閑話 原作ゲームのマリーさん(マリー視点?)
8年前。
我がヒュンスター侯爵家は領地に出現したドラゴンを討伐しました。
もちろん生まれたばかりだった『私』に当時の記憶はありませんが、討伐の際に大魔術師であったお母様は名誉の戦死。その他、相応の犠牲を払った薄氷の勝利だったと聞き及んでいます。
そして受けたのは竜の呪い。
思い出すのは“竜化”の昔話。
昔々。聖剣によってドラゴンを退治した少女は、竜となる呪いを受けたとされています。何百年も前の、我がヒュンスター家に伝わる昔話です。
もちろんそんなものはただの昔話ですし、ヒュンスター家の女が代々竜になったという記録もありませんが……。今回、その昔話が現実になってしまったのです。
現在、ヒュンスター家の女は私一人。
必然的に、竜化の呪いは私へと降り注ぎました。
『可哀想に』
『呪いさえなければ幸せな結婚ができるだろうに』
『どうしてこの子が不幸にならなければ……』
周りの大人たちは表向き同情し、裏では私のことを恐れていました。
どうして私が怖がられなければならないのでしょう?
私は、何も悪いことはしていないのに。
いつドラゴンに変身するか分からない私は、人間社会で生きていくことは叶わないでしょう。
私は、何も悪いことはしていないのに。
私と同じく竜の呪いを受けた昔話の少女も、結局は竜化の呪いに苦しんで自ら命を絶ったとされています。
私も、彼女も、何も悪いことはしていないのに。
ドラゴンになんてなりたくない。
ヒュンスター家に残された文献や、王宮に残された資料なども調べ尽くしましたが、結局“竜化の呪い”を解く手がかりすら見つけることができませんでした。
成果と呼べそうなものは、何の役にも立たない情報だけ。
ドラゴンについて調べを進める中で見つけた、当時、わずか7歳の少女がドラゴンを倒したという王国公式の戦闘記録。
お母様が命を捨て、領兵や領民に多大な犠牲を払ってやっと討伐できたドラゴンを。たった一人で。無傷のまま倒してしまった『神に愛されし』少女。
リリア・レナード子爵家令嬢。
新たなる神話を築き上げるであろう金の瞳。
万物の裁定者たる赤き瞳。
伝説の勇者と同じ、銀の髪。
――不公平さに不満を抱きました。
――理不尽さに怒りを覚えました。
なぜあの場所にいてくれなかったのかと。なぜお母様が死ぬ前に倒してくれなかったのかと。私は少女を恨んでしまいました。
どうしてお母様を助けてくれなかったのでしょう?
特別な力があるのに。
どうして私を助けてくれないのでしょう?
特別な力があるのに。
なぜ彼女ばかりが神様に愛されて。私が、私だけが、こんな理不尽な目に遭わなければならないのでしょうか?
…………。
こんなにも苦しいのは。
こんなにも辛いのは。
きっと、私が神様に嫌われているから。
きっと神様は私のことが嫌いであり。
どうせ神様に嫌われているならば……。
いっそのこと、と思いました。
どうせ最後には人としての心を失い、ドラゴンとして討伐されるのなら。
汗臭く野蛮な騎士に殺されてしまうくらいなら。
その前に。
この世界に復讐してやろう。
お母様を殺した騎士団を滅ぼし、王家を滅ぼし、悪竜となって死んでやろう。
そう。
私は、悪い子になってやろうと決めたのです。
マリーが今よりほんの少し不幸で、ほんの少し余裕がなくて。とある夜会でリリアを目にせず、スクナ様に抱きしめられなかった。そんな世界の物語。
次回、27日更新予定です




