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第24話 王太子の婚約者



 



 その後のあれこれ。


 リュースの護衛を終えて帰ったらナユハが竜殺しの英雄になっていた。何を言っているのか分からないと思うが以下略。


 そしてナユハさんから怒られた。どうしてこうなった?

 とりあえず、私たちのために準備してくれていたという(冷え切った)焼き菓子は聖魔法で焼きたての状態まで時間を戻して美味しく戴きました。


 なにやらいつの間にか王城が半壊していたけれど、奇跡的に死者はなし。ケガをしたマリーも回復魔法で完治。後遺症もなし。よかったよかった。……でもあとで『漆黒』はぶっころがす。女の子を泣かせるヤツは世界の敵。これ世界の真理。


 事件の調査や王宮半壊の影響でごたごたしているらしく、王太子暗殺未遂なマリット様の処分は後回しということになった。

 とりあえずマリット様は処分が下るまでヒュンスター邸の地下室で『療養』するらしい。


 普通に考えればギロチンだし、その辺はマリーやヒュンスター侯も覚悟しているみたい。

 リュースを襲撃する前に“こと”が収まればまた別だっただろうに、マリット様はリュース(王太子)の前で罪を認めてしまったしね。


 ただ、普通に考えれば王太子暗殺未遂なんて問答無用で極刑となるはずだし、王宮が半壊した以上貴族も民衆も納得できる『分かりやすい犯人』はさっさとを処刑してしまう方がいい。


 だというのに処分を先送りにしたのだから……陛下はマリットを許すつもりなのかもね。

 まぁその辺は偉い人が考えることだし私が口出しできることじゃない。私は無関係。無関係。……なんだか嫌な予感がするのは気のせいかな?


 王城を襲撃したドラゴンに致命傷を与えたガイさんには今度こそ騎士爵が授与されることとなり、とどめを刺したナユハも(正式な受勲式はまだだけど)騎士爵となった。


 ついでに言えばポーション作製の功績によってレナード家の伯爵位への陞爵が決定した。ただ、一代限りの爵位ならともかく、子爵家を伯爵家にするのは色々な手続きや裏工作が必要なようなので数年後、という話になっている。次世代――我が愛しの弟アルフの代には侯爵位に、という内定もあるとかないとか。


 そして。

 王太子の護衛成功やポーションの作製などの功績によって私ことリリア・レナードは『宮廷伯』になるらしい。


 どうしてこうなった?





 リリア・レナード。本日10歳になりました。

 本来なら朝からパーティーで乱痴気騒ぎと洒落込みたいところなのに、朝も早くから王城に呼び出された私である。どうしてこうなった?


 理由としては突如として決まった私の『宮廷伯』受勲。それと、ナユハの騎士爵叙勲式も同時に行うそうなのでナユハも一緒だ。ちなみにガイさんの騎士爵叙勲も一緒の予定だったけど、逃げたらしい。


 いつもはメイド服なナユハもさすがに今日ばかりは貴族としての正装=ドレスに身を包んでいる。


 王城行きの馬車に乗る前にちょっとしたお披露目をしたけれど……あぁ~もうナユハのドレス姿とか超可愛い。白を基調とした布地に黒髪が超映える。他のヤロー共には見せたくないけれど、黒髪の美しさを喧伝するいい機会でもあるので悩ましいところ。


 以前妖精さんに用意してもらったカメラでナユハが「……もういいかな?」と呆れ果てるまで写真撮影をしたのは当然の帰結である。


 そういえば写真館の方も本格的に稼働させなきゃね。もうナユハを救うためのお金を稼ぐ必要はないけれど、この際だからやってしまおう。

 お父様によると王都に店舗として使える建物は準備できたらしいので、あとで内装を整えないと。私は店員をできるような暇はなさそうなのでタフィンに相談して信頼できる人材を雇った方がいいかな。貧民街の雇用問題も解決できて一石二鳥だね。


 まぁでも写真館は後回し。重要なのはナユハたんが可愛すぎる問題だ。性欲全開な貴族から求婚でもされたらどうしよう? もういっそのことヴェールで顔を隠す? いやでもこの可愛らしさを隠すことなどもはや神に対する冒涜だよね。



『……しかしまぁ鼻の下を伸ばしているね~』

『同意。最近のアンスールは女好きが加速したように思える』



 メイドとして同行予定の愛理とウィルドが呆れ声を発した。


「ふ、それは違うよ愛理とウィルド。私が女好きなんじゃない、ただナユハが可愛すぎるだけなんだよ!」


「…………」

『…………』

『…………』


 なんだかものすっごく冷たい目で見られてしまった私である。ナユハさんはちょっとくらい照れてくれてもいいのでは?


 いつものように『どうしてこうなった!?』と叫びたいところだけど、今日はリースおばあ様も一緒に王宮に行くので『貴族らしくない』言動をすると雷が落ちる。物理的に。


 リースおばあ様だけではなくガルドお爺さまとアーテルおばあ様も孫の晴れ舞台の見学にと同行する予定だ。……実際には「孫バカ男(ガルド)が変なことをしないように見張るため」らしい。


 宮廷伯になるくらいならお爺さまも暴れないと思うのだけど……? 結婚するわけでもあるまいし……。という疑問を口にしてもリースおばあ様とアーテルおばあ様ははぐらかすだけだ。そしてお爺さまは(私が近くにいるというのに珍しく)不機嫌。

 ちょっと嫌な予感。


 ちなみにお父様は胃に穴が開いたので療養中。


 そんなお父様が欠席するとはいえ結構な大所帯となったので馬車を二台動かしてもらうこととなり。王城への馬車に揺られながら私はリースおばあ様に質問した。


「おばあ様。宮廷伯なんて爵位はありましたか?」


 前世では聞いたことがあるものの、この世界では初耳であるはずだ。


「ここ百年は受勲した者のいない『死んだ』爵位ね」


 何でも領地を持たない、一代限りの伯爵位らしい。国によって詳細は異なるみたいだけど、我が国においては領地経営ではなく王宮での仕事がメインなので『宮廷』伯なのだとか。

 地位的には中位貴族である『伯爵』と同列だけれども、王が直接選ぶ=お気に入りなので下手をすれば侯爵に匹敵するほどの力があるみたい。


 ちなみにこの国の貴族は上から公爵・侯爵・辺境伯・伯爵(&宮廷伯)・子爵・男爵・騎士爵となっている。


 貴族として考えるとレナード子爵家は下から三番目。いわゆる下位貴族だ。なのにゲーム本編では王太子と結婚しちゃうのだから……滅茶苦茶だよね。最低でも伯爵の娘じゃないと。


 あ、リリア(わたし)は宮廷伯になるのだから大丈夫なのかな? なにせ天下の伯爵様だ。


 ……嫌な予感。お腹が痛いということで帰っていいですか?


 もちろんおばあ様二人が馬車にいるので逃げられるはずもなし。

 どうしてこうなった?





「うむ! わらわの目に狂いはなかったな!」


 王宮に入るなり出迎えてくれたのは(元?)王妃な幽霊ミヤ様。私の宮廷伯受勲を自分のことのように喜んでくれているらしい。


「伯爵となれば、まぁわらわともギリギリ釣り合いが取れようて。いやわらわは真実の愛に地位など必要ないとは思うがな! めでたいことには違いなかろう!」


「あ、はぁ……?」


「本来であれば竜列国の皇女たるわらわが『一番』であるべきところ。だが、まぁわらわは出戻りみたいなものであるし、ここは年長者としての余裕を見せるべき場面であろうな! 褒めることを許すぞ!」


「あ、はい。さすがはミヤ様です」


「うむうむ! 素直で()いやつだ!」


 なぜだか上機嫌なミヤ様も私たちに合流した。叙勲式を見学する気満々だ。いつもは玄関付近にいる人(幽霊)だけど自由に移動できるみたい。よく考えればレナード邸まで来ていたしね。


「……あの気むずかしい元王妃まで落とすとは、さすがガルド様の孫」

「……あなたの孫でもあるのよ、女殺しのアーテル」


 ひそひそ話をするアーテルおばあ様とリースおばあ様だった。

 あとミヤ様って気むずかしいの? かなり単純というか分かり易いというか扱いやすいと思うけど。


「……さすがガルドの孫」

「……さすがガルドの孫」


 ステレオで呆れられてしまった。どうしてこうなった?


 ちなみにメイドでもあるアーテルおばあ様がお爺さまを『様』付けで呼ばなかったところに呆れとか諦観とかそういった風の感情を読み取ることができるね。


 一応補足説明しておくと普段メイド服なアーテルおばあ様も今日は来賓としての参加なので正装――ハイエルフとしての正装を着ている。ギリシア神話の女神様が身に纏っていそうな白を基調としたドレスだ。我がおばあ様ながらとても美しい。


「……まさか祖母まで守備範囲だなんて」


 ナユハ様から呆れられてしまった。いやいくら何でも身内は守備範囲外というか何というか……どうしてこうなった?


 さすがにそれはないよとナユハに釈明しながら王宮の廊下を進む。今日の式典があるのは『王座の間』らしい。

 謁見の間のさらに奥。我が国にとって重要な式典が開かれる場所だ。






 荘厳にして華麗。

 厳かにして清楚。


 褒めようと思えばいくらでも言葉が出てくるはずの、我が国が誇る『王座の間』はしかし、黒いドラゴンの襲撃によって天井に大きな穴が開き壁も半分ほどが崩れてしまっていた。

 魔導師団の防御結界も王族の居住区=当時陛下がいた場所を優先したためこちらは容赦なく破壊されたらしい。


 ガラス製造技術の粋を集めたステンドグラスも、歴史に残る芸術家によって創造された壁画や彫刻も、見るも無惨な姿になってしまっている。


 そんな中行われるのが叙勲式典だ。具体的には私の宮廷伯と、ナユハの騎士爵。本来ならガイさんも騎士爵になるはずだったのにね。逃げたのならしょうがない。


 今回の式典には我が国の貴族の他にも公使館(大使館)にいる他国の外交官も参加しているみたい。ちなみにこの世界の外交官は貴族や高位神官といった『地位ある人物』が就任するのが普通だ。平民だと貴族に舐められてしまうからね。


 本来なら修復作業が終わってから式典を開くべき。なのに、わざわざ『国家の恥』となりかねない破壊された王宮を貴族や他国の外交官に見せてまで受勲式を急いだ理由は……なんだろう?


 まぁ腹の黒い方々の思惑なんて私が察せられるはずもなし。私のお腹は純粋真っ白なのだ。……はいウィルド、怪訝そうな顔をしないように。


 式典時点は特に面白味もないまま進んだ。私たちが玉座の前でひたすら片膝をついている間、まずは陛下の脇にいる宰相が私たちの功績を褒め称え、叙勲に至った経緯の説明とする。


 そして陛下が勲章を手にし、私、そしてナユハの順に胸元へ手ずから勲章を取り付けてくださった。人によっては一生、いやさ子々孫々に至るまで語り継ぐべき栄誉だ。


「……すまないが、よろしく頼む」


 私に勲章を付けているとき、陛下が苦笑しながらそんなことを口にした。嫌な予感はもうメーターを振り切っている。


 まぁしかし式典途中に逃げ出すような度胸もない私。これで名実揃って『宮廷伯』になってしまったわけだ。当然原作ゲームにこんな展開はない。


 そして。

 勲章を渡し終えた陛下が玉座に戻ったのとほぼ同時、役人が王太子殿下の到着を告げた。

 そう、王太子リュースは最初この式典に参列していなかったのだ。……ちょっと寂しかったなんてことはない。断じてない。ないんだからねっ。



「――リリア・レナード嬢」



 リュースは陛下に一礼したあと、迷いなき足取りで私の前に立った。そして物語の王子様のように手を差し出してきた(いやリュースは本物の王子様だけどね)からその手を取り、立ち上がる。


 やれやれ。

 というような顔をしているのは私の横で跪いたままのナユハ。どうやらこの後の展開はナユハには知らされているらしい。


 私を立ち上がらせたリュースは、私の左手を軽く握ったまま片膝をついた。


 王太子であるリュースが膝をつくことなんて普通ありえない。


 あり得るとしたらそれはもう――自分の伴侶となる女性に対して求婚するときくらいのものだ。


「リリアは、初めて会ったときのことを覚えているかな?」


「うん? ……まぁ騎士団長様のご子息をぶん殴っちゃったからね。忘れようとしても忘れられないよね」


「そうか。まぁ仕方ないのかな。私も忘れていたし、あのときのリリアは疲弊していたからね」


 あれ? なんだか噛み合ってない? リュースが忘れるほど時間は経っていないし、あのときの私は騎士団長の息子とバトルになったけれど、疲弊するほどの戦いではなかった。


 お互いの齟齬について問おうとすると、リュースはわずかに視線を下げた。


「……私は、今までずっとこの立場を恨んでいた」


 何も知らない人が聞いたら王太子という立場に関してのことだと思うだろう。でも、リュースの秘密を知っている私には「女なのに男として生きていかなければならない」という境遇のことに聞こえた。


「だが、今は初めてこの立場に感謝している。こうして真っ正面からキミに求婚できるのだから」


 そう言ってリュースが取り出したのは――指輪。

 赤い宝石に、金細工。

 私がリュースに渡した魔導具にそっくりな、あのときあの街でリュースが作ってもらっていた指輪だ。


 その指輪を、リュースは、私の左手薬指にはめた。


 この国においても結婚指輪は左手薬指に付けるものであり……。


「…………」


 きゅうこん。


 キュウコン?


 球根?


 今度、百合の球根をお裾分けしましょうか?


 はい、そんな冗談言っていい雰囲気じゃありませんよね。



「リリア・レナード宮廷伯(・・・)。――どうか、私の婚約者になって欲しい」



「っ!」


 ゲーム本編において王太子と出会うのは15歳で、婚約やら何やらはその後のはずだし、ファンディスクではそもそも婚約者にすらならない。リリア・レナードは『悪役』であり、本来の悪役令嬢ミリス様の引き立て役となってしまうから。


「…………」


 恐くないと言えば嘘になる。

 これから私が進むのは原作でもファンディスクでもない、未来がどうなるか予想すらできない道だ。失敗するかもしれないし、バッドエンドを迎えるかもしれない。


 不満がないと言えば嘘になる。

 何で前もって教えてくれなかったのかとか、私の夢が『スローライフ』だと知っているよね、とか。子爵家令嬢である私を婚約者にするためにわざわざ宮廷伯なんていう面倒くさそうな地位に就けたのかな? とか。愚痴を言い始めたら止まらない自信がある。


 問題だらけの求婚。


 でも。


 一番の問題は。


 ……あまり嫌な気分じゃないってことだ。


 リュースに対して悪い感情を抱いていないってことだ。


 むしろ。美形の王子様が片膝をつくなんていう『物語』にあるような憧れの求婚をされて。少しだけ、ほんの少しだけ嬉しがっている乙女な私もたしかに存在していて。


「……早く返事してあげなよ」


 ナユハが小さく、呆れを含めた後押しをしてきて。


「つ、謹んでお受けいたしますわ、リュース様」


 あとで。

 二人きりになったら思いっきりデコピンしてやろう。

 そう決意しながら私はプロポーズを受け入れた。





 今さらながら私は女の子で。リュースも女の子(男装)だ。

 どうしてこうなった……。








「まぁリリアは女好きだし、必然じゃないのかな?」


「……ナユハさんとはあとで私の評価についての家族会議をしなくちゃね」








 璃々愛

「おのれリュース! リリアちゃんを嫁にしたかったら私を倒してからにしろ!」


 オーちゃん

「お前を倒せる9歳児がどこにいるんだよ?」


 璃々愛

「そこはほら愛と勇気と希望の力で。ラブ○ブ天驚拳的な勢いで何とかならないかな? そんなものを見せられたなら私だって潔く倒されちゃうよ?」


 オーちゃん

「……いやお前はそういう展開を素で台無しにするからなぁ……」




ちなみに、この章のタイトル『聖女と○○○○編』は、『聖女と王太子妃編』です。ネタバレ防止のために伏せ字としていました。



次回、6月10日更新予定です。




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[一言] 聖女とドラゴンだと思ってたorz
[良い点] 作者さん、更新はお疲れ様です! 両親や年上の家族ではなく、本人が10歳で宮廷伯ほどの爵位は確かに尋常とは言えないですね。 確かにナユハさんのドレス姿は可愛いだと思います!決め台詞を言ったリ…
[一言] ··········もう良い加減「ゲーム(笑)」から離れたら? ······手遅れだし
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