忘れちゃいけない。夏が熱いのは夏休みの間だけだ。しかし、ま、同じ夏休みは、二度と来ないんだけどね。―The Graduate? When did you enter?―
第弐幕 第弐場『忘れちゃいけない。夏が熱いのは夏休みの間だけだ。しかし、ま、同じ夏休みは、二度と来ないんだけどね。嗚呼、今日もまたコンドルが飛んで行くのを見送ってる。 ―The Graduate? When did you enter?―』
???:『They sought it with thimbles, they sought it with care(彼奴等(所持→指貫+配慮)==探索)~ They pursued it with forks and hope(彼奴等(使用→又食器+希望)==追跡)~ They threatened its life with a railway-share(彼奴等(照準→鉄道株)==命の脅迫)~ They charmed it with smiles and soap(彼奴等(抱擁→微笑+泡)==ウインク)~♪』
通行人==疑問(歌――小鳥?)+振り返る/頭上に影==風が如き天朗気清な渡り鳥←少年――軽快+小麦の肌+引き締まったくびれ+無贅肉上腕筋+強足腰+割腹筋+四肢(すっくと伸縮――元気良く生を謳歌する向日葵の葉+太陽の光を命一杯感受)//~からなる魂とは……こいつは……いや、健全に健康的だ。
ウェンリー:待てーっ!
男:しつこい→お前!
その他大勢の通行者==気ままに歩く++(ウ+男+子)==場違いに走る++カメラ==フォロー・パン→三者/ウェンリー==詰める→追跡対象のと距離――(疾走→路/擦抜→人混み/走行→壁/跳下→階段/跳越→赤信号横断歩道/超跳下→高台道路(参考・魔女宅(capⅦ(初配達(忘れ物)→奥さん)||旧鋼錬OPⅣ映像)←カメラ==(低位置でフィックス(男・子・ウの順で踏みつける様にカメラに接近)→フォロー・パン(ウを追う様に。(ad・此処でウがカメラに向かってピースとか))→POV(ウの主観。大袈裟に上下振動→高台から飛降→空を映して自由落下に応じて下へティルト(この下を向いたままの落下シーンは長めに(ad・鳥に変化した子を掴んでもみくちゃになりながら一緒に落下とか))→横からのロングショット(雲を切りつつ建物の屋上を破壊しつつ着地(というより衝突(無傷))(参考・ストレンヂア決闘シーン))(しかし滞空時間どんだけ←Uレイノルズ数←土の民らしく土元素を減らして飛行可能とか←楽しめ)))←軽業――パルクール(フリーラン==無駄なパフォーマンス)/男==搭乗→大船←子==形成((文字通り泥船||掃除機||カオナシ)&&(男==乗るだけ++子==舵))
男:(舌打ち)射撃→女ッ!
男==命令→子==弾丸発射(!=先の灰泥弾/==高圧硬石弾)/ウェンリー==無用(突進)/着弾→顔――Spark!+無傷(無防御態勢+鈍衝撃+軽鈍行動)/ウェンリー==地面を蹴る→Spark――Sparkの正体==(錬成反応OR生体防壁OR超自我防壁ORただの痩せ我慢ORANY→音光==ウェンリーの抵抗と機動力)
ウェンリー:せい、やッ!!
ウェンリー(身体==包装――淡い土色の光)==叫叫叫+跳躍/踏む→地面==地響++道路==亀裂+瓦礫(捲れ上がる)/泥の船==たたらを踏む++通行人==跳ね上げられる++自動車==渋滞+渋滞+渋滞――凄い迷惑//(是!=錬金「術」&&是==「力」)。土の民たる自前の能力//力==無効果++泥の船==跳越→瓦礫
男:(舌打ち)喰らえ→泥人形!
男==命令→子==泥弾/通行者+床+壁==受動寄生+人形化――屍人(ゾンビ)よろしく泥人形(ゴーレム)/しかし彼はそれ等を無視する。彼は、木を見て森を見ないほど愚かではない。元凶を倒さなければ無限沸きだ。「むげーんだーいなーゆーめのー跡のー何もない世の中じゃあ」「愛しい想いも負けそうになる」ってものさ(意味不明)。ならその他は公務員(ポリス)に任せた方が得策だ。
だからスポーツ店の壁をRockで殴る。するとその部分が放電(スパーク)し、壁から建物と同素材の板が生えてきた。彼はソレらに飛び乗ってキャットウォーク、先に進むごとに連鎖放電し次から次へと板が生えていく。
ウェンリー:『I've been working on the railroad(俺の歩み=路)~All the livelong day(生きる限り)~ I've been working on the railroad(俺の歩み=路)~ Just to pass the time away(夜=短し)~♪』
男==舌打ち/子+船==跳躍/着地→路面電車/灰泥包装→電車==怪物化/電車==暴走→他の車を砕き食べながら爆走(”機ャ戯ャ”狂ャ欺ャ”奇ャッ!)/ウェンリー==大跳躍/着地→タクシー屋根(脳内==罪悪感情+なるべく無傷)/衝撃(物理+精心)→額殴打――ウェンリーの着地一瞬前に一際大口径の硬石弾で命中――傷==防御可++衝撃==防御不可(+=空中――抗う力無し)/ウェンリー==吹き飛ぶ
男:(嘲笑)ざまあ→小娘==轢死……!?」
ウェンリー;熱い(笑)!(ウェンリー==掴む→タクシーの尻++火花(BZZT!)+二本の軌跡←ウェンリー脚/素早く登車→屋根(涙目+苦笑))「I==will back」……こんにゃろー→手前っ! Up yours! DADADA!
ウェンリー(毒しつつ)==錬成→二挺拳銃――百万発入りのコスモガン+(見た目も機構も)よく解らない戦車砲対戦車砲(Oh, my G!)/軽く乱射+跳渡→自動車(踏砕==迷惑(ヘマ)←ウェンリーはしない――それでも穴←子の弾)+防御→子の弾
ウェンリー:++!(ウェンリー==踏→車屋根++蒼白い錬成反応→車屋根/錬成→大砲(出やがった))「機械==思想――人間の頭から出た具現」!
ウェンリー==掛け声++撃っちゃっる++下のタクシー==衝撃に跳躍。
その車の猫耳運転手:うおわっ!?
弾==命中/ウェンリー==喜ぶ/子==能面/猫運転手(窓から顔を出して)==質問→君の行動!
ウェンリー(丁寧語):察し、躊躇い、謝罪、お邪魔中。毎度お馴染みランナー
ウェンリー==愛想笑い/運転手==辟易――聴く→言葉「ランナー」//警察OR消防士==仕事→市民==手助けする――情報提供OR道を空ける←ランナーに対して!=手助けする――むしろランナー==自己的+利己的が多い→貸し借り無用→一般市民にとってのランナー==しばしば傍迷惑
運転手:「安全運転しかしない
運転手==寛大(ORウェンリー==可愛い女の子→大目?OR我関せず(首を引っ込める)←猫らしい冷めた方(偏見)/←ウェンリー==都合がいい→お礼+笑顔+それ以上の会話無し+眼の前の相手に集中
ウェンリーの弾丸==効果なし――子ども==痛がらない/子の灰泥弾==車を泥人形化→他車を噛み砕き+共食い(==ホントのモンスタートラック())←傍迷惑――病原菌の伝染感染(マッドハザード)。←自重希望/猫==何だかんだでカーチェイス/車の間を縫って追跡→ハイパー割り込み暴走する電車/問==所で、こんな事が起こっても周りの車は平常運転なんだけど:解=此処はNG、この街じゃ日常茶飯事だぜ
っと、一息つこう、車が赤信号に止まった。銃撃戦に熱中していたウェンリーは「はわわっ」とたたらを踏み、同じく子どももまた「ぺたん」と尻もちをつく。船に乗っていた男だけが動じずに、「転んでる場合か! さっさと逃げろッ!」と怒声する。子どもは何も言わず小さく肯き、横に並ぶ建物群を見上げると、その壁に壁に向かって跳びついた。すると手足が「Guzuri」と壁に纏わりつき、蛞蝓か蛞蝓のように壁を滑り這う。
「うはっ、何でもアリか」ソレを見てウェンリーが驚き、「いや簡単に『何でも』とか言うな」とすぐさま考えながらその後を追う……と、その前に、
「ありがとうございます、ニャンコ先生。ええと、お金は……」
「またまたご冗談を。要らねえよ。『前のタクシー追って!』、なーんて如何にも面白い事も出来たし、むしろ感謝だ。それに、可愛い笑顔はプライスレス、だろ?」
「資本主義じゃあ、換金できないなら無価値と変わらないと思います。それにお金は解りやすい気持ちの指標、『恋人に薔薇を何本プレゼントする?』って奴と同じです。そして何よりお父さんは言っていた、『一人前の人間なら借りは親でも作るな』と。というわけで適当にお金を置いて行きますね。ヒャッハー、釣りは要らねえぜいっ(石コロバラー)」
「要らねえって言ってんのに……って何この顔よりデカイ虹色の蝶の石キモッ」
「蛋白石でござい。しかも自然に燐灰石から珪酸に置き換わった、研磨してない天然ものだぜ? いやはや、銀地族も星の錬金術にはとても敵いませんなあ! 星じゃなくとも、生物なんて無知で人体錬成をするんだから。けれども魔機結社だって負けてません。『ハッタリかまして、ブラジャーから次元破壊爆弾まで、何でも揃えてみせるぜ』。何か入用の時は魔機結社まで。お安くはありませんが、それ以上の価値はありますよ~、男爵❤」
「『ラーメンからミサイル』じゃなくて?」
「それは三菱」
「てーか敵奴さん、もうあんな遠くに行ってるぞ」
「ああっ! くそぅ、高速言語システムなら野球のストレートだって遅くなるのにぃ。時は速いね。『アキレスと亀』だ。ハイ……ではでは、それではまた会う時も、お元気で。『貴方の協力に感謝します(Sunc yuo for yuoer coparation~♪)』(mwah♪」
「あ、おい……!」
全く、やっぱりランナーだ、利己的で人の噺を聴きゃしない。まるで弾丸の様な女だなァ――そんな猫の台詞を背後に、ウェンリーは壁を這う子どもを目に、他の車を跳び渡りながら思った。
(何でもありじゃない。変化は飽くまで元があって生まれる。アレは発達していないだけ。まるで何が孵るか、何が咲くか解らない種や卵のように。しかも成長したとしても、何時でも元の胎児に戻れる。胎児、か。それが主題か。フラスコの中の小人。未進化の生物。可能性は無限大? なら原生生物や真正細菌に近いのか? それともそれ以前、思考するエネルギーの塊か? 素粒子か? まさかスカラカチャカポコと細胞が一つ一つ思考しているのか?)と、子どもは壁を滑って屋上へと消えてしまった。「見下ろしても谷の中は解らないけど、見上げてても埒が明かない、同じ目線に立たないとねっ!」
そう言って車体を跳びながら壁を睨む。高さは十五~十六と言った所。二段でいけるか?
ウェンリーはステップを踏んで助走する。高跳びのように走り込みぃ……一、二の、三ッ! BANG! と盛大にタクシーの屋根を踏み砕き(後で直した)高らかにウェンリーは跳躍した。しかしそれでも建物六階分と言った所。跳躍した地盤が悪かった。砕ける足場では踏ん張りがきかない。しかし流石に一度で十五階を跳べるとはウェンリーも思ってない。仮面の騎手だってジャンプ力は大体10~30mだ。しかしだからといって「届かない」ではお噺にならない。滑り止め(スパイク)代わりと脚を壁にめり込ませ、勢いを殺さないまま壁を蹴って再加速。これでようやく十三階か。更にウェンリーは跳躍の勢いが死ぬ前にぶん殴るように両手を壁にめり込ませ「うおおおおおおりんッ!」と懸垂よろしく身体を持ち上げ更に上下逆さにし棒高跳びのように飛んだ。結果、
「Huh、この高さなら流石に……!?」
としたり顔で驚く男の目の前に見事着地。錬金術有りでも驚きの身体能力である。
「どーめー」と一つニヤリ。(ていうか階段造っても良かったな)とも一つ苦ニヤリ。
男は隠さず舌打ちして屋上を走る。ウェンリーはそれを追う。三階六階のアップダウンを文字通り飛んだり跳ねたりしながら屋上から屋上へと跳び渡る。
子どもがウェンリー目掛けて撃鉄も引金もない銃を鳴らす。それら弾丸は狙い違わず相手に向かい、だがやはり無傷、ウェンリーが走りっぱなしのまま防御態勢を取っていないにもかかわらず、弾丸は薄皮一枚で「SPARK!」火花と電撃に砕け散る。それが生身の防御力か、錬金術か、「鉄腕的な生体防壁か、或いは磁力とか斥力とかエネルギー投射とかそんな「スター・ウォーズ」的フォースフィールドかは解らない。しかしその電撃は確実に彼を強化していた。その見えない壁が弾丸を防ぐたびに、防御面に電火が弾け文構スペクトルした極光のような星屑が散逸する。その華奢ながらも筋肉質な脚が地面を踏むたびに、接触面に電火が弾け磁石の様に少年が跳ぶ。
跳びながらお返しにと弾を返す。それら弾丸もまた狙い違わず相手に着弾し、だがやはり無傷、というかEATED(もしかして:EATEN)、子どもはそれを呑み込んだ。ただ喰った分をそのまま仕返してくるので余計性質が悪い。
まあ性質が悪いのはお互い様だ。こんなガンバトルをガンガンやって、舞台が傷付かないわけがない。子どもの弾丸で屋上は月面クレーターのようにボコボコだ。ウェンリーの錬金術で屋上はそこら辺にオブジェを生やす。
子どもが灰泥の大砲を撃つ。それをウェンリーは流石に衝撃が重いと思い、跳躍で避け、手頃な看板に跳び移る。が、その前に、そこを子どもが狙い撃つ。ウェンリーを? 否、狙いはウェンリーの着地する足場だ。思惑通り足場が砕ける。これで跳び移ろうとした者は、すっぽ抜ける様に地面に落ちよう。中々賢い。しかしそれも子どもにしては。ウェンリーが砕けた看板の一つを踏むと、電撃が連鎖し周囲の瓦礫を引き寄せて元通り(のようで「なんということでしょう」な意匠)の足場に再構成された。ノープロブレム。
なお現界連合が定める「世界道路交通安全局」により例えドラ猫くわえた高速栄螺さんを追っかけたり「いっけなーい! 遅刻遅刻~」と少女漫画よろしく食パン咥えて走るシチュでも、己の身体能力や異能力に任せて民家の屋根やビルの壁を走ったり自動車や列車に跳び乗ったり地中や空などに潜ったり飛んだりして我が道を往くのは著しく他の迷惑になる可能性があるので、「路外侵入不可」等の指示標識がある路での通行は推奨されません。そういうパルクールは「AC」か「UC」でやってください。
なおどうでもいいが、ネタ的には「遅刻しそうな女の子が食パンを咥えて云々」というパターンが少女漫画の定番の様に思われているが、実際にそんなパターンはどれ程あるのだろうか。あまりない気がする。「眼鏡を外したら美人」並に無い気がする。そもそも昔の漫画でパンを朝食に食べる家庭がどれほどあるだろうか? しかしいずれにせよそれは原典を無視して世界に広がる。まるで神話の様に、時にソレを語る人さえ無視する様に、生きているように、物語が設定という食料を食って大きくなる。一人歩きする。ここに人の噂伝達の不可思議さが在る。無論、「人気」を語る上では常に母数を考えなければならず、世界者口を考えればその母数は百億超、何でもマイナーに成ってしまうのだが……閑話休題。
そしてこの建物が侵入可かというと……まあ、ソレは置いといて。
ついにウェンリーは二者に追いついた。大型マンションの上、少年野球が出来る程の広い屋上で巨大な砲弾が男に飛ぶ。しかし子どもがそれを弾く。弾かれた砲弾は屋上から下に落ち何やら悲鳴が聞こえてくる。加えて何処かの部屋で曲を聴いているのかヤケにノリノリなジャズが聴こえてくる。終始イマイチ締まらないがノリだけはいいぜ四月莫迦の夕闇通りごきんじょ探検冒険隊宴。男はこれ以上距離を稼げないと悟ったか足を止めた。
「しつこいなお前も」ニヤケながらも、苛立ちが混じった顔で言った。「別にいいじゃねえか。これくらいの悪戯、誰だってやってるだろ」
「『お前がそう思うんならそうなんだろう。』『ただし、他人の同意を得られるとは限』らならない。誰だってやってるからどうしたと言うんだ。迷惑かかってる人がいるんだ。それだけでお前のやってる事は罪だ」
「罪。罪と来たもんだ」男は肩をすくめて笑った。「そんな大層な言葉を使うなよ」とでもいうように。だから男もまた道化て言った。「俺はフェミニストだ。故に可愛い顔してても容赦しない。あんまり調子に乗ってると……殺すよ?」
「うわっ、ゾクッとした。凄いゾクッとした。『殺すよ?』だってさ。ぷぎゃー、だよ。携帯小説に出て来そうなテンプレ悪役。自分が強いって調子にノっちゃった悪ガキだ」
「そうとも、こんなのは餓鬼の悪戯だ。だから見逃してはくれないか? 別に俺は何か大きな事がしたいワケじゃない。アニメの役者みたいに世界救済なんて目指しちゃいないが、世界滅亡も目指してない。最強に成りたいワケでも、大富豪に成りたいワケでも、大統領に成りたいワケでも、ハーレムの王に成りたいワケでもない。ただ楽して良い思いができればそれで良いんだよ。こんなのは事件は何処にでも起こる、取るに足らない事さ。こんな俺にかまけてるより、もっと大事で、派手な事件があるんじゃないか?」
「何時かの世界存亡よりも明日のパンとワインが大事な奴だっているんだよ。言っとくが大企業を支えてるのは中小企業だぞコノヤロー。部品が無きゃ製品は造れんと……イカン、育ちから下町贔屓してしまった。いずれにせよ、結果論だ。もう問題は目の前に在って、既にかかわっているんだ。放って置けない。というかお前に用はないっての。あるのは『叡智の星』だけだ。その横にいる子ども、ソレは『星』で作られた自動人形だろ? 大人しく渡した方が身のためだぜ?」
「渡さないと言ったら?」
「嫌というまでお前の家の玄関前でソーラン節踊っちゃる」
ソーラン節とは……デッカイ道で江戸時代後期から昭和時代中期まで隆盛を極めたニシン漁に従事する漁師たちが仲間の結束を固め作業の憂さを晴らすなかで自然に生まれた民謡の一つ。春になるとニシンが産卵のために大群となって押し寄せてきて、メスが卵を産みオスが一斉に放精する。そのありさまは海が白く染まるほどだったという。何か、エロティックですね。(ウィキペディアより(最後の一文は違います))。
「おお、怖い怖い。女、子供に殴られる趣味はないね。逆なら好きだが」
「――前言撤回。手前は『ARIA』仕込みの『機甲術』で二度と『泣いたり笑ったり出来なくしてやる』」
この娘意味解ってて言ってるんですかね?
そう言ってウェンリーが両手の銃を十字に重ね合わせ地面に置いた。すると先の大砲の様に電撃が唸る。二つの銃と地面は溶け合って、溶け合った分だけ巨大な機関銃に変化した。いや機関銃というか、高射砲? 大砲は鈍器ぢゃありません。装甲凹んじゃう。
どうやら追いかけっこは終わり、此処で仕舞にするらしい。男は丁度屋上の端っこに追い込まれる。何処にも行けない。が、それはウェンリーも同じ事。此処から逃げればまた取り逃がす。どうやら両者とも覚悟を決めたようだ。此処で決める、此処で上げる!
「『宣言ッ! 保障番号99何ちゃら、〈【巨人の武器屋】ウェンリット・マギナ・ドルフ〉! 私は貴方に対してランナー規約0号及び共界同盟暴力部第九か十条第何々項により此方の権利と保障を全て破棄しblah blah blah』! えーとつまり『今から私はお前を殴り飛ばしますので君に私を殴る機会を与えよう。私は今ここで君に決闘を申し込む』ぜ!」ウェンリーは叫んだ。それは黄金狂世界と現界連合によって取り決められた数少ない原則条約の一つ。互いの権利を保障し公平とするするのではなく、互いの権利を一切無視することによって公平とする「権利放棄」条約。ぶっちゃけると「面倒見るのが大変なので勝手にやってください」という無政府状態張りの責任放棄。しかし故にその拍手と野次は、正義と悪の蚊帳の外!「ヒャッハー! 来いよ三文役者。“I’ LL SHOW YOU THRE’S NO COMPARISON BETWEEN US!”」
「ハッ、調子に乗ってんじゃねえ。あの世で俺に詫びろクソガキがぁ――ッ!」
両者は共に高らかに笑い、各々の台詞を読み上げた。幕が撃って落とされる。
――やってしまへやってしまへ
――酒を呑みたいために尤らしい波瀾を起すやつも
――じぶんだけで面白いことをしつくして
――人生が砂っ原だなんていふにせ教師も
――いつでもきょろきょろひとと自分とくらべるやつらも
――そいつらみんなをびしゃびしゃに叩きつけて
――その中から卑怯な鬼どもを追ひ払へ
――それらをみんな魚や豚につかせてしまへ
――はがねを鍛へるやうに新らしい時代は新らしい人間を鍛へる
――紺いろした山地の稜をも砕け
――銀河をつかって発電所もつくれ
子どもが屋上に泥を撒き散らした。すぐさま泥が周囲を喰らい人形と成る。泥人形が蟻よろしくわらわら迫る。その数は全部で十数、いや二十数? ウェンリーはソレを一人で向かえる。それはあまりに多勢に無勢? 否。否だ。断じて否! 銀でも鋼でも屑でもいい。そこに物質がある限り、彼の武器は決して尽きない!
「Show down, CERASUS! Are you ready? I’m lady!」
《I’m on it. At the pleasure of my Princesse.》
「OK, bro! Swing BGM ”root (SILDRA)”. Let’s roll!」
《Good Luck.》
セラススが「我金ッ!」と輝く。ウェンリーの内部が「火ッ!」と燃える。星の核が胎動する事によって生み出される地震や火山の如きエネルギーを持って、彼の鋼鉄の如き黒い身体が熱された溶鉱炉の如くカッと赤く熱くなる。炎が灯り電気が奔る。歯車が回り世界が回る。拠点建設、術式展開、空間掌握。Build start: Project Load: Boot -> Venlit.exe: []Guidance is internal. 12, 11, 10, 9 ... ignition sequence start ... 6, 5, 4, 3, 2, 1, 0 ... All engines running. Liftoff!”
少年が強く地面を踏んだ。それと同時に奔るは閃光発火。円を描くは術式放電。周囲に造られるは抗う力。迸る電撃に喰われる様に屋上の床が消滅する。周囲の大気が薄くなり乾燥する。周囲の世界や己の心を素材とし、己の世界を錬成する。そうしてまるで魔法の様に、小さな少年には不釣り合いな大砲に機関銃といった巨大銃火器が次々と出現し、
「往くぞ……FIRE!」
その掛け声と共に大小様々な弾丸が「銃謳無尽の行進曲」、泥人形を撃砕した。まさに「無限の牽制」、ぢゃなくて「無限の壊創」。創っては壊しまた創る。是成る存在は文字通り、体は鉄で出来ている。血潮は灼熱で、心は星。己の生涯に意味はなく、在るとすれば、それは観客が見出す意味。
幾ら撃っても弾丸は無くならない。代わりに建物の床や大気と言った周囲の物質が削られる。無から有は造られない。彼ほどの高位錬金術師ならその物質に直に触れずとも、己の意識が届く範囲、己の意志で世界が動く範囲、つまり「自我領域」を己の工房、魔法陣、固有結界とし、此方の力量が対象の相や魂と言った抵抗値を超えているなら、その対象を素材として扱う事が可能である。
まさに錬金術師にとっては、この世界そのものが武器なのだ――そして最大の敵でもある。錬金術師は世界と神の神秘に挑む者成れば。皮肉な噺だ。
造られる武器は火薬など使わない前世紀の骨董品よろしく投石機から、どういう原理かは解らないが反重力的機構で宙を浮く光線銃まで様々だ。何というか、お祭り気分。何なら120mm機関銃だって撃っちゃうぜ。リロードもせず機銃掃射です。リロードは気分(←コスモガンよろしくなHS脳)。アレを涼しい顔で防ぐGUNDAMってほんと凄いんだなって(小並感)。
ウェンリーの攻撃は灰泥をミキサーの如くミンチにし、縦横無尽に蹂躙していく。普通の攻撃なら如何なる原爆級の威力からでも灰泥は再生する、というかゴジラよろしく巨大化すらするだろうが、彼の攻撃では何故か再生しない。それもそのはず、例え如何に再生能力が在ろうとも、錬金術師の前ではゴミクズ同然だ。パソコンの能力が優れていても、その機能自体がフリーズしてしまえば無駄無駄無駄……それと同じ様に、彼は弾丸を起点にして内部構造に侵入し相手の機能を破壊出来るのである。
所で、銃火器をバカスカ撃つのは少年漫画のお約束ですが、アレ一体、一戦闘に何コインつぎ込んでいるんでしょうね? 答えはピンキリですが、ハンドガンの弾丸でも1発1コインと考えてもお高いですねえ。最近の戦闘機の機関砲なんて毎分五万発とかザラですから全力射撃(GAAAAGW)だと一万発あっても十秒でからっけつ。しかも音速飛行での命中率なんてお察しです。燃料だって莫迦になりませんし、ミサイルなんてそうそう積めません。だからアニメで良くやるような戦闘機の長時間戦闘なんてほとんどありえません。きっとあの世界はとても裕福なのでしょう。ていうかありえたら金が「どうだ明るくなったろう」とか洒落にならんレベルで飛んで行く。やあ、戦争はお金がかかりますなあ。そのお金は何処に行くのだろう。それは勿論、開発企業……おっと、この先は禁則事項です。兎も角、ウェンリーは「1発10万$を食らえーっ!」と言いながら「バスッ――ブシュワアアァァァァォォォォ…………」という脳内麻薬垂れ流し状態になりそうな絶頂音を出してハイテク打ち上げ花火をトップアタック(メテオ)で決めた。しかも流星群で。いやあ、錬金術って凄いね。金銭的価値観が壊れる。こんな近距離でわざわざ打ち上げる意味って一体……。因みに屋上は床が抜けない様に錬金術で強化されているというご都合主義です。
「が、無駄」
しかしウェンリーが「無限」なら相手は「無限死」、何度でも死に続ける生ける屍。
爆弾は正しく灰泥に当たる。その灰泥は砕け散る。しかし、それは雑魚だけだ。本体である親玉の泥人形には効いていない。量産品と正規品には確固たる能力の違いがあるらしい。
しかも量産品もまた再生しないとは言っても、ねずみ算式で正規品からまた産み膿まれる。恐るべきはその単純さ。泥も積もれば山となるか。
「うわズッル! 攻撃吸収とかチートか!」
錬金術も程々にチートですけどね。兎も角、ウェンリーはそう言って思った。
(やっぱり! アレには核がないんだ。心臓というものがないんだ。いや正しく言えば、どの細胞も心臓に成り得る!)
だがそれは特別な事じゃない。どんな複雑な構造を持った生物も突き詰めれば細胞や原子の塊だ。ましてや生体器官の作成など胎児ですらやってる事。いや正しく言えば、「胎児でしか出来ない事」か? 酸素の電子配置や化学結合を組み替えて鉄にしたり、反復説のようにDNAを描き換えて好きな自分を造り上げる。気に入らなければ何時でも生命誕生の原初の状態に立ち返り、そこから商品のカタログでも見る様に自分を変身させる……って、んなの普通じゃねーな。水から鉄を造るくらいワケ解らん。それは物理化学的にどーなんでしょうね。「エネルギー」とは何ぞやと。いやそーいう事も自然という錬金術師は普通にやるんだけどさ。それを意識的に遺伝子ならぬ電子組み換えってどんなミクロ操作だ。アボガドロ数の一つ一つを手作業か? 万能細胞ってレベルじゃねーぞ。そんな事すれば競合と未定義の嵐だ。テセウスの船もビックリだ。魂とは何ぞやと。え、何、「じゃあウェンリーの使ってる錬金術はどーなんだ」と? …………。起こっているから起こっているんだ。世界ってのはそんなものだ。何もかも解らないが、取り敢えず目の前の問題をやっつけていくのだ。不可思議なままに進んでいくのだ。それは大祭害以前の世界でも同じ事。世界自体が不可思議故に。しかし今はそんな神秘の講釈は置いといて。
今や屋上は戦場跡。泥人形が屋上を喰らうだけでなく、ウェンリーの火器や弾丸は屋上から供給されていた。如何に不思議神秘なれど、如何なる事柄に変化できようと、0から1には変われない。しかし状況は灰泥優勢。方や一者、方や群れ、しかも相手は叩けば増える無限沸きときたもんだ。泥人形の身体を砕いてもその飛沫から更に泥人形が生まれるねずみ算式。しかもそれに加え「オイこらお前等、バトルなら他所でやれえーッ!」というご近所の苦情も殺到する。屋上付近の夜勤住民がベランダから静かな昼寝を要求していた。そんな彼は単眼からぬめぬめした触手がもっさ生えた異界者だった。何あのシュマちゃん。それに対しウェンリーは「一身上の都合により只今手が離せません苦情は全部ランナー協会までてか危ないので避難するか加勢をプリーズ!」と早口に言う。ヤだね、プリーズと付ければ丁寧語になると思ってる非英語人は。
「更に!」ここで男が初めて自分の行動をした。子どもから得た灰泥を「Muddy!」と握る。すると黒濁の放電が手の中で弾ける。そしてなんと、男の手から火球が出た。ウェンリーはソレを無動作で地面から板を生やし防ぐ。「はっは! 流石は伝承に聞く『丹い石』! これが魔法か! 魔術か! 凄い、凄いぞ!」
「Huh、術師ってのは自己満足の塊だ。何もかも自分でやらなくちゃ満足できない愚か者だ。幸福な社会に『NO!』と唱え、敢えて陽のあたる居場所を外れた莫迦者だ。それを他者からの貰い物で良い気になってるお前が、術師を名乗る資格はないッ!」
「俺に勝ってからそう言いな!」
――無謀すぎる賭だぞと とめる親兄弟
――ありがとうと振りきって 走って行った走った
――丘を越え 谷を渡り
――沼につかり とにもかくにも かの場所へ
「Hello darkness, my old friend, I've come to talk with you again」と泥人形がゾンビよろしくわらわらと迫って来る。その数は全部で三十、いや五十?、もっと増える。ウェンリーはソレを向かえるがしかしあまりに多勢に無勢。まあそれでも、やらねばならぬならやる所存でありますがッ! ウェンリーは意を決して銃を構え今決死の弾丸を――
『lal la lula 光矢よ 敵を射ろ――〈白の矢(Light Shoot)〉』
撃つ前に別の弾丸が降り注いだ。その突然の出来事に驚く男の前で、空を貫く光にさらされた泥人形は影の如く霧散する。それは必ず相手に当たる〈魔法の弾丸〉。即席魔術の中でも特に単純で基本ながら、その威力、初速、加速、強度、機動、同時発射数は術者に依存し、雑魚戦・大将戦どちらも使いこなせる、素晴らしい有用性と柔軟性を誇る魔機結社自慢の一品。ウィリアム・テルごっこだって出来ちゃいます。そして今放たれたMMは私の推測でも威力7、初速600、同時5、連射0.13、精度9は出していた。軽くでこれなら中々の技術である。して、それを放った者とは……。
「勝っても負けても事実は同じ、暴力をふるった事に変わりはない。第三者から見ればどちらも傍迷惑。それと同じ。ま、闘い自体を否定するわけじゃないけどね。それをしてしまえば『じゃあその為に闘った者達は何なんだって』なるから」声がした。ウェンリーの後ろ。やや上。空の中。「や、お待たせ」
「さすが白星!」ウェンリーが声を上げた。「リィラ、我らが星!」
因みに、今、彼が持つ長弓や先まで着ていた鎧は魔力を圧縮した塊であり、何時でも体内に還元可能である。その姿や性質は、絵描きや詩人がそうである様に、周りの自然や出来事から貰ったインスピレーションによって顕在し、魂を吹き込ま(インさ)れる。そうして出来た原風景、心象世界を、そのまま丸ごと道具にし、彼はそれを何時でも心に秘めたり手の中に出したり出来るのである。それ自体は別に珍しい事ではない。画家が絵を描き、作家が物語を描くのと同じである。ただ違うのは、それを絵や文字と言った媒介を経ずそのまま物質化出来るという所である。
彼はこのようにして、まるでTVの俳優の様に、戦況により姿と能力を変えて闘うのを得意とする。ウェンリーの錬金術が外の世界を創り返るものだとするのなら、リィラのそれは内の世界、己を創り返る術だと言えよう(尤も正確に言えば「術」ではなく心意気、心構え、生き方であって、特別訓練して得る技ではないが)。その姿は、万華鏡の様に、虹の様に、花形の様に相を変える。未分化の無垢なる一の白の光を全の虹の光に分光させる。そして星がそうである様に、舞台の踊り子がそうである様に、宝石が鏡の中で回るに従って万華の光が交響する……とか何とか言ってみる。
まあ簡潔に言えば俳優やゲームによくある職業システムである。衣装がコロコロ代わる漫画って良いですよね。見てるだけで楽しいです。いや本当、部屋に引き籠った友達のいない大学生じゃあるまいし、キャラクターの髪型とか衣装とか、もうちょっと色々変えるべきだと思いますがねえ。何で増えないんだろう(用力と才能と見返りの限界、或いは興味が無い、愛が無い)。つまり「Cute is Justice!」がハラショーです。或いは「Cute is Honey」? 逆は知らんけど(もしかして:女子中学生)。
「声援感謝。……ふむ、流石の再生力も消し炭にすれば間に合わないか」そう、リィラが見ると、泥人形は塵となり風と共に去っていた。屋上に残るは焦げ跡だけである。(それともあの助けてくれた人の言ってた通り、此方の術式が灰泥の術式を混線妨害するのかしら。此方の声で相手の声を掻き消すように……ま、とにかく)
リィラは雲のようにふわりとウェンリ―の横に着地し、軽く咲いかけた。
「さて、大丈夫?」
「わーい大丈夫ぅ~~ぺたぺたぺた」
「ぺたぺた触らない。それにまた建物壊してるし。ちゃんと後で直すんでしょうね」
「な、直しますよ勿論~」
「また変なの作らないように」
「そりゃーもう、へへへ。にしてもお早いお着きですね。この国の警察は有能だ」
「それもあるけど、アシストが来たのよ。確か名前は……っと、話は後か」
泥人形が突っ込んできた。リィラが倒したのは泥の兵隊(Zinnsoldaten)のほんの一部。三分の一にも満たない。「まだ舞台の途中だぞ」とでも言うように走って来る。
「Huh、餓鬼どもが大人に歯向かいやがって。これには紳士な俺も怒髪天だ。もうナニされても仕方ねえよなあ!? 花のお人形よろしく、その綺麗な顔を白と黒で滅茶苦茶に汚してやるよっ!」
と男が下卑た顔でそう言った。無論、多分に演繹表現を使っているが、その台詞の意味はイヤーンである。ソレに対してリィラは露骨に嫌な顔をした。何よりも美を尊ぶ白星族には、その手の下ネタは最低以外の何ものでもない。それを聴く魂が穢れる。
「吠えるのも今の内だ。ウェンリー、武器に魔術を付与する。霊障の耐性を上げるでしょう。そして強く自分の刃を感応して。相手の心に呑まれない様に」
「了解、隊長(Ja, Herr)! つまりアレだな、気合だな! 行っくぞおおおおおッ!」
ウェンリーがそう叫び、灰泥の群れに向かって走った。それを鼓舞し、演出するようにリィラは「par ser lo」と背景音楽を呟いた。すると淡い光がウェンリーとリィラを祝福した。光の霊が力を与える。そしてウェンリーは灰泥に向かって跳び上がり、その身体自身を武具にして力一杯振り被る。
――EEEEEEEEEYA!
BRAAAAAAAAAAAME!、と稲妻が奔った。銀地族本来の堅牢さと、錬金術による身体強化の合わさった結果である。殴る、殴る、更に殴る。拳が泥人形を吹き飛ばす。しかも相手を再生せず増殖もしない。己が生物で無い事を思い出したかの様に「土砂リ」と崩れる。リィラの光の魔術が灰泥の超自我を斬り裂き、そこをウェンリーの錬金術が侵入して再生増殖機能を壊すのだ。是は楽だ、とウェンリーは縦横無尽に多段攻撃。錬成反応と共にまるで磁石が跳ねるように軽々と戦場を掛け、しかしその一撃は動く山の如く重い。力場か何かでも発生させているのだろうか。加えて錬金術との連携が合わされば多彩な技を生み出す。ステップを踏むように脚で地面を叩けば、湖の波紋の様に錬成陣が広がり、床から生えるは棘や拳や柱や大砲。身体に触れれば「分解」の術式が相手を砕く。彼を包む偏向シールド的何かから来る防御はそのまま攻撃の硬さへと変じており、体当たりだけでも凄まじい威力だ。しかも、
「これがホントの『BLADE RUNNER』!」
と、被覆鋼弾錬金術師よろしく神に祈るように両手を合わせ、次いで己の胸に押し当てた。すると青い電離気体が迸るような錬成反応と共に、柔らかな肉の身体が堅牢な鋼鉄の身体へと変わった。魔法少女の全裸変身における謎の白い光などはなく、包み隠されず不可思議に身体が造り替えられていく。内蔵とか骨とか血管とかが早送りでCGの様に変わって行く。ぶっちゃけエグイ。ウェンリーの身体は現界における人間族に近い種族との混血であり見た目は多分に有機的であるが、伝統的なイエラ型の銀地族はSFの金字塔「ケイ素型生物」よろしく無機的な身体を持っている。なのでその本質に先祖返りし銀地族の星を偏光させ、そこに錬金術が加われば、人体錬成モドキも可能となる。
だから背中に両腕義肢を持った第二脊髄を生やし、その腕に身の丈の三倍ほどもある三つ又のアイアンクローを右手に、身の丈の五倍ほどもある機関大砲を左手に、ラムジェット装甲を両脚に、局所エネルギー吸収バリヤーかつ吸収したエネルギーで射撃出来る飛行UFOを周りに展開、胸元に相転移砲を付け、振動する三対の機動刃翼を背に浮かす事も可能なのだ。アァ、君こそ僕の「武装錬金」ってか「武装神姫」、「秩序に従属する戦略的多目的制御体系」、或いは「極道兵k――」……いややっぱソレは無しで。尤も、その見た目と仕事率の方程式が大なりイコールかは巨大ロボット兵器の理論でも考えればお察しだが。つーか特攻兵器じゃあるまいしんな人形兵器とかドSな事せんと戦車なり戦闘機なり普通の兵器作ってやれ可哀想に。悲劇というならソッチが悲劇だ。「マスブレード」みたいな莫迦さ加減だ。戦車を鈍器にする様なもんじゃないかと。まあ、それで御飯が食えるなら、仕事が無いよりかはマシかもだけどねえ。
それでもめげずに彼に触れようとするのなら――彼はその動きを一旦止めた。まるで相手を足蹴にする様に悠々と脚を上げ、力強く地面を踏みつける。すると床に亀裂が入り、爆発するように瓦礫が生える。迫り来る群れは砕け散り宙へと虚しく四散する。まさに「じしん」、命中100、威力100で敵味方識別問わずで攻撃する。リィラが悲鳴上げてる。
そこに「更にッ!」とウェンリーが心音を鳴らす様に「土駆んッ!」と床を踏み抜いた。足元が命令に従って放電し、現れるは不釣合ながらしっくりこない事も無い巨大な斧。これに武器化した腕を戻し、両手でそれを構え、小さな身体が合わされば、典型的ドワーフその一の完成である。まあしかし何だ、その斧は、ちょっと魔改造されてるが。
「『神殺しの鎖鋸斧』」こらそこ喜々として名乗らない。しかもその鎖は一つではなくインラインスケートの様に複数の輪とそれに並行する三列からなっているというただ断ち切るだけでなく損傷部分をズタズタに引き千切るMADな仕上がりだった。まあ兎も角、「Shout, my heart! うぅ~~~~~~~オッ!!!」
ウェンリーはその「戯ャアアアアアアッ!」と悲鳴を上げるように唸る戦斧を「轟ッ!」と振り落とし、「へどろを こうげき! へどろは バラバラになった」とでも言うように灰泥の群れを撃ち砕いた。床が盛大な粉塵を上げる。更にそこから薙ぎ倒し。泥人形の群れがザックばらんと吹き飛ばされる。小麦色の肌と、割れた腹筋、すっくと伸びた四肢からなる魂とは……こいつは……いや、豪快絢爛。
「『London Bridge is broken down(ロンドン橋落ちた)~ Broken down, broken down(落ちた。落ちた). London Bridge is broken down(ロンドン橋落ちた)~ My fair lady(私と一緒に)!!』」
流れを止めず抗わず戦斧の詩と重さに従ってグルグル回りながら闘う様はまるで踊り子か旋風か。すっくと伸びる肢体は美しく、地面を踏む脚は力強い。かと思えば電撃と共に、無限軌道のように地面を滑る。静止画では味わえない豪快さ。動的な華麗さ。筋肉質な身体ながらもその演舞は女性的。柔らかい。見ていて気持ち良いくらいに猛進する。やあ、やはり小さな体に大きな武器は映えますね。近くで見ているリィラは何時コケないかと危なっかしくて心配であるが。
「むふん♪ そうだ、こんなに数がいるんだ。ちょっと試運転をしてみますかな」
そう言って、ウェンリーは体を休めずにステップだけで錬成した。錬成するは創作料理ならぬ創作道具。さあ、名乗りを上げろ。強き者よ、汝の名は――
「『G.B.I』ッ!」GBI……つまり「Gravitational Beam Emitter」。何か、「キュイイイイイ」と高周波を出して「ギン」と重力子的な放射線を射出する的な「装置」。武器じゃない所が、浪漫です。ただし是は本物ではない。複製品だ。現界に流れ着いた物をおこがましくもバラして得た知識で造った代物で、しかしそのメカニズムはよく解らない。制作者本人にも解っているか解らない。だが大丈夫。こんなものは、三つのポイントが抑えられていればそれでいい。それはつまり、「気合」と、「浪漫」と、「その他諸々」だ! まあ勿論知識と事実性があってもそれはそれで濃厚な世界観が以下略。
兎も角、ウェンリーは斧を右手に、その黒い銃型の装置を左手に取った。取ると撃鉄に当たる部分が「パパパッ」と光る。銃身が「バシャッ」と展開する。そして目標をセンターに入れて、「スイッチ!」、トリガーを入れた。
ギンッ!
一瞬、輝かない閃光が直線に走ったかと思うとその線を中心に空間が同心円状に切り抜かれ、次の瞬間、その線を中心に爆発した。それがマイクロブラックホールを飛ばした結果なのか、場の臨界点をぶっ壊した結果なのかは解らない。理解しようとすればするほど何故か解らない部分が増えていくという事だけである。兎も角、相手の灰泥は根こそぎ吹っ飛んで、ソレを撃ったウェンリーも吹っ飛んだ。
「大丈夫?」とリィラ。
「アイタタタ。腕が折れそうだったけど大丈夫大丈夫」
「いや、貴女じゃなくてこの建物が」
「ふむ、それは私への信頼と受け取って置こう」とウェンリーは跳ね起きた。「ぃょぅし、ガンガン行くぞ。ヒャッハー! お次はオリジナルだ、『WHBWーUFO』!」
そう言ってウェンリーは拳骨大の土星を散りばめた。それは「急がずに、だが休まずに」というコンセプトから成る浮遊戦輪武器。速度よりも質量を重視した弾丸で、自転車並みの速さでしか飛べない代わりに、相手によって動かされる事はない。例え弾かれても可変重力場機構で常にUFOの様に運動量を保持し、ミサイルの様に相手を自動追尾し、余裕があれば全方向攻撃よろしく手動機動も可能である。その軌道から別名「スリーターン」や「フラワースパイダー」や「貝独楽」とも呼ばれる、というか製作者であるウェンリーが呼んでる。攻撃というよりも相手の動きを牽制する武器なのだ! ……と書けばそれなりに使えそうだが、今の「対多」戦の状況ではあまり役に立たない。
「お次はコレだ、『ACーバレット』!」
その名前の由来は「光学迷彩」、つまり目に見えなくした弾丸である。これを使えば避けられる心配はない! ……と書けばそれなりにryだが、そもそも音速で飛ぶ弾丸を目視で避ける奴がどれほどいようか? いやまあこの大祭害の世ならそれなりにいるのだが、それでもアイツ等は「音」とか「気」とかで避けるから。
「なら次はコレだ、『シリウス』!」
それは名前の通り、「おおいぬ座α星A」的な青白い刀身を持つ雄々しくも美しい「天狼」の剣。それに加え、強度の発光能力と不可視の第二刃と凍れる炎の能力を持つ。これはとある狼の人獣剣士の持つ複製品である。原物の持ち手は是を逆手に持ち、斬り合うというよりも一撃離脱、己の速度に物を言わせて体当たり気味に相手を駆け抜けて斬るらしい。また目眩ましや第二刃という性質上、不意打ちや暗殺にも最適だ。その心意気はまさに「剣道」。一撃必中。一撃必殺。実戦に置いてコミックの様に何度も斬り合う撃ち合うなどと言う事はそうそうなく、そして一撃でも攻撃が当たればもう致命傷なのである……と書けばryだが、何だ、本来は発光能力をもっとエレガントに作動させる機構が在るのだろう、何が言いたいかというと、持ち手も非常に眩しくて使えたもんじゃない。そして光らせなければただの炎属性を持つよく斬れる剣である。不可視の刃も自分で見えなくて危ない。
「ええいじゃあコレだ、『ガムアンカー』!」
その大砲の様な球体は対象にぶつかるとべちゃりと噛み砕いたチューイングガムの様にへばりつき、軽いモノでも50kgはある質量で相手の動きを鈍らせる。更に任意で爆発させる事が可能なので、置き技のように使う事も可能だ。これもまた攻撃よりも牽制的な使い方が主である。……とryが、えーと、あー、別にこれは欠点らしい欠点はないな。かなり重いけど銀地族なら力持ちだし。惜しむらくは、そもそも牽制とかいう頭脳プレイを彼はしないという事である。頭は良いのだが……まあ、彼は聡明たる愚者なのだ。
ウェンリーは他にも、盾と剣が一体になった手の甲につける「シールドセイバー」、携帯タイプの「レールガン」、拳が飛ぶ「ロケットパンチ」、相手を抉って爆発する「ドリルミサイル」、振動する刃の「ヴィブロブレード」、光のくせに目視できる速度で飛ぶ「ホーミングレーザー」、同じくサイボーグ戦士が使ってそうな光を放つ「スーパーガン」、散弾銃の様に飛ぶ質量の無さが危ぶまれる「ニードルガン」、窒素を極度圧縮した「ニトロゲンボム」、相手の体内に瞬間移動させて爆発させる「ワープボム」、ブラックでアットホームな「パチンコ玉や釘や硝子の破片を詰めた圧力ガマ」などを錬成し、その他にも「ライトセイバー」「パニッシャー」「ガリアンソード」「打神鞭」「ダマスカスブレード」「ヒューポー」「空気砲」「キールロワイヤル」「秘剣・星流れ」「ベリアルさんの右ストレート」「バルキリースカート」「13トーテムポール」「オルガノン」「ランビリス」「ワルサーP38」「サイコガン」「翠風のメザーランス」「単眼の火葬兵」「ガンブレード」「見た目なんかは真剣とほとんど変わらねぇがあえて斬れない様に鋭く研がない分硬度と重量をかなり増加させて斬るより破壊を目的とした玄人好みのあつかいにくすぎる刀使いこなせねぇとナマクラ刀より弱いただの鉄クズみてぇなもん(ぐおおおお)」などと何処かで見た事あるような武器を錬成した。中には武器じゃないのもあるが、それは性能を武器化してみた奴である。やあ、色々な武器が出て来る漫画って見てるだけで設定資料集みたいで楽しいですね。実際に使いこなす方はそうでもないけど。大きな組織なら統一規格が必要です。
そんな何処かの世界の物語で見た武器がその世界から流れついた「本物」であるか、或いは本物の模造品であるか、まあそれは置いといて、威力は凄まじいものである。そしてその機構は、やはりよく解らない。けれども無理を通せば道理が引っ込む。クソ真面目に考える物理化学者を嘲笑い、世の中の正義などクソ食らえだと唾吐くのだ。科学考証が出鱈目とか言う奴はあーたそりゃ世の中の巨大ロボットアニメを見てから物を語れよ。そんなにSFが見たきゃ「はやぶさ」でも打ち上げてればいいんだ。事実はSFよりも奇なりを地でやってるぞ。要は受けりゃいいんだよ受けりゃ。え、受けてさえいない? まあ、それは置いといて。いや、本当は裏では緻密な設定が在るのだろう。巨大ロボットの存在がそうである様に。神の存在がそうである様に。ただ、それが語られる事はない。何故かって、余白が足りない。だから我々は想像する。彼等は空想の使途。その身体は夢の結晶。それは無限の力を持つ永久機関。私は拍手と野次で動く。あっ、見送りは結構ですから。
むしろそんな滅茶苦茶な武器が登場しても、それを許容する世界が何処までも愛おしい。ほら、例えば彼という小鬼が暴れ回り、これだけ床にヒビ入り、これだけ瓦礫が散乱しようとも、その舞台である建物は壊れません。何故ならばッ! こんなこともあろうかと、街の耐久工事は万全なのです(←ここフラグ)。
「『フラグ』って……」
と、リィラの方にも泥人形が来る。泥く濁った腕を振るう。しかし、
「『想い火は恋に似て――』」それをリィラは受け止めた。何で。火で。リィラは素早く即席魔術を展開して、印を描く指先は、星屑にも似た光を零している。光からなる炎は舞踊者が翻す衣装に似て、人形の手を絡み取り、熱くなる程に重くなる。温度の数値が質量に変換されているのだ。加えてその炎の滑らかな動きは、かなり高度で複雑な展開と要求が予想されるが、無駄の無く解りやすい簡潔な術式は、ソレをそうとは思わせない。「『触れる者を、諸刃に断ち斬る』」
そう詩って、ついっと指で線を引いた。ソレに従って火が動く。すると炎は尖った切先を振ってすっぱりと敵の腹を斬り裂いた。正しくフランベルジェである。「Vowsh」と燃える炎は鼠の消防隊よろしく活き活きと幾枝にも分かれて文字通り相手を焼き切る。その攻撃は防げない。防ごうとしても指の間から零れる水の様に、防御の隙間を突いて燃え盛る。所で最近の鼠にはモノクロ初期のようなユーモアが足りないと私は思――
「『満ちては欠ける円環の光 白も黒も 混ざって弾けろ 〈惑星直列〉』」
リィラが手の平を「Clap」と合掌すると、音の波紋が色相環の様に彩った。朔望する円環は色に従って七色の星に偏光し、合唱するように回転する。やがて全の虹は混色し一の白となり、リィラの目の前で一直線の光線と成って複数の灰泥を貫いた。
「時に、あの子どもは別として、これらその他大勢の泥人形に魂はあるのだろうか。もうウェンリーがばったばった倒してるし、今更だけど。でも、アチラから来るんだから、首を切られたって、文句は言わないでよね(確かに、文句は言えないでしょうね)」
リィラが『la ryu ho qwo sa』と詩うと、リィラの大弓が光に砕け、還元され、結晶し、幾つかの幻日となって、セントエルモの火の様に彼の周りを衛星する。光の霊だ。彼等が泥人形に向かって文字通り光速の物理的な衝撃を受けるまで圧縮された光の矢を放つ。
その劇団と共に、リィラは指揮するように手で弧を描く。するとソレに従って風が動く。眼に見えない空圧の刃が相手を斬る。ともすれば勝手に人形が千切れていく。あるいは風に乗ってくるくる回り飛んで行く。はたまた土の手が生えて人形を殴ったり摘んで投げたりおもちゃにし、はたまた水が集まって槌となりその水圧で相手を潰す。更に水は人形を食べるように取り込んで球体の氷と成り、岩の手がソレを投げて人形を砕き、更に上に投げ上げて、そこに光が当たり、ミラーボールの様に光を反射、光線が敵を斬り裂く。氷の内部で炎が爆発して破片が相手の頭を打ち貫き、風が飛び散った氷を操って、操られた氷は光をプリズムが如く乱反射、何処ぞのファンネルが如く光線を造り相手を斬り裂く。まるで音符が連なるような、詩うような滑らかな魔術。
「セイ、ヤッ――――ハッ!」
その詩に合わせ、リィラも踊る。衣装は先までの布の多い衣服とは違い、逆に肌色の多い服。薔薇か極光の様なひだ飾りと、素晴らしい身体に客の眼は釘付けです。
細身に似つかわしい軽やかな動きで泥人形の攻撃をかいくぐり、同時に細身からは想像できない程の強烈な拳と脚を叩き込む。蹴る、蹴る、更に蹴る。脚は泥人形を吹き飛ばし、しかも軌跡が光る攻撃は相手を再生させず増殖もさせない。武器はない。徒手空拳、素手喧嘩でこの威力である。イエラ型の白星族は、ヤパーナのファンタジーエルフによくある魔力は高いが身体は弱いエルフではなく、トールキンよろしく魔力は高く身体も強くおまけに技術も凄い完璧な種族である。しかもお姫様で箱入り娘ときたら、その純度はお察しです。しかもその身体はドーピングよろしく魔術で強化されている。故に「魔法使いだから身体が弱い」というテンプレは通用しない。魔力で固めた身体は硬く、重く、速かった。魔術だけでなく体術も得意、欠点のない正しい魔法剣士の在り方である。
安定した力を魅せ付け、落ち着いた動きを演じる。まるで何時までも変わらぬ陽の光の様に。その動きは端的に言って、美しい。何せ生命の光なる彼等は、雪の上でさえ足跡を付けずに歩くのだから。だから体術だって得意です。気功的な中国拳法顔負けの武術を持って、拳骨は勿論膝上スカートでも気にせず足技を繰り出します。その色白の太股が眩しい。でも大丈夫。中身は暗黒空間。これも即席魔術の効果の一つです。え、何、余計な事をするな? そんな貴方にはコチラ。謎の暗黒空間を消す「清浄の光」。お求めの方はフリーダイア(略)。
「『a lyo sey du ha ray ELBRAIZE』」
更に、リィラがそう謳うと同時に「Jingle」と鈴の様な音が響いた。花色は「百合硝子」、主題は「純愛」。その楽章にて火は灯り、その身が輝く魔法球に包まれた。そうしてやがて卵を割る様に光から現れたのは、月剛石の星屑衣装。身体に鎧、背に外套、右手に盾を携えた白百合の騎士である。リィラは盾から左手で剣を抜き放つ。それは長い柄と刃を持った、現界にては長柄武具、東方にては薙刀、西方にてはグレイブと呼ばれる、長柄剣だ。
バトンのように回転させて、大太刀筋で振り被った。すると日の出の際に水平線に伸びる光芒のような、光の斬撃波が相手に跳ぶ。圧縮された光が相手を焼き切るのだ。その光は文字通り光速であり、視認と同時に相手を斬り裂く。更に長柄剣を地面に擦りながらツイズル、回転しながら移動すると、擦った軌跡に沿って螺旋模様が氷上の様に図像される。その光の軌跡は壁の様に立ち上がり、水の波紋の様に広がって回避不能の攻撃と成る。その様はまるで、歌に聴こえる「白鳥の湖」。更にそれを光に還元された光の妖精がファンネルよろしく矢をもって援護する。一撃一撃が必殺ながらも、それは相手の動きを鈍らせ封じる事に徹している。それはシンプルながらもエフィクティブ。単純な計算だ。攻撃回数が多ければ、それだけ相手の動きを止めて置ける。広域戦でもなければ、派手な攻撃が無くとも、それだけで優位に戦況を進められるのだ。しかもそれら光の霊は自動的。隙など無い。その中を妖精が突き進む。その様は、まるで彗星群の中を往くようだ。こうして、二者は順調に泥人形を減らしていく。
しかし、男の顔つきは変わらない。男はそれら兵隊の後ろで「さあさもっと頑張れ」とでもいうようにニヤニヤ笑う。そしてウェンリーとリィラもその顔の由縁は解っている。雑魚を幾ら減らしたって意味は無い。本体である子ども自身がいる限り幾らでも産まれる、増える、地に満ちる、痴に実散る、チルミル、ぴぴるぴる。いや冗談じゃなくて。
しかし本体にまでたどり着くには、このザコラッシュこのままではいずれゴリ押される。物理的にも精心的にも。例えるならMPの尽きかけたボス戦。勿論、「逃げる」コマンドは不可。このままではちとキツイか。せめてもう一人パーティーメンバーがいれば……そうウェンリーが思った、その時だった――
――――第弐幕 第弐場 終