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化物科での日常

1.

別世界からの英雄召喚術式

世界の危機を救うため開発された術式、異世界から英雄の素質を保有する者を召喚する。発動には複雑な魔方陣(付録を参照)に、10万ガル相当の魔力を必要とする。(一般人は500ガル程度、一般の魔術師であれば1万ガル、達人級の魔術師であれば3万ガル保有しているとされる)

『一般に知られる魔術』より抜粋


中学3年の夏、俺たちは異世界へと召喚された。

人族の国は敵対種族であるアーク族による侵攻により壊滅の危機に瀕しているという。

草壁勇は勇者として、隠岐凜は聖女として、僕――真鍋遙は賢者として立ち上がり、そして、世界を救ったのだった。

役目を終わらせた俺たちは元の世界に戻り、ただの学生に戻るはずであったのだが……。

車と衝突してもびくともしない強靱な肉体、手から炎を出すなどタネも仕掛けも存在しない不思議現象を引き起こせる魔力。そんなものを持つ化物を人間と定義できるのならば、よほどの人格者なのだろう。そのうえ、酷使された体は、それなりにガタが来ているという。

どんな衝撃にも耐えられ、身体能力は人間離れ、挙げ句、回復能力は桁外れだというのに、いつ死んでもおかしくないというのだ。ばかげている。

そんな僕に手をさしのべた学園がある。特別科に無料で編入させてくれるといううさんくさい話であった。騙されたとしても自力で解決できるので、受け入れてみたら、なんと本当に至れり尽くせりであった。

これは、僕の青柳学院特別科――通称、化物科で起きる日常の記録である。


2.

英雄召喚術式

異世界から人族を召喚する術式。召喚時に身体強化、魔力増強、精神負荷への耐性など、様々な強化魔法を付与する。また、召喚術式の発動者に疑念や不信といった負の感情を抱かないように、多種の封印術式も組み合わされている。どの効果も強力ではあるが、人体への負荷が過大であるために、被召喚者は死亡する可能性が高い。被召喚者の生存時には多大なる恩恵を授かることとなる。まさに「英雄」召喚術式である。

『万物の魔導書』より抜粋


では、まずは僕の話から始めよう。異世界「クルト」にて人族を救った英雄の一人、賢者と呼ばれる存在である。英雄である賢者はありとあらゆる知識を所有し、クルトにおける技術すべてを知っている。しかし知恵だけの人間ではない。その力は山を穿ち、空を割り、海に大穴をあけたと言われている。眉唾物の噂だけれど、やった記憶はないが、やってやれないことはないだろう。

さて、ここからは英雄でもなく賢者でもない、ただの僕について話をしよう。家族は父と母、それに妹。性格は普通。可も無く不可も無くといったところだと思う。人の良いところを挙げましょう。と言われたら、大半の人に優しいと言われるような、そんな人間だ。そんな僕が異世界に行って帰ってきて、性格的に何が変化したと聞かれれば怠惰になったと答えることになるだろう。努力の仕方を忘れてしまった。同じ英雄である聖女はともかくとして、普通に普通の勇者と一緒に過ごしていると、よくそんなに頑張れるものだと感心する程度には努力をしてないだろう。

次は、英雄でも賢者でも人でもない、僕自身の体について。ただの人である僕――正確にはただの英雄級の人である僕がアークと戦うためには、かなりの無茶をしなければならなかった。英雄召喚によって得られる祝福は、アークと戦闘するための最低限の能力であった。ここで重要なのは勝つためのではないということだ。ただ戦闘という体を保てるだけの能力でしかなかった。僕が勝つために――山を穿ち空を割り海に大穴をぶちあけられるようになるために取った手段は人でなくなることだった。僕は万物の魔導書となった。人型魔導書である。万物の魔導書に書いてある内容はクルトの全てといっていい。その内容量は多大であり、ありとあらゆる知識を所有するという賢者の評判は過言ではない。魔導書を索引することで得られる知識、何事にも耐えられる超越した体を保持していることになる。残念なことにクルト産であるが故に、この世界の知識というのは書かれていないが、だいたいの現象はクルトの知識でクルトの手法で代替できるのだ。魔法という手段がある以上、より簡単であるとすら言えるかもしれない。

いたって普通の化物である僕には、現在、なんてことはない悩みがある。異世界に関わる前からあまり人とは関わらなかった僕にとって、級友の誕生日に何を贈ろうかなんて些細ではあるが、大変重要でどんな魔法よりも難しい悩みであった。


3.

忍者――それは生き様である。忍道――それは浪漫である。忍術――それは愛である。魂を奮わせ、心を燃やし、使命を果たせ。さすれば忍者の資格あり。

『忍者ってなんじゃ?』より抜粋


化物科の級友に比較的人間よりの男が居る。この学科には珍しいことに種族は人間であり、忍者一族の末裔であるが故に、特別扱いされている人間、九浜道だ。もちろん化物科の一員である以上、人間離れはしているが。

「なるほど、つまり貴様は我に喧嘩を売りにきたのだな。我が異性への誕生日に何かを贈ったことがあるわけがない。忍者故に、日陰者なわけである。ふはははは。そして日陰者として、そのような貴様を成敗してくれよう」

意味も理屈もよく分からなかったが、どうやら人選をまちがえたようであることだけは事実だった。

「忍者とは生き様だ。信念を胸に抱き、主に仕える。それが忍者だ。忍者は日々進化する。そして俺は忍者だ。貴様がこれから戦うのは俺ではない。忍者という歴史そのものだ」

何を言っているのだというような台詞と共に、重い突きが連続で繰り出される。なんとか、魔法で壁を作り出し防御しているが、この速さの突きをこれだけの威力をのせてはなたれると、追いつけなくなってくる。そもそも僕は魔導書である。前衛でなく、後衛を任される立場だ。近接での攻撃より遠距離の方が得意なのだ。まずは、なんとか離れなければならないのだが、なかなか下がる隙をみせてくれない。どんどん攻撃の速度があがり、防御の魔法が追いつかなくなってきている。

「索引、近距離、短時間」

20896件が該当。母数が多いのも考え物だな。

「風よ我が脅威を除け」

九浜に突風をぶつける。自身の前方に風をたたきつけ、敵を排除する術式だ。少し、威力不足で忍者である九浜を飛ばしきれるか不安であったが、いつも使っている術式を使用した。その結果、最低限の効果とはいえ、体勢をくずさせることはできた。その程度の効果しか得られないのはさすがとしか言い様がないが、多少の隙が出来れば何とでもしようがある。

「陰よ。取り込め」

九浜の影から黒い無数の糸がのび、九浜を捕らえ縛り、捕らえる。

さぁ、知識の暴力って奴を教えてあげようか。ひとまずは、精神にダメージがいく系統をためそうとしよう。


4.

プレゼントを贈るとき、相手が自分とは違う種族なのだということを理解しよう。

『人外へ贈る時の9つの心得』より抜粋


忍者と戯れた僕は同類に話を聞くことにした。この世界の歴史を記録する種族。歴史と技術の知識は密接な関わりがあるため、ありとあらゆる知識を有している。そしてその点から魔導書たる僕と同類に近く、それなりに気が合う奴だ。

「九浜の次というのが、ちと不満じゃが。儂に相談しに来るとはなかなかに良識じゃの。なに、大船に乗ったつもりでいるがよい。皆に聞くぞ」

人と人を渡り歩くという意味では、実際に船をのっているといっていいのかもしれない。

まずは大崎木都。種族はドワーフだ。

「貴様の特徴であり魔導書特有のものをやるがよい」

暴食を原罪とする悪魔、結城美津。

「食べ物一択」

知り合いの勇者。

「愛です。愛は世界を救うのです」

異世界の元王女にして勇者の嫁、パルム・クルト。

「勇様にもらったものならどんなものでも嬉しかったですね」

知り合いの聖女。

「なぜ私が最後なのですか?」

と、こんな感じだったのだが、自分自身の特性を活かした贈り物くらいしか良いアドバイスがなかったような気がしなくもないが……。

「なぜ私が最後だったのですか?」

ついでに凜という同乗者ができてしまったが……。

「私に良い提案があります。私が用意した祝福を込めたこの小物に、貴方の魔方陣を組み込みましょう。共同作業をしましょう」

「良い案じゃな」

そう、良い案だった。

この良い案にのって、クラス全員の力を合わせて作った結果、その小物を巡って、とんでもないことが起こったのは別の話だ。



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