みんなで出発
「ア、ア、アンタ達、知り合いだったの?」
全体的にカクカクしているキャミィが、我に返って聞いてきた。
「知り合いというか、何というか……」
ソフィアは返答に困った。ふう太が代わりに返答する。
「キャミィ、私は司令官殿の部下だったのだ。司令官殿を守り、国を守る盾となり、様々な任務に就いていたのだ」
「ほえ――っつ!? なにそれ!? そんな偶然、ってゆーか、ソフィアは一週間前にこっちの世界に来たばっかよ? そんなのありえるの――っ!?」
キャミィがのけぞって絶叫しているのを尻目に、ソフィアが尋ねる。
「まあ、時間軸がずれていたという事は十分に在り得るので問題は無い。だが、私の船は磁場の影響を受けない様に十分にタンカーから離れていたはずだ。君は何があったか覚えているかね?」
「いえ、残念ながら。ただ、護衛艦の方にも磁力が流れているのは感じました。私が自我をはっきり認識したのはその時です。全てを思い出し、歓喜に震えたものです。しかし、次の瞬間この世界に来ていました、この姿で」
厳しい顔で考え込むソフィア。無生物に自我が生まれるという荒唐無稽な現象については、考えても仕方が無い、と早々に考慮をうち切っている。それよりも、今回の事故の範囲は非常に大きなものではないかと、不安に駆られていた。
「どれ程の被害が出ているのか……それはそうと、君はこれまでの任務の事を覚えているのかね?」
「もちろんです、司令官殿。私は任務の中で、司令官殿を乗せて海を飛ぶのが一番好きでした。そして、叶うなら私一人の力で貴方を乗せて大海原を飛びたかったのです」
遠い目をしてふう太が答えた。
「きっと神が願いを叶えてくれたのでしょう。以前は自分一人では飛べなかったが、今はこうして一人で飛ぶことが出来る。ぜひとも、再び私を使役して下さい。貴方の空の足となり、望まれるままに敵を撃ち滅ぼす魔獣として、きっと役に立ってみせます!」
ふう太の熱い思いを横で聞いていたゴン太は、”うん、うん”と頷きながら出ていない涙をふこうとしている。
キャミィは、両手で自分の頬を”ぶにゅっ”と押しつぶしたまま固まっていたが、我に返ってわめき出した。
「ちよ、ちょっとソフィアってば! もう、これ、一体どうすんのよさ!?」
「どうするって言われても……ちなみに、ワイーバーンを連れて歩くのはこの世界じゃ一般的な事なのだろうか?」
「んな訳ないじゃない! わたしだってふう太と会う時は、森の中とか人のいない所でしてたのよ!」
じゃあどうするか。部下を探すのに支障が出るのは困るな、とソフィアが悩んでいると、
「私を召喚獣として契約してくれれば良いのです、司令官殿」
ふう太が提言した。
「あっ、そっか! その手があったわね」
ふう太の発言に、思い出したように手をポンと叩いてキャミィが言う。
「う―む。確か、以前に君はそんな事を言っていたね。具体的にはどういうものなの?」
「いつでも呼べるように”契約”する事よ。召喚魔法を唱えて、どこかに居る魔物とか悪魔を術者の前に転移させちゃうの。まあ、説明するより実際に見せたほうが早いわね」
言うが早いか、キャミィは呪文を唱えだす。
「闇を司り総べる者よ、暗黒のもとより我が前に姿を現せ」
詠唱を始めると、キャミィの前に直径1m程の魔方陣が現れた。
「いでよ! ボーン・シェフの『ごん太』!!」
すると、ふう太の横に居たゴン太が”フッ”と消え、魔方陣から現れた。照れくさそうに頭を掻いている。
「これがこの世界の転移か……」
わずか5m程の転移だったが、ソフィアの目には驚愕に値する物として映っていた。
「くふ。まあ、ゴン太くらい軽いもんよ。一応ゴン太にも召喚獣の契約してたの」
「へぇ――、そうなんだ。それにしても、キャミィは何でも出来るんだね。凄いよ! さすが天才大魔導士だ」
感動でキラキラ目のソフィアに褒められ、”ぶるるん”と震えて顔を真っ赤にするキャミィ。焼死しそうだったが、今回もレジストした。
「キャミィ、契約を進めてくれないか?」
しびれを切らしてふう太が言う。
「んにゃっ!? あぁ、そっか。わ、わかった。ソ、ソフィア、ふう太の前に来て手をかざしてみて」
言われた通り、ソフィアはふう太の前で手をかざす。ふう太も、巨大な頭をソフィアの手の位置まで下げてきた。
「今回の契約はふう太が望んでるから、特に難しいものじゃないわ。一応形だけね。じゃあ始めるわよ? 私が呪文を教えるから、ソフィアは後に続いて唱えてね。」
ソフィアは真剣な眼差しで首を縦に振った。
「”汝、この儀式において、我と汝の盟約を結ばん”。はいっ!」
続けてソフィアも呪文を唱える。かざしている手が薄く光った。
「あとは、アグリーメントって言ってみて。」
「よ、よし! 契約締結!」
その瞬間ソフィアの手の平から白い玉が現れ、ふう太の頭に吸い込まれた。するとふう太の全身が淡く発光し、すぐに元に戻った。
「うん、成功の様ね。とりあえず契約はこれで良し、と。後は呼び出す時だけど、適当に念じて”ふう太”って言っとけば大丈夫だと思うわ」
ホンマかいな? とソフィアは思ったが、キャミィが言うなら、そうなんだろうと納得することにした。
「さ――これでやっと出発できるわね。さっさと行きましょ」
二人がふう太に乗ろうとした時、ゴン太がソフィアの肩をツンツン叩く。
「ん? なんだねゴン太」
なにやらジェスチャーをして訴えようとしている。
「キャミィ、分かるかい?」
「どれ。なになに? ボク・も・一緒に・つれてけ?」
分かってもらえて嬉しいのか、激しく首を縦に振っている。首を振るたびに、カックンと不気味な音が鳴っていた。
「一緒に行ってどうすんのよ! アンタが街中歩いてたら、即効でやっつけられるわよ?」
またもや必死にジェスチャーをするゴン太。
「なになに、ソフィアの・小物入れに・入る? ええ~~っ?」
正解! とばかりに、ゴン太は両手で丸を作った。
「ソフィア、どうする?」
「私は別に構わないが、あんな所に入っていたら死んでしまうんじゃないかな?」
「それは大丈夫よ、すでに死んでるから。それに、なぜだかソフィアの『小物入れ』は、時間停止の効果もあるみたいだから、腐らないしね」
それならいいかと『小物入れ』を出してあげるソフィア。ゴン太はそそくさと中に入り、”バイバイ”してる。
「んじゃもっぺん気を取り直して出発よ!」
キャミィが言うなり、ふう太は地面にピッタリと伏せてくれた。二人はふう太の足から背中に登り、突起物を掴んで体を固定する。
「飛び立つ前に結界張っとくね。えいっ!」
キャミィが言ったとたん、周りに乳白色の壁が一瞬現れ、すぐに透明になった。
「これで風圧は防げるし、他の人から見えなくなるの。ふう太、もういいよ――!」
キャミィの合図と共にふう太がゆっくりと体を起こし、翼を羽ばたかせた。
徐々に地面からその巨体が離れていく。
だんだんスピードが増して来て、あっという間に島が小さくなってしまった。
「15分もすればミスカトニックの外れにある森に着くわ」
のん気にキャミィが言ったが、今や高度300mの所を時速100km以上の速さで飛んでおり、進行方向にはすでに大陸が見えている。
もはや見えなくなった小島をソフィアは思い出していた。初めてあの島に来た時の事を。いや、あの島に自分が転生したことを。
「きっとまた来ようと思う。あそこが私の故郷なのだから…………」




