人形よ 人形よ 何故躍る ―Valse du Poupée de Boue―
第壱幕 第肆場『人形よ 人形よ 何故躍る ―Valse du Poupée de Boue―』
雑多な者達がいる中を歩いていると、「イン・ザ・ワンダーランド」と言った所か、物語の世界に迷い込んだ気分になる。辺りは異形だらけだ。見た目はオールドファッションないわゆる「従来の人間」の姿もいるが、それだって中身はどうか判らない。変身だってしてるだけかもしれない。しかし彼等は特に自分たちが異質だという事を表に出さず、或いは思ってすらいなく、当たり前に歩いている。それを誰も指摘しない。もう慣れっ子だ。ただ、そんな異形達が赤信号を待ったり、売店でホットドッグを買ったり、ベンチで携帯をイジっているのは、やっぱり、何だかヘンテコだなあと思う。ファンタジー世界にリンゴの付いたパソコンを持ち込んだ所を想像すれば、お解り頂けるだろうか。
そんなヘンテコな通りを歩いていると……何やら、これまたヘンテコな、というより挙動不審な者が現れた。その不審な存在は建物の壁にピッタリ身を寄せてしゃがみ、曲がり角の向こうを覗き込んでいた。まるで隠れて追跡するかのような動作である。
と、少女は不意に自分の背後に近づいて来る者を振り返り、声をかけた。近づいて来るのが誰なのか、最初から分かっているかのような声だった。
「あ、ケイさんコッチコッチ……って、キャー可愛いーっ!」路花が子どもを見るなりハグついた。身体一杯で子どもを愛でる。子どもはメッセ顔で路花を見つめなすがままにされる。ケイはそのアグレッシブな行いにちょっと引く。「何ですかこの可愛い女の子は! ケッシさん家の猫100匹分? ロビーさん家のぬいぐるみ1000個分!? ああもう解んないくらい可愛いわっ! 天使か!? 天使だった。『天使の卵よ、愛しています』! 可愛い可愛い可愛いーっ! ところで『可愛い』って言われてるキャラ見てると本当に可愛く思えてきませんか?」
「『ピグマリオン効果』?」
「というより『ラベリング効果』とか『バンドワゴン効果』的な。そして街中で『ハロー』と言われると思わず振り向いてしまう効果は?」
「『ハロー効果』」
「Hu~♪」←とハイタッチのポーズ
(うぜえ……)←と思いつつノってあげる
「あ、飴食べてる。私も飴ちゃんを所望する。ここらで一つ、飴が怖ひ」
「この子犬め。俺は菓子屋じゃないんだぞ……ガラナチョコでいいか(ッパ」
「それは、なかよく、なってから、たべる、モノです(幼稚園風発音」
「じゃあチュッパチャップスと、ステキなステッキのキャンディケインと、赤ずきんもヘロヘロでベッドインする熱くて大きくて硬ーいキャンディと、どれがいい?(ボロン」
「魔法使いと言えば棒付きキャンディ! というワケで屋台にある謎の虹色ぐるぐるキャンディが欲しいです。『Lollipop lollipop Oh lolli lolli lolli~♪』『このロリコンどもめ!』」
「情緒不安定な子だ……)ペロキャン? あるよ(ッパ」
「わーい。って大きいな……で、この明らかにUnder13なバブーシュカ付けたい彼女はWho are you?(はむはむ」
「お前にゃ『彼女(She)』に見えるのか? アイツにゃ『彼(He)』に見えてたが」「『可愛いは正義』!」
「因みに十字架教の天使に性別はないからな。少なくとも男尊女卑の権化である女性はいない。ヤパーナならいるかもね。或いは両性具有とか。そして霊的存在である彼奴等を見た目で判断してると痛い目見る。アレは肉を持たないからな。それに今時の若者は異能で容易に変身できるし、妖精霊の類だとムーピーよろしく相手の記憶を読み取って相手が一番素晴らしいと思ってる姿に変身するし、いやはやその自己主張の無さと言ったら何でも言う事を訊くギャルゲのヒロインか美少女ロボットかゴム人形」
「ハッ、もしかしてあまりに可愛すぎて思わず誘かあいたたたたた」
「路花ちゃんは嗜虐心をそそらせるなあ」
ケイは乙女の顔面を鷲掴み(アイアンクロー)ながらにこやかに言った。めちゃくちゃにしたい、この笑顔。この国で少年犯罪はシャレにならない。特に誘拐はマジで。いやホントマジで。ヤパーナじゃないんだから。公共の電波で露出度の頭おかしい女性が虐められる動画を流してはしゃいだり父と娘が一緒に裸で風呂に入ったり未成年が成人にヤられるような本をコンビニ販売してたり接待で幼女趣味に付き合わされたり風俗店が真昼間から合法で行われてたり入学式で出会った清楚で真面目だと思っていた女子校(×高)生のあの子が初年度の夏休みで彼氏とズコバコやってたりするような性に大らかな貞操観念のない児童売春ツアーな児童ポルノ天国破廉恥国家ぢゃあないんだからスカートよりジーンズだろ(そういう事ではない)。あすこって本当に先進国なんですかね? 貧民街か何か? HENTAIという単語を誇るべきか恥じるべきか。ぶっちゃけ精心レベルは慰安婦で騒いでる左の隣国とそう変わがああああ(それ以上いけない)。でもだからってアニメまで規制するのは阿保ですね。何の為にR指定があるのかと。現実と妄想の区別がついていない。統合失調症かな? それはSZに失礼か。
「コ、コミュニケーションですよ。お茶目な可愛さアピールという奴です」ケイの腕を両手で掴み、引きはがしながら路花が訊く。「で、この方は誰ですか? 吾輩は秀真路花マリステラである。名前も秀真路花マリステラ。コッチは黒猫のケーさん」
「『チェッ! チェッ! 気取ってやんの!』っておい」とケイがノリツッコミ。しかし子どもはピクリともしない。「とまー、こういう風に喋らん」
「いやそもジブリが解らんのでは」
「まあそれはどっちでもいいが。そういや俺もまだ名乗ってなかったっけ。チェイス・ジッポ・駆乱芸だ。で、この子どもはまー何と言うか勘と言うか……迷子だ」
「海の星へようこそ!」
「おい、勝手に可哀想な子扱いするんじゃない」
「孤児院は被保護者の数で支援金が変わりますので」
「そんなリアルは求めてない」と一つ溜息。「まあコレは放っといても勝手にするだろう。病院とか天空城でカレーでも食べてるだろう。それよりも……」ケイはしゃがんだ路花の上から、角の向こう側を覗く。それに続いて子供もケイの上に乗っかる。重いと思ったが構わず覗く。「奴か?」
ケイは低く、だが鋭い声で言った。角の向こうには少年がいた。少年? いや年齢が解らない。ましてや性別もよく解らない。少女かもしれない。それは眼を凝らせば凝らすほど本質から離れて行くように思われた。相手は通りを歩いていた。相手は独り、いや独りか?、ああ独りだ、独りで歩いている。周りにいる、相手に付いて行く複数の黒い鳥を含めるなら独りではない。相手は対した表情も浮かべず、無表情な顔で、特に何も無く普通に歩いている。見た目だけなら、至って普通の「通行者A」だ。
そう、至って普通である。「普通である」と言えるほどに。だがそれ故に恐ろしい。声を上げて刃を振るう目立ちたがり屋は問題じゃない。問題なのは、声も上げず、刃も見せず、何時の間にか目の前に現れる危険である。平凡な顔ほど見分けがつきにくいように、ありふれた犯罪ほど、本当はやっかいなのだ。そして、物事とは往々にしてそういうものである。真面目ぶった奴ほど不意にキレるし、楽しんでそうな奴ほど心は冷めてるし、不如帰はあの声で蜥蜴を食らい、清楚そうな新入生の気になるあの子も夏休みになりゃ腰を振る。しかしやどんな物事であれどんな舞台であれ、それは起こるべくして起こるのであり、「ありえない」などありえないのだ。
「はい。上手く読めませんが……メイビー、ライクリー、プロバブリー」
多分か、とケイは悩んだ。無理やり捕まえてもいいが、流石に「多分」で殴りかかるのは世間的にも悪かろう。なら確認する為に何らかのアクションを取らせるのが良いだろうが、後手に回ってもやはり怒られるのが世の常である。
「割を食うのは何時もヒーローですね」
「子どものくせに何て社会派な言い方。まあ何処ぞの蜘蛛男じゃないが、『大いなる力には大いなる責任が』という奴だな。上に立つ者なら全てを完璧にするのが当然であって、故にどんな荒唐無稽な文句も文句である時点で正当なのだ。彼等は正義、つまり市民の味方なのだから。だから失敗したくない為にそも何もしたがらなくなるわけだが」
「あ、その論理『南瓜バサミ』の漫画で読みました。『復興とは被支援者が己で闘える力を持たせる事だ』という論理は、実際の社会福祉論でもよく言われる噺ですよねえ。十字架教の寄付文化とはちと相容れませんが……閑話休題。兎角、正義とは視点の違いで如何様にも変わるモノですよねえ。我等は言葉を持っているのです。話し合いが必要ですね」
「人類の大先輩巨大ROACHさんによく似た奴が出た時は皆本能的に殺してたがな」
「『それはそれ!! これはこれ!!』」
「それは無理が通れば道理が引っ込む物事を無に帰す魔法の呪文。真面目に考える奴を嘲笑い正義を撃ち砕く死神の刃。超能力だって目じゃないぜ。まあ人殺しを二者択一の問答無用で悪と断じる少年漫画よりはマシな考え方か。しかしランナーは少年ではなく、かといって勿論ヒーローでもありはしない。さあ、今こそ幸福たる市民は黄金狂とか界連とかお前の神とか何かそんな感じのトラブルシュータ―となって働こうじゃないか!『STAY ALERT! TRUST NO ONE! KEEP YOUR LASER HANDY!』」
「『ZAP! ZAP! ZAP!』」
「というわけで不意打ちだ。取り敢えず、アイツの体内に電撃発生させろ。さもなければ瞬間移動で壁にめり込ませろ。それも嫌なら快楽的な精心波長を送って絶頂させろ」
「ヤです。そんな事したら死ぬかもしれないじゃないですか」
「冷静に返されてしまった」
「それにご存じの通り、人にはそれぞれ『超自我防衛機制』があります。いうなれば精神力の壁ですね。『胆力』ってあるでしょう? アレを物理的にしたモノです。これは超能力ではなく意志の強さなので、普通の人だって強い人は強いです」
「説明口調ありがとう。てか名前変わってるぞ」
「また防御だけでなく攻撃にもなります。怖い人に睨まれたら『ヒッ……』ってなるでしょう? アレと同じです」
「怯える仕草が可愛いね」
「そういうのはいいです。とりま、その防衛機制の前には、まるで煙や海で長波電波が減衰する様に魔術や超能力の効果が弱まります。まあATフィールドみたいなものですね。能力無効化が『×0』のようなトンデモ能力でも数学の世界ではそれでも0にならない事が在る様に、此方の能力が高ければ普通に突破できますがね。事実は小説より奇なり、超心理学と数学は厨二如きが考え着く世界よりもずっと高尚なのです」
「『とりま』とか頭悪そうな言葉使うなよ。言葉の乱れだ」
「? じゃあ、『とまれ』なら良いですか? でもそれは『言葉の乱れ』が気になるのではなく、『若者が使ってるから』気になるだけですよ。メディアが若者や女子校生をおバカなキャラにしようという魔法に掛かってますね。ソッチの方が阿保です」
「はん? まあそうだな。彼奴等ときたら、時にハードキャンディーを喰らう赤ずきんにもなるのだから……」
「兎角、だから、そんな簡単に攻撃など出来ないのです。相手の体内で魔術や超能力を使ってアボーンとかは、難しいです。ましてやあんな灰泥では……」
「かと言って、物理こそてんで駄目だろうがね。精神攻撃の方がまだ効き目があるだろう」
「そも、暴力がイカンのです。悪役相手でも暴力は遺憾ですね。暴力は駄目です、暴力は。信念があれば通行人Aも英雄に成ります。けれども幾ら信念を述べても暴力は暴力です。駄目とか正義とか効率とかは関係ありません。暴力は痛いのです。ソレが事実です」
路花は「痛いのは駄目。出来るだけ駄目。緊急事態以外駄目」だと何度も言った。
「ハン、メリューお義姉ちゃんがそう言ってたか?」
「何故バレたし。ああ、ケイさん何時も小言で注意されそうな顔してますもんね」
「いや、ヤンキーよりツッパリ派ですね。ヤンキーは何か軟派な感じがします。『ツッパル事が男の~ たった一つの勲章~♪』」
「『ララララララ~ ララララララ~ 行ってみたいと思いませんか~♪』」
「『Huh~♪』。ウェーイ、ヘーイ、イェーイ♪」
「ちょっとノッてやったらペタペタ触って来るの止め」
「こういうばかみたいなことに つきあってくれるあなたが わたしわ だいすきです。一緒に『ろくでなしBLUES』を歌いませう」
「うっせー。前の穴から手ぇ突っ込んで奥歯ガタガタ言わすぞ」
「せめて後ろの穴……いえ何でもないです」
「後ろの穴なら爆竹だな」
「そんな蛙の実験みたいな事止めて下さい……」
「とまれ、なら今から敵をボコるかもしれん俺は悪役だな」
「あ、いえ、そういうワケでは」路花は狼狽えた。確かに暴力は遺憾である。かと言って、まだ会ったばかりとは言え、ケイは自分と同じ〈海の星〉の家族……悪者にするのはもっと遺憾であった。「え、えーと、まあ、時には暴力も必要だと思いますよ? メー義姉様だって暴力は駄目と何時も言いますが、必要とあらば鉄拳制裁だって辞しません。モーニングスターを相手の頭めがけて奮流凄威夢愚です。『だっがっワッレッ々は~アッイッのぉため~♪ 戦い忘れた~ヒットッのたぁめ~♪』」
「アレどー考えても水中戦の奴は要らないよなあ。最終的にインスマス化するし」
「あの人にしか出来ない事があるんですよっ(泣)。まあ兎に角、必要とあれば本気で叱る事が出来る大人が良い大人です。世間にとやかく言われるのにビビって鉄拳制裁も出来ない様な、そんな自信の無い大人に教えられる事なんて何もないです」
「何も知らない餓鬼のくせに、キツい事を言ってくれる。セカイ系じゃあるまいし、餓鬼には世界の強さは解らんよ。世間体という奴の強さはな。アメコミじゃあどんなヒーローよりも強くて、どんなヴィランよりも何処にも居るんだぜ? ま、確かに、自信の無い奴にゃあ物事を教えて貰いたくなんてないけどさあねえ?」
「ですです。それに結局、こういうのは『好き嫌い』か『人気不人気』の問題ですからね」
「好き嫌いって……」そーいう問題か? いや仮にそうだとしても、そんな気分次第みたいな表現はちょっと……。「『「人間は莫迦」なワケではありません。それを「莫迦」だと思えるだけです』って事か? そりゃ哲学だから言えるわけで、現実じゃ一度失敗したらアレだからなあ……だからここは妥協案。兎に角、後をつけよう」
考えている間にも目標の相手は歩いて行く。考えがまとまる間は取り敢えず様子見だ。そう言ってケイが後を付けると、路花と、それと子どもも後に続く。
三番街道。その通りは幅広く、道端や交差点と成る広場には服屋やお菓子屋、魔術屋、精霊屋、武具屋、骨董屋、中古屋、道具屋、人屋、魂屋、芥屋などの路上販売が行われている。因みにここで言う「フリー」とは本来は「FREE」ではなく「FLEA」……「蚤」の事を意味するらしい。これトリビアな。DIY精心溢れる屋台から、三角パラソルの小粋な店まで様々だ。道路はあるが、車はないし、路面電車もない。自動二輪は見かけるが、乗り物より専ら歩行者が主な通りである。
それもそのはず、その通りで特筆すべきなのは大道芸。演奏や舞踏、武術や奇術、曲芸や無言劇、魔術や超能力や召喚や錬金など、様々なストリートパフォーマンスが行われており、道行く者達はそれらを興味深げに見ていた。
なお人外が多く歩いているのもこの通りである。自分で自分を操る糸人形、棺桶担いだ黒装束、金属の糸で構成された糸生物、根で歩き柱頭が辺りを見回す秋咲きの恋なすび(マンドレイク)や下半身が花の美女果や枝をビュンビュン飛ばす食人木、太い棘枝の様な長物を身体中から生やした人間族、袖を振るう大和撫子で細身な黒髪ロングの角の生えた鬼族、北方人種至上主義な白装束集団、人間より十回りデカい足が跳ねてるかと思えばソレは巨人の足である。時に、古代の未開地なんかにある天多の壁画や岩絵や地上絵や石造といったパースを無視したり異様に大きかったり宇宙人の様だったりする動物や人間の絵は実は技術や観念的なものではなく見たままの写実的な絵なのである、とか浪漫があると思いませんか? いえ、そんなのがいたので。他にも工業廃棄物や放射能物質を飲んだような巨大なウェタやゲジやウミグモやクマムシやアシダカグモやヒヨケムシやウデムシや「Richard A. Kirk」的な人面アゲハ幼虫やチキンヘッドや「HINOTORI・望郷編」に出て来そうな異形や統合失調症者が酒と薬をやってはっちゃけた様なアール・ブリュット的何是までいて、その「恐怖マンガCollection」的世界観には免疫のある者でも白目向いて一回転してまた黒目向く。
「その眼球ピンボールか何かかよ」
「いつ来ても賑やかですね。私も演者の一人なので良く来ますよ」
「そういやそういう設定だったな。俺はひけらかすのは好きじゃないけど。愚者は己の知識を見せびらかし、賢者は他の知識を聞き入れる。莫迦は自分がどれほど莫迦かを知らんのだ。まあ、そういう台詞自体がひけらかしなのだが。本末転倒だな」
「『踊りなーがら 羽ばたくたーめのステージで這いぃつくばーっていてもーぉ 踊らされてーんのも随分前から解っていて それーでもそれっでーも♪』」
「ウッセーヨ」
「『I know I ask perfection of a quite imperfect world』。於戯、ケイさん、貴方は物事を難しく考え過ぎなのです。『ライ麦』読んだガラスの十代です。ネットで頭でっかちになったムカつくぜクソッタレーなパンクロッカーです。『Gott ist tot』と山に籠ってた癖に何を血迷ったのかドヤ顔でホクホクした顔で『よーしニーチェ説教しちゃうぞー』と山から下りて来たアナクロです。もうね、アホかと。馬鹿かと。世界は貴方が思ってるよりはずっと単純です。少なくとも物理的な悲劇に生きる一般人の考える問題は何時か何処かの世界平和とか啓蒙とかほんとうの幸ではなく、そんな英雄の幸福論ではなく、明日の此処の試験とか就活とか食べ物です。もっと自分に正直に生きましょう。『素直になぁれっ! 素直になぁれっ!』。けれどそれもまた、ブル☆ースプリング。自分探し3級。イケイケの学生運動。そうして何時か、擦れて大人になっていくのサ。何もかも思い出になっていくのサ~。ふふ、ふふふふふ……」
「餓鬼のクセに何を悟って。これだから情報化社会の子供はヤだね。お前こそ頭でっかちだ。何も知らないくせに声だけは大きくて、叫べば誰か聴いてくれると思ってる。本当に阿保なのは社会ではなくそんな社会に振り向いてもらいたい」ケイは頭を振った。そんなひけらかしこそ阿保らしい。「……とまれ、聞き飽きたわんな台詞。著作権違法でしばくぞ」
「わっ、わ(笑)。ホシフルイさんを振り回さないでくださいよ、危ないなァ(笑)。そんな物語の世界じゃあるまいし、お硬い事言わなくてもいいじゃないですか。まあ、気楽に行くしかありませんよ。世の中は情報社会に成って便利になったようでも、ちっとも便利になってないですからね。むしろ、言い方は悪いですが、蓋をした汚いものが出てきた感じ? グーグルで『いじめ』と検索すれば0.一秒で何千万件、『いじめ 解決』と検索すれば何十万件も出やがるんですよ? なのに完璧な解答なんて、ありえねーですって。や、でもGOSHにとってはほんとうの幸だって御見通しでしょうけどね、全く」
「ギョッとする様な事を平気で言うなよ。ああ、胃が痛い。これだから異能者は気味悪がられるんだ。自分が変な事を全く意に介さないんだから。殊に自分の力の由縁も解らず平気で使う異能者ときたら。何時か原爆よろしくチェルノっても知らんぞ」
「インターネットの構造を正しく理解してネットしてる人なんてそういないと思います」
「いや、まーそーだろーけど、だからって赤信号を皆で渡ってもねえ……」
「まともじゃない世界ではまともでいなくてもいいんですよ。現実主義と保守主義は違います。むしろ変わらぬ姿を追い求める夢こそが保守であり、常に変動する現実こそが革新でしょう。それと同じ様に、イジメっ子などというまとまじゃない人にはまともじゃなくていいのです。ああいうのは本当、駄目なんです、宇宙人っているんです。そして宇宙人には強硬外交で良いのです。死んだふりとかサバンナじゃマジで死にます。喧嘩したって大丈夫、世界は広いんですから味方だってきっといます。本当、イジメなんて他の人に構ってるなら大学受験の勉強でもしてろとね、この暇人がッ! その人にとっては洒落になんない死活問題だというのにッ! まあ『いじめ』という題材は嫌いじゃないですけどね。勧善懲悪しやすいですし、何か社会的に問題な事を扱えますし。けどんな事言ってたらぢゃあ『お祈りメール』とかどーなんだとね、それこそ差別ぢゃねーのですかと、学校は社会も勉強する場所なのですよと、イジメを勝ち抜く事も生きる事だと、社会に出るとそんなの日常茶飯事だぞと甘い生き方じゃ生きちゃいけねーですよと。だから問題はイジメの存在自体に対する功罪ではなく如何に勝つかでありいじめグループなんてのを起業できる企画性と自主性自体は評価すべきでありつかどーせああいうのはイジメなんて体育祭並のプチイベントで過ぎれば忘れるのですよそんな事に一々真面目に成ってたらキリないのですよというかイジメイジメて皆大袈裟なのです所詮は学校という胃の中の子供の起こすプチイベント大人が本気で介入すれば呆気なく終わるのです無論でもそれじゃ己の力に成りませんならばいっそのこと嫌いな奴は裏でキュキューっと一思いにシめちまった方がヒャッハーってハッ駄目よ路花そんなマキャヴェッリな思考回路は此処はメリケ民主主義に行くのよ路花ッ合言葉はラブ&ピース世界に『正しい教育』なんてのはなくてもせめて自分達が思ってるよりも世界は広くて深くて厳しくて優しいという事を知らせるのが今できるせめてもの教育なのですヒャッハー!!!」
「闇が深い……」メリューの所は社会福祉が厚いから、自然とそこに住む奴もソレに付き合う事になる。人生相談に来る奴は同業が多いと聞くが、ヤレヤレだな。「L&Pは思想活動っぽくてなあ。ヒッピーというか、誤用のフリーセックスというか……」
「とまれ、さあ、君もアニメとか漫画とかいう狭い世界の正義なんか見てないで、現実の広い世界で革命を起こそう! そして何だかんだでいじめっ子と生まれる奇妙な友情! 敵キャラが味方になるのは王道ですねえ」
「結局、漫画脳じゃねーかコノヤロー。けど、いじめっ子が女の子だったら助けるのもアリだな。いやむしろ助けたい。そして始まる奇妙な恋愛。タイトルは『二人ぼっちの学校戦争』。うん、イケるね。決め台詞は『お前の籍、ねーから!』」
「けど正義のヒーローに成りたい為に悲劇のヒロインを望むのはNGです。けど、頭が痛いならそれはケイさんが真面目という事ですよ。私そういう人好きですよ」
「ウッセー、表面だけ見て解った気になんじゃねえ。読心何かで人の心が解るか。文章を読むのと読解するのとは違うんだ。現代文やり直して来い。そりゃ井の中の蛙にとっては胃の中が世界の全てでそれは家も町も国も星も同じ穴の狢だが、新旧合わせて人類なんて100憶もいるんだ。なら千なんて千分の一じゃねーか。強く生きろバーカ」
「これだからなァ(しみじみシジミ❤」
そんな中を、目標の相手はケイ達に気付いている様子もなくフラフラ歩く。特に目的地もないようだ。その歩き方は、一目には特に気にならないが、注意して見ると何処か違和感を感じてくる。何というか、まるで精巧に他者の真似をしている様な、そんな感覚。
ケイもまた相手に注視して、子どもはきょろきょろして他者に頭をぶつけそうになる所をケイに引っ張られ、路花もまたきょろきょろしているがちゃんと他者を避けて歩く。
「で?『多分』ってのはどういった感じで?」とケイは本題を切り出す。
「はあ。同じ波長を感じるんですけど、他の波長も混線してるというか……」言葉を探しながら台詞を続ける。「そ、それに、アレ義兄にソックリなんです。いえ全然違うし、見た目はまるで子どもですが、何ていうか、雰囲気というか、そんなのが中途半端に似てるんです。というかデフォルメ? 不気味の谷? ザッピング? アイ、コラ……?」
「アイコラは違うだろ」アイコラの意味が解らない人はお父さん、お母さんに訊いてみよう。だが私は謝らない。「だが、そこまで言うなら当たりだろう。俺のホシフルイもそう言ってる。ならやはり……やっぱ食われてるな、ありゃ」
「一々遠回しに言わないでください!」
「つまり同化されてんだよ」
「はあ、確かに義兄はどーかしてますが」
「ベタか。じゃなくてアレだよアレ、TVで大灰獣大戦見なかったか? 彼奴等は人の皮を被った泥にて、その血の色はタール色。文字通りの漆喰。ナノマシンの群体よろしく、髪の毛一本からでもソイツの姿や記憶や能力を模倣するし、上位個体は文字情報や感応した第六感だけで模倣出来るらしい。さて、お前さんの義兄の場合はどうかね。単に物真似されてるだけか、それとも丸事なむっとグリグリモグモグされちゃったか」
「あー見まみた。やはり最強生物の一角は『吸収』ですね。それはもう『魔人ブウ』よろしくグリグリモグモグとそう言えば『Dragon Ball Multiverse』という同人Web漫画があってだな……って、すわっ! ジマっスか!?」
「じまじま。もうスラッグの交尾みたいにネトネトだよ」
「というよりもロイコクロリディウム(※検索非推奨言語です)状態だと思われますが。もしくは人として軸がもぎれていルンバ」
「無駄に博識だなお前。加えて知恵があれば良しだな。聡い女性は喋っていて飽きない」
「ネット社会は無駄で溢れてますから。明日使えるムダ知識を貴方に。とーりーびーあー」
「ソレを無駄だと断じるよりも、ソレを使える場作りが必要だよなあ、と社会派なこと言ってみる。まあそんな事は置いといて」
「た、助けてくれますか!?」
「ああ助けるとも。赤い靴履かして万魔殿(A∴O∴の事)に出荷(Donna Donna)だ」
「アンデルセン?」「野口雨情」「駄目ですよおひーさん!」
「どうして、可愛い妹ちゃん?」
「あんなよく解らんない場所に送られたら、義兄解剖されちゃうよーぉ!『なんにも悪いことしてない! お願い、殺さないで!』お願い!」
「あん? 何だお前、異界嫌い(ゼノフォビア)か? 独立派か?」
「ノン! 孤児院は超常劇団(A∴O∴の事)の支援で成り立っている所もあるので彼等にも寛容です。が、が、が、それとこれとは別問題!」
路花は両腕をバッテンさせ、「NO!」の意志を示した。
「とは言っても自分の撒いた種だろ。それが人食い植物でも手前の責任だ」
「むむむ、私もそう言いたい所ですが……お願いですお兄さん。貴方が心優しき紳士なら女・子どもの頼み事を引き受けてくれるはず!」
「俺は優しくないしお兄さんって歳でもないからなあ」
「何歳ですか?」
「2ひゃく6じゅう1さい」
「アダルト!」
「コーヒーをおごっちゃう様な色気なスメルのする虎男を目指してます。ショーン・コネコネの様なマッチョな英国紳士をね」
「確かに身体は大きいですが、歳は2じゅう後半に見えますねー。それにジェームズ・ボンドというよりインディアナ・ジョーンズって感じですねー。皮肉屋な所とかハードボイルドに行こうとしてイマイチ抜けてる所とかスーパーに成り切れないヒーローな所が。私はボンドも好きですがインディーの方が好きなので、良いですけどね。そうだ、今度からは中折れ帽とムチとジャケットを着てくださいよ。きっと似合いますよ!」
「んで、亀甲縛りでもすると」
「んん~、何でそこでそう下ネタを振りますかなあ。まるで一緒にホテルに入るのを期待してるのがバレバレな男みたいです。あまりそういう事ばかり言ってると冷めちゃいます」
「ぐふっ。『冷める』とか、また現実的な事を……てかそういう仕事やってたのか?」
「まさか! 前に道案内して欲しいと称して無理矢理連れ込まれそうになった事が在るのです。まあ超能力で撃退してやったんですけどね。ただ、あまりに突然襲われて、ビックリして無意識に瞬間移動で飛ばしちゃったので、何処に飛んでったか解んないんですけどね。壁の中か、お空の上か、地面の中か。無意識に吹っ飛ばすのは、気持ちが高ぶってるとついヤっちゃうんだ。たまに戦闘中で味方も飛ばしちゃうので困る。てへぺろ」
「あイタタタ! おぉっと、急にお腹が痛くなってきたな。ゴメン、俺帰るわ……」
「あぁっ! 帰らないでくださぃょぅ。あにさまを見捨てないでください。あんな阿保でも、いなくなったらメリューお義姉ちゃんが哀しみますからっ!」
「後でチューしてくれるなら助けてやってもいいぜ?」
「HENTAI! ロリコン! 女の敵! こうなったら貴方の心をアンロックして弱みをハートキャッチ(物理)するしかないようですね!」
「ふっ、そんな簡単に読ませるものか!」
「無駄無駄無駄ァ~♪ 無意識に刻まれた記憶は己の把握できない傷となるから『亡き心』と書いて忘却なのだーっ!『ほら、二つを並べてごらん、ぼくたちの頭は空をやすやすと容れてしまう。そしてあなたまでをも』。ふふ、ふふふふふ……」
「チィ、閾下侵入で俺の攻性防壁を突破する気だな!? ならエロイ事想像しちゃる。最近の奴で言えば、そうだアレだ、オカマ爆弾よろしくキノコ型異界者が街中で興奮作用のある胞子を爆発させて大人のバイオハザードが……」
「ふぉ~ぅ……見えた! ケイさんは子どもの頃、お風呂に入るとお腹が緩くなる体質だったようですね。それである日銭湯に行った時にファーストインpむぐぐぐ」
「ちょっと待った。ちょっと待った(笑)。愉快な台詞をありがとう。けどね、いいかいRUNWAY、それは妄想だ。さては放射能にやられたな? このウォッカを呑むんだ。ははあ、それとも飲み過ぎたか。ならきっとまだ酔いが抜けてないんだな。いいから落ち着いてこの右手を見ろ。じっくりな。いいか、今からこの拳が『一、二の、三』でお前の鼻面めがけて飛んで行く。そうすりゃ一気に酔いが覚めるだろう。いいか? 解ったな? じゃあ行くぞ。腕(Owe)、痛(Two)……」
「あ、あぁ~よく寝た! どうやら俺は寝言を言っていたみたいだな! 全く、ヤレヤレだぜクソッタレー! で、俺は何を言っていた?」
「いや! 何も言ってなかった。俺が子どもの頃、風呂で何をしていたかなんてお前は覚えてない。いいね?」
「謎の白い液体で排水口詰まらせた事も?」
「何だって?」
「謎の白い液体で排水口詰まらせた事も?」
「Shit! ああそうだ。それも忘れろ。いいか、もう一度言うぞ、忘れろ。『Don’t Forget to Forget』だ。『知らぬがほっとけ』、だ。でないと俺が忘れさせてやるからな」
「解った、解ったよX。だからそんなマジになるなって」
「OK! やっと調子が戻ったようだな小さな相棒。全くしっかりしてくれよ? じゃ、アレを捕まえて出荷するか」
「お兄いいいちゃぁぁぁんっ!」行こうとするケイの腕を路花が抱き止める。「……お義兄ちゃん? お義兄ちゃん待って、何するの? 駄目だよ。そんな事しちゃ路花ヤダ!」
「何だよ、納得したんじゃないのかよ」
「あんな『エセ☆メリケンドラマ』で納得できますかコンチクショウ!」
「おいおい、ヤクでも切れたか? 口汚いなベイビー。スカトロでもやったか?」
「わー! 何か変なイメージが流れてくるぅ! 口にチーズスプレーでゅるでゅる入れるイメージが流れてくるぅ!」
静かにね、とケイは「Hush」と人差し指を口に当てて合図した。貴方もです、と路花も同じく口に当てる。子どもはそんな二人の真似をする。そして、ケイは笑って「全く、ヤレヤレだぜクソッタレー」と肩をすくめる。
「まっ、どのみち大人しくせにゃならんか。それにランナーとは利己主義……自分以外に晴れ舞台をやるくらいなら、俺自身がやってやるさ」などとツンデレを気取っていますが、最初からヤル気だったのですこの人は。そういう人です。お約束です。「うるさいよ。ま、兎も角。なら、ヤってやりますか」
「やってくれますか!」
「いやお前も闘うんだぞ。というワケでミッチー、防御たのむ」
「何でアニメ原作通りにしなかったんでしょうね。スタッフは本当に原作読んだのでしょうか。映画の番宣ができれば良かったのか、今風のデザインにして人気声優ぶっこんどけば売れると思ったのか。『銀河鉄道の夜』でも主人公を猫にしちゃったりして賛否両論(そもそも『100%賛成または否定』などありえないのでこの感想自体がナンセンス)ですが、アレはアレで良いのです。元が幻想小説なのでまあ良いです。しかし我々は漫画がそのまま動画に成っているのを見たいのであってね、例え良改変であっても要らんのですよ。資本主義こそ物語を蝕む寄生虫!! いや……寄生獣か!」
「それ攻撃。原理主義め。非日常の権化たる異能者がマジになるなよ。てかむしろ資本が無くて低賃金でゼイゼイ喘いでいるのがアニメ会社(主に制作部)なのだから、もっと資本与えても良いくらいだわ。
とまれ、俺はソロプレイヤー……うろちょろされるのは嫌いなんでお前は後衛か後方支援な。いやお前が悪いワケじゃない。俺が協力プレイが苦手なだけだ。後、注意点としては、相手は万能溶解液並の溶解性を持っていると予想されるので物理攻撃は原禁な。瞬間移動での安易な裏回りも超反応で狩られる可能性を考慮しよう。精神感応が効きにくいように、中途半端な精神攻撃も意味が無いのでそこも考慮しよう。あー、でもこの手の相手は痛みよりもむしろその逆が問題だな。つまり相手は色々な姿に変身できるんだから、白い粉的な『アレ』を作るのも容易だろう。アレってアレだよ、『魔法の薬』だよ。ぶっちゃけると媚薬だよ。快楽堕ちだよ。キメセクだよ。『悔しいけど感じ』云々だよ。コラそこ、目を細めて『明治は遠くなりにけり』みたいな生温かい眼で引くんじゃない。冗句みたいな噺だが、俺は本気で言ってんだぞ。飯食った後にも言ったろ。触手を口に挿れられながら静脈注射されて覚醒するかもしれんぞ。薬はヤバい。土台である脳を爆破するから、努力で積み上げた城壁など無意味だ。殊によると『約束された安堵』よりもヤバいかもしれん。少量ならホシフルイで解毒できるだろうが、それでも副作用は残るかもしれん。最近は薬をやると異能持ちに成れるとかトンチキかます奴がいるが、薬による変質は異能の力をよく狂わせるからな、注意しろよ。ただの人間に戻った異能者なんて見たくないぜ? まるで翼を失った鳥みたいに……まあとまれ、ああそれと、迷子のお前はここにいろよ」
そう言ってケイは子どもに向かって人差し指で地面を指差すジャスチャーをする。子どもは理解してるのかしてないのか真似するように地面を指差す。そして路花は自分を指す。
「わ、私はか弱き者、我の名は女」
「あっそ。じゃ、女は帰ってエアチャームでもしてろ」
「ああっ、そんな役者不足な眼で見ないで。でもでも、暴力は極力、反対したい……」
「じゃあ『アッチ向いてホイ』で俺に勝ったらその要求を呑んでやろう」
「ほう、超能力者の私にジャンケンとは片腹痛くで茶が涌ですぜ!」
「RPS101方式でな」
「『RPS101方式』!?」
Q.RPS方式とは!? A.それは従来の三種の岩(Rock)、紙(Paper)、鋏(Scissors)を進化させ、細かな指使いや時には両手や動作まで含めて百一式までに高めた武術。ワシの形意拳は百一式まであるぞ的な。深く考えると禿げる。
「というワケで行くぞ」「えああ私それルールあまり知らな」
「『Rock, Paper, Scissors! JANKEN―』」「ええとっ!」
「『DRAGON』!」「『Dynamite』!」
ケイは第三指を上顎に、四・五を下顎に、二指を曲げて眼に見立て、残る一指を立てて角とした。これを一瞬で出せるとか何かもう、何か、ヒく。一方、路花はというと、ヤパーナでもお馴染みこの形、サムズアップした爆弾であった。で、この結果はというと……。
「負けた! 負けたっ!? 負けでしたっけコレ……?」
「お前の負けだよ。じゃあ次な。『Look this――』」そう言ってケイは路花が流れについていけないのを良い事にどんどん続け、「『――way!』」と指を指した。その形は「フレミングの法則」よろしくな形であり、しかも左右同時であり、つまり前後左右上下全てを指していた。「ハイ、というワケで全方位発射で俺の勝ちー♪」
「子どもかっ!」
「お前はその子どもに負けたのだ。ルールに囚われた愚か者よ」
「私が悪いんですかコレ!? こんな勝負納得できるわけないでしょう!『まともなのは私だけか……!?』。目には目をでは更なる暴力を生み出すだけですぞ!」
「解らんか? 現実は意味が解らない事の連続であり、それはしばしば待ったなしで起こるのであり、それでも何とか対処できなきゃ死ねるという事だ。そりゃ話し合い程度はしてやるが、んならテロリストに『第9条』の旗掲げながら突っ込んで敵に取っ捕まって触手をツッコまれてR30レベルのイヤーンな事にっても文句言うなよ」
「ぐぬぬ。クッ、仕方ないです。緊急事態なら超法規的措置な『ささやかな世直しごっこ』も辞しません。ガンガンいこうぜ!『有るじゃねーかよ、コインと剣がよ!』、的な、『おれの精心テンションは今! 貧民時代にもどっているッ!』的な、『おまえらがその昔…幼き頃…捨てられて凍えてる仔犬を助けたことがあるとしよう…でも死ね』、的なね!」
「『死ね』は言い過ぎ。ソレ言われてマジで死ぬ奴だっているんだぞ」
「うや。そんな真面目にならなくても……」
「おいおい、おいおいおい、ガッカリさせないでくれよ。君はイジメを本気で嫌がってる奴に対して『遊びに決まってるだろ。空気読め。ツマラン奴だな』とでも言うのか?」
「ご、ごめんなさい……」
「解れば良し。なら行くか」
「あ、でも、まだ心の準備が――」
「甘えんな死ね」
「」
「死ね」
「しまいにゃ泣くぞっ!」
「よし、カメラで撮って動画サイトに投稿しよう。SNSで拡散しよう。他人の不幸で金貰おう。とても可愛く撮ってあげる」
「早く大人になりたい。この腐った世の中をナックルサンドイッチできる権力が欲しい」
「進路が決まって良かったね。だから言うたろ、俺の言動など十中八九お茶乱気けだと」
「くそう、私は一体何を信じればいいのさ!」
「信じる対象を選ぶのが己なれば、やはり己を信じるのが適切かと。つまり『コギト・エルゴ・ススム』」
「甘えちゃダメなんですか……?」
「おいおい、利己と自立の権化な異能者がそんな事言うなよなー」
「だから、そうやって『~人』とか『~族』みたいに十把一絡げに――」
「あー、はいはい、解った解った。餓鬼の説教はパス」
「ぐぬぬ。そうやって無下に扱われると余計に甘えたくなります。是はアレですね、優しい男性と意地悪な男性が居たら、往々に後者のルートを行く少女漫画的展開です。けどEんです、ケイさんはそれで。そういう裏の世界で生きてるっぽい所がクールなのです」
「変なイーメージ付けるなクソが死ね」
「もはや隠す気ないですよね悪口。フランクと受け取りますが」
「今は俺はいや今だけじゃなくて昔からカタギの人間だよ。家出して寂しくなってグロッキーに成ってるだけだろ。ま、俺みたいに見た目が良くて能力も在る実力派エリートなら、大体の奴は媚びって来るかもしれんがね」
「自分から言うのかー」
「それだけの実績の自負はある」無論、「常人」では、だが。「ひけらかす奴はウザいけど、謙虚過ぎて自信も信念も無い奴となんか仕事したくないだろ?」
「んー、私ならサポートしてあげますけど……」
「他人の心配するより、自分の心配してろ」
「私はいわゆる『さとり世代』ですからね、自分の夢とか言われてもそんなのよー解らんです。だから私は自分の夢ではなく他人の夢をお助けできる人に成りたいのです。『雨ニモマケズ 風ニモマケズ』、です。ああ、本当に宮沢賢治さんはカッコいいなあ」
「そう言った彼女はイカロスよろしく『よだか』になりましたとさ。自己犠牲自己犠牲」
「自己犠牲を批判するのは大抵作品だけ読んで批判するナンセンスな方。宮沢さんの人生を辿ればどうしてそういう思想に行きついたかよく解って納得できるでしょうに。いやまあそういうと『物語は物語内で完結しているべきだ』という方がいて、そういう方の読み方は人それぞれという奴で否定はしませんが……」
「方や、たった一冊読んだくらいで作者の人生を理解した気になる阿保もいる。お前の敬愛する作家はたった1,572,864Byte(約300頁分のb数)程度の要領に収まる程度の人間だったのかって噺だ。結婚しても相方の事なんて解らない事だらけなのに」
「うぇっ!? まさかケイさんに結婚経験が!?」
「はん? あー、脳内で」
「わー、やる気の無い誤魔化し」
「況や『人それぞれ』なんてのは妥協の極みだね。多神教的概念だ。アレは自らの信じる唯一神的正義や信念や幸福の形が無いからそう言ってんだ。レストランで何食うか迷ってるのと同じレベル。結局それは、何でもいいっていう『興味ない』と同義なんだよ」
「や、でも何時もエビフライハンバーグカレーギョーザフィッシュエッグフライドチキンポテトチップスアイスライスラーメンじゃ飽きますよ」
「そういう噺じゃな、え、何その夢盛りメニュー凄い。てか他人の夢ねえ……『指示待ち人間』は嫌だぞ? 頼りにされたいだけじゃないかと」
「いや、そうじゃなくて専業主婦的な……」
「とまれ、俺なら自分で大抵の事は大丈夫だ」
「だったら甘えさせてくださいよ、お義兄ちゃん」
「お義兄ちゃん言うなキモイ」
「キモ……はあ」
「あっあー、ミスった。溜め息つくなよ、幸福が逃げるぜ? これはアレだ、天邪鬼だ。嫌いなワケじゃない。むしろ好きだからいぢめたくなるというアライグマ思考でアァ言い訳している自分が恥ずかしいつまり俺は自分の事で精一杯なの」
「どうでもいいですけど『DQ6』のターニアさんは夢では実妹で現実では義妹という素敵仕様で色々と先取りしてますよね。『探し物は何ですか~ 見つけ難いものですか~♪』」
「ホントにどうでもいいな。文脈が予想できん。異能者の思考回路はどーなっとるんだ(自分の言いたい事ばかりを言うくせに、相手に理解されようという気が無いのか? だとしたら皮肉な)。まあ妹キャラならミストがげふんげふん」
「カブ様?」
「んにゃFE。記号キャラはあまり好きじゃないから妹属性とか俺にはよく解らんが、美少女ゲームの血が繋がってないからセーフ設定はただの妥協だと思う。本当に好きならそこを乗り越えてみろと。てかああいうのって怖いもの見たさじゃないかと」
「『お兄ちゃんどいて! そいつ殺せない!』」
「『『重力語』でおk』(うわ『おk』とか言っちゃった。いたたたた)」
「『Please Save My Earth』! 因みに、私がヤンになったら瞬間移動でどこまでも追いかけるよ♪」
「じゃあ俺は無言で腹パンするにょ」
「本当にヤりそうでこわひ……。所で、どうして近親婚って何で駄目なんでしょうね?」
「産まれて来る子供に障害が出来るから、とされている。けど実際の理由は生理的な嫌悪だと思われます。まあいわゆる『人肉食』『親殺』『同性愛』の様な宗教的な噺や。『人間の定義』っちゅー奴やね。ほんま、人間っちゅーのは何処まで行っても宗教的なんやなあ。品種改良してきた人間が今更んなこと気にしてどーすんのって噺だが。というか本当に遺伝的に問題がるかどうかも眉唾な感じだし。国によってどの親等まで許可されているかという点からもソレが解る。なお近親婚と近親相姦は全く別の噺です。要注意」
「そう言えば、異能者同士が子供を作るとより強い異能者が出来るとかいう優生学的な噺もありましたねー」
「因みにヤパーナはその手の話はユルユルである。近親相姦は法的に禁止されてないし、いとこ婚も可能で、産まれた子供の両親の戸籍爛に自分達の名前を書く事も可能。一方、メリケではいとこ婚さえ不可能だし、シンでは同姓婚まで不可能である。少なくとも、大祭害前はそうだった。まあそんなのはどーとでもなるけどな。形だけは他の家族と結婚して実際は近親同士で住む、とか、縁切りして結婚、とか、そーゆーのは現実的に在る噺だと思う。それに法律なんて解釈次第だしな。法律を正しく解釈する為に法学があるというのは、何とも阿保な噺である」
「おい、9条の噺は止めろです」
「いやでも美少女ゲームがその辺の噺ちゃんと理解しているのか気になるじゃん? 舞台がメリケなのにいとこ同士で結婚したら可笑しいじゃん?」
「明らかにアンダー18なヒロインを成人と言っちゃう美少女ゲームに何を今更」
「フィクションだからこそ、他の部分で綿密な設定が必要なんだよ」
「ははあ。おちゃらけている様で、根は真面目なんですねえ」
「そう気取ってるだけかもよ? 誰かに莫迦にされる前に自分で道化を気取る様に。そうすれば、他者から侮られなくて済むし、失敗した時の免罪符にもなる」
「そう気取ってるだけかもよ? 誰かに莫迦にされる前に自分で道化を気取る様に」
「そうなんですか?」
「さーねー。心が読めても、お前らにゃ解らんよ」ケイはそう肩をすくめた。その顔は、何時もの彼なら天下りした成金を見る様な顔であるのだが、仮にも家族である故か、阿保な子犬を見る様な顔であった。……どちらにせよ莫迦にしてんな。「とまれ、茶番はさて置き、しかし助けるとしてもどうすっかなあ。取り敢えず、電気分解いっとく?」
「いや『電気コンセントに針金刺してみ?』みたいに言われても。まあ確かに放電ってのは中々に心奪われる光景ですが。千切れた電線とか青白い光と音がバチバチ~って弾けてサイコにサイケで。うふ、うふふふふ♪」
「じゃーお前が念話で兄貴の心に呼び掛けるとか。『君達は熱心な探索の末に目的の彼を見つけた。しかし彼はどうやら意識が朦朧としており、眼は血走っており、手には真っ赤に染まった長物を持っている。君達は名前を呼び掛けてもいいし、掛けなくてもいい』」
「何そのゲームブックなTRPG的喋り方。ワクワクしてしまうですやろ。もしくはhageる。最近のゲームは良く出来てますねえ。プレイバイウェブ(PBW)みたいに事態が柔軟に変化するだけじゃなくて、プレイヤーが登場人物や街や事件内容を造って他のプレイヤーもそれに参加できるんですから。まるで神様ごっこですね。NPCもまるで人間みたいなので、喋ったり歩いてるだけで楽しいです。というか人間と区別の使い内NPCってNPCっていうのでしょうか? いずれにせよ者語がごっちゃになって、凄まじいフラグが乱立しそうですが、管理体制どーなってるんでしょうね。閑話休題。
けどあのアニーは社会不適合者なのでそれは無理です。引っ張ると余計に潜ります。〈交渉〉スキルを振るより何か絞め技系のスキルを振った方がいいんじゃないですかね」
「俺は思った。こんな女の子に不適合者呼ばわりされる義兄ーはどんな奴なのだろうかと」
「『全く、あのアニーは実戦経験はないくせに無駄にネットで知識は多い頭でっかちなミリオタよろしくだからな。戦時も経験した事ないくせに無駄に世を憂いて、お前はライ麦畑の住人かっ。そんな事をグチグチ言うよりも働いて金を稼いだ方が建設的だぞ。畑の肥やしに成るだけ糞の方がまだマシだ』……と、ケイさんが私の立場ならそう言いそうです」
「そんな口汚くねえよ、俺ァ。お前の中の俺像どーなってんだよ。まあ、確かにネガティブな事を売りにしてる作家とか音楽家は好きじゃないが」
「そう、これがウワサに名高い『同属嫌悪』というヤツなのでありました」
「うっせーバーカ。それより女の子が『糞』と汚い言葉使ってんじゃねー」
「フェミニストに清き一票を! 小学生男子ならこの気持ち解ってくれるはず!」
「糞なのに清きとはこれ如何に。つかお前、俺の精神レベルが小学生と同じとでも思ってんのか? お? スカトロでもやってろ、ふぁっく」
それにしてもこの二人、まだまともに会って間もないのに仲がよろしくて何よりである。まるで本当の兄妹の様だ。というかグダグダだ。そんなどーでもいいくっちゃべり茶番に時間を費やすくらいなら、とっとと派手なアクションをキメてたまえ。ほら前を見ろ、目的のホシが何やらイヤーンな事をしているぞ!
『Caw!』
その高い声を聴き、ケイと路花は目標の相手に振り向いた。見ると、黒い鳥たちが何かを囲っていた。ぐずぐずに崩れた赤黒い何か。通りと道路の間に放り出されている。ソレは崩れた肉だった。腹が裂け中身が出ているが、それ以外は綺麗な状態で、犬か猫か、四足歩行の動物だとみて取れる。交通事故だろうか? 未だ瑞々しく乾いておらず、恐らくつい先ほどまで動いていたことが見受けられる。
それを黒い鳥が、鴉達がついばんでいた。ビーっと布を引き裂く様に肉を剥ぎ、酒を飲む様にワタを喰い、突き、抉り、裂いていた。別にその事自体は特に問題は無い。弱肉強食、自然の摂理だ。むしろただの可燃ごみとして、無かった事として焼かれるよりはずっと良い。ましてや、人の眼には不快ではあるかもしれないが、それは判官贔屓であり、ケイはそのような贔屓はしない。異能者である路花もまた現実的な冷めた眼でソレを見る。しかし問題は、その隣にいる人間……少なくとも、見た目は人間に見える者。
『Caaaw! Caaaw! Cacaca. Croaaaaak!』
「アーアー」
そんな御馳走を食らう鳥の中、相手もまた足を止め、声を上げていた。まるで鳥と会話しているようだった。鳥は肉をついばみながら、相手に向かって鳴いていた。
『CaCaw! Gaaaaaw!』
「ガッガッガッ。ギャー」
すると相手は了解したように肉に手を伸ばし――ケイが飛び出した!
「義妹に見せて良いもんじゃないぞ、ソレは!」
ケイはホシフルイを起動した。白銀の腕輪がぐにゃりと変化しケイの手の平で「我信ッ!」と棒状に伸びる。通行者達を跳び越えて、相手を囲む黒い鳥の外側に降り立ち、「Hey,bae!」と相手に向かい攻撃的な笑みで言った。
「やあ、よお、糞餓鬼ちゃん、初めましてこんにちは。俺の名はケイ・ジッポ・駆乱芸。で、お前は今流行りの灰泥界異だな? ソレを踏まえて質問しよう。お前敵か? 俺の敵か? 敵じゃないなら、平和に行こう。しかし煮ても焼いても食えぬなら、バトル開始だ。俺は男女平等、年齢平等、種族平等、世界平等、どんな奴でも『ジンメン』でも容赦せん。お前に俺を殴り飛ばす機会を一方的に与え、俺はお前を独断と偏見で殴り飛ばそう。だがその前に心意気を述べると良い。ゆっくりと話し合おう。俺は魔物だからって剣持ってブンブン叩き斬るRPGよろしくな英雄でも、話し合わずに暴力で解決する少年漫画な前時代野蛮者でもなきゃ、平和だの何だの言いながら闘う熱病患者を見て楽しむ様な熱血少年漫画の読者でもないからなあ。ああその前に、君の名は?」
と皮肉りつつもその物腰は好戦的、喧嘩の安売り屋さんである。ホシフルイを肩にトントンとやり、ニヤリと不敵な笑みをする。方や相手は無表。何を思ったか、腰を上げてケイを見据えた。そしておもむろに右手を伸ばし――火球を飛ばした。
「おう!?」全部で五つ。ケイは驚きつつも冷静に、被害を抑えるため棒で火球を空に向かって打ち払った。空で爆発した火球に対し、路花は「あっ」と驚いて、ケイは「ハン!」と笑い飛ばし、群集は「なんだなんだ」とそのチンドン屋のような騒ぎにどよめき、火は光条の天気雨となってぱらりぱらぱら。「謳々々! 最近のコマドリは恐いねえ。ちょっと注意しただけですぐ刃物だす。すました顔して裏で何考えてるのか解りゃしねえ。キレる若者という奴ですか? 自分にも何か出来ると勘違いしたか? ファーストコンタクトが攻撃とは哀しいが、しかし拳を振り上げるなら、大人が振り上げ返される事も教えてやろう」
更に飛んできた火球を相手に向かって撃ち返す。相手は更に火球を迎え撃つ。二つの炎が中央で炸裂。炎と煙が両者を演出。周囲の群集が脚を止めて彼等を見遣る。舞台の用意が整えられる。語りは上々。心は光条。ケイは戯曲か落語を謳うように台詞を読む。
「さあれ、皆さん、お立会い! みんな大好き道化でござい。御用と御急ぎでない方は、聴いて驚け観て笑えぃ。是成るは落語家も浮き立つ屏虎の演舞。是鳴るは星の鐘かくやな千早の調べ。是為るは飛んで跳ねての鳥獣戯画! 冥途へ行く予定の在る奴にゃあ、これほど気の効いた土産噺もあるか否や!? 千両役者の『千夜一夜物語』だって、これ程の名文は知りますまい。さあお立会い!
『宣言。登録番号141421356〈【黒金】ケイ・ジッポ・駆乱芸〉。私は貴殿に対してランナー規約第0号及び共界存権宣言特例部第0条第0項により此方の権利と保障を全て破棄し、彼方の権利と保障を全て無視する』」
ケイはそう宜しく言った。それはランナー協会及び黄金狂世界と現界連合によって取り決められた共界存権宣言の数少ない0号規約、原則条約の一つ。互いの権利を保障し公平とするするのではなく、互いの権利を一切無視し公平とする超放棄的措置。戒厳令。アウトロー。無垢な暴力装置。其処に置いては生も死も関係ない。ぶっちゃけると「面倒見るのが大変なので勝手にやってください」という無政府状態張りの責任放棄。ミランダ警告などありはしない。ひとえに風の前の塵に同じ。
だが故に自由。それは無責任な事由であり、響きの良い、都合の良い自由ではない。本当の自由。誰にどんな悪意をする事は勝手であり、それに報いを受けるも勝手。まるで自分勝手。横暴な自由。そして故にその拍手と野次は、自然のままに、正義と悪の蚊帳の外!
壱 弐 参 肆 伍 陸 漆 捌 玖 拾
ふるべ ゆらゆら ゆらゆらと ふるべ ふるべ ゆらゆら ゆらゆらと ふるべ
天にまして仰ぎ奉る 掛けまくも畏き 神とか呼ばれる大きな貴方よ
願わくば御名を崇めさせ給え 願わくば御名を祈りさせ給え
我等は絶えたる望みの前に苦しみ嘆き叫ぶ時も 悩み迷う事は終ぞ無く切なる幸を希う
願わくば我らを寂しき死へと引き渡すなと 天へ八平手百平手拍ち上げて
見食せ聞食せ食食せと 恐み恐みも白し上げる
暫し一切の栄誉を忘れ その輝きに酔いながら 貴方に星を奮う事を許し給え
闇夜を駆けるる星の軌跡が 寝静まった幕を斬り裂き
交じる劍戟音を亮らせ 亮らす音々楽しき増し舞す
Nearer, my Star, to thee, nearer to thee!
Darkness be over me, My rest a stone; Yet in my dreams I'd be.
唵 婆娑羅摩利支 蘇婆訶 唵 婆娑羅天照皇 蘇婆訶
成就あれ 幸福あれ 克服あれ 此処に切なる素晴らしき日々を恋願う
成就あれ
「――見せてみろ、お前の魂を見せてみろ」ケイはホシフルイを「舞音ッ!」と鳴らした。心が武器と成り刃と成る。魂と成って叫びと成る。心を震え。魂を振るえ。星を奮え。ふるべ ゆらゆら ゆらゆらと ふるべ。「お前の星を魅せてみろッ!」
バトル開始。
「謳え、ホシフルイッ! BGMは『COSMIC ORCHESTRA (OSTER)』!」
――WYYYYYAAAAAAAAAAAA!!!
ケイはホシフルイを回しながら相手に向かって突っ込んだ。その動きは俊敏で、まるで滑るように地面を走る。その速さは鳥たちが飛び立つのに遅れる程だ。放たれる火球を器用に返し、すぐさま相手との距離を詰める。ケイは地面を蹴って鳥の群れを大きく飛び越える。それに対し、相手は撃ち落とすように右手を伸ばし――そこで相手の動きが止まった。何か目に見えない力に抑え込まれたように動けない。路花の念動力である。虹色に路花の左眼が変光し、超能力を発動させていた。しかしすぐに動くだろう。それだけ相手の力が強いのだ。不意打ち、それでも一秒だけ止めるのが限度である。だがその一秒あれば十分すぎる。「NICE」とケイは小さく呟いてホシフルイを振り被り、
「オラ死ねえええええええ――ッ!!!」
堅気の者とは思えない掛け声で容赦なく相手に叩き込んだ。相手が殴打されたのと鳥が慌てて逃げたのと同時だった。攻撃の衝撃に吹き飛ばされるように鳥達が散っていく。棒は止まることなく振り抜かれ、相手の首はねじ曲がる。
まともに入った。モロに喰らわせた。だがケイは訝しむ。手応えはあったが……痛がらない。ぎゅるん、と灰泥の頭が回転した。わざわざ首を三回転させコチラを見て、
ニヤリ。
ヒッ……!、と息を呑む聴知った声が聞こえた。ケイも一瞬怯むが、すぐ素面に戻る。感応を込めて振るうホシフルイは、そのような心の動きにも強く反応するからだ。ケイは構わず、相手を連打する。しかし相手は痛くないのか怯まずに、むしろ五発目で棒に噛みつかれた。眼がニヤリとして言っていた。こんなもの喰ってやる、と。だが――
「『溶けない』、か? そりゃそうだ!」ケイは灰泥ごと棒を背負い上げた。しかも棒を長くして遠心力を上乗せし、灰泥を勢いよく地面に叩きつけた。ぐしゃり、という音と共に棒が抜ける。「少年漫画よろしく説明口調をやってやれば、お前にただの物理攻撃は効果ないだろう。精神攻撃による心の傷さえ力学的エネルギーとして吸収しそうなお前に鼻。だが此方が奮うは星の刃。心意気ッ! 手前如きに俺の心を、そう簡単に消化されてたまるかよッ!」
そしてその実、その予想は正しい。もしただの攻撃であれば、泥人形は「ポケットの中のビスケット」理論で叩けば叩いただけその質量を増していっただろう。だがケイの心と、それを刃と化すホシフルイは違う。そう簡単に、共感などさせはしない。
叩き付けられた泥人形が起きる前に、間髪入れずケイは連撃を掛けた。しかし泥人形は起きるまでもなく攻撃、平べったい黒いものが相手の影から複数奔る。その形は蜥蜴。
「『疾影』ってか? お遊びだな」
そうケイは言いながらホシフルイを銃にして、蜥蜴の速度を考慮して偏差射撃。その弾丸は狙い通りに飛翔し……蜥蜴が避けた。自動回避? いや違う。成程、意識の在る弾丸か。まあ今時はそういうのも珍しくはない。それに相手は悪食にて魂を模倣する泥人形、魂の分割くらい出来るだろう(それが普通に納得出来る辺り、全く「アリス」な世の中である)。ならば、とケイは銃を棒に変身し、近距離で迎え撃つ。が、相手は二次元、紙よりも平べったい。道路整備の方達に罪悪感を感じ無闇に地面を抉るのを躊躇うケイには、イマイチ疾影が掴めない。と、此処で疾影がケイに辿り着き、跳ねた。オタマジャクシの群れの様に。ケイは身を引いて避けたが、服の一部が引っ掛かった、其処が鋭利な刃物で斬られたようにバッサリ斬れる。厚さ0の刃。これ以上に鋭い刃はこの世界に存在しない。
(仕方ない、こういう奥の手は不意打ちで使いたいんだが……)とケイは思いながら、ホシフルイに感応した。心が粒子加速器の様にホシフルイの内部で加速する。それは光速さえも超える速さになり、「路花、超能力で自分に壁を張れッ!」
そのケイの台詞と共に、ホシフルイから心が弾き出された。瞬間、輝くは鮮烈な白。その閃光は眼を閉じても瞼を貫通して眩しく輝く。心の光は物理的な壁を跳び越えて、辺りの闇も影も白く塗り潰した。路花は何とかその光を防いだものの、辺りの観客は「目がー、目がーっ!」とのた打ち回る。広範囲魔法がRPGよろしく敵にしか当たらないとは限らない。敵味方識別(IFF)ってホント大事。無論、疾影は綺麗に消え、黒である泥人形は眩しい所か身体を引き裂かれる思いだった。脳震盪の様に身体が麻痺する。
しかしそこは泥人形。その黒はマリアナ海溝より深く宇宙より暗い。すぐさま機能を再起動させて、ケイに焦点の合って無い眼を合わす。
が、遅い。遅過ぎる。すでにケイは灰泥に接近し、もう一拍で、次のターンで攻撃できる。ならば、と灰泥は己を守る様に周囲に炎の壁を立ち上がらせた。しかしケイはホシフルイの風圧で呆気なく無理矢理炎を振り払った。そのまま灰泥に攻撃を――と此処で灰泥が魔術、再び炎の壁を造ろうと右手を伸ばす。
「が、無駄」
無駄過ぎる。その選択はミステイク。魔術の使い方がなっちゃいない、この至近距離でそれはナイ。術式が完成するよりも速くケイのホシフルイが奔り、その右手を腕ごと叩き折った。そればかりではなく感応のこもった力強い一撃は、腕を根元から引き千切る。
「おっと」と、これにはケイも右目を大きく開いた。「すまん、やりすぎたか?」と一応、訊いてみる。本当に心配しているかは知らん。だがどのみち心配はない様だ。何故なら、相手の右腕はすぐさま直ったからだ。泥か蛆虫が集まるようにぐじゅるぐじゅる腕が生えていき、三秒もしない内に元通りに再生した。ニヤリとしてコチラを見返す。「あっ、そ。ソッチ系か」とケイは慣れた様に肩をすくめる。そのくらいでは驚かない。今の時代ではよくある事だ。「だけど無尽蔵ってワケじゃないだろ。『死ぬまで殺すだけだ』、だ。いや流石に死なすつもりはないが、しかしあの大灰獣みたいなデカさならまだしも、お前くらいに小さければ、全部の灰泥を削り切るのもワケないぞっ」
相手が身の回りに風を発生させた。ケイはそれに吹き飛ばされ、無理矢理距離を取らされる。更に間髪入れずの炎の弾。空中にいるケイは死に体、身動きが取れない、回避不可。しかし、ならば迎撃するだけ――と此処で炎弾が掻き消えた。これは一体?
「種も仕掛けも……あるんだなこれが! 超能力がッ!」
とケイの後ろで路花が言っていた。どうやら路花の支援攻撃――瞬間移動の応用で相手の攻撃を移動させたらしい。その路花の台詞の後に、ケイの頭上で爆発音が聞こえた。やれやれ、僕は着地した(ふぅ……)。
「自分より上位難度の敵に瞬間移動は控えた方がいいぞ」とケイが言う。「アレは一瞬の力だから、力を込めるイメージがしにくい……と知り合いの超能力者がゆーとった」
「だじょーぶ、大丈夫! 後方支援は路花に任せてくださいっ!」
「健気なのは良いけどね、だが現実では『『やる』か『やらない』か』ではなく『『出来る』か『出来ない』か』が重要であり……」
と、ケイがそんな人生論をぶっている間にも炎が飛んで来る。それを路花は「消えろッ!(Snap!」と指を弾いて移動させようとする。――が、
「ほら、言わんこっちゃない」
消えなかった炎が路花に向かって飛んで行き、それをケイがホシフルイで急いで防いだ。
「Hmm!? さっきは移動出来たのに……」と手で頭を覆って驚く路花が言う。
「さっきと込めてる力の量が違うんだろう。多分、相手は遊んでる。だがコッチは遊ぶなよ。ゲームじゃないんだからな。本気で掛かれよ。次はもっと強いのが来るぞ。長生きしたかったらどんな相手でも見縊るな。敬意と礼節を忘れるな。お前ら異能者はなまじ努力せずとも強い分、そこん所がなっちゃないからな」と、ケイはホシフルイを槍に変身させた。次いで、バトンの様に片手で回しながら――「我流抜槍術――〈風輪刃(HURINBA)〉!」
と叫んで右切上に振り上げると、その軌跡から丸鋸か気円斬よろしく風の車輪が回転しながら、地面を抉りながら、相手に向かって一直線に奔った。ソレに対して、相手はケイを吹き飛ばした風で砦を作るが……鋭い斬撃波により己の身体ごと呆気なく斬り裂かれた。
「尤も、主人公というのは勝つから主人公なのではなく、勝つかどうか解らない勝負に挑むから主人公なんだがな」
そうニヤリと言い残して、ケイは相手に向かって走った。そのケイを見て、相手も迎え撃つ準備をする。真っ二つ斬られた身体をぐじゅりぐじゅりと繋ぎ合わせ、更に拳を鋼鉄に莫迦に化かして殴り掛かって来た。
それをみてケイは思う。そういえば海の星の彼女(Sea)が言っていた、泥人形は己の外見と中身を変えられると。
「まるで玩具箱だな」
それに相対するは星の奮い、心の振るい、その力は恐怖や恋慕がそうであるように物理的な距離も時間を跳び越えて、相手の力を撃ち砕く。「そうあれかしと叫んで斬れば世界はするりと片付き申す」。戯言か? 否。順当な論理。戯言で宇宙に行くのが人なのだ。夢という燃料を燃やすのだ。莫迦が夢を具現化させる事こそがこの大祭害の舞台の主題なのだ。
だからホシフルイを持ったケイは気兼ねなく畳みかけた。相手の振り被られる拳に対し、ケイは棒状のホシフルイを叩き付ける。すると相手の拳は呆気なく砕け、肘の根元まで弾け飛んだ。拳を砕かれた相手はたたらを踏む。
しかし泥人形も負けてはいない。踏みながらも砕けた腕を再生させ、しかも今度は刃物だ。右腕は文字通りのアイアン・クロー、左腕は神をも殺す冒涜的なチェーンソー。それらは武器として持っているのではない、腕そのものがソレなのだ。それらは「しゃりん殺離ん」「”斬ゅらららららららら!」と各々楽しそうな音を鳴らす。
「玩具といっても、冗談はキツイ(タイト)だが」
ケイはそれに辟易と台詞を言いながらも、身体は真面目に奔った。相手の武器と撃ち合う。今度は些か頑丈なのか、呆気なくは壊れない。しかもちゃんと機能している。成程、お遊びの様に見えてもそこは泥人形……模倣は完璧と言った所か。たが――
がんがん。きんきん。きーんがきーん。がんがんききーん。きがんきがんきがん。ちゅどーんばこーんどがががが……。
だが、造る技はそうでも、それを扱う技はあまりに稚拙。泥人形の攻撃はただ行き当たりばったりに振り回しているだけだった。効果音(SE)さえ腑抜けて見える。これでは名刀も名折れである。
しかし、だ。それでもその攻撃は脅威であった。何故ならこの相手は怯まない。
ケイは力任せに振って来る相手の武器を軽くいなし、返す棒で無造作に刃を叩き折る。何度も何度もたたき斬る。だが相手はその度に身体を再生させ、新たな武器を生やす。身体を「SLASH!」と袈裟斬りにする。血潮ならぬ泥潮がドバっと辺りに撒い散る。しかし相手は痛がらない。武器を「BREAK!」と右切上する。武器の破片がバキンと舞い散る。しかし相手は武器を直す所か蜘蛛のように腕を八本、十六本に増やし、しかもただの腕ではなく斧だの槍だの蟷螂だの蠍だの魚だの鶏だの口だのチ〇コだの奇奇怪怪な形を成させる始末。ただただまるでケイに抱き付こうとするように、雪の様な冷たさで「鋏の両手」を広げて来る。ええい、お前の心臓は「大きなハート形のクッキー」か。
冗談はさて置き、このままではちとマズい。早い噺が格ゲーにおけるスーパーアーマー。ゾンビよろしく「ズルして無敵モード」という奴である。攻撃しているのはコッチなのに何故かコッチが後退している。コレがボクシングならコーナーに追い込まれている所である。先手を打つという事も出来ない。攻撃されたらされたまま、コチラに牙を向くのだから。そして攻撃する為には、往々にして相手の攻撃圏内に入らなければならない。難しい噺ではない。ブレーキの壊れた自動車を真正面から殴ればどうなるかという噺である。ソレに対する正しいコマンドは、「逃げる」。ま、それで終われば御噺にならんか。
ケイは攻撃を続けるが、その傷から出るベタ付くタールの返り血ならぬ返り泥が散らばり地面を焼くだけだ。思ったよりも相手は餌を食べてるようだ、まだまだ泥の底が尽きる様子はない。しかも、
「ぬっ!」「ケイさん、右ッ!」
路花がケイに知らせるよりも、ケイの反応の方が早かった。ケイの右から灰泥が跳んできた。ケイはホシフルイの頭で相手の武器を逆袈裟に往なすと同時に、尻でそれを弾いた。跳んできたのは返り泥だった。弾いた泥は水の様に蒸発する。成程、蜥蜴の尻尾よろしく飛び散った灰泥もすぐには機能を停止しないのか、とケイがその蒸発した灰泥を見て一瞬だけ思考し、次いで目の前の本体に目を戻すと、
「ぬおっ!?」「ケイさ、え、何アレ!?」
路花がボケるよりも、ケイの驚愕の方が早かった。相手の身体の腹の部分から、何と獅子が生えていた。いや是は獅子なのか? 鰐の様に見えなくもない。或いは両方なのかもしれない。しかも変異しているのは其処だけではない。その獅子の周りにはまるで「歯のある膣」のように、蜘蛛の脚が生えていた。更に腕が薔薇に、脚が鋼鉄に、背からは蝶の翼を生やす。お前は「魔獣戦線」か、「獣王の巣」か、この手のキャラ意外と多いな。吸収能力同士が戦ったらどうなるのだろう。ウロボロスるのだろうか?
しかし今はその真相はどうでもいい。重要なのはソレらが一等危険であり、仮に敵意が無くとも己を殺傷するには十分で、今まさに己に向かってくれいるという事だった。腹に生えた獅子が、大口を開けてケイに牙を向く!
「く、おぉっ……! 来、るんじゃないッ!」
あまりに不意だったのか、些か素で驚きながらケイはホシフルイを構えて、相手を思いっきり腹パンした。しかしこの選択肢は結果的に正解だった。幾ら怯まないと言っても、その衝撃までは防げない。ケイの攻撃は獅子の牙と蜘蛛の脚をメッコールと減り込み圧し折り、人形は受け身を取るそぶりもせずに跳んで行き、建物の壁を撃ち砕いた。
その身体は粉塵が上がり見えなくなる。だがその煙を貫いて灰泥の首が妖怪よろしく伸びてきた。ケイに噛みつかんとして口を開く。その軌道は蛇のようにぐねぐね曲がり捉えどころがない。
ならば、とケイは野球よろしく棒を構えた。良―く狙ってえ……撃つッ。クリーンヒット! 芯で捉えた。頭は人形のような笑みを張り付けたまま、けん玉の玉のように飛んで行く。しかしソレに構わず身体が両の腕を伸ばしてきた。しかもその腕は文字通りの「蛇咬」、更に途中で分かれそれぞれ三つ、計六つの蛇となって襲いかかる。
「ふん、数撃ちゃ当たるってもんでもないぞ」ケイはホシフルイを棒から剣に変化、居合の型にて向かい撃つ。「尤も、当たり行くのは俺だがなッ!」
ホシフルイに六種類の動きを一気に命令、塵単位の遅延応答を伴う返答値に応じてケイの身体機能が一時的に上昇、変化し、戦術コードが身体を走る(ラン)。神経が限界値を超えて発火する!
「見晒せッ! 我流抜剣術――〈閃連撃(SENRENGEKI)・陸(MU)〉!」
手抜ッ、とケイの手が剣を振り抜いたかと思うと、一瞬にして六つの蛇が斬られていた。その居合はあまりに疾く、路花にはぼとぼとと落ちる蛇を聴きようやく剣を抜いた事に気付いた程だった。そしてこの辺りで、ようやく辺りの空気も変わった。
突然往来で始まった乱痴気騒ぎを見ていた通行者の反応は様々だった。ようやっと事態を認識し危険だと判断して逃げる恐竜猿、「お、やってるな」と今日のビックリショーを楽しもうとする機械、我関せずと興味無さげに素通りする猫、自分も加わろうか考える大口の花、そして実際に加わってきてケイと灰泥にブッ飛ばされるナニカ。客席巻き込んでのどんちゃん騒ぎ。愉快痛快、見遣ってござあれ、切った張ったの大立回りよ。ケイ達の周りに輪が出来て、その輪は舞台が動くと共にワラワラ動く。たまにすっとんだ炎の弾が観客を焼き、それでもわっと歓声が上がる。まるで騒がしいドラマの撮影現場だ。そんな中、観客と一緒に見物していたケイの仲間である彼女の反応はというと、
「わ、わー。カッコイーっ!」路花、サーカスを見るようなビックリ笑顔で思わず拍手。義兄に似てる云々の設定はどーしたのか。ボコボコにしてやられてますが。「よっしゃー、いけー、うっちゃれー、うっちゃるんだーっ! がーんばれっ。がーんばれっ」
「Huh、どーめー。悪くねえ響きだな。もっと褒めろ、ンッ!」
※褒メロン……褒めるメロン。甘いマスクがSweet。
だがケイにそんなシャレを言っている暇はない。相手はそれでも止まらない。伸びた首を戻した身体がケイに向かって走り、蹴り上げて来る。その顔には笑いの仮面が張り付いている。しかしケイもそれくらいでは動じない。容易く防御して見せる。たが、
――重いッ!?
一つ誤算だったのはその重さ。百倍だ。見かけよりも百倍以上の質量があった。それもただの物理的質量だけではない、これは霊質、魂の質量とでもいうべき存在量がデカかった。「E=mc^2」の方程式で質量を感じるほどエネルギーがデカかった。そして幾ら攻撃に対する防御が優れていても、その運動エネルギーが消えるワケではない。例え身体は傷付かなくとも、その衝撃に身体はふわりと浮く。
そこでケイははたと気づく。そうだ、コイツは他の奴らを喰ってるのだ。にもかかわらずこの見た目、人間大、その重さは何処へ行ったのか。何処へもいかない。「あの大灰獣みたいなデカさならまだしも、お前くらいに小さければ」? とんでもない。逆だ。大灰獣のあのデカさが、そのままこの餓鬼の様な身体の中に圧縮され――
(しかしッ! 先にコイツを持ち上げたり殴り合ったりした時はこれほど重さを感じなかった。なのに何故いきなり……まさか大きさだけでなく、質量まで可変だと言うのか!?)
その疑問は、少なくとも今この場では無価値である。その疑問に答えが出ようが出まいが、ケイはやがて吹っ飛ばされるだろう。そんな中、ケイはとある台詞を思い出す。
――世の中には、「ZIP爆弾」なるものがあるんだってー(笑)。
そう海の星の彼女の世間話みたいに言ってました彼女の顔が走馬燈の様に緩やかにああ川の流れの様に時代は過ぎてああ川の流れの様に空が黄昏に染まるだ(略)。
ケイは10tトラック(最大積載量10t/車両最重量25t/1t=1000kg/現代メリケン男性平均体重100kg)にぶつかったような衝撃を喰らい、吹き飛ばされたケイは観客の中にもみくちゃになり見えなくなり……そして何故か爆発した。多分、可燃性の異界者でもいたのだろう。なんてこった、ケイーが殺されちゃった! この人でなしー! まあ可燃性の生物を人と見るかはお任せだが。
「うあっ、ケイさん!」吹き飛ばされたケイを見て路花は驚いた。しかし怯まずすぐさま灰泥を睨み付け、相対する者に向かって叫んだ。「やったなコンニャロー!『I’ LL TAKE THAT AS A DECLARATION OF WAR, NOT LOVE!! PREPARING FOR ASSAULT! KAKUGO COMPL...』うひゃあ!?」と台詞が終わる前に素っ頓狂な声を出したかと思うと、路花の姿が消えていた。次に現れた時の路花の左眼は変光していた。瞬間移動である。相手が路花を狙って伸ばした触手を緊急回避したのだ。「も、もおー、名乗りの途中に攻撃とは何事ですか! 恥を知りなさい、恥を……って、ふひゃあ!?」
相手の攻撃を避けるため、またもや路花が掻き消えた。余剰エネルギーが残光と成って雪か綿毛か星のように、先まで路花がいた場所に散逸する。その散逸した光の雪を触手が掻き乱す。勢い余った触手は地面や壁を打ち抜いて大小様々な瓦礫と煙が散乱する。
相手の背中が盛り上がり、計十二本の触が生えた。それらを路花に向かってくねらせる。その触手の速いこと速いこと。蝶を取る蛙のような舌裁き。路花はソレ等を連続・短距離瞬間移動で避ける。その連打の早いこと早いこと。まるで何処ぞの戦闘民族である。そんなサイヤ人は一言一言区切りながら、平和的解決を模索する。
「わっ、やっ、ちょっ、ひっ、あっ、あっ、んぅ、あんっ、いやっ、ひあっ、はうぅ、うにゃうっ、ふあっ、きうぅ、やっ、だめっ、それ、だけ、はっ、ひうっ、ま、あ、て、く、だ、さ、い、は、な、せ、ば、わ、か……なーうっ!」
だが遂に路花がキれた。エロティカな喘ぎ声を止め、一転、真面目な顔に早変わりする。その瞬間に触手が止まる。煙がぶわりと巻き上がる。路花と共に散乱した瓦礫が宙に浮く。
路花の身体が眩しくない光の膜に包まれていた。同じく触手と瓦礫も包まれている。その光が何なのか、チェレンコフ放射かランセルノプト放射光かハチソン効果か空中元素固定能力か、ぶっちゃけ路花にも不明である。そもそも可視光線ですらなく、機械的には電磁波でもありはせず、既存の一切の物理学的反応を返さない。その色は藍染めの様な鮮やかな青に見えれば、光蝶の様な幻妙な緑に見える者もいる。ならばその光とは、己の心が魅せる幻影か。兎も角、彼女は念動力で何時の間にか三十六本になっていた触手を押し留めていた。
「(高速横回転しながら→)なんしょっばにほなえろうことするん!? せんといてやめいでしまうじゃろワレ!(訳:どうしてそのような恐い事をするのですか? 止めて下さい死んでしまいますでしょ君)(←回転此処まで)ええい、そこまで闘いたいなら交渉はなしだ! こうなったら僭越浅学非力ながら私のSF(すこし不思議)パワーでお相手いたしますッ! ムカつくぜクソッタレー!」
そう言って、彼女は実力行使を決行する。その想いは恐怖や恋慕がそうである様に物理的な距離を跳び越えて、中間空間に一切の変動影響を及ぼさず光よりも速く作用点へと到達する。「SNAP」と路花は指を弾き、そのまま人差し指を指揮するように天に向け、号令するは〈整列(Fall in)〉。すると光の球体が硝子を割るようなラップ音と共に路花の周りに出現する。瓦礫と共に彼女の周りを衛星する。大きいものは路花以上、小さなものはビー玉まで、様々な色の様々な光が様々な模様で宙を飛ぶ。
「輝く意志よ進撃せよ! 手始めに行けい、〈スター・ライト・パレェード〉ッ!」そして路花が指を相手にフリ降ろすと共に光の星々が一斉射撃、虹色の流星群よろしく相手に向かい、星の色と同じ炎色で爆発した。おお、キレイキレイ。光が花火かクラッカーの様にぴゅるぴゅる回り、パステル・スターの様に淡く混ざる。その光がクァンタムかプラズマかスカラーかエクトプラズムかハートフルか、ぶっちゃけ路花にも不明であが、華やかなものだ。まるでサーカスだ。マーブル模様のお星さまは、ちょっと美味しそうでした。齧るとトリュフチョコの様な歯応えで、大地の生地に包まれた熱いマグマがドロリとね。ダメージ判定は一発に付き「(2*連射数)d6」か「2d6*連」でお願いします(威力参考・〈20ゲージショットガン〉2d6*連)。「精心世界とは星辰世界、星が降ればハートもフル! されば心の色は万華鏡、覗く程に色は変わる!」
相手は爆炎に包まれた。そのせいで相手の姿が見えなくなる。だが路花は精神感応で位置を把握している。故に瞬間移動で相手の背後に跳躍する。そしてケイから貰った虹色のロリポップを持ち念力を込める。すると飴が巨大な風鈴の様に膨らみバチバチ弾ける。
「更にっ! 文字通り食らえい、〈なんちゃって・スパイシーロリポップ〉ッ! でりゃぁぁぁあああッ!」そう叫び飴玉をハンマーよろしく振り降ろすと相手に当たって飴色の光と共に爆発した。その光が魔力か霊力か車輪か念か理力か、ぶっちゃけ路花にも不明であるが、ともかく爆発は粉塵を吹き飛ばし相手を建物の壁に貼り飛ばした。ダメージ判定は「7d6」で略(威参・〈ダイナマイト〉5d6)。「恋は弾ける様に刺激的、甘く見てると痛い目見ちゃうぞ!」
その爆風に相手は吹き飛び路花の方を笑って見た。その笑みが言っていた。「よくヤるじゃないかクソビッチ。まるで手前のアナル・カントの臭いみたいだぜ」。因みにこれは褒め言葉なので皆も女性に言ってみよう。顔を真っ赤にするぞ。だから路花は銃を構えている。人差指に中指を絡ませた幸運を祈る「クロスフィンガー」のサインと親指で作った「L」の右手を左手で押さると、その人差し指に高光度のエネルギーが集まって来る。青方偏移する光が収束する。
「そしてコイツでトドメだ、撃ち抜け! 必殺、〈なんちゃって・RAYGUN〉ッ!」そう叫んで「ZAP!」と弾丸を発射した。その弾丸が荷電粒子か電磁波かその他様々な指向性エネルギー兵器(DEW)か、ぶっちゃけ路花にも不明だが、兎も角、文字通り心を込めた一撃は文字通り光速の速さで砂煙を突き破り、相手の視認と同時に正拳突きの何倍もの威力で相手の腹に衝撃した。建物の壁ごと撃ち抜いて、爆発と共に相手が落ちる。ダメ略「質量×速度×気合=無限大10d6+db」で略(参・〈MAキック〉2d4+db)。「告白の味と色はシンプルに、最強最速の想いで相手のハートを貫き砕け! コレがホントの『的を得る』ってな、イェァッ!」
砕いちゃいかんと思うんですが。まあ兎も角、路花は割とノリノリだった。嫌よ嫌よと言ってても、やるぞとなったら思い切ってできるのが路花の気前の良い所だった。
しかし路花は前提が間違っていた。「戦わなければ生き残れない」? 基本的に幾ら能力値が高くとも一番いいのを頼んだ装備でも邪神TRPGは戦闘するものぢゃあございません。好奇心は猫を殺します。聡明な愚者の行動です。ホラー映画における幸福な解答は「事が起きる前に逃げる」です。まあんな事すりゃ物語が起きんのだが。
しかし実際、てきのベトベターには「こうかは いまひとつの ようだ」。爆発によって四肢は吹き飛び、弾丸によってその腹に心地良い風穴があいてもビクともしていない。……もう一度言うが、ビクともしていない(Q.超能力はチートですか? A.いいえ、この舞台はそれより力を持った神や悪魔や異形達が踊る地獄変なので問題ありません)。それだけでなく相手は飛び散った灰泥の四肢を元に繋ぎ合わせ、ぐじゅるぐじゅると身体を生きた屍よろしく再生する。まるで泥人形を造るように、身体を組み直していく。この曇天のような濁った化物には、幸運と勇気の山吹色の波紋疾走でも効果あるかどうか。その事に付いて路花さん、如何思いますか?
「……『ばんなそかな』!」
言ってる場合か。
ご乱空から百千の火が降つて来る低い空はどく々しいバラ色に染められてミンナでお経をよんでいるアレは何だと思うアレが××の阿鼻叫喚という奴なんだあんな懐かしい声を聞いた事がないこの世の終わりの時しか××はあんな正直な声を聞かせない見える見えるあちこちで××が燃えている木の下石の下部屋の中裸のバラ色の屍が恥ずかし色の様々の裸裸川にも一杯ぎつしり詰まつて海の方へ海の方へ君の眼の中の方へ火が、火が、火が
相手から奇怪な言葉が放たれた。いや言葉というより音だろうか。口からではなく身体を震わせ音を出し、それは空気に満ちて大気を毒す。魂を犯す。脳が溶ける。眼が腐る。不可解にして無感情なのっぺりした言葉が意識の隙間に入り込む。頭が灰色の煙に満ちていく。汚水が身体に入って来る。溺れていく沁みていく汚される。
「な、ななな何ですかアレ、アレ、在ハ何、アレ何、アレ、アレ、あっ、あっ、あああaaaa?」路花の両眼が酷く濁った。泥水を呑んだように眼は汚れ光を失う「な、なか、へ、変でで、ケ、ケイさ、変でケイさ、助、助助、助ケイ、ケイさささささささ」
脳髄は灰色の煙にまみれ体中から汗が出て涎が出て酩酊し意識が折れ吐き気がする遺伝子を発火する強制命令私の魂は抗えない目が癩病景色が腐る呪い黒髪釘菩薩墓所赤帯三千里釘を打つ討つ釘を撃つ眼潰れよ眼潰れろ潰れよ眼死ねえ、死ね死ね死ね死ね南無阿弥陀仏、死ね死ね死ね死ね南無阿弥陀仏、死ね死ね死ね死ね、死ね死ね死ね死ねえ! 死ね死ねっ! 死ね死ねっ! しねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねえっ! ハイもう路花ちゃんのお眼々潰れちゃ
「路花ッッッ!!!!!」
ケイは怒声の如く大音量で路花の名を呼びつけた。その声に路花は血の滴る眼を見開いて我に返り、血を拭いながら振り返ると、それと同時に額に飛んできた拳大の林檎にぶち当たり、頭から地面に倒れ先程までの濁った意識は吹き飛んだ。ばたんきゅ~。
「真面目に聴くな!『狂ノ呪詞』だ、聞き流せ!」
林檎(店屋物)を投げ飛ばしたのはケイだった。微妙に焦げているが無事なようだ。観客の中から復帰して、路花同様呪いにかけられかけた者達にグレネードランチャーをぶちかましている。いやそれで正気に戻るかどうかは知らんが。え、無茶苦茶だって? それは奥さん、コラテラル・ダメージという奴です。目的のための犠牲という奴です。まあそんな事は置いとこう。だってケイにはそんな論議をする暇はないのだから。
「ムカつくぜクソッタレー! 調子にノんなよクソガキがあ! 手前はお化粧してゲイ刑務所にでもブち込んでやる!」
まあ戯言を飛ばす暇はあるようですが。つか言葉悪いな。兎も角、ケイはそんな言葉の悪い戯言と共に、灰泥に向かってグレネードを打ち込んだ。
しかし相手は流動する超高圧の灰泥を持ちあがらせ、爆弾をハエ取り紙よろしく食べてしまった。ケイはそれに些か驚いた。防がれた事にではない。知性が見えた事にである。それは硬度ではなく靭性の防御――ただ単に硬いだけではなく、ガムの様な、砂の様な、粘り強さを考慮した壁だった。そしてそんな防御の仕方をした相手は、ケイの爆弾をゆっくり溶かしながら咀嚼して、
「アハっ!」キェェェアァァァシャァベッタァァァァ!!!(お約束(何の)) 灰泥はその戯言に笑いで応えた。これは喜び? 楽しみ? それとも嘲り? いやこれは、これは、これは、「あは! あはは! あはははは! おけしょー? 何言ってるか全然解らなーい。それよりもぉ……ねえお兄さん、今度がお兄さんは……遊んでくれるのぉ?」
これは、狂喜である。狂いである。相手はファービーよろしくモルスァる。
感情の無い能面の笑みを張り付けて、酩酊した首の座らない赤子の様に身体を揺らし、焦点の合わない泥々に濁った曇り目で、自分が気が触れていると気付かないまま気が触れていた。その狂気は心体を溶かし、溶けた灰泥が相手の周りに海の様に広がっていた。その海からは悪魔の様に黒い触手が伸びていた。まるで気持ちの悪いアテン神である。あてんあてーん。まあそもそもアテン神自体が気持ち悪いが。因みにアテン神とは砂漠に浮かぶ海月の神であり、バックベアードとは裏表の関係である。ペットに太陽神ラーを飼っていて、その脇の油から採れたのがラー油である。なお、「星の王子さま」はオバQみたいな神様であるメジェドに大きく影響を受けているとされる。嘘である。
しかし観よ、彼の者を、何ともあどけない顔ではないか。相手は純粋に無垢であった。そもそもソレを狂いと見なすのは、狂っていない者である。ましてや狂っている者から見れば、常人こそが狂いでは? 正気とは何ぞ? 否、正気など無い。一千通りのKITI☆GAIが在るだけ。人類は皆精心患者なのですスカラカチャカポコチャカパコパコパコ。
「おっと、何だ、喋られるのじゃないか。なら平和的に行こう。初めましてこんにちは。俺の名前はケイ・ジッポ・駆乱芸。君の名は?」
「我を夢見る泥人形(Mud doll)ぉ~♪ お好きな食べ物避妊錠(OC pill)ぉ~♪ お家にズッコン♪ お外がバッコン♪ それ見た父親『俺も!』と発狂(Mad doll)ぉ~♪」
「自己紹介にリメリックか! ちと下品だが、狂乱のくせに頭は良いね。けど頭の良い奴は嫌いじゃないよ。だから冷静に考えろ。ランナーは法を問わない。故に其処に罪と罰は無く、ただの気分で殴りもすれば優しくもする。で、俺は紳士的だ。大人しくお兄さんに着いてきてくれれば、お菓子とミルクでもやるんだが。それか『Flesh Flute』とか『Meat Bar』とか……解るかな、『LOVE CHILD』? アスペっぽい『天才教授の生活』のネタだけど」
「知らないお兄さんはぁ、着いて行ってにぃ、いけまぁ~せんっ! クスクス♪ それよりも、ねえ、遊びましょう? 私な一緒に溶け合って、お利口をお人形さんがしてあげる」
「おいおい、それでいいのか? 俺は遊びにも手加減しないぞ。少年漫画じゃあるまいし、我等には言葉があるんだ、もう少し話し合おう。落ち着いて?」
「弱い犬程よく吠え~る。無意識を己が力に限界の知る者に、パンク・ロックよろしく声だけを大きく強く魅せる。喋る前がつーくつばぁんくからにしょぉだうぅん! 経済学者は語るが過去にて、汝をムーンウォークの申し子か否や? 両人の答えが、ポウッ!」
「可愛いね。『Idea』な『Idiot Beauty』だ。その心は、知恵の実を喰わぬ女、か? 強者の飼主が弱者の小犬に感じる性欲だ。思わず助けてあげたくなる。ま、俺は手前の助けもなく輝く太陽が好きだし、灰泥は黒くて白じゃないけどね。
だが俺は別に自分が強いだなんて思っちゃいないよ。特別な主人公とは思わない。けど仕事だから仕方ないんだ。そうだろう? 嫌でもやらなくちゃ金が貰えんし、俺以外にやらせるとやはり金が貰えん。英雄でなくとも、自分でやらなきゃならん。
それに、だ。Lv.1のスライムでも、逃げずにLv.100の勇者と闘うんだ。仕様上の問題ではない。人生とは逃げられない闘いの連続であり、逃げていては強くなれん。そして例え負けると解っていても、いいか、『だがな、勝つ望みがある時ばかり、戦うのとは訳が違うぞ! そうとも! 負けると知って戦うのが、遙かに美しいのだ!』」
「貴方が価値観なんてどうでもいいわ。死にたいなら死ねば? 私を遊びたいのだけど」
「Huh! 下手な言霊は効かんか。我が儘なプッシーだ。だが、然り、だな。解ったよ。ツマラナイ話をしてごめんな。ならばお望み通り、今からねっとりじっくり手取り足取り遊んであげる。手始めにお医者さんゴッコでもしましょうか。ただしやるのは外科手術で、その患者は……お前だあッ!」ケイがランチャーを相手に向けて手加減無しにうっちゃった。ソレ等は正しく相手に当たり、周囲を敵味方識別(IFF)なしで吹き飛ばした。「Huh。どれだけ泥を吹くか知らんが、限界くらいあるだろう。足腰立たなくしてやるッ!」
その営みはとても激しくて燃え盛るようにお熱くて、あまりの凄さに身体は煙に隠れた。ただの人間なら跡形も残るまい……だが相手はただの人間では断じてない。相手は何やら真ん中に星の付いた盾を構え、ケイの攻撃を防いでいた。その間に相手が上空に何やら柄の短い槌のような物を投げたかと思うと、その鎚は光って白い雷を放ってきた。ケイがそれを避けている間に相手は千切れた腕をぞりゅんと生やし、ケイに向かってゴムの様に伸ばして来る。しかも腕はソレだけではない。己の周りに造った灰泥の海から、幾つもの人型の腕が狙ってくる。
「『同じ技は二度通じぬ』!」しかしケイはそう言って、ソレ等を容易く断ち切った、かのように見えた、いや見えなかった。「うおっと!?」と、ケイは見えない何かに縛られた。太い縄、いや腕か? ケイの腕ごと縛り上げ動きを止める。更にその見えない何かは発火してケイの身体に火を付けた。「アッツイ!」
全身火傷を「アッツイ!」で済ませられるものなのだろうか。燃え尽きるほど上手にヒートされて全身モザイクになってるが。豚の丸焼きよろしくこんがり焼けて解体して盛り付けしてディナープレートの前で沈黙した羊たちがコーラを飲みながらカーニバルするが。
「すごいすごーい、よく生きるね! じゃあ今度を……コレっ!」
と相手は腹からアイアンな男の武器を次々生やしバレットやミサイルやレーザーを撃って来た。ケイはそれ等を縛られたまま何とか避ける。だがその脚はすぐに動かなくなった。謎の白いネバネバで地面に縫い付けられていた。いやイカ臭くはない。これは、蜘蛛の糸?「星の盾」に「稲妻の槌」に「伸びる手」に「鉄の武器」に「蜘蛛の糸」……何だかデジャブを感じる。何だっけ。それはとてもメジャーなはずのだが、あまりに鮮烈過ぎて事態を呑み込む常識というなの超自我がちと落ちてしまったようだ。
そんなケイの思考の間にも、更に相手は背中から二対の腕を生やす。その腕は右が石で左が緑。両方とも巨人の腕。しかしケイは身動きできない。路花が「ケイさん!」と叫ぶのと相手が「そぉい!!」と腕を振り降ろすは同時だった。地面が大きく凹んだ音がして、一陣の砂埃が晴れた後、そこには潰れたケイが……いなかった。ホシフルイが自動で伸びて二対の腕を支えていた。しかもケイの火傷が治っている。
だが徐々に押されていく。ホシフルイ単体では力が余り出せないのか? 兎も角、ケイはホシフルイに腕を支えさせながら、同時に自分を縛る何かを斬らせ、腕の攻撃圏内から脱出した。腕がケイが先までいた場所を殴りつける。斬れたナニカは透明な姿を現し、それはケイの思った通り腕だった。ビチビチと蜥蜴の尻尾の様に跳ねるのがキモい。それを見てケイは肩をすくめて合点がいく。何処かでデジャヴを感じていた事に。
「おいおいおい、何だそりゃ。DC社かMarvel社の回し者か? お道化やがって、化かすだけに『莫迦し』てるな。ははあ、しかも姿形だけじゃなく技術や能力まで真似っこか。こりゃまた凄いモノマネ芸人だ。時にソッチのヒーローとくれば市民の差別にもめげず市民を助ける黄金の精心がお約束ですが、ありゃよく解らんね、だって本当にそんあ差別が在るのなら、俺達ぁそんなヒーローが出てるCOMICなんて買わないぜ!? ま、エンターテインメントなんてそんなものですけどね」
「何言ってるかよくわかんない」
「あっあー、まあ解んなくていいよ。大人になると頭でっかちになって、無駄な台詞ばかり多くなるんだ。手前はちゃらんぽらんに生きてるくせに、誰かにはちゃんと真面目に生きて欲しいと思うんだな。でも俺は思います。戦後な昔の人は自分自身がロクな大志も根性も無いくせによく前後の文脈を無視して『Boys, be ambitious』なんて無責任に連呼したもんですが、そんな事を言うくらいなら無謀な幸福を願って『May Gosh be with ye』って祈ってた方がマシだとね」
「世界は広がって自分の矮小さは気付いて、声だけも大きく魅せたくなるはね♪」
「あっはっは。手前、バターまみれにして野良犬の群れに放り込んでやる」
そんな大人げない事を言いながら、ケイはすぐさま相手の二対の腕を跳び越えて、剣にしたホシフルイで相手を一刀両断にした。いや待て、両断だと? それはあまりに手応えが無さすぎる。ケイがそれに瞬間で気付き跳び退いたのと、相手が無数の蝙蝠となって弾けたのは同時だった。ケイは剣で蝙蝠を斬りながら後退する。しかし蝙蝠はケイを超えて、その背後で待ち伏せていた。蝙蝠は徐々に形を成し、ケイの着地と共に現れるはマントを羽織った時代錯誤な全身タイツ。アンパン男? NO。ソイツは一等スーパーな男。コイツが殴ればバイキン男など吐瀉物の様に砕け散る。そこから放たれるパンチの威力は80万t、実に世界最大の戦艦YAMATOの十一倍超であ……え、何それ意味解らん。
「ラグランパンチッ!」
ケイは顔面に最大級のビビりを見せながらすんでの所で回避した。しかしその威力は絶大で、例えるなら超音速巡行する戦闘機が文字通り目と鼻の先カッ飛んだような衝撃波が……いやコレ普通に死ねるって。99割死ねるって。
ケイは瓦礫や観客が吹き飛ばされる中を、ホシフルイを地面に突き刺して防いだ。全く、何という威力だろう。コレだからあの世界のヒーローは恐ろしい。まるで歩く核弾頭である。成程、メリケがヌーク色のメテオ廃止に臨むわけだ。彼等がいたら世界から兵器が無くなる事もそう遠い未来ではないだろう。「星の自転を逆回転させて時を戻す」って何なんですかね? まあそんな事言ったら空飛ぶ時点でアレなわけだが。いやもっと恐ろしいのはその伝統的な古さと「とりあえず派手に行こうぜ」なお国柄からなる設定の緩さだろうが。でえじょうぶだ、アメコミ脚本で生き返る。ギャグ漫画なら原子爆弾だろうが隕石だろうが蹴っ飛ばす。ハピツリなら死んでも来週で完治する。TPOによりその設定は神話の様にコロコロ変わります。パロネタだって制圧射撃です。ヤパーナのインフラなんて可愛いもんさ。まるで神話か聖書の様です。首をもがれた勝利の女神です。微笑むとかそんな噺ではありません。そこに笑顔を見られるかどうかは貴方次第です。神に「いのる」コマンドをする己の限界が神の限界と知りなさい。第四の壁をトンネルしなさい。
「クソ、おい路花大丈夫か? 路花!」返事がない。何処かへ飛ばされたようだ。(しかも瞬間移動で戻って来ない所を見るとどっかで伸びてんな。全く、あの子はもう……)
やたらめったら凄いが根本的な所で抜けている、大きな力を持つ者の典型的な短所だ。難度最上級大学教授レベルの数学者なのに四則計算が出来なかったりC言語バリバリ使うくせに英語は天で喋れなかったり……この例えであってるか? まあそれでもあの娘は育て親がいいのか他の異能者に比べてまともだが……まともっていうのは偏見だな。
それに、ヘルプに行かなかった自分にも責任はあるか。超能力者とはいえ、決して年齢で生物の優劣が決まるわけではないが、やはりまだほんの子どもである。面倒でもちゃんとフォローせねばならなかった。同情ではない。ただメリューに任せれたのだから、仕事だから、やらねばならないというだけだ。
(ま、そんな言い訳も、一先ず前を片付けてからだな)
と、ケイは棒を構えた。ゆっくりとした動作だが、何もこうやってケイがグダグダと考えている間、COMIC空間よろしく時間が止まっているワケでも高速言語を喋っているワケでもない。相手の灰泥が動かなかったのだ。というのも、
「あは、あはははは、はは、は……? あ、あれ、可笑しぃな。なを、コレ……?」
灰泥の身体が壊れたくるみ割り人形のようにガタガタ震え、痙攣していた。「腐ってやがる、早すぎたんだ」とでも言うようにアイスクリームのように溶けていた。
「どうしたんだ、Hey Hey Baby? コッチのバッテリーはビンビンだぜ?」とそれを見て鼻を鳴らす。「所詮は海賊品か。凄いと思うが、尊敬できないな。幾ら力を真似てみせたって、心意気までは真似できないよ。尤も、言葉が変わる様に、派生も原典より有名になれば派生が原典扱いされるのかもな。地味な神話は派手な漫画により煌びやかに……寂しい事だ」そう、ケイは皮肉気に肩をすくめた。「リバウンドだ。流石に英雄の魂は餓鬼の身体にゃ荷が重すぎたらしいな。力はあるが、使い方がなってない。幾ら機能が優れていても、本体が熱暴走しちゃ様あない。自分の許容量を知らない様じゃ、自分の熱で溶けちまうぞ」
「真っ赤な情熱に私が焦がす。憧れる故を愛焦がれ……ふふ、ふふふふふ…………」
「狂ったか? 他の存在を取り込み過ぎて、己の存在が混濁、希薄したか。新しい己は忘れさせる……昔の自分を。『鏡像段階論』は結構だが、『摂取』や『同一視』ばかりじゃロクなものに成れないぞ。結局はその空虚に嘆く事に成る。ましてやどれだけ模倣しようとも完全にはソレに成り切れず、その違いが心を擦り減らす。自分以外の誰かになど、そう簡単には成れやしな……」そこまで言って、ケイは頭を振った。また小難しい台詞を言っている。「えーと、つまりだな。『自分の感受性くらい自分で守れ』という奴だ。お好み焼きのレシピくらい自分で考えろという事だ。いや、そりゃ上手い先人の手本があった方が効率はいいのだろうが、折角のその性質だ、もっと自分の思うままに、自由にやってみろよ。ありきたりだが、生きるってそういう事だ」
「ならば私を馬の耳がなってみよう、そのようなツマラヌ聞き飽きた台詞が言うのなら。『自由』など責任放棄と商業主義の下、支配者は体よく造られた観念だ。お前を一体、何処は行く? 地図におろか目的地さえないというのが、何処は行っても居場所をない。夢魅入る余りに夢魅入られる様に、自由を求めるあまり自由に縛られた愚か者」
「ふん、言えるじゃないか。しかし戯言とは解せませんな。例えそれが偽物でも、ソレを素晴らしいと感じる心は本物だ。誰だって、誰かによって個性を造っていき、己の正義を行くのだから。故にその誰かである俺は問おう。お前は一体、何がしたい?」
「楽しい事!」
「『楽しい事』か。それもいいな。それもまた哲学だ。哲学があれば誰もが人だ。そして者は色々語るものだが、楽しいかどうか、『好きか嫌いか』、それもまた一つの〈法〉だ。だがならば覚えて置け、他者の事を考えぬ楽しみは自己満足と同義だと。それに嫌がる者がいるのなら、誰かがきっとそれを止める。
だから、なあ、そろそろ止めにせんか? ちょっと同情したくなってきたよ」
「そんな→説教→馬の耳!」
相手は灰泥の槍を先行させ、その隙間をケイに向かって突進した。手に生やしたアダマンチウムの爪で、ケイの身体に跳びかかる。
「だから無駄ァ!」しかしケイは逆袈裟でソレを容易く叩き折った。「クールだね、ステキだね。ああそうかよ、それでも来るか。ならばコッチもビジネスライクだ、その想いに受けて立とう。受けて、なお立とう! ……チェッ! ムカつくぜクソッタレー!」更に返す棒を剣にして、相手の身体を袈裟斬りにする。すると……「うおおっ、『赤帽子』!?」
長い髭、燃える瞳、鋭い歯と爪、醜悪な背の低い老人の姿、そしてドス黒く染まった真っ赤な帽子。「Schneeweißchen」の小人達を悪夢にしたような妖精が、斬り裂かれた腹から蛆虫のように産み出された。それ等は血で赤錆びた斧を持って、甲高い笑いと共にケイを襲う。対してケイは棒に戻したホシフルイで景気よく鼻面を叩き飛ばす。弱い。次に来たのは炎と氷、肩から生やした「提灯南瓜」と「霜男」が各々の属性の魔力をぶつけて来る。それをケイは躱しつつ、ヘッドショットで相手を撃ち抜く。ならばと今度は技術革新。ソイツは機械技術が発達した故に現れた現代の妖精。「科学が神を殺す」とか半可通な知ったかはコイツを見ろ。科学が世界の総てをラプラスする全知全能の神と思い込む無意識の信仰者は世界の広さと深さを知れ。根拠の無い万能感に浸るさとり世代の小学生よお前は世界を舐めている過ぎだ。知識の先には常に無知が在り、物語の先には常に沈黙があり、光の先には常に暗闇が在る。神秘は無知に在るのではない、知識の影に現れるのだ。彼の名は「妖精霊類・悪戯霊族・機械弄種」のグリムなビール飲み「不機嫌小鬼」、相手の膝からからくり時計よろしく頭を出してマイクロミサイルを撃って来た。お前は「004」か。ピカ(※異食症の事です)にやられん内に殺しておこう、とミサイルを撃ち爆破させ、更に膝ごと小鬼を撃ち抜く。すると今後はKAMIKAZEとでも言う様に、相手の服の中から幾匹もの「火鼠」を這わせ出し、「火車」になった両腕がそれを追う。全く持って、道化てやがる。ケイは文字通りの鼠花火を銃で撃ち抜き安全に処理し、火車の方は横から棒で車輪を叩き壊す。すると今度は背中から骨を出して来た。複数の骨から成る巨大な身体を鎧で包んだ、餓者ならぬ「武者髑髏」である。しかし所詮は骨の塊。棒で軽く打ち付けると簡単に砕け散り、それはグルグル回って相手の上半身にぶつかり、下半身を引き千切った。
しかし相手はケタケタ笑う。置いてけぼりにされた下半身はテクテク歩き、千切れた上半身とぐちゅぐちゅ合わさる。まるで細胞一つ一つが生きているかのように再生する。うん? 何か言葉が可笑しいな。そりゃ細胞一つ一つは生きてるだろうさ。けどもあれは、何というか……まるで巨大な蜂か蟻の群れの様にも思えて……。
それを見てケイは「チェッ!」とやった。その様は飽きれた様でもあった。
「全く、ちったあ痛そうな顔しろい。身体が拒否反応起こしそうだ」
その気味悪さを例えるのなら「The Evil Dead」や「Day of the Dead」などの恐怖映画特有のゴム感溢れるゴア表現。ゾンビが「NOM NOM」しているような捕食シーン。単なる痛覚み恐怖では決してない。そこにあるのは共感嫌悪、或いは日常から何かずれた「違和」である。階下の暗闇に気配を感じる様な、ドア越しの殺した息遣いの様な、シャワーに眼を瞑る時に感じる寒気の様な、廊下の先に何かいる様な、人形の視線を感じる様な、暗い天井で何か動く様な、ベッドの下を覗く様な、TVの画面を超えて来る様な、境界線を越えてくるあの感じ。日常が侵食される、あの感じ。幾ら斬っても叩いても潰しても、ソレは一向に「痛がらない」。まるで手首の骨をゴリゴリする様な気持ち悪さ。緑に浮き出る血管に爪を立てる様な不気味さ。小指を思わず圧し折りたくなる様な不安さ。眼玉を鉛筆で突き刺したくなるような衝動さ。正気度が削られるとはこの事である。自分が人を象って居る事を忘れちゃいまいか?
「普通の生物ならどれだけ強くても大きくても急所が在る。RPGじゃないんだ。HP100とかじゃないんだ。どれだけデカい生物だって、銃か鉛筆で頭か心臓を抜かれたら一撃で死ぬ。だが、コイツァ……お前痛くないのか(Do you have a pain)? 別に手を抜くつもりも同情するつもりもないが、俺は殴られて焼かれて滅茶苦茶痛いぞ?」
「『絵の具(Paint)』? 泥ならあるよ(I’m Mad Mudder)!」
「君ねえ……」
愛嬌があるのはいいけどね、とケイは小首を傾げ棒で肩をトントンと叩いた。全く持って出鱈目てやがる。痛覚は無くとも、ダメージがないワケではないだろう。実際、叩いて斬れば灰泥が飛び散り容量が減っている。すぐさま再生といっても、流石に無から有は造れない、そう信じたい。しかしコレは疲れるな、小休止くらい欲しいものだ。
だが相手はそんな遊び相手の気持ちなど露しらず、全く待つ気はないようだ。両手を上げて可愛さアピール狙いながら、次のおもちゃをこんな掛け声と共に出して来る。
「行け、ぽんぽこ軍団! そいやっさあ!」
周囲の灰泥の海をからそこから幾つもの泥を上空へ打ち上げたかと思うと、そこから何匹もの「狸」が落ちてきた。……何故そこで狸? そんな聴衆の疑問の中、狸は「オギャー!」と「子泣き爺」よろしく隕石の様に降って来る者があれば、傘をさして降る者、白徳利に化けて落ちて割れる者、他にも禿げていたり兎だったり様々に降って来た。それ等をケイは律儀に殴打という名の対応をする。しかし少し数が多かったか、それともあまりに莫迦莫迦しい風貌なので油断したか、ケイは最後に自分の背後に降って来た狸に気付くのに遅れた。それでもケイは素早く反応し、棒を構えて勢いよく振り返った。そこには首を吊った狸が居た。応っ!? それに対しケイは一瞬だけギョッとし、しかしすぐに「弩阿呆っ!『首吊り狸』は手前じゃなくて相手を吊らせるんだよっ!」とホシフルイでホームランよろしくツッコんだ。
「全く、お道化やがってこの暗黒物質のビックリ箱が。そんなものまで出せるんだな。強さ自体よりソッチの方が問題だ」どんどん大袈裟になっていくその姿は、かくも『小さな王』か『夜の鳥』か。まるで遊びだ。子どもの遊びは何時も前置きなく始まる。物語の魔王と英雄の最終決戦の様に、お膳立てなどありはしない。演技など考えない、くるくるパーの天然だ。「カッ! ディックとカントが両方備わり最強に見えるってか、ベイビーメイカー。しかしどちらもヤる事は一つ。FACK YOU! 手前みたいなクソニガーは、棒を突っ込んで精子バンクにしてやる。『Yippee-ki-yay, 』 fatherfucker!!」
ケイはニヤリとして言った。ホント口悪いなコイツ。それを真似るように泥人形は口元に感情のない笑みを張り付けて、幸せなら手を叩いた。
――Hail, Holy Queen enthroned above, O Maria!
――Hail, Mother of mercy and of love, O Maria!
――Triumph all ye cherubim! Sing with us ye seraphim!
――Heaven and earth resound the hymn!
――Salve, salve, salve, Regina!
そして両の手を地面に開くと「瘟(AUM)!」と灰泥が溢れ出た。それはタールの様に粘ついていて、足元に小さな海と広がった。するとその指一本分の深さも無い海から、幾つもの生命が、泥人形が立ち上がる。眼や口はおろか髪さえも一切無い黒一色ののっぺらぼう、影法師、どれも腐ったにこごりが黒いゴミ袋を被ったような姿である。或いはアレ、肥った白い長靴下、古き懐かしきタオルケットお化け。タオルケットをワンモアー。憶えとけ。俺達のたったひとつの取り柄は、姿を消すことだ。ソレ等は各々自我を持ち、「Swimmy」よろしく主人の黒い灰泥を起点として魚の群れの如く襲って来る「ヤァ!ヤァ!ヤァ!」。おお、乙女! 我等が麗しの貴婦人。野の果てに嘆こう乙女が祈りを、憐れと聴かせ給え。御許に安らけく憩わしめ給え。そして現れるはハッピーツリーならぬ余分三兄弟の化身ハッピーミールトーイ。さあ、おもちゃがチャチャチャと観兵式しながらクッキングの始まりだ。先ず、片栗粉と遊星からの物体Xを用意し
「お次を乱闘プレイに行きましょうか」
妖々とした笑みでそう言った。幼々とした笑みだった、それでいて大人の様に艶めかしいのだから、それは何とも歪んだ卵だった。幼くして性に悦ぶ病女の様に、逆に大人のままになお夢を見る叡痴の様に蠱惑だった。そのアンバランスさが悩ましくイケない罪を犯している気分にさせ、その罪で蜜は増し、その罪はまさに気分次第なので、黒い蜜は何処までも溢れ出し、蟲は身体中を這い巡った。
だが所詮は児戯。大人なら、付け上がらないようその顔を歪ませてやるのが義務か?
「Huh!『マトリックス』のエージェント100人抜きぢゃあるまいし、人形が人形遊びとは尽くイマジナリーフレンドだな。一人遊び(オナニー)で友達100人できるかな、だ。自己満足はティッシュにでも包んとけッ!」
ケイは棒を腕輪状に戻し、泥人形の群れに向かって走った。どうやら素手喧嘩で応じるつもりらしい。気取りか? まあ少し調子に乗っている節もあるが、応えは否だ。
ケイは冒頭から地水風炎をぶっ放しているが、それはケイ自身の能力ではない。それはホシフルイの「変身願望」能力のおかげである。是の使用者は感応、つまり心の動きを是に込め、時に姿を変化させ、時に相手に向かって叩き込むのだ。故に物理的な存在には勿論、霊的な存在にも有効である。それだけでなくその能力はケイの体力回復や再生にも使用され、また能力を増強させる為やホシフルイ自身の再生にと様々な仕様が可能であり、それ故にケイは飛んだり跳ねたりの大道芸が可能なのである。即死や内臓などの難しい器官でなければ全身火傷や腕の一本や二本はまあ再生できる(尤も痛覚はまた別の話だが)。無論それには元となるエネルギーが必要でありそれは大気や地面といった空間やぶん殴った相手やケイ自身などから補っている、らしい。らしい。そして武器形状を解除する事により、そのような後方支援に専念できるのだ。ただホシフルイが無くとも決して弱いワケではない事は彼の名誉のために注しゃ
「泥人形の本体はまだしも、派生作品に道徳は必要かな? そんなグロい見た目じゃあ同情は得られんぞ? まあコッチを喰う気で来るんだ、それなりの覚悟はしてもらおう!」
「汚れ物がしてあげるっ!」
ケイが灰泥の群れに走って行った。泥の胎児は母親の心を恐れ踊り狂う。今こそ青空に向かって凱旋だ! 絢爛たる紙吹雪は鳥居をくぐり周波数を同じくするポストと冷蔵庫は先鋒をつかさどれ! 賞味期限を気にする無頼の輩は花電車の進む道にさながらシミとなってはばかることはない! 思い知るがいい、三角定規たちの肝臓を!さぁ、この祭典こそ内なる小学3年生が決めた遙かなる望遠カメラ! 進め! 集まれ! 私こそが、御代官様! す愚だ、すグにもダ。私をムかえ挿レるのDA! 幻想などやめて早く目覚めよ
目覚めよッ!
ケイは勢いよく跳び上がりサーカスの様に身体を横回転させながら縦転し相手に向かって蹴りかかった。そして近くに入る相手から殴る蹴るの連打連打。力任せに一撃で吹き飛ばす。相手に向かって跳んで三回転してから蹴り飛ばし、次の相手の拳を避け腰を落として腹を連打しアッパーで殴り飛ばし、次の両端から来た二相手を跳んで同時に蹴り、その反動で跳んで次の相手を蹴り、またその反動で跳んで次の相手に蹴りを入れ着地し駄目押しで踏みつける。次の相手を走りながら無造作に殴り砕き、次の相手が多段で殴ってきたのを手で捌き大振りで蹴って来たのを屈んで避けながら右回転後ろ蹴りで顔を吹き飛ばす。次の相手に走り込み相手が迎撃しようと腕を振り上げた所で急加速してタイミングをずらし相手が攻撃するよりも速く殴り飛ばす。次の相手の蹴りは跳び上がって建物の看板にぶら下がり避けその看板を千切って相手に叩き付け、次に蹴り上げてきたのを受け止めその反動で後方に跳び後方にいた相手を蹴り、蹴った相手を蹴り上げてきた相手に蹴り飛ばす。次の後方から来た相手を回転後ろ蹴りで飛ばし、次の相手がゴミ箱を蹴って来たのでソレを避けると後方にいた相手に当たり勝手に倒れる。次の相手を殴っている最終に相手が蹴り込んで来たので後方に避け二相手とも蹴り飛ばす。次は先に蹴飛ばされたゴミ箱がまた蹴り飛ばされてきたので今度は蹴り返して相手に当てる。次の連続した蹴りはその時に外れた蓋を手に持ち防ぎ、次を蓋で頭に叩きつけた後、次をフリスビーのように投げ顔に当てる。次の相手を屋台から失敬したラーメンのような何かを相手にぶつけ怯んだ所に跳び蹴りし、屋台の上に飛び乗ってそこから跳び蹴りする。次の相手がベンチを振り回してきたので別の相手の脚を引っ掴みソイツではじき返し怯んだ所でソイツを腹に叩きつけた。次の相手に向かって顎を膝で撃った後もう片方で更に蹴り上げ倒れた所を蹴り上げの勢いでバク転しながら踏みつけ更に前転して頭を踏み潰す。次に殴って来た相手の腕を掴み引き寄せて肘打ちし怯んだ所を頭を掴み地面に叩き付け踏みつけ、次の殴りを回転蹴りで迎撃し、次の殴りを身体を後ろに逸らし避け両手を地面につけ跳び上がるように両足で蹴り飛ばし、次の殴りを軽く躱し首の後ろに肘打ち、次の背後からの殴りを目で見ず裏拳し、次の殴りの拳を右手で取り踊るように左回転で位置を変えると共に鉄山靠で吹き飛ばす。次に来た相手の膝を砕き自分の膝を顔面に埋めた後、後方から来た殴りを膝を埋めた相手の頭に乗り躱した後蹴り飛ばし、用済みになった足場を蹴り飛ばす。次の殴りを背負い投げし、次の殴りも投げて壁り叩き付け、次の蹴りをバク転で回避し次の蹴りを潜って回避相手がコチラを向く前に反転して回転蹴りで電灯に吹き飛ばす。次の相手の顔を殴るとその反動を利用して回転殴りをしてきたのでその殴りを受けてコチラも回転し殴り飛ばす。次に殴ってきた相手の腕を掴んで投げ飛ばし跳び上がって斜め下蹴りを食らわせて怯んだ所を裏拳で飛ばし、次の宙で二段蹴り上げを手で捌き更に上下の回転蹴りを屈んで跳んで避けるのと同時に回転蹴りで吹き飛ばしそれでも立ち上がろうとしてきたので走りながら無造作に空き缶蹴り(チンピラキック)で止めを刺す。次の相手を膝で顎を砕き両手で拳を造り頭を強打し左右の拳で左右の頬をワンツースリーし間髪入れず肘打ちして裏拳に繋ぎ左足で腹を蹴った後同じ足で顔を蹴りかかとで蹴り上方に蹴り上げて空中で蹴り飛ばす。次の二相手が片方の肩を踏んで跳び蹴りしてきたのをコチラも蹴りで迎撃し、もう片方が走ってきたのを回転気味に右で殴りその次を回転を続けて右で蹴り飛ばす。次の相手は自身の腕を槍の様に伸ばし硬質化して殴って来たのでそれを蹴りで相殺しもう片足でバランスを保ちながら相殺した脚で何度も蹴り最後はもう片方の脚で回し蹴りした。見ると相手等は自身の身体を変形させ武器とし始める者達がいた。なので相手が剣を振りかぶった相手に振り降ろすよりも前に速く突進して吹き飛ばすと同時にその剣をもぎ取った。背中から振り降ろしてきた相手の剣を背を向けたままもぎとった剣で何度か防いで弾き、横から来た剣を屈んで避けると同時に腹を断り、立ち上がる勢いで灰泥の剣を背中に居る相手に突き刺す。次に斬りかかって来た相手を斬り抜けて背中から右手で左回りに半回転斬りし途中で左に持ち替えて裏斬り。次を縦に斬り降ろし返す刃で右回転しながら斬り上げ浮いた所を切り抜けた。次に斬りかかってきた相手に剣を投げつけるが屈んで避けられて後ろにいた別の相手の頭に刺さり、避けた相手は顔を上げようとした所をラリアットで吹き飛ばす。次の相手は棒を突いてきたのでソレを避け柄を持ち相手ごとジャイアントスイングし別の相手にぶつけながら最後は地面に叩き付け棒を奪う。次の相手に無造作に棒で薙ぎ次も次も薙ぐ薙ぐ薙ぐ。次を頭に一撃更に返す棒で顎を砕き、次を棒を地面に立て支えにして両足で蹴り飛ばし、次が剣を連続で振って来たので棒で防ぎ力を入れて剣を飛ばした後連続で突き、後ろから来た相手を望の反対側で突き腹を薙ぎ飛ばす。次の相手が走って来たのでコチラに着く前に棒を投げ跳ね返ったのを空中で掴み頭を叩き日んだ所を連続で突いて腹を二三度薙いで棒を回転させた後思いっきり頭を叩き付ける。ケイは更に強化する。ホシフルイの一部を拳にする。一撃粉砕とばかりに相手を殴り豪快に次々と殴り飛ばす。二体三体まとめて吹き飛ばす。跳び蹴りしてきた相手に跳び殴りし、相手の殴りを素早く後退&再接近し殴り飛ばし、斬りつけてきた剣ごと相手を殴り砕き、首を掴んで握り潰し、腹を貫き、地面に叩き付け、更に格ゲーの必殺モーションよろしく拳を打ち付けて発火させ相手を打ち上げた後壁に殴り飛ばしそこから連打連打連打連打連打連打最後は大きく打ち上げた後その場で滑るように超信地旋回よろしく無限軌道が如く独楽の様に高速で回転し相手が振り被ったのと同時に雄牛の様な一撃で粉砕した。更にケイは加速する。ホシフルイの一部を脚にする。物凄い速さで駆けて行き相手を追い越して視線が追いつかない相手の背中を強打し振り向くのと同時に後ろに回り込み殴り吹き飛ばし飛ばした相手に追いついて左右のワンツーから右足で蹴り飛ばす。両手を地面に付けて回転蹴りし、片足だけで何度も蹴り、相手の首に脚を引っ掛け膝を食らわし、蹴り上げた相手を踏みつける様に斜めに落ちて地面を滑り、無造作に走って行って蹴り飛ばし、相手の首を蹴り裂き、裂いた頭を相手に蹴飛ばし、飛び蹴りしてきた相手より高く跳び踏みつけ更に格ゲーの必殺モーションよろしく脚を発電させ相手を蹴り上げた後軸足を交互に変えながら何度も回転蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り最後は大きく蹴り上げた後相手が地面に落下すると同時に跳び上がって回転かかと落としした。すると残りの相手が集まりケイの五倍はある一つの巨大な相手になった。おっと、とこれにはケイもビビった。巨体が地面を殴るだけで混凝土が割れ地面が揺れる。それでケイが身動きが取れなくなりその隙をついてケイを蹴り飛ばした。すぐさま反撃し跳び蹴りするがビクともしない。掴まれて地面に投げつけられる。更に両手が振り降ろされるのを跳んで避けるが体当たりで吹き飛ばされ蹴り上げて来る脚を跳んで伝って顔に蹴りを入れるがこれも効果ない。掴まれて壁に殴り飛ばされた後落ちる所を体当たりで更に壁に叩き付けられる。更に使われて地面に叩きつけられて巨体の脚に踏みつけられた。何度も何度も踏みつけられネリネリされ更に摘みあげられて上に投げられた。巨体はその巨体に似合わない程の身軽さで跳び上がり両手を一つにして振り降ろしケイを地面に向かって投げつけた。そのまま地面に叩きつけられる、とその前に此処で戦線復帰した路花のアシストが発動、ケイが地面に叩きつけられる前にケイを巨体の上に跳躍させケイはホシフルイで造った巨大槌で巨体を叩き飛ばした。斜めに吹き飛んだ巨体は地面に跳ね返りそれを更にケイ達が跳び蹴りで迎撃し観客や通行人を巻き込みながら巨体を地面にやすりのように滑らせて蹴り上げそこから跳躍した路花とケイが追撃ケイがホシフルイを剣に変え左右に連続跳躍で細切れにする間に路花はKA―ME―HA―ME―と力を集中し最後にケイが剣を槌にし打ち上げると同時に路花がHA―!と指向性のある力場で細切れになった巨体を木端微塵に消し去るという格ゲーの様なコンボを決めた。
あー疲れた。もぅマヂ疲れた。これで終わりだ。ざっと百人抜きか? 間髪入れない流れる舞踏。まるで無双アクションだ。数は多いと言えど所詮はできそこないの廉価版か、戦隊ヒーローに対する雑魚敵よろしく呆気なくケイとホシフルイに張り倒され、千切れた身体から内臓を模した泥が生ゴミ袋のように撒き散らされた。まさにルール無用の残虐ファイトだ! しかしホシフルイの支援があるとはいえ、尋常ではない体力である。少なくとも気力と集中力はケイの自前である。
そんな演舞を見て周りからは「Phew! Killin' it!」「Satujin!」「Jackie Chan!」「Bruce Lee!」「Bouningen!」「Xiao Xiao!」などと歓声が沸く。他者に毒されていないリアルタイムの生の感想。ちょっと心地良い瞬間だ。
「Huh! 良いノリじゃないか路花。ナイスアシストだ、中々の名役者だ! 全く、口付け(キッス)してやりたいくらいだよっ!」
「い、いや、おひねり(キャッシュ)は結構ですから! 兎に角、あまり無茶しないでください! でないと私が、吐く……」
「何だい、異能者のクセにもうグロッキーか? そこは可愛くかつ凛々しい顔しようぜ。そうすりゃ男は悶える。特に娘を持つ父親ってのは、女の子が頑張る姿が大好きなのさ」
「男って奴ぁ……」
「それに無茶じゃないさ。こんなのは茶番、エンターテインメントだ。さあ、もっと派手に行くぞ。ただし、本気でなッ!」
「驚き、桃の木、山椒の木~、そして私は空元気~♪ まあ、お付き合いしますけどね」
「きゃっきゃ♪ 凄い凄い。それじゃあ、これをどうかな!?」
相手が笑って指を弾いた。すると爆散したはずの巨大灰泥の残骸が集まって一つの泥人形が創造された。黒くなければ幼児の吐瀉物の様なオートミール、或いは練り消しならぬねり血垢。懐かしいもんさ。練り消しが学校で滅茶苦茶流行ってさ。禁止されたくらいさ。シャーペンは分解して遊ぶから上級生以外使用禁止とかあった時代の噺さ。チョコパンは袋で包んでくれるくせにきな粉揚げパンは何故包んでくれぬのかと嘆いていた頃の噺さ。閑話休題兎も角、だ。それは先程の様に巨体ではないが、力を凝縮している感じがする。何処がするって、ええとアレだ、何か刺とかついてるし、だから、あー、強い(確信)。
「ふっふ、見ろよ、倒してくださいとばかりのアレを。ところで路花、打撃は得意か?」
「えっ? は、えーと、念動力で身体を包めば中位の鉱物族並には何とか」
「それは上々。ようし、なら合体コンボだ。楽しい掛け合いと共に行くぜ!」
「ええっ!? そんな即興で合体技なんて……」
「人生は何時だって即興劇さ。ならば当たって砕けて合わせてみようぞっ!」
「え、えぇー? 砕けたくはないけど……ええい、では来いぞ!」
そういってケイが駆けだした。路花もまた身体を青白い光に包ませる。
「GO FOR BROKE!!!」
そして子どもは携帯獣に「だいばくはつ」を命じる気分で泥人形を特攻(当たって砕け)させた。泥人形は不平も言わず無面のまま迫って来る。
ケイは相手の触手を掻い潜り「『虎乱』!」と回転連撃攻撃を叩き込み、更に「『突撃爆恋心臓』!」と相手に剣を突き刺してから切先を銃に変えて弾丸を放ち爆発させて上に飛ばす。そこに路花が瞬間移動して斜め下に「『サイキック・キック』!」、更に相手が宙にいる間に「更に連続で『クラッカー・ボム』!」と空気で念力を圧縮し爆破させる。それが終わった瞬間にケイが「天気輪の刃!」と複数の剣が光条に展開したホシフルイを相手に回転させて投げ更に跳び上がりそれを掴み一つの剣に戻して縦回転斬りする「『兎歯車』!」。その後に路花が相手を念力で空中に押し潰し「『サイコプレッシャー』!」、その間にケイが二対の銃で「『二挺・超速10連打』!」と弾丸を叩き込みからの跳び上がって重圧空間ごと叩き斬る「『空断ち』!」と斜め下斬り、そこから相手を挟んでケイと路花が『『十字交差!』』と拳と剣。更に路花が「『ヴィントミューレ』!」と風の刃で斬り刻み、同時にケイが「『鼠花火』!」と曲線を描く炎の弾丸を発射して風の焔を造り上げ、「そして『セレスティアルスター』」と路花がベンチやらゴミ箱が相手に降らせる。それに紛れてケイが駆け込み剣で叩き斬り、バク転で後退して横に着地した路花と同時に「『閃』!」「『突貫跳蹴』!」と突進攻撃。更にケイが「『高速鯉昇り』!」と連続で斬り上げソレと同時に路花が宙に浮かんで「『アクロバット』!」と連続攻撃、次にケイが斬り上げた敵を路花が空中で「『なんちゃって・裏煉蹴』!」と攻撃し吹き飛ばしたのを瞬間移動で先回りしてまた吹き飛ばすというのを繰り返し最後に地面に蹴り飛ばし、それを突進してケイが槍で「突き刺す!」、バク転しながら槍を上に投げそれを路花が念動で受け取り「更に突き刺す!」、そして上に投げた槍をケイが受け取り「更に更に突き刺して、地面に叩き込み!」、路花が「跳ね上がった相手に連打して地面に蹴り!」、ケイが「斬り抜けて勝ち上げて!」、ケイが槌を振って路花に「パス!」、相手が飛ばされた方角に路花が瞬間移動しケイに向かって「パス!」、ソレを着地したケイが拾って槌で路花に「パース!」。そこにまた路花が瞬間移動し「ダンクシュートッ!」。そして此処から必殺モーション。地面に降って来た相手にケイが走り込み「連撃決めるぞッ!」、路花が瞬間移動で「応ぞッ!」とケイと並び、『1、2、3、4、5、6、7、8、9……10っ!』と左右非対称な動きで多段撃、最後は相手を大きく宙に跳ね上げて、「コイツでトドメだ!」「『ファイナル弁当』」、とケイが地面で銃の先に力を溜め、その隣で路花が手の平に力を溜め、相手が落ちてきた所に『瞬間、響き合う、交心曲! 奥義・〈最強消滅光線(Xキックイレーザー)〉!』とケイの銃から放つ光と路花の手から放たれる光が相手を中心に交差した。交わる光は鮮烈な熱を持ち、相手を塵も残さず完全燃焼させた。
「へえ……」それを見て、相手はそういった。僅かな笑みの様な表情を携えて、ポツリと呟く。「いいな、友達と一緒、楽しそう」
「KO! 今回は俺の勝ちだ。ソレが事実。嫌なら、俺は何時でも応えるぜ」
「『10年早いんだよ!』『月を見るたび思い出せ!』『もう止めろ……怪我するぞ』『貴様らにそんな玩具は必要ない』『どこまでも足掻いてやる!』『ハンサムの条件はハッピーエンドが勝つ事さ』『……凄い漢だ』『極彩と散れ』『OK!』『俺より強い奴に会いに行く』『俺一人で充分だ』『あンた、背中が煤けてるぜ』……えーと後は後は」
「決め台詞くらい迷い箸せずビシッと決めようぜ……後二つ何か違う」
「やったぁーっ!」
「考えた末がソレとか……飾らないのはいいですけどね。まっ、兎も角、やるじゃないか」
「えっ? え、えへへ、そうですかあ?」
「ああ、やるやる、凄いやる。やあ君は可愛いだけでなく強いんだなーぁ。今時、その歳で兄と距離と壁を作らないでおバカなノリにも付き合ってくれる有能な妹は価値高いですぜ? 妹という奴は、子供の頃はお兄ちゃんのお嫁さんに成るとか可愛い事言ってくれるのに、中学生とか高校生に成ったら途端に養殖場の豚を見る様な目で見て来るからなあ」
その言葉は少し派手だしお茶乱気ていたが、心に偽りはなかった。
落ち着いているな、とケイは思った。大抵は怯えたり、必要以上に興奮するものだが。幾ら力が強くなったって、心が強くなるわけじゃない。まあ、今時の子供なら、それくらいは普通かもしれないが。それに海の星の娘だ。それなりの質量の界異と相対したり、「…その身のこなし…やはりきさま…特殊な訓練を受けているな…」な事はしているだろう。兎も角、その台詞に対し路花は、
「べ、べべべ別に煽てたって嬉しくないんだからね!『ふんだ! ふんだふんだ! だっふんだ!』」と笑いながらそう言った。無論、ギャグである。「しかしこの戦闘、言語化しても伝わるのでしょうか?」
「伝わらなくても無問題。兎に角、楽しくやってるという気分が伝わればいいのさーぁ(ぺたぺたぺた)」
「わわわっ! ちょ、ちょっとケイさん、テンション上がってるからって無駄なおさわり(フィジカルインティマシー)はセクハラですよ!?」
「火照った身体には吊り橋効果がよく効きます」
「ななな何をーぅ! 流れのノリだけでコロッと行く路花ちゃんじゃないんだからね! そんな『どーせこーすれば喜ぶんだろ』的なテンプレートなムツゴ〇ウさん並の頭撫でテクなんか全然嬉しくないんだね! 頭触っちゃいけないイスラム教じゃそんなポンポン系男子はぷちころされるんだからねっ! ああでも私身寄り無くて教会にもロクなお義兄ちゃん居ないからそーゆー頼りになる年上で安心できて大きな男の人にちょっと弱ひ」
と、そんな茶番をしている所へ本体の灰泥がケイに向かって走って来た。そうとも、まだ闘いは終わってない。ケイは幕間からすぐさま素面に戻り、照れながら「いや弱いと言っても飽くまでも褒められて嬉しいのは普通であって悔しいけど感じちゃうのは生物学的反射であって」とか何とかほざく路花をほっぽり出して灰泥に向かって加速する。
「そろそろイかせてあげるっ!」
と相手が触手を蛇のように伸ばして来た。ケイはそれらを棒で断ち斬り、返す刃を銃にしてBANG! BANG! BANG! 弾丸が相手に飛び、それに対し相手は「ひゃぅっ……!」と初めて表情らしい驚きを見せた。何だ、ダメージが通ったのか?
「ハッ。調子に乗って泥を出し過ぎたな、テクノブレイクか!?」
ケイは距離を詰めた。どうやら相手の底も見えてきた。弾丸が相手の身体を削り、確かに相手の傷と成る。しかし遠距離の弾丸では感応が通りにくい。近距離で止めを刺す。しかし腐っても灰泥、いや腐ってるから灰泥? 兎も角、ケイが相手に辿り着く前に、何かがケイに向かって飛んできた。向かって来るのは灰泥の破片。ケイがずっと前に斬り落とした両腕を灰泥の身体が蹴り飛ばしてきたのだ。
「曲芸師だな!」
こんなもの、とケイは叩き落とそうとする。が、直感が働いた。ケイは多くの闘いを潜り抜けており、その直感は「Murphy's law」並に良く当たる。敵意を読み取り、死線を感じる。故にこの攻撃は罠だ。当てる事が目的じゃない。兎に角、防御を。
そう思うが早いか二つの残骸がぐにゃりと潰れたかと思うと、次の瞬間盛大に爆散した。
蒸気爆発? 重力崩壊? 兎も角、ソレは沸騰した毒物カレーの様にどろろした液体を飛び散らせ、明らかに不味そうな紫色の煙を漂わせる。その液体に当たったものは溶解し、煙を飲んだ者は昏し、吸わなくても皮膚が爛れた。煙に呑み込まれケイの姿は見えなくなった。
「ふふふ、ドロドロを溶けちゃったぁかなあ……?」
と、灰泥は確かめる様に煙を見た。溶けたケイの姿を探し……その灰泥の身体を閃光が呑んだ。最初に「BAZII」と灰泥に電気が走ったかと思うと、次の瞬間には「BZZZZZZT!」と景気よく電撃が鳴っていた。「きゃうっ!」よいう喘ぎ声が聞こえた気もするが定かではない。とても出せたとは思えないし、出せたとしても、電撃に隠れて聴こえないだろう。やがて止まるとぶすぶすと焼け焦げた灰泥の身体は「あ、う……」とぐらりと揺らめき、「Clunk」と地面に倒れた。
「『残像だ』」
握り拳の状態から母・幼児の指を立てて手を突き出した、何時の間にか「バックアタックだ!」よろしく灰泥の背後に居た路花がそう言った。
灰泥をウェルダンしたのは〈呆然とさせる指〉。それは路花のステキな必殺技。路花の何とか回路で体内電気を発生させいわゆる「コルナ」の様に握り拳の状態から伸ばした第二指と第五指を電極に見立てて放電するらしい。1.21ジゴワットくらい簡単に出ちゃうですぜ? 強いね。凄いね。ふわっとした設定の必殺技。必殺技と言っておきながら気絶させる程度の非殺傷技であるが気絶レベルの電力はリアルでお亡くなり一歩手前らしいので普通に危なかったりなくなかったりする。フィクションの業は深い。本人によるとその電力(W)は路花のアデノシン三リン酸(ATP)とか代謝熱量(cal)とか意識の底の無意識的なアレに依存するらしい。お腹すきます。
「はぁっ!『言ってみたい漫画台詞ベスト〈天〉』の言葉をこんなハラショーな展開で言ってしまった! 私今チョー輝いてるぅ!」しかしそんな消費量など気にせずに路花は莫迦みたいにはしゃいだ。莫迦みたいに。莫迦みたいに。「連呼する必要あるんですかね……」
「まあ無いな」とケイはソレを見て「たのしそーでなによりですね」という風に肩をすくめニヤリとした。そして吐いた。「おろろろろ」
「うわー!? ケイさん、何事ですか!」
「瞬間移動で酔った。つか血の気が引いた」
「ああ、それは、ごめんなさい。もしかしたら血液が幾らか誤移動したかもしれません」「ちょ、おい、シャレにならんぞおい。『頸動脈ギリギリ』とかレベルじゃないぞ」
「冗談ですよ。よくある跳躍酔いです」ケイは路花のおかげで灰泥の自爆攻撃を免れていた。路花による瞬間移動である。爆発する一瞬前、路花はケイの元まで瞬間移動し、ケイを連れて再度すぐさま灰泥の背後へ回避したのたった。「大丈夫ですよ。私は空間を繋げたり歪ませたり別次元に入ったり超光速するワケじゃありませんから、身体が千切れたり重力的な力で潰される事はありません。って言ってもかかりつけ医がそう言ってるだけで、私が把握してるワケじゃないんですけどね。呼吸とか心臓の動きを意識的にどーこー出来るわけじゃありませんし」
「やっぱり超能力は頭オカシい。スイーツだ。大体、瞬間移動って何だよ。量子テレポートとは違うのかよ。移動地点との核融合は起きないのか、0秒で移動するなら『速さ×時間』の計算はどうなるのか、光速度を越えるならウラシマ効果は起きないのか、星の遠心力や落下速度は引き継がれるのか、そもその莫大なエネルギーは何処から来るのか」
「さあ?」
「HAHAHA! 全く、これだから超能力はデタラメなんだ。まるでよくも解らんのにリトル・ガールを気取る様なものだ。何時チェルノっちまうか解りゃしない。それかロクに科学考証もされていない『とりあえず見栄えが良ければいいんじゃね?』的な厚みの無い薄っぺらいメリケン演出か。お前はそれでいいのかもしれんが、俺ァ気が気でならんね」
「むっ、言うに事を欠いてそんな事言いますか。助けてあげたのにソレはあんまりです。それをいうなら物理化学だっていい加減ですよ。超心理学も物理化学も同じ曖昧存在である人間が考えたモノ。鉛筆がGOSHを描いても人を描いても同じ『絵』です。違いなんてありません。鉛筆がGOSHであるならその絵もまたGOSHかもしれませんがね。後薄っぺらいだの何だと特定の作品について言ってますが、そんなの私からしてみれば、可愛い女の子が単身素手喧嘩で巨大ロボットと闘う漫画も、おじいさんが杖を掲げただけで海を割る寓話も、水蒸気だけで街を動かす青二才も、航空力学と格闘戦術と軍事用語をコテコテに使ったSF小説も、自分の思想を物語化したという点ではどれも宗教的だと思いますよ。『人が世界の命運をかけた戦争やってるのにイチャイチャしてんじゃねえ』なんて言う方もいますがナンセンス、そういう時に愛を叫ばないで何時叫びますか! 大体、私にとってはこんなの手や足を動かすのと同じレベルなのです。『How?』と訊かれても解りません。『萌え』だの『熱血』だの何でもかんでもそういうのに一々反応して型にはめて分類して関連付けて考えるのは、近代主義的な意識過剰と言わざるを得ませんね」
そう、路花は腕を組んでそっぽを向いた。おや、軽い冗談のつもりだったのだが、どうやら怒らせてしまったかな?
「あっはっは、何、怒ったか? 冗談だよ。コレはアレだよ、お前の好きそうな言葉でいう『ツンデレ』って奴だよ。本当はとても感謝してるって(と肩を抱いて頭ぺしぺし」
「むっ、むっ、そうですか? ならいいですけど、不必要なフィジカルインティマシーはセクハラですよ。そうべたべた抱き付いて来られると反応に困ります」
「でもセクハラされてる女性ってエロいよな」
「それはただの異化効果です。まあ快楽に悶えてる女性の魅力は通常の5割増しげふんげふん」
「外国人のスキンシップは『Some Like It Hot』」
「それは偏見!『Some like it cold』な人もいますっ。ていうかちょっと待て、なら俺は『砂糖菓子』か? それとも『果実寒天』か?」
「はたまた『クリームp「それはアウトー!」』といいつつ嫌がらないのは評価高い。小動物っぽい。可愛い。性に理解のある女性って、何か、こう、いいですね」
「怯えてるんだそれはっ」
「と思ったら……ははあ、成程、攻性防壁よろしく『能動的超自我機構(ASD:Activ・Super・Defense』があるんだな。防衛機制とも言える超能力者の基本的処世術。お前にいわせれば『超自我防衛機制』か。しかもこのタイプは、ほう、中々に器用だな、身体の表皮や服の上に処女膜のように念動力を張るタイプか。これで安心できるワケだ……しかし俺はそれを破る」
「え。はわっ、わーわーわー! 駄目です駄目ですそれは駄目です! 嫌です、ノータッチです! 大きな声で叫びますーっ!」
「こうやって手前の世界を打ち破る事を、この世界では俗に『マリア様の股座に手を突っ込む』と言います」
「や、止めて下さい本当に……本当に、ソレは駄目です……っ!」
冗談冗談、とケイは一通り茶番を楽しんだ後に笑った。割と本気で嫌がられてしまった。往々にして超能力者は自我が強く、その自我領域は強固だ。なのでとてつもないマイペースが多いのだが、しかしそれはメタルスライムシステム……いざ破られると自室で「お楽しみ中」にノックもせず姉が入って来たくらい嫌がったりする。そして鍵くらい欲しいとか早く家を出たいとか自己嫌悪に陥っていると姉が「そんなに困ってるならお姉ちゃんが手伝って上げようか?」と妖艶の微笑みを(略。
茶番はさて置き、ケイは「気を悪くしたらごめんな」と言って路花の頭を小突いて離れた。路花はその部分に手を当てながら、「あっ、いえ、ケイさんが嫌いというワケじゃないですよ?」と慌てて言った。路花も何となく精神感応で察していた、ケイが突然の瞬間移動でビビっていた事に。だから彼女は特に何も抵抗しなかった。またそれにケイも気付いており、それ故に抵抗しない路花にケイは肩をすくめ、「君は良い子だよ」と言葉を投げかけた。ちょっと苦笑い気味だった。
「けど本当に助かった。色々と便利だな。まるでアーミーナイフ、いやパソコンだ。流石、ヤパーナ人。多機能を小さな箱に詰めるのはお家芸かね? そしてやはりこーいうのには、属性攻撃が効くのだな」電撃によって焼かれた灰泥を見てケイが言う。しかしそれ以上に、電撃自体が十分な威力だった。「お前、結構器用だな」
ケイは少し感心していた。実際、感心する所である。というのもよく物語の設定などで「二系統使いは珍しい」とか「能力は一人に一つ」だとかいう設定があるが、それはこの舞台でも概ね当てはまる。それがどれくらい難しいかと言うと、綱渡りしながらジャグリングしたり、複数の学問で博士位を取ったり、卵をゆで卵にする事も生卵にする事も可能な調理器具というくらいに難しいからである。そこに来ると路花はとても器用だった。感応、移動、電撃・発火・衝撃・物体運動などの分子操作を始めとする念動――超能力と言われる力を一通り使える様だった。
まあ尤も、そこを何やかんやでやってのけてしまうのが「超」能力というものであり、既存の常識を壊し複雑な論理や過程をブッ飛ばして結果を行使するのが「魔」術なのではあるのだが。
てか実際問題、「スタンドは一人に一つ」とか「念能力は系統を絞った方がいい」とか現実じゃあ一教科一科目しか学んでないとかJavaしか使えないとかデスクしかやった事ない様なものである。確かに誰もが天才ではない。人には得手不得手というものがあるし、大学では専攻分野というものがあるし、多人数型スポーツでは己の役割が決まっているものだ。しかし同時にそうでなかった時代もある。かつての万能人たろうとするルネッサンス人は絵画も算術も建築も天文も神学も物語もやり何カ国語も喋り文武両道で何でもしようとしたし、昔の芸術家や職人は像でも詩でも武器でも道具でも何でもやって素材だって木でも石でも泥でも骨でも何でも使った。そしてどの分野でも目覚ましい成績を残す者が確かにいた。だが今はどうだ。これも専門化し分科させようとする近代化の仕業なのか。或いはただの退化か、興味の無さか。キャラの個性化・ゲームバランス調整・インフレ防止などの設定上仕方ないとはいえ、何とも夢の無い事ではないか。短所ではなく長所で闘う事は出来ないのか。いや某TCGのリミットレギュレーションの事じゃなくて――異界書房刊『私はこうして王道を知った~奇抜と定石の違い~』より抜粋。
「ふふん、それ程でも……あるかな!」とまれ、彼女は優秀であった。様々な能力を持っており、しかもそれらを手足のように操っていた。旧世界なら褒めるか気味悪がっていい所である。旧世界なら。「けど……お腹減ってもう動けない」
ぺたり、と力なく路花はその場に座り込んでしまった。最近は逃亡生活と飢えでロクに超能力の練習が出来ず、すっかりなまってしまっていた。
「燃費悪っ。おいおい、これで一体目だぞ。しかも俺が会った奴はもっとデカかったし」
「ひえー。お昼食べただけでアレだけの電撃や移動をするだけでもかなりエコな方だと自負しますけど……ていうか全然疲れてないケイさんの方が異常ですよ」
「超能力者に異常とか言われとーない。俺は普通の人間だ。健常人だ」
「うわー、差別発言」
「まあ、俺にはコイツ(ホシフルイ)がいるからな。コイツは植物人よろしく、周りの光や風や音や相手の体力や精神力をエネルギーに変換できるんだ」
「ほえー、便利ですね。吸血鬼みたいです。どういう原理なんですか?」
「詳しく話すと余白が足らん。つーか俺もコイツに付いては良く知らん。続きはCMの後でネットをクリック。まあその謎は行く行く解明されていくでしょう、多分。まあ冗談はさて置き、簡単に言うとお前の義姉さんに貰った」
「あー、義姉様由来ですか。それなら納得しちゃいます。けどそんなよく解らないもの振り回して置いてよく原発が云々言えますな」
「そんなもんだろ。誰でも多少なりとも手前の事なんて棚上げだ。そうだ、疲れたならお前の口にコイツを挿れてやろうか? 謎の白い液体で気分が良くなるぞ」
「何かそれヤクっぽいですね」
「まあ慣れない奴は『AURYN』並の依存性があるが。その心は永光色。群がる蛾の如く」
「『夢への鎮魂歌』じゃないですか! やだ――!(泣」
「ならもっと頑張れ。モアー頑張れ。でないとお前の仇名『ポンコツ』にするぞ」
「そんな殺生な……」
疲れた顔で腹を鳴らすのは、何だか情けない姿だった。
――――第壱幕 第肆場 終