火山性洞窟に行ってみた #24
「訳は後で話すから、とにかく急いで欲しいの! 貴方も一緒に来て!」
ヴェルという猫耳少女は、私に向きながら叫んだ。
「よし、わかった。キャミィ、急ごう!」
私はキャミィを急かして出かけようとする。
「「私達も行きます!」
振り向くと、菫とナイファイ、レイチェルが立ち上がっていた。
「有り難いけど私のラクーンライドは2人乗りなの。私とキャミィは小さいから合わせて1人として、頑張ってもあと1人ね。さっ、行くわよ!」
「仕方無い、こんな所でふう太を呼び出す訳にもいくまい。とにかく行ってくるから、レイチェル、君はちゃんと家に帰って寝るんだよ?」
「わ、わかりましたわ。わたくしも今回は大人しくしておきます……」
ホントかな~~? まあ、この緊張感が伝わっているんだろうな、少しは成長したようだ、ふふふ。
「司令官殿、大丈夫でしょうか?」
「ああ、キャミィも居るんだ、心配は要らないよ」
ナイファイの不安に軽く答える。
「はやくっ!」
「分かったってば! 行けばいいんでしょ!」
面倒くさそうに動き出すキャミィに付いて、私も一緒に店を出る。そこには大きな四足モンスターがいた。
ライオンよりは大きい。可愛らしい大きな目に大きな耳、灰色のアライグマみたい。
「さっ、乗って!」
フカフカの毛皮の感触を楽しみながら、キャミィを真ん中、私が1番後ろに乗ってさっそく走り出す。そのスピードの速いこと! チーターみたいだよ。
「15分で着くわ。それまでに状況を説明するわね」
ヴェルが前を向いたまま話し出す。
「私達が探索していたダンジョン、最初は特に何の変哲も無い普通のダンジョンだと思っていたんだけど、まったく違ったの。」
「ふ~~ん? どう違うの?」
キャミィがのんびりと聞く。
「まず、入り口から地下200m位までは、ほぼ階層構造になっていないという点。小さなフロアが幾つか有るだけで、殆どは急な斜面だけなのよ。そして、そこには魔物類が一切出なかった点ね」
「へっ? 何で?」
私にはサッパリだが、キャミィ達には不思議なんだろうな。
「あれは人工的に造った物だからだと私は思ってる。最近になってあそこに穴を掘って、地下に進んで行ったんだわ」
「そ、そんな事ができる奴いるの?」
「いる……アメーリ教の奴らよ」
ア、アメーリ教!? あいつら穴掘って何してるんだ!?
「私達の調査では、アメーリ教の連中は西の魔王の配下よ。アイツらって不思議な力を使うのよ」
魔王配下って……奴らが広めようとしているのは悪魔教なのか?
「それに、あの背中のマーク。間違いないわ……ん? 誰かついてきてる!」
ヴェルの言葉に振り向くと、そこにはブタのようなモンスターに乗った少女がいた。
「す、菫!?」
菫の乗っているモンスターは、短い足をしゃかしゃか動かしてえらく速い。あっという間に追いついてくる。
「私のポル君、最速……」
私達に並んだ菫は、ニンマリと笑いながらそう言った。ポル君とはこのブタさんの事だろう。どこかで召喚契約したのか……そういえば、校長が剣と魔法の優秀生徒だと言ってたっけ。
「菫、危険なんだぞ? 覚悟はあるんだね?」
「コクコク……」
私の問いに無言で頷く菫。まあ、戦力は1人でも多いほうがいいか……ヴェルも特に不満は無い様だ。
「先を続けるわ。通路にはそんな穴を掘る道具が所々にあったみたいなの、これは彗斗が言ってたのよ。そこから先に進んだら大きな洞窟にぶち当たったの。これは自然に出来たものね、かなり巨大なものだわ。さらに私達は奥に進んで行ったんだけど……とんでもない物があったのよ」
「な、なによ?」
キャミィも興奮して話しに魅入っている。
「溶岩の川よ」
「「溶岩!?」」
ヴェルの言葉にキャミィと私は、思わず驚きの声を出してしまう。
「そう、溶岩の川よ。その手前に、もの凄い熱気の中で変な服を着たアイツらと化け物がいたの。そこに行くまでに巨大な魔方陣が有ったのに、迂闊だったわ」
変な服とは耐熱防護服の事だろうな。しかし人間はいい、問題は化け物の方だ。プラズマスクリーンを装備しているのは間違いないだろう。これは厄介だぞ……
「それで、勇者達はどんな状況なのよ?」
ああ、それが心配だ。ナイファイのミサイルでも傷つけられない相手だ、勇者達の身の上が気になる。
「アメーリ教の連中は殆ど倒したわ。といっても彗斗が注意してくれなかったら私達は死んでいたけどね。なにせ連中の攻撃って、音だけで何も見えないのよ。彗斗が”マシンガン”っていう武器だって言ってたわ」
なるほど、マティアス教授の様な、兵器を創造できる人間が他にも居るという訳か。
「結界を張ったんだけど凄い威力で、あっという間に崩壊しそうだったんだけど、なんとか倒せたの。何人かは逃げたみたいだけどね。それより化け物が異常すぎて……」
「ど、どう異常なのよ?」
「まず見た目が恐ろしすぎるわ。彗斗が”キャタピラ”って言ってたけど、変な回転する台座みたいなのに、人型の怪物が上半身だけ生えてるって感じ。鋼鉄の触手が幾つも体から生えてるし、大きな2つの触手の先にはドリルみたいなのが付いてるわ」
「な、なかなか迫力がありそうね……」
さすがのキャミィも気が引けている様だ、無理も無い。
「口にも変なのが付いてて、彗斗が”戦車の砲塔だ”って言ってたけど……何より異常なのが、私達の攻撃がまったく通用しないのよ」
「まったく? 勇者がいるのに剣も魔法も?」
「そうよ、剣も、魔法も、彗斗の聖なる力も一切通用しないわ。魔物相手なのに……」
まあ、魔物というより、生物兵器だからな。
「それで、彗斗とガラカンが触手に捕まっちゃったんだけど、切り落とせないのよ。このままじゃ……」
これは非常にマズイ状態だな……たとえ攻撃を防いでいても、そのうち高熱にやられてしまうだろう。
そんな考えをしている間に、私達を乗せたモンスターと菫は市街地を抜け、すでに森の中を疾走していた。
「もう一人の女性はどうなっている?」
森に入った地点で、私は気になっている事を聞いてみる。
「サーシャは後方から結界を張って、冷却魔法と回復魔法を2人にかけ続けているわ」
うむ、暫くは大丈夫か……問題は砲弾だが、ナイファイのように1日に撃てる数に限りが有るのなら、有利な状況でそう簡単には撃ってこないだろう。それもまあ、時間の問題だろうが……
「ここよ! 一気に下るわよ!!」
ヴェルが叫ぶ。
見ると前方の山肌にポッカリと穴が開いているではないか。人が5~6人通れそうな穴。これが入り口なのだろう。私達を乗せたモンスターは、スピードを落とさずに急な斜面を駆け抜けていく。後ろの菫を乗せたブタさんも問題なくついて来ていた。短い足なのに器用なもんだ……
細い通路の所々では、ヴェルの言っていた通り”はつり機や掘削機”が見える。中には薬品の袋まで有ったよ。奴らめ、何らかの薬品を合成して土や岩を溶かしたな? おそらくは自然に出来た洞口を利用した通路なのだろうが、岩石が剥き出している所と、いかにも人工で作られたかの様な、滑らかに成形された場所とが交互に見える。
それにしても、ふう太で来なくて良かったよ。いちいち乗り換えてたんじゃ、かえって時間がかかってしまっただろうな。
「着いたわ!」
入り口から200m以上は進んだだろうか、時間にしてはほんの数秒。ヴェルの叫び声で急停止した私達の眼前に、いきなり巨大な洞窟が現れた。
とても幻想的な光景だ。観光でアイスランドのレイザルエンディ洞窟に行った事は有るが、同じ様に至る所に鍾乳石や石筍が生えている。その巨大な生成物を含む風景は、まるで別世界に来たかの様な感覚を呼び起こしてくれる。まあ、ここがそもそも別世界なんだけどね……
数メートルはある鍾乳石を見ながら、いったい何万年前にここは出来たのだろうかと考える。ふとキャミィと菫を見たが、私と同じくそれぞれに何かしらの思いを馳せている様だ。そんな私達の感慨を中断させるかの様にヴェルの叫び声が響く。
「ここから先は凄い熱気よ、結界を張っておいて! それと戦闘準備をお願い!」
成程、前方にはさらに下り斜面が見えている。そこが怪物と勇者が戦っている場所か……急がなくては!
「菫、結界を張るからね」
「結界、要らない。熱に、強い」
そうなの? やっぱり元兵器だからかな。
「けど、一応張っておくよ。ブタさんも熱いのは苦手だろ?」
「ブタじゃない、ポル君。ポル君、熱いの大好き」
「そ、そーなんだ……。けどけど、やっぱり張っておこうね? 攻撃除けにもなるからさ」
「コクコク……」
ふぅ、納得してくれて良かった。しかし熱さに強いブタって何だろ? 焼きブタ?
「は~~や~~くぅ~~~っ!!」
うぅ、ヴェルが大爆発しそうだ……急いでしよう。キャミィはさっさと結界を張り終えてるよ。
「結界っと! うん、ヴェル、先に進んでいいよ!」
「よーし、行くわよ! 覚悟は出来ているわね!?」
「「「もちろん!」」」
私達の返事を待っていたかの様に2匹のモンスターは走り出す。
疾風の如く洞窟内を奥へと駆け抜けて行く。
途中、大きなホール部分に巨大な魔方陣がほんの一瞬横目に映る。なるほど、あれがヴェルの言ってた物か。魔獣を転移させるための物だろう。奴らでは召喚できない魔獣。そんな化け物がこの先に居るのだな……
そんな思いの中急激な斜面にさしかかったが、私達の可愛いモンスター達はあっという間に下りきって急停止する。
そこに見えたのは……
巨大な空間は赤みを帯びていた。
有る筈の天井は黒煙が被っているかの如く、その全貌を見せようとはしていない。
視界の奥に横たわる溶岩は煮えたぎる一筋の川を形成し、いずこに行くのかは分からんが洞窟の壁に吸い込まれている。
そんな灼熱地獄。奴はそこにいた。
陽炎が立ち上る中に蠢く、巨大な人型魔獣。大きさは3階建ての家くらいはあるだろうか。おぞましい事にキャタピラから直接に上半身が生えている。全身を滑りの有る真っ黒な鋼鉄のザイルの様な物で幾重にも取り巻いていて、その様はまるでモーターコイルのお化けだ。
上半身だけの体からは、その体を形成しているザイルの様な物が10本ほど触手の様に伸びており、うち2本が勇者とガラカンの体を絡め取っている。それらの触手は、先端にドリルを付けた両腕と共に彼らを襲い続けていた。
こんな攻防を少なくとも何十分と続けていたのか……
これはまず最初に、彼らを触手から切り離し、休息を与えねばならんな。
しかし怪物のあの口……
勇者は戦車の砲塔と言ったらしいが、そのまんまだよ。なんとも奇怪な……さて、早く助けてやらんとな。
離れた岩場の影でサーシャだろうか、女性が魔法を唱えているのが見えるが彼女も限界のようだ。全身を汗で濡らし、肩で息をしている。いつぶっ倒れてもおかしくは無いだろう。
「キャミィ、ヴェル、援護を頼む。菫、私が勇者達を助けたらすぐにミサイルを発射するんだ」
乗ってきたモンスターを降りざまに言う。すでに手には刀が握られている。
「「任せといて!」」「了解」
3人の返事を背後から聞きつつ、私は怪物に向かっていく。寸前で……奴め、気付いたか。ドリルの手と触手で私を攻撃しようとしてきたぞ! だが、その瞬間、
「モーターヘッド・スレイヤー!!」 「デストレイジ・ライオット!!」
キャミィとヴェルの魔法が怪物を襲った。
全方位からの風の刃。キャミィの放った斬撃魔法は溶岩よりもなお赤く、凄まじい回転をしながら怪物の上半身に怒涛の如く押し寄せ、その鋼鉄の体を切り裂こうとしている。
そしてヴェルの放った雷。その電撃は巨大な槍の如く、怪物の上半身に何十本も突き刺さり、まるで串刺し処刑の様だ。
2人の攻撃に怪物は一瞬動きを止める。よし、今だ!
「たあぁぁっーーー!!」
勇者とガラカンを捕まえていた2本の触手をそれぞれ刀で一刀両断にし、2人を脇に抱えて怪物から離れる。
「えっ!?」「な、なんだ!?」
勇者とガラカンは、イキナリ私に体を掴まれて驚いている。しかし今はそんなの気にしている場合ではない。
怪物は異変に気付き、さっそく私目がけて砲弾を撃ってこようとするが……
「ミサイル発射!!」
すでにミサイル・セル(発射システム)を展開していた菫。その菫が放つブースター付きミサイルは、怪物に余計な動作を与える暇も無く、瞬時に怪物に着弾した。
耳をつんざく爆発音が洞窟内に響き渡る。奴はどうなったか……
硝煙と粉塵の中から怪物はゆっくりと姿を現し、虚ろな赤い目で私達を睨んできた。
う――む。予想通り、キャミィ達の魔法も菫のミサイルも、まったくあの怪物を傷つける事は出来なかった様だ。
「き、君は闘技場の女神!?」
怪物から距離をとった後、地面に降ろされた勇者とガラカンは、いきなり現れた私を不思議そうに見つめている。
「なぜここに!? ヴェルは確か、知り合いの魔法使いを呼んでくると言っていたが……」
勇者が尋ねてきたが、その表情は疲れきっている。かなり危ない状況だったようだな。
「ああ、たまたま私も一緒に居てね。詳しい話はこの戦いが終わってからにしよう」
私は怪物から目を離さずに勇者達に言う。彼らの横にはすでに岩場の影から補助をしていた女性も駆けつけており、2人に回復魔法をかけている。
「それよりも、3人共随分とお疲れの様だねぇ……よし、『バスクリーン熱海&トニック』!」
勇者とガラカン、サーシャの3人に、疲れを癒して気分をシャッキリさせる魔法をかけてやった。
「な、な、何だ!? 疲れがとれていい匂いがしてきたぞ!?」
ふふふっ、3人共ビックリしてくれたようだな、余は満足じゃ。さ――て、のんびりしている暇は無いぞ、早いとこ怪物のプラズマスクリーンを解除しないとな。
「元気になったろ? あの怪物は私達が引き受けるから、君達はどこかにある機械、もしくはアメーリ教の人間を探してくれ。制御装置を壊して怪物を覆っている強力な結界を壊さないと、いつまで立ってもやっつけられないからね」
「何だそれは!? ま、まあ詳しい事は後で聞くか……行くぞ、ガラカン、ラーシャ!」
「おう! 闘技場の女神、アンタは命の恩人だ。なんとしてもその仕事やり抜くから、それまで死ぬなよ!」
「本当に有り難う……この礼は必ずするわ、じゃあ、後でね!」
イッテらっさ―い! 心配しなくても、あの怪物も私を倒す事は難しいと思うよ~~~。
触手もスパッと切れたし、なんかまた強くなってる気がするんだよね。もしかしてこのまま倒せちゃったりして。
とりあえず勇者達が捜索している間に、私も戦っておくとしようか…………




