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【6】のどかな田園地帯を走るローカル鉄道の車内
僕が窓の外を眺めている。やがて列車は田園地帯を抜けてトンネル内に入る。窓の外が真っ暗になって、窓に車内の様子が鏡写しになる。
【7】(回想)僕のアパート
何も無いガランとした部屋に、年配の女(大家)が立っている。女はあちこちを見て回ったあと、部屋の外に出て鍵をかける。部屋の外の通路には、僕が立っている。
大家 「特別、問題は無いようだね」
僕 「お世話になりました」
大家 「いいえ、こちらこそ」
僕 「さっきも話しましたけど、敷金は全額、部屋の補修なり清掃なり、大家さんの方で使ってください」
大家 「本当に、良いのかい?」
僕 「ええ。どうぞ。転居先には電話が無いらしいから、何かあったら手紙で連絡をください」
大家 「余計なお世話かも知れないけど、その遺産相続の話、本当に大丈夫かい? なんだか随分、都合が良すぎるみたいだけど。新手の詐欺とか、宗教の勧誘じゃないのかい?」
僕 「……」(困惑気味の愛想笑い)
大家 「まあ、何にせよ、元気でね」
僕 「大家さんも」
僕、旅行鞄を持ち上げる。
僕 「それじゃあ、さようなら。お世話になりました」
大家 「さようなら」
【7】(回想から戻って)列車の中
トンネルを脱して、再び外の景色が見える。線路の両側に迫る木々。深い森の中を走っている。
【8】森の奥深くの駅
線路脇にコンクリートの乗降台があるだけ。駅舎も無い。改札も無い。駅員も居ない。屋根も無い。駅名を書いた看板も無い。列車が停車してドアが開き、僕は旅行鞄一つ持ってプラットホームに降り立つ。線路と直角に、プラットホームから森の中へ未舗装の土の道が伸びている。森の奥へ奥へ。その道の上、プラットホームに一番近い所に、一台の自動車が止まっている。自動車の近くに男(執事)が立っている。僕、旅行鞄を持ち、プラットホームを降りて自動車に近づいていく。自動車は黒くクラシック・カーのような形をしている。
執事 「お待ちしていました」
僕 「あの、鍵池伝十郎さんのお屋敷の方ですか?」
執事 「はい。執事をしていました。旦那さまが旅立たれ、すぐに私もお屋敷を辞するつもりだったのですが、新しいご主人がいらっしゃると聞いて、せめてご挨拶をしてから去ろうと思いまして、お待ちしていました」
僕 「はあ、どうも」
執事と名乗る男、手のひらに自動車のエンジン・キーを載せて、僕に差し出す。
執事 「どうぞ、これを」
僕 「これは何ですか?」
執事 「自動車の鍵です」
僕 「この車の?」
執事 「はい」
僕 「僕が運転するのですか?」
執事 「自動車の運転をした事はありますか?」
僕 「いちおう、運転免許は取りました。しかし自動車学校を出てからは一度も……」
執事 「では、どうぞ、お受け取りください」
僕、仕方なしにエンジン・キーを受け取る。
執事 「これで、安心して、お屋敷を去る事ができます。では」
執事、いきなりカラスに変身して空へ飛んで遠くへ去る。僕、その姿を呆然と見上げる。カラスが遠くへ行って見えなくなっても、しばらく空を見上げ続ける。そして、ようやく、視線を下げて手のひらの鍵を見る。自動車のトランクを開け、旅行鞄を載せ、運転席へ周ってドアを開け、シートに収まる。エンジン・キーを挿して回す。エンジンが掛かる。自動車が動き出す。最初はゆっくりと、徐々に速度を上げ、名前も無いプラットホームだけの駅を離れ、森の中の一本道を奥へ奥へと自動車を走らせる。




