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幼女ヒロインは女の子を攻略しました ……どうしてこうなった?  作者: 九條葉月
第五章 聖女と○○○○編

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第19話 王城襲撃(ナユハ視点)




 窓の外が騒がしくなり。

 何だろうと私とマリー様は窓辺へと移動して庭を見下ろした。監視役である漆黒の仲間たちも、まさか手錠を付けたまま窓から飛び降りはしないだろうと判断したのか私たちの行動を静観している。あるいは窓から外=王城を見るのは漆黒が許可しているのかもしれない。だとしたら性格が歪んで――こほん、いい性格をしているね。


「……木箱?」


 漆黒の指示に従って、仲間らしき連中が屋敷から木箱を持ち出し、庭に描かれた巨大な魔方陣の中へと運び入れていた。


「あれは……ドラゴンの素材ですわね。お姉様が分類した」


 マリー様が『ぐぬぬ』とした顔をしている。でも私は何の話か分からないので『?』を浮かべるしかない。


 そんな私の様子に気がついたのかマリー様が説明してくれた。黒いドラゴンの素材とか、母親の復活だとかそのへんを。


 人が蘇ることなんてあり得なさそうなものだけど、リリアが出来るというのならできるはずだ。


 木箱を運び入れている魔方陣はおそらく召還術式だろう。漆黒が最も得意とする魔術でもって、あの木箱たちをどこかに『還す』つもりなのだ。


 召喚魔法と召還魔法は同じものとして分類されているけれど、厳密にはちょっと違う。召喚魔法は極論すれば離れた場所からここまで『何か』を転移させる魔法。そして召還魔法はそれの対になる魔法であり、呼び出した存在を元の場所まで還す魔法だ。

 そう考えると転移魔法と召喚魔法は似ているのかもしれないね。


 そして、召還魔法の方を応用すれば、ここからどこか離れた場所まで『何か』を転移させることもできるだろう。


 普通の転移魔法では困難な大質量の移動も、ドラゴンすら転移させる召喚魔法(と、優秀な術者である漆黒)なら何とかできるのだと思う。

 うん、私は召喚魔法に詳しくないから憶測でしかないけどね。


 私の予想が正しければ、漆黒はこの場所から王城へと黒いドラゴンの素材を『召還』し、そして宝物庫に保存されているという首を使って黒いドラゴンを復活させるつもりなのだろう。


 さすがにドラゴンの襲撃を受ければ王城もひとたまりもないだろうし、ひとたまりもないと判断したからこそ漆黒は行動に移したはずだ。


 王城には抗魔法の結界が張られているはずだけど、まぁキナ様も王城内で普通に転移魔法を使っているし、元魔導師団長である漆黒なら何とかできても不思議ではない。……ちょっとリリアやキナ様の非常識さに毒されているかな私?


 それはともかくとして。……今、この国でドラゴンに対処できる(と思われる)人間は意外と多い。まずはリリア。そしてガルド様。リース様、あとキナ様とフィー様も協力すれば何とかできるのではないかと言われている。


 しかしリリアはリュース様の護衛をするために王都を離れてしまったし、ガルド様やリース様も魔物退治の応援のために不在。あとはキナ様とフィー様だけど、漆黒のことだから対処している可能性が高いだろう。


(あ、マズいかも)


 王城には国王陛下がおわすはず。

 どこか遠くからドラゴンが飛んでくるならともかく、王城内か王城のすぐ近くにドラゴンが現れれば避難が間に合わない可能性が高い。そうなれば我が国は親愛なる国王陛下を失うことになり……。


(後継ぎには王太子であるリュース様がいる。でも、まだ9歳であるリュース様が国王になるのは早すぎる)


 そうなった場合、まだまだ幼いと呼べる国王を傀儡にしようとする連中が現れるだろう。抵抗する人間もいるだろう。事態を静観し漁夫の利を狙う者、あるいはあえて混乱に拍車を掛ける者も出てくるはず。様々な状況が予想される中、まず間違いなく言えるのは、リュース様の身に『政争』という悲劇が襲いかかるということだ。


 リュース様が不幸になれば、リリアが悲しむだろう。

 それに、個人的にも、リュース様には不幸になって欲しくない。


 ならば何とかしなきゃいけないね。


 私が決意していると庭に出てきた漆黒が魔方陣を起動させ、ドラゴンの素材が入った木箱が光に包まれた。

 かつてはこの国一番と称えられた男の召還魔法を生で見られるのだ、平時の私なら目を輝かせて感動していただろう。


 でも今はそれどころじゃない。

 一旦窓から距離をとる。

 何ができるかはとりあえず置いておくとして。何かをするならまずこの手錠を外して、それから部屋の監視役二人をどうにかしなきゃいけないだろう。


 横目で監視役の姿を確認。専門の訓練を受けているのか隙は見当たらない。私やマリー様がおかしな行動をすれば即座に対応してくるだろう。

 さてどうしたものかと私が頭を悩ませていると――



『――璃々愛直伝! ゴールデンボンバー!』



 応接間の壁を『にゅっ』と通り抜けてきた愛理が、監視役の男の一人に接近して……その……うん。明言は避けるけど……男性にとって一番の急所を蹴り上げた。明言は避けるけど護身術で男性相手に最も効果的な技として習うヤツだ。


「――っ!?」


 明言は避けるけど下腹部辺りを手で押さえながら悶絶する男。何という威力。何という容赦のなさ。むしろ監視役の男の方に同情してしまうね。南無阿弥陀仏、だっけ?


 しかし同情はそこまで。

 残った監視役の意識が愛理に向いた瞬間を見逃さすに私は動いた。魔法を使わず、純粋な超握力である右手を使って手錠の鎖を引きちぎる(・・・・・)


 そのままガルド様直伝の歩法によって監視役との距離を縮め、腹部に一撃。もちろん右手を使うと内臓破裂のうえ背骨も折れてしまうので左腕での攻撃だ。

 ちょっと勢いを付けすぎたのか倒れた監視役はぴくぴくと痙攣しているけれど、死んでいないのでよしとする。


『さっすがナユハちゃん、容赦ないね!』


「……急所を容赦なく蹴り上げた愛理にだけは言われたくないかな」


『ふっふっふっ、暴漢に襲われたときには蹴り上げる! これ日本の常識だよ!』


「恐いね日本」


 どこからか『そんな恐い国じゃないからね!?』という璃々愛様のツッコミが聞こえた気がするけど、たぶん気のせいだ。この場にリリアがいないのに璃々愛様の声が聞こえるはずもなし。いや璃々愛様ならあり得るかな?


「……ところで。愛理は今まで何をしていたのかな?」


 何を隠そう。この子、お茶会の準備途中に逃げ――いなくなっていたのだ。


『あ、うん。別にサボっていたわけじゃなくてね? なんだか嫌な予感がするなぁと思って屋敷の中を偵察していたんだよ。そしたら怪しい男たちが庭から侵入してきてね。そっと追跡していたんだよ。うん、別にサボっていたわけじゃないよ?』


 二回も『サボっていたわけじゃない』と釈明しているのはたぶん後ろ暗いところがあるからだろう。そもそも誰か侵入してきたならすぐ報告すればいいだけだし。それを追跡するという口実でサボっていたらこのような事態になってしまったと。


 私がジトーッと冷たい目で愛理を見ていると、彼女は器用にも空中に浮かびながら土下座をした。


『すみません、ただの泥棒だと思っていました。『監視を名目にサボれるかなー』とか『泥棒を捕まえたらリリアちゃんにいい顔できるかなー』とか考えてしまいました。真に申し訳ございませんでした』


 平謝りする愛理だった。まぁ最近は恋の『らいばる』が増えてきたものね、ちょっといい顔をしようと考えてしまうのもしょうがないのかな?


 気持ちはちょっと分かるので私はそれ以上愛理を追求しないでおいた。うん、悪いのは嫁を増やし続けるリリアだ。愛理がこうなったのも私がちょっと不機嫌なのも太陽が赤いのもすべてリリアが悪い。悪いのだ。


 リリアってば仕方ないなーと呆れながら私は窓辺のカーテンを引き裂いて紐状にし、未だ悶絶する監視役の男二人を縛り上げた。魔法を使われると厄介なので口には猿ぐつわをする。リリアみたいな非常識でもなければ口をふさげば呪文詠唱ができない = 魔法を使えなくなるからね。


 そう考えると猿ぐつわじゃなくてわざわざ魔鉱石製の手錠を用意した『漆黒』の用心深さと言ったら。猿ぐつわはもがいているうちに外れてしまうかもしれないからね。万が一の逃走もないようにしたのだろう。

 ただ、私と愛理の非常識さが『万が一』への準備を上回っただけで。


『あとは、ナユハちゃんに猿ぐつわをさせたくなかったとか? 若い女性に猿ぐつわはちょっとビジュアル的にマズいよね~』


 だとしたら『漆黒』は意外に紳士的なのかもしれないね。愛理の考えすぎだとは思うけど。


 さて、監視役は無力化したので、あとは手錠を何とかしないとね。鎖は引きちぎったので手は自由に使えるけど、魔鉱石としての特性は失われていないので魔法が使用できないのだ。


 一応監視役の男たちのポケットを探る。……残念ながら手錠の鍵は持っていないみたいだ。物語なら都合良く鍵を持っているものなのにね。たぶん漆黒が持ち去ったのだろう。抵抗して監視役を倒しても手錠を外せないようにしておくとは用心深いというか性格が悪いというか……。


『むむ! これは名誉挽回のチャンス!』


 目を輝かせた愛理が稟質魔法(リタット)を発動させた。たしか彼女の稟質魔法(リタット)は“異邦人(エトランゼ)”という名前で……異世界『地球』から色々なものを取り寄せることができるみたい。


 自信満々な様子で愛理が取り出したのは……何本かの……金属の棒? 先っぽがくねくねと曲がりくねっているのが特徴的だ。


 愛理は左右の手に一本ずつその金属の棒を持ち、私の手錠の鍵穴に金属棒を差し入れた。カチャカチャと棒を動かして……しばらく後。『カチャリ』という音を立ててから私の手錠の鍵は開いた。開いてしまった。魔法なんて使っておらず、鍵もないというのに。


「ふっふっふっ! 驚いたか! これぞ愛理ちゃん108ある特技の一つ千夜一夜の盗賊(ピッキング)だ!」


 中二病。という謎単語が私の頭に浮かんで消えた。


 あの金属の棒で鍵を開けたのだろうか? ということは愛理の手にかかれば(魔法対策をしてある)鍵も物理的に開けられるわけで……。地味に凄いというか厄介というか。


『せっかく趣味で覚えたのに、幽霊は鍵を開けなくても扉を通り抜けられるから使う機会がなかったんだよねー』


 誇らしげに胸を張る愛理だった。あんな技能を趣味で覚えられるとは……。『日本』という国は恐いところだね。


 どこからともかく『日本はそんな恐い国じゃないよ!? どうしてこうなった!?』という璃々愛様の悲痛な叫びが聞こえた気がするけれど、きっと気のせいだ。気のせいなので構わず話を進める。


 監視役は無力化し、手錠も外れた。

 あとは何とかリリアに連絡が取れればいいのだけれども。私は転移魔法なんていう高度な術は使えないし、長距離の念話も不可能だ。リリアから連絡してきてくれればできるけど……。


 となるとリリアの力無しで何とかしなきゃいけないけれど。いくら鎖を引きちぎれる超握力でもドラゴンを相手にするのは無理だよねぇ……。私の稟質魔法(リタット)も極論すれば腕がいっぱい出てくるだけだから無理無理。


 王宮が襲撃されたあとなら魔導師団で転移魔法を使える人がリリアかガルド様の元へ転移して、窮状を伝えることもできるから、むしろここは下手に動かなくてもいい場面かもしれない。


 そもそもマリー様とヒュンスター侯は軟禁状態だし。『二人は王城襲撃と無関係です』と証言するために、私も(監視という名目で)この屋敷に留まった方がいいかもしれない。あとのことはヒュンスター侯の友人であるというガングード公とゲルリッツ侯が何とかしてくれるだろうし。元貴族の平民でしかない私にできることなどない。


 そう考えると無理に監視役の二人を無力化しなくても良かったのかなーと私が考えていると、


「ナユハ様。この首輪を外せますか?」


 マリー様が髪を掻き上げ、“制御の首輪チョーカー”と、それを外せないようにしている錠前を私に見せてきた。この国でよく見かける南京錠(パドロック)。超握力の右手で引きちぎることも可能だったけれど……ちょっと力加減を間違えるとマリー様の首にケガをさせてしまいそうだったので愛理の千夜一夜の盗賊(ピッキング)で鍵を開けてもらうことにした。


 首輪が三つ。床に落ちる。

 その首輪を踏みつけてからマリー様は長く伸ばされた後ろ髪を払った。気合いを入れ直すかのように。


「では、ナユハ様。わたくしはこれにて失礼させていただきますわ」


 窓の外から王城を見据えたマリー様が足早に応接間を出て行こうとする。


「ちょ、ちょっとマリー様。どこに行くつもりですか?」


「もちろん、王城ですわ」


 マリー様は今にも走り出しそうなほどの早足だったけれども、私もガルド様に鍛えられているので難なく追いついた。


「王城に行って、どうするつもりですか?」


「知れたこと。陛下の身に危機が迫っているのです。貴族として生まれたわたくしは向かわなければなりません」


「……ドラゴンに変身できるマリー様なら、黒いドラゴンが復活しても対処できるかもしれません。でも、それはマリー様が“竜人”であることを広く知らしめることになりかねませんよ? そうなればリリアが危惧したように――」


 戦争に召集されて。

 そんなことはマリー様も理解している。まだ8歳とはいえ彼女は侯爵令嬢としての教育を受けてきたのだ。


「わたくしは、女とはいえ貴族です。貴族であるならば今このとき戦わなければなりません。リリアお姉様もきっと戦うでしょう。……ナユハ様はどうなのです?」


「…………」


 私はもう貴族じゃない。

 貴族籍を抹消された私が、今さら貴族面して陛下の元に馳せ参じる資格などない。高貴なる者の義務ノブレス・オブリージュなどを語れば失笑されるだけだ。


 ……でも。

 マリー様を一人で王城に向かわせることなんて、できるはずがなかった。


「私も行きます」


「よろしいので?」


「マリー様がドラゴンに変身して王城に向かえば、騎士団から攻撃を受ける可能性があります。私も一緒に行って説明した方がいいでしょう。……別に、今さら高貴なる者の義務ノブレス・オブリージュを語るわけではありませんが」


「……なるほど、これが愛理様の言う『つんでれ』なのですわね?」


 愛理からの悪影響を受けているマリー様だった。とりあえず愛理にはあとでお説教かな?


『ひどい……ナユハちゃんの照れ隠しの被害を受ける私……どうしてこうなった……?』


 私が言えることがあるとすれば『自業自得』かな?


 私が呆れのため息をついていると――轟音が響き渡った。

 確信を抱きながら私は窓の向こう、王宮へと視線を向けた。


 やはり。

 本当に。

 あの漆黒の男はやらかした(・・・・・)


 この国に生まれた者ならば。王とは絶対の存在であり。王宮とは絶対不可侵の『神域』だ。刃向かうことなど思考の埒外にあることだし、破壊するなど愚者にして狂人がすることだ。


 なのにあの男はやらかした。

 どうにかして王宮の結界を破り、宝物庫の封印を破壊して。8年前に討伐されたドラゴンの『首』を手に入れたのだ。


 そして。

 そうして。


 一人の男の復讐心は実を結び。

 一匹の幻想種の復讐心が結実し。


 王宮を囲む城壁を破壊して。――黒いドラゴンがその姿を現した。





 璃々愛

「当たり前ですが! ピッキングをしてはいけません!」


 オーちゃん

「できる人間の方が少なくないか? 圧倒的に」



次回、3月9日 15時頃更新予定です



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― 新着の感想 ―
[一言] ちなみに鍵の複製は鍵屋さんで修行積んで鍵士が人格を見て大丈夫って感じた人にしか教えないそうです。(小説で無駄に方法だけは知ってる
[良い点] おおぉ、こっそり動き出したね、愛理さんとナユハさんはお見事です!そして怖いのは日本ではなく愛理さんですねwww でも愛理さんが怠らなければこの事態には成らなかった気もしますけどw ちなみに…
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