手を差し出す者と掴む者
これを終わらせないとリメイクを書いてられないぜよっ!
重い瞼に温かい光を浴びて、ずっとエマの中で燻ぶるようにあった重いモノが吸いだされるような浮遊感を伴う気持ち良さを感じていた。
そのまま、全てを身に任せたい気持ちもあったが抗うようにエマは覚醒しようと奮起すると声が聞こえる。
「良かったわ、これぐらいの毒なら浄化できる。私の中に残ってた毒ぐらい強かったら浄化できたか危なかったけど」
そう言うと「他人の体の勝手が分からないから加減が難しいわ」という声に誇らしげに胸を張る姿が想像できる声がする。
「えっへん、お姉ちゃん、情けないの。私はまだ余裕があるのぉ―!」
「……本当にあるから言い返さないけど、妹の分際で生意気よ。でも、今更、そんな力が上か下かなんてどうでもいいけどね」
眠りたいという気持ちに抗って瞼を開けるとエマの体の上に光の玉があり、その玉に手を翳すクラスメートのルナと確か、副生徒会長の人、そう、ルナの姉の真理亜を見上げる。
起きたエマが起きた事に気付いたルナがいつもの寝てた猫のようなユルイ笑顔を向けてくる。
「起きた? もうちょっとで終わるの。あんまり動かないでね」
そう言うルナの言葉に頷くエマは、自分の体から昇る黒い霧のようなものに目を向ける。
その黒い霧の昇る先にある光の玉に吸い込まれていき、玉を通過する事で綺麗な光の粒子になり、空に溶けるように消える。
そして、しばらくするとエマから昇る黒い霧が消えると2人は安堵するように息を吐き出す。
すると、エマの体の上にあった光の玉が消えると浮遊感が消え、自分の体の感覚が戻ってくる。
ネイサンが、虚空に向かって話す姿を覗き見した時に黒い塊が胸を打って以来、ずっと不快感があったモノが無くなっている事に気付く。
触って分かるようなものじゃないと分かっても体を弄るように触るエマを余所に真理亜はルナに話しかけていた。
「もう私は行くわ。そろそろカズも現れるでしょうし、あの馬鹿の面倒は見てられないからね?」
馬鹿の件で真理亜は灯台の方に目を向ける。
それに弾ける笑みを浮かべるルナは揺るがずに答える。
「勿論、必要ならそれは私達の役割なの。でも、きっと必要ないの」
「なんで、あんな馬鹿をアンタはともかく、カズもミラも買ってるのか分からないわ」
そうぼやく真理亜にミラはクスクスと笑うだけでフォローする気はないようで真理亜は半眼で睨むように見て「この腹黒」と悪態を吐いていた。
その言葉を聞いたルナの隣にいた美紅が笑みを浮かべて言う。
「普段のトオル君は、一緒に居ると時折、心に忍び込むような事を無自覚でしますけど、それに遭遇しないと只のえっちな少年にしか見えないでしょうね」
灯台の方に目を向ける美紅は目を細めて続ける。
「でもきっと、今回で真理亜さんの中の評価がひび割れる。それに抵抗しないでくださいね。下手に抵抗されるとライバルになられたら溜まりません。このまま和也さん一筋でお願いします」
「ばっかじゃないの? あんな馬鹿にカズが劣る訳ないでしょ?」
柔らかい笑みを浮かべる美紅に罵るように言うが美紅の笑みを崩す事は叶わず、「馬鹿馬鹿しい!」と地団太を踏むとルナ達に背を向ける。
「本当にもう行くから、ミラっ! いつまで笑ってるのよ、行くわよ!」
捨て台詞のような事を言って肩を怒らせながら歩く真理亜の後ろを笑いを収められずに楽しげなミラが続いた。
それまで、黙っておとなしくしていたエマが震える腕で起き上がろうとするとそれに気付いたルナが支えになるようにして立たせてくれる。
「今はだるさを感じると思うけど、すぐに普通になるから焦らないで欲しいの」
それに頷いたエマは灯台の方に目を向けると陽が既に暮れ、月明かりが照らす下で交差する2人の少年に気付く。
片方は研究所で見た事があるパワードスーツを纏った自分の兄、ネイサンと先程から話に上がっていた徹であった。
必死にかろうじて避ける徹であるがネイサンの笑みに余裕があり、どちらが優勢かなど分かり切った構図であった。
「トオルが危ない。なんとかしないと!」
支えてくれているルナを揺さぶる。先程の光の玉が何かは分からないが、普通の人ができないことができるルナであればなんとかできるんじゃないのかという思いで必死に揺らす。
だが、ルナはエマの言葉を聞いてないのかと思わせる言葉を返す。
「徹はね、誰かを助けたい、でも自分の力で及ばない。そんな人が助けを心の底から願った時、気付けばそこに現れるの」
神界で1人取り残されて、それでもアローラに住む子らの未来を祈り、どうにもならない未来に絶望して心から助けを求めた時、徹はルナの隣に現れた。
「自分には無理、何もできない。そう心を塞いで膝を抱えて諦めてしまいつつも、そんなのは嫌だと思う人の前に現れて、笑みを浮かべて手を差し出して引っ張り上げてくれる。可能性を示し続け、それを与えてくれる人」
兵器にもなれず、本来の役割と言われた魔神と戦う事からも逃げ、理解者がいない中、膝を抱えて孤独になった美紅は、結界の触媒にされた。
そのまま朽ちていくだけと心を凍らせた時、徹は現れた。
優しくも温かい笑みを浮かべ、差し出された手を美紅は忘れない。
話しながらも徹を見つめていた2人がエマを振り返る。
「エマ、貴方も願ったんじゃないの? 自分にできない誰かの為の願いを……」
「無理だと思い、諦めた事にまたできるかも、とエマさんも可能性を貰ったんじゃないのですか?」
それを言われた時、エマは絶句する。
自分の心を読まれたのかと錯覚するほど胸中にあるモノを暴露された気分になった為である。
変わりゆくネイサンをどうにかして、偏屈ではあったが時折見せる優しさがある兄に戻って欲しいと願いつつも、自分ではどうにもならないと嘆いてた日々。
そして、転校した先の空いてた席の隣に座ってた徹と初めて会話、いや、ヤツ当たりのような事をした時、徹の浮かべた笑みが沁み込んできた。
エマはずっとその時、受けた気持ちは錯覚と思い込もうとしていた。
徹は、心の深い所に居るエマに「俺に任せろ」と言ってくれたような気がした。
出会って短い日々でエマは、もう一度、兄であるネイサンと向き合ってみようと動き出す自分がいた。
やっと、バラバラに転がっていたパーツがスッポリと収まったようなスッキリとした心境にエマは包まれる。
徹はエマに可能性を信じる力をくれていた事に気付く。
そして、向き合って届かない気持ちに涙して絶望した時、徹はこうして現れてくれた。
想いに耽るエマの表情から考えを汲み取った2人は笑みを送る。
「エマ、貴方が願いを託した人を信じてあげるの」
「可能性という力を示す、あの姿を見つめてあげてください」
俯いていた顔を上げ、エマは自分の代弁者と言わんばかりに必死に戦う徹を見つめる。
そんななか、ネイサンが打ったエネルギー砲が徹に直撃する。
直撃した徹は吹き飛ばされて、崖を越え、海へと落ちていく。
「トオルっ!」
思わず飛び出そうとしたエマの両手を片手づつ、ルナと美紅が握り締める。
握り締めるその手が僅かに震えているのに気付いたエマは少し冷静さを取り戻して2人を見つめる。
凛とした美しさを感じさせる綺麗な笑みを浮かべる2人は徹を見つめ、エマに告げる。
「徹は……」
「トオル君は……」
「「ここからが本番です!」」
その強い思いの籠った言葉を受け、それに負けたくないと強く思い、徹の無事をエマは祈った。
何故、そう思ったかは今は考えず、ただただ、純粋に徹をエマは強く想った。
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