終ノ幕 重ねていく足音
――後日譚。
黒い獣を浄化した後に残った霊気は、再び炬香に戻っていった。身体の中に同居していた悪霊ごと妖怪としての負の部分を浄化されてしまったために、どうやら炬香は神格化してしまったらしい。そのため妖気ではなく霊気を纏うようになっていた。
あの後、梓たちは神社に戻ってみたものの、把音の姿は既に無く複数の人間が居た気配だけが残っていた。他にはふよふよと漂う無害な雑霊が居るくらい。社殿が崩れ落ち、鳥居の倒れた美烑稲荷は風化するのを待つばかりとなっている。
そしてあの3人は。
「なんでお父さんだけ人間に戻ってるです?」
「いや、別に人間に戻ったわけじゃないぞ。この身体が妖気で動いてることに変わりは無い。だから、そんな寂しそうな顔するなよ美烑」
「だ、だって。せっかく一緒に歩けるかもって……」
森の中の無人の街道を並んで歩いている。
小さくなってしまった炬香の手を、左右に並ぶ梓と美烑が握っている。
「あの言葉に偽りはない。『世界の終わり』まで一緒に居よう」
「お兄ちゃん……」
「む~。お父さんとお母さんだけでお話しないで欲しいです」
「あ~、ごめんごめん」
「炬香は甘えんぼさんだな……」
「素直になれって言ったのはお父さんです」
「あはは……」
妖気を大量に使用した梓の外見は人間に戻っているが、見る人が見れば身体の周囲に妖気が漂っているのが分かっただろう。
「次はどこ行くです?」
「やっぱ南かな。動物もいっぱいいるし、魚もいっぱい釣れるから。海にはすんごいでかい魚とかいるぞ」
「そういえばあたし、『海』って見たことないんだけど……しょっぱいんだっけ?」
美烑の姿は相変わらず。
頭の上にはぴん、と尖った狐耳を揺らし、ちょっと破れ方がヒドくなったくたびれた巫女服の穴からふっくらとした狐尻尾が伸びている。
「そうそう。あと泳ぐのが楽だ」
「へ~、何で?」
「それはだな……」
――その後も、3人の存在が歴史の表舞台に残ることはなかった。
しかし人間であることをやめた青年と、人間ではない少女と、生まれる事の出来なかった女の子は、人と人外とその歴史が交わる多くの事件には大なり小なり関わって、この国の歴史の裏舞台を歩んでいくことになる。
さあ、1000年先へと続く物語を始めよう。




