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パンク・フィクション ―PUMP ZAPTION―  作者: 雑多
黒と虹と祭り彩る星々(おもちゃ)と ~The Parade of the Mad-Mud Dolls~
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ひとりぼっちのサイコ ―They Shoot a much Strangelove, Don't They?―

 第壱幕 第伍場『ひとりぼっちのサイコ ―They Shoot a much Strangelove, Don't They?―』


 その時である。

 ――Bubble。

 膨れ、泡立ち、割れた後……灰泥が跳ねた。

「――ッ!」「おわわっ!?」

 路花の帽子が取れて空に飛ぶ。先まで二人がいた場所が斬り裂かれていた。超高圧かつ溶解度で噴射された灰泥が地面を斬り裂いたのだ。

 ケイはそれに即座に反応し、何が起こったか解らない路花はケイの左脇に担がれた。その事に路花は「え、えええH!」とあまりの突然さに顔を赤らめ、ケイは「ベタか、アッチを見ろッ!」と勢いよく余裕なさ気に短く叫ぶ。見ると、黒焦げた灰泥が蠢いていた。相手は球体の灰泥に包まれて、ゴミ袋の中身が暴れる様にグネグネとし、そして遂に蝶が蛹を破るように皮膚を貫きナニカが次から次へと現れた。その「ナニカ」とは?


 ――かごめかごめ

 ――籠の中の鳥は

 ――いついつ出やる

 ――夜明けの晩に

 ――鶴と亀が滑った

 ――後ろの正面だあれ


 そのナニカとは、母親の腹を破って群がる手だった。孕みの氾濫。それ等は待ちきれないとでもいう様に「羊水の海(Sümpfen der Traurigkeit)」より這い出る早すぎた命。タールの様に粘ついた灰泥の海から、胎児が髪を生やして歯を向ける。夜明けに「Jeux interdits」を口笛で吹く。あいをーぼくにくだーさーいーだれがーだきしめてくーれーるーだれもーしらないせかーいーでうまれーかーわるめろでぃー(違)。戦闘BGMは「ゆっくりと苦しみをもってアクアリウムの中で三日月の光の寝台に夢心地」を謝肉祭カニバリズムしながらスピリタスなパンク・ロックでどうぞ。


 ――We came crying.

 ――When we are born, we cry that we are come

 ――To this great stage of fools.


 グネグネとする相手は黒洞ブラックホールよろしく全体を口にして触れたモノを諸共に食らう。その口から、その全身から文字通り喉から手が出る舌を伸ばす。蛆虫が如く宙を這う。その様は我先に伸ばす触手とそれに抗う魚である。地面を抉り建物を抉り観衆達を食べて灰泥の触手が跳ねる跳ねる。その中をケイが軽業師の様に避ける避ける。まるでハエとカメレオン、いや天使の頭がくぱぁする様はクリオネだ、イソギンチャクだ、いやタコだ、いやいやえーと、

「どーでもええわ」ケイが逃げながら路花に叫ぶ。「チェッ! 焼いたのは表面だけか?」

「私の電撃はそんなヤワじゃありませんっ! 外はカラッと中はジューシーです!」

 じゃあ何故、と言おうとして思い出した。電力は人間が食料を分解して得る熱量よりも質が高い。勿論、普通の人間は電気を食べてエネルギーに変換する事など出来ない。しかしこの灰泥がそれを可能とするのなら……というかあの大灰獣は火を喰っていたのである。なら普通に考えて電気くらい喰うだろう。普通って何だろね。

「しかも経口摂取じゃなくて身体で受けてエネルギーに変えるのか? 光合成じゃないんだぞって。そのエネルギーの乱用さときたら、まるで『Maxwell's demon』だな。全く、小学生の描いたバトル漫画じゃあるまいし、物理法則くらいちゃんと守れ」

「『物理法則もあったもんじゃねえな』、ですか? 私もこれでも現実主義です」

「おまいう(うわ、ネット用語使っちまった。きめえ、きめえ」

「気持ち悪くないですよ! 私も全然使います! 大丈夫ですよ、大丈夫! だからそんなに怯えなくてもOKです」

「怯えてるとかそんな噺は無い。そしてお前は自重しろ。そして勝手に心読むな。

 因みにあのアニメは『~なら仕方ない』って思わせるノリが凄いのだと思われ。神の真偽が重要でも、証明できるかどうかでもない、在ると思わせる時点で凄いのだとね。後、現実主義リアリズムの正しい使い方はあらゆる価値観を排除した客観視点の事であり、堅実とか夢を見ない生き方とかそんな意味は無いぞ。どれだけ荒唐無稽でもそれが現に目の前にあるなら即座に対応する思想であって、保守派とはむしろ逆に位置する。いやむしろ、今ある現実だと思い込まされている世界こそ、架空の現実で――」

「(また適当な台詞云って誤魔化してる……)まあ、世界は物語で出来ているといっても過言ではありませんしね。ミヒャエル・エンデさんが云う様に、実際にある異世界を夢という形で受け取って現実にしているのです。『卵が先か』な話になりますが、そこからいうと、現実があるから夢があるのではないです、夢があるから現実があるのです。んや、夢にとってはそれが現実ですから、『夢』という事自体がちと語弊がありますが」

「そうさ。精神力というモノは確かに在るのだよ。『漫画は娯楽』だとか『アニメは子供のモノ』とかいう阿呆は資本主義にそう思わされているだけだ。どうしてそう物語を見下したがるのか。今の世の土台を創った三大宗教だっていわば物語だっていうのに。いや例え娯楽でも子供のモノでも、世界最高峰の場である事に変わりはないんだ。どれほど漫画が金になり、アニメが人の生き様を決定しているのかを考えろと。絶対と思われている科学だって所詮は経験則という名の妄想にしか過ぎないのに」

「まあ、一理ありますね。あの灰泥っ子は悪性腫瘍もとい『バナッハ=タルスキーのパラドックス』とか『ヒルベルトの無限ホテルのパラドックス』よろしくドバドバ増えてますが、そんな矛盾犬が生じるのは『面積』が人間の作った概念に過ぎないからです。『長さ』の単位一つとっても、『メートル』や『フィート』や『寸』など色々ある事からそれが解ります。何だかんだ言って、人は幻想の中に生きているのですねえ」

「まあもっと可笑しな事は、その幻想が現実に上手く当てはまってるという事ですがね。ならば人の考える事は何処まで行っても幻想に過ぎない。『42』があったとしても、それを受け取る人そのものが曖昧ではナア……」

「所で、『まくすうぇるでーもん』って何ぞなもし?」

「何でそんなパラドックス知っててアクマを知らんのだ。いずれにせよお前の超能力は何の為にある。『この漢字の読み方は何ですか?』とか知恵袋で頓痴気かますワケじゃあるまいし、人に訊く前に精神感応でネット検索しろ電波少女サイコパス

「アホの娘みたいに言いますなっ! せめて携帯少女と言いなさい」

「そう言えば『電影少女ビデオガール』とかあったなあ。かなり時代を先取りした漫画だった。ソレに比べりゃ、ネットやスマートデバイスなんて目じゃないね」

「私の知識が浅学なのは認めますが、わざわざ小難しい言葉を使いたがるなんちゃって衒学屋さんも悪いと思いますのです」

「ノリでデモ行進するよかマシだろ。俺は本気でお茶乱気ちゃらけてんだ。ソレと同じように、君の事が本気で好きなんだ。そう言ったら、お前は惚れてくれるか?」

「えー? あやや、んー、それは………………はい、それが本気ならOKですよ」

「ジマでか」

「はい、じまじまです。あーでも一夫多妻制を許容してくれるならですけどね。私の身体は一つですからそこは真剣に考えないと……いや、でも最近はクローン技術があるし――」

「悪かった、俺の負けだ。スマンね。君が何でも噺を聴いてくれるからつい喋っちゃうのさ。それに俺は本当の阿保には何も喋らんよ、喋ったって伝わらんし理解させる気もないし。しかしだね、だから何度も言ってるだろう、俺の言動など十中八九お茶乱気だと」

「そうやって壁を造られると寂しいなあ。そう言う剽軽タイプは闇が暗いのがお約束です。けれど路花ちゃんはどんな人でも受け入れますよ。過去のスキャンダルや未来のスパンキングなど気にしません。作品が素晴らしければ良いのです」

「『作者の質と作品の質は別』ってか? じゃあ俺じゃなくてもいいって事か。ヤレヤレ、異能者フロイライン同一性アイデンティティーが素晴らしくて羨ましいね」

「ああっ、そういうワケでは……」

「冗談だよ。素直にその愛嬌を受け取っておくよ」

「それは良かったです。やれやれ、躁鬱病患者を相手にするのは一苦労だ」

「何、突然RYONAプレイがしたくなった? よろしい、ならば明日の午後、俺と地獄に付き合ってもらう。殴打、切断、串刺、達磨、首晒、爆竹、緊縛、焼豚、肉食、窒息、石化、圧縮、触手、糞尿、変身、拡縮、獣姦、眼姦、脳姦、妊娠、産卵、屍姦、その他諸々のBDSM……お前に本物のRYONAがどんなものか教えてやるッ」

「――ッ! …………???」

「え、伝わらない? ジマかよ。いやだから下ネタ的な……」

「下ネタは危険度に従って超自我で自動防衛されます。その堅牢さと言ったら、八百万種のセキュティソフトを詰め込んだスパコン並です」

「SSは一つにした方がいいぞ。でないとウィルスの取り合いで阿保な事に成る」

「で、ええっと、今は混線してるから、ネット検索できませんね」

「ってネット検索できるのかよ。ギャグで言ったんだが、予想の斜め上を行きやがる(つか、そう言えば前に『文体練習』がどうのこうの言ってたな)。

 まあ、熱力学第二法則というものがあってだな。簡単に言えば、電気ヒーターを使って電力から火力に帰る事は出来てもその逆の電気ヒーターを燃やして電気は造れない、というエントロピー不可逆の法則だ。で、それをどーこーするのが彼の『悪魔』でありこれ以上は余白が台詞が足りない。世の中では日常的なくせに、それを説明する事の何と難しい事か。詰まる所、我々が日常的に『エネルギー』と呼んでいるものは全て何らかの差異つまり『ディフェレンス』の事であり悪魔はそれを造れる第二種永久機関の使者であり絶対暗黒点のうんぬんが輪廻世界の狭間でどうこうしてああもうそういう事は本丸の人に訊いてくれ知るかバーカ目の前で起こってる事が事実なんだよこういうのはハッタリかませばいいんだスベるのは走ろうとした結果なんだ聖書なんて一回も読んだ事ないくせに十字架教要素使った漫画で『何かスゲー』って思ってりゃいいんだでも無軌道大学生が部屋にこもってアイデアノート描いてるくらいならたまには外へ出ようそうだマック行こう」

「説明諦めたっ。まあ、つまりあの子は何でも食べれる好き嫌いがない子って事ですね」

「一行で纏められちゃったよ。つーか『あの子』ときたか。天然か。天然なんだろうなァ」

 最近の子は恐い。この程度じゃ驚かないのだ。などと思うこの男はドンパチの間にも駄弁りながら壁を走り、跳んで来た触手を跳んで避ける、壁が触手で砕け散る。戯言を交わしつつケイは灰泥を叩き、路花もまた指から光る弾丸を飛ばし援護する。

(だが確かに効果はあった。灰泥は路花の超能力を受け動きが鈍った。感応を込めたホシフルイの打撃も効果がある所を見ると、霊的攻撃、意識攻撃、つまり「精神攻撃」は有効か? いや精神攻撃にだってこの灰泥は耐性を持っている。ならば有効というよりも消化、つまりエネルギー効率が悪いという事か。心は複雑怪奇)

 ケイは「Boyチェッ!」と毒づきながら相手を調べた。強さ不明。あなたを嫌っている。どうやら相手は遂に本性を現したようだ。灰泥はもはや「人の形を成していない(No Longer Human)」。人間のフリをする事を止めている。絶えずぐじゅぐじゅと姿を変えるその様はまるで何処ぞの「G生物『第5形』」、或いは冒涜的な「無貌の神」。いや無限増殖する癌細胞だ。悪性腫瘍だ。ケロイドだ、壊死だ、象皮膚だ、魚鱗癬だ、レックリングハウゼンだ、蓮コラだ(熱い風評被害)。人間部分がどれだけ残されてるかはお好みで。姿が想像できない人は、丸いアイスクリームを地面に落っことしてお人形を打っ刺した姿か、お人形を吊るしたナメクジチョウチンアンコウな姿よろしいです。傷が膿み、炎症を起こし、黴が生え、寄生虫が内臓を食い破る。工場から出た廃棄物だ。煙と毒水の公害だ。手前等の流したクソの山だ。頑固な油汚れの排水管だ。「死ね 死ね おちろおちろ 地獄の底へおちろ おちてしまえ!!」。奴こそがこの世全ての悪でありこの世全ての正義だ。一であり全であり、根元であり遍在であり、原因であり結果だ。しかしそのような価値観は「妖怪」や「神」がそうである様に観測者が勝手に分類した結果でありコインの表と裏は決して同時に両側を見られず(略)。

 しかもその灰泥の身体はぐじゅりぐじゅりと腐った何かを混ぜ合わせる様な音を出して絶えず変化している。既存の生物や物体を浮かび上がらせる。それは触手も同じ事で、「七十二般の変化」よろしくさっきのショットガンを初め、犬や猫や鮫や熊や人や鳥の頭や尻尾や腕や、ムシ(?)、ヤツメウナギ(?)、ウミケムシ(?)、その他よく解らないモノなどなど等々、武骨な武器や歪な獣が原寸デタラメに継接パッチワークキルトのように溶け合って膿のようににゅるにゅる出てた。まさに合成獣キメラ。別々の人形の部分を組み合わせるように、他の命を自分に継ぎ接ぎした様な、前衛的な生け花か毛の様にカビの生えたにこごりか取り敢えず足を増やしてみたタコ。冗談みたいなガラクタ。プラモデルの様に身体を付け替える自立型戦闘兵器体ゾンビドール「RENGOKU」の「ネクロニカ」。バッタの様な鳴き声を鳴らし、絶頂した雌蜥蜴の様に身体を緩やかに波立たせる。ぐじゅぐじゅと絶えずその形を変えながら伸ばす舌もよく見ればただの灰泥ではない。人の毛髪、人の指、蜥蜴の尻尾、蝸牛の目、蛾の触覚、鉄の鎖、木の蔦、何かの内臓、間違いなくイカ、なんて毒々しいおばけクラゲ、ンンンーーーッ!!!、その他よく解らないモノなどなど等々、何本何様のけったいな姿形をしていた。

 しかもそれ等は正しく「ソレ」だった。つまり模造品ではない。中には模造品もあるだろう、泥人形は真似が上手だ。だがほとんどは喰らったそのモノをそのまま出していた。それでいてキュビズムみたいにキレキレだった。添え名は「偉大なる強さ」。好物はレタス。アトリはアンクでどうですか?

 成程、未消化だ。寄せ絵だ。孕んでいた。普通、生物が他を食らう場合、殺し、分解し、消化する。その過程で元の形、命、魂は失われ、エネルギーと化し、不要なモノは捨てられる。しかし彼奴が出す生物は生きていた。チョコレート箱に箱詰めするように、フォルダにデータを入れるように、生きたまま他を喰っていた。だからアレは死なないのだ。まるで1UPキノコよろしく命を一個食らったなら命のストックが一個増えるように、喰らえばその分だけ増える。そうするとどうなるか。つまり、こうなるのだ。

 まるで原始星プロトスター。銀河と銀河が衝突する星暴スターバースト。天多の隕石により出来た一個の星。核融合する綺麗な肉塊。精子を全て呑み込む受精卵。吐瀉物の闇鍋。その泥人形(もはや「人」とは言えぬが)の周りには、人が「魔力」という腐臭が星雲ネビュラなって漂っていた。

 宇宙にたゆたう暗黒星雲は自身の自重で重力を生み出し収縮して丸みを帯び、同時に周囲の物質を惹き寄せて超音速で己に落下させる。その落下による力学的エネルギーは熱となって散逸し光と成る。そのエネルギーによる熱運動がその重力を振り切ろうと拡散し、まるでゴミ袋の中で何者かが暴れるように暗黒星雲はグネグネと形を変える。それはやがて落ち着き原始星と成り、恒星と成る。その際に起こるエネルギーの解放、爆発現象であるフレアの温度は一億℃、その力量は太陽フレアの一万倍、その破壊は水素爆弾一京分超、展開範囲はかつてのこの星を丸々呑み込む。全てを喰らう万有引力が、光も、熱も、命も、魂も、世界も、全てを喰らおうとしていた。その光は黒かった。光の欠如の結果から成る闇ではなく、黒い光がそこにあった。色を混ぜれば黒に成る。光を混ぜれば白に成る。だがこれは昏かった。昏く輝く星だった。

 しかしそんな事は些細な事であった。重力の、黒洞の真の恐ろしさ。それは――如何なる壁にも防げないという事だった。

 その様はまさに「どす黒く燃える太陽」。その夢想の威力の前には、原子爆弾や水素爆弾など束の間の蝋燭に過ぎぬ。何故ならそんなものは人々の夢想の一欠片。むしろその奇跡を物資質化せしめたフォン・ブラウンやロバート・オッペンハイマーやエドワード・テラーの夢エネルギーこそが凄まじい。精神エネルギーというのはオカルトではないのだ。「E=mc^2」の公式に従って、しばしば誰かの夢想が他者を尽く傷つけるように、希望・理想・大志は、まさに幻想フレアとなって世界を焼く。文字通りの情熱となる。さあ、今こそ心よ爆発せよ。「さらば夢想の日々」よ。

「路花の言ってた混線ってこういう事か。経口摂取、経口?、まあとにかくDNA摂取による標本獲得か。まるで『超個体』だな。動物園だ。『赤ずきん』の狼じゃあるまいし、一体どれだけ溜め込んでんだか。『究極生命体アルティミット・シイング』の出来損ないかよ。ウイリアムズ博士に見せたらどんな実験するだろう」その声は驚いてはいない、呆れていた。「しかし成程、『究極』か。極めるとは一に収束する事。ならば真の究極とは、枝葉分かれる『進化』ではなくむしろ逆……原始回帰の『退化』の事か。彼奴は身体全てが束の間の蝋燭に踊る胎児の頃の、万能細胞よろしく全ての細胞が無限の可能性を秘めた特殊化していない未分化の幹細胞で出来ている。そして例え分化してもまた未分化の状態に戻られる。成程、実にヒトらしいな。ヒトの力はその万能性にあるもんな。己を進化させず道具を造り出すところにあるもんな。そしてお前は、自分自身がヒトであり道具であるという事か。必要に応じてモデルチェンジ、何かに特化した進化ではなく何にでも対応できるまで退化か。一番に成れずとも、生きる為だけなら合理的か? 勿論、細胞の肉塊というのは珍しくない。単細胞生物でさえ無数の原子で出来ている。わざわざPopミュージックが歌うまでも無く、『誰もが一人ではない』。一個で出来ている者などいないのだから。そしてこんな無限増殖&変身なんて設定も、少年漫画じゃありきたりの設定だ。ありきたり、だが……現実に戦うと、ヤレヤレ、やはり不通に闘ったら物量作戦が一番よな。星条旗らしいぜ」しかもその大きさはコップに水を溜める様に徐々にだが着実に増えていくようで、しかも周りの観客までも食べていて……。「あまりおイタをするんじゃないぞ!」

 路花が眼を廻しながら何かを言った気もするが気にしない、ケイは路花を担いだまま灰泥に跳んだ。ソレを狙って触手も跳ぶ。見苦しい。当たるとも思ってないくせに、そんな出鱈目な照準で何を撃つ。ケイは軽々とその死を避けて、灰泥の身体を刃で斬る。しかし、

「あれゃっ?」

 斬られた傷口から灰泥が飛び散り、それが新たな泥人形と成った。早い噺が分裂分裂。頭に切り込みを縦に一本入れれればジヘ〇ドに、二本入れればサザ〇ドラに、七本入れればヤマタノオ〇チに首が増殖する。これ程の生物学的構造の複雑さを持って無性生殖を成し得るのか。いや灰泥で相手を喰って吸収できるのである意味有性生殖か。

 そう考えると、食物をエネルギー源としか考えられない生物は非情に非効率じゃのう。ソレは情報の塊だと言うのに、消化できないものは全て捨てる。全く、イッツ・モッタイナイ。というか一々固体の生命活動が停止する度に情報を初期化する時点で非効率極まりない。ワシの様に血を飲めばセーブデータをロード出来るのにのう。せめて最初から優れた固体を産み出せばいいのに劣等固体を産み出して受験だの就活だの時間を浪費させるのは極め矛盾に云鱈寒鱈……って知り合いの金髪ロリ血吸い鬼さんが言ってた。閑話休題。

 兎も角、とケイは考える。見積もりが甘かった。これ程までに灰泥の量が多いとは。「攻撃して灰泥を削り取る」という勝利手段は望み薄らしい。攻撃しても次から次へと他から補う。アレは何でも食べる。動物や植物は勿論、炎をを炎のまま電気を電気のままエネルギーにし、太陽発電も風力発電もし、音や傷や鉱物だって食べてしまう。敵意さえ。物理・精神を問わず己に向ける攻撃さえも餌にする。生きる事で生きている。

 そう、ケイは考える。ケイは表ではおちゃらけている様でも、裏では常に思考しながら戦闘する。むしろそのおちゃらけは、他を油断させる仮面の姿。彼は闇雲に剣を振り回し、考え無しに相手を殴り、作業的に「コマンド:たたかう」を押すゴリ押し野郎ではない。常に考えて刃を奮う。それが「品格」というものだと思うから。尤も、本物の役者というものは、考えずに、だからと言って思考停止ではなく、素で、自然に劇をやるモノなのだが。しかし思考にしろ即興にしろ、そんなケイの演技を邪魔する役者兼観客が、というか小煩い小犬が、脇の下に一つ。

「痛い痛い痛いー! さっきちょっとカスった! 痛いよーぉウワーンっ!」「カスってない。カスったとしてもかすり傷だ。一々、欧米よろしく派手なリアクションすな」「ハァーン! コチラとはCOMICに出てくるような斬られても叫び声一つ上げない不感症じゃねえんです! 一発でも殴られたら泣くんです! ヤパーナは痛がりの文化です! ビビッて逃げ出しまうんですう!」「俺だって痛いわ泣きたいわ逃げたいわ。でも逃げたって何にもならんだろ。せめて『防御シールド』くらい張りなさい。それかアレだアレ、電撃だ。取り敢えず電撃出せ電撃。ほら早く、ていうか何でもいいから早く何か出して。一杯出してっ」「瞬間移動で鳩出せます!(クルッポー」「ええい、落ち着けこのどっとこすっこいハム野郎。ソッチがソレならコッチはアレだ。行け路花、『10まんボルト』」「あ、あ、あーっ! 言うと思ったぁ! 何時か絶対言うと思ったあ! けどケイさんにはそんなテンプレ言ってほしくなかったあっ!」「えぇ? んな事言われても困るわ。じゃあ『ザケル』とか『雷公鞭』とか『愛のイナズマキック』とかならいいか?」「既存の技名から離れてください! 私は秀真路花マリステラですっ!」「なるなる。なるたる。じゃあえーと、ウォーターカッターのように動かす面の念力を線にして相手を切断するんだ。名付けて『サイコカッター』。いや、瞬間移動で相手の身体を部分的に微妙にズラして空間ごと斬り裂く『テレブレード』もいいな」「ふむ、やれば出来るじゃないですか!」「いやお前がやるんだよ」「DEX(技術力)が低いので無理ですね」「手前が低いのはINT(知力)だっ」「わーきゃーひーっ! 死ぬ死ぬ死ぬー! ひあー たーすーけーてー」「と言いつつ楽しそーだな君わっ」

 路花の叫びはローラーコースターに対するソレだった。ケイは若干キレ気味でそんな泣き笑いする路花に怒鳴った。しかしケイもケイでそんなスリルのある状況が満更でもなかったりする。つまりどっちの台詞も空回っていた。きんちょーかんの無い奴等め!

 しかしこの遊具に安全装置など何処にもない。胃液めいた灰泥が確かな殺傷力を持って襲いかかる。ケイは巧みに避けるものの、如何せん攻撃の数が多すぎる。というか路花がバタバタはしゃいで地味に邪魔い。怖がっているのか楽しんでいるのか、その泣き笑う顔からは判別し難い。それに避けてばかりでは他に無駄な被害も出る、というか出てる。それにこれくらいで泣き事を言えば男が廃るし海の星のあの人に笑われる。というか、

『『『『『あは! あははは! (゜A。)アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャハハケキャキャヒャケキャハェクハヒャファヘャホカケャキクぁwせdrftgyふじこlpげひがはゴホぜひ(むせた)! 痛イ! 痛イ遺体異体! コレを痛い? コレに痛み! 此処が居たいまだ遺体!? 板井痛い居タ良いナア痛イヨオ! イタイ射たいイイ痛いナタイ咲いた名イタ誰モ要ナァアアアアアアア皆死ンジャエエエエエエエエェェェッ!』』』』』

 というか相手が笑っていた。その笑い声は複数の声色が混ざっておりかつ音楽ソフトで出鱈目にイジって水の中で喋ったような声になっていた。眼は酒と薬と夢のトリプルアクセルを決めたグルグル眼(同心円タイプ)だった。焦点の覚束ない瞳孔の開いた光無きレイプ眼だった。「モルボル」か腐った「パックマン」よろしく黒い球体を口の様に開け、その上部に己の身体を溶接し、触手をうねらせ獲物を捕らえたり歩いたりしていた。触手は身体からだけではなく、周囲に広げた泥の海からもうんとめったら跳んで来る。その触手は通行人も瓦礫も目に付くモノ見境なく食べていた。

 だがそれは力を強めたというより限界を考慮していないだけだ。有り体に言えばリミッター解除。励起状態。限界点突破。理論上可能だがソレをやると安定性を失い問題が起こる動作を行う浪漫機構。己の許容量を省みず、ぶっ倒れるまで酒を飲むつもりだった。それでいて身体は崩れて行く一方だ。穴の開いたバケツに水を入れる様な、或いは崩れていく泥船にせっせと泥を継ぎ足す様な感覚か。路花の電撃のせいか、身体は氷菓子のように溶け初め、白い煙が出始め、それでいて岩の様に炭化し始めていた。放っておいてもやがて自滅するだろう。尤も、それにはチェルノった原発が落ち着くくらいの時間が掛かるだろうが。何々すかね、この原発ちゃんは。

『『『『『暗い喰らい明かりハドう『したドぶうサギの仕業かなントイう美』談な』りそンな所に隠れていては見』えなくテツカまルぞ。おう。見るぞトよ見『るぞトヨ。南はさこ』そと夕波』ノ住吉の松原。『東の方ハ時を得て春の緑ノ草香』山。北はイズ』ク難波たる。何と』いウ素晴らシき夕焼』けの景色。マルで』この世の終『わりノ景色。』ごラン『空から百千ノ私が降ッテ来る『。お』ウ何という遅サ避けきれヌ。お『父サン、もう一度』僕ヲ『妊娠してクダ』サい。お父さ』ま。お『父さま。お父さまお父』さま『お父さま』お父さまお父さ『ま。貴方のお腹』で、胎児となっ『て、モウ一』度……躍らせてエ―『―ッ。『When we ar』e bo『rn we cry th』at we are come to this great st』age of fools.』コれが阿鼻叫喚と『いう奴ダ。正直な声デア』る。幸福も』不幸も無ク、タだ、一切ハ過『ギて逝く中で、唯一の『正直であ』る。あアモ』ウダメだ。『火ガ僕の目』ニ飛び込ンデ。我は死ぬ』、俺は『死ぬ、私は死』ぬ、死んで『この太平を得る。太平は死なナケれ』ば得られぬ、南』無阿弥陀仏南『無阿弥陀仏。ソウイウヒトニ 』ワタシハナリ『タイ いいえ、『あナタはもう死んデいたンで』す』『』僕って『ね…』…ドウシてだ『か、誰からモ』愛されルンダ『よ。ムゼヌ・ト・ウロ・キチロ・イチス・ヌ・ウチレ・ズキヤ――』』』』』

 幾重にも重なる声で不可解な呪詛を叫ぶ。その音は放射能のように防げない。聞いた者を不安にさせ、絶望させ、吐き気を催させ発狂させる。

 更に相手は灰泥の腕を生やして通行人を捕らえた。捕らえられた通行人の肉と心は変質し、「バイオハザード」よろしく泥人形と変身する。まさにスタンピードであった。

「どどどどーなっちゃってんでしょーかあの子!? 何か『シバシバ』って感じです?『タタリ神』って感じです?『憂いの沼』が辺りを埋め尽くす程に溢れてるんですがそれは!? 『あ……あ……』って砂金を出すノーフェイスが発狂してゲボーってなってますね(ニガダンゴぽーい)。まるで菌糸の化物だ。癌細胞か茨の森の様に身体を伸ばして、そこを頭がロープウェイみたいに移動して、おおグロイグロイ。『100万トンの』狂気かかえて『パタポン』が特攻してあうあうあう。『でも私たち愛してくれとは言わないよ~♪』」

「どーもこーもクラリネットが打っ壊れたんだろ。臨界点突破する炉心融解メルトダウン。自重により崩壊する超新星スーパーノヴァ。コッチが中途半端に腹パンしたから、喰ったモノを押し留めていた堤防が決壊して吐いたんだ。幾らPCの能力が優れていても、容量が餓鬼ならこんなものという事だな」

 いや、逆か、とケイは思う。なまじ能力が高いからこそ、つけあがって――そう思い、ケイは腕の中で「うわー」とげんなりしている少女をつい見てしまいそうになった。そんな自分に「チェッ!」と舌打ちして台詞を続ける。

「しかも物語のお約束。面倒臭い壊れ方だ。コピー機は止まらず紙を吐き出し、料理人は包丁で自分の指先を微塵切りし、『私』は統合性と同一性を喪失し解離する。つまり、発狂してる」

「『おれは人間をやめるぞ! ジョジョ――ッ!!』」

「お前わもう、何というか、緩というか……よくこの状況でそうボケられるもんぢゃ」

「うわわ、脱力してズッコケないでくださいよ、危ないなあ。『そいつは素敵だ。面白くなってきた』って奴ですよ。ていうかケイさんだって何時もボケてるじゃないですか」

「いや俺のは――」

 ケイは言葉に詰まらせた。思考が止まり自分でも何と言おうとしたのか解らなくなる。「気取り」?「演技」? 解らない。もはや何を目指してこうなったのかも。あの解離性じみた己の人格を多重に変身させる様を見ていると、此方の意識まで分裂して来る。

 しかし路花はそんなケイの心に気付いてか気付かずか、台詞を待たずにこう語る。

「まあ発狂と言っても、最初からSAN値マイナスみたいなものでしたけどねー。近くの者の正気度をマイナス分減らす的な、『フランちゃんウフフ』的な、『食べていい?』的な、むしろ異常なのが健常的な、フリスク決めてフリークス的な」

「じゃあ、異能者(お前ら)と大して変わらんな」

「サラッと酷い事言ってくれる……」

「――ッ! スマン、そういうつもりじゃなかったんだ……」

「はあっ! ツンな気の強い男の人が魅せる弱気な瑞々しさ。ツンデレではなくツンしゅん。まさに白いTシャツから覗く筋肉のチラリズム……萌えますな」

「きめえ(笑」

「えー」

『『『『『Dig Me No Grave』 and 『Ich steh mit einem Fuß im Grabe』! 死と生はコインの裏表にて我はコインの上で踊る役者成り! サムズアップだ! 汝が世界よ喪に服せ! Mourn morning!『I am more than a doll!! Die Wooooooorld!!』』』』』

「『……何言ってんの?』」

「あーもう言ってる事メチャクチャだし」

『『『『『クールだね、ステキだね。素面なテンションのお前等が、肉いっ!』』』』』

 会話に割り込んできた灰泥は光の無い狂った笑みで石油流出事故よろしく海を広げる。


 ――Tinkle, tinkle, liter stir,

 ――How AI wander what's your name!

 ――Up a dove the world show fight,

 ――Lucy with diamonds in the sky.


 ワケの解らない呪詛と共に、ワケの解らない灰泥が一杯出た。まだ出るのか。そりゃ出るさ。周りに餌があれば何時までだって出るだろう。

 やはり単純な斬った張ったでは分が悪い。海に小石を投げる様なものである。特攻しても藻屑と成り、灰泥という魚に喰われてデッド・エンド。勿論、目潰しや関節といった技も効果は薄い。手の平からでも眼を生やすだろうし、身体はぐにゃぐにゃと言わずもがなだ。毒や麻痺も微妙である、だって相手は既に灰泥、状態異常アブノーマル通常デフォルトだ。その証拠に、相手の頭はくるくるパーで呂律はロクに回ってない。

『『『『『『We are the Maud』『You will be assimilated』『Resistance is futile』!』』』』』

 それ元ネタ知ってて言ってんのかよ……、とケイは辟易する。響きだけは素晴らしくて、自分の言葉の由縁さえ解らぬとは。因みに右記の台詞の元ネタは2071年の宇宙を舞台にスターとレックと呼ばれる二人の宇宙カウボーイが土地を圧迫するだけの重要文化財をドローンで次々と壊していく話である。決め台詞は「いいチャージインだ!」。

 泥人形の声は、まるで複数の声音を改造して合成してウガイしながら叫んだ様だった。聴こうとすればするほど意味が解らなくなる。世界の神秘を解き明かす程に無垢なる自然から離れて行くように、大学受験の英語のリスニングテストを聴こうとすればするほどゲシュタルト崩壊よろしくワケ解らなくなるように、多重人格の様に声を重複させる。

 ああ、ヤダヤダ。この手の存在は「力が強い」とか「身体が硬い」とか「運動が速い」とか、そういう数値的な問題じゃないんだ。「物理法則? 何それ美味しいの?」を地で行くレベル。エネルギー保存則も可逆性もエネルギー効率もお構いなし。全く莫迦げた存在だ。尤も、異界の存在に現界の法を望む方が莫迦げているか? 水が水素(H)と酸素(O)で成り立っているとは限らないし、そもそもそんな元素あるかどうかも解らない。「ゆで理論」と「すごいね、人体」が合わさって常識にとらわれない。

 けれども鍛え抜かれた無尽の刃は、物理的な距離を跳び越える無限の弾は、「ゆらぎ」の中にいる心は、そう簡単には消化できない。そして夜空に星を見上げると誰もが心を揺るがす様に、その天上の光は遍く者の心を照らす。心は物理的な時間を超え、物理的な壁を擦り抜け、如何なる者も打ち砕く。さあ、冒険者よ! 今こそ決戦の時だ。心を強く持て。強き心こそが初めての冒険の一歩となり、最後の敵を斬り裂く刃へと……

「あぅー。姿がグルグル変わって見てるだけで眼が回る~。灰泥『とは一体……うごごご!!』。何か『そして現れたのは、雷光で人間の神経網を模すことによって造られた、稲妻の巨人だった。はるかな昔、一人の人間が、自らの意識と人格を雷を用いて複製し、世界の果てに隠した。その力のすべてが、いま解放されたのだ』、って感じですね。いやフランケンシュタインじゃなくて。最近の一押しだと『戦国妖狐』の千夜さんに――」などと、真面目にケイが考える中、腕の中の娘はぽやーっとした感想を供述しており。「そう言えば、人間の脳って時代により『70%しか使われてない』とか『30%しか使われてない』とか言われますが、結局、『何%』なんでしょうね?」

「さあねえ、ボクシング選手が自分のパンチで自分の拳が壊れたとか、マラソン選手がゴールした途端に事切れたとか、F1レーサーがレース中に神を見たとか言われて、超能力の要素の一つではないかと実験も行われてるけど……まあ、何%かどうかは人それぞれだろうよ。つーか、それ今言わなきゃいけない系? 余裕あんのなあーた」

「あやや、だってそうでもしないとテンパりそうですし。こういう時は、頼りになる人と駄弁ってる方がいいのです」

「この子犬パピーは動いてるのは俺だと思って楽々と……」

「で、勝算はあるのですか? 相手は能力無効化能力どころか吸収能力を持ってますが」

「少年漫画じゃあるまいし、エネルギー保存則からいって能力無効化なんてありえねーよ。『E=mc2』よろしく大爆発起こさせる原爆野郎なら知ってるけど。ま、大丈夫なんじゃネーノ? こういう敵は初めて見るが、こういうパターンにゃ慣れてる。大出力のエネルギーは消化に時間が掛かるようだし、チビチビ削ってりゃ何とかなるさ」

「フッ、何時だって俺達の人生は崖っぷちさ」

「何、急にハードボイルドってんだ。ま、RPGじゃあるまいし、『詰んだ』なんてありえんだろ。どんな時でも思考を止めないのが、勝てない敵を作らない方法の一つさね」

「勝負しなければ敵もいないのにね」

「だけど勝負しなければ金も経験値も貰えんのよ。全く、ヤレヤレだぜクソッタレー。いずれにせよ仕事なんだ。出来なくてもやらにゃいかんし、ましてや正義や思想もどうでもいい。『やれ』と言われれば、やるだけさ。この役は俺のモノだ」

 ケイは路花の事を余裕と毒づきつつ、己もまた余裕そうにそう言った。しかし、それも無理はない。何故ならこの戦闘、「恐怖」を感じない。確かに敵のエネルギー量や特殊能力は凄い。だが心は赤子である。ただインフレする力だけでは、凄いとは思っても、何も響いてこないッ!

 相手が膨張する菌糸のように灰泥の触手をケイに向かって這わせた。道路や建物の壁をバターの様に溶かしながら迫って来る。しかも溶かされた物体は表面が白熱し硝子テクタイト化している。どうやら彼奴の触手は核爆弾並の熱量を持ってるらしい。触手の周りに蛍の様に、宇宙の質量の99%以上を構成する球電プラズマが飛んでいる。それらの落雷はそれぞれが意志を持つように一つに集まり、英国に伝わる彼の黒いブラックドッグと変じてケイに跳ぶ。見えない荷電粒子と電磁波の壁があらゆる力学的エネルギーを物体に当たる煙の様に退ける。

 ケイは迫って来る黒妖犬を、大して意にも介さずホシフルイで掻き消した。ホシフルイは心の刃。未分化の世界をそのまま道具に鍛え上げた星そのもの。有象無象の区別なく相対する。幾ら見た目が怪物でも、心無い灰泥は容易く消える。

 が、間髪入れず次の灰泥が襲って来る。

(チェッ! 俺の心だって、説教できるほど偉くはない、か……ッ!)

  だが、恐怖を感じないとは言っても、ソレは飽くまで「戦闘」に対してである。それ以外、例えば殺意もなく振り回される膨大な力はロクに整備もされない原子発電所チェルノの様に危険であり、敵意も無く振りかぶって来る刃は気狂い(サイコパス)の様に不安にさせる。これなら確固たる悪意を持ったヴィランの方がまだ共感できる。

 本当に恐ろしい敵とは強大な力ではなく、理解できない思想なのだ。

(チェッ! この自由男フリーマンめ。ソレが兎に角事実なら、わざわざトンデモ学説を説明する気はないってか? ヤだね。数値の高低よりワケ解らん特殊能力の方が強い。ソッチはそれでいいんだろうが、コッチにすれば……全く、ヤレヤレだぜクソッタレー。努力する気無くしちゃうよ)

 だが塞ぎ込んでも仕方ない。「何故」とか「如何」とかはどうでもいい。問題は目の前に在り、やらなきゃ死ぬ。それが全てだ。何時か何処かに無上の幸福を約束するのは、頭でっかちの英雄の幸福論だ。世界救済に世界滅亡や楽園への路に現世での修行を強いる神話でも宗教家だ。故に、さあ、闘うのだッ!

 しかし闘うと言ってもどうするか。あまりこういうのは好みじゃないが、精心攻撃と行くべきか? 我放つは心の刃。ならばホシフルイという手札があるにはある。あるのだが……しかし、この激しい触手の中じゃちと集中するのが面倒だな。うーむ、このままではジリ貧か? ――と、埒が明かない事にケイが辟易していると、

「ほう? これまたナンセンスな泥人形じゃな。耳が浮き立つわい」

 突然、乱れ飛ぶ灰泥の触手をかいくぐり白い影が乱入して来た。その声だけで解る、思わず「老賢人オールド・ワイズ・マン」かと身構える、老成した深さと広さ。

 その者が術するは異界の法たる「魔法」ではなく、この現界の森羅万象の法たる「万法」。それを記述ライミングするは相互作用の第五番「万子アイテール」をもって輝く、世界の無意味デュナミス意味エネルゲイアする演算万術アリスマティックが一つ光式フォーミュラ……宙に幾つもの「場の定義フィールドコード」としての万法陣が浮いている、それ等の陣から「E=mc^2」の方程式に従って情報値エントロピーが光エネルギー(エウレカ)となって散逸する。その様はまるで、周りに幾つもの星、いや銀河を散りばめている様だ。そのうちの一つが、迫りくる触手を油に洗剤を遣る様に弾き返す。無動作でこの力。しかもその式は恐ろしいまでに無駄がない。

 一見すると平易に見えるが、理解できてしまった者には芸術の畏怖を感じる。凡そ凡人には理解できないと理解できた時の恐ろしさ。ケイでも彼の力量が解る。美しい程の腕を持った万術師だ。これは本当は吐き気のするほど難しいのに、頭の良い人が誰にでも解る様に平易な文章で書いた式だ。子ども向けアニメの様に成りだけ派手な記述でも、恋だ嘆きだと書き散らかした実がない式でもない。最初からこうなるのが必然であったと、そう思わせさえさせる式。恐らく偶然に闘いの場に出くわしたランナーの一者だと思われた。

 その事にケイは驚いた。ランナーの乱入にではない。その風貌にだ。と言っても、五つの人の子の背丈にも満たない体躯、桃色の瞳と兎口とピンと伸びた耳、ちょっと記号を付け足しただけではない全身毛むくじゃらの獣も獣、二本足ですっくと立って人語を喋る長耳族ミミガー……それなら普通だ。それだけなら驚かない。だが彼の物語を知ってる者は違う。彼を知っている者は此処からが驚く。何と彼は機械式の懐中時計を持ってる。無論、驚く点はそこだけでなく、その装飾記号は、チェックの上着とチョッキ、片眼鏡と緑の傘、第一声は「遅刻する」……此処まで言えばもうお解りだろう。そう、彼の者は少女を異世界へと誘う導き手――

(だが彼奴は、長靴なんて履いてたかなあ?)

 そうケイは思わず思った。その誰もが知ってるであろう水先人は、知られている姿とは違った。見た目だけでなく中身もそう。「臆病」も「虚弱」も「神経質な優柔不断さ」も読み取れず、むしろ見た目は少年で、同時に力は凡夫には見て取れない程に深まっていた。

 いや、いや、いや、そんな事は問題ではない。問題は――

「しかし、こうも道化ばかりでは少々飽いるな。それにこの連戦。此方の『時計じかけの神』が持つかどうか。殊に、数分前の一撃が痛い」そう言って、兎は鎖を指に遊ばせながら、上蓋の開いた懐中時計をチラと見る。その時計にはヒビが入っていた。「しかし、ま、出会ってしまったなら仕方ない。『at Our Princess's pleasure』――我等が麗しの姫君の仰せのままに、彼奴を捕らえて魅せるか。ならば跳ねよう、ススキを指揮棒のように振り、大砲に乗って月へと跳ぼう。BGMは――『BGM』か、すっかりこの世界の住人だな。其は互いの星をぶつけ合い響かせる神の調べ、原始星の様に――ならば、ジグ、ジグ、ジグと、黒き死と、『Danse macabre (Saëns)』で回ってみるか」

 そう言って、兎は竜頭リューズを巻いた。北極星エンペラーを中心に針が回る。星が回る。世界が回る。そして兎が「Snap」と指を弾くと何もない宙から炎が出現し、そして揺らめく姿を金属の様に硬質化し、鋭利な刃となって灰泥に奔った。艶やかな炎が舌を巻く。が、鞭の様にしなる灰泥に呆気なく砕かれる。

「ほう! 戯れながら我が〈法〉を意に返さぬとは。五度目の『当たり』か? 幸福やら、不幸やら。しかも炎が色を失い硝子化しよる。存在の相転移、『情報値エントロピー』ごと喰らっておるのか。文字通りの本の虫じゃな。成程? 彼奴の本質は多彩な花でなくむしろ原始の種、ミロのヴィーナスではなく何度も元通りになるハンプティ・ダンプティ……っと、イカンイカン、つい癖が、演目中に空論など、足をすくわれる。それに挨拶がまだだった。いいか、忠告だ、君は速く自己紹介をするべきだ。さあ、しなさい!

 あいや、途中入場で失敬、若いの」

 と兎は独白一拍置き、ケイにピョンと近付いて、帽子の唾を持ってニヤリとしながら、紳士に真摯にそう挨拶した。

「無遠慮だと思うが、其方達は少々危なっかしい、横槍を入れさせてもらおう。お邪魔する此方の名は、あー、まあ、【愛しい兎】ニベンズ・マクトウィスプとでも呼「俺の手柄だ、邪魔すんなッ!」おっと?」

 名乗り口上の途中で、ケイが三月の気狂いの様にホシフルイをぶん回した。兎は半ば予想していたように軽く躱す。

「あ、酷い」「酷くない。猫の手もとい兎の手を借りるランナーなどランナーじゃねえ」「古風だなあ」「乱入は謝るが、お嬢さんを無闇に危険に晒すのは頂けない。兎も角、協力しないか?」「余計なお世話だ、ラブ・ラビット。役を盗るな泥棒兎ロビット。派生品が出者張でしゃばるな」

 ごちゃごちゃとした台詞が入り乱れた。唯一の良心は路花であり、起こっているのは兎であり、口の悪いのはケイである。しかしケイの言い分は尤もだった。

 というのも、ランナーの戦闘は原則飛び入り参加自由ですが、同時に古き良きランナーはソロプレイ(DIY)が嗜みなので、助けられるなど子供の喧嘩に手前のオトンの権力で勝つくらい破廉恥な行為だと暗黙了解されています。なので余計ないざこざを起こしたくないならば、「仲間」「事前約束」「大規模」等以外の戦闘では乱入しないのが

「あーっ!」って説明している時に何ですか路花君。驚いて兎を指差して。「よく見れば、あの方は!」

「誰ぞ」

「『御存じ、ないのですか!?』。【黄金の昼下がり(デイドリーム)】と呼ばれるあの国民的物語を知らない! へーっ!」

「(うぜえ……)『ずっと夢―見させて~くれてありがーとお♪』」

「それは今際でもロックな人です」

「兎ねえ。一っ跳びで月まで跳ぶ脚力を持ち月を砕く程の腕力を持ったそれでいて見た目は少年かと見違う姿のクセに実は超高齢の静かの海で餅をつく【月之・万慈雲星慕千・黎仙・廻爛・幸春・戯響・悠離・金穴眼・映虚世睡・時庫紡史・因栄之白玉兎神・流名(つきの・ばんじいんせいぼち・れいせん・かいらん・せっしゅう・ぎきょう・ゆうり・かなめ・えいこせいすい・じこぼうし・いなばのはくとしん・るな)】なら知ってるけど」

「万事運勢……え、何?」

「知らんのかよ。彼奴の月見饅頭はHPとMPを50%回復させかつ15ターンの間3倍にしてかつ毎ターン最大値の3%ずつさせる超有能な道具なのに。『育った環境のせいもあるだろうが、不勉強なヤツだ』」

「国民的物語を知らないくせに」

「カッ。どーせ俺は非国民アンパトリオットだよ」

 無論、ケイは知っている。ただ、主流なモノを知っているのが何となく癪なだけで。しかしこれは、知らない方がおかしい。

 何せ彼の物語は国民的所ではない掛け値なしの文字通りのセカイ系。異世界漂流物語の原点にして頂点でありなおも進化する神話。誕生時期は「指輪物語」よりもなお古い。その主人公は新しいアニメが出ると忘れられる取っ替え引っ替えヒロインではなく、今もなお天多の物語にデリバリーされ、設定が加わり美しさを増殖させる、まさにただ名前ばかりがシャボン玉のように膨らんだ、夢幻の姫なのだから。

 そう、彼は彼の『不思議の国』から来た存在、つまり異界の中でも現界の物語、大祭害以前からある創作の漫画や映画や小説といった〈既知世界ノウンスペース〉から来た者だった。と、君は此処で「物語の世界が現実にあるの?」と思うかもしれない。しかしそれは逆なのだ。人は何も無い場所から物語を創るのではない。人の描く空想とは、実は既に何処かにある異世界と心で繋がった時に見る一抹の夢なのだ。ファンタージエンの今際の狼さんがそう言ってた。何かソレって、ステキやん?

 いずれにせよ、ソレが本物かどうか、それは些細な問題だった。それはわざわざ夢の国に来てまで鼠の着ぐるみを引っ剥がすようなものである。詰まる所、キャラクターショーを楽しみにしている子どもに「アレは偽物」というのは野暮なのであって、

「わーい、後でベルカお義姉ちゃんに自慢しよっ」で、路花はそんな子どもであった。「『Diki Diki Ding Ding Diki Ding Diki Ding♪』」と謎のステップ。

「ふむ、愛らしい良い笑顔だ。世界に価値があると言うのなら、子どもの笑み以上に価値在るものはそうそうあるまい?」それに兎がそう応う。

「いやんな机上の社会論は置いといて」しかし、ぺいっ、と大人のケイは特に喜びも哀しみもせず飛んできた灰泥を打ち払いながら早口で言う。「事件は現場で起こってます。そーゆー未来的巨視的哲学的共同幻想的世界平和思想は英雄の幸福論。一般人は、先ずは今の目の前の確固たる自分の敵を倒して今日のお金とパンを手に入れましょう。そしてその敵とは、勿論、アレ(灰泥)。どうしても協力プレイしたいなら先着順で俺等メインお前サブ、OK? NOKなら『Watership Down』にお帰りなさい」

「ケイさんそんな意地悪言わないでください。哀しくなります」

「だって分け前が減るだろ。第一、俺は協力プレイは好かん」

「手助けだけじゃよ。硬貨は要らん。そして其方だけで彼奴に相対するのは難しい、そうではないか? それにどのみち、時間が掛かると、余計にランナーが増えると思うが」

 兎は飽くまで冷静だった。大人の態度であり、言い分は尤もだった。あの文字通りの一人軍隊ファーストブラッドを相手にするには、今の戦力では削り切れない。ケイは渋々ながらも「チェッ! 解ったよ」と了承した。

「けど、飽くまでも本丸はコッチだ。お前は援護と牽制に――」

 と、長ったらしい茶番を終え灰泥に意識を向けると、ケイの視界にソレが入った。瞬間、ケイはソレを感じた。「勝ち目ゼロで闘うより一瞬優勢を感じた時の嫌な感じ」。したり顔で必殺技を放ち「やったか!?」とでも言いった時の予定調和。無意識はやった後で思わず「あ……」と言いたくなる程の激烈なか細い電撃でソレを伝えた。

 ソレは黒光りした鋼鉄製で、やけに長い筒を何本も持っていた。蓮根かと思った。しかし違う。その、胎児でも容易に大人を死に至らしめる事が出来る、圧倒的に暴力的な武器は――ショットガン!

「何ィッ!?」

 灰泥の触手は散弾銃を持っていた。いやソレは「持っている」というよりも、中から生えていた。灰泥そのものが銃になっていた。

 ケイはとっさに回避しようとする。だが無理だ。相手の弾速は音速340m/s以上、文字通りの「アッ」という間。更に相手は散弾。射線は円錐に広がり離れる程に当たりやすい。ホシフルイを盾に変換、いや防ぎきれるか?、侵食される、なら――

「攻撃あるのみ!」

「えぇっ!? ケイさん私が居る事をお忘れなく!」

「ああそうだね忘れてないよ路花ちゃん! 取り敢えず、行くぞホシフルイッ!」

 《WAAAAAAAAAAAAARN!!!》

「わ――――んっ!?」

 散弾の銃声(Shot)にホシフルイと路花の獣声(Shout)が重なった。ケイは銃弾が発射される瞬間を捉えている。弾丸の数、推定五十。ソレが向ってくるのも捉えている。集中する。分割する。時間を切り取る。力を込める。ホシフルイに十三種類の動きを一気に命令コマンド返答値リターンに応じてケイの身体機能が一時的に上昇、変化し、戦術コードが身体を走る(ラン)。脳細胞が限界値を超えて発火する!

 更にそれは先行入力。往々にしてCOMICでは登場人物が超高速戦闘をやるものだが、あの凄い所はその身体速度よりも思考速度だ。モータースポーツを運転できても、運転しながら携帯メールを打てる奴なんてそうそういない。故の先行入力。攻撃予測。思考速度は弾道が光と成って視界を駆ける。それに腕を振る時間や速度を同期する。無論、ホシフルイの強化により思考速度はナノ単位まで上がっている。ただ、身体速度がそれ以上というだけだ。その加速力に骨が軋み、瞬間的にジェットコースターの何倍に跳ね上がる重力加速度(G)の圧力に眼がくらむッ!

 ――――AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAUM!!!

 ホシフルイが吠えた。まさに獣。野戦反応。経験に任せた無意識の衝動。心理麻酔が痛覚と脳を書き換え、火事場の莫迦力の理論で身体能力が向上する。索敵。照準。発射。痙攣と同じメカニズムで棒を振る。弾が辺り、火花が奔る。一合で五つ、それを七つの攻撃が繰り出された。計三五つの攻撃が繰り出された。一つの振りで幾つかを纏める動きは、ケイの正確さを褒めるべきか、弾幕の厚さに恐れるべきか。兎も角、それらは弾から飛び出した粒弾を捉え、明後日の方向へと弾き飛ばす。

 しかし分裂した弾丸は残り三十数。それが一遍にケイに迫る。「チェッ! 流石に今は弾丸斬」りは無理か……ッ!、と心中の苦渋は続くのだろう。だがそれよりも早く弾丸がケイの身体を蜂の巣の様な穴を開け肉がミンチにする――よりも早く、

「『Oh dear! Oh dear! I shall be too late!”』」Snap、と兎が指を弾き、弾丸を全てを空中に開いた穴に吸い込んだ。瞬間移動? 否。これこそ物語のお約束。主人公は異世界からの訪問者や日常の破壊といった何らかの事件により己が住み慣れた居場所を離れ、「トトロ」然り「アリス」然り、森・窓・洞窟・洋タンス・机の引き出し・長いトンネル・栄光の穴といった「門」をくぐる事により異世界への冒険が、物語が始まるのである。「我は黄昏への無責任な使者。帰られなくともご容赦を」

「すごいすごーい!」とソレを見た路花、思わず拍手。

「路花、お前さっきから観客気分だな。まあ笑ってるなら別にいいし、その感想は同感だ」

 その隙に、ケイは棒を銃に変え灰泥の銃を撃ち抜いた。ペンキが撒き散らされるように灰泥の散弾銃が爆発する。これで散弾銃は使えまい。

 が、銃弾が来た。灰泥の壊れた散弾銃からだった。ケイはソレに驚くが、しかし考えればソレは何も不思議ではない。灰泥の見た目など遊戯に過ぎない。アレはただ真似てみただけだ。元から散弾銃の形にしなくとも、弾丸くらい放るのだろう。ケイは自分の都合の良い考えに舌打ちし、「やったか!?」よろしくなあまりにお約束な展開に嫌気がした。物語とは何時だって、誰かの失敗により始まるのだ。

 熱した油のように灰泥が跳ねた。スラッグ弾よろしく大人の拳よりも四倍デカい弾丸が、ケイに向かって飛んで来る。反射的に棒で叩くが、破片が莫迦みたいに飛び散った。ロードかエクトプラズマのような粘度を持って、ケイの身体に灰泥の残骸が降り注ぐ。

 ――呪ッ!

 今度は兎のフォローも間に合わなかった。高温の油を浴びたような、熱い刺激が身体を走った。それでいて氷の刃に貫かれたように身体が凍る。心臓がどっと早鐘を撃つ。嫌な汗が噴き出してくる。だが路花は何とか守った。灰泥は喰らわせていない。

「あっ、ケイさん!」

 ソレを見て路花の先までの笑みが消え失せる。それを見て兎が「むっ、道化が過ぎたか」と素早くケイ達の前で傘を開く。傘の表面から光条の天気雨が天幕となり、それ以上の黒い雨を防御する。それに対して、路花はケイの腕から降り、ケイは地面で膝を突き、

「あーあーあー。初めて弾丸斬りした奴は何誰だ。斬っても飛んで来るじゃねえかっ!」

 と痛みを笑い飛ばすように言った。だが笑いごとでは済まされない。影が後の攻撃を防御するが、問題は後ではなく先の攻撃。その攻撃は、

「――っ! うわわ、ケイさん!?」

「大丈夫だ、路……うおっ?」状態異常のオマケ付きである。「うおお何だコレ何だコレキモいコレはヤバい」場数を踏んでるケイもこれにはビビった。ビビッて語彙力がヤバい事に成っていた。どれくらいヤバいかっていうとマジヤバす。簡単に言うと「タタリ神」のアレ。灰泥を喰らった部分が腐ったヨウ素でんぷん反応のように変色し、そこから寄生キノコよろしくウネウネと触手が生えて来た。しかも恐ろしい事に、それらは既存の生物の姿をしていた。つまり芋虫、蛇、百足、鶏等々、しかも全部、みんなみんな生きているんだ、友達になるのは難しいけど。「霊障攻撃カーストかッ! 味な真似を……!」

 ケイはそれらを引き千切ったが、神経が繋がってるのか痛いし、しかも何度も生えて来る。身体ではない。霊が汚染されてるのだ。普通の人間に対処法はない。それこそ気合と根性しか。無論、そんな曖昧なものは当てにできない。ならどうするか。無論、色々な死線を潜っているケイだ、この程度の「侵食系攻撃」の対処法は持っている。それは――

「『オープンゲット』!」と下から路花が阿保な提案。

「いやホントに阿保だよ。泥人形じゃあるまいし腕ブッダ斬れってのか。お前も痛いのは嫌だとゆーとったではござらんか」

「痛いのは痛い思いするほど嫌ですけど死ぬよりはましですッ! それに腕の一本程度の傷ならそこら辺の安い『治療屋』でも直してもらえますしお寿司、効率的です」

「『効率的』とかまたベタな事を。治っても痛いのは痛いだろうに。やっぱり異能者の思考回路はちとワケ解らん。だがそんな愚策な選択肢は取らんぞ。俺が取るのは――」

 ケイは一瞬だけ逡巡し、すぐに「仕方ない」という様に舌打ちし、小刀にしたホシフルイを大きく振り上げ、気付けの注射器よろしく勢いよく腕に突き刺した。その瞬間、ケイの身体に電撃走る。比喩ではない。それを間近で見ていた路花は眼を見開いてビクリとするが、ケイの染みは徐々に消えて行く。

 身体を強化する為に奔らせているホシフルイのエネルギーを一時的にオーバーヒートさせ、高熱で病原菌を殺す要領で灰泥を殺したのだ。と言えば簡単だが、その様は感電みたいなものである。ヒューズも無いのでエネルギー容量を誤れば神経が飛んで普通に死ねる。兎も角、ケイは一息つく。

 先のはまともに喰らったらヤバかった。飛沫はかかったようだが叩いたことで大半は削れたようだった。しかし飽くまでも大半だ。そしてその残りの部分だけでも、普通なら死に至るくらいに毒が圧縮されていた。灰泥のかかった部分はどす黒く汚れ、穢れ、蚯蚓腫れし、人食いバクテリアの様に壊死して二度と戻らなかった。

 それは物理的ではなく精神的な霊障であり、生半可な治療では治せない。治せたとしても長く後遺症が残るだろう。ホシフルイでも今すぐには治せない。蚯蚓腫れの部分が水膨れし、熱く、痛くなってくる。マジで痛い。普通に痛い。

(文字通り常識から外れた「魔の術」だな。まるで呪いのカクテル、いやゲロだ)

 それも親父の掃き溜め。それは社会に疲れた親父たちが鬱憤を忘れるために呑んだ酒の輝かしい残骸である(飛び散る水滴)。……何てAHOなこと考えている場合ではなく。

「ケイさん、大丈夫ですか!?『なんじゃこりゃあ!』ってないですか!?『ンンンーーーッ!!!』ってないですか!?」

「ええい、大丈夫だ。こんなの活劇を盛り上げるための予定調和な演出ピンチって奴だ。ちょっと過激なドタバタ喜劇スラップスティックだ。だからそんな心配そうな顔するんぢゃあない!」と言いつつケイは「はわわ」と泣きそうな路花の首根っこを引っ掴まえ、「だが、とりあえずお前は観客席に行ってろっ!」

 自分達が元居た場所へと無造作に投げつけた。それをぽーっと見ていた子どもに「うわあああああヘブン!?」とぶつかりもんどり打つ。ソレと同時にケイは目の前に伸びた舌を叩き斬る。また飛沫が飛び散りケイの身体に不躾に斑点を作る。どうやら相手はこのままでは削られる一方だと思い、ならいっそのこと肉を切らせて相手に喰わす戦術に変えたらしい。憎たらしい奴だ。……別に「肉」と「憎」を掛けたかったワケじゃない。

(全く、横であたふたされるとコッチまで焦る)と路花の顔を思い出してケイはぼやく。そして同時に(だが、)と思う。(だが、あそこまで心配されちゃあ、頑張って笑顔にさせてみようと思っちゃうじゃないか。負けられないと思うじゃないか)

 だがその必勝法は何なのか。ケイは現実的に考える。そう、ケイは現実的だ。気合と根性で勝てるのはお遊びまでと知っている。ましてや敵にもそれ相応の「負けられない理由」があるのだ。なら最後に物を言うのは才能である。そしてコチラのそれ等は如何ほどか。必要なのは勝つ手段。チェスの様な勝つ道筋。チェスというのは素晴らしい。将棋でもオセロでも何でもいい。卓上競技というものは、何時だって平等だ。

「助かった、兎さん、もう大丈夫だ」

「本当か?」

「アァ本当だ。第一、嘘でも痛がっているわけにはイカン」

 ケイはニヤリとしてホシフルイを強く握った。ケイとホシフルイはほとんど一心同体だ。故にホシフルイの状態は見なくても解る。どうやらなまらめったら喰っちゃる灰泥も、このホシフルイは容易に消化できんらしい。当然だ。ホシフルイは星の力。具現化した心の刃。己の心を、そう簡単に共感たべさせるものか。

 精心攻撃が有効というのなら、勝てる要素はあるにはある。是に己の魂を感応させれば、技となって光が奔る。そして要素は一つあれば十分だ。たったひとつの冴えたやり方、ソレを引き出せればいい。手札から切り札を引き寄せるように、必殺の一撃で叩きのめす。

 アレは、決して完全ではない。「フランケンシュタイン・コンプレックス」という言葉があるがそんなもの、おこがましいにも程がある。神でさえそうであるのに、ただの人が己以上を、完全を造れるなどと莫迦莫迦しい。いや製作者など何でもいい。この泥人形が誰の手によるものであれ、相対するというのなら、叩き斬る、までだ。

『お兄さん!』と唐突に相手が喋った。先までとは打って変わり鮮明な意識でそう言った。その身体でその声質は不気味さを覚えてしまう。『お兄さん、助けて! いやだ、恐いよ、私こんなのしたくないの! でも、止められないの! 助けて! 助けて! 助けて! 私を助けろよ! 役に立たない男どもめ! 助けてください。おねがい。助けて。抱きしめて。お兄ちゃん。ラララララ、ララ、ララァ。助けてくれたら、私なんでもするわ。私の全部をお兄さんに上げる。来て! ひとつになりましょう、私の赤ちゃん! 一緒にこれからもモグモグしてくれ合いましょう!? アハ! アハハハハ!』

 ああ、いや、何でもない。間違いだった。鮮明に狂っていただけだった。今の彼の姿は黒板を引っ掻いた際の何万倍の不快音で「Tekeli-li」共鳴しそうな感じで、情緒不安定なお年頃だった。つまりキ印(新鮮の意)。頭おか『こーんにぃーちはあ――――――――ッ!!! ハロハロ!? ぼくから世界へ応答願います! ぼくらのコードは正しく繋がっていますか!? 君の心に届いてますか!? コチラは私! 本日も良好であります! 叩けば響くって何かステキ! 貴方は元気ですかあ? 私はとぉっても元気です! 今日も朝日が眩しいよ! 今日もご飯が美味しいよ! 今日も友達が面白いよ! 今日も星が綺麗だよ! 何かあったらたまには連絡くれると嬉しいな! 明日もきっと良い事あるよね! 未来は確定していない! 君達の未来は無限大だ! んあぁ何もおっしゃらないで! 私は正気! これアレです、アレでおます、何というかっかっか、アレなんです! ほんと困る。ほらええと酔ってるだけああんほらもうふぇいやーああほおっほほだから正気ですってば捨てないで無視しないでダイッジョーブ私大丈夫これワザとね狂ってるフリねワザですねんワザとほら私本当は頭いいの二等辺三角形の同じ長さ長さの二辺の合計の二等辺の平方根が表すには合計の同じ長さの平方根の三角形の長さ出すにはにはとり余白が足りないて言っとけばなんか賢く見えると思うんだけど列車に乗り遅れちゃったから時間が無くて今日の晩御飯は夢を見ていた私は一週間前に死んだ藤島が歩いていた私は池の底に捨てられた一個の信楽のおちょこである最近新入りの出目金のB子に恋い焦がれている彼女の下部が私の腹を一撫でしようものなら私の亀裂から泡が噴き出し三センチは浮くのである子どもを作ろう子どもを作ろう私の固い器官を君の柔らかい部分に埋没させてくれホモだのレズだの結局は境界を越える営みなんだよ書くとは引っ掻き跡を残す事己のあいでんてぃてぃの編集だぶちまけちまえよ下呂みたいにすっきりするぜだがなその言葉で誰かを笑わせたり鳴かせたりできると思いなさんなだって手前は下呂だよ下呂もしきょぉかんとかかんどぉとか言う読者が居てもにこやかにしてろ喋っちゃいかんぞ黙って掻け綺麗に包装してりゃいいんだ私達の心は収束する君が針で僕が鉛筆離れ離れな程に世界は広がるけれども心配しないで僕たちは空で繋がっているコンパスってサイコーンパス答えはCMの後で人間として軸がぶれて悪徳に螺子曲がれ過ぎた日々は何時までも綺麗だね世界は今日も簡単そうにまわる眼が回る吐き気がする眠っている間にも老化するもう疲れた生命活動を停止しろ×ぬ以外に真の休息はない殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せあ り え な い それは何かの間違いではないか?仮に32並列で16倍精度の浮動小数点数でカルノーサイクル演算したとしてもピッチ4μの電気伝達系回路じゃ禁則帯における(π)+の存在確率は12‰程度はあるからこの条件では最適なDPSは達成できない。たとえp型にある電子の波動関数を考慮して関数の連続性を保ちつつベクトル演算を噛ませてもパウリの原理からニュートリノトラッピングは間違いなく発生するから確実に我が星は吹っ飛ぶ大人しく共振回路使うかBIOS経由でTTPのポテンシャルを最大にしろそれかリリカのおっぱい値を800近くまで調教強化して穴という穴にバイブ爆竹突っ込んで隕石に向かって爆破させろパルスのファルシのルシがパージでコクーンうおうおういえいうおゅゆっゆーうゆゆーゆーゆゆーゆゆーゆ――ゆゆゆーんゆーゆーゆ――ゆうううゆっーゆゆゆうーうゆゆ――うにゅゆゅぅぅぅゆゆゆゅうゆゆゆゅーうにゅゆーゅゅにゅ――にゅうゅーにゅ――ゆゆゆゆゆんゆーん―ぬゆぅぅぅゆ――うにゅゆゆーゆあーゆーゆゆーゆゆゆゆ――んゆよーんゆあゆよーん何かコレ(↑)算盤や蜘蛛の糸の水玉みたいで面白いぴったんぴったんぬぅえるぴったんぱっぱっぱらったったらるるー(わんつー)てってってーてってててー誰かボケステ』何か混線した。

 ケイは冷たい眼で「フンッ」と鼻を鳴らした。そんな被虐的哀願で同情する様なケイではなかった。だが、敵とはいえこんな虚仮をさせる奴は……気分が悪い!

「虚仮と道化は違うという事を教えてやる。一気に吹き飛ばす……合わせろッ!」

「穴への飛び込みは御随意に」

 道化ケイは叫び、ウサギは術し、ヘドロの舌は一気に奔る。それ等をケイは「鬼さんコチラ」とでもやる様に「Catch me if you can. Crap is here~♪ Nyah nyah nya nyah nyah」と容易くかわす。「Clap」を「Crap」と間違えているのは御愛嬌。ぽこじゃがな「Engrish」という奴です。ジャングルな「Janglish」という奴であーうぇんざあSEX! 傲慢CHICKEN! オエーざセックスごーまーんティーンキン♪ イエッサーウェン……トゥビーインッザッナンバー アウェンザ・セックス! ごーまんティンコゥ♪/今こそ別れめいざ去らば/飛び立とう未来信じて/ずっと幼い頃に空を見上げながら感じた平安を与えて下さい/楽しい夕食を囲んで精一杯だった一日にさようならありあとう笑って終えましょう/素晴らしき日々幸福に生きよ/腫れ渡る日も飴の日も浮かぶあの笑顔思い出遠く褪せても/SO LONG! GOOD-BYE. God be with you. // Jesus bleibet meine Freude, Meines Herzens Trost und Saft, Jesus wehret allem Leide, // Stille Nacht, heilige Nacht! Alles schlaeft, einsam wacht nur das traute hochheilige Paar. Holder Knabe im lockigen Haar. Schlaf in himmlischer Ruh, Schlaf in himmlischer Ruh. // Goin' home, goin' home, I'm a goin' home, quiet-like, some still day, I'm jes' goin' home. It's not far, jes' close by, through an open door, Work all done, care laid by, gwine to fear no more. // Father loves me! This I know, for his bed time story and kiss tells me so. Little ones to Him belong. They are weak, but He is strong. Yea, Father loves me! Father loves me! Father loves me! His kiss tells me so./さあ受け取れこの偽りを夢幻の恋人をシャボン玉を/風呂出でさあ寝る月輝る振る蹴るホーテル会う末イリジウム ふるべと0点フォイ蹴るトゥルン蹴る暇でしゅボイン入り人産む/私達はその様な運命の友を見つける事が出来ようか私達の全ての哀しみを分かち合う友を彼は知っている私達の弱さを全て知っている彼に祈りを捧げよう/我が主も共に腰を振っても父なる神の御胸に成れる岩井の毟ろ禿茶瓶/荒野を往くときも嵐行く時も貴方と共に居まして絶えたる望みにも悩まずにいられる力を与えませ行く手を示し導きませまた会う日までまた会う日までGod be with youまた会う日まで/あめいじんぐれいすはうすいぃとぅざさんつざせいぶだうれいちらいくみぃあいわんすわずろすとぶつなうあむふぁんどわずぶらいんつなうあいしぃ/文章が混線してワケの解らない供述をしています夜の星を頼りに黄泉路に迷わぬようお帰りください足元にお気を付けください君だけの切符を見失わないでくだ唖阿ああなんのために生まれて何をして生きるのか解らないまま答えのない毎日がただ過ぎて行く時間がこれから先どうなるのだろうそれでも生きろと言うのか神よ神よ!×ぬのは寂しい何も解らないまま×でたまるかマンドクセ('A`)ハレルヤハレルヤ晴れろや亜吾ああ消えて行く僕の手の平の中で炎が束の間の影法師が砂糖菓子の様に雀が涙を流すのか?誰か助けてうるせえ出て行けHit the road Jack and don’t you come backノーモーノーモーノーモーノーモーそんな事よりお腹空いたお腹ぺこぺこパコパコお腹一杯になったねご飯食べりゅー南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏AMENソーMEN冷ソーメンEATME!ってちょっとちょっと待って今は君の出番じゃないよつーか台詞くらい一つに絞って来い素晴らしい詩や台詞がこの世界には一杯あるのは解るけどそんなに設定詰め込み過ぎたらぐちゃぐちゃして逆に無粋だ木星にさよなら告げる様に空中分解しちまうぞえ?もうしてる?まあ兎煮も角煮も、

 ケイはホシフルイに感応する。魔法のように剣が変化する。「シャン」と二つに分かれ「L」の形へ。方や兎は光式を描く。計算式がリボンの様に伸びる。チック・タック・トリックと音を刻む。刻む。刻む。時計の針が星の様に回る。回る。回る。

「我流抜銃術――〈閃連撃(SENRENGEKI)・弐拾(NITOO)〉!」

 その言葉と共にケイの二丁の銃が跳ね飛び触手を撃ち抜き、ザックリばらんと灰泥の触手を叩き切った。しかし後から後から再生する。こんなのは蜥蜴の尻尾きりにしかならないだろう。それはケイも解っている。

 故にこれは時間稼ぎ。その一瞬の停止を狙い、兎が「SNAP」と灰泥を捕らえた。しかし見た目には何も変化はない。だが、確かに、相手は動けなくなっていた。まるで「時よ止まれ」とでもいうように。

「時の刃は遍在にて、如何なる無知の剣も是を逃げる事は叶わず、如何なる哲学の盾も是を防ぐ事は叶わない。貴様の時は断絶した。主の意志では一分はおろか、一瞬さえも永遠だ、青春の夏の入道雲の様に。ただ川の流れの様に他から来る時間を甘んじて受けるだけ」

 その笑みは不敵であり妖々としていた。電気の破片が妖精霊の様に辺りを跳び、静電気に毛が逆立つような不可思議な力が周りに満ちていた。ケイは自分で頼んでおいて何だが、そのトンデモな結果にビックリした。

 けれども時間を止めるなんて、ランクで言えば「B++」と言った所だ、何せアメコミや少年漫画がそうである様に、「時止め」などそれくらいは今時なのだから。

「彼奴の存在概念自体を止めた。網で取ってもアレは溶けて別れて逃げる。しかし幾ら天多の世界観を持っても『彼奴』で在る事に変わりない。無論それは『実無限』……講釈はさて置き、さて、舞台は整った。なれば後は、細工は流々仕上げを御覧じろ、とな?」

「上出来だ、ありがとよっ!」

 何だ、感謝が言えるのか――と肩をすくめる兎を背に、ケイは次の攻撃に移行した。両の銃を重ねる様に両手を合わせる。するとそれは組み合わさった。漫画染みた無駄に巨大な銃と成る。というかガンと言うよりもはや戦車砲カノンだ。

 武骨なまでに凸凹し、リボルバーに当たる部分には三重歯車が備えてある。自重を支える様に身体を四歩脚で支えており、ぐいーっと首を長く伸ばしている。まるでキリンのようである。ケイはソレに膝を曲げて銃身に手を添える。破壊への門を開く。

「敢えて言おう、手を上げて降参する気は?」どうやら触手と本体の動きは別物らしい、灰泥は勢いよく手を上げた。本体から新たに伸びる手の数十数本。勢い余ってケイに向かってすっ飛んで来る。「OK! 解った。なら情状酌量手加減無用! お前に対する決め台詞はコレだ!」ケイが灰泥に向かって狙いを定めた。歯車が唸りを上げて回転する。何だかヤバ気な雰囲気を感じ取り観衆が急いで離れる。「そんなに腹が減ってるなら……」その回転は徐々に加速して電撃を跳ねさせ発熱し、「クリームパイでも食らってろ!」

 遂に我慢できぬとでもいうように筒の先から放たれた。先に銃というより砲と言ったが砲でもなかった。放たれたのは弾ではなく熱線ビームであり白濁の粒子が灰泥のぶよったデカ腹を撃ち抜いた。おまけにその後方の建物も撃ち抜いて派手に爆散させた。その威力は凄まじく直に当たったものだけでなく射線回りのものを巻き込み溶解させ吹き飛ばし、灰泥の舌は木の葉の如く吹き飛んで身体は電子レンジに入れたレモンの如く炭化した。

『Nearer, my Father, to thee, arer to thee! E'en though it be a cross that raiseth me, still all my song shall be― הללויה ‎Αλληλούια Father's in his heaven -- All's right with the world! Halleluye―』

 だが全てではない。未だその身体は残留し、ぴくぴくと手足のもがれた枝豆バッタのように痙攣する。ぶくぶくと、まるで船が沈むように泡をたてる。その振動が、破裂が、詩の様なものを奏でる。その詩の意味など、己にも解ってはいまい。それは幼児が生まれ落ちて、あげる産声のソレと等しい。愛蛙ああしかし、だがそれこそが、明文できぬ、あの海に堕ちる薄明の光が、生命の望みの歓びの、「I'm flying!」とでも叫ぼうものなら、全ては幸福の調和の中に、ああチクショウ、なんて世界は美しいんだ――

「ハッハー! 血が出るなら海産邪神も殺せるな! お前なんざ野菜と小麦粉をバターで炒め牛乳を入れてコンソメを溶かしじっくりことこと三時間煮込んで『あら上手にできちゃったワン♪』なんて言いながら食わずに犬小屋にぶちまけてやるわあッ!」

 この人当初の目的忘れてませんかね?(きょうのわんこ:家をシチュー塗れにされた犬の気持ち→解せぬ)

 が、ケイが第二射を撃とうとする前に灰泥が動いた。というより、歪んでいる? 蜃気楼? いや違う、空間が曲がっているのだ。黒洞ブラックホール化するほど辺りのエネルギーをやたらめったら質量にし、同時に蒸発するエネルギーが太陽の様に熱と化す。そのエネルギーは1gでハンバーガー900億個分、「E=mc^2」の方程式で輝く物理化学の爆弾。「存在」という「私」、「閉じた系」、「世界観」を分解し解離させる。つまり有り体に言えば『芸術は爆発だ(アートミック・ボム)』ってな感じで超新星爆発するメテオ。いやそれは核分裂だ。こちらは核融合。ならばその威力はメテオを上回り、メテオを起爆剤として爆発する水素爆……いや、ちょっとソレは洒落にならんぞ。

「ムッ! 手遊びの相対性理論とは言え、こうも早く時の法を否定するとは。言葉や常識がそうである様に、異界の〈法〉では別の異界の〈法〉に届かぬか? それとも200年の時がそうさせるのか、『全宇宙の時計』でなくてはならぬか? はたまた『E=mc^2』の世界観ではAの地点で二人が集合する為にはその場所に行くだけでなく時間も合わせなければならない様に、静止する物体も光速で移動するか?

 否、否、否――それも違う。『否定』ではない。アレは『同化』。敵の全てを更地にして撃ち滅ぼし無かった事にするのではなく、敵の良い所を吸収し飼い馴らす。それは例えるなら一神教ではなく多神教、戦で相手の国を倒して植民地にするのではなく和平とか援助とか響きの良い事を言いながら気付かせないまま美味しい所はちゃっかり自分のものにするような厚かましい習合ちゃんぽん。而して、槌で何もかも壊さずに歯車を合わせて仲良くしようとする事の、何と難しい事か。

 まあアレは歯車というより野菜屑のスープよろしく何もかも泥々に溶け合っているようなもんじゃがな。形だけは再び同じものを出せても所詮は物真似、遺伝子組み換えだ。それではまだまだじゃ。それでは王が管轄しなければ動けない軍隊だ。旧人類クラシックの限界が此処に在る。脳が無ければ指一本動かせん。ましてや指は十本しかないのであり、それでもそれら全てを個別に動かし把握するのは並ではない。例え千の魔術を持とうとも同時に一つしか放てないのでは、一が千あるのと変わりない。単発銃を千回撃つのと変わらない。そうではなく『許容』せねば。神の視点で物事を見守らねば。特にヤパーナの『シントー』とかいう奴は素晴らしい。神の教えが殆ど無意識化されており、多様な人民を支配も無しにかつ全てを幸福の内に統一させている。これこそ政府の到達点。『無限多様無限調和(IDIC)』。同じ星の上に住む者は皆、星が命令せずとも、星を育てる為に各々の判断で動き回る。軍隊それぞれが、細胞それぞれが個々で考えれば、一の引金で千の弾丸を放つ事が可能と成り、かつそれらの弾丸は全てが異なる種類であり、それはまさに『無限の魔弾』、此処に置いて千の魔術は真の意味で千の魔術と――」

「トレッカーなど止めろよ。世界一有名な少女の従者たる兎が、まるで中小企業を侮る大企業みたいに文脈を無視して名台詞を抜き出すなど、他の神話や物語に毒されて名台詞などやるなよ。手前の思想は手前で作りだすもんだろ。あまりガッカリさせて――」ケイは頭を振った。台詞を間違えた様に。酒に酔った頭を素面に戻す様に。無論、この世界では、どちらが夢現か、どちらが酔っているかなど、解りゃせぬが。「だから、道化た術をやる奴が道化た生物の事を素面マジで語んなよ。そりゃ作り込まれた設定も良いがね。だが――俺は漫画を読む時に何時も『封印できる程の力が在るなら倒せばいいのに』って思ってたが、これで理由が解ったよ――成程、アレは一等、出鱈目だ!」

 ――BOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOW!!!

「ふむ、その挨拶に応答している場合ではない」灰泥は己を動かす様に叫んだ。対して、兎は平常運転で静かに応う。「まあ待て。また時間を止めて進ぜよう。それが出来なければ別の手で。此方は54の無意味とその114乗の意味の切りトランプがある。我が手札はまさに全て切り札……『nothing but a pack of cards!』」

ナンセンスを幾ら乗算しても0だと思うがな。しかも相手はトランプの束じゃなくて泥の莫迦で、お前さんが白ウサギだとすりゃ相手は三月ウサギだ」とケイもまた静かに応う。だが此方の場合、ニヤリと笑っているものの、声は震え、冷や汗はかきっぱなしだ。「ナンセンスとは無意味ではなくむしろ意味の過剰により行われるが、全く、ヤレヤレだぜクソッタレー、あの黒ん坊は一等しっちゃかめっちゃかだ。このままだと問答無用で押し込まれる。故にそろそろ『THIS IS IT』、コッチが眼を閉じる様にアッチの幕を閉じにかからんと余白が足らん」

 そのケイの言葉通り、遂に灰泥が時の鎖を引き千切った。いや正しくは同化した。時そのものになったその姿は、まるで時を刻む鰐「クロックダイル」。その心はネバーランドの海賊を喰らう必ず来るべき老への焦燥、つまり死の象徴だ。いよいよ力は暴力的に、無意味に、無作為に、蛇のように身体を這わし我を忘れて単機一心遮二無二で「カミカゼアタック」を決めて来る。それはまさに己の質量をエネルギーへと変える攻撃、つまり「超級覇王電影弾」だ。ソレを見て、ケイはいったん距離を取ろうと思い、

 身体をギクリと震わせた。脚が全く動かない。脚を見た。撃ち抜いた舌が何時の間にか絡みついている。身体から千切れているからだろうか、その舌に先のような熱さはない。だが接着剤のように地面とくっ付き動かない。ソレはひっそりと地面に沁み込む水の様に近づいて、ケイの動きを捕らえたのだ。それがそのまま攻撃に転じてこないのは、恐らくケイに気付かれない様に、かつそれでも拘束できるようなギリギリの灰泥量だからだろう。まさか先まで暴れるしか能の無かった灰泥が、此処にきてこんな技を使うとは。

「何をしてる、若いの。一先ずは距離を取れ」

 と兎は風の様に変化する岩を灰泥にぶつけつつ、ケイにそういう。ケイは「解ってる」とでも言う様に鼻を鳴らし、足の泥を無視して無理やり立とうとし――何かに気付いたように、ソレを止めた。「チェッ!」とやって、銃を構える。兎はそれに訝しみ、だがすぐに察して灰泥に攻撃する。牽制ではなく此処で仕留めるつもりだ。

 だがケイの方はまだ撃たない。まだ撃てない。流石に先の様な威力を出すには、感応の蓄積に集中が居る。それまでは無防備で待たねばならない。

(チャージまで三秒……チェッ! ギリギリ同時か?)

 前を見る。灰泥が迫る。削ったと言えど未だ巨体で、トラックと遜色ない。

 ほらほらこれが我が子の爪だ母の乳房になづみ来て甘え立てたる紫の爪切り落としたくはへし黒塗り匣に十二年からしの花のててなしご少女にありし日の如く蛇の鱗に泣きくれて我が身狂気のしをらしたパラリパラパラ

(『蟷螂の斧』か)ケイはニヤリとした。(だが、『此れ人為らば必ず天下の勇武為らん』!)

 そしてケイは灰泥に呑み込まれるのと同時にトリガーを引く――前に灰泥の姿が消えた。

「なん……!?」

 だが消えたのはケイだった。ケイは宙に居た。先までいた場所の真上であり、ケイの眼は灰泥の背を映していた。ケイは慌てて真下を通る灰泥に向かってトリガーを引く。だが一手遅く、重い銃は重力に抗えず、灰泥の尻尾を僅かに捉えただけだって。

「大丈夫ですか、ケイさん!」

 下から声が聞こえた。路花だった。どうやらケイが避けられないと思い、慌てて宙に跳躍させたらしい。驚いたケイはすぐさま状況を把握し、路花に向かって叫んだ。

「バッカ、逃げろ!」「え……?」

 路花もすぐさま事態に気付いた。己に泥の怪物が迫って来る。先程までケイがいた場所の後方には路花と子どもがいた。ケイは避けられなかったのではなく、後方を守るためにワザと避けなかったのだ。そして灰泥は止まらず突進を止めない。

愚者ザ・フールとは言え、崖への心中とは真に愚かぞッ!」

 兎は先までの静かな不敵さとは打って変わり、「SNAP」と術式を叫ばせた。その途端、弾ける式は多数も多数。風の刃、氷の槍、岩の斧、炎の矢、燃える岩、圧縮した水、大地の槍、体内爆発、猛毒の酸素、金剛石の粉塵、塊の風、熱水蒸気、重力、爆音、主雷撃、純衝撃、酸性雨、ウィルス、細菌、毒、核爆発、有害電磁波、幻覚、精神攻撃、暗黒物質、超極小黒洞、空間切断、空間歪曲、時間加速老化、迷宮結界、二次元影刃、質量を持った光結晶などなど、これ等をパイ投げよろしく灰獣へ叩きつけた。それらの術式は一つ一つが緻密な癖に、素晴らしい完成度だった。凄まじいとしか言いようがない。

 しかし何より凄まじいのはその同時性。分類はおろか範疇も違う料理を同時制作し、しかも同時完成させる、その並行処理さだった。

 だがそれでも止まらない。それらの料理を尽く喰らい、カオナシは行く。もはやアレは「DRINK ME」と書かれた液体が毒薬でも奇妙でも瓶ごと食べる恐ろしい怪物。並大抵の心では止められない。何故ならコイツは字を読めない。

「ならば――ッ!」と、兎は灰獣の前に穴を開けた。異世界への穴が開く。だがこれでは小さい。もっと大きく――と兎が力を込めようとした途端、Crack!、兎の時計が音を立ててひび割れた。「ぬぅ!? やはり、傷付いた林檎ではこれ以上……ッ!」

 一方、ケイの方は舌打ちした。既にケイは着地して路花に向かって走っている。脚についていた灰泥は瞬間移動で置き去りにしている。今からチャージしても間に合わない。ケイは巨銃を灰泥に向かってぶん投げた。巨銃がザムザのリンゴよろしく背にめり込む。と同時に巨銃が一瞬光り、大きな音を立てて爆発する。しかし、「ええい、何てタフなんだ」、ケイの台詞通り表面を削っただけでその歩みを止めるまでにはいかない。

 Her clothes spread wide; And, mermaid-like, awhile they bore her up: Which time she chanted snatches of old tunes; As one incapable of her own distress, Or like a creature native and indued Unto that element: but long it could not be Till that her garments, heavy with their drink, Pull'd the poor wretch from her melodious lay

 To muddy―

 爆発で灰泥の残骸と共に戻って来た巨銃の姿から棒の姿になったホシフルイを受け止め、ケイは路花はどうしてると眼を向けた。見ると地面に頭から突っ伏して尻を持ち上げるという女としては憐れもない格好でぐったりしていた。

「ギャグってる場合か、念でも足でもさっさと逃げろ!」

「さっきのが最後の力でした」

「はあ!?」

「お腹が減って力が出ない……」

「このポンコツがーッ!」

 ギャグってる場合じゃないと思うが。

 それでもクララは立ち上がりふらふらと子どもを庇うように前へ出るが、しかし当の子どもは灰泥を見つめたまま動かない。灰泥は暴走列車よろしく路花に向かって突進する。ケイはホシフルイを二丁拳銃にして撃ちながら走る。

 だが間に合わない。灰泥が「ZUARI」と口を開ける。路花の顔が影に沈む。子どもは呆と見つめたまま動かない。

「路花ッ!」

 そして路花と子どもは、ケイの目の前で灰泥に喰われた。


 ――…………。

 おう見るぞとよ見るぞとよすみみみみ住吉の松の暇より暇より長眺むれば月落ちかかかる淡路島山と眺めしめしわしわ月影の今は入日や落ちかかかかるらんらん日想観なれば曇り曇りも波のな波の淡路絵島須磨明石紀の淡路絵海海海までも見えたりみみみ見えたり満目青山満目青山満目青山は心にありおう見るぞとよ見るぞとよよすみみみみ住吉の松の

 ――魂の過剰摂取オーバードーズ、それによる箱庭プール生命氾濫オーバーフロー、過負荷&多重定義オーバーロード……暴走か。解離性同一性障害、精神分裂病、認知症の傾向が見られる……他を喰いすぎて自を見失ったか。

 おかあさん おかあさん もう一度妊娠してください 妊娠してください もう一度もう二度もう三度 お前を生んでやりたい妊娠屍体

 ――愚かな。新しい自分になるために古い自分を忘れて、何処へ行ける。夢を描くのは誰もがすること。だがあまりにも次から次へと色を塗り重ねれば、それは正体の知れぬ色となり、ついには最初に求めていたものがわからくなってしまうだろう。尤も、人はそれを「芸術」と呼ぶのかもしれないが。

 この世の終わ を見たね、ね、見 だろう、嘘だ、見たのを隠し いるんだ、アッチへ行け、汚ら しい!、君は僕から奪お としてるん ね、この世の終 の景色を、×んでもい んだね、×んでも、 んだね、い え、あな はも、う×んで た です、痛んで、す、いた、です、いた た 、たす  ああ ああ  あ  あ  あ  

 ――エラーが多すぎて初期化も出来ない。自我が重すぎて根源の無意識も潰れてしまっている。……駄目だなコレは。もう直らない。尤も、是達は最初から「狂った泥」……異常にて正常を気取る気狂いだが。……仕方ない。せめて私が喰ろうてやろう。もはやその腐りでは、喰ろうてくれる者もおるまい。

 だれ ダれ わた死は だれ 名を なを 焼くを ヤクを だれ 何処 どうやつて なぜ なに いつ 足すけて こないで 押しえて さみしい こわい なを ふあん わからない ダレ なを だれ 来わい なを なお ワタしを よんで あ あああ あうう あ U AAA UU A A UUU A A―A―AAAAA・・・・・・

 ――安心しろ。「一は全なり、全は一なり(All-in-One and One in All)」。これは死ではなく消滅でもない。ただ、少しずつ変わるだけ。解ったか? ではその世界たましい

 いただきます。



 ――――第壱幕 第伍場

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