ムサイ男のサンドイッチ
読んでくれる人がいる限り、この番外編を最後まで書き切りますよ~
まあ、まったりペースで行くので、苛立たないで気長にお願いします(笑)
連行された俺は、大五郎と2人っきりという記憶から抹消したくなるような時間を過ごしていたが、かつ丼のやり取り以降、お茶を飲んでいるだけであった。
大五郎も窓を空けて、空き缶を灰皿にして煙草を吸っていて、こちらに目すら向けてきてない。
あれから何が起きたかと言うと、つまり俺はでっち上げられた犯人という感じらしい。
その時のやり取りがこうである。
「冤罪だぁ! 俺は止めに入っただけで何もしてねぇ!」
「ああ、知っとる」
へっ?と固まる俺を無視して、大五郎はポットのお湯を急須に入れると湯呑に入れようとしたが面倒になったようでポットと急須と湯呑を俺の前に置くと、「好きなだけ飲め」と窓際に移動すると胸元から煙草を取り出す。
「実のところ、立石。お前が壊れた鍵の窓から入って中二階の所から観戦する前からワシも見とった」
「だったら、なんで当事者を捕まえないんだよっ!」
大五郎は、俺に煙草を見せて、「吸っても大丈夫か? 学校も煙草がノンビリ吸える場所がないんだ」と情けない顔をしてくるので、仕方がなく頷く。
「まあ、お前の言い分はもっともだ。だがな、お前の兄貴、和也は今や時の人だ。下手な処罰をすれば学校イメージは最悪だ。和也を持て囃すと同時にこの学校も注目されとる」
何を言いたいか分かり過ぎる、いや、隠す気すらない大五郎には好感は感じるが大人の世界の面倒臭さが顔を顰めさせる。
「ちぃ、もっと早くアイツを殺処分しておけば良かった」
「まったくだ。そしたら、ミラが卒業式の後に、ワシに「先生の事をずっと……」という未来もあったかもしれんしな」
アイツはいい女になると力説する大五郎を遠い人を見る目で見つめ、「そうですか……」と虚ろな目で答えながら、懐から取り出したスマホのダイヤルで『110』を押して、通話を押そうとしたところで大五郎にスマホを取り上げられる。
「馬鹿モン、いたずら電話は罪になるんだぞ?」
「いや、ガチで通報したほうがいいかと思ったんで?」
体面を気にしない大五郎は悪い男ではないが、なんでも語ったほうがいい訳じゃないという例まで示してくるあたり、できた先生なのかもしれない。
まったくとブツブツとは言っているが、煩いだけの先生と違ってあっさりとスマホを返してくれる大五郎はやっぱり良い先生である。
返されたスマホを素直に懐に戻すのをみた大五郎は、続きを口にする。
「お前の兄貴も問題だが、その相手もかなり面倒臭い存在だ。アレはフランスの大学の准教授、といっても日本で言うところではあるんだがな、そんな地位にいるのがネイサンというガキだ」
「えっ、和也と同じ年なんだよな?」
俺の言葉に頷く大五郎であるが、「だから厄介なんだ」と咥えた煙草に火を点ける。
つまり、ネイサンはフランスでも屈指の将来を嘱望されている天才という事なのであろう。総合的なものでは和也に負けこそしたが専門分野では、トップグループを走る存在なのであろう。
そこで俺は疑問を覚える。
もし、俺がフランスの偉いさんであれば、ネイサンを日本の中学校に転校するのを認めるだろうか?
いや、決して認めはしないであろう。最悪、日本に帰化されたら大損害だし、今更、中学で学ぶ事なんてネイサンにはあるとは思えない。
勿論、早熟ゆえの精神的な云々であればなくはないが、それを理由にわざわざ日本に寄こすことはないだろう。
俺が難しい顔をしているのを見た大五郎は、
「まあ、立石も感じている事は職員室に居る先生達もみんな感じた事だろうよ。分からないんだ、普通なら短い期間だとしても手放すのは思えないからな」
窓の外を眺めながら紫煙を窓の外へと逃がす。
「まあ、そんなヤツを怪我人が出たとかでなら、ともかく、しっかりとした物証もなく指導室に連行とかできない。国際問題になりかねないからな。だからと言って、先生が何もしなかったとなると示しが付かない」
「つ、つまり、俺は人身御供だと?」
肩を竦める大五郎は否定してこない。
「ワシは、正直、お前みたいなのは嫌いじゃない。本当なら怒鳴ったりして周りに処罰をしてるアピールや反省文を書かせないといけないところだが、その辺は、ワシが教頭のお小言を聞くという事で済ませておく」
大五郎は、「女の子を助ける為に迷わず飛び込んだ、お前は良かったぞ」と褒めてくるが、俺は騙されない。
「なんか良い事言った風で終わらせようとしてるが、完全に俺はババを引かされただけだろうがぁ!」
ばれたか、と言わん顔をした大五郎は、豪快に笑い、「給料が出たら本当にカツ丼奢ってやるから水に流せ」と肩をバンバンと叩かれる。
ここでごねたら、最悪、兄に当たれないならエマに行く流れも考えられなくもないと俺は思う。ネイサンのエマの扱いを考えれば、多少なら相手にもしないとあの場に居た者なら誰でも分かったと思われた為である。
「まあ、ここで1時間ほどおとなしくしていけ。そしたら解放してやるから」
仕方がないから、お茶を自分で湯呑に入れるが、入れてから時間が経っていたせいか渋みが凄い事になっており、眉を寄せる俺を見て大五郎は楽しげに笑みを浮かべた。
4時間目のチャイムが鳴ってから時間が経ち、後10分ほどでお昼休みといった時間になった頃、「そろそろ、いいか」と呟いた大五郎が空き缶に吸いがらを入れると俺に顔を向けてくる。
「もう、いいぞ。後は適当に時間潰して飯食って、昼から授業に戻れ」
「へ――い」
気が抜けた返事を返すが、今の俺の心境を考えるとしょうがないと思ったようで、「味噌汁も付けてやるから機嫌を直せ」と苦笑してくる。
「そこはせめて、カツ大盛を許可するぐらいしてくれ」
「独身男性の財布はいつもピンチなんだ……」
と世知辛い事を言われて、大人への夢がまた1つ砕かれて、大人への階段を上った俺だった。
大五郎に解放されて、指導室を出ると大五郎とは違う意味で暑苦しい者が俺の出所を待っていた。
長髪を手入れしてなく、好き勝手に暴れるような髪をしている口の端を上げた男臭い笑みを浮かべる、昔は狂犬のような恐ろしい男だったが、今や、飼い犬に成り下がった男が壁に凭れ、腕組みをして俺を待っていた。
「今、ムサイ大五郎と1時間も濃い時間を過ごした後、最初に見たのが、お前ってのが結構ショックなんだが、轟」
「おいおい、学校じゃ、先輩って呼べよ……ワリィ、想像しただけで胸ヤケがするな」
どうして、俺の周りにいる男は、俺に敬語とか使われたりすると気持ち悪いとか考える奴らばかりなのだろうか?
もっとも、そう言ってくる奴らに敬語を使う予定などない訳だが。
「ちと、顔貸せや。昼にカツ丼おごってやらぁ」
「カツ丼は大五郎から今度、奢って貰うからいい」
そう言って逃げようとする俺の襟首を掴む轟。
「そうか、お前はついてるぜぇ? 俺はカレーの割引券も持ってる。じゃ、カレーを奢ってやるかぁ、後輩ちゃんからお前の好物って聞いたからな」
後輩ちゃん?轟がそう呼ぶ相手など美紅以外有り得ない。なんて危険人物に俺の個人情報洩らしてるの!と俺はこの場にいない美紅に届けとばかりに心で文句を言う。
事実は、シンシヤに話しただけで轟に話したわけではないので裏切りと言う訳ではないが実質的に被害を被ってる徹には同じ事である。
「この店は俺の顔が効くから、大盛したい放題だぜぇ? 好きなだけ食えよぉ」
俺は、大五郎に続き、今度は轟に襟首を掴んだまま引きずられて、学校の近くにあるカレー屋さんに連れて行かれた。
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