流はほとんどありませんが、屋敷に勤める使用人の家族は多くが領地で暮らしています。世界の終わりは、そんな皆様の生活を、家族を、運命を、蹂躙し破壊し消し去ってしまうのです。
何とかしなければなりません。
まだ6歳の私では画期的な解決方法は思いつきませんでしたけれど、それでも、私は決意しました。何としても世界の終わりを止めなければならないと。
“運命”を、変えなければならないと。
璃々愛
「……ミリスちゃん、『悪役令嬢もの』のヒロインとして真面目真っ当すぎない?」
オーちゃん
「リリアが色々な意味で規格外すぎて、余計になぁ……」
次回、8月7日の朝 更新予定です。
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