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未無子諦夢はわからない

 

 少年は澄み渡る空を眺めていた。

 もう春が終わろうとしている中、彼は登校中。



 高校一年、6月にして現在進行形で遅刻している。


 なぜか。

 なに、難しい理由はない。

 ────ただの寝坊だ。


 その証拠に彼の髪には翼が生えたような寝ぐせができている。

 今となってはそんなもの気にすることはなかった。

 彼にとっては寝ぐせや遅刻は特に珍しいものではなかったし、学校にいっても少しいじられるだけなので。

 それに中学からのことなのでもう慣れていた。

 こうしているうちに登校時間は過ぎ、ほとんど誰もいない空間。

 爽やかな風が吹き抜け、鳥のさえずりが耳に響く。

 あまりにも気持ちよくそこら辺の石にでも座り、目を閉じていたいものだと考える。

 これなら学校なんていかないでいいんじゃないかと思わせるほど鮮明である光景。

 朝早く高齢者の方が散歩したりする気持ちがわかるほど。




 ……だが彼の幸せの時間は終わりを告げた。

 学校につき――――落胆した。



 ―――学校。

 その響きだけで一日のやる気を削ぐほど強大な存在。

 一部の人からは「子供の監獄」と呼ばれるもの。

 なぜそう呼ばれ嫌われるのかは人それぞれだが彼が嫌う理由は

 ……うるさいから。

 これだけである。

 高校一年生とは高校デビューをかました者、同じ趣味を共通、共感しようとする者が増え、中学では物静かだった者もはしゃぎ、騒ぎたくなる時期。

 静寂を求める彼にとっては迷惑でしかない時期。


「いっそのこと「ぼっちのクラス」と「リア充気取りクラス」とで分けてくれればとても助かるのに……」


 廊下でそうつぶやき教室にむかう。


 彼は教室につきドアを開ける。

 すると一部のクラスメイトと呼ばれる他人達がこちらを注目した。


 別に彼が入ってきたから、ではなく誰が入ってきても集まる視線。

 生き物として物音には敏感であるが故の本能。

 そんな視線をものともせず挨拶もせず自分の席に座ろうとする少年。

 ────しかし


「おい未無子(みぶね)。あれはどうした」


 担任の江口先生の声が未無子と呼ばれる少年の足を止めた。


 あれとはなんだ。

 そのような疑問の表情をしている彼に


「遅刻届けを出せと言ってるんだ。はやくしろ」


 と、彼の返答が遅いせいか苛立(いらだ)っている様子で先生がそういう。


「え? あ、もらってきてません」


「そうだろうと思った……はぁ、いつになったら自分で取りに行くんだ……今日も私が書いて出しといてやるからもう座ってろ」


「はあ、ありがとうございます」


 そういって席に座った。


 なんてことのない普通の会話。

 どこのだれでもする何の変哲もない言葉と交わすだけの行為。


 ────こんな俺の人生はつまらない。


 窓から見える空を見てまたそう思う。


 これについて考えるの何度目だろうか。

 なぜつまらないのか。

 なぜこう考えてしまうのか。

 自分はなぜ生きているのか。


 様々なこと考えるたびに出す結果は


 ────────わからない



 なにもわからない。

 少し前ほかの人に聞いたことがあった。


「人ってなんで生きているんだと思う?」


 と。

 返ってきた言葉は


「家族を養うためじゃない?」

「神様に与えられた命を自由に使うためだよ」


 などというものだった。

 彼が理解できなくはなかった。

 考え方は人それぞれ。

 人の役に立ちたいという気持ちもあるだろう。

 楽しい人生を送りたいと思うだろう。


 だが彼は理解はできても共感はできなかった。

 家族を養う? 自分が家族を幸せにしてるっていう優越感を味わいたいだけだろ。

 与えられた命を自由に使うため? そんなの自分が勝手に自由だと思ってるだけで神様の手のひらで踊ってるということを知らないだけじゃないか。

 自由なんてないじゃないか。


 彼はその時そう思ったことは伝えずに


「ありがとう。参考になったよ」


 と作り笑いを浮かべそう言う。


 俺がこの問題を解決する日は来るのだろうか────


「────子。────のか」


 うっすら聞こえる声に彼は正面を向いた。


「聞いているのかと言っているのだ! 返事くらいしたらどうだ未無子(みぶね)諦夢(ていむ)!」


 フルネームで呼ばれた彼は返事をせずにただ(うなず)いた。


「ほう。なら今私が出した問題を解いてみろ!」


 黒板に書いた問題をコンコンとたたく江口先生。

 諦夢はそんな先生の気も知らず黒板の方へと歩きていき、

 問題を一通り読んだ後カッカッと白チョークで答えを書いていく。


「これでいいですか?」


 無表情でそう問う諦夢に先生は呆れた様子で正解と言った。


「今度は呼んだらすぐ返事しなよ」


「わかりましたー努力しまーす」


 一見煽ったように見える腑抜けた返事をした彼を

 疲れているような怒っているような雰囲気を出している先生はギロッと音が出るほど睨み付けた。

 クラスが一斉に静かになる。

 彼は殺気を感じ先生のほうは見ずに自分の席に戻った。




 ──同じことの繰り返し

 ──変わらない日々

 ──変わらない自分

 ──変われない自分

 ──変わろうとしない自分────


 ────こんな何も無い人生に意味はあるのか



 それとも意味なんて求めてはいけないのか────────




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