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プロローグ1

 

 2016年某海域での事。


 本来ならば、今頃ハワイ周辺海域で行われている合同演習にて、我が国の旗艦の艦橋で指令を出しているはずだった。だが、実際に今いる場所は全く別の所であり、自艦の艦橋の椅子に深く腰掛けながら眼前に広がる大海原を不安な気持ちで見つめている。

 

 私にとっても初めての経験なのだが、今から行われる事は非公開にて非公式、完全に秘密裏に徹頭徹尾遂行されなければならないのだ。

 加えて、わが国の友好国であるA国との共同作業ではあるが、あちらも同じ状況であり、この特殊任務はお互いの身内にさえも漏れてはいけないトップシークレットという異常事態なのである。


 この合同演習、いや、合同実験に参加している人間は必要最小限に絞っている。

 A国からは巡洋艦1隻のみ、わが国からは護衛艦しらす1隻と大型タンカー1隻だけだ。なぜタンカーが巡洋艦や護衛艦にまじってこの場所に居るかだが、別にこのタンカーの航海を護衛するのでは無い事は誰でも分かるだろう。それならば秘密裏に行う必要など無いからだ。


 そう、このタンカーこそが今回の合同実験の主役であり、そもそも実験自体がこの改造タンカーで行われるのだ。

 


「司令官、白鳥司令官、どうかなされましたか?」

 

 唐突に背後から声をかけられ、眼前に展開する船達から意識が戻る。


「ああ、美月君か。いや、別になんでもないよ」

 

 いつの間にか傍に立っていた女性を横目で捉え、ゆっくりと立ち上がった。


「そうですか? もうすぐあちらに行く時間です」

「もうそんな時間か。分かった準備をしよう」


 こんな時でも余分な事は一切言わず、事務的に淡々と喋る彼女は美月梓。

 

 たしか年は20後半だったか。背は高く170cmを超えておりスタイルは抜群だ。非常に美人でもあり、幕僚長からは「私の秘書と変えろ!」と常々言われている。母校を主席で卒業し、防衛大臣の孫ということも有るのだろうか、あっという間に佐官にまで登りつめた。異例のスーパーエリートであり、私の自慢の副官だ。


「あちらでは予定通り、道田1佐とアーゼル大佐のもと準備が進められています。最終点検はすでに終了していますので後は本番だけですね」

「うむ、問題はなさそうだな。なにせ実験過程での失敗は許されんのだ。と言っても何をどうしているかなどさっぱり分からんが」


「はあ、まあ私もですけど……。確か空間内にエネルギーを充填して磁場を作って、その磁力をタンカーに流し込んでテレポートをする、というものでしたっけ」

「ああ、大体そうなのだろうな。だが上の連中のことだ、正確な情報など我々には知らせていないだろうね」


「そうかも知れませんねえ。しかし本当にうまくいくんでしょうか? 今回の実験ではまず、最初の目標移動距離は10mだそうですけど」

「うむ、結果がどうなるかは私には分からん。だが、我々としては実験が科学者の提案どおり確実に行われる様にすればいいだけだ。そうすれば失敗したとしても、責任を負うのは科学者達とそれを実行に移すと決めた上の連中だけ、と言う事になる」


「……そうなればよいんですけど。フィラデルフィア実験の事もありますし、心配です」


 普段は気弱な顔を一切見せない彼女が、憂いを帯びた顔で見上げてくる。そこらの女優より遥かに美人な部下に見つめられて少したじろいでしまった。照れ隠しに思わず話題を変えた。


「ああそうそう、君の友達の安藤朱里君だっけ? 彼女も今回の事件、じゃない、実験に参加しているはずだが彼女の調子はどうかね? 緊張していなければよいが」

「全く大丈夫です、キリッ!」


「え、そうなの? い、いやこれだけの状況で物怖じしないとはそれは頼もしいものだ、ハッハッ」

「そうではなく、あちらの男性海兵隊の皆さんを目にしてハッスルしまくってます。割れたあご、逞しい胸、小さいお尻に大きなピー。ここは桃源郷か――! なんて騒ぎまくってますよ」


「……自重するように言っておいてくれ」


そんな他愛もない会話をしながら、小型ボートに乗り込むためにタラップを降りていく。

ボートに乗り込みながらも、美月君が言っていたフィラデルフィア実験の事を再び考えた。


 私も今回の実験に先立って、科学者達から一通りは説明を聞いていた。

 統一場理論によるインビジブル化計画、という内容のはずが、実際にはテスラ・コイルを用いて実験対象のエルドリッジ号を瞬間移動させようとしたらしい。


 結果、エルドリッジ号はフィラデルフィア港からノーフォーク軍港まで瞬間移動した。

 しかし、一見成功の様に見えて、実際には人的被害が甚大だったらしい。


 乗組員達が炎に包まれて灰になった、心拍停止や神経麻痺を起こした、などだ。

 極めつけは人と物質の融合だ。なんと甲板や壁のあちこちに人間の体が埋まり、しかもまだ生きていたという。

 そんな光景をみた乗組員達はさぞかし驚いただろう。実際には驚いたどころではなく、半狂乱になり後々までも精神疾患が残ったそうだが。

 

 320キロもの距離を瞬間移動したこの実験は、当然に国家としての最高軍事機密に指定され、以降完全に闇に葬られたかの様に思われていた。

 

 しかし、実際には秘密裏に研究は続けられて、しかもわが国も参加していた、いや、させられていたというから驚いたものである。科学者達が言うには、当時よりも遥かに理論体系は完成され、エネルギー発生技術や集約技術も高精度になっているからまず大丈夫、という事だが不安にならない訳が無い。


 まあ、今回は連中自身が実験対象のタンカーに乗り込んでいるのだ。

 そこから推察するに、相当の自信を持っているとは考えられるが。

 

 そんな、まだ平和だった頃を回想をしている間に、私と美月君を乗せた小型ボートは目標のタンカーにむけて出発した。


 これが私達の運命の分かれ目になる事とは知らずに……


 

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