掌の上で踊る男達
徹と屋上で別れた和也は、生徒会室に戻ると執務に取りかかる。
世界大会に出ていた事により、学校行事、6月にある体育祭の準備などの承認を求める書類などが山積していた。
その書類を恐ろしい速度で振り分け、可、不可、保留のハンコを押していく。
知らない誰かが見れば、内容を見てるのかと疑う速度だが、その場にいる真理亜とミラに特別たいした反応を見せない。
真理亜は不可に入れられた書類を手に取ると、和也に一枚差し出す。
「ねぇ、カズ、この書類に不備あるの? 正しい書式で書かれてるし予算も収まってるように見えるのだけど?」
その書類をチラッと見た和也は、首を振って目の前の書類の処理に戻る。
「良く見てみろ。何故、資材費の半分も雑費があるのか。それは項目に振れないような物を買ったと言ってるようなモノだろう?」
「言われてみれば、看板製作の予算だけど、雑費以外で振られてる金額があればできそうなのに、雑費がこれだけあるのは誤差としても大き過ぎるわね」
「ふっふふ、きっと作業する生徒達のエネルギー代と言った所なのでしょうね」
和也と真理亜のやり取りを見ていたミラは、クスクスと笑う。
そうやって話している間も和也の手は止まらず、スピーディに処理していく。
仕事の鬼と化す和也を2人は見つめて、真理亜は肩を竦めて、ミラは苦笑する。
2人も書類仕事の処理を再開した。
それから2時間経ち、18時のチャイムがなると真理亜とミラが帰り支度を始めるが和也は一向にしないのに不思議に思ったミラが声をかける。
「和也、帰りましょう?」
「ああ、スマン。俺は少し残っていく。先生達にも時間延長の許可を貰っているから先に帰ってくれ」
2人は顔を見合わせると真理亜が不審そうに和也に問う。
「ねぇ、カズ。貴方ならそこまで根を詰めなくても平気でしょう?」
「少し時間の余裕を作って置きたくてな」
真理亜が「どうしてよ?」と聞くが和也は曖昧に笑みを浮かべるだけである。
まだ言い募ろうとした真理亜であったが、『最終下刻時間になりました。学校に残っている生徒は帰宅してください』という放送を耳にして苦虫を噛んだような顔をする。
「ほら、許可のないのに、生徒の模範である生徒会メンバーがいたら不味いだろ?」
和也に「また、明日な」と手を振られて、悔しそうにした真理亜が捨て台詞のように言う。
「帰ったら絶対電話してよねっ!」
「私はメールでいいですよ」
和也は2人を笑顔で見送り、書類仕事に戻って15分程した頃、捌いてた手を止める。
真理亜達が本当に帰ったと確信を得ると和也は帰り支度を始める。
和也は学校を出ると、家と反対側にある海がある方向へと歩き出した。
歩く事30分ほどすると元灯台だった場所が見える場所で和也は木々に紛れるようにして見つめていた。
あそこは今は、ネイサンの研究室になっていると学校の資料をこっそりと調べさせて貰い分かっていた。
すると、前方に意識を向け過ぎてたのか、背後に気配を遅れて感じとる。
油断してたか、と悔しく思いながらも、牽制目的で振り返ると同時に拳を繰り出すとあっさりと掌で受け止められる。
「良い突きだ。アンタとやり合いたいとは思ってたがよ、今日はそんな気分じゃないんで、今度にしてくれねぇか? なぁ、初代」
「轟か、ここで何してる? それと初代と言うな」
轟は、首をコキコキと鳴らしながら和也を見下ろして、強気な笑みを見せる。
和也の隣に移動して、和也が見ていた元灯台を見つめる。
「聞いておきながら、何故かなんて言わないでも分かってるんだろーが。ふ――ん、あれが銀髪の研究所かぁ」
「お前が加護の毒が気になるのは分かる。だが、わざわざ事態が動く前に動く奴とは思ってなかったんだがな」
そう和也が問うと、轟は舌打ちをすると和也を見ずに答える。
「もう、踏ん反り返って身構えてる間に大事なモノを失う馬鹿はしたくなくてな」
普段なら間違いなく聞く事がないようなトーンで話す轟に目を見開く。
和也の反応がお気に召さなかったようで、再び、舌打ちをする。
「ここで眺めてるだけっていうならよぉ、俺は1人で見てくるぜぇ、初代?」
「そんな訳ないだろう。こんなところで見てて分かるような情報なら苦労はしない。それと、初代と言うなと言ってるだろっ!」
和也の言葉を手をヒラヒラさせて聞き流す轟に苛立ちを感じるが呼吸を整える事で流す。
和也の葛藤を笑みを浮かべてニヤニヤする轟に和也は、「いくぞっ」と伝えると轟は、「おうっ」と答えて2人は闇夜に溶け込みながらネイサンの研究所に近づいていった。
灯台に近づいて、確認の意味も兼ねて扉を開こうとした鍵がかかっていた。
「やはり、開いてる訳がないか」
「面倒くせぇから俺が扉を打ち抜こうかぁ?」
和也は轟の胸倉を掴んで、「調査する気があるのか、お前は」と顔を近づけて言う。
面倒臭そうに頭を掻く轟は、露骨に溜息を吐きながら、打開策を聞いてくる。
和也は少し考える素振りを見せると上を指差して言う。
「灯台のライトの所から侵入する」
和也と轟はもう使用されてない灯台のライトの部分に到着する。
普通に考えたら有り得ない行動である。
しかも、2人共、登山道具のようなものは一切持ち合わせていないのにどうやって昇ってきたかというと壁を走って昇ってきたのである。
ツルツルの壁は脚力をモノを言わせて昇り、僅かな凹凸や、窓のようなところがあった場合はそこから跳躍する事で昇り切った。
おそるべし、勇者の初代と2代目である。
和也達は下に降りる階段を見つけると慎重に降りていくと吹き抜けになっている場所に出る。
そこから下を見るとネイサンが虚空を見つめながら話をしているのが見える。
「おい、初代。あの野郎……」
そのネイサンを見てた轟が苦渋に満ちた声で和也に声をかけてくる。
和也も同じように苦々しい顔をしながら頷く。
ネイサンを覆うモノの禍々しさが肌にビリビリと伝わる。
「加護の毒は、初期状態だと思っていたが、あれは間違いなく、想像以上に進んでいる」
昨日の今日でそんなに変わるはずがないと和也は考える。という事は、あの体育館の時に漏れだしたと思っていたのは、和也達にその程度だと思わせる為の布石であったのでは、と思った瞬間、覗いてたネイサンが急に顔を上に上げると和也に笑いかける。
「轟、気付かれた! 逃げるぞっ!」
「チィ、仕方がねぇ―な!」
踵を返して、逃げ出そうとした2人に黒い霧状の槍のようなものが襲いかかる。
轟は紙一重で避けるが、和也は脇腹を掠らせる。
「大丈夫かっ! 初代」
「気にするな、逃げるぞっ!」
和也は血が流れる脇腹を押さえて、来た道を戻り、2人して灯台の上から身を躍らせる。
着地の時に和也の傷口が酷くなったようで血が勢い良く噴き出す。
上を見上げれば、先程の黒い槍が無数に襲いかかる。
2人はそれを避けながら走り、和也は魔法で止血を強引に済ませる。
「初代、これは不味いぞ。逃げる先を選べてねぇ!」
それは和也も気付いていた。2人はじりじりと岬の上へと追い込まれていた。
ついに岬の先に追い込まれた2人は、無数の槍に囲まれる。その後ろから悠然に歩いてくる狂気に染まった笑みを浮かべたネイサンが現れる。
「本当だ、アイツの言う通りに少しだけ力を洩らしたら自分から罠にかかりにきやがった、くっはははっ」
「アイツとは誰だ」
和也はネイサンに静かに問いかけると、和也の痛みから流す汗を見て笑う。
「いつも澄ました顔したお前が良い顔してるな。アイツか? 聞いてる話だとお前も知ってる奴らしいぞ? 隣にいるのは轟だよな、お前とは長い付き合いだって言ってたぞ」
そう言われて2人の表情が歪む。
「チィ、あの野郎生きてやがったのかっ!」
「アイツが生きているというなら、この状況は理解できるが……」
そう悔しそうにする2人を本当に楽しそうに見つめるネイサンは空に左手を翳すと黒い直径5mはあろうかという球体を生み出す。
空いてる右手で2人を指差し嘲笑う。
「和也ぁ、もうお前が俺を見てなくて誰を見てようともういい。お前は自分にとって取るに足らないと思った相手に敗れるのだからな」
その言葉に和也は身構えるが、轟はヤレヤレと言った顔をして2人の間に入りこむ。
「2人にはよぉ、因縁があるようだしな、俺はこれで失礼するわ」
「俺としてはそれでもいいんだが、アイツが轟は絶対に障害になるから潰しておけって言われてるんだ」
更に黒い球体を大きくするのを舌打ちして見つめる轟が和也に聞こえるように言う。
「初代、あの球体は『闇の牢獄』って言ってな。肉体の限界の痛みを常に与える魔神の加護がないと耐えれるモノじゃねぇ。俺なら数日なら耐えれるが、その加護を受けた事もない上にその傷じゃ、1日ともたねぇ」
「まるで体験したみたいに言うじゃないか」
轟は肩を竦めると「徹を見逃した時にな」と言ってくる。
「あれはよぉ、誰かを捉えるまで追いかけてくるっていう厄介な玉だぁ。だから、良く聞けよぉ」
轟の話を聞いた和也が慌てて止めようとする。
だが、ネイサンがその時間を奪う。
「いらない時間をやって逆転されたら間抜けにも程があるからな」
ネイサンは黒い球体を2人に向けて投げる。
轟は口の端を上げて、和也を力一杯突き飛ばし、海があるほうに和也は飛ぶように身を躍らせる。
「コイツの黒幕がアイツなら次に狙うのは間違いないねぇ、徹だ。アイツの力になってやれぇ!」
和也は轟に力一杯手を伸ばすが既に和也は岬から離れて戻る術がなかった。
「馬鹿野郎っ!」
「それとよ、シンシヤの事もたのまぁ」
少し恥ずかしそうで、それでいて悔しそうに顔を歪ませる轟が黒い球体に体半分飲み込まれる。
自分の迂闊さを呪い、和也は叫ぶ。
「轟ぃぃぃぃ――――――!!」
そして、和也は夜の海に激しい水飛沫を上げて沈んでいった。
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