同乗しかねるのです
6.同乗しかねるのです
「ドナドナドーナドーナー荷馬車はゆーれーるー」
私の気分はドナドナ。
乙女ゲームの恐ろしさたるやー。結局、ストーリー通りに王子の馬車で登校している。
この馬車に同乗するまでも大変だった。むしろ私は同乗なんて望んでいなかったのだが。
ーーー
「なるほどな。自転車で通学中に石に躓いたが、羊に乗って馬車に突っ込んでいたわけだ。」
話を要約すればその通りなのだが、当事者でさえ荒唐無稽な話にしか聞こえない。
「はぁー。胡散臭くてすいませんが、おっしゃる通りです。」
「そうか。では、俺の馬車に乗っていけ。」
王子がそう言うと、先程まで黙って王子の後ろに控えていた護衛役らしい人が鋭い声を上げた。
「サマオウジマジクロ殿下!何をおっしゃっているのですか!このようなどこの馬の骨ともしれない小娘を同乗させるとは!」
護衛役は20代前半くらいだろうか、鬼の形相で私を睨み付けてくる。
「そもそも殿下の乗った馬車に突っ込んで来ただけでも、立派な反逆罪ですよ!それなのに、その娘の身分も確認しない、名前さえ尋ねてはいないではないですか!?」
そう言われればそうだ。私は一方的に王子を知っているが、向こうはそうではない。
「俺も名乗っていない。まあ、お前が思い切り叫んでくれていたから、バレバレだろうがな。」
「も、申し訳ございません!」
「まあ、いい。俺に逆らうことは許さない。2度はないと思え。」
「はっ、殿下の申されるままに!」
この流れだと、私が同乗するのは決定事項だということか?
ーーーだが、断る!!!
「私のような素性の知れない、いかにも怪しい小娘が殿下と同乗などできません。殿下のお優しい心遣いだけで、胸一杯でございます。どうか、私のことはお気になさらず。」
「己、小娘!殿下のご厚意を無下にする気か!?不敬罪にあたるぞ!」
反逆罪の次は不敬罪ですか・・・やはり私には拒否権がないようだ。
ーーー
「着いたぞ。」
あーあー、勘弁してよ。王子の馬車から見知らね小娘が登場とか・・・ストーリーでの女生徒に妬まれるイベントが発生してしまう!
「早く降りろ。」
クッ、腹を括って行くしかないのか。私は覚悟を決め、馬車の外に出た。あれ?おかしい、人気がナッシングなのですが?
「裏門だ。俺は正門で降りる。」
なっ、な、なんですと!コレで妬まれイベントが1つ回避できる。私が鳩が豆鉄砲をくらったような顔していると、王子は興味深そうに私を見つめていた。が、そのまま無言で去って行った。