それぞれの無いモノ強請り
俺はルナ達に連れられて、自然が深い、まさに大自然!という場所へ修行の為やって、1週間経とうとしていた。
そんな俺であったが、色んな意味で崖っぷちに追い込まれていたのである。現に今も、まさに崖っぷちに追い込まれ、俺とルナの立ち位置は、俺が犯人役でルナが船○英○郎が、「どうして、そんなことを!?」って具合な構図がそこにあった。
「徹、どうしたの? 必死に走るのはいいんだけど、どうして、クラウドに戻る方向に迷いもなく走っているの?」
修行はこれからなのっと言うルナに震える指を叱咤して突き付ける。
「何が修業だっ! お前には丸太に縛られて大滝から落とされるわ、美紅には全力の攻撃を入れられて大変な目にあわされてるだけだろうが!」
7日間あったが初日にルナに大滝に落とされて重体になった俺は2人の回復魔法を受けたのにも拘らず、3日寝込む事になった。
5日目に美紅に受け止める訓練と言われ、一発で吹っ飛ばされた俺は、丸1日寝込んだ。
そして、7日目の朝、目を覚ました俺は、美紅が朝食を作る為に離れた瞬間を狙って、飛び出したのである希望の光を求めて……
「つまり、徹は辛くて逃げ出したという事なの?」
「事実だからってなんでも直球で言っていいものじゃねーぞ!」
半泣きな俺を見て、うんうん、分かってるの!と呟くルナに恐怖が増大する。
俺の背後をチラ……と見て、更に頷きながら言ってくる。
「前回、滝は下が水だから安全と思ってしまう気持ちが徹の心の余裕が、体の、何より、歪んだ心に響かなかったっと後悔してたの」
どこで俺がそんな安心設計で心配してませんみたいな空気を生んだのだろうかと、突っ込みたかったが、とりあえず、ここから逃げる為に辺りに視線を走らせる。だが、油断しているように見せかけて、ルナは一切油断していなかったので逃げ道がなかった。
「そこでこの神の書で書かれている事を読んで、次はこうしよう!と思ってたら徹は私の心を汲んで、ここに連れて来てくれて、私、嬉しいの」
そのルナの言葉を聞いた俺は、漸く気付く。
俺はここまで逃げれたのではなく、ここに追い詰められたのだと。
驚愕する俺をニッコリ、と笑って見つめるルナが再び口を開く。
「この神の書には、こう書かれてるの。高い所や、熱い湯の上にいるものが、「押すなよ!押すなよ!」という言葉や空気を匂わせたら、迷わず、押せっという事らしいの」
すこぶる嫌な予感がした俺がルナが持つ本のタイトルを読もう……と覗き込むような体勢で見ると硬直する。
まさか、アローラにもいるのか?
俺は生唾を飲み込み、ルナに問う。
「る、ルナ。それが神の書ってのは嘘ってのは分かってる……誰から渡された?」
「むぅ、気付かれたの。これはザックさんが徹が思うように体を動かせるようにするにはっと相談したら、これを使ってみろって」
何やらかしてくれるんだ、あのオッサンはぁぁ!今度会ったらブン殴ってやる!!……勿論、俺の想像の中だけだけどね……
「徹の歪んだ心の為に、私はやるの!」
歪んだ心?修行じゃないのかっと一瞬、頭に過るがそれどころではなかった。
にじり寄るようにやってくるルナに後ずさると本当の崖っぷちに行く。
もう下がれないっという所まで行くと、思わず、俺は言ってしまう。
押すなよ、と……
ルナの瞳がギラリっと光り獲物を見つめた猛獣のような笑みを浮かべる。
「徹、頑張ってきてなの!」
ルナに突き飛ばされ、崖の向こう側、空中に放り出された俺は、もう一度、ルナの持つ本のタイトルを見る。
『これで貴方も望むアクションが取り放題!~リアクション芸人入門編~』
ルナー、サブタイトルもしっかり読んだかぁ!!っと言う捨て台詞を残して、俺は落ちて行った。
かなりの高さから落ちる中、俺は何故、あんな本の為に空の旅をさせられているのかと吹き付ける風で乾きを覚える瞳から滂沱の涙が溢れる。
怖いのではない、辛いのではない……そう、ただ悲しいだけなのである。
なんて、馬鹿な事を考えているうちに冷静さを取り戻した俺は、落ち行く先を見て、魔神の欠片の飛ばされた時よりと比べたら、慌てるに値しないな?と笑みを浮かべる。
あの時と同じように水平に走るように落下する力を横に逃がすように、風の生活魔法で足場を作ると駆け抜ける。
余裕かと思っていたところに事件が発生する。
なんと目の前に巨木が現れ、進路を塞ぐように生えているではないか。俺は急ぎ、方向転換しようとするが、既に横への勢いが付き過ぎていた為、方向転換ができない状態であった。
そして、俺は吸い込まれるようにして巨木に激突した。
「私は、ナマケモノになりたい……」
涙目になりながら、俺は木を滑り落ちるようにして、尻から地面に落ちると仰向けに引っ繰り返る。
しかし、ルナは何がやりたかったのだろう?と鼻を摩りながら立ち上がると、赤い衣服に鋼色が輝くハーフプレートと盾を持つ少女が俺を見ながらニッコリ、と笑う。
「駄目じゃないですか、トオル君。まだ治療中ですよ?」
「ここをどうやって突き止めたは、さておくとして、ルナもそうなのだが、歪んだ心とか、治療中だとか何の事だ? 修行じゃないのか?」
じりじり……と後ろに下がりながら、俺は美紅に問う。ちなみに、さておいたのは聞いたら聞かなかったら良かったと思うと俺のカンがヒシヒシ、と訴えてた為である。
美紅は残念そうに頬に手を当てると溜息を吐きながら言ってくる。
「トオル君のロリコンを直す為です」
「あれってあの場の冗談じゃなくて、本気で信じてたのかよ!!」
勿論です!と頷きながら、俺が逃げにくくする立ち位置を選びながら、ゆっくりと近づく美紅はニッコリっと微笑む。
ルナも美紅もあのニッコリは作り笑いなのかっ!と驚愕していると、美紅が俺に指を突き付けて言ってくる。
「健全な精神は肉体から、です。さあ、戻りましょう、きっと治りますからね?」
優しげな笑顔を見せる美紅に俺は吠える。
「聞いてくれ! 俺はシーナさんのような豊かな胸じゃないと駄目なんだ……だから、ロリコンなんて有り得ないって分かるだろ?」
そう力説する俺の言葉を聞いた美紅は表情が抜け落ち、口だけで、ウフフ……と笑うと俺を見つめているようで見つめてない目をして言ってくる。
「やはり、心の病に罹っていますね……トオル君?健全な精神は肉体から!! ですよ!!!」
何がキ―になったか分からないが、怒りゲージがマックスになった美紅が吼えるを見た瞬間、脱兎の如く逃亡を計りながら、俺も叫び返す。
「さっきと同じ言葉なのにニュアンスが違い過ぎる! それに俺は病気じゃねぇ!!」
少しでも美紅から離れなければという俺の生存本能の訴えに素直に従い、何も考えずに逃げ出す。
そこからの記憶は曖昧でよく覚えていない。
はっきりと覚えているのは、最後はルナと美紅に片足づつ掴まれて引きずられて来た道を戻りながら、涙する俺が居た事のみである。
「そこから、どんな事をしたのですか?」
そう、俺に問うティティに俺は首を横に振りながら答える。
「そこから2週間、地獄を見たと伝えるだけで勘弁してくれ。正直思い出したくないんだ……」
脂汗を流す俺を見つめるテリアは、アンタも大変ねっと苦笑いする。
ルナも美紅も明後日の方向を見て、こちらの会話に絡もうとしない。
その様子を見ていた、黒蜜ショウガを食べるのが辛くなってきてるらしい和也がかき氷の器を俺の所に置きながら言ってくる。
俺は、その器を押し返すように均衡を計る。
「そう考えたら、俺の修業は良かっただろう?」
「ってか、今のと比べてマシとか言う時点でどうよっと思うのは俺だけか?」
なんだとっ?と言ってくる和也と額を突き合わせて睨みあう俺達にミラさんは苦笑して言ってくる。
「和也とトールさんの修行も直視に耐えれない類のものだったと思うのですが……特に毎回始まって30分ぐらいは、明らかに、無駄でしたよね? 女の子の身体的特徴や、好みの話でぶつかり合って斬り合ってただけですし?」
「ミ、ミラ? 何の話というか、見てたのか?」
和也の狼狽が酷い。
真理亜が和也に詰め寄ると髪を掻き上げ、女王のような余裕を漂わせて質問する。
「和也? どんな楽しいお話をしてたのかしら?」
「イタタっ、至って真面目に修行してたぞ? 本当だからな。ミラ、余計な事は言わないでくれ」
真理亜に抓られ、懇願するような視線でミラさんを見つめると、ミラさんは笑顔で頷く。
「和也にそう言われたら、この場は和也の要望を通しましょう」
そう言われて、和也は、ホッとして視線を落とした時を狙ったように、ミラさんの目が人がイタズラする時に見せる目になったのを俺は見逃さなかった。
不満そうにミラさんを見つめる真理亜に、ミラさんは笑顔で話しかける。
「ねぇ、真理亜? 明日から夏休みだから、今日、私の部屋へお泊りにきませんか?」
真理亜はミラさんの意図に気付いたようで笑顔で、いいわね!と応じる。
それを見ていた和也が口をパクパクさせて、水から上げられた金魚のようになっていた。
「お姉ちゃん、私も行きたいの!」
「是非、私も参加させてください」
ルナと美紅が参加表明を元気良くする。
おいおい、ルナさんや美紅さんや?さっきまで少なからず、罪悪感を感じて反省してたんじゃないのかい?なのに、もうそのテンションですか?と俺はジト目をするがまったく効果がない。
なら、私もっとティティっとテリアが混じるのを脱力して見つめている俺に和也が呆れるように言ってくる。
「あの4人は、俺とやり合ってた時に、お前が何を言ってたかを聞く気だぞ?」
激しく狼狽した俺は、慌てて止めよう、とするが、和也に肩を掴まれる。
「もう手遅れだ。お前にも分かるだろ? それに俺としても道連れは多いほうがいい……」
クッと唸るが、否定する言葉は存在しなかった。
俺と和也は、隣でキャッキャ、と楽しそうに笑う女性陣に目を向けるのが辛いっとばかりに店の外を眺めていた。
すると、髪がボサボサの子供が栗色の髪をした小柄な少女に耳を引っ張られながら歩く姿が目に入る。
「明日から夏休みってことで家でパーティみたいな事をするって言うんだから、おとなしく着いてきなさい」
「いらねぇって言ってるだろうがぁ。いてぇーから引っ張るなよぉ」
轟とシンシヤのコンビであった。
「そんな事言わないの! 私も頑張ってコロッケ作ったんだからね?」
「……しゃーねぇーな。ちょっと覗くだけだぞ?」
少し照れたように視線を彷徨わせた時、俺と和也にジッと見つめられていた事に気付いた轟が顔を真っ赤にして叫ぶ。
「何見てんだぁ! ゴラァ? シメるぞ?」
「ロキ、汚い言葉を使わないの! 行くわよ」
まだ何やら罵っているようだが、シンシヤに耳を掴まれたまま抵抗もせずに引っ張って行かれた。
それをテーブルに肘を着いて両拳を口許を隠すようにして見つめていた和也が呟く。
「あの孤高の狼みたいな奴も牙を抜かれたら、只のワンワンか……」
「そうだな、でもよ、今、俺の胸に渦巻くドス黒い感情が叫んでいるんだ」
俺は胸を押さえて、そう言うと和也はなんて言ってるんだ?と聞いてくる。その言葉に頷いて語る。
「轟、死ねばいいのにって……」
俺が捻り出すような呟きを聞きとった和也は目を瞑り、重い、重く響く声で、ただ一言、
「ああ」
と呟いた和也の肩を俺は抱いて、頷いた。
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