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異世界デビューを成功した後で……放課後  作者: バイブルさん
入学式に失敗して、中学生、再デビュー
24/28

もう死んでもしたくない後悔

 この勢いがあるうちに少しでも進めますよ~

 トランウィザードが目の色を変えて追ってくるのを鼻で笑うようにして、轟は迷いも感じさせない走りで一直線に灯台があった対面に位置する崖下へと疾走していた。


 トランウィザードという存在は大きな口を叩く割に臆病で自分の本体を決して近くに置いたりしない。

 長い付き合いである轟には、そういう性格である事を熟知していた。


 まして、今回は初代勇者である和也と世界を救った少年である徹、そして、嫌というほどその力を間近で見てきた轟の3人を相手にする以上、トランウィザードの急所である本体の場所が離れられるギリギリで隠すに適した場所を選ぶはずと轟は踏んだ。


 その予想が正解と自分から伝えるようにトランウィザードは轟の目指す先を見つめて、焦りが滲む顔を隠さずに追いかけてきている。


 崖下に近づいてくると轟は鼻をスンスンと鳴らす。


「イヤぁ~な匂いが漂ってきたな」


 既に轟は匂いでトランウィザードの本体のある位置を捉えていた。


 それが毒の匂いによるものなのか、トランウィザード特有のモノかは分からないぐらい独特な匂いを発している。


 向かう先がはっきりした事で轟は更に加速する。


 今まででも着いてくるのがやっとだったトランウィザードは魔力弾を放ちながら、「待て、待たんかっ!」と叫びながら追いかけてくる。


 勿論、そんな事しながら言われて止まるヤツはいない、いや、以前の轟なら驕りから立ち止まって向かい討ってたであろう。

 だが、今の轟は油断はあっても驕る事はない。

 驕る事で大事なモノを失うのは1度で充分だと身を持って知っている為である。


 そう、シンシヤの1件は裏でトランウィザードが手を引いていた。


 その事はだいぶ早い段階で知ったが、もうその時はシンシヤはいず、最後の審判を受ける為にシンシヤが愛した世界が正しいのか間違ってるのかを魔神を手伝う事で結果を出す事しか注視していなかった。

 だから、敵討ちをしようという気がなかった。


 しかし、この世界にはシンシヤはいる、あの時のように驕る事で自分の掌から宝物シンシヤを零すつもりなど露ほどにもなく戒めている。


 だから、轟は感謝する。


 あの馬鹿にされた事に一矢報いるチャンスをくれた事を、それが魔神の加護であったとしても、これに関してであれば、もう一度ぐらい祈ってやってもいいと思っていた。



 後ろから魔力弾を銃弾爆撃のように打ってくるが、毒の力の出し惜しみをする弾は数はあれど速度も密度も薄く、轟に縫うように避けられ続ける。



 のらりくらり、と避け続ける轟は前方に先程から辿ってきたキツイ臭気がする場所に気付き、目を向けると空間の割れ目を発見する。


 更に加速する轟に目を剥きだして叫ぶ。


「それ以上、行くなっ! このクソ野郎がぁぁ!!」


 ついに毒の力の消費を考えない威力も速度もある特大の魔力弾をトランウィザードは放つ。


 その魔力弾に気付いた轟は、身を捻ってギリギリで転がるようにして避ける。


 すぐに起き上がると裂け目を背にトランウィザードを向き合う。


「やっと止まりましたか。まったく本気になった私に勝てると思っているのですか? 女神の加護もなく、毒の力すら失った貴方が私に勝てる道理はありませんよ」


 ギリギリ間に合ったとばかりに余裕を滲ませるトランウィザードから視線を切る轟は、肩を震わせる。


「今頃、力の差を理解して恐怖が込み上げてきましたか? ええ、いいでしょう、平伏して服従を誓うなら貴方は使える駒です、命の保障はしますよ?」


 勝利を確信したトランウィザードは、余裕を取り戻し轟を見下し嗤う。


 小刻みに震わせてた肩は、徐々に激しくなっていき、我慢の限界がきたとばかりに高笑いを始めた轟はすぐに笑いを収めて、口の端を上げてトランウィザードを嘲笑う。


「もう詰んでる事にまだ気付かねぇのかねぇ? まあ、そっちは体感で知って貰うとして、誰がお前に勝てないって?」


 そう言う轟が自然体で「来い」と呟く。


 すると、目の前には長い柄が現れる。槍のようだ、だが良く見れば、戟と呼ばれる種類のモノが姿を現すと手に取る。

 そして、急所を守るような軽鎧を纏うのを見たトランウィザードは震え出す。


「何故、それがここにある。壊れたはずだぁ!」

「馬鹿かお前? 神より生み出された金属が壊れたぐらいでお終いとか思ってたのか?」


 恐れるように1歩、2歩下がると何かにぶつかり下がれなくなる。


 慌てて後ろを振り返ると何もない空間で壁が結界である事を知る。


「い、いつから結界なんてものが使えるように……」

「あっ? そんな面倒な事するようなヤツじゃないって長い付き合いなのに分からねぇのか? いるだろ? こういう事ができて、魔神すら封じたヤツがよぉ」

「まったく結構ギリギリで介入しようか悩んだぞ?」


 轟の背後の岩陰から出てくる少年、初代勇者と言われた和也が姿を現す。


 その和也に視線をやった轟が和也の身なりを見て鼻で笑う。


「おうおう、男前が台無しだな、どこの無人島で生活してた? って有様で僥倖だぁ」


 和也のカッターシャツやズボンは土に塗れ、カッターシャツに至っては破れが目立っていた。


「さすがにあの高さから落ちて、岩場に叩きつけられたらこうなる」


 あの崖下はそれほど深さもなく、岩が乱立していたようで、それに叩きつけられても命を拾う辺りは、勇者としての力があった和也ならではであろう。


 勿論、酷い怪我もしたが回復魔法を使える和也は、見える限りは服以外は無事である。


 そこでもう一つの事に気付いたトランウィザードは震える指を轟に突き付ける。


「貴方がその武具を手にできてるという事は、トールも?」

「そういうこった。まだアイツはそれができるとは知らなかったようだが、今頃は……そう言ってたら丁度いいタイミングだ、後ろを見てみろ」


 慌てて振り返ったトランウィザードの視界に移る灯台の崖下へと向かう辺りで強烈な光が生まれて消えるのを目撃する。


 今度は轟と違い、間違いなく、トランウィザードは震え出す。


「逃げ回ってたらネイサンの助けがあるとは思わない事だ」


 腕を組んで目を瞑る和也が、トランウィザードの心情を読むように告げる。


 そんなトランウィザードが奇声を上げて和也と轟を避けるように迂回して裂け目に飛ぶ。


 だが、和也は微動せず、轟もまた笑みを浮かべたまま動かない。


 裂け目まで後少しという所でトランウィザードは見えない壁に弾き返される。


「おめえ、馬鹿だろ? 外に逃げれないようにしてるのに、空間を渡れる場所を通れるようにしてる訳がねぇ―だろうが?」


 驚愕の表情でこちらをトランウィザードは見てくる。


 闇の牢獄で散々苦しめられた轟は、その表情が堪らなく面白いらしく笑い始める。


 轟の後ろにいる和也が轟に問う。


「で、お前は、今、目の前にいる分身体か、空間の裂け目の向こうにいる本体のどっちとやりたい?」

「そうだなぁ、分身体のほうにしとくかな? 寝てるヤツをやっても面白くないからな」


 轟の獰猛な笑みを見て、「そうか」と告げると和也は背を向けて空間の裂け目を目指して歩き出す。


 本体の始末をしに行こうとする和也にトランウィザードは特大の魔力弾を放つ。


 だが、和也はそれを一瞥しただけで無視して歩くと、トランウィザードと和也を挟む間に轟が飛び込み、魔力弾を切り裂く。


「おいおい、つれねぇ事するなよ。お前の相手は俺だろうがぁ?」


 そして、空間の裂け目に入った和也を見送った2人は対面する。


「退きなさい! 轟ぃぃ!!」

「ああっ? 退いてもいいがよ、結界を抜けれねぇだろうが、忘れたのかよ?」


 歯軋りするトランウィザードは突然、胸を抑えて蹲る。


 それを見た轟は肩を竦める。


「その様子だと初代が本体を潰したようだが、溜めなしで完全消滅みたいだな。クールだねぇ、初代はぁ……後はお前だけだ」


 おどけた顔から一瞬で武人の顔に変わる轟は槍を構える。


 後ずさって逃げようとするが、当然のように結界に阻まれて追い詰められるトランウィザード。


「悪いが、応戦して楽しんでやる気はねぇ。もう俺は驕りでシンシヤを失う訳にはいかねぇからよぉ!!」


 槍を連続で突き、まるで同時に突いているように見える面の攻撃をする轟の攻撃はトランウィザードに悲鳴すら上げさせる暇も与えずにヒットさせる。


 槍を止めた時に霧のように僅かに残るトランウィザードの名残すら許さないとばかりに一閃するとそれすら霧散させる。


「そっちも終わったか?」


 空間の裂け目から出てきた和也が空間を塞ぎながら轟に声をかける。


 それに「ああっ」と答える轟。


「今度こそ完全消滅させたようだな」

「当然だろ? でっかい後悔は1度で充分だ」


 だいぶ西に傾いている月を眺めながら轟は悔恨の気持ちが滲む声で呟く。


 同じように月を見つめる和也も力なく頷く。


「お前と同じというのが納得できないが、否定する言葉を用意できないな」


 そういうと、その場に2人は大の字に倒れる。


 和也は崖下に落ちて大怪我を負い、回復魔法で傷こそ塞いだが、昼夜動き続けて奔走した。

 また、轟も魔神の加護を失っているのにも関わらず、闇の牢獄に耐え、限界を迎えていたのである。


「ざまぁねぇな? それでも初代かよ?」

「初代というな、この馬鹿野郎。動けないのはお前も一緒だろうが」


 動けない2人はしばらく、くだらない口喧嘩をするが、疲れたようでどちらからとなく止める。


「まあ、後は徹に任せて、俺達はよぉ、ノンビリ見学といこうやぁ」

「あの馬鹿に最後を任せるのは不安ばかりだが、お前がそう言うなら様子を見てやるか」


 相変わらず、徹には素直に慣れない兄貴を苦笑しながら見つめる轟は、和也に告げる。


「とりあえず、お疲れさんだぁ」

「ふんっ、お前にしては上出来だったぞ」


 まるで申し合わせたかのようにお互いの拳と拳を叩き合った。

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