C-0107 冒険者ギルド
「ファッティア、行こか」
「そうね、早く町壁のにゃかに入りたいわ」
二人は草原を昨日見つけた町(の街壁)に向かって歩く。一昨日まで一週間ほど雨が続いたが今日は雲一つ無い快晴だ。
昨日はお互い顔を真っ赤にして一言も喋らず寝た。
朝もまったく会話せず、目が合うたびにそっぽを向き、〈アイテムボックス〉から取り出したサンドイッチを渡そうとして指先がちょっと触れて慌てて離して落ちそうになったり、拾おうとして同じく拾おうとしていたファティアと額をぶつけて間近で見つめ合うことになっちゃったり、離れようとしたら二人で持っていたサンドイッチが千切れて半分になったけど〈アイテムボックス〉に戻す気にももう一度渡す気にもなれず自分で食べちゃったり、中の果物がかなり辛くて二人して「「水っみずー」」と叫んだり。
起きてから一時間ほどしてようやくまともな会話(カミカミ)になった。
「ファチア、町に入るときは何をしゅるの?」
「えっとね、にゃまえ、しゅぞく、ねんれい、もくてきを聞かれりゅわ。そのあと犯紋の有無を確認されて、にゅうぎゃい税を払えばいいわ」
「犯紋?」
「はんじゃいさに押されるの。私は押されて無いけど」
「そう、ありがと。そういえば、この世界のお金はどんなのがあるの?」
「うん、一番下が銅貨、銅貨十枚で大銅貨。おんにゃじようにして、銀貨、大銀貨、金貨、白銀貨、魔金貨。
入町税は町によって違うけど大銅貨五枚くらいよ」
ファティアを運んでいた盗賊から剥ぎ取…盗ん…貰ったお金は、銅貨が四十二枚、大銅貨が十四枚、銀貨が四十六枚、大銀貨が一枚。
普通に暮らすなら一年で金貨一枚半もあれば十分だそうだ。宿暮らしなら二枚から二枚半とのこと。結構あるので、三ヶ月は大丈夫だろう。
一時間ほど歩くと十レクほどの街壁が見えてきた。門は中央に貴族とか大きい商会の商隊が使うらしい大きなのが一つ、左右には少し小さい門が二つ。
門の右側にある町の滞在許可手続き待ちの列に並ぶ。左の列には許可証持ちかギルド所属の人が並んでいる。許可待ちの人はそこまでおらず、すぐに自分たちの番が回ってきた。
手続きは街壁の外にある部屋でやっている。中は書類と道具が壁際に少し並んでいるだけでかなり簡素だ。衛兵が入り口と出口に二人、真ん中のテーブルに一人いる。
「 次ー。二人の種族と年齢は?」「人族でユーヤ・タキモト」「猫人族のミーナ・ファティア」「年齢とここに来た目的は?」「十八歳。冒険者登録をしに来た」「十七歳。私も冒険者登録をしに来たわ」
地球では一年三百六十五日とうるう年が四年に一回だが、レディラスでは一年三百四十日。
地球の六月二十六日にレディラスに召喚され、その日がレディラスでの七月二日。
ファティアが言うには出会った日が七月二十七日でさらに十七日が経っているので今日は八月十四日。
十六歳×三百六十五日+うるう年が五日+(誕生日の九月二十五日から六月二十六日まで)+(七月二日から八月十四日まで)=六千百六十一日=十八歳と四十一日
となり、召喚された翌日の七月三日にはレディラスでの十八歳になっていた。
「そうか、じゃあ後はこの水晶の上に手を乗っけてくれ。これは犯紋を調べるものだ。………問題無し。
あとは、入町税を一人大銅貨五枚払ってくれ。ちなみに奴隷がいたら大銅貨一枚だ」ズボンのポケットから真ん中に穴の開いた小さめの銀貨を一枚取り出して渡す。
スキル〈アイテムボックス〉が使えるとばれたらいろいろと面倒なことになるらしいので持てる物は持っておくことにした。
お金を渡してすぐに、名刺サイズの鉄の板が渡される。赤い線が一本横に入っていて裏面には今日の日付が刻印されている。
「それは今日から一週間の滞在許可証。来週までにはどこかのギルドに入るか住民登録をするように。町へは奥の扉から入れる。それじゃ、町を代表して。 ようこそ、冒険者の町アルカバレッジへ。 次ー」
門から続く東の大通りには二階建ての商店が立ち並び、通りの行き着く先には領主の城が見える。
通りにはこれから魔物を狩りに行こうとする冒険者、彼らへサンドイッチなどの軽食を勧める屋台の売り子、寄り添って歩く一組のカップル、その横を駆けていく二人の少年とそれを追いかける三人の騎士、そのほか大勢のひとであふれかえっていた。
そこにはさまざまな種族がいた。この世界には、
特徴の無いことが特徴とも言われる、人間。
猫や犬、熊、狐、兎、狼などの耳と尻尾を持ち身体能力に優れた獣人。
耳が長く先がとんがっている亜人“精霊の理解者”エルフ。
とある暇な貴族が十年掛けて調べたところ平均身長十七フィレクだったという“鍛冶の申し子”ドワーフ。
背中に翼を持つ“空の支配者”飛翼種、なかでも左右の翼の色が違う混翼種。
ケンタウロス、三つ目などの魔物の一部を持っていたり体内の構造が人間と異なる種、魔人。
中でも独立した種である“血と誓約の番人”吸血鬼。
意思の疎通が出来る種族がたくさんいる。
よくラノベやweb小説とかである差別や奴隷制なんかもあるが、国や地域によって違ってくる。
ローツェ教皇国、同じ宗教を国教としているフィリス王国は人間至上主義で、商業都市国家イエラと武器や防具の輸出で成り立つドワーフ王国は客であればそれでよしとする。
獣王国ワーライトは商業都市の商隊を除き一切の外交をしていない。他種族が町にいたとして即座に衛兵がとんでくることはないが歓迎されるわけでもない。
アルレ民主主義共和国はその名の通り民主主義なので他種族への態度が民衆の意思で二転三転してきた。
魔人は国を持たない。いろんな種族をまとめて魔人とくくっているため、単一の種族で国を起こせるだけの人数がいないうえ、種族間で文化や習慣がまったく違うので獣人のように纏まることもない。大昔には外見から人型の魔物だとされて聖戦(と言う名の侵略)で滅びかけたことから排他的である。
そして、ここガラスト帝国は年齢性別種族の一切を問わず、”力が全て”、と言う考えの下成り立っている。
「ファティア、今日はどうするの?」
「身分証明書がないと泊まらせてくれない宿もあるから先に冒険者ギルドで登録をするわ。
この町は冒険者ギルド発祥の地で総本部があって、しかも近くにはエルシア山環、異界迷宮、魔の森があることで有名だよ。
たぶん魔の森って私たちがいた森のことじゃないかな。冒険者はいくらでもいるから宿はすぐに埋まるはず。
宿を取ってから鍛冶屋と防具商でしっかりした武器と防具を買って、お昼ごはんを食べたら服とか歯ブラシとか必要なものを買うつもりよ」
「登録するときは何をするの?」
「えっと………もうギルドに着いたわ。そこまで特別なことはしないよ」
門から歩いて一分ほどのところに三階建ての木造建築がある。剣や斧、杖を持った人たちがひっきりなしに出たり入ったりしている。
中は左の壁が無く隣の酒場とつながっている。カウンターが九つあり、正面の三つのカウンターの上には依頼完了・素材買取と書かれていて、中央の二つには依頼受付、右の三つには依頼受注、一番右端には新規登録とある。
新規登録のカウンターには黄色い羽の飛翼種の女性がいた。
「こちらは冒険者ギルドの新規登録カウンターです。新規登録で間違いありませんか?」「「はい」」「では、冒険者ギルドの説明をさせていただきます。冒険者ギルドは魔物討伐を中心とする依頼の斡旋及び魔物の素材買い取りを行う組織となります。
当ギルドでは冒険者及び依頼をSSS、SS、S、A~Fランクの九段階に分類、適正な依頼の斡旋を行っています。
新規登録者は一切の例外なくFランクからとし、同ランクまでを対象とする依頼を受けることが出来ます。
パーティー申請を行われる場合は請けられる依頼はパーティーランクまでのものとなります。目安としてはパーティー申請される方々のランクの平均の一つ上となります。
依頼は後ろにある掲示板に貼られています。依頼受注カウンターにギルドカードを提出の後、請けたい依頼の番号をお伝えください。
青い紙に書かれたものに関しては人数制限を設けているものです。それらを請けたい場合は該当する依頼書をカウンターへお持ちになってください。
黄色い紙に書かれたものに関しては依頼完了報告が先着順となります。依頼が完了した時点でそれ以降の完了報告を締め切らせていただきます。
赤い紙に書かれたものに関しては護衛等の一定期間行動が制限されるものとなります。こちらも人数制限がありますので依頼書をカウンターへお持ちください。
依頼完了報告は該当カウンターにてギルドカード及び討伐証明部位もしくは依頼主から渡される証明書を提示してください。ここまではよろしいでしょうか?」
「あ、はい」「ええ」
「一定の実力、ギルドへの貢献等が認められた際に昇級の権利が発生します。昇級する意思がありましたら権利発生の翌日以降に所定の手続きを行い、ギルドカードの更新をもって昇級とします。なおBランクより上への昇級は試験を行い条件を満たした場合のみとなります。
昇級に関する評価には年齢性別種族身分によって公平性を欠くことはありません。
当ギルドは法に反しない限り冒険者間の一切に介入しません。
当ギルドでは登録者の現金をギルドカード上の数字として扱い、本部及び全支部にて引き出しを行えるようになっています。
ご利用の際は素材買取カウンターにて預金、引き出しをする旨をお伝えください。
ギルド所属者の入街税は免除されます。ただし、Fランクのみ税の免除はありません。これは脱税目的のギルド入会を防止するための処置です。ご了承ください。
以上で当ギルドの説明とさせていただきます。何かご不明な点はございますか?特にないのでしたらこちらの用紙に氏名、種族、年齢、性別、生年月日を記入し、こちらの水晶に手を乗せてください………ありがとうございます。
こちらがギルドカードとなります。魔力を流すとカード上にステータス、冒険者ランク、パーティー名、パーティーランク、現在受けている依頼、預金金額が表示されます。
再発行は新規登録をしたギルドにて小銀貨五枚、五百アトラが必要となります。お気を付けください。
なお、アルカバレッジ第二壁の内側にあります冒険者ギルド本部の掲示板には冒険者ランクC以下を対象とした依頼はございません」
長い説明だった。要約すると、
・冒険者ギルドは依頼の仲介をする
・請けられる依頼は自分、または自分のパーティーのランクまでのもの
・依頼を請けるときはギルドカードと依頼の番号を伝える
・人数制限などがある依頼もある
・依頼を達成したらそれを証明するものをギルドへ持っていく
・依頼をこなしていればそのうち昇級できるかもしれない
・銀行のようなこともやってる
・Fランク以外は入街税が免除される
ということか。
渡されたギルドカードは白色で、表面にはFと刻まれている。今夜にでもステータスを確認するつもりだ。
「ユーヤ君、次は宿を取りに行きましょ」
「そうだね。せっかく町に着いたのに寝泊りする場所がないのは、ね……。」
そういって僕らは宿を取るためにギルドを後にする。他の冒険者に絡まれるテンプレがあるかと思っていたが、そんなことはなかった。
後で知ったことだが、毎日十人以上が冒険者登録をするが、それにいちいち絡んでいたらギルド側が営業妨害だとして登録の取り消し処分を行う。
新たな可能性の芽を摘んでしまうかもしれないからだ。
そうでなくとも、良い意味で名が知れるのは冒険者たちの望むところだが、悪い意味で有名になると昇級に関する評価に響く。
ランクがあがると大きな商会や貴族王族を相手にすることもあり、冒険者と言うことである程度の無礼は許容されるが最低限の礼節すら出来ていないと最初の顔合わせの段階で依頼取り消しになる。
そうなるとその冒険者を紹介したギルドも責任を問われる。
過去に何度もそういったことがあり冒険者の日ごろの行いをランクアップの評価に反映させることは暗黙の了解となっている。
ただ、どんな世界にも頭が残念な連中はいるので、優也たちは運が良かったのだろう。