第二話 不思議な美青年
倒れている2人の先に青年が立っていた。面倒臭そうに銃を懐にしまう。
「…チッ…面倒臭い。…あんた早く立って、行くよ」
何に苛ついているのか舌打ちする。ため息を吐きながらこちらに近づいてきた。
…ー綺麗な青年だった。
男の俺でも目を奪われてしまう程、綺麗に整った顔立ち。月光を浴びて輝いてみえる銀色の髪。男にしては長めだが見事に似合っていた。ワックスで整えられて程よく跳ねている。透き通った黄緑色の瞳が見たものを捉えて離さない。
黒地に青い花柄のワイシャツを胸が見える程あけ腕まくり。ネクタイ無しに白いベスト。片側のポケットには金のチェーンが取り付けられて派手なベルトに白いズボン姿だった。綺麗な顔立ちだからこそ似合う服装である。ほのかに香水の香りがした。…随分派手な奴だな…。
美青年はポリポリと頭を掻きながら俺の手首を強引に引っ張る。
「ーっ!!」
さっき切られた足に激痛が走る。痛みに耐え切れず顔を歪ませる。美青年は傷に気付き手首を離した。
「あんた…切られてたんだ。…バカ?」
いくら美青年でも初対面の奴に“バカ”なんて言われる筋合いは無い。思わず睨みつけた。
「そんなに睨まないでよ。怖いなぁ。治してあげないよ、そんな顔してると」
怖いと言いつつ俺の睨みは彼にはあまり効果がないようでニコニコ笑っている。全く反省する様子は見られない。
「…ったく…仕事増やさないでよね。ほら早く足出して」
言いながら彼は俺の足を自分の近くに寄せた。傷を見つけると手をそれに沿って撫でて、そしてかざす。瞬間、淡い光を帯びてやがて消えた。同時に傷が塞がっていく。やがて何事もなかったかのように消えていた。
「…魔術者か…お前…」
非現実的な現象をいたって冷静に受け止めた。そして疑問に思ったことを追求する。
「…何が?ほら、行くよ」
彼はそう言って俺の手首を引っ張って立たせた。俺が行く先を尋ねるより早くスタスタと先に歩いていってしまう。
魔術者かと聞いてもとぼけるし、“行くよ”と言ったきりどこに行くかも言わず先に行くし、名前すら名乗らない。何なんだあいつは?
「ちょっと早く来てよ、何やってんのさぁ」
後から追ってこないことに気付いた彼はキレ気味に後ろを振り返った。
さすがに怪しくなってきた。こんな訳の分からない奴の言う事に素直に従う純情さは持ち合わせていない。
「あんた何者だ?自分の名前も名乗らず人を連れて行くのは順序がちがうのではないか?…身勝手にも程があるぞ」
「…相模銀」
明らかに反抗した態度を見せるとむすっとしながら呟いた。
「は?」
「名前だよ。相模銀。銀でいいよ。これ以上はまだ教えられない。名前言ったんだからついて来てよね」
彼は既にキレていた。これ以上刺激してめんどくさいことになることだけは避けたい。大人しくついて行くことにした。
駆け出して銀の元まであと数歩。急に血の気が引いた様に頭がクラッとして目の前が歪んだ。そのせいで足元がおぼつかずその場に膝をついてしまう。
「…まさか…貧血?」
声色からして明らかに嫌そうに聞いてきた。俺だって名前しか知らない銀の前で、しかもこんな道端で倒れたくない。
「それってさっきのが原因だよね…チッ、めんどくさい…」
と呟きながら辺りを見渡していた。別に頼るつもりもないが露骨に舌打ちされると腹が立つ。
「…平気だ」
半分ヤケになって立ち上がる。銀は俺を見てニコッと笑う。
「そ?倒れないでよ?本当、めんどくさいから。男を助ける趣味は俺には無い」
表情と言葉が合っていない。その不気味さに背筋が凍った。
銀は何事もなかったかのように再び歩き始めた。俺はそのちょっと後ろを歩いた。
数分歩いた先で銀は立ち止まった。目の前には建物。『Fancy』というカフェバーだった。『Fancy』を和訳すると『気まぐれ』。オーナーが気まぐれなんだろうか?
お洒落な外観で大人しか入れないようなそんな雰囲気を放っていた。玄関先には“クローズ”の看板が出ている。…にも関わらず銀は何食わぬ顔で入って行ってしまった。…あたかも当たり前のように…
こんなお洒落な店に入ったことがない俺は戸惑ってしまう。営業外なんだから尚更だ。
「…ったく、もーっ!何してんの?早く入ってよ!」
戸惑う俺を銀は強引に引っ張り建物内へと引き込まれてしまった。
ここまで読んでくださり誠にありがとうございます。
なんとか続いておりまして、作者本人も驚いております。
まだまだ始まったばかりですが
最後までお付き合いくださってくれましたら幸いです。
それでは、また来週お会いいたしましょう!