艦対艦誘導弾改めナイファイ #14
「レベルアップしました」
ん、何だ? 一体誰が言った?
周りには誰もいないし……まあいいか、それよりコイツだ。
まったく情けない奴め。これしきの事で気絶するとは。そもそも私が少女になって何が悪い?
腹が立ったので、目を覚まさせるついでに、頭上でブンブン振り回してやった。
「起きんか、野間浩介!」
「えっ? うわっ、うわわぁ――!起きました! 起きてますんで止めて―――!!」
まったく世話のかかる……
また気絶されてはかなわん、メガネをかけて離れて話すか。
「それで、野間よ。お前の現状を報告せよ。」
「俺の現状ですか? 俺の……うわ――ん!ソフィアちゃ―――ん!!」
コイツ…… “ちゃん付け”のほうできたか。まあ、いい。
それより、泣きながら私の足にすがり付いてきたよ。よほど辛い思いをしていたのだろう。
「――――――っていう訳で、俺、この世界じゃ弱くて、相棒に守ってもらって何とか生き延びてきたんです。生きるだけで精一杯で、ほかの隊員がどうなったかなんて調べる余裕、全く有りませんでした。」
「わ、わかった、大変だったんだな。まあ、とにかく、無事で良かった。」
随分と苦労していたみたいだな。2ヶ月前にこの世界に来て、以降この小国から出ずに暮らしていたのか。剣も買えず、戦闘力もないんじゃ無理も無い。この国では、盗賊やモンスターに襲われる心配なんて、無いだろうからな。
「ソフィアちゃんはどこに居たんですか?」
「私は2週間ほど前にこの世界に来たばっかりだよ。小さな島である人に世話になり、ミスカトニックのギルドで身分証を手に入れた。ここへは知人の護衛でやって来たんだ。」
「護衛って……ソフィアちゃん強いんですね、流石です! 俺なんか……ううっ!」
また、メソメソしてきたな。元気付けるのも上司の務め、ここは優しく慰めてやろう。
「お前は弱くなんて無いよ! 魔法も剣も使えなかったんだから、仕方無いじゃないか。それに守ってくれる相棒がいるんだろ? そんな信頼関係を築けるなんて、お前は大した奴だよ。ねっ?」
「うおおーん! ソフィアちゃ――ん!!」
感極まってか、抱きついて来ちゃったよ。だいぶ私に慣れてきたな。うむ、それは結構。
だが、セクハラは許さないのだ。
「ていっ!」
「ぐぱあっ!!」
脳天チョップを喰らわせてやった。のけ反って悶絶してるよ。
しかし……コイツの悲惨な生活を何とかしてやらんとな。これは、私の義務だろう。
ああ、そうだ、いい事思いついた!
「どうせ暇だし、お前と、その相棒とやらに剣を買ってやろう。そうすれば、今後冒険しやすくなるだろ? なに、私からのボーナスだと思ってくれればいいさ。」
「マ、マジっすか!? やった――!!これで稼げるようになるぜ!!」
「うんうん、良かったな。では、相棒さんの所に案内してくれ。」
「あっ! それが……」
どうした、急に悩み始めたぞ? 喧嘩でもしたのだろうか?
「相棒なんですけど、ちょっと変わった奴でして。もしかすると驚かれるかも知れませんが、問題は無いので仲良くしてやって下さい」
「何を驚くんだね?」
「それが、ちょっと…俺も最初は信じられなかったんですが……まあ、会ってから説明したほうが早いので、行きましょう!」
何の事やらサッパリわからんが、とにかく、私の部下を助けてくれていたんだ。1度会って礼はしたいな。
そうして私達は相棒さんの所へ向かう事にした。野間が言うには宿屋に居るらしい。そういえば、私自身も宿屋を探さないといけないんだっけ。良さそうな所なら、私も泊まる事にするか。
野間に案内されてやって来たのは大聖堂の反対側、建物同士が並んでいる間にある、細い路地だった。
日が差し込まない暗い通りを抜けた先に、学校のグラウンド程の広場がポッカリと現れた。雑草があちこちに生えていて、整備がされていないのが分かる。
その奥に目的の宿屋が有ったのだが、その汚らしいこと……
伸び放題の蔦がレンガ造りの建物に絡んでいて、そのレンガも割れたり、ヒビが入っている。
窓はツギハギだらけ。屋根には木で打ち付けをしている所もあるよ。雨漏りするんじゃないか?
「お前は幽霊屋敷に泊まっているのかね?」
「俺の経済状況じゃ、こういう所しか無理なんですよ。だけど、実際に幽霊が出たって噂が流れているそうです」
「…………」
野間は、相棒を呼んでくると言って、普通の家の玄関の様な入り口から建物に入り、すぐに1人で戻ってきた。
「マズイっス。ここは前払い制だったの忘れてました。宿屋の主人が言うには、俺を探しに出かけたそうです。あいつ、怒ってるだろうな」
「なら、その内戻ってくるだろう。それまで待ってればいいさ」
そこら辺に生えてある雑草を引っこ抜いて暇を潰していると、野間を呼ぶ声が聞こえた。
「野間! お前、どこに行っていたんだ?探し回ったぞ!」
声の主は随分と大柄の女性だった。170cmは超えているだろう。上は大きく胸元が開き、下は深くスリットの入ったドレスの様な黒服を着ている。豊満な胸と見事な足が太もも部分から見えており、なんとも色っぽい。
黒のロングへヤーを無造作にかき上げながら、ズカズカと大股で野間の元に近づいていく。
「まったく世話のかかる。それで金は貰ったんだろうな?」
切れ長の黒の瞳で野間を睨みつけている。これは怖いな……
「ああ、もちろんだぜ。それと、お前に会ってもらいたい人がいるんだ、ふふっ、驚くぜ?」
そう言いながら野間は、グラウンドの端っこで草むしりをしている私を指差した。
「ソフィアちゃ――ん! 相棒が来ました、紹介しますね!」
”おいでおいで”している野間の元に私は向かった。向かいながら、相棒さんが異常に険しい目つきで私を睨んでいるのに気がつく。これは、もしかして……
私を、野間の新しい彼女とでも思っているんじゃないのか?
「ソフィアちゃん、こいつが俺の相棒の”ナイファイ”です」
ナイファイと紹介された女性は、目の前に来た私を”カッ”と目を見開いて凝視している。これはアレか?女の修羅場が始まるのか?
「それで、こちらがお前に是非合わせたい人物で」
「ちょっと待て!!」
野間の言葉を遮り、ナイファイが私の顎をクイッと人差し指で上げながら言う。
「ソフィアとやら、なんという美貌と気品よ。しかもお前から”あの偉大なる御方”と同じ気を感じる。一体お前は何者なんだ!」
あの偉大なる御方って誰なのさ?勇者とか魔王かな?それより、顔が近すぎて困るんですけど。
「ふふふっ、やっぱ、お前は分かるんだな――多分そうだろうと思ったよ」
「「どういう事だ?」」
ナイファイと私の声が重なる。
「ナイファイよ、聞いて驚け。俺は実際死にかけたぜ。なんとこの美少女、ソフィアちゃんは、転生した白鳥司令官なのだっ!! わ――っはっはっはっ!! 驚いただろう! あれ!?」
ナイファイがぽろぽろと大粒の涙を流している。今にも声を出して泣き出しそうだ。
「きっと会えると信じていました。このバカと一緒に過ごす絶望の日々、それだけを信じて私は生きて来たのです……」
「バカで悪かったな! ええ、ええ、どうせ俺はバカで弱くて貧乏ですよ!!」
なんのこっちゃ!? 野間がバカという事は分かったが、この女性は私をなぜ知っている? 部下にこんな人が居なかったのは間違いないし……
「お、おい、野間よ! 早く説明せんか!」
「司令官殿―――!!」
「うわっ!?」
ナイファイが抱きついてきたよ! どうすりゃいいのコレ!?
「野間! この女性は一体全体、私とどういう関係があるんだ!?」
私はナイファイに抱きつかれたまま、その豊満な胸の間から野間に向かって叫んだ。
「ナイファイはですねぇ―つまりぃ――まあ―そのぉ――」
「はよ言え! お前は長嶋○雄か!」
「「何をやっているのですか!?」」
えっ!? この声は雫とレイチェル!?
「そこの女、ソフィアさんから離れなさい!」
「わたくしのソフィアさんに何て羨ましいことを、許せませんわ!」
こんな時にまたややこしい人達が来ちゃったよ! それに、2人の顔の恐ろしいこと……
「司令官殿、少し離れていて下さいね。」
ナイファイが私から離れて二人に向かっていく。
「どうやらやる気の様ですね。」
「ふん、返り討ちにしてやりますわ!」
雫とレイチェルの2人はすでに武器を出している。それに対してナイファイは何も持っていない。
確か貧乏生活で剣も買えなかったはずだ。魔法でも使うのだろうか?
「ふふっ、綺麗なお嬢さん達、私の司令官殿の知り合いみたいだから、殺さないでやろう。だけど私達の再会を邪魔したんだからお仕置き決定だ」
「そっちこそ、ソフィアさんに抱きついたりなんかして、お仕置きです!」
「そうですわ!月に代わって」
「レイチェル、そこから先は言ってはイカン! 怒られるぞ!」
私の叫びにとりあえず黙ってくれたみたいだ。あ、危ない奴……
「おい、彼女、大丈夫か!?」
私は心配になって野間に聞いた。
「なに、心配はありませんよ。なにせ彼女は」
「いきます! “ハリセンボンバー・両顔打波”!!」
「喰らいなさい! “丸ハダカ・はずかし笑劇剣”!!」
話の途中で雫とレイチェルの攻撃が始まった。なんか2人とも技が下品になっていないか?
しかし、それなりに強力な衝撃波がナイファイに向かっていく。
迎え撃つナイファイは、腕を伸ばして、なにやらピストルを撃つ様な格好をしている。
「SSMー2Bミサイル発射準備」
ナイファイが短く聞き慣れた言葉を言った。すると、同時にこれまた見慣れた物が彼女の頭上後方に現れる。
大きさは随分と小さいようだが、これはまさしく……
「これは、護衛艦しらすの……」
「そうです。ミサイル発射筒です。」
「発射!!」
ナイファイの言葉と同時に、小型ミサイルが発射された。ミサイルは雫とレイチェルが放った衝撃波に瞬時に到達し、爆破、迎撃を完了する。それを見届けた野間がポツリと言った。
「彼女は95式艦対艦誘導弾の生まれ変わりなんですよ」
「ああ、やっぱり……」
雫とレイチェルを見ると、2人は口を大きく開けて驚いている様だった。恐らく、こんな光景など今まで見た事が無かっただろう。さて、これ以上の戦闘は止めさせないとな。
「ナイファイ君、もう、それ位にしてやってくれないかね?彼女達は私を心配して探しに来てくれた、とってもいい子なんだよ。何より今私は、彼女達の護衛の任務についているんだ」
私は雫とレイチェル、ナイファイとの間に移動し、なるべく穏やかにお願いした。
「了解です、司令官殿。それよりも、司令官殿、私の事は”ナイファイ”と呼び捨てにして下さい。部下の示しがつきません」
「「ぶか――っ!!??」」
私の後ろの雫とレイチェルが驚いた声を出した。
「ソフィアさん、この方とはどういうご関係ですか?」
雫が私にピッタリくっ付いてきて質問してきた。なんか、取って食われそうな迫力があるな。
「あ―――お嬢さん達、それは俺から説明しよう」
「誰ですか、この人?」
野間の登場に、レイチェルが”ぶっ殺すぞ”てな視線で睨みつける。
「うっ…お、俺とそこのナイファイは、ソフィアちゃんの部下なんだよ。こっちの世界でやっと……え?」
「「ソフィアちゃん―――!!??」」
「新・女神侮辱断罪刃!!」
「下衆下郎・絶対地獄剣!!」
間髪居れずに2人は野間に攻撃した。
「ぎゃあ――――――――っ!!!」
野間よ、安らかに眠れ…………