1.最近のリリアさん
はいこんにちは。王太子リュースちゃんの婚約者になってしまった薄幸の美少女、リリアちゃんです。
とりあえずデコピンでリュースの頭蓋骨を『ピキリ』とやっておいた。即座に回復魔法を掛けてあげた私、とても優しい少女だと思います。はい復唱。リリアチャン、トテモヤサシイ。
まぁでも王太子妃候補になったところで劇的に何かが変わるわけではない。リースおばあ様のしごき――じゃなくて礼儀作法の時間がちょっと増えたくらいで。
うん、劇的に何かが変わるわけではない。
だから午後の日課(外国語の授業)が終わって、ふと窓の外を見やって、目に飛び込んできた光景は幻だ。ちょっと心労で瞳が疲れているだけだよきっと。
「残念ながら現実だね」
私を迎えに来たナユハさん(騎士爵なのにメイド続行中)が無情にも切り捨てた。
仕方がないので現実を直視する。窓の外には――山。具体的には丁寧な梱包がされた箱の山。大きさはアクセサリーが入りそうなものから両手で抱えるくらいのものまで様々だ。
「ナユハさん、ナユハさん。アレは一体なんですか?」
「リリア・レナード宮廷伯さまへの贈り物ですよ。人気者は辛いね?」
「……多すぎない?」
贈り物の山、屋敷の屋根に到達しそうですよ?
「リリアに取り入るいい機会だもの」
「取り入るって……」
「まぁ『婚約した王太子殿下に』じゃなくて『王太子妃候補になった少女に』贈り物をするのはあからさますぎて下品だし、神聖なる聖女様への贈り物は一度教会を通さないといけないから面倒だけど、宮廷伯への就任祝いという形なら問題はないものね。みんなできうる限りのものを送ってきたのだと思うよ」
「限度というものがありませんかねー?」
「一人一人はたいした量じゃないよ。ただ、貴族はもちろんのこと、レナード商会と仲良くしたい商人とか、ポーションを卸してほしい商人とかが送ってきたみたいだもの。むしろこれくらいで済んでよかったんじゃないのかな?」
「…………」
せめて純粋なお祝いの気持ちで送ってほしいよね! 私も貴族だから気持ちは分かるけど!
「ちなみにあれだけの量を積み上げて壊れないのはリース様とアーテル様が箱に強化魔法を掛けているからだね」
努力の方向性が間違っていませんかおばあ様たち……。
「で。旦那様に『リリアを逃がさないように』と念を押されたんだよね私」
ガッシリと私の肩を掴んでくるナユハ様。なんだか嫌な予感がするなー?
「強化魔法もそう長時間保ちはしないし、その前に贈り物の中身確認と、分別、目録を作って返礼の品を決めて、お礼状書きをしないとね」
「…………」
中身確認?
分別?
目録作り?
返礼品を決めて、お礼状書き?
あの量を?
もはや山と呼ぶべきあの量を?
「まぁ返礼品を決めるところまではメイドたちも手伝えるけど、お礼状書きはリリア本人がやらないとね」
王族とかならそっくりの字が書ける代筆人がいるけれど、子爵家令嬢にいるはずもなく。
「……ちなみにですけど、数とかって分かります?」
「数えてないけど、たぶん千は超えるんじゃないのかな?」
「千……。十歳の少女にやらせる量の仕事じゃないですよ?」
でもやらなきゃいけないよなぁ贈り物をもらっておいて返礼すらしなかったらどんな悪評を立てられるか分かったもんじゃないし。そもそもそんな『貴族らしくないこと』をリースおばあ様が許してくれるはずがない。
つまり私はこれから千以上のお礼状を手書きしなきゃいけないわけであり……。
ど、どうしてこうなった?
ナユハ
「ちなみにアレは王都とか比較的近場からの贈り物だから、地方からの発送品はこれからどんどん到着するよ?」
リリア
「どうしてこうなった!?」
次回、7月27日更新予定です。
 




