距離が縮まる4人
先週、更新できませんでしたが、今週は一応できました。
遅い時間の更新ですが、宜しければ読んでください。
和也に言いたいように言われたのに反論の余地なく逃げ帰るしかなかった俺は、自分の教室に帰ってくるとまだ先生は来てないようで自分の席へと滑り込む。
自分の席に着くと同時にルナと美紅が振り返ってくる。
「徹、お昼もせずにどこに行ってたの?」
「そうです。私達、ギリギリまで待ってたんですよ。私達に付き合ってエマさんも待っててくれたのに何をしてたのですか?」
「あっ、そうなの? 悪かったな、2人とも、そして、エマにも悪い事した」
俺は手を合わせてエマに謝る為に隣の席に顔を向けると顔を反対側に向けられて素知らぬ素振りをされる。
怒らせたのかな?と思った俺は真摯に謝る為に廻り込んでエマに謝ろうとすると俺の動きに合わせるかのように背中を向け続けてくる。
なんとなく意地になった俺はエマの前に出ようとするが相手も強情で頑張ってくる。
絶対、正面に行ってやると奮闘しようとすると先生が入ってきて授業が始まる。
仕方がないので、俺は渋々、席に着き、教科書を出そうとする動作をするフェイントをすると前を向こうとするエマを下から覗きこもうとする。
エマも咄嗟に気付いたようで、慌てて顔を背けられ、失敗に終わり、俺は「ちぇっ」と舌打ちすると今度は本当に準備を始める。
そんな徹とエマの攻防を見守っていたルナと美紅は、お互いの顔を見合わせて溜息を吐く。
徹には見えなかっただろうが、エマはプクゥと頬を膨らませて、朝の無表情ぶりが嘘のような感情が溢れる顔をしていた。
それを引き出したのが徹である事を誇りにも感じるし、余計な事をと思う気持ちにもさせられているルナと美紅は溜息を吐いたのである。
「どうして、徹は、ライバルになると大変な子を無意識に意識させるのか分からないの」
「まあ、トオル君は良かれと思って考えてする行動は大抵失敗に終わりますからね」
徹はあれこれ考えるより、したい事をしたいように突っ走ると結果うまくいくような行き当たりばったりなところがある。理屈ではなく、カンだよりに動いたほうが良い方に転がる。
「徹が馬鹿なのは仕方がないから起こった事はしょうがないの。問題は……」
「意識し出してるエマさんが自分の変化に気付くかどうかでしょうか? できれば、このまま気付かないままでいて欲しいものですが……」
2人は徹の家に一緒に住んでいるティテレーネが少女としての美しさに磨きをかけだしている事にも戦々恐々する今日この頃、切実にこれ以上のライバルはいらないとお互いの肩を寄り添わせて、こっそりと泣いた。
5時間目の授業が終わり、俺が教科書を片付けているとルナ達が後ろを向いて話しかけてくる。
「それで、あの後、何があったの?」
ルナがそう聞いてくるので、確証のない毒の話を除いた事を話し始める。
エマも興味があるようで気のない振りして次の授業の教科書をペラペラと捲りながらチラチラとこちらを見ていた。
「ああ、あの後な、大五郎に連れて行かれて、進路指導室で昼休み間際までむさ苦しい時間を過ごしていた」
チラチラ見ていたエマが横から聞いてくる。
「そこには兄さんも?」
そう聞かれた俺はどう答えたら良いモノやらと悩んだが上手く誤魔化せる気がしないのでザックリと答える。
「えーと、エマの兄貴は、国での立場があるから教師も口を出し辛いらしい。むさ苦しい時間は俺だけが体験した」
「兄さんのせいで、辛い思いをさせて申し訳ありません、トオル」
ペコリと頭を下げてくるエマに慌てた俺は、手を振って頭を上げるように言う。
「勝手に割り込んで、逃げるタイミングを逃したのは俺だから気にするなよ、なっ?」
俺は、「あのクソ和也は逃れたの事だけは一生根に持ってやるがなっ!」と憤るとエマは噴き出すように笑みを浮かべる。
「そうなると、お昼休みは帰ってこれたはずですよね?」
美紅が話を元の路線に戻すように言ってくれるのを有難く思い、乗る事にする。あのまま、いくとエマが自分の兄貴の懺悔をしてきそうな気がしていた為である。
「解放されたところを轟に拉致されたんだが、これは美紅も一枚噛んでるんだぞ?」
「どうして、私が?」
さっぱり分からないとばかりに首を傾げる美紅は、目をキョトンとさせて俺を見つめてくる。
「お前が俺の好物を轟に聞かせただろ? 『後輩ちゃんからお前の好物って聞いたからな』って言って俺をカレー屋に連行したんだぜ?」
一瞬、首を反対側に捻り直す美紅は、思い出したかのように慌てて言ってくる。
「私は、あの人に言ったんじゃなくて、シンシヤさんに言った……確かに、近くで興味なさそうに聞いてたみたいだから同じ事ですけど……」
言ってる自分でも教えたのは自分であると納得したようで、苦笑いをしてくる。
「トオルはカレーが好きなのですか?」
「ああ、一番と言ってもいいかもしれないけど、今日行ったカレー屋は避けたいかな」
「どうしてなの? カレー好きな徹らしくないの」
俺に質問してきたエマへの解答を聞いたルナが食い付いてくる。
「いや、美味しい店だとは思うんだが、量がな……500円で量が好きに頼めて、大盛が売りと知らずに、倍盛でと言ったらご飯が1.5k出てきた時は目を剥いたぞ」
食べ残した時のペナルティを説明するとルナとエマは、「そこは私達には無理」と首を振ってくる。
「トオル君、後でそのお店の場所を教えてくださいね?」
美紅は相変わらず健啖家で俺は時々、美紅の首から下は全部、胃袋か、もしくは、胃袋にブラックホールがあると信じていた。
そんな事を考えていた俺を美紅が目を細めて口を開く。
「何か失礼な事を考えてませんか?」
「そ、そんな事、確認されてないことよ?」
にじり寄ってくる美紅が、「本当ですか?」と聞かれてピンチな俺。
そんな俺に救世主が現れる。
「あっ、ほら、先生が入ってきたぁ! 授業が始まるぞ」
そう言うと3人が先生の存在に気付くが、美紅は眉を寄せて言ってくる。
「まだチャイムは鳴って……」
キーンコーンカーンコーン
今度は救いの鐘に胸を撫で下ろす。
そんな俺を拗ねるように睨むとプイッと目を反らすと授業の準備を始めるのを見て、本格的に助かったと溜息を吐く。
溜息を吐く俺を隣で見ていたエマがぼそっ、と言ってくる。
「トオル、格好悪いですね」
俺は、「マジで?」と言うと隣を見つめるが、エマも美紅のように俺からプイッと目を反らしてくる。
せっかく、ご近所付き合いを良好にしていけるかと思わせる先程の話の流れが生まれたのに再び、壁を作られたように感じる俺は涙を浮かべて突っ伏す。
「やっぱり徹は頭が悪いの」
溜息混じりに言ってくるルナの言葉を聞いた俺は、「お前にだけは言われたくないわっ」と言い返すと「もう、もう」と怒って叩こうとする。
それに気付いた先生に怒られて止められるとルナは目尻に涙を浮かべて前を向く。
俺は心で、ざまぁ――と笑っていると先生が俺を見つめている事に気付き、目を向けると頷かれる。
「立石、お前は少し、立って授業を受けてろ。今日、3時限分の授業サボっただろう?」
そう言われた俺は、「それは体罰じゃねぇ?」と切り返す。
「まあ、大五郎先生に事情を聞いていたから、その3時限に関しては出席扱いにしてやろうと思ってたんだが、立つのが嫌なら欠席にするが?」
「立石 徹! 立ちまーす!!」
そう言うとクラスメイトから、ドッと笑いが起きる。
正面のルナはこちらに顔を見せて、口元を手で添えるように隠しながら「徹のバーカ、バーカ」と涙を流して笑う。
ルナの隣の美紅はこちらに顔を見せてこないが小刻みに揺れる肩が全てを物語っていた。
隣のエマは俺を見つめて、柔らかい自然な笑みを見せてくる。
それを見た俺は、「良い顔で笑えるんだな」と歯を見せて笑みを返すと笑っていた事に気付いてなかったようで、頬を朱に染めると明後日の方向を見つめる。
それに肩を竦めた俺は、先生に「立ってるついでだから15ページのところから読め」と言われて、反論したいが余計なものが付随したら嫌なのでおとなしく読み始めた。
本日の授業が終了、と開放的な空気が広がる教室で俺はカバンを手に持つとルナと美紅が声をかけてくる。
「一緒に帰ろうなの」
「ああ、ワリィ、ちょっと和也に呼ばれてるんだ、先に帰ってくれ」
「珍しいですね、和也さんが用事がある、というのは時折ありますが、素直にトオル君が行くなんて」
俺は咄嗟に、「ミラさんからお願いされて、断るに断れなかった」と伝えると2人は納得したようで、エマに途中まで一緒に帰りましょうと誘う姿を隣で見つめる。
どうやら、この3人は俺が知らないところで仲良くなったようである。
美紅の言葉に頷くエマはカバンを持つと俺にペコリと頭を下げて、「また、明日」と、はにかんだ笑顔を向けてくる。
「おうっ、また、明日な」
俺は手を振って3人を見送ると、重い腰を上げて3年生の教室を目指す為に階段へと向かうと3階の踊り場で和也が待っていた。
和也は俺の顔を確認すると顎で屋上を指し示すと俺を無視して昇り始める。
俺も黙って屋上を目指して歩き出した。
屋上に着くと俺達以外誰もいない。
屋上はお昼休み以外、解放されてない為である。
「生徒会長が職権乱用していいのかよ」
「ふんっ、必要だったからな、仕方がないと割り切っている」
他の誰かに聞かせたくない話なのは、俺も分かっていたのでそれ以上の追及はしない。
「それで、ネイサンってヤツは何者なんだ?」
「フランスの科学者だ……そう睨むな、そんな事を聞いてないのは分かっている」
和也はフェンスのほうに歩いていくとフェンスを握り締める。
「お前が聞きに来たのは、『加護の毒』の話なのは分かっている。だが、世界大会の時のネイサンには、毒の気配は一切なかった」
「だが、あの漏れだすモノは間違いなく、毒だよな?」
俺の言葉に和也は頷く。
「毒の力で、ネイサンは人が持てる訳がない力を得ようとしている。俺と世界大会で戦った後、1カ月ほどしか経たないのに、既に物理法則を無視し始めている」
俺は、和也との戦いで見た、ネイサンのガントレットを思い出す。
確かに、物理法則を無視し始めていた。
「今は、まだ力が暴走するほどの力はないが、そのうち、ネイサンの手に負えない力になるだろう」
「なら、すぐになんとかしないといけないんじゃ!」
慌てる俺に和也は被り振る。
「俺の見立てが正しいなら今の成長速度なら、早くても半年は大丈夫だろう。だからと言って油断していていいという話ではないがな」
和也がそう言ってくるのを聞いて、そういえば、轟もそこまで慌てる話じゃないって言ってたのを思い出す。
俺が安堵の溜息を吐くのを見た和也は眉を寄せて言ってくる。
「馬鹿野郎、まだ油断するのは早い。ここからが俺がお前を呼び出した本命だ」
俺は、その言葉を聞いて身構えて和也の説明の言葉を聞いて固まる。
ちょっと考えれば、辿りつく答えだったのに呑気な事を考えてた自分を罵りたくなる。
そして、和也と俺は、今後の対応をアレコレと話し始める。
「いいか? この問題は俺達で秘密裏に片をつけるぞ」
「おうっ!」
和也と頷き合う俺は、和也に問う。
「お前はネイサンから切り口を入れていくのだろうが、俺はどうしたらいい?」
「それはだな、運が良いのか悪いのか、お前のクラスにネイサンの妹がいるだろう?」
俺は銀髪の少女、エマを思い出し頷く。
「毒の影響を受けているのがネイサンだけとは限らない。俺がネイサンの調査が済むまで、その子の様子を窺うようにしておけ」
和也の言葉にエマにも影響が?と思うが、確かに万が一があると思う俺は素直に頷いておく。
「じゃ、俺は生徒会に戻る。鍵を締めるからお前も帰れ」
一緒に屋上を出ると和也が鍵を閉めるのを確認して、俺達は、3階の踊り場で目で頷き合うと何も言わずに別れた。
感想や誤字がありましたら、気楽に感想欄へお願いします。




