どこにもない素晴らしい高校生活を
お待たせしました。これで本当の意味での高校デビューの初期版の完結という形になるかと思います。
しかし、もっと早く書くべきでしたね。長い期間、間を空けたせいでフワッとしてる気がする……
その辺も自己責任だからしょうがないんですけどね。
真っ暗な空間で所々、人工の光がポツリポツリと灯されているかのように光ってる場所があり、その前には誰かしらが座っている。
その真っ黒な空間に裂け目、いや、自動ドアが開き、外の明かりと共に山のような書類を一生懸命に運ぶ、イヌ科の耳をした少女がよたつきながら入ってくる。
そして、肩を露出させた着物の着方をする美女がいるディスクにその書類の山を置く。
「げぇ! もう次の持ってきたの? 前のヤツすら半分も終わってないわよっ! そのデータ、こっそりとミドリのとこに置いてきなさいよ、リル」
「えっ……でも、ミドリの所には別の人が今、運ぶ準備してるところだから……」
「余り聞きたくなかった情報もありますが、処理が追い付いてないのは貴方だけじゃないんですよ、ノルン」
疲れた顔をするオッドアイの瞳が疲れから若干赤くさせるミドリがノルンの目の前にコーヒーを置く。
ミドリに適当に礼を言うノルンはコーヒーに口にするが、眉を寄せる。
「もうコーヒーぐらいじゃ眠気は醒めないわね」
ノルンの言葉にミドリも同感とばかりに頷く。
部屋の中央で広い場所が空けられている場所を3人は見つめる。
「しかし、あの子は規格外よね。神としての資格を手にしてない状態なのに、あれだけの神気使い続けているのに一向に衰える気配を感じさせない」
「ええ、こちらは全体の神の半数を動員しているのに、あの1人の処理能力に追い付く事ができない。悔しいけど、やっぱり……」
ミドリが言い淀むと3人はその中央にいる青い髪をした少女、アローラの最後の女神ルナを見つめる。
大事そうに胸の所で2つの魂を抱いて、穏やかな笑みを浮かべながら、膨大なデータを自分の中に通して処理していく。
ルナがまるでスーパーコンピュータ―の役割をするかのように次々と処理されたデータがアカシックレコードに更新されていく。
勿論、ルナの神としてのスペックが実は高かったというのもあったのだろうが、それだけでは説明がつかない。
悔しそうに俯く3人の後ろから誰かが入ってくる。
「また、ルナさんに劣等感を感じてるのですか?」
振り返りもしない3人に声をかけているのは、幼い少女のような容姿に母なる母性の象徴を主張しまくりのヨルズであった。
「前にも言ったでしょ? ルナさんは徹から願いを受けました。それを叶える事だけに打ち込んでいます」
「それだったら私達も徹の為に……」
ヨルズの言葉に反射で言い返しかけたノルンであったが、もう幾度もした応答で、返事を聞くまでもなく答えに行き着いた為、口を噤む。
「そう、ルナさんは徹に願われ、その思いをエネルギーしてます。このエネルギーの前では多少の能力の優劣などないのと同じです」
神が全知全能と言われる。
ある側面から見れば嘘という訳ではない。神とは何でもできるが何もできない存在なのである。
神の原動力、それは想いの力、人が神に祈る想いが神のエネルギーとなる。神とはそのエネルギーを一度で使える上限がないのである。
だから、全知全能であれる、と同時に無能にも成り下がる。
「徹がルナさんに願ったモノ、あれは願いではありません。いつか叶える約束です。願いを昇華した先にあるとても素晴らしい輝きです」
そう言うヨルズは羨望の眼差しをルナに向ける。
その場にいる4人は心を一つにする。
終始笑顔をで膨大なデータに奮闘するルナを見て、願われた立場が自分だったら決して負けないと。
徹がルナに願いを言う時、彼女達は申し訳ないという気持ちを持ちながらも聞き耳を立てていた。
ルナが、徹にこう聞いた。
「女神にも叶えられる願いと叶えられない願いがあるの……お願い、徹の想いを聞かせて」
そう言われた徹は涙に濡れる顔で必死に笑いながら、
「また会おうな?」
言われた時のルナはどれだけ嬉しかったのだろう、と思うと同時にそれが自分に向けられた言葉じゃない事をこれほど悲しく思った事も4人はなかった。
もう何度となく思い、溜息を吐いたか分からない事だったので、それ以上は誰も口にしなかった。
気を取り直したヨルズが3人の顔を見ながら状況報告を求める。
「で、進捗状況は?」
「私のほうは、2億程の世界をチェックしましたが、魔神に滅ぼされて、トオルが生まれた世界と類似する世界は未だになし」
ミドリの報告を受けたヨルズが隣で小瓶にストローを挿してチュウチュウと吸ってるノルンに目を向ける。
「10億はチェック済み。でも、駄目ね、徹が生きた時代より200年前ぐらいの生活基準で止まってるとこならあったけどね」
肩を竦めるノルンが「江戸時代よ、江戸!」というのを驚く3人。
特にミドリとリルの驚きが大きかった。
震える手を上げるミドリがノルンに問う。
「貴方、いつの間にそんなに?」
「何言ってるの? 徹の為ならこれぐらい屁でもないわ」
何でもないとばかりに言われたミドリとリルは顔を見合わせるとその場を離れて自分の持ち場に戻る。
そんな2人を苦笑して見送ったノルンとヨルズは向き合う。
「徹ももうちょっと融通利かせて、アタシ達に願ってくれたらもっと楽だったのにね?」
「それには同意ですが、それだけ、徹の願いが純粋なモノだった。しょうがありません」
ヨルズに諭されたノルンは、「言われなくても知ってるわよ」と拗ねるように唇を尖らせる。
沈黙を挟んで、ノルンが手に持ってるコーヒーを飲み干す。
溜息を1つ吐くとヨルズを横目に見ながら、「話し合いはどうだった?」と聞く。
そう聞かれたヨルズは、どう答えたらいいやらといった顔をする。
「本当に不器用なあの子らしい決断でしたよ」
その時の事を思い出すようにルナを見つめた。
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「ご苦労様、ミランダ。貴方は私との約束を果たしました。約束通り、家族の下でも好きなところに送ってあげましょう」
「ありがとう、でも、その話の好きなところというのは選ばせてくれるという事よね?」
魂だけになってるミランダなので表情は分からないはずだが、ヨルズはきっと何かを企んだ悪戯をするような顔をしていると感じた。
勿論、許せる範囲で聞く用意があったヨルズだったので首肯する。
「なら、トールが行く世界に転生させて」
「どうしてそれを知ってるの?」
驚いたヨルズに得意気な顔をしてると疑いも感じさせないミランダの少し人を食ったような声音に少しイラっとさせられる。
「私も歴代勇者達と魂の繋がりがちょっとだけあったから」
もう切れてるとは言うが、どうやら徹が願った内容を知って、ヨルズ達ならきっと出しゃばって手伝うと判断していたらしい。
本当にその通りで歯軋りしたい衝動に襲われるがヨルズは表面上は出さずに、「なるほど」と頷いて見せる。
「勿論、駄目だと言う気はありません。ですが、長い時がかかると思われるので、眠りに着きなさい。時が来たら私が起こしてあげましょう」
そう言うヨルズが手を翳すと、ミランダの強い意思、拒絶の反応が返ってくる。
「待って、トールの願いが時間がかかるのよね? 好都合だわ」
強い意思を感じさせる声音のミランダに続きを促す。
「トールの願いの準備ができるまで、私に何かやらせて、例えば、今回のように誰かのフォロー、徹の補佐をしたような仕事でも構わないわ」
「どうしてですか? 貴方の罪は赦すと私が言っているのです。それに甘えてもどこからも苦情も出ません。勿論、徹の願いの世界へ行く事も」
ミランダの真意を知る為に、言葉を尽くそうとするが先読みしたミランダが苦笑いしているイメージを送ってくる。
「そうじゃないの、私が許せないから……そんなに簡単に赦される事をしてきてない」
ミランダの声の重さに深い溜息を零しながら、荒れてた頃のミランダを想う。
確かに赦された事ではなかった。でもそれはミランダの主神である自分にも責任があった。そこまで追い詰められるまで何も介入しなかったのであるから。
「そんなに自分を責めなくても良いでしょうに」
「うふふっ、それだけという事でもないわ。トールの前に出る時、少しでも綺麗な自分でありたいという足掻きよ」
それを聞いたヨルズは、物凄く分かるという気持ちと、いい年して……という思いに挟まれたので、そのまま伝える。
「いい年して、乙女ですか? 割り切ったら良いでしょうに」
「そのセリフはそのままお返しするわ、ヨルズ」
コメカミにバッテンを作るヨルズがミランダの魂にガンを飛ばす。
「良い度胸です。徹の願いが叶うのが100年後、1000年、もしくは10000年かかるか分かりません。途中で泣き事など聞きませんよ?」
「上等よ、貴方が老眼で苦しむまでは耐えてみせるわ」
神に老化はないと知っているが、徹の事で年の事を気にしていたヨルズには的面で泣かす事に成功する。
それに満足したらしいミランダに不貞腐れ気味のヨルズが早速とばかりに仕事を与える。
「では望み通り、お仕事を与えます。まずはトトランタという世界にある王都キュエレーに行って貰いましょう。徹の時のように積極的なフォローは求めませんが、必要なら力を尽くしてください。詳細はまたこちらから連絡します」
ミランダに手を翳すと光の粒子になって虚空に消える。
それを見送ったヨルズは、慈愛に満ちた笑みを浮かべた。
「頑張りなさい、ミランダ」
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「ばっかじゃない? 自己満足して何が楽しいのかしら?」
言葉は酷いモノであるが、ノルンの顔に浮かぶ表情はとても好意的なものであった。
こういう事には素直になれないノルンを愛しく想うヨルズはそれには触れない。
「そうね、そんな馬鹿な事をやってるあの子を早く解放する為にも徹の願いを叶えましょう」
ヨルズの言葉に鼻を鳴らしたノルンは自分のディスクに戻ると山と積まれた書類との格闘に戻った。
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あれから500年の年月が流れる。
ついに適合する世界と転生させる住人の魂が無事な場所を発見する。
「長かったわね」
「そうね、と同意したいけど、結局私達がしてたのは、ルナさんのダブルチェックだけで、全部、ルナさん1人の努力の結果ですけどね」
ノルンに茶々を入れるミドリであるが、その表情を見れば誰でも分かる。明らかに自嘲である。
「そう、自分達をそう卑下しない。見なさい、あの徹の嬉しそうな顔を。これが見れただけでも私は幸せです」
本当に嬉しそうにするヨルズが諭すが、すぐに表情を変える。
その表情は明らかにそう、悪の幹部といった悪だくみをしてるような顔であった。
「私達の本当の出番はここからです。これをする為に手伝いながら、それをする準備をしてきたのですから」
3人が笑うのを堪えるように頷くのを見たヨルズは続ける。
「私達は徹の楽しいはずだった高校生活を奪いました。これは許されて良い事ではありません!」
3人は、うんうん、と力強く頷く。
「そして、私は数学教師で学年主任をします」
ドヤ顔したヨルズが自信ありげに語る。
ヨルズに続いて、ノルンが手を上げて宣言する。
「はいはい、私がクラス担当の妖艶な英語教師!」
「じゃ、しょうがないですね、私は保険医をしましょう」
勢いづくノルンに続き、余りモノのこれで納得します、と澄ました顔をしているが、それを見ていたヨルズは絶対、予定通りとか思ってると半眼で見つめる。
その3人を見てうろたえるリルは右往左往する。
「じゃ、わ、私は……」
「アンタは非常勤の社会科教師ね」
あっさりとノルンに決められて恨めしそうに見つめるリル。
それを隣で見ていたミドリが口を開く。
「貴方、何十人を相手に纏めたりできる? 担当を持たなくていい非常勤のほうが向いてると思うわよ?」
そう言われると否定できないリルは涙目になりながら、渋々、仕方がないと頷く。
各自の持ち場が決まって次に話を進めようと思ったところを横から声をかけられる。
「すまん、我も一枚噛ませてくれ。体を動かす系の事はないか?」
赤い長髪のちょい悪系の美丈夫がひょっこりと顔を出す。
それに驚いた4人であったが、ヨルズが最初に落ち着きを取り戻す。
「貴方は確か、フレイドーラでしたか? どうやってここに?」
「これでも我は格の高いドラゴンなのでな。徹の魂に似たモノを感じ取って近寄ったら丁度、今の話が耳に入ったのでな」
それに呆れたノルンは適当な感じでフレイドーラにいう。
「じゃ、体育教師したら?」
「うむ、助かる」
纏まったとばかりに今度こそは、と気合いを入れるヨルズに再び、横槍が入る。
「あの~母さん? それだったら俺も行きたいんだが?」
同じようにひょっこり現れたのは、クラウドの冒険者、ツンデレさんであった。
「このバカ息子! アローラに分身体を降ろした事はまだ許した訳ではないですよ!」
力一杯、頭を叩くヨルズの姿はおかんであった。
弱った顔をするツンデレであったが、今は下がれないとばかりに目力を入れる。
「分かってる。でも、この500年、母さん達の仕事を代行してきたのは誰? 下界に降りる100年ぐらい代行するの誰かな? ねっ? 分身体でいいから、お願い!」
そう言われると弱い4人は顔を見合わせるとヨルズが咳払いをしてから話始める。
「しょうがありません。屋台を経営する役であれば許しましょう」
「なんで、屋台?」
「ちょっとは考えなさいよ。アタシ達みたいな美女が普通の飲み屋に行けばナンパを追い払うだけでも面倒よ? しかもアンタの母親なんて、背がちっさいから、飲みに行く度に年齢確認と職質確定よ?」
ぶふっ! と笑うノルンが涙目になりながら説明するとツンデレは納得したようで手を打ち鳴らす。
ヨルズはコメカミに血管を浮かべながら、満面の笑みでノルンの顔を掴むと電撃を浴びせる。
感電して「アバババッッ!」と叫ぶノルンを無視して、息子に話しかける。
「屋台でいいですね?」
「はい、喜んで……」
ツンデレにはそれ以外に選択肢を発見する事は出来なかった。
それに満足したヨルズは感電して気絶するノルンを放り投げると5歳の徹がティテレーネの歓迎会をしてるのを眺める。
そして、ヨルズが妖艶な笑みを浮かべて徹を手招きする。
もし、この仕草をベットの上でされたら男なら服を一発で脱ぎ捨てて、真っ裸になってベットに飛び込むであろう。
そんな危険な笑みを浮かべるヨルズは聞こえる事はないと分かってるのに話しかける。
「さあ、早く大きくなりなさい。私達がプロデュースした楽しい高校生活をプレゼントしましょう……待ってますよ、徹」
楽しげに笑う4人の女神を見つめるフレイドーラとツンデレは徹の未来に幸あれと同情9割で祈ったそうである。
どうでしょうか? 終章の裏話は納得がいく結果だったでしょうか?
納得いく結果だったら嬉しく思います。
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