むかしばなし とある悪役令嬢の物語(公爵令嬢ミリス視点)
――妖精様が見えました。
あり得ません。伝説で語られる妖精様を目視できるのは『妖精の愛し子』様だけ。そしてこの国において愛し子様はリリア・レナード子爵家令嬢しかいないとされているのですから。『公爵家令嬢』という肩書きにしか価値のない私が、妖精様を見られるはずがありません。
しかし、目の前にいるのは絵画や絵本で見聞してきた妖精様としか思えなくて。
驚きで自分の目をこする私ですが、現実は変わりません。確かに、間違いなく、妖精様がふよふよと飛んでいるのです。夢か幻であると疑った私は間違っていないでしょう。
『おんやぁ~?』
私からの視線に気がついたのか、妖精様のうち一体(一人? あるいは一柱?)がこちらを向きました。
なぜでしょう?
とても可愛らしい顔つきをしているのに、今までに感じたことがないほど嫌な予感がしてしまうのは?
『きさまー、見ているなー?』
いえ見てません。気のせいです。
『何で見えるのかなぁー?』
見えてませんって。
『おかしいなぁー?』
『そんな“運命”はないはずだよねー?』
『変なこともあるもんだー』
だから、見えてませんってば! 人の話を聞いてくださいまし!?
『……お? シャーリーが勇気を出したみたいー』
『なるほどー』
『だからかー』
『リリアの“運命”が変わったのなら、ミリスの“運命”も変わらなくちゃねー』
『ヒロインと悪役令嬢はセットだものねー』
『それこそがお約束ー』
『世界の真理ー』
『悪役令嬢のいない乙女ゲーの世界なんて、豆腐のない湯豆腐だよねー』
妖精様たち全員が、ギロリとこちらに顔を向きました。
公爵令嬢として鍛え上げられた危機察知能力が全力で警報を鳴らします。これはマズい。これはヤバい。平穏無事な公爵令嬢としての一生を送りたければ何としても逃げ切れと。
けれど、平々凡々な私に妖精様から逃げ切れる術があるはずもなく……。
――公爵家令嬢、ミリス・ガングード。6歳。
本日、前世の記憶を思い出しました。
どうしてこうなりますの……?
ほぼ同時刻、シャーリーさんがリリアと一緒に遊びました。(第21部 閑話 父と秘書 参照)
次回、8月4日の朝 更新予定です。
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