掌と掌
一か月、更新が止まってるのは不味いと頑張らせて貰いました(泣)
多分、忘れられていると思うので少し前から読み直してくれると嬉しく思います。
ネイサンの後ろを陣取るように移動するトランウィザードは何度聞いても苛立ちが募る笑い声を上げる。
「スーベラに仕留められたと思ってたがな」
半身に構える俺は、油断なくトランウィザードとネイサンを注意深く見守る。先程から気になっていたが、ネイサンの掌の上にある小さい黒い玉に気を取られそうになるが自制する。
「ええ、本当に危なかったですよ。空間に逃げられなくされていたので、一か八か、存在の切り離しをその場で行いましたからね」
「そんな事もできたのか? だが、あの時のお前が死んだと思った時のエネルギー量から考えて、切り離した量なんて微々たるものだったはず、どうやって生きながらえた」
話をしながら、必死にこの状況の打開策を考える。
視線を感じてそちらに目を向けると轟がネイサンに目配せするのを見て、なるほどと理解する。
「ええ、そこからが賭けでしたよ。なんとか周りの目は誤魔化せましたが、空間を縛る力が消えようとも渡るだけの力などなく、消滅しかない状態でした。だが、感謝しますよ、トール君」
嘲笑うトランウィザードは俺に指を突き付けてくる。
「君が魔神を滅ぼしてくれた。滅ぶ魔神からドサクサに紛れて毒を奪って空間を渡りました。本当に危なかった。あの戦いが後1日続いていれば私は消滅してましたからね」
思わず舌打ちする俺は、忌々しく睨みつける。
「本当にしぶといな、お前」
「お褒めに預かり光栄ですよ」
正直、トランウィザードが以前ほどの力を持ち合わせてないのは肌で感じる。それと同時に俺もあの時とは状況が違う。カラスもアオツキもなければ瞬や沙耶さん達も俺の中にいない。
しかも毒を分け与えた事によりネイサンという手駒まで持たれるとちょっとした絶望的状況の出来上がりである。
これを打開する手は一つ。
「なぁ、トランウィザードよ。この三下をそれほど警戒する必要はないんじゃないのか?」
「何度も言っているでしょう。彼は幾度も出来る訳がないという状況を引っ繰り返し続けてきた少年。数字では語れないイレギュラーなんですよ。数字的には初代と轟君を戦力外にした事で勝ちが動かないように思うんでしょうけどね」
愚図るネイサンに「科学者としては、そんなあやふやなモノを信じるのは嫌なんでしょうけどね」と嗤うトランウィザードの2人が一瞬、俺から意識を外した瞬間、迷わずネイサン目掛けて飛び蹴りを敢行する。
蹴りかかってくる俺に気付いたネイサンはニヤッと笑い、あっさりと俺の蹴りを避ける。
「馬鹿が、不意を打って一撃入れれると思ったか?」
「ネイサン、油断するなっ!」
トランウィザードの言葉に一瞬眉を寄せるネイサンが、慌てて避けた俺の行方を見る為に振り返る。
蹴る為に伸ばされた足を屈伸するようにして空中を蹴り飛ばす。そしてガラスが割れるような乾いた音をさせる。
一瞬でネイサンに肉薄するようにした俺を驚愕な表情で見つめる。
「何もない所で方向転換だとっ!」
「人間辞めたみたいに空中に浮いてるお前に言われると傷つくだろうがっ!」
驚きから固まるネイサンの右手の掌に浮かんでいる黒い玉目掛けて右手の掌を叩きつけるようにして叫ぶ。
『クリーナー』
叩きつけるように黒い玉にぶつけると黒い玉が消失する。
背後からバッシュンという音と共に溜まった鬱憤を晴らすように叫ぶが男の声が聞こえる。
「でかした、徹。しかしよぉ、もう少し早くできんかったのかよ?」
肉食獣を思わせる獰猛な笑みを浮かべるむさ苦しい男が横にやってくる。
その汗臭さを嫌がるように手でうちわを仰ぐようにする俺は呆れた顔をする。
「馬鹿言うな。お前や和也のように丸腰でも超人な奴らと一緒にしてくれるな」
鼻で笑うように俺を見下す轟。
「おめえが貧弱なだけだろうがよ?」
というのを俺は下から睨め上げるように見上げ、
「それが助けてくれたヤツへの言葉か? 徹様、感謝しますって土下座ぐらいしろよ」
と言葉のやり取りをして鼻が当たるぐらいに近寄って睨みあうが一度たりともお互いトランウィザード達から意識を外さない。
それに苛立ちが隠せないのがトランウィザードであった。
「だから言ったでしょう! トールは油断していい相手ではないと。せっかく捕えた轟を解放してしまった」
「ちぃ、またとっ捕まえたらいいんだろうがぁ」
そんな上手い事引っかかってくれないと分かっているトランウィザードは歯軋りする。
言い合いする2人に視線をやる俺の隣で、フン、と鼻を鳴らした轟が俺だけに聞こえるように話しかけてくる。
「初代が、こいつらを一網打尽にする為に動いてる。だが、まだ時間がかかるはずだ。俺がトランウィザードを抑える。クソムカつく話だがアイツとは付き合いが長いから急所ってのがどこにあるか知ってるんでな」
「おいおい、馬鹿言うなよ。不意を打ったからなんとかなったが、さっきも言ったが俺は丸腰だぜ? 毒の力を使いこなし始めてるネイサンを一人で相手にしろと?」
肩を竦める俺に轟は口の端を上げて笑みを浮かべる。
「初代や俺がいなかろうが、立ち向かうつもりだったんだろうがよ? 半分、受け持ってやろうってんだ、感謝していいんだぜぇ?」
「お前こそ助けられたんだから、子分になりますぐらい言ってみろよ。きび団子貰っただけで鬼退治に行ったアイツ等を見習え」
笑みを浮かべ合う俺達。
轟が手を翳す。
「帰ったら、またカレー奢ってやら」
「もうカレーには懲りた!」
嫌がる俺を楽しげに笑う轟は、「じゃ、ラーメンな」と言われて「それも食べ放題だろ?」と切り返すと珍しく轟がウィンクをして誤魔化すように笑みを浮かべる。
「もうドジんなよ」
「ああ、おめえもな」
俺とすれ違おうとする轟の翳した手に力一杯掌を叩きつける。
「「死ぬなよ」」
そう言うと掌を叩き合った音で我に返った2人が俺達に注目する。
それを振り返る形でトランウィザードを見つめた轟は挑発するように笑みを浮かべると壁に向かって走り出す。
雄叫びを上げながら走る轟は非常識にも壁を昇り始める。しかし、そんな重力を無視するような事をやっているのに速度が落ちているように見えなかった。
やっぱりアイツ化け物だ。
呆れる俺が見つめるアイツは高い位置にある窓に身を躍らせるとガラスを破壊して外へと脱出に成功する。
「ま、まさかっ! ええいっ! ネイサン、ここは任せました。確実にトールを仕留めなさい」
何に対しての怒りか分からないが声音を震わせて、轟を追いかけて出ていく。
それを黙って見送ったネイサンがこちらに視線を向けてくる。
ババを引かされて押し付けられたとばかりに嘆息するネイサンが俺を見下ろしてくる。
「確かに油断した。だからってコイツに警戒する程の価値なんかないだろう?」
「ああ、俺もそう思う。だから、もっと油断して無様に転がってくれ」
鼻で笑うように挑発する俺に苛立ちが募り出したようでネイサンの背中から毒の力で作っていると思われる翼が出来始める。
それを見ても表情を変えない俺に歯を剥き出しにして唸る。
「それはそうと、俺に招待状を出すつもりだったんだよな? 勿論、歓迎会の準備はできてるんだろ? 歓迎してくれ」
「ああ、出来てるぜぇ?」
歪んだ笑みを浮かべるネイサンが翼を大きく広げて威嚇するようにしてくる。
冷めた目でそれを見つめる俺の背中では、火の揺らめきが起き始め、力強い光が生まれたと同時に灯台の壁を伝うようにしてネイサンを囲む炎の翼が生まれる。
俺が生み出した炎の翼を見つめて驚愕の表情を浮かべるネイサンを見つめる。
「さあ、俺達のパーティを始めよう」
そう言うと俺は一歩前に足を踏み出した。
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