生命、宇宙、そして万物についての究極の云々 ―The Piano―
第壱幕 第弐場『生命、宇宙、そして万物についての究極の云々 ―The Piano―』
《貴方の異能は何処から?~私は「脳から」「心から」「神様から」~ 異能と神に関係はあるのか? 謎の肥大化する脳の正体とは? 異能者に成りたければメンタルへ? 詳細はCMの後! チャラッチャーン♪ まいど! 世界の面白いドキュバラを届けるNNNです。今晩は働き妖精が望月の夜にしか作らない「黄昏の蜂蜜酒」、その神秘の製法に迫ります。オマケで「翼ある貴婦人」の召喚方法も教えちゃいますよ。乞うご期待! なお当番組はあらゆる損害に対し一切の責任を負いません。万一、死亡事故等が第三者に見つかった場合、90日以内に『失踪』届が出され――》
路花の噺をまとめるとこうである。
孤児院の年長者の一人がもうそろそろいい歳なので自立して働く事となった。しかしこの超人社会な混沌時代に「旧人間」である年長者に容易に職は見つからず、そもその年長者は世間を渡るのが著しく下手で世間知らずで面倒臭がり屋でけれども気だけは立派で何か大きな事をしてやろうという心意気(笑)だけはあり、やっとありつけた職場も颯爽倒産して遂には「俺魔法使いになるから!」などとよく解らない供述を書き残し行方不明になったらしい。で、心配なので調べた結果情けない事に「なれ詐欺」――魔法使いになれる、超能力者になれると言った「~になれる」を謳い文句にした詐欺の隠語。「霊感商法」や「資格商法」に近い。無論、それら自体は詐欺ではない。それらを詐欺にしてしまうと世の宗教や商取引上は殆どが詐欺に成る。だから法的に悪ではない。「動画サイトは何故無くならないか?」、その理由を考えてみよう――に引っ掛かったのだという。これは流石にヤバいと思い、それで探し物の得意な路花がその者を探す事になったのだが……。
「お金が払えなくて借金してその詐欺組織に囚われの身であった義兄を助けるためその詐欺組織に弾丸の思いでカチコんだのですがどうやらそこは『マル暴』的なヤンチャ組と繋がりがあったようで義兄は何とか逃げさせる事が出来たのですが私まで恐いおにーさん達に追われて今まさに命辛々ランナウェイというワケです、サー」
と、路花は締めくくった。
別に伏線でもフラグでもないのでその説明に付け足すと、彼女の言っているヤンチャ組とは先に路地裏でサッカーをしており子ども(のようなもの)にイヤーンされた三者組の事であり、義兄とはそのボールの事である。
ケイと路花の二人は「FUNNY BUNNY」というファミレスに来ていた。その名前が「MARCH」と関係あるかは知らない。ランチにはまだまだ早い時間であるが、店内はそこそこざわめいており、楽し気な会話がTVのニュースやレイディオの清涼なBGMと共に流れている。家族と一緒に来ている人間族、友達と一緒に来ている角持ち、パソコンをカタカタ打って忙しい自分を演じる植物、客足は様々だ。所で、人犬がチョコを食べたり馬人が馬肉を食べるのは大丈夫なのだろうか?
そんな楽しそうなファミレスで席に着き、机に頬杖ついて聴いていたケイは路花の噺についてこう言った。
「バッカジャネーノ?」
「返す言葉もありませんがまさか面前でそう言われるとは思わなかった」
「そーゆーのは国家権力に任せろよ。漫画の世界じゃないんだから。迷子の親をわざわざ自力で探す阿保じゃないんだから」
「其を言っちゃあお仕舞えだ」
「無駄にド派手に何度殴られても全く痛がらないドMな少年漫画じゃあるまいし、いくら超能力や魔術が使えても、人間なんて、銃の二~三発ですぐ死ぬぞ?」と人差し指で自分の額をトントン叩きながらケイが言う。「確かに物語じゃ『そーいう力』は万能だ。けど、それは『そーいうシチュエーション』だからだ。弾丸が当たらない、当たっても怯まない、銃よりも剣が強い、奇抜な作戦が上手くいく、小麦粉撒いただけで大爆発、戦闘機が長々とミサイルじゃなくて弾丸発射、そんな物語の作者が作るような、都合の良いシーンだからだ。ファジーなファンタジー思考でいると意外なほど簡単に死ねるぞ。昔の弾丸の速度でも文字通り『アッ』という間、音速の五倍はいくんだ。今の銃なら、言わずもがな」
反撃すら出来まいよ。俺だってショットガン突きつけられたらビビるってのに、自分家の宗教が新興宗教だったってくらいビビるってのに……とケイは言って、両手を上げて肩をすくめた。しかし路花は反論する。
「『餅は餅屋』ですね。そんなのは超能力者の私が良く知ってます。ましてやこんな世界です。何時だって上には上が居ます」
「じゃー何で莫迦やった?『自分にはできる』と思ったか? 物語好きそうなお前なら、『気力があっても、勇気があっても、夢や希望の灯が胸の中でいくら燃えていても、どうにもならない』事がある事くらい知ってるだろうに」
「そ、それは、時と場合と気合とノリで……ごにょごにょ」
「クールだね、ステキだね。若気の至りは羨ましい」なお、路花がマル暴にカチコんで今此処に生きているのは偶然である。「蛮勇と勇気は違うと思うなあ」
「た、例え駄目だとしても、やろうとした意志が大切なのです」
「何だそりゃ。お前もしかして『結果より過程が大事』派か?『意識高い系』ですかコノヤロー。餓鬼が幾ら大人ぶってもな、餓鬼に出来る事なんてたかが知れてるんだよ。就活面接の時に知識や展望をドヤ顔で語られたってプロから見ればどれも団栗の背比べにしかならねーよ。加えて伝統とお約束を莫迦にした奇抜な事ってのは先人が敢えてやらなかった事がほとんどだし、奇抜だけの時代を先取りしすぎた技術の行方は歴史が語ってる。『個性』だの『自由』だの世界の大きさを知らずに自分が特別だと思うなんて、ネットで頭でっかちになったただの駄呆だ。ましてや役にも立たんのに頑張ったから褒めてなんて学芸会でやってろと。本来の自分を認めてもらえないからって他人にケチ付けるとか何様だよ。ANIMEやCOMICじゃあるまいし、程度の思い出作りのお遊びも結構だが、本物の世界なら、結果の無い奴は過程云々以前に門前払いなんでそのつもりで」
「うぬぅ」と路花は眉をひそめた。「じゃあアレですか。『やりがい』とか要らないんで残業代ください』って噺ですか」
「そうだな。それに自分の仕事の結果をアピールしなければなりません。COMICの世界では必ず褒めてくれる誰かがいて、報われる事が前提ですが、現実では自分から主張して行かないと誰も見てくれません。気合や根性とやらの観念論じゃ世界は動きません。つーかむしろそんなワケ解らん奴に十年選手の努力が否定されてたまるか。やられる側にもなってみろって。そりゃ、確かに結果ばかりが重視されて原因や意図が語られないとはお笑いだがな。けど現実は学歴主義だ。それが嫌なら先ずは現実を変えにゃならん。つまり内輪だけでふわっとした理想を語るよりも、ちゃんと眼を逸らさず先を見据えて外に働きかけようという事だな」
「またまた、時代の移り変わりを嘆く近世の貴族の様な事を言って」「どういう例えだ」「そういうキツい事をオブラートに言えないのは下手ですよ。消費者金融のように、暗いイメージを払拭して明るい宣伝をした方が受け入れやすいのです。ましてやその手の言葉を難有く思うのは出来かかった人間です。それに何より、言葉はキャッチボール。悪党を投げてそれが相手に通じるのは、わざわざ相手が取ってくれるからなのですよ?」
「キャッチボールじゃない。雪合戦だ。当たれば砕け散るだけだ。しかも決して本気でやらない。ボロが出るのが恐いから。論破と言って逃げるのだ」
「当て逃げだっ。ソクラテスさんが泣きそうです。両方風邪ひくだけじゃないですか?」
「それが解らないから戦争が起こるワケでありまして。これがホントの冷戦……苦笑いするんぢゃない。
まあけど、そういうヤンチャも嫌いじゃないがな。『ワクワク』するよ。伝奇・怪奇小説の様な夜の暗闇に感じる言い知れぬ不安を日中でも感じる日常との違和感や茫洋と、それでいてバブル世代真っ只中のディスコで現れるブギーポップの様なキレた快楽、左巻きの赤トンボが『生き辛いなら革命家に成れ! ネットで勇士を募って夢見がちな精神病棟を打っ壊せ!』なんてプロパガンダをマジで街頭でアジ・ダハーカする奴がいて……と思ったけど、そんな頭おかし(ヘンテコ)い奴は昔からいたか」
「むしろ壱から拾まで規則正しい生活送る人が障害扱いされるのが世の中ですからね。コッチが道路交通法を厳守して速度制限守ってトロトロしたら逆に迷惑なのが世の中です。道路交通法を厳守し道を譲らないのと、法律が曖昧だけど道を譲り合う社会、果たして鳥らが社会にとって正しいのか……」
「急いでる時は前者、急いでない時は後者、つまりケースバイケース。二元論じゃ語れないよ、せかいだもの。
ていうかお前本当に子どもか? 言ってる事がミョーに大人びてるなあ」
「背伸びしたいお年頃。大人と同列に扱われると喜びます」
「それかネットで無駄に知識だけはあるなんちゃってインテリおたく」
「その可能性は否定できない」
「けどその通りだな。面と向かって『お前はバカだ』と言われて勉強するなら世話ないさね。しかし自分知っている世界だけで自分が賢いと正しいと主流だと思っている奴は救えない。『愚者に己を疑う知恵は無し』、いや全く。だがお前はちゃんと勉強できる奴だろう? 何せメリューの義妹だからな」
と、ケイがメリューの名を出すと路花が「むっ」と息を呑んだ。素直な子だ。単純とも言えるが。この手のタイプと仲良くするには、本人その者を褒めるのではなく、自分が認めている者を褒めるのが効果的だ。
「……何か、お義姉ちゃんの知り合いのくせに冬の枯れ木のような人ですね」
尤も、彼女は幾分か冷静なようであり、冷や水をチビチビ飲むだけだが。
「せめて精悍と言いなさいよ。じゃ、お前は幾ら踏んでも立ち上がる元気な花だな。その歳で御苦労なこった」
俺にはできん、とケイは肩をすくめて笑ったが、以外にもその言葉は本心だった。
「よく言われます」路花は苦々しくも、笑った顔で受け応えた。「けど、いいんです。これも愚かな私にGOSHの与えた罰なんです」
「この酔っ払った神様のゲロみたいな世界で罪も罰もあるかよ」
サラッと言った。よく覚えてないがそのゲロみたいな世界でゲロを吐いていたかもしれない路花には痛い言葉だった。思わず眼を逸らしながら曖昧に笑ってしまう。
「ま、変に擦れてないだけマシか。最近の子どもはすぐ自分の知ってる世界だけで悟るから。それにメリューがよこす奴だ、ちゃんとしてるんだろ? 普段は。ま、いずれにせよ真剣にやればいいさ。以後、そういう軽はずみは慎むよーに」
「は、はいっ」
解りました、と元気よく、強い決意を持って路花は言った。
「で、何頼む? 仲良くする印として、俺が奢ってやろう」
「な、何でもいいんですか?」
「お前の倫理と常識と羞恥心に任せる。平たく言えば、『Up to you』」
「そ、それはそれは……」
つまりケイは言外に「自分に責任はない、故に自分は何も指定しない」と言っていた。きっとアレだ、この人は自分の好きなマイナー作品がメジャーになると途端に熱を失うタイプなのだろう。随分とひねくれた御仁だなあ、斜に構えた人だなあ、人間として軸がぶれた野郎だなあ、と路花は口に出さずけれども顔に出してメニューを見た。
メニューには概ね四種類の類があった。まず一つにカツレツやカレーなどよくある人間の人間による人間に対する料理。二つにそのような料理に時にキュートに時にバイオレンスに演出した人間による人外のに対する料理。三つに「頑張って作って見ました」感たっぷりの微妙に微妙な人外による人間に対する料理。そして四つ目にどす黒い狂気を滲ませた警告色たっぷりの明らかにヤバい人外による人外に対する料理。
なお、ここでは解りやすいように「異界=ヘンテコ」と扱っているだけであり、別に異界だからってどれも過激で派手で眩しくてオーバーリアクションなワケではないのであしからず。閑話休題。
ともかく路花はそんなメニューを「ほー、へー」とゲームの設定資料みたいに面白半分に見ていると、ふと、四つ目の類のメニューの中に、何やら奇妙な品を見つけた。それは真っ赤な血味泥でこう描かれていた。
『◆◇◆WARNING!◆◇◆
・第特種特級規格外料理
地獄の一丁目へ今日は〈激辛☆星の魔王様カレー~死ぬほど辛い!~〉 ※死にます』
「こーゆー如何にもな奴って」路花は笑って言った。「ちょっと食べてみたくなりますね」
「ハン、解らなくもないな。好奇心で首を突っ込むのは生物の性だ」ケイも笑ってそう言った。そして氷水を一つ飲んでからこう付け足した。「けど死ぬからな、絶対」
氷水のような顔で言った。コップの中が「辛む」と鳴った。現実って恐ろしい。
憐れな生きとし生けるモノどもは首を突っ込むのが好きである。恐くて危ないモノなら特に。時に見なくていいものまで見ようとする。それはモンキーもキャットも変わらない。だがそれは飽くまでも安全であるものまで。土台、覚悟などありはしない。ただの面白半分だ。痺れるような体験をしたいものの、それで感電死することは御免なのである。
そして今は混沌世界。異界が現界に乱入した時代。夢が現実に溢れ出す。妄想が妄想で済まされない。無関係で終わらない。「意味解んない」で止まらない。何時か何処かの物語を読まずとも、今の此処が物語めいたこの時代。「まさか死ニャーしないだろう」と好奇心で首を突っ込もうものならば、ジマで首が飛ぶのである。いやジマで。
「ああ、でも今ならいけるかも。私トべるかも」
路花はフワフワした笑顔だった。ケイは胡乱な眼でソレを見た。
彼女の世間体の為に言っておくと、彼女は決してノー天気な子ではない。今は著しくバッテリー切れ気味であり、ちょこっと頭が空回りしてるだけである。むしろ孤児院の年中組として、時に年少組のお姉さんとなり、時に年長組の支えとなり、周りのみんなに分け隔てなく明るく接し、他者の為にせっせと働く気立ての良い子である。
だがまーその分、無駄に責任感が強かったり、正義感が変な方向に走ったり、明らかに自分より強者な者に突っ込んだり、後先考えず突っ走るバイオレンスな所があったりなかったりするのだが……それはさて置き。
「大丈夫か?」
「だいじょばないです。お腹すきすぎて口の中が甘いです。ヨウ素デンプン反応並に」
「そよか」
ケイは呆れたような、しかし可笑しいように笑って、「ウェイター。オーダー」と手を上げた。すると動いていた女性を止め、にこやかな笑顔でコチラに来た。
「はい、こんにちは! 私が今日のメニューです。私の何処を食べますか?」
「そういう冗談は相手を選んでほしいなあ。ツレが意味を飲み込めず固まってる」
「あら、どういたしまして。ではソチラのメニューから適当にドゾー」
しかし道かはまだ選んでいた。「えーと、少しお待ちを」と言ってメニューとにらめっこする。ファミレスってアレですよね。種類が豊富でどれも美味しそうで迷ってしまいます。尤も、この店の場合見慣れぬ名前が多すぎてどういうものか想像しにくいという方が大半でしょうが。攻撃力とか防御力ですぐ選べるRPGの武具屋は随分良心的だと私は思う。
「別に幾らでもいいぞ。百$でも万$でも」と路花を観ながらケイが言う。しかし哀しいかな、そんな気前の良い良心を素直に受け取れる程の器量は路花に無い。ケイはヤレヤレと肩をすくめる。「お前の食べたい物は後にして、兎に角、何でもいいから俺が注文して置くぞ。えーと、『海老フライハンバーグ』と『月向花のシーザーサラダ・鶏肉と卵付き』、あ、『卯の花』『クラブハウスサンド』『けんちん』『ドネルケバブ』『ならえ』『ビフテキ』『チ・タタ・プ』『歩き化茸のソテー』『火蜥蜴の角煮』『蛇鳥のからあげ』『水鳥の蒸し焼き』『水棲馬の馬刺し』『ジャバウォックのステーキ』、それと……何て読むんですか、コレ?」
「それは『デルルエグea=f^\^aマルトllla2w@www*???!スト』です」
「何ですって?」
「はい、『デルルエグea=f^\^aマルトllla2w@www!スト』です。新鮮なチーズ、トマト、レタィム+:¥pヌ、ラフェル―・・――・・――・・―メーザンをバンズしたものです」
最後の「フェル何とか」はビデオを早回したような発音だった。つまり意味不明。
「あーアレか」しかしケイはその意味不明さで思い出したように言った。「じゃあソレ一つ。あとこの手のよく解らん奴で彼女が無事に食えるのを適当に別々のを単品で二つ。飲み物は『林檎ジュース』を。デザートに『苺善哉』と『エッグタルト』と『スライムゼリー(レモナ味)』で。ああ、デザートは食後に」
「飲み物は如何します? 最近、『汎銀河ウガイ薬バクダン』ってのが入りましたよ?」
「酒はあまり飲まないんだ。それに仕事中でね。ツレに『黄金林檎』を頼む」
そう注文するケイの顔は余所行きの軽い笑みだった。それは何処か嘘っぽいが、相手を不機嫌にさせまいという大人の嘘だった。あるいは自分なんかでいちいち怒ったら駄目だとでもいうような。ウェイターの方は営業スマイルというよりも素面のにこやかな笑顔であり、「かしこましました」と言ってカウンターの奥へと消えて行った。
因みにその下半身は蛇だった。いわゆる女蛇という奴だった。瑞々しい鱗が光っていた。
どうでもいいけど女蛇の身体で巻かれたい「ロールミー」という性癖があるらしい。世界って広い。蛇の交尾って少なくともリアルに24時間程かかるらしいけどそこんとこどうなんでしょうね。ソレをケイは頬杖を突いて見ながらぶっきら棒に、
「店に動物連れ込んでいいのか? って虫か?」
「ちょちょっとケイさん、差別発言ですよ。言葉狩りに狩られるますよ。せめて『ラミア』とか何とか呼ばないと」
「『ラミア』ねえ。見た目だけじゃ、蛇に変異したこの世界の元人間なのか、元からあの姿の神話的異世界から漂流した移民なのか、よく解らんね。けれどももし後者なら、人の作った他の種族とごっちゃにされたがるとは思えないなあ。占領国が植民地に自国の文化を押し付けるみたいなもんじゃね?」
それは難しい問題である。こんな世界でなくとも文化衝突は避けられない。平等を望む者が居れば、刀を取り上げられるなど御免だという者もいる。だから化物と呼ばれ差別される事を誇りにすら思う者だっている。そして往々にして「化物」のレッテルを張るのは化物でない者である。ならば全ての差を無くそうとする過ぎた「同化」ではなく、差を許し受け入れる「許容」が大切ではなかろうか。少なくとも何時の時代にも何処の場所にもその者にとっての「当然」があるのであり、もしその誰かを笑うのであれば、きっとその者も何処かで誰かに笑われるだろう……などと社会派な事を言ってみる。人権団体は大変だ。
因みに先から「寝子族」やら「風翼族」などの表記が出ているが、これは便宜的な分類であり、学術的な分類ではない。「鳴き声がMeowと聴こえる」とか「翼が生えてる」とかそんな程度の見た目や雰囲気からなる恣意的で分類で、実際に生物学的に解剖して遺伝学的に研究したワケではない(そんな事をすれば領事裁判権並のややこしさで異界戦争が勃発しかねないだろう)。大祭害が起きて十数年、異界に関する研究成果は少なからずあるものの、まだまだ一般化や共通認識は乏しいのが現状だ(「あなたがそうだと思うものが云々です。ただし他人の同意がry」)。無論、その最たる理由は世界壁である。そこら辺は利権争い的な泥臭い噺に成るので置いておこう。
というか異界者自身にも己が「ソレ」なのかは解らない。確かに物語の存在が流れ着くのが今時である。ただ己の舞台が本当に者の語る舞台か判別する手段がないのだ。故にその美しい身体を持つ彼女が者に語られる「エルフ」かどうかはその者自身にも解らない。耳の長い種族ならエルフなワケでもあるまいし、出身世界で呼ばれていた名前があるだろうし、第一エルフの派生キャラなんて厨房の餓鬼が脳内合体したクラスメイトや未だ増え続けるポアな新興宗教より巨万といるのでどれが本物のエルフかを語るのはあまりにナンセンスなのである。一重に異界と言っても、物語がそうである様に、様々な世界が在るのだ。尤も、神話に謳われた同じ容姿、同じ能力、同じ記憶を持つのなら、それはもう神話の神と同じなのかもしれないが。まあ兎も角、舞台を演出する装置の一つとして軽く楽しめば宜し。
まあ別にそんな事を気にする異界人は少ない。だって相手側の分類だし、解らなくとも明日の空は青い。「自分が何者であるか」を考えるのは、誰かに自分を尋ねた事無い自分探しの旅人か、部屋から出た事無い哲学者か、記号キャラ好きのビブリオンにでも任せて置けばいいのである。大体、神話体系など習合というコピペやパクリがもはや通過儀礼だし、原典を見分ける事なんてとてもとても……いや、別に悪い事じゃない。パクられるくらい素晴らしいネタって事だから。パクられる方がどう思っているかどうかは知らんが。
因みにそんな程度で分類すれば、大口族なら「獣在・獣類・米型・獣人形・蝦夷種」、火玉族なら「霊在・妖精霊類・愛型・米亜型・人外形・南瓜種」、天使族なら「霊在・神類・猶型・大巨人形・兄弟種」、物語の金字塔白星族なら「亜人類・北欧型とか大和型とかトールキン型とかルーンクエスト型とかロードス型とか」など色々分けられる。また「エルフ」や「ドワーフ」と言ったあまりに一般的な名称は物語のソレと分ける為に「アルフ」や「ドルフ」などと少し文字って言うのがこの世界の嗜みである。獣人獣においては猫っぽい異界人を「フィガロ」や「クロちゃん」と呼んだり、犬っぽい異界人を「ラッシー」や「のらくろ」と呼んだり、己の知ってる有名な獣名で呼ぶのもまた嗜み。なお異界にラテン文字が在るかは解らないので、異界役者の名前や言葉をラテン文字にする場合には表記揺れが見られますが、ご勘弁ください。まあつまり人間にも様々な人種があるように、人外にも様々な種があるという事だ。
そしてまた一重に魔術や超能力と言っても物語によって様々な設定があるように、それを一単語で括るのはあまりに十把一絡げである。ハンター世界における念能力よろしく、その認識には個人差があるのだ。だからこの秀真路花ちゃんもこの舞台の超能力者代表でも何でも無いので悪しからず、と注釈しておく。というか「世界壁」という設定上、この手の知識はあまり体系化されていないのが現状だ。「望の門」を所有する街は、情報を外部に漏らしたくないのである。何せ異界や異能者や人外と言う存在は、冷戦におけるメテオと同じ以上の価値と恐怖があるのだから……兎も角。というのを頭の片隅に置いといて欲しい。まあどっちでもいいけど。面白ければ良いんだよ。思考を停止させろSHEEPLEの様に。黙れ。HUUUSH! 深く考えるとパゲる。閑話休題(コマンド:逃げる)。
「でも大祭害が起こしたのは、何も異界の交わりだけじゃありません。従来の人の姿を変異させました。私のような超能力みたいに、人間族の両腕がロケットパンチになって感覚が無くなったり、顔が蟲になって友達に離れられたり、逆に獣の下半身だけが人間族になったりする者もいます。人の『在りし日の姿』を突然無理矢理朝起きたら『変身』させられて、今の己の姿を嘆く者達が少なくありません。他の人は『猫耳が可愛い』とか言いますけど、必ずしも好きでなったわけじゃないでしょうし」
「『Higashino』ならサスペンスだが、『Kafka』なら喜劇だな」
「『Don Quixote』じゃあるまいし……笑ってはいけませんよ。中には中途半端に変身して身体を維持するだけでも大変な人や、それこそ内臓が鼠や昆虫のソレになって毎日ゼーヒー言ってる人だっているんですから」
ある時、突如起こった「大祭害」とされる天変地異、ソレが起こした事は主に二つ。「異界」と呼ばれる別世界と「現界」と呼ぶ事にしたホモ・サピエンスが居る此世界への「混合」や現界の存在が別の場所へ「移動」するといった〈漂流(Vacances)〉と、超能力や魔術といった「才能」が身に付いたり身体の一部ないし全部が現界の獣や蟲や植物や鉱物から異界のよく解らない何かといった「異形」へと変わるといった〈変身(Verwandlung)〉である。此処で路花が言ってるのは、その後者。
異形化は徐々に進行し、完全に人間の身体ではなくなる者もいる。それは人間だけでなく、無機物の鉱石が命を持って歩いたり、昆虫が人並の知性を持ったり、犬が猫や鳥になる言もある。現界人だけでなく異界者もそうであり、エルフで超能力者だったり、獣人が鉱物の身体を持つ事もあった。そこまで設定がごちゃごちゃすると、何かもうくどい。
見た目が普通でも、構成要素は違いかもしれない。特に家畜が喋り出すのは全く社会問題である。気持ち悪くて食えやしない。イノックス星にでも行っちまえ。会話できないというのは一種の救いであるのかもしれないと思いました。ああいや、アレは会話できても駄目なのか。言って洗脳できるなら苦労しない。え、「僕の顔をお食べ」? アレはアレだよ、アンコがワインでパンがパン、つまり十字架教との類似点が考察され(略)。
またその範囲は実物だけでなく概念的な情報まで広がり、つまり「万有引力は質量に比例する」という様な物理法則が変身したり(そもそも万有引力はただの観測結果だが)、「赤色は能力が三倍になる」と言った他次元概念が漂流したり、「血液型は正確に影響する」と言った迷信が本当に起こったり、マジックミラー号が街中を走ったり、AVで透明化や催眠術や媚薬やザ・ワールドが起こったりする。何、AVの企画物は本物だと? 阿保め、本物なのは三割だ。概念の変身だけでなく、中には異界の物理法則が現界に漂流した場合もある。しかもこの漂流はお国柄の様に限定的で、たまに通り雨の様に流動的な事もあるから性質が悪い。「1=2」だってお手の物だ。「a=b」の両辺にaを掛け「a^2=ab」とし、更に「a^2ーb^2=abーb^2」、「(a+b)(aーb)=b(aーb)」としていく。最後に「(aーb)」で割ると、「a+b=b」となる。これにて「a=1」と仮定すると、「2=1」が出来るのだ。勿論、賢明なる者ならば「a=1」だと「aーb」が「0」と成り最後の部分で「÷0」をしてしまうのでケイさんが成り立たない事に気付ける。しかし、これが今此処の世界では起こる、起こるのだ。傍迷惑なもんである。
この様な大祭害による影響は、一種の呪いの類いと考える者がいる。というのも、大祭害による異界漂流により魔術や超能力といった異能だけでなく科学技術もまた極度に高まったはずなのだが、その様な力でも大祭害による変異は治せなかった。例えば、交通事故などで失った腕を新たに生やす事は可能だが、大祭害により己の腕だけが移動した場合は新しい腕を生やすという事は出来ない。「腕」という概念自体が失われていると思われる。観念論的だが、そうとしか言えない。故に大祭害とは自然現象などではなく、人為的に起こされた何らかの術では、と考える者もいる。
「だが差別は個性の一つだ」とケイは言う。「違いがあるって事はソレだけで意味がある。勿論、マジでやられてる奴には文字通りの死活問題である事は解る。それはナイーブな問題だ。とある経験者のヒスを鬱陶しく思っても、ソイツにとってはマジなワケだ。自分自身なのだから。だとすれば問題なのは境界を消す事ではなく、許し受け容れられるかだ。まして異形である事を俺達が勝手にアウトロー扱いする権利はない。それに好事家というのは何時の時代もいる者だし、アレはアレで需要があるだろう、多分」
「なるなる。『分類の力』って奴ですね。差別がなきゃ人外嗜好はありえません」
「ま、どーせ好きって言ってもどーせ美少女美男子の類だろうがな。記号キャラだ。記号萌えだ。自称『人外好き』の人外なんて、ちょっと耳や尻尾生やした『一割人外・九割美少女人間』の類だろ? ケモノじゃなくケモノ生やしたビショージョが好きなんだろ? 可愛いのが前提だろ? つかどーせ可愛けりゃ何でもいいんだろ? ハン、そんなの人外とは言えんね。ちょっと耳を付けただけで可愛くなる。全く、お手軽だな。インスタントだ。流行のなんちゃってファッションと同じだ。ロクに文章も読まずウィキペディアか何かで調べたような、対して元ネタも知らないくせに神話の名前を羅列した、薄っぺらで内容のないノリだけのハロー効果だ。付属品のためだけに買う幸せセットだ。神格の欠片もありゃしない。人外が可愛いんじゃない。可愛い人外が可愛いんだ。もっと言えば、可愛く絵に描かれた獣人が可愛いんだ。二次元のトリックだ。現実にあんなのが居たら、百歩譲って可愛いとしても精心衛生上抱けねーよ、ノミとかダニとかこえーし。それに顔だけは人間っぽくしとかないとならん。所詮、人は顔なのだ。人は情報をほぼ視覚に依存し前面に向けて投射する生物だからな、全く、ムカつくぜクソッタレー。愛が無い」
「愛とか」
「何だよ」
「いえ別に。記号キャラはやりやすいのですよ。既に設定が用意されてますからね。後は外側をカッコ可愛く描くだけです。殊に宗教や偉人や武器系は著作権の無いオープンソースのリファレンスですからね。十字架教を初めとするMYTH体系は例え本当の姿を知らずとも『何か凄そう』感を与えられますし、知っているものであれば荘厳で雄大な世界観を与えられます。まあそのせいで間違った地方の知識が根付く様に、よく解らない派手な単語ばかりが一人歩きして原典すら読んだことの無い文学作家により大袈裟な宗教世界が構築されているわけですが(主に人類保管計画のせい)。しかも更に孫引きが横行して相乗効果で倍率ドン。いや待て、これが彼奴の真の狙いだとしたら? これはまさにねずみ算、ビッグマウス、式に増えて行くマルチ商法。まるで実践を知らなくとも戦車とか戦闘機とか見れば何か格好良く見える様な、いや逆に人殺しの道具という実感がない故にそうなのか。まるで戦争を殊更美化し、それを素晴らしいものとして享受する扇動映画の図式。そうか、磔男はこんな未来まで想定……」
「おっと、どうやら気付いてしまったようだな。残念だよ。お前の事、好きになりかけたのにな。だがそれも終わりだ。恨むなら、お前の神を恨みな、BANG」
そう言って、ケイは人差し指を路花に向けて銃を撃った。路花はそれを見て「うっ!」と言い、身体を震わして声を絞り出す。
「あ、あ……えと、ああ、国語の、ちが…………それでも私は、貴方の事が好きだった」
そんなグダグダな感じで、路花はバタリと机に倒れた。
「ノリがいい奴は好きだよ。即興が上手ければもっとな」と、ケイは見てくつくつと笑った。
「でもその点、この国は生粋のケモナーがいていいですね」と倒れたまま顔を上げて路花が言う。
「おっと、安易に『ケモナー』とか使うんじゃない。原理主義の言葉狩りに燃やされます。『ケモミミスト』と『ファーリー(ケモナー)』と『ズーフィリア』は違います。症状の進行度が違います。一重に『獣好き』と言っても色々あります。そこら辺の詳しくはWebで。で、この場合は……ケモナーはアニメ(トゥーン)な擬人化のケモノ好きの事を指すから間違いで、ならリアルな獣好きのズーフィリアが正解か? いやでも普通の獣は二足で立たんし、変身した獣もいるし……じゃ『アンスロ』か?」
「そんなに真面目に成らなくても……(苦笑」
「Hey! 自分に興味が無いからって、他人の価値観を無駄無理無意味と言うのは無粋だぜま、そりゃ現実が架空のようになった今時じゃあ、ケモナーもズーフィリアも似た様なもんかもしれないが……しかし、言葉の定義は大切だよ。『言葉は変わるもの』とか自分の間違いが世界の主流として通じると思う駄呆はチラシか壁と喋ってろと。無論、本来の意味が淘汰されてマイナーがメジャーに成ったりその逆もあるのは今に始まった事ではないけど。寂しい事けど、仕方のない事です。まあそんな定義よりも俺は『何が在ればその者として認識されるか』という認識論的な図像学的な方に興味ありますがね」
「ふむ、そうですね。超越者には『捕食』や『風船』や『肥大化』や色々あります。適当に検索を掛けるとカオスな異界ゾーンに突入しちゃうかもしれません。ネットは広大です」
「そういう経験が?」
「ご想像にお任せします。あ、やっぱり止めてください。変な想像しそうですから」
「ふむ、残念」因みに、この大祭害の世界ではケモミミストだけでなく、ケモナーやズーフィリアも満足できる人外が揃ってます。やったぜ。さあ、君も一緒にグリグリモグモグしよう。「まあその手の獣好きって、十字架教に性欲が抑圧された結果が大きいとぼかあ思いますけどね。嘘か真かは別として、そういうネタが存在する時点でもう色々とイエローカード(キーワード:ドラゴンカーセク〇ス)」
「ケイさんは『ハドソン夫人』とか好きそうです」
「それがTVの中ならね。現実の動物に欲情するほど女に困っちゃいないよ」
「『漫画と現実をごっちゃにしてはイケません! 現実にあんな可愛い幼女はいません!』、などと言えたのはついこの前まで。今ではリアルでデカ眼のカラフル髪の鼻なしの美男美女がわんさかいます。コテコテの洋デザインのヒーローが横断歩道で青信号を待っています。もしかしてこの世界って『第五世界』か何か? また幻術なのか?」
「往々にして影法師よろしくメディアで造られた流行を知らない内に自分で選んだ意見と思わされているという意味では世界劇場かもな。そこん所、資本主義は上手いよね。よく『個性』とか『自由』とか『自分で考えろ』って言うが、そもそもそれ自体が自分で考え『させられている』という何処までもイタチごっこなのである。宗教も科学も戦争も畢竟、プロパガンダでござい。いや違うか。彼奴等は『And all the men and women merely players』ではなく『audiences』なのだから。演じる事を止めた観客。ネットに上がっている情報が世界の全てだと思い込み、かつそれが全部正しいと思い込んでいる奴がマジで一杯いるから困る。尤も、それをそうたらしめているのは、他ならぬ社会の要求だが。奴等は思考を放棄させる。何故かって、無知で無垢な羊は飼いやすい。
国別軍人募集ポスターでヤパーナの奴を上げて笑うような物さ。アレもイメージ戦略な側面があるが、何より美化したり煙臭くしたりすると左巻きの赤トンボが五月蠅いのだ。しかしソレを知らないものは無邪気に笑う。阿保だな。ああいうのを笑う奴等は、『莫迦にされる』か『莫迦たる』かの違いを知らんのだろう。ま、知られたら困るのだけど。そして知ってる者には無視されて、左巻きの赤トンボは9条片手にテロリストに突っ込む。その平和を望む思考さえも誰かに操作されたものと気付かずに、デモでさえ政府の操作した炎上商法と知らずに。特撮でCGじゃなくて本物の爆発使えとか要求する癖に爆竹やるなら遠くでやれとか、電気代高いと五月蠅いくせに原発造るなとか言うのと同じだな。物事は往々にしてそういう物だ。自分が良ければそれでよく、世界の限界は己の限界。
しかし解らなくもない。思考の停止した生き方は楽だし、鎖国的で現状維持な生き方の方が小難しい事を考えずに済む。理性的な教養者を増やすよりも適当に綺麗ごと言ってた方が政治的には色々楽だ。グダグダとウジウジするよりは、ノリと勢いだけのアニメ見てた方が面白い。自分から痛みを味わう被虐趣味で無ければ、それが精心衛生上にも宜しい。
ま、別にそんなのは今に限った事じゃないけどな。大体の奴は国の作った自由主義とかいう楽な道を信じるし、地動説に始まる科学VS宗教は架空戦記だし、学がないから個性や自由やチャチな表現で逃げるし……生物っていうのは、基本的にご都合主義で駄呆なのだ。実際に痛い思いをした事のない等等はこれまた実際に痛い思いをした事の無い奴が描いたヒロインを助けるヒーローアニメでも見て泣きながら竿でもしごいてればいい」
「ハッピーエンド至上主義なのです。色々言っても畢竟、望むところはソレですからね。痛い事も嫌な事も、望んでいるならその市民にとっての幸福です。後、ヤパーナに軍人なんていない(いない)。まあへらへら笑っているよりも、いざという時はちゃんと戦ってほしいですね。いや軍国主義じゃなくて。というか、ネットなんてアングラと言いながら、そんなアングラな事に目くじら立てている時点でもう術中にはまってますけどね」
「痛い所着く。まあネットは薄味で微熱で自動的で物言わぬ分、すぐ広がって増長するからなあ。ネットの情報操作は恐いよ。今じゃ『規制の酷い所では脳をデジタル化している奴の視界は女性の胸や尻を見るたびに視界が謎の消失光線でホワイトアウトする』とか『サブリミナル効果や電子ドラッグや疑似体験をかまされて夢と現実の区別がつかない』ってジョークがあって、『そんなジョークで笑えてた昔が懐かしい』っていうジョークがあるくらいだし」
「莫迦っぽいけど意外とありそうな噺で困る」
「カオス理論さえやってのけ現実かと思える『無限の城』よろしくな箱庭ゲームを造れる今日この頃、それもあながち莫迦にできない。確か、植物人間をユニバーサルオンラインゲーム協会とか何とかで遊ばせる計画があるそうで……」
「怖い噺ですね。私とは何ぞやと」
「『胡蝶の夢』『水槽の脳』『逆転クオリア』『カルテジアン劇場』『シミュレーション仮設』。さあ、好きなものを選ぶんだ」
「『おのれディケイドッ!』」
「そんな事言ったら俺達の青い星は何回ぶっ壊されてるか解んねえな」
「真実かどうかは別として、思考実験は楽しいですね。人殺しで悩む漫画の主人公はとりあえず『トロッコ問題』でもやってなさいと。『空想科学読本』も面白いです。空想科学の世界の中では『アレ』が万能です。『アレ』って? アレはアレですよ。硬くて大きいキノコなアレですよ。レイディオなラヂヲですよ。アレは何でもかんでも巨大化させます。もしかしたら超能力も『ゲッター線』的なアレに被爆した結果かもしれませんね」
「空想の塊が空想しますかね。空想度が二倍に成りそうだ」
「でもこの世界が何かと問われれば、『ファンタージエン』を希望します」
「物語の世界なんてろくなもんじゃない。規制はかかるし、見下されるし、ハーモニカで『ビートルズ』でも吹いてみろ。鼠なんて目じゃないレベルで著作権団体(YAKUZA)に訴えられるぞ。物語っていうのは、どれだけ『パクリてえ!』と思えるかだろうに」
「人の褌で相撲を取ったら怒られても仕方ないと思いますけど。でも動画サイトでは許されてる感有りますね」
「あれはね、偉い人だってそれを利用してるからさ。法律なんてそんなもん。俺はむしろヒットした作品の後に類似品が雨後の竹の子の様に生える方が遺憾だ」
「成程、つまりパンダの様に笹を食らう気概が必要というワケですな?」
「パンダは間違った進化だと思う。冬でも生える割に需要の無い笹を餌に選んだのは良いものの、元が肉食なんで20%しか消化できないし、別に美味いワケじゃないし、方や肉はもう美味いと感じる生体器官が残ってないし、月に一度は草を消化する体内の粘膜の張り替えの為に腹痛に襲われるし……憐れなもんだ」
「月に一度ってソレまるで……あー、何でもありません」
「ちゃんと来てますか?」
「失礼だなこの人はっ! 全く、心臓に毛でも生えてるんですか?」
「生えてるのは心臓だけじゃないぜ?」
「うわっ、親父臭いギャグ」
「むぐ……君みたいな子に言われるとマジで傷付くな(ミスった、「え、どういう意味と思ったの?」って言った方が良かったか)」
「あぅ、それはスミマセン。けども仮にも教会の娘、あまりそういう事言うと怒りますよ」
「しかし処女性を尊ぶのは十字架教思想。自慰行為すら罪と性に大らかな旧教に反発したのに過ぎんのでは? 兎角、死刑台を信仰するあすこは初めての人が夫じゃないと破局どころかその女の家ごと権威失墜だからな。ヤパーナなんて眼じゃないぜ。まあヤパーナの現代思想はほとんど十字架教だが。この前なんて、相手の家を陥れるために強姦魔を……」
「そ、そういうディープな噺は大人料金です」
「実はこの店で俺の知り合いが働いていて、こっそり薬を混ぜてもらったんだ。何の薬かって? 何、すぐに身体が教えてくれる。授業料は快楽だ。今夜にでも子どものお前を大人にしてや……待て待て、冗談だ、そんな仕事は受けてない。今日はな。いやだから冗談だって。手が後ろに回る事はしてないしするつもりはないよ。ランナーだって世間体という奴があるんだ。だから大声を出すなよ?」ケイは青ざめた表情でガタガタと震え出した路花に対し、ケイは笑いながら肩をすくめた。しかしケイは敢えて言わなかった。手が回ると言うのは結局、ソレが発覚した場合に限ると。パラシュートの故障など受理されていません。黒い冗談を笑えるって幸せな事。「ま、噺を戻すと、アレだな、物語の世界に行くなんて、あんな夢のない夢の国に行くなんて、俺だったら御免ですぜ」
「『言いたい事も言えないこんな世の中じゃ』」
「お前の台詞に如何ほどの価値があるの?」
「そう言われると辛い」
「ましてやあんなの『BAD END』だろ。物語から追い出されたバスチアンは失敗の度に自分がかつて愛した物語を思い出す。その度に自分を奮い立たす。だけど何時しかそれは鎖と成り虚無と成り、此処に彼は思うだろう、『あの頃は良かった』と!『自分の若かりし姿を見たいなら子どもの姿を見るといい、それがお前だ。自分の年老いた姿を見たいなら大人の姿を見ればいい、それがお前だ』。特別な事なんてありはしない。皆、大体、そんなもんだ。そうやって生きて死んでいくんだ。ふふ、ふふふふふ」
「そしてそれが騎士物語になったのが『Don Quixote』で、ラノベになったのが『Haruhi Suzumiya』なワケですね」
「あのヒロインが最後に『この世界に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者なんているわけなかった。今まで我が儘言ってごめんなさい。パソコンはパソコン部に返してください』なんて謝って死んだら爆笑もんだな」
「あれあれ? そういう本も読むんですか?」
「そりゃ読むよ。国籍だけで人間性を決める駄呆じゃあるまいし。というか昔は諸々の娯楽自体が低俗だったんだ。ならそんな本だって未来じゃ純文学になってんじゃナーノ?」
「でもその手の噺って大体哲学者や医学者が既にやってますよね。『戦争がー』とか『人間がー』とか。同じような事言ってばかりで、よく飽きませんね。そういう事を何度も言うのは、『是が言いたい』のではなく、『俺が言いたい』という事でしょうかね」
「ただの世代交代だろ。ポケモン商法と同じだ。ま、確かにやってる事は変わらんがね。『愛』だの『頑張れ』だの『一緒にいたい』だの、何時になったら人は進化できるのか。パクリや奇抜なんてのは古典を知らん者の台詞だ。しかし『俺が言いたい』ね。手前がそんなに高尚かよ。ましてやそこまでして伝えたい事がこの世にあるのか?」
「でもお義兄ちゃーう間違えたーぁ。……ケイさんでした」
「おおっ、リアルな言い方だな。ちょっと可愛いな(笑)。まあ、でも実際、俺も〈海の星〉の息子だから、お前の義兄でもあるわけだがな。今までロクに口もきかなかったから、そんな気分でもないだろうけど」
「あや? そう言えばそうでうね。じゃあむしろ感動の出会いと言うべきでせうか…………お義兄ぃちゃーんっ! 御小遣い頂戴?『アストンマーチン・DB5』が買いたいのっ♪」
「可愛い顔して甘えても駄目です」
「今なら懐いた子犬の様に抱き付いてあげるよっ」
「あー、俺はこの通り、界異と闘うタイプのヤクザなランナーだから、多分、不用意に触られると条件反射で張っ倒すだろうから止めた方がいい」
「冗談に思えないから困っちゃうよね」
「まあ、乗るだけなら知り合いに頼めば大丈夫かな。けど俺は小心者なんで、傷つけた時の事を考えると運転なんてとてもとても……って初めてのおねだりが『ボンドカー』かよ。クールだね、ステキだね。生身で人が空を飛ぶ時代に、今時、車かあ。意外と世界というものは変わらんよなあ?」
「大災害で色々なものが壊れたせいで、ルネサンスやロマン主義よろしく懐古趣味がお盛んなのです。社会に疲れた大人が、子供時代を思い出す様に……。というか、人類は星が生まれて百億年くらいかけてやっと広く世界に通じる十字架教という神を見出したのです。ポットでの大祭害如きで何か変わるワケもありません。インターネットが来ても言語統一すら出来ないのに」
「また社会派な事言いよる……(ふむ、根っこの所はクールだな。或いは、異常が平常運転か……?)。後、俺を義兄と呼ぶならアニーと呼びなさい。兄―、的な」
「じゃあ逆に兄さんもありですね」
「まさか俺の名前はこのネタの為だけに在ったのか……?」
「だとしたら運命的な者を感ぜぬには居られませんね。少し胸がトキトキしちゃいます。ま、そんな事は置いといて」「はい」「つまり、『俺が言いたいのか』まだ噺を戻して……それに対する私の応えは、でも、ケイさんは自分のこと好きそうです」
「うえ? そう見えるのか。心外だな……手前の価値なんて、手前で決めるもんじゃないよ」そう言って、ケイは少し苦笑いしながら肩をすくめた。「でも、まあ今や『未来の世界の青狸』と『世界で一番有名な鼠』と『蜂蜜好きなぬいぐるみの熊』が同時に居る世界観だしな。『スーパーロボット大戦』でも『ラスボス連合VSヒーロー連合』でも何でもアリだ。夢の共演って奴だ。そんな世界にでもなれば、自分の程度を試したくもなるだろう」
「そう言えばこの前、図像学の重鎮、『ピクトさん』を見ましたね」
「誰だソレ」
「ご存じ、ないのですか!? ある時は安全な逃げ道を導く先行者、またある時は体を張って注意を促すベテラン、果ての時にはジャッキーもビックリな最近のアニメでもあそこまでは動かないスピード感あふれる多種多様な技を繰り出す少々の格闘までこなすあの世界的役者『Mr. PICT』を知らない! へーっ!」
「どーせ俺は非界民だよ。というか最後の棒人間だろ。つーか懐かしいなオイ。まあ今でも割と好きな奴多いが……因みに、お前が会ってみたい大役者は誰だ?」
「『ゼロ』さん!」
「Zero Sun?」
「YESYES!『オレは、なやまない。目の前に敵が現れたなら……たたききる……までだ!』。はあああああああん! かあーっこいぃぃぃ! もぉ、チョー舌憧れですよコレ!『私にとっては、あなたはもう ゼロなのよ』とか『我は飯屋なり! フハッハッハッハ!』とかもチョーグーですっ!」
「……あー、ソッチのか」路花のハッスルぶりに苦笑いしてそう言った。ケイも人並みにGAMEはやるし路花の言っている奴もそう嫌いではないが、流石にここまでではない。むしろ「そんな事に時間費やして何か意味あんのかねえ?」と思う方である。
「その問いはナンセンス。『こんなん勉強して意味あるかいな』とか『どうせ将来使いませんわ』とかせせーら笑っていいのは思考停止した者です。自分一人で生きていけないくせに親の存在を疎む中学生です。その意味あるか解らない知識で出来ているTVゲームを享受しか出来ない受け身です。自分の知っている世界だけで満足してはイケません。虚数の叡智を知りなさい。カツ丼食べた事ない人はカツ丼食べたいなんて言いません」
「言いたい事は解るが最後の例えはどうかと。まあでも勉強は必要だよな。TRPGしてるとよく解る。狂人RPなんてのは本当に頭の良い奴でないと出来ん。皮肉な事にナンセンスっていうのは、センスがある奴じゃないと出来んのよなあ……RPならな」
「TRPGは苦手ですねえ。『行動制限』と『運任せ』が自分の力ではどうにも出来なくてモヤモヤします。だからターン性RPGとか苦手ですし、一手づつしか動かせないチェスとか将棋とかも苦手です。ソシャゲなんてその最たる例ですね、パチンコです」
「お前は皆の為に動こうとしてドジ踏んで何だかんだでアホの子扱いされそうだ」
「失礼な。私頭良いですよ。INTも何時も高いですし」
「その発言が既にアホっぽい……。てか苦手なのに『何時も』という程やるのか」
「上手さと面白さの方程式は等号ではないですからね。ていうかとTRPGなど車の運転手が巫山戯て邪神の巣に突っ込んで爆発させて乗ってるパーティー全員をガメオベラさせてセッションが滅茶苦茶になっても笑い飛ばせる程の許容度じゃないやってられません」
「いやそれは運転手の笑劇屋に問題があると思う」
「まあ兎に角、昔の人は言いました、莫迦と鋏は使いよう。無意味に意味を見出すのが生き様です。ツマランという奴はそう言う奴がツマランのです。想像力が足りないのです。己の限界が世界の限界と知りなさい……む、ちょっとカッコいい事言えた」
「『ウィトゲンシュタイン』? 言っとくが、ありゃ前期だぜ? それに無意味に意味を見出した結果が自然破壊かも知れんけどな。獣皮の為だけに動物を絶滅させるなんてその最たる例だ。つかそれ、どーせメリューの言葉を適当に言っただけだろ」
「まあそうですけどね。でもそうじゃないですか? 子どもの頃は『ツマンネー』って思ってた作品も、大人になると『ほう、中々作り込まれてるな』って思えます。アニメな派手なエフェクトやサウンドも良いですが、それだけではやはり一過性、取っ替え引っ替えされるヒロイン、楽しいだけの魔の薬。やはりアダルトは『市民ケーン』や『ゴッドファーザー』や『2001年宇宙の旅』ですよ。巧みだけれど主張しない演出。探求する味わい方。通ですよ通。酒は酔うのではなく味わう物なのですよ、フフフン……♪」
「『2001年』年面白いか? HAL9000が擬人化の走りである事は認めるけど。ていうかこんな時代から『機械は人間を淘汰する』って言われてるのにまだ淘汰されてないんだけど何時になったら働かなくて済む時代は来るんですかね? 働かなくて良い日が来るんですかね? 技術的特異点突破してラプラスの悪魔化した機械と一体化して新人類の神と成れる日が来るんですかね? むしろアレはある意味で進化と資源が無限であると思っている明るい未来像なのかもしれないなあ。ディストピアさえも夢のまた夢。まあ兎に角、ぶっちゃけアレは制作秘話か批評か解説見てた方が面白いし、アンサイクロでも見てた方が時間の無駄にならないと思うね、俺は。それこそ高尚な見物だよ。制作時期が人類が初めて月に到達する以前という事を知ってれば、そこそこ見えるかも知れないがね」
「まあ私もソレは最初の『ダダァ――ン』程度しか覚えてないんですけどね。後は睡眠導入剤です。ていうか私御酒飲めませんし」
「なんじゃそりゃ」
「あ、でもでも、『オトナ帝国の逆襲』とか『おもひでぽろぽろ』に懐かしさを感じます。『Some say love, it is a river, that drowns the tender reed~♪』」
「背伸びしたいお年頃。嘘付け。お前の歳で何故に昭和が懐かしく感じるよ」
「Hmm……昭和を知らないのに昭和を懐かしく感じる不思議。解りませんかねー?」
「んムム……? 血の記憶かねえ。む、ちょっとハズい事言っちまった」
「所で、唐突ですが昭和と言えばジャズ・エイジですね。裏通りの隠れ家的な、レンガ造りの、ちと煙っぽい店で、丈の長い服を着て落ち着いて尚且つ洒落た古典派メイドさんがOMOTENASHIしてくれるのです」
「本当に唐突だな。西欧に欧米……? 年代はあってるが、変な組み合わせだな」
「私の中では何故か昔から合致するのです。漫画や誰かから知ったワケでも無いのに」
「無意識に精神感応して他の奴の思考とごっちゃになってんじゃネーノ?」
「うーん、否定できないのが何とも。『解離性同一障害』は精神感応使いの悩みの筆頭です」
解離性同一障害……つまり俗に言う「多重人格」の事である。学術的には、アレは一つの精神が分裂したような病気とされるが、さて、実際は、幽霊の憑依よろしく……?
「まあアレじゃね? フロイトな防衛機制の摂取や同一視よろしく、『こんな事があったんだなあ』と大人が考える昭和像を自分の事の様に思ってる、とか」
「おおっ。何か心理学者っぽいですね。カッコいいです」
「ウィキで調べた程度の知識で喜んでもらえば安いもんだ。浅学な俺でも賢くなった気になって、良い気になれるよ」
「ネットサーフィン! いいですねえ。私もよく夜遅くまでして……」
「はよ寝なさい」
「うぅっ。お義姉ちゃんみたいな事言うなあ。うーん、けどケイさんは意外と私生活ちゃんとしてそうですね。早寝早起きして適度な運動と健康な食事をしてそうです。私は人を見る眼が在りますよ。コンビニから貰える廃棄弁当に殺鼠剤が入ってないかとか、この人は付いて行って大丈夫かどうかとかを見分けるのは家無し子にはとても重要ですからね。伊達に孤児はやってねえぜですっ!」
「反応しにくい事言うな。つかお前の精神感応は何のために在るんだよ」
「だって勝手に覗かれたらイヤーンでしょ?」
「普通な反応されちゃったなあ……精神感応は普通じゃないけど」
「まあ兎も角、話を戻して」
「何の噺だっけ?」
「フリーダムですね私達の会話。マルチタスクって奴ですね」
「ただ単に会話中に出てきた店屋物に一々脚を止めてるだけだと思う。しかも上手く纏められないのに買いまくってごっちゃごちゃ。ま、この街じゃそれも性に合ってるか?」
「まあ兎に角、アレです、『無駄に無意味を』のシーンです。
そして義姉様の独り言曰く、『何かを無意味というのなら、本質的には大して価値のない貨幣がそうである様に、何だって無意味』です。どれだけムカつく人種(e.g.『お客様イズGOSH』)が居ても、それが古今東西いるのなら、アレも世界的には要求と需要がある必要人種なのだな、という事が解ります」
「世の中には無意味なものなんて幾らでもあるだろうよ。女が喪服を着るのは気を惹くための嘘である事や、アルバス・ダンブルドアはセブルス・スネイプに殺害される事や、アバン先生は実は生きている事や、ダース・ヴェイダーの正体はルーク・スカイウォーカーの父親である事や、『The Sixth Sense』の主人公は実は死んでいる事や、原作の『Peter Pan』は大人になった子どもを殺す事なんて、別に知らなくても生きていけます」
「すっごいネタバレ」
「ネタバレが恐くてオペラは見られませんよ。つかどうせアレだろ? 最近のアニメがツマランという奴は自分で面白い奴を探そうとせず家畜よろしく垂れ流される人気アニメを流し見する奴ばかりだろ? そんな感想に何の価値がある。世の中なんて無駄ばかりだ。
まっ、戦争も宗教も往々にしてそんなものなのは、頭でっかちな奴なら誰でも知っている事だがな。往々にして人は、自分選んだと思った正義がプロパガンダで選ばされた正義だと知らん。理由も無く、人殺しが駄目と言ったり、人を助けるべきと言ったり、裸になるのは破廉恥だと言う。つまりご都合主義。『私は少しだけ歴史を学んだ。それで知ったんだが人類の社会には思想の潮流が2つあるんだ。人の命以上に価値があるという説と、命に勝るものはないという説とだ。人は戦いを始めるとき前者を口実にし、やめるときに後者を理由にする。それを何百年、何千年と続けてきた……。いやぁ、人類全体なんてどうでもいい。私は全体、流した血の量に値するだけの何かをやれるのだろうか……?』」
「『私は少しだけ青春を学んだ。それで知ったんだが人類の学校には生活の潮流が二つあるんだ。何もかも投げ出して良い時があるという説と、人生なんて所詮はこんなものだという説とだ。人は一年の始まりに自分にも何か物語の様な面白い出来事が起こると思い前者を口実にし、結局一年の終わりに今年も何も無かった時に後者を理由にする。それを小学生、高校生と続けてきた……。いやぁ、学校生活なんてどうでもいい。私は全体、昼寝した時間に値するだけの何かをやれたのだろうか……?』」
「止めろ。止めろ」ケイは思わずコップから水を吹き出すのを堪えてそう言った。「因みに、一つ付け加えよう。つまり、磔男が皆に好まれるのはだ、シスターが出せるからだ。アレにイヤーンな妄想を抱くのは、大和も英国もそう変わらん」
「じゃあケイさんもメー義姉様にイヤーンな子としたいのですか? 軽蔑します!」と顔だけを上げてツッコミ。打ち上げられた魚みたい。「けどまあ解らなくもないですね。姫姉様は包容力抜群な大和撫子ですからね。『時の流れを旅する青春の幻影』ですからね。それでいて滅茶苦茶強いですからね。『反神羅組織「アバランチ」のバー「セブンスへヴン」の看板娘」ですからね。『仙人と仙人の間に0.000000003%の確率で産まれる純血種の仙女』ですからね。メー義姉様は強いですよぉ、相手がどんな怪物でも素手喧嘩で殴り飛ばします! 強くて綺麗で優しい、男性の求める女性の最終形態みたいなものですから、甘えたくなるのも無理ないです」
「『I know I need to be in love~♪』」「それは『青春の輝き』」「『青春の幻影』とかそんな台詞どんな生き方したら思いつくんだろうな。まあ拳骨が硬いのは認めるけど。つーか大和撫子ってあの人ってヤパーナ出身なのか? まあ確かに、あの穏やかながらも芯のある気風は米風というより和風だが……聴いた事ないぞ。あ、いや、別に知りたいってワケじゃないぞ。いやそうとも、知りたくないね。ふん、ドイツもコイツもメルメルメリュー。そんなにアイツが高尚かよ。そりゃ、アイツは『困ったらとりあえずこの人に頼んでおけばいい』ってレベルで頼りになって、お前の言う通り美人で慈悲深くてそのくせ阿保みたいに強いがね。それこそ、何処ぞの【BLADE】みたいな……チェッ、何でアイツの名前が出てくるよ、どのみち男は皆、何時かは女から卒業しな……いや違う、卒業以前に入学なんぞ俺は……ああクソ」ケイは頭を振った。どうにも彼女の事になると頭が空回りして呂律が回らん。きっと「あんなスベタの事を考えるだけ時間の無駄っ!」と頭が知っているのだ。「兎に角、えーと、甘えたいのはお前さんだろ。一緒にスンな」
「ケイさんは漫画擦れしてそうですからテンプレキャラとか食傷ぞなもし?『哲学のできないANIMEなど魔法の粉の無い「ねりねりねりね」でごわす!』ってな感じで」
「何だその意味不明な台詞。不思議キャラ狙ってんのか? お? まあMOEとか言う奴は正味、欧米の汚ないバタ臭い幼児向けアニメにヤパーナが感じる所と変わらんかなあ」
「私アレ化学調味料っぽくて苦手何ですよねえ」
「あー解るな。俺は『遊ぶ=汚れる』という偏見があったから尚更なあ」どーでもいいけど、化学調味料とかを駄目な子扱いするのはどうかと思うね。殺虫剤より野菜の出す毒素の方が強い時だってあるんだぜ? どーでもいいなら話すなって? スマン。「因みに俺ぁテンプレで言えば黒髪ポニテ胸デカの巫女みこナース大和剣道女子が好みだな。いやナースは要らんけど。後、自信家魔女や寡黙狼くノ一や黒エロフや壁穴から抜けなくなる様ないい身体したオドなしい清楚系やこの子なら絶対にヤらせてくれるって思わせる幼いニンフやヤンベタ甘健気病弱丁寧エルフ妹や良家の才色兼備の淑女ででもサファリで密猟者相手に散弾銃撃つくらいちょっと御転婆な片目に縦海賊傷をつけたお嬢様も捨て難い」
「何ですかその数え役満な明日死んでも悔いの無いキャラ作り。新ジャンルスレとかVIP向けのRPGで茄子と水煮でも嫁にすればいいんじゃないですかね(無言の腹パン」
「『数え役満』と彼女は言った。しかしその意味を実は知らないのであった」
「何故バレたし。麻雀が出来れば何か煙吸ってる昭和チックを味わえるんでしょうねえ」
「暇があれば教えてやるよ。あ、そうそう、それにメインヒロインよりかサブや名無しのモブの方が好みかな。実妹より妹友的な」
「あ、この人マジでヤバいタイプだ。頭を金髪にして逆立てて女性のスクール水着着て日中の往来を歩いている中年のおじさんくらい頭イっちゃげふんげふん個性的な人だ。しかしその良さを解ってしまう私がいる」
「そういう頭の可笑しな人を見た時はこう思えばいいよ。『あ、コイツ薬やってんな』って。イライラする奴に会った時も面倒臭い奴に会った時も、大体これで解決できる。そう思えば世界は平和になる。年がら年中お花畑に成る。精心衛生上これ以上に優れた薬はない。それでも駄目な時はこう思えばいい。『あ、オレ薬やってんな』って」
「それ本末転倒じゃないですかね……」
「でも、ぼかあ一緒に莫迦やってて楽しい超能力少女の方がもぉーっと好きです。何だかんだ言って兄貴のお莫迦なノリに付き合ってくれる理解ある妹って良いですよね。垢抜けてるようで素人的田舎臭さを残した幼さがまた。嗚呼、夕焼け色の空を何処までも走って行けると信じていた『少年期』の夏(10歳)。そしてある時に同級生の友達に『えー、○○ちゃんまだお兄ちゃんと一緒にお風呂入ってるのぉー』とか言われて距離を感じるようになるのさ(大人の階段のーぼる~ 君はまだーシンデレラっさあ♪」
「メリケでは例え家族でも五歳児でも父親とお風呂に入ったら警察が来る事もありますし、最近の小学生はお風呂所かアッチ方面の階段も上ってるらしいですけどね」
「そんなに生き急いで何になるってーんだばっきゃろーこのやろー。まあそりゃ気付いたら30歳NEETとかツンデルけどな」
「べべべ別にケイさんの事なんて何とも思ってないんだからね!『勘違いしないでよね!ふんだ! ふんだふんだ! だっふんだ!』」
「それはツンデレ。時にあのCM、色々とネタにされたでしょうね。『キリンよりゾウさんの方が好き』ってアッチ方面の臭いがするなーと邪推」
「何ですかそれ?」
「歳の差を感じる。『先生の言ってるエー語が解りません』って言われた感じ。エー語じゃねーよヤパーナ語だよ。昔のアニメ曲を聴いて『あの頃は良かった』と思い出す原風景」
「素直に楽しめばいいのに」
「『素直』って何だ。『無抵抗』だろ。『イイネ』や『イクナイ』ばかり言って『じゃあ何処が如何にイイの?』と訊かれて説明できない様じゃ、小学生の感想文だよ。まるで愛の無い性行為だ。問題点ばかりあげつらって解決策は一個も出さない経済学だ。そりゃ自由主義は『人それぞれ』だと言うし、非合理主義者は『面白ければ良い』というのだろうが。
けど俺は考察するのが楽しいんだよ。『Jurassic Park』よろしくハッタリかました頭を空っぽにして見るティラノもいいが、実はハイエナよろしくな生活も送っていたのではないかという、真理の探究事態にも面白さをだな……」
「そしてそれもまた設定主義……ちゅーにびょーみたいな」
「最近の厨二病はイカンね。ちょっと神様の名前出しただけですぐ莫迦にする。そんな奴は世界が狭い。じゃあ十字架教の信者は皆病気なの? 違うでしょ。その人にとっては真剣なんだよ。歓喜の歌なんて日常なんだよ。そういう奴等は心の何処かで戦争とか貧困とか難民とかそんな自分にとっての非日常までフィクションだと思い込んでいる奴だ。そうやって心の平穏を保つのだ。誰もが暴れ出したい狂気を持ってるくせに。そんなに他者を虚仮にしてまで自分が素面でいたいのか。え、何、『何マジになってんだよ。空気読めないな』ですと? そりゃイジメっ子の論理だ。やられる方からしたらマジで痛いんだ。ましてや真面目にやってる奴を虚仮にすんな。莫迦から見れば素面な方が莫迦かもしれんのに。いやむしろそんな莫迦なら友達になりたいとは思わんか?
ま、けど最近の厨二病も甘いけどね。病気扱いするには甘い甘い。温めたコークより甘い。そんな程度じゃ現実との乖離が足らん。太陽を盗んで皇居に撃ち込んで消火器爆弾設置しながら北上して新興宗教打ち上げて地下鉄で毒ガス散布して人間失格してライ麦畑でフリスク決めて天使の輪に祈って祈り切れなかった後にホワイトハウスで胎児と踊るくらいじゃないとね。つーか昔の小説家ドイツもコイツも不幸過ぎるんだけどナニコレ。兎も角、精心病は他者に迷惑を掛けなきゃ病気とは言えんのです。『貴様ら去勢でもされたのかぁ!!? 漢ならば世界征服こそ夢! 遙か過去からわずか数十年前までには現実に漢が持ち続けていた夢だ!』ってね。娯楽商品エセ厨二病は真剣さが足りんね。お前そりゃ厨二病舐めてるよ。せめて厨二病を名乗るなら『ぼくのかんがえたさいきょうの』魔術理論で大学院卒業論文書いて来いと」
「『それが世界の選択か・・・』その手のスレッドには何時か参加してみたいです」
「異能者ってそーゆーの好き?」
「『異能者だから』っていうのは確固略ですが、うーん、どうでしょう、最近のそーゆーのはエセばっかりですからねー。つまり『ネタ』でやっている。マジもんの奴はマジでやってますから。好きとか嫌いとか、そういう噺じゃない。所詮、物語とは、検閲と校閲を繰り返した理性的な代物なのよ。僕はね、そういう事が言いたいんです。他人に共感される邪気眼なんて邪気眼じゃねーッ!『遊びでやってんじゃないんだよ!』。一匹狼が俺のジャスティス。ナンセンスはセンスの過剰に酔って語られるのであり、つまりイミフです。今こそカノッサ機関は邪気眼を一記号な消費単位に押し込めて他人の褌でMOE語るような資本主義者に鉄鎚を下すべきです! アングラで丹精込めて作ったネタまで搾取して光の下に晒すとか……アンタ等は鬼か! まあその鬼で経済は回っているのですが」
「あーまーなー……ネタでやってるんじゃない、好きとか嫌いとかそういう噺じゃない……至言だな。異能者がファンタジー語るなって言われるだろうが、マジもんの不思議ちゃん(ドン・キホーテ)が他のファッション不思議ちゃん(ミュウヒハウゼン)に興味を持つかどうかは微妙だ、って噺だよな」
「てか厨二病なのに卒業論文とはこれ如何に。厨二とは不治の病なのか。そして世間では実際に世界征服に乗り出す者を厨二病とは言いません。言うだけの者を厨二と言います。若気の至りや焦燥感だけで輝かしい青春をフルスイングでドブに捨てたら、それはカッコいい事だと思います。惚れちゃいますね」
「うわあ、ひも理論。この義妹にしてこの義兄ありだな。駄目男が好きなんだ」
「まさか。メー姉の娘たるもの、駄目な人はブン殴ってでも更生させますよ。尤も、何が『ほんとうの幸』なのか、浅学な私には判りかねますが」
「そうか、いや無粋だったな。忘れてくれ。
ま、兎も角、だ。誰かに認められる程度じゃ厨二病とは言えんのだ。むしろ高尚な芸術がそうである様に、見知らぬ誰かに共感される程度では程度が低い。『空にある星を一つ欲しいと思いませんか?』『屋根の上で、竹竿を振り廻す男がいる。みんなゲラゲラ笑ってそれを眺めている。子供達まで、あいつは気違いだね、などと言う。僕も思う。これは笑わない奴の方が、よっぽどどうかしている、と。そして我々は、痛快に彼と竹竿を、笑殺しようではないか!』」
「Hmm……成程、『道化の華』ですね。『心意気だ!(モン・パナッシュ)』、です。『サークリットガール』並の魔術論文を造る程度にしてほしいですね。それか冬の川に二人でドボンして一人だけホワイトハウス行きか」
「うん? 理解されちゃったか。俺もまだまだだな」
「えー。じゃあワケ解りません」
「何だと? この程度も解らんとは、程度の低い阿保な女は好きじゃないな」
「どないせーっちゅーねん」
「兎も角、現実的な理論と資料を踏まえつつ世界の向こう側にトリップしちゃったサイバーパンクこそ頭の爆発したパンクなのです。例えば『完全生命体』や『風船怪獣』や『柳星張』が上陸した場合の国の対策法をクソ真面目に考えたり」
「そしてめくる目狂の最強議論に」
「アイツ等は『喧嘩したらどっちが強いか』とかそういう話じゃないけどな」
「けど解ります。私も空想科学っては大好きです」
「空想科学の権化な超能力者が空想科学で楽しむとは、可笑しな時代になったものだ。しかしなら解るだろ。考察すれば想像もはかどる。例えばそうだな、守破離よろしく典型的なエルフを脱して、もっと現代的なエルフにしよう。古臭い弓矢じゃなくてベレッタ92を両手に持たせよう。文字通りの魔法の弾丸を発射させよう。或いは近未来で魔法で光線銃撃ったり、英国の軍服を着てボルトアクション式の銃持って『最後に消すと約束したな。あれは嘘だ』とか言いながら敵を撃ったり。たまには都会っぽいエルフも見たいもんです」
「それ多分、『銃と魔法』とか『コップクラフト』とかだと思うのですが」
「斬新って難しい。ぢゃあ、田舎なら実は食人で森に迷った村人を一晩止めてねんごろしながら食べるとか、何か良くない?」
「そんな恐いエルフさん嫌ですよ。それこそ魔女狩り待ったなしですよ。そしてどうせ銃なら私は火打石式が洒落てると思いますね」「何か海賊みたいだな。テレリだ。まあ狩猟民族と捉えれば……ってそれじゃ山賊だな。けどそれでも適応力高そうな和国だったら友愛の精心で保護するかな? 金髪碧眼長耳の和服エルフ……エキゾチックだね」
「あの国は判断基準がよく解らないから……というか何でもいいんじゃないですかね、恥の文化というか面倒臭がりの文化。『人様に迷惑かけるな』が高じて助ける事もロクにできない。あるいは世界を変えるのと自分を変えるとの違いか。主体性の乏しい系ラノベ主人公との親和性に秘密がありそうな希ガス」
「でもエルフちゃんに食べられるなら良くね? だって、エルフちゃんだぞ?」
「だからどうした。というかエルフに銃ってどうなんですかね? あの長い耳、まあアレもロードス島型か何かなのでしょうが、アレは音を良く聴くためでは? なら銃はちょっと五月蠅いような」「やはり食人だったか」「いや狼じゃなくて」
「兎の耳みたいにか? なら後ろからの音が聴こえにくそうだな。それに寒い土地だと霜焼けしそうだし、森の中を歩いていると引っ掛けそうだ。まあ尤も、人間が白人黒人ばかりじゃない様に、エルフも長耳ばかりとは限らんがな。そもそもエルフが美人なのは大和設定で洋画だとアマゾネスだし。けどやっぱエルフは色々想像できるな、何たって白人主義の権化だから。十字架教の代わりに魔術が一般の世界ならエルフは現人神扱いだろうし、その代わりに寿命が長いんで個体数が滅茶苦茶少なくて記録を残すという概念が少なさそう。そう考えると割とハイスペックなくせに年中繁殖期の人間ってやっぱりアレなんだなあと思わずには……閑話休題。けどトールキン型じゃなくても長寿というだけで学力半端ないし世界の経済掌握して一国の王にすらなってそう。けど騎士団長設定が私は好きです。娼館とかあったらまさにエロフでそりゃあ遊んでる貴族の御子息よりもごにょごにょ。まあ兎も角、そういう発想が出来るワケだ。獣人だってそうだ。獣であれば恒温動物なので体温が温かいとか、耳をパタパタさせて身体を冷やすとか発情期とかも……げふんげふん」
「そんな事言うなら、一緒に過ごすとなった場合のイヤーンな方も考えなくちゃいけませんね。つまり、牛集族なら住処の階段やお風呂とかを改修しなくちゃいけませんし腰が砕け散りますね。粘液族だったらやっぱり絨毯がベトベトでというか家全体がベトベトです。風翼族だったら子どもの卵生と胎生の違いや手が使えない時点で雇用条件が厳しいです。後獣人は元の動物の本能に逆らえるかどうかが問題ですね。蟷螂とかだったら食べられちゃうんじゃないですか?」
「さらに言えば植物類だったら日の明かりがない時は『あうー』とか言って元気無くしたり、硝子型の鉱物類だったら中身が透過できるのか。それは……何か、こう、良いな、植物の方だけ」
「ケイさんがいいならそれでいいんじゃないでしょうか……ケイさんの中ではな」
「まあそんな設定が出たら出たで駄目出しするんですけどね」
「無抵抗に楽しめばいいのに。けどある人は言いました、『女性は女性であるだけでミズ・テーリオンである』」
「まあ、女学生は大人になったらもう会えんしな。教師が犯罪に走るのも無理はない」
「そーいう意味ぢゃない(ビシッとツッコミ」
「そか。時にお前は学校とか行ってんの?」
今日日、学校に行く者は「お金の無い者」か「原理主義」である。まあそれは言いすぎだが、実際、知識を得たいだけならばSFよろしく電脳化して情報をアプリの様にインストールでもした方が手っ取り早い。故に学校は一種の趣味の様な部分もなくはないのである。しかし学校の存在理由は学習の為ではなく、共同生活の訓練とか関係を作る場とか何かの目的に努力する為の習慣作りとか色々あり、また学習の面でもその手の者に言わせてみれば「生の知識を得て初めて血の通った『知恵』となる」そうで、需要が無いワケではない。しかしそれも単なる技術の問題であり、将来的には本物と変わらなく――異界書房刊『子どもの「学校に行って意味あるの?」に対する108の返し方』より抜粋。
「はい、学籍はありますよ。しかも今はチアリーダーをやっています。学生ヒエラルキーたるスクールカーストの上層ですよ」
「Huh、なら俺はパニック映画でギークを虚仮にして初っ端でやられるジョックだな。或いは道化師なワナビー。こりゃ、銃で撃たれないように注意しないとねえ?」
「ブラックジョークにも程がある……。でもあの学校、異界から吹っ飛んできた学校でして、大祭害以降によくある無責任もとい自由な校風で、そーゆー階級制度はあんまりないんですけどね。何て言ってたかな。名状しがたい冒涜的な発音ですのでさっぱり覚えてないですが、うーん……『AREL―」
Crack! それ以上の路花の台詞は続かなかった。路花の前の水の入ったグラスが割れたからだ。そしてケイは顔を手で覆って俯いていた。酷く気分が悪そうだった。
「……いきない黒板や食器を爪で引っ掻いたような声を出すんじゃない。他の客に迷惑だ」
「あぅ、スミマセン。じゃあ通称で言うと、『ミスカトニック大学』と呼ばれています」
「あーそう……」
とケイはげんなりしてその台詞を流した。因みに割れたグラスはウェイターが慣れた手つきで片付けて新しいグラスと水を持って来てくれた。この街ではよくある事である。店が吹っ飛ばないだけマシだ。ケイは適当にチップを払って軽く「Thank you」と言った。
「ま、兎角、」と、路花も路花で何て事の無いように台詞を続ける。「この国はヤパーナも泣き出す程の学歴主義の成果主義で学業成績がダイレクトに影響しますが、あの学校は外で学んだ事を成績に反映できまして、こうやってフラフラしてても結果が出ればオーライなのです。これがヤパーナなら、大学受験はおろか就職活動も試験日が決まっていて一発勝負なんですよね? 恐ろしい事です。その国なりの事情があのでしょうが、やり直しの効く生き方をしたいものですねえ。一度失敗したら全部パア、というのはノンノンです。ランナーはいいですねー。現在形の実績が在れば試験や資格や年齢制限などを色々と免除してくれますから。幅が効きますし、子供の私は大助かりです」
「子供のくせに何を世を憂いた事を言って。俺は『試験に受かれば良し』って方が楽でいいけどなあ。資格や免許や単位の為に何時間も講義を受けなきゃいけないシステムは時間の無駄だし、ダラダラ時間を潰しただけでそれ等が貰えるシステムはもっと無駄だと」
「子供の頃から準備してないと大人なんて『アッー』という間ですよ。自由だなんだと響きの良い言葉を信じ込んで遊んでて高校卒業前の進路相談でプロの野球選手になりたかったけどプロになるためにはそれこそ小学生時代から努力するのが普通と知って『なぜオレはあんなムダな時間を……』とリアルで言っていたジョンの顔が忘れられない」
「ゆとり教育の典型ッスな。つー事は、『生のスポーツ』か。そりゃ難しいわなあ」
異能者や機械者や異形者が文字通りレーザービームで投球したり生身の制限速度が法律で明文化される超人時代な今日この頃、生身の人間族が普通に努力しただけでは、とても追いつけない距離があるのであった。
「しかしその点、私は恵まれています。周りに素晴らしいOTONAがいますからね。メリューお義姉ちゃんやベルカさんがいろいろ教えてくれます。お義姉ちゃんはよくフリースクールをしますよ。教師の資格もあります」
「『ベルカ』……ああ、あの【闇夜の旅人】とか自称する魔法使い」
メリューに会う手前、何度もあっているがそれほど深い交流はない。気の良い莫迦……もとい元気な娘だったと記憶している。
「私もメリュー先生みたいな良い先生になってみたいです」
「今の世の中、なるとしたら『Hell Teacher』だな、ククク。しかし今も昔も、学校に通えない者が沢山いるというのに、学校でしか教えられない教師になる意味はあるのかね?」
「ソレを言われると全ての仕事がやるせない感じになっちゃいます……」
「そう思えるのなら、君は真面目な娘だという事だよ」
「友達には心配されてるだろうなー。きっとなななちゃんに口煩く心配されてるに違いない。そして噂好きのムイ先輩には色々と捏造されているに違いない」
「募金に見せかけてパンパンしているんだよ!、とか?」
「『パンパン』?」
「メリーさん的な」
「メリュー? 電話の人? 阿部さん?」
「最後の奴は聴かなかった事にしてにして、天使の輪的なアレだよ」
「あー、なるなる。『な、なんだってー!』……ってなんでやねん(ツッコミ」
「オー、一人時間差イッツヤパーナツッコミ。やんややんや」
「アホですか。あまりそういう下ネタを言わないでください、対応に困りますから」
「困るという事は無いだろう。今やこんな世の中で、ましてやメリューの娘だ、俺くらいの変な人くらい一杯会ってるだろう?」
「確かに私は色々でいロリろな幼女に会ってます」「え?」「噛みまみた。確かに私は色々な面白い人に会ってます。だからその分、比較的に面白度の判定は厳しいですし、現に私はケイさんを何処ぞのラノベやギャルゲの主人公よろしく『貴方みたいな人は初めてです///』なーんて簡単に特別扱いはしてあげません。ソレが初めてに見えるならそれはただ単に貴方の世界が狭かっただけの話です。その見た目も煽て無しでTVの俳優程度にカッコ良いですが、超能力や魔術で容易に姿を変えられる今日日、見た目は昔ほど意味を持ちません。故に以上を持つとケイさんも、そこら辺に居るその他大勢の一人に過ぎないでしょう」
「解っちゃいるがそこまで言われると流石に凹むな……」
「けれど初心が大切なのです、初心が。何でもありになってはツまりません。何時でも心は『Girls, be ambitious.』です」
「何時でも心は処女……いや何でも無い。あの言葉は色々と諸説あって、実際に何て言われてたのかはよく解んないし、言った本人もあまり幸せな人生とは言い難いけどな」
「それでもなお言われるという事は、それだけ望まれているという事です。ソレと同じように、ケイさんが私と仲良くなる事を望むなら、私も喜んで貴方と仲良くさせてもらいましょう。初めは初対面でも、そこから仲良くなっていくのです。それが青春なのです」
「青春ですか。それはありがたい事ですね。ちと年老いたお兄さんにはアレはあまりにケーキの様に甘ったるくて天ぷらの様にむつこくてTVの様に眩し過ぎるけど……ま、程々にしてください。親父臭い俺には、下ネタが似合ってます。まあ下ネタと言っても、ギャグじゃないけどね。さっきの下ネタだって、『天使の輪は家族に恵まれなかった者が行う理想の父親を見つける無意識の儀式なのだ』とか真面目にぶってた研究も在るとか無いとか。ま、とりまスマンね。配慮が足りなかった。異能者と言っても、そこは女の子かい?」
「一般常識ですっ。いえ、一般を語れるほど私は一般人でもありませんが……。まあ、それはさて置き、それに、勉強の方も、あんまり遊んでいると置いてかれちゃいます。何だかんだ言って学歴という者は人の能力と努力を測る指標ですから。むしろそれを蔑ろにしてよく解んない評価を礼賛する方がトンチキかと(i.e.ゆとり教育」
「大人なら良かったのにね。だって大人は学校の教科書なんて開かない! ま、俺は温故知新な大人だから、ちゃんと一般教養も常に勉強するけどね」
「良い心掛けですね。水の谷の姫姉さま(メリューの事)もよく大学の本とか読みますよ」
「Bleah! 気取ってやーんの。気持ち悪っ」
「またそんなテンプレなツンデレを……」
「ツンデレちゃうわ。つか学生何て大人から見れば年中夏休みみたいなもんだろ」
「えー。冬休みも欲しいです」
「天然か(ツッコミ」などとケイが苦笑い気味でいると……その横をウェイトレスが通った。またしても人外の者だった。下半身に足が一杯生えていた。「今度は蜘蛛だ。流石にMuffetはどーかと思う。いや差別じゃなくて。これは純粋な感想だ」
頬杖をついてぼーっとその女蜘蛛を見ていたケイは、じーっと見つめて来る路花に気付いて途中から弁明に入った。しかし路花の方も、何てことないし言葉を返す。
「まあ、私もそーいう考えは決してないとは言い切れないです。犬人や猫人さんの手料理は抜け毛がもっさ入るんじゃないかなーとか虱とか衛生上どうかなーとか思ったりしますし。しかしクモ呼ばわりはどーなんでしょう。『アラクネ』とか何とか呼ぶべきでは?」
「しかしソレを言うなら『アラクネ』は神話の固有名詞じゃなかったか? 種族名ではなかったと記憶している。漫画や小説じゃあすぐ『ハルピュイア』とか『ミノタウロス』とか使いたがるモノもあるが、折角の神様の名前なのに、今じゃ使い回されて元の姿も解りゃしない。あんま手垢付けて神格を落とすものじゃないんじゃないか? ましてや実がないのを誤魔化すために孫引きするなんて不細工だね」とは言ってもそもそもアラクネは「蜘蛛の巣」という意味の日常的な普通名詞を人格化したものであるのだが。「まあどのみち今さら感あるし、それにあまり気にしてるのは聞かないがな。言う方も、言われる方も」
「というより自分でも解らないんじゃないですかね。それに結局は人から見た分別ですし。私はそーいうのあまり詳しくないので良く知りませんが」
「だが俺には『オーク』や『ミスリル』がトールキンの創作なのに色んな物語で設定変えられて乱用されさも昔からある神話や伝承存在と勘違いされるくらいのヘンテコさを感じる。ウィ〇ペディアで調べた程度の知識で大学のレポート描く様なもんさね。本来は処女だけにしか許されない純白のドレスがどの結婚式にも使われるくらいのキテレツさ。神話の英雄や怪物を登場させて何か勝手にキャラ付けして舞台に登場させるみたいなものだ。名前だけ食い散らかす記号主義め。寄生虫め。お前等単に名前使いたいだけだろと。『FF・DQ』商法だろと。名前に話が着いて行ってないだろと。役者不足だろと。記号と象徴の大量消費だ。心から成る資源とは使い切れない程にある。何もかも喜劇なんだ。お前等は萌え擬人化された殺人道具が頑張る姿を見て涙流しながらマスかいてろ」ラジオCMがアジっていた。《数多の娯楽小説が過去の物語を食い散らかす事に我等は異議を唱える。今こそ『非神英三原則「異國の神・英雄をもたず、つくらず、もちこまぜず」』の元、己の神と英雄を忘れた破廉恥をこの國から追放》云々。「全く、イメクラじゃねーんだぞ」
「『いめくら』って何ですか?」
「イメクラというのは……あー、コスプレみたいなものだな」
「まーこの情報化社会じゃカマトトなんて流行りませんがね」
「だったら説明さすな」
「けど女の子の前でそういう下ネタはえんがちょー」
「おう、これは失礼。しかしありゃ敬意がない。安易に名前を使うのは無関心か大量消費娯楽商品と割り切っているからだ。だから勝手に姿も変える。ちっとは偶像禁止を見習ってほしいね。見習えないなら、どーせなら十字架教の磔男をボコボコにする気概を魅せて欲しいもんだが。まあそれよりも一等無粋なのは、すぐ『神』やら『国歌』やら強い言葉を使いたがる事だが。神や愛なんて軽々しく口にするもんじゃない。レア度が減る」「レア度?」「レア度じゃない。何か神秘度的な、何かアレだ、神格性が薄れる。外国人はそう簡単に『Oh, my God』って言わない。アレは映画で植え付けられた間違えた知識だ。それと同じ。
全く、ヤレヤレだぜクソッタレー。ドイツもコイツもニュースピーカーだ。自分の喋る言葉の意味と由来を知ろうとしない。ワケの解らない外来語を使いたがる。確固たる思想がないから響きの良い言葉で着飾って、何かを一番だと言い張る事も無く、言い張ってもすぐ目移りする。凄ければ何でもいいのだ。便利な世界観だよ。まあ普段は著作権著作権五月蠅いくせに『古いのはOK』とか頓珍漢ほざいてる時点で敬意以前の問題だろうが……いずれにせよアレだ。『コレ出しときゃ喜ぶだろ』みたいな感じは、愛がない」
「『気安く愛を口にするんじゃねェ』」「だから何だよ」「いえ別に。けどそんなものですよ。お茶碗にご飯入れたって別に困らないワケですし」「そういう噺だっけ?」「『灰色の魔法使い』の語源は『魔法の心得のある妖精』らしいですし、最後は『北欧ミス』っぽいですし」「まあそうだ」「伝統的な能楽や演劇だってよく史実を題材にしますし」「そりゃそうだ」「よく意味も解らずに外来語を自国語化しますし」「『若者の言葉は乱れてる』っていう前に大人は鏡を見て欲しいな」「それにお義姉ちゃんが言っていた……『この物語はフィクションです』」
「フィクションでもカブトムシの親玉を殺したり元大統領を殺したりできるし、逆に俺達はそんなフィクションを観たり聴いたりしながら生きてるんだ。なのにそうやって『物語は娯楽だ』というのなら、お前の人生がフィクションだと言わざるを得ないな。つーか『物語は面白ければ良い』って言う奴はホント何なのかね。それじゃあ平和や正義の為にジマで闘っている王道少年漫画主人公達のやってる事は何々だと」何故、じえーたいの武装化は許されなくて、機動戦士のアニメは許されるのか。それはまー、後者がその程度としか思われてないからです。スクリーンの向こう側の、消費娯楽商品だからです。そんな程度で感動だの悲劇だの、ちゃんちゃら笑わせるぜ。お遊戯かよ→よろしい、ならば放送禁止コードバリバリで行ってやる→抗議電話が五月蠅いので止めて下さい→かくして立ち上がったのが巨大ロボット。現実と理想の折衷案。その装甲と弾丸を造るのは架空元素・〈想像素〉。元素記号〈WW〉。元素番号〈1939〉。今日も彼は美しい戦争動画を作るために人を殺す。殺せ殺せー感動の為に。血が飛び出た分だけ涙も出るさー。まるで地獄だ。救えねえ。「消耗品じゃねえぞって。まあそりゃこの世に戦争映画は巨万とあるのに未だ戦争は終わらんし何処ぞの国はアレだけ『水爆大怪獣』と『天体少年』がナニの危険性を訴えたのに結局チェルノっちまうがな。物語の力なんて、所詮はそんなもんか? 健常人には、ただの娯楽か?」
「黒冗談と時事ネタはどうせすぐ忘れられる、とばっちゃんが言っていたのを聴いた従弟の兄が言っていた。純文学は時事ネタ一杯だけど」
「それなのにナニを否定する奴は駄呆だね。デメリットの無いメリットなどありません。そんなの関係ねえから電気代安くして汚染米をタダでくれろと。この国際テロめ」
「滅茶苦茶言ってるようでやっぱり無茶苦茶言ってんなこの人。娯楽小説扱いされてる商品に大学論文ばりの参考文献張り付けても仕方ないですよ。でもそういう風に新聞やTVも最初からおちゃらけてれば怒られないのかな。『このメディアは虚構です』って」
「シリアスにもギャグを忘れない、そんな男に、私ァ成りたい。まあ実際にあった事件や不幸を彼岸から楽しんだり哀しんだりするノンフィクション作品ではあるかもしれんね」
「『本作こそが全てのミス伝承の原型であり、現代に伝わるミスの方が実はエピゴーネンなのである』」
「たまに時系列ぶっ飛んでる奴がパクリだ何だとほざくが、成程、そういう事だったのか」
「新聞読んで『今は何年何月何曜日だ!』って言ってみたいですね」
「知り合いの〈因果調律師〉である時空間系能力者に頼んでみよう。ただしタイムスリップは裸でやる」
「けー兄、それタイムスリップやない。タイムストリップや。それロボットにメテオ撃ち込まれる世界線なんですかねえ。モーロックと闘うのとどっちがマシだろ。でもせめてデロリアンか白示録で時をかけたいよ」
「しかし『何々が何々の模倣』とか言っちゃう奴はもうちょっと考えて物を語って欲しいね。そんな事を言うなら猫耳は全て『The Star of Cottonland』の模倣だと思うんだが。結局、世に居る読者の物語に対する愛はその程度のものなのかねえ。寂しい事だ」
「全く、愛が足りないな!」「ぶふっ! 愛とか……(笑)」「えー( ゜▽゜)」
「何時かは全ては想い出に成る。嬉しい事も、哀しい事も。ソレが良いか悪いか解らんが……いやどのみち、ソレが今の此処の現実か」
「忘却こそ我らが敵にして我らが救い。汝、是を忘れるなかれ……カッコ良い事言えた」
「まあ実際神話も経典もパクりパクられの世界だがな」「無視されたっ」「あーもうハイハイ、カッコ良いよ」「えへへ」「『えへへ♪』」「何故真似を」「まあ兎も角、神話とはかくもメアリー・スーなワケだが……って言ったら明日から家の玄関使えないか。でも信じる物語としちゃそう変わらんだろ」ケイも長々と駄弁るつもりはないのであっさりと自己完結した。「そんな事は置いといて、注文、あんなもんで良かったか?」
「いいですけど……よく私の食べたいものが解りましたね。まさか貴方もサイキック?」
「いや、ただのコミュニケーション、交渉術だ。気取って言えば『リーディング』? 円滑な交渉の一つは相手の嫌がる事を見つけるよりも、嬉しがる事を見つける事が大切だよ。志向性を持って誘導しやすいから。ま、そんなの日常で誰でもやってるがな」
そう言うケイは大人びていた。何というか様になっていた。有言実行なプロという感じがした。他者の言葉と知ったかの知識だけで物事を語る気取り屋ではなく自分の言葉と実際の経験で物事を行う気取り屋だった。少なくとも路花にはそう見えた。孤児という身寄りのない身分の彼女にはそーゆー「あしながおじさん」的な頼れて安心できる大きな人にちょっと弱ひ。
それと同時に、違う人物を思い出した。それは義兄の姿だった。アレはよく煙を吸っていた。吸いも出来ないくせに咳き込みながらカッコつけて吸っていた。
「全くあの莫迦義兄は! 人に迷惑かけまいと黙っているのが一番迷惑かかるんですよいざ助けようと思ったら手遅れっていうのが一番ね! 社会的に悪なのは千歩譲って許容しますが、育ての親を泣かすのは一歩たりとも許せんですッ!」気付いたら愚痴を言っていた。言って「しまった」と思った。目の前のケイという人物は、愚痴を聴くために奢ってくれたワケではないというのに。「……すみません、愚痴なんか聴きたくないですよね」
「いや、聴き手になるのは嫌いじゃない。俺は『お芝居』が好きだからな。お前はそれを知ってるだろう?」
「……私は、貴方みたいな交渉術はないんです」
「はっ、そーかよ」
ケイは肩をすくめてそう言った。心を読めば早いだろう、と言外に語っていた。
「Hey、おまちどー様。『デルルフェル』どぞー」
そんな事を話していると、何やら紙袋で頭をすっぽり隠した女(?)給から一品目が差し出された。
「ギャース!?」
「おい、やたらめったら省略してないか?」
「だって全部発音するの面倒ですし。ではまたー」
そう言って、ウェイターは席を離れた。
「じゃ、俺に遠慮せずどうぞ召し上がれ」
ケイはにこやかに路花に向かってそう言って、それに対して路花は言った。
「ヤダ――――ッ!」
身体を仰け反らせて解りやすくビクついていた路花は、ホラー映画よろしく怪物から逃げる様に背もたれにしがみつき首を振った。
差し出された白い皿に乗っていたのはハンバーガーだった。しかしその中身は白くてウネウネしたナニカだった。生ものだった。というか生きていた。今にもパンをカパリと上げて何処ぞの巻貝さんよろしく腰を振りだしそうだったその冒涜的な間違いなくイカの様な触手は何本も生えてある程度の堅さとしなやかさをもっていてナマコというかユムシというかヒモムシというかともすれば男性の下半身に生えてるペニ
「ヤ――ダ――ッ!」
「イイとかヤダとかはいい。デルルエグを食べるんだ」
「『Objection!』。コレを食べるとSAN値判定喰らいそうです」
「あっはっは、言うなあ。申請は却下します」
「No! I‘m taberu No!」
「食った事ねーのか? 踊り食いって奴は、ヤパーナでは日常茶飯事らしいぞ」
「私の故郷像が壊れていく……!」
「因みにヤパーナは別名『ニャパーナ』と言われていて、皆、猫耳を崇拝しています。その進化形態が『ヒッポロ系ニャポーン』」
「ひえー」
「冗談は兎も角、早く食わねーとフリるぞ。それとも粗末にするきか? ただでさえ金銭に余裕のないの娘が粗末にするとはなあ? 因みに俺は粗末にする」
からからとケイはからかうように笑った。路花はソレを聞いて低く唸った。確かにケイの言う通りだ。食べ物を粗末にするなど自分が許しても。お義姉ちゃんが許さない。ぜいたくは敵だ。貧乏は敵だ。欲しがりません勝つまでは。それに奢ってもらっている手前、お断りするわけにもいかない。
「い、いただきます……」
例えどんなゲチャモノ(げっちゃ+ゲテモノ。HYOGO県の方言)でも生命と料理人に感謝し、そうやって挨拶しできる今時珍しい若者に敬意を示そう。路花は決意し、逃げようとするフェル何とかをねめつけた。素早くデルルエグを引っ掴み勢いよく噛み千切る。ひぎーという鳴き声が聞こえた気がしたが気にしない。そして食べて脳裏に浮かぶのは子どもの頃のあの頃に食べたことあるような爆弾(お○ぱい)アイスを思い出させるゴム感、食感、鳥の皮、そしてそこから吐き出される白いナニカ……。
「……何か、口の中を犯されてるみたいです」
「やったぜ」
「いや意味解んないんですけど。何一つやってないんですけど」
「で、お味は?」
「え? あー……」路花は口の中で白いどろりとしたものを舌で転がして味わった。一度口に入れてしまえば、もう拒否感はあまりないのだった。ごくん、と飲み込み、少し落ち着く。そして導き出された感想は……。「う、わ……甘い、ただただ甘い、しかも生クリームみたいなドロッとした甘さ。それでいて生臭い。漂白剤っぽい。腐った魚に砂糖掛けて食べた味。食感は口と喉にこびりつく。ネバネバしてる。鼻水や痰みたい。白い魔法の薬? ターキッシュ・デライト? 不味い事はないですが、あまり期待して食べるものでは……」
「え? それって逆に言えば、期待しなければ普通に食べられるって事?」
「……ま、まあ、食べ物ですしお寿司」
最近の子どもは適応力高いなあ、とケイは感心した。因みに他の客も感心してた。
「歩き化茸のソテー」ははみはみしてお肉みたいに歯応えがある。歩いてるからかな? 美味しうございました。「火蜥蜴の角煮」はくにくにしてちょっと辛い。苦手かも。美味しうございました。「蛇鳥のからあげ」はぐにぐにしてる。蛇っぽい。美味しうございました。『水鳥の蒸し焼き』はくちゅくちゅして水炊きっぽい。口触が心地よい。コレ好き。美味しうございました。『月向花の実』は実が酸っぱく爽やかで種がココナッツチョコみたいに甘く柔らかい。コレも好き。美味しうございました。『ジャバウォックのステーキ』は……何か、何だろ、言葉にすればするほど感じた事から遠のいていきそうな、ていうかステーキだっけ?、豚カツ?、あれ……何だっけ……? 美味しうございました?(以上、路花の異界食レポでした)。
「知り合いが昼飯に予備校の食堂で並んでた時の噺だけどさ。その時は受験シーズンで、周りは大学受験生でピリピリしてたんよ。でもあんまりピリピリし過ぎてたのか、緊張して一人の受験生が貰った飯を落としちまったんだな。すると辺りがシン……としてさ、それを見て落としたのとは別の受験生がこういうワケよ。『落ちた……落ちたァ……』」
「ぐっ! くく……」
「もうこうなると波は止まらない。他の受験生達も一人また一人『落ちた……落ちた……』と共鳴し、部屋が『落ちた』コールに包まれる。騒ぎはどんどん大きくなって、飯を落とした奴はその罪悪感に泣きだしてしまってさ。知り合いはそれを見て爆笑してた」
「ぶふっ! げほっ、ごほっ、は、苦し、あ、すみま、くっ、くく……」
「ティッシュいる?」
「食事中に笑わしてこないでください、もう……っ!」
「やあ、悶絶して笑う女性は可愛いなあ」
「『人として軸がぶれている』っ」
「大丈夫大丈夫。確かに俺はぶれてるが、社会的規範は守ってるよ。この店の店員とつるんで善意に見せかけて睡眠薬の入った飯奢って部屋にお持ち帰りして用済みに成ったら捨てるとか全然そんな事しないから。ところで『用済み』って単語、何かエロくない?」
「その発想が既にHENTAI!」
「やあ、怯える顔はもっと可愛いなあ。そうだ、写真を撮ろう、そうしよう」とケイはホシフルイを踊るようにカメラへと変身させる。「魂を閉じ込めよう。ほら、笑顔でピースして、ダブルピース。君の一瞬を固定しよう。そしてこう言うんだ。『私の名前は秀真路花マリステラ。18才です。お父さんとお母さんに大切に育てられました。今からこのお兄さんと楽しく遊びますので見ててください』、と」
「何かその台詞危ない臭いがしませんかね? というか私、まだまだ18じゃないですし」
「まあ冗談じゃなくて、お前の義姉さんに写真送っとくんだよ。あまり心配かけさすな」
「あ、成程。あーでも、んーム……」と、路花は難しそうな顔をした。次いで、「私が逃亡生活をしている事はお義姉ちゃんには言わないでくれますか?」
「あん? 何だ、言ってないのか?」
「はい、内緒です。というかそもそも義兄を探し始めたのは私の独断です。探している事自体、孤児仲間の力は借りてますが、メリューお義姉ちゃんには箝口令です」
「(出来の悪いほど愛しい、か?)まあこうやって失敗したし、怒られるわなあ」
「違います! あ、いえ、怒られるのは怖いですけど、ソレが嫌なのではなく、その……」
「……はあ、成程」黙る路花を見てケイは察する。「心配させるのが辛い、と」はたして、路花はこくりと肯いた。「大人びたこって。助けてもらえばいいのに」
「そんなのは駄目です。コレは私と義兄の問題なのですから。『自分の問題は自分で対処する』、それが海の星でのルールです」
ケイも海の星のルールは知っている。今の時代、自分達だけで何とかする事は当然の要求だ。だから彼女も強いて動かない。
だがその後の文にはこう続く――けれどもどうしても無理な場合は誰かが助ける。
(ま、要するにヒーローだ。ライムギ畑で子どもが崖に落ちそうになった時、キャッチャーになるような。逆に言えば、本当にそうでない限り助けに来てくれんのだが)
と言いつつ、そうじゃなくても頼めば割と何だかんだで助けてくれるのが彼女である、とケイは肩をすくめる。大人という奴は往々にして子どもの期待を裏切ったりほったらかしにするものだが、ちゃんと胸を張って心を配る者もいる。そして彼女は後者の方だ。それも子どもに気付かれないように、さり気なくさらりと支えるタイプの……
「あれ、だからコイツと組まされたのか?」「?」「いや別に」横に首を傾げる路花に対し、ケイは横に首を振る。けどあの人の事だ。きっと「あらあらうふふ」とか言いながら、何もかもを御見通しに違いない。あの人ほど自他共に優しく、厳しい人はいない。此方が助けてと言わなければ、その者が絶対にもう駄目にならないと、ホント、絶対に助けてくれないんだから。まあ、だから路花の様な、頑張ろうとする奴がいるのだが。「(俺は絶対に違うがな。絶対に……)じゃあ、彼女には本当の事は知らせてないんだな?」
「当然です。逃亡生活は『まだ義兄貴が見つからないので探してます』という旨で隠してます。というか、あまり迷惑かけたくありませんし……」
Q.人に迷惑かけまいと黙っているのが一番迷惑かかる、と言ったのは誰でせう? A.あなたを、殺します。Q.え、何急に止めてこわsdz。
「全く、良い子ぶっちゃって。最近の子は悟ってんね。ガキ如きが責任取れると思ってるのか?」そう言って、ケイは肩をすくめた。「中々、楽しそうな人生なこって」
「楽ではないですけどねえ、ははは」
それは困ったような笑い方だったが、その笑顔は本物だった。
「解ったよ、その健気さに応えよう。だが……」
「解ってます。危なくなる前にちゃんと言います」
「ならよろし。けどま、何も連絡しないと逆に心配かけるぞ。ほら、適当に写真撮ってやるから、何かポーズ取れ。ピースピース」
「うや。え、えへへ、ありがとうございます……えぇと、こうですか?」と路花は両手でVの手をしてはにかむ。「ちょっと恥ずかしいです」
「いいね、その困った表情が実に良い。次はぶらぶらと身体を横にゆすって? うん、次は少し上の空気味に小首だけを左右に傾けて。いいねえ。じゃあ次はその邪魔な衣服を」
「あまり変な事言ってると瞬間移動で逃げますよ?」
「食い逃げになるな」
「くっ、謀られたか……ッ!」
(そんな程度の計略で超能力者を捕まえられたら安いもんだがな)
とケイは肩をすくめ、ホシフルイをカメラから携帯に変身させる。そしてアドレスをメリューにして、路花の写真と共に「路花と食事中ナウ」とか何とか適当に文面を描いてメルーした。こういう経過報告は面倒でも、逐一やって置いた方が後で纏めてやるより簡単だし、その途中途中で判断を考えられる。それに何より相手に心配かけない。勿論、路花の意を汲んで逃亡生活の事は書いてない。そんな裏切り行為は御法度だ。
(それに、暇があれば手伝ってやればいい。どーせメリューもそのつもりでコイツと関わらせたんだろうし。全く、小間使いじゃないんだぞ?)
そうケイは肩をすくめつつも、満更でもない顔だった。ケイ自身は、ソレに気付いてないのだが。そんな頃合いに、
「お代わりのパンお持ちしましたあ」
と、四本の腕で料理を持つ女性のウェイターがそう言って来た。
「ああ、サンキュ。……この煮込みを食った後に残るスープをパンに付けると美味いのよ」
「また笑わす気なんだぁ」
「笑わせないから。さあ、お食べ? 特に生肉をお食べ? 脂肪が甘いぞ。生臭い? そうだとも。俺にはソルト&ペッパーなんて邪道だね。無論、飽くまでも俺には、だ。メディアやグルメ漫画は一遍通りの料理の仕方しか教えんが、本来、食事は自由なもんだよ。そうだろう? オーガニックなイタリアンやフレンチより化学調味料バリバリの遺伝子組み換えなマックの方が好きな奴だって居るさ。英国料理が不味いのは技術不足ではなくその国の合理性からなる文化です。料理・グルメ漫画はせめてオススメ漫画というべきだね」
「それは自分に自信がないだけでは? 他人の意見を否定してでも好きなソウルフードってのがなきゃあ、他人の意見を肯定する事は出来ません。自信の無い肯定は野暮ですし、否定というのは、それだけ自分に自信がある事ですからね。『人それぞれ』というのはアレですよ、『青年たちはいつでも本氣に議論をしない』って奴です。騙されちゃあいけません」
「ふーん? やっぱり異能者なんだな。異能者は利己主義が多いからね」
「だから、そういう『異能者だから』という言い方はどーかと思いますです。普通の人だって利己的な人もいるでしょう? 黒人のメラニズムは病気ではなく種族的なものです。そんな事言うなら、大祭害を経験した人は戦争を経験している世代並みにクールなそうですが、ケイさんは全然クールじゃないじゃないですか」
「いや別にんな学術的な論議はしてネーヨ。アスペじゃあるまいし、一々真面目に捉えるな。空気読め。何も六法全書や聖書で敵をぶん殴ったり、世界中の言語や宗教を一つに纏めようとか英雄論をぶってるワケじゃない。これはただの感想、個人的な経験論だ。勿論、それはイジメっ子の論理かも知れんがね。イジメっ子にとってはイジメでさえ遊びであっても、やられる方にしては死にたくなるくらいマジなのだ……もしそうなら、謝る。済まない。そうやって十把一絡げにされるの嫌な奴は多いからな、異能者じゃなくともね」
「すわ! ああ、いえいえ、私もそんなに真面目に言ったわけではないので、気にしないでください。Hmm、意外と礼儀正しいんですネ……」
「俺も大人ですからネ、何だかんだ言って。子どものまま大人に成った様なアダルトチルドレンでも、餓鬼の前では俺も一端の大人を演じなきゃならん……面倒なこった」
「あー、解ります判ります。小学生の世界では一年違いでも亀とスッポンくらいの差がありますよね。そして教師を成りだけデカくなった大人と虚仮にするのもまた子ども」
「世界が狭いから、ちっとの事でも大きく感じるのだろうな。しかし、大人を虚仮にする餓鬼は解せないなあ。そりゃ時代遅れな事は在るだろう。けど大人は歴とした経験則で語ってんだから、何も解らん餓鬼は黙っていう事聴いてろと……ま、そりゃノリとテンションがなきゃエンターテイメントは面白くありませんが……『道化の華』と能ある『OTONA』は営業スマイルに爪を隠す。ペコペコと頭を下げる情けない父の姿こそ、それでも家族を守って来た大黒柱の雄姿なのだ。『こんなのは…イヤだ。暗く…醜悪で、ムダで、みじめな、哀れな生涯…! けれど、見事な』……てのも偏見か?」
「むむむっ! その台詞は『下手な少年漫画より少年漫画してる少女漫画』の台詞ですね。それを知ってるとは……お主やりおるな(ニヤリ」
「子ども受けする為の備えは万全です。お菓子とかポケモン消しゴムとか色々持ってるよ。けどそーゆうのを語り合うのは今度にして……ま、兎角、けどそーゆー扱いが嫌ならば、俺じゃなくてWHOかNGO、或いは市役所の窓口で言うんだね」
「超能力って、あまり役に立たないなあ」
「超能力が役に立たないんじゃなくて、超能力を使うお前が役に立たないんだ」
「ますますショック」
「そう言えば、精神的ストレスを与えるとPSI強度が強まると言う学説が……」
「『いぢめる?』。『いぢめる?』。いぢめないで……」
「もしかして:オラオラ」
「ひー」
(と、路花は笑いながら怯える仕草をした。やはり異能者と言っても、この年頃の子供はアニメ的な知識が好きなようである。そして実際にいぢめたら、中々面白そうな反応をしそうだ。それにしても、異能者なのに感情表現が豊かなんだな……珍しい)
「まあ、兎角、別に否定を肯定するワケではありませんよ。他者の評価を無視した自己満足はイヤーンだというだけです。否定ばかりして前を進まないのはイケません。また良く知りもしないのに否定するのもイヤーンです。若者はすぐ伝統を虚仮にしますが、伝統は汗と涙の結晶です。塩加減が聴いてます。愛情があるのです。手の込んだ嫁のメシがうまいワケではありませんが、手間暇ないよりはずっと良いです。ましてやカップヌードルを手抜きと侮る人は『プロジェクトX』を見て来いとね。何にだってその背景には情熱があるのです。『語り継ぐ人もなく』『紛れ散らばる星の名は忘れられても』『旅はまだ終わらない』……はあ、カッコいい! 末は『グスコーブドリ』か『カムパネルラ』か。『俺の人生は、台詞を付ける役だった』……はあ、惚れちゃいますよもう!『ホメラレモセズ クニモサレズ サウイフモノニ ワタシハナリタイ』。私は漫画しか読んだ事ないですけどね」
「『ごん、お前だったのか』」
「『暇を持て余した』」
「『神々の』」
「『don't make it bad』」
「『THIS WAY』」
「と、こんな風にネタにする人は原作への愛が無いと思いますがいかが? きっと学生の頃、現代文を莫迦にした人ですよ。それか漫画本体を読んだ事ないのに引用名台詞で満足している人ですよ。そんな人は朗読を主題にしたフラワー漫画を読もう! 読解しよう!」
「それが出来る脳が無いからネタにしてんだろ。災害ニュースを河岸の火事宜しく同情したり、本気になる奴を笑い飛ばすタイプだ。いや別に悪くない。小難しい事は疲れるもんな。笑えばいい。所詮は娯楽作品、エンターテイメント、『我ら役者は影法師』、必死にお道化を気取る人間失格に『解る解る』と共感していればいい。彼の悪友や惚れる女の様に表面上だけ解ったフリをしてれば宜しい」
「ひねくれてるなあ」
「『ひねくれ』か。俺は竹竿片手に勇敢に屋根に這い上り、Bー29から星まで落とすファルスだが、ひねくれだけは、どうにもなあ。ま、兎も角、そんな人生論に対する健全なMr.常識人さんである私の応えは一つだけ、子どもはアニメを見なさい」
「Hmm! 子ども扱いしないでください。私はランナーです。兎も角、伝統は素晴らしいのです。地中の炭素が金剛石と成る様な人類の叡智です。そりゃ、宝石の価値も場所それぞれですし、時代と共に技術は変わりますが、それを忘れては、今の此処も虚しいと思うのです。『ガスで焼いた鰻なんて、鰻じゃねーんだ!!』まあ鰻なんて高すぎて味も食感も覚えちゃいませんが。安くなるならチューゴク産でもガス産でも有だと思う今日この頃。この一カ月のホームレス暮らしは、私の心を優しくしました。もうね、毎日、戦争や難民の事を考えましたよ。自分より不幸な人は一杯いるんだと。『俺はNGOか!』っ感じでした。街のNPOに混ざって社会貢献しましたよ。流石、十字架教の国だなあと思いました。寄付文化って素晴らしい。ボランティアに対価を求めてはいけません。神の愛は無償です。ヤパーナも廃棄弁当とか配れば良いのに」
「お前は賢いし、ましてやメリュー所の義娘なら『慈悲と福祉は等号ではない』という事を知っているだろうが、一応言っておくと、ああいうのは世間体があるのだよ。バイトが遊びで殺鼠剤混ぜた奴を貰い手が食って死ぬのは自己責任だが、それで店の印象が悪くなるのが当然だ。それに誰もが礼儀正しいカラスじゃないし、余計に働かなくなるだろう。無論、それは結果論で、遊ばないバイトがいて、それでも印象が悪くならない、礼儀正しい、働く意志の在る社会なら良いのだがな……ソレは難しい」
「難しいですねえ」
「当たり前だろ? 機械事業じゃないんだし、時にはその他大勢じゃない個人々々に対する仕事だ。遣り甲斐だけは無駄にあるよ。ま、それで悩むのは社会的強者の悩みだけど」
「『元気があれば何でも出来る!』」
「気合で腹は膨れんがな。今日の飯もマジでない本当にヤバい奴っているんだぜ? そういうのは物理的な悲劇であり、精心論じゃどうにもならん。気分次第じゃないんだから。流行歌に『頑張れ』って言われるより米をくれという噺だ。マジで『同情するなら金をくれ』っていう噺だ。ナマ言ってんじゃねえシバくぞコラってキレる余裕も無い。
ま、そんな真面目な事言ったって仕様がないんだけどな。社会は冷たい。何事にも、熱く成る奴を見て『何マジになってんの?』と思う奴がいる。恥ずかしいのか、価値を見出せないのか、悟ってんのか、んな不幸論アジられたら白い眼するか表面上共感がほとんどだろう。しかしそれもそうだろう。俺だってんな説教臭いプロパガンダやられたらゲンナリだ。小難しい論理ばかりじゃ疲れるしね。それはフィクションでも同じ、物語はエンターテイメント、やるなら哲学書か自己啓発本でやれという噺だ。大災害の世の中でもそれは変わらん。けど同時に思うがね。困ってる人を見て見ぬふりをするのは人としてどーかと思うし、熱くなれなきゃ銃も剣も星も震えんとね……かと言って、お道化なきゃ熱くなれんのはもっと救えないけども。第一、此処でこんな福祉論をぶったって社会は1mmも動かんし」そう言って、ケイは肩をすくめて笑った。己の様に良く知った誰かを笑う様な笑いだった。「ま、そんな社会福祉学は兎に角、飯を食おう。食べ物を粗末にしない事も社会学だ。『モノを食べる時はね、誰にも邪魔されず……』台詞忘れた。まあ食べ方は自由だ。此処はメリケで、喋るのが無作法なのはヤパーナだよ。料理は味だけでなく、やはり楽しくなくてはな。で、俺のオススメは是だ。血の滴る肉こそ命の証だ。牛豚の方が噛み応えが在ってお勧めだぞ。油が溶ける舌触りと甘さがね」
「むむむ。私も乳臭いのは最近は割と好きですが、でも生肉は流石にちょっと……」
「何だ、怪物は駄目で生肉は駄目か。まあなまじ食中毒がリアルな分だけ怖いかもな。当たったら洒落にならんし。腹痛は怖いよなあ。苦痛を通り越して寒気がして耳鳴りして朦朧する。外的要因じゃないから防御しようがないし、耐えるしかない。俺なんか幻肢痛やトラウマよろしく生肉を見て未だに腹が痛くなるくらい怖いし……(遠い眼」
「昔のSAMURAIは内臓を取り出して洗剤で洗ったとか」
「マジでありそうだから困る」
「ふっ、この逃亡生活でサバイバリャーした私に食中毒など愚の横丁! 免疫度バリバリです! ましてや電撃少女たる路花ちゃんは虫など体内電気でビリビリしちゃうわ!」
「因みに電気ウナギはちゃっかり自分も感電しちゃっているのである」
「問題は其処なんですよねえ」
「(其処だけしかないのか?)大丈夫大丈夫。『コカ・コーラ』飲んどけば大丈夫だから」
「何ですかそのそれ掛けとけば避妊BlahBlah都市伝説的発想」
と言いつつも何だかんだで食べる路花。嫌よ嫌よと言いつつも何だかんだでやってくれるのが可愛い所。というのは冗談で、親無しという一身上の都合により、基本的にレッツモッタイナイは出来ない精心構造となっている。そんな健気な路花を見て、ケイは言う。
「『…本当に食べてしまったのか?』」
「『えー』」
あんまりであった。
「さーて、寄生虫やウィルスは『潜伏期間』という奴があるリアル『直ちに影響はない』存在。路花ちゃんの明日はどっちだ!」
「朝日は東から昇るので、明後日の方角は東ですね!」
「そう言えば『おじさんコーラ』という噺があったような」
「そう言えば人肉食べて脳がスカスカになる噺があった気ががが」
「大丈夫大丈夫。大丈夫ったら大丈夫。……この前『ヴァーゼル熱』的界異があったけど」
「えー」
「まあ大丈夫! 言わなきゃ解らない。何事も解ってからクレームを言うんだ。遺伝子組み換えなんて言わなきゃ解らない。だから可愛い路花ちゃん、次はパンを食べるんだ」
「この人、肥らせて私を食べるつもりですかね?」
「いや、ソッチの趣味はないな」
「そーじゃなくて」
「? 人肉趣味の事じゃないのか?」
「あ、そーじゃありました」
「しかし今度のは美味しいぞ。いや本当。さあこのスープにパンを付けるのだ」
「『今度のは』ってどういう意味なんでしょうかねえと小一時間ry」ともぐもぐ路花。祖顔がパッと笑顔になる。「わ、確かにコレは美味! ソッパ・アレンテージャーナって感じですね! サクサクしたパンにじゅあっとアンチョビガーリックが沁み込んでしゃくしゃくした舌触りが心地よい。食欲をそそる香りなのに味は何とも優しい塩味で……ああ、このお皿を舐めたい、人の眼を気にせずに! けど肥りそうですねこれ、油ギトギトですし」
他の食材も回って来て程々に食べた後、ケイは追加注文でパスタとトーストを頼んでいた。トーストはノーマルの焼けたてである。
「いやー、けど驚きです」路花がトーストをしゃくしゃくやりながら言った。ソレにケイが「何がよ」と訊く。「いえ、人助けとか嫌いそうでしたので」
「その通り、俺は人助けが好きじゃない。良い歳した大人のくせにガキにへこへこする情けない奴くらいに隙じゃない。だから逆にするんだよ。そういう事を嫌う俺が嫌いなんだ」
「天邪鬼ですね。それともナルシー? ヘルシー? 悩まCー?」
「美味C」とケイはしゃくしゃくとトーストを食らう。
「ケイさん友達いなさそうですね」
「『友達いない』って言う奴に限っているもんだぜ? あの言葉は本当にいない奴しか使っちゃいけないんだ。一人でもいるならそれはもういるんだよ。因みに俺はリアルでいない」
「お、おう……」
「冗談だよ。まあ仕事仲間ならいる」
「仕事仲間とか、そんなリアルな言い訳……」「言い訳ちゃうわ」「でも、ダイッジョーブ、なのだぜ? 路花は既にケイさんの友達です!(ここでサムズアップ)」
「ほう、『The danger past and God forgotten』とはよく言ったもんだ。出会い頭に電撃を浴びせた奴の台詞とは思えんな。なかなか面の厚い奴だ」
「ごごごごめんなさい」
「いや? 元気のある強い女は嫌いじゃない。己の程度を知ってるならな。それに、俺は女、子どもが大好きだ。彼奴等が居れば大抵、相手は油断する。場が和やかになって交渉もしやすくなるからな」などとくつくつ笑う。ケイがそういう事をする人物かどうか解らないが、それが事実らしいことは何となく解る。「けどまーお前が仲間意識を持つのもそうだろう。俺は群れるのは好きじゃないが仕事柄交渉術は嫌でも熟知せにゃならん。愛想笑いなんてパッシブスキルでソイツに合わせて顔も変わる。一つの会話で嘘八百だし花束だってくれてやるぜ? まあお前は最初からある程度の相手には好感度上々なタイプみたいだし、かなり弱ってた所もあるけど」
と言ってケイは笑う。今更だが、実はケイは初見の路花の瞬間移動に反応しており、彼女の幼い横腹にホシフルイを打ち込む余裕すら十分にあった。だがその後の関係を考えた結果、一発殴られておいた方が罪悪感を持たせられるし、距離も一気に縮まると思ったのだ。加えて言えば、その後、路花が無様に地面に頭から落ちたのも敢えて無視である。ムチを与えてからアメというのは、古今東西共界で通用する技なのだ、多分。
「ウェッ!? た、確かにさしもの私もここまでフランクではないですが……」
ソレを聴いて路花は幾何か驚いた。人生柄騙される事には慣れている。が、此処まで上手に嘘をつくとは。ソレに対し、ケイは気取った風にくつくつ笑う。
「ククク、俺はCOMICでよくある『性格の良い奴ほど損するタイプ』だぜ?」
「……ケイさんって」ケイの笑いに対し、路花はそう考えるように口ごもった。美味い霊を探そうとしているのだろう。ケイはソレを頬杖をついて待ち、やがて路花は合点が言ったように笑って言った。「如何にもぼろっちい橋でワザと揺らすタイプですね!」
「素直に面倒族と言ってもいいぜ?」ケイもまた両手を広げ、肩をすくめ、自嘲するように軽く笑った。次いで何時ものクセで煙を飲もうとし、止めた。子どもの前で、それも外でならまだしも室内で、それはナイ。代わりに禁煙用のロリポップを取り出し口にくわえ……ついでに路花が無言で手を出していたのでチョコバナナ味をくれてやった。にこー、とする。可愛い笑顔で何よりである。「しかしこんな交渉術、心を読めば一発だろうに」
「超能力者だって苦労するんです。自分も子どもの頃は共感覚が制御できなくて自分に対する視線や感情が肌触りで感じてそれはもー文字通り舐めるようでイメージは脳内にダイレクトで伝えられてそれはもー色々なこと想像されておまけに獣や蟲の心も物質透過で受信しますからどれだけ綺麗な御家庭でも台所や冷蔵庫ではローチやフライの存在を感知してしまって食材や食器の細菌やばい菌まで見て取れて(ノイローゼってレベルじゃなくて心がヤンデルになってしまって、それで遂に九つの冬くらいに屋上から飛び降りようとしたんですが、私空も飛べるから浮いちゃうんですよねえコレがアッハッハ!」
「悲劇かと思ったら喜劇だったでござる」
「いや哀しい噺なんですけどね? でも路花は笑ってた方が可愛いでしょ?(にこー)」
「可愛い。凄く可愛い。どれくらい可愛いかっていうとマジ可愛い。抱き締めたい」
「心を読まなくても私には解る。あ、これは莫迦にされてるな」
「ま、俺は『超能力者は苦労人』とか信じないタイプだがね。心読めすぎて疑心暗鬼に陥るとか思わないタイプだから。未来予知とか不老不死とか全知全能とかで人生に飽きたとか感じないタイプだから。んな程度で不幸気取ってたらこの世の神様は今頃空から飛び降りてるよ。実際にそんな能力持った事ないくせに要らない扱いするのはどーかと思うね」
ソレと同じように、『ミュータントは差別される』的な世界観も予感しない。少なくとも、古今東西の人種差別とそう変わらんよ。そして同時に『超能力社会は人間の常識を覆す』というのも笑い飛ばす。超能力者が危険な存在って、そりゃ世の中に何百個メテオがあるのかを知らん奴の台詞だ。銃社会の方がよっぽど恐いよ。んな事言うなら人類だってメテオの百発や千発くらい持っているさ。しかしそんな銃社会でも力を持つヒーローは迫害されるのがよくある漫画の設定だったりする。お前等が持ってる其の黒光りする奴は何だよとね。銃が平気になれば、もはや兵器足り得んのかな? まるで魔の薬だな。麻痺ってる。怖いもんだ。しかしだね、そもそも人間なんて最初から意味解らんもんだろ、『Everybody’s weird』だ、何を今更ビビるんだい。ましてや人には出来ない事を出来る程度でどーこーいう奴は総じて世界が狭すぎる。豆腐メンタル過ぎんだよ。そんな事で気味悪がってたら今ごろ宗教もネットも生まれんよ。鎖国主義かお前等は。そんな程度でクヨクヨしていたら、『Galaxy Express999』には乗れないぜ。ああいうのは近代化された都会人の感性だな。すぐ悲観する。田舎人はもっとタフだよ(偏見)。何だかんだで明日も生きて行くのが人生だよ。何の役に立ってるのか解らないけどとにかく刺身の上にタンポポを置く毎日だよ。死ぬのは嫌だからな――とケイは聴かせる気も無い様な長台詞をヤレヤレとぼやく。それを聴いて、路花は一つだけこう応える。
「因みにあれは食用菊……そして飽くまで一工程に過ぎずタンポポ職人はいない、多分」
「知ってる。むしろ精心感応より身体強化型の方がアレだな。鼻が良ければ厨房の学生何て男も女もイカ臭くてたまら……げふんげふん。ま、弱いのが多い方が、強いのが得するんですけどね。つーかそもそも、人の心を読んだだけで人の心が解ったら苦労しない」
全く、幸薄キャラの何が嫌ってそんなキャラ造って靴下人形に助けさせる所だよ。ありゃ自作自演もいいとこだ。文学を読んでカンドーする奴は阿保です、何て言ったら元も子もないが、戦争映画を見て泣くくらいなら、そんな架空の御噺読むくらいなら、一回くらい当時を生きたリアルな人々の遺書や写真でも見てみろと言いたい。まあ実際やったら規制と苦情の嵐だろうが。しかし感動する暇があるのなら外へ出てリアルの紛争地域に行くかせめて老人介護なり障害援助なりすりゃいいのに。ああいうのは色々と感情論や修飾語を組み込むからややこしくなるんだよ。『火は熱い』。『銃で撃たれれば人は死ぬ』。その知識さえありゃ十分じゃないか。どーせあんなのは口だけの一過性だ。マスかいて寝る様な自己満足だ。全く、ああいう奴等が何もかもを娯楽消費に貶めて――とそこまで言って、路花がジーッとした眼でコチラを見ている事に気付いた。
「確かに、こんな話してもツマランな。時代考証や資料は必要だが、それは飽くまでも調味料で、味そのものになっちゃいけない。そもそも知らん奴には知らんのだし。真面目なのは、御免だよな。ま、俺の言動何てあまり気にするな。十中八九がお茶乱気だから。アニメのヒロインに恋する様な取っ替え引っ替えの心意気だから。精心的支柱になる宗教もなく何にでもすぐ目移りするヤパーナ流だから。学術論文でそれっぽい言葉をその場のノリで並べていざ見直すと『何て書いてんだこれ』と思う程度の台詞だから」
「それはアレですか、処世術ですか?」
「So so。こうやって線引きしていれば本気で失敗しなくて済む。まあコレをやりすぎると後悔も反省も出来ず何時も不完全燃焼になって言い知れぬ倦怠感に陥るがな。そして一番救えないのはそれでも何だかんだで上手く行く事。自分の限界も本気も解らずに、しかし何時か必ず来る不可避の壁に立ちはだかった日にゃ……アァ」
「うーム、キキが飛べなくなる心境ですかねえ……? うや。まあ、話を聴くのは好きですよ。その心を読み取る事は面白いです。Kさんの心が優れているかどうかは別にして」
「『覚悟、――覚悟ならない事もない』」
「わあ、流石。でもそうですね。私も苦労人とは思ってないです。出来ないより出来る方が色々と喜んでもらえますし、ていうか私程度の人なんて一杯いますからね。それにそういう自称最強な『世の中に飽きた』系の方達って、大抵、主人公にブッ飛ばされますし、全然最強じゃないですよねえ(笑)。それに私は先天性ですから。物心ついた時から使ってますし、実際便利ですし、コレが変だと思った事は特にありません」
大祭害が起こって以降、生まれつき超能力や魔術が使えたり、獣や植物の一部を持ったたりする者がいた。このような先天的異能者はそう多くない。どのくらいのレア度かというとオスの三毛猫程度。因みに今年のこの街の総者口は界連の行う「世界保障番号」に登録し把握されているだけで約999万、雄三毛の確立は大祭害前なら約0.003%と言われる。つまり者口に則して言えば単純計算で約300である。おお、レアいレアい。けど世界者口は100憶を超えており、つまり30万以上である。ううん、微妙……? しかし「クラインフェルター症」よろしく遺伝に着目して超能力研究を行っていた時期もあった。今では別の視点が見出され、この視点は下火だが。いずれにせよ、その数は徐々に増えつつあり、いずれは通常の人間を上回るという。
そのような才能持ちを総じて「デザインド」や「ニューエイジャー」や「ニュータイプ」や「ミュータント」と呼び、特に自然になった無為能者や路花のような生まれつきの先天的異能者を「天からの贈り物」と言う意味で「ギフテッド」、対して意図的に手術や超常存在への干渉によって力を手に入れた有為能者や後天的異能者を「+X」から取って「アスタリスク」と呼ぶ事が多い。某Marvelなヒーローチームでも通用します、多分。
変身の根本的な要因は解っていない。とある統計では現実逃避の気が大きい者に変身者が多く、また変身前のその者の持つ欲求や変態が影響している場合が多いらしく、例えば空を自由に飛びたいなとか考えてたら頭に羽根が生え、怪物に憧れて血を飲んでいたら血を吸う鬼になり、女の後ろを受けるのが好きなものは身体が透明になり、明後日死刑予定だった者は一足先に生きた屍になり、ただ誰かを殴るのが好きすぎる奴は脳無しの巨人怪力ーになり、試験当日が近い者は千里眼を覚え、万引きしたい者は身体から身体の一部を生やせるようになり、犬って自由でいいなあと思っていた奴は本当に犬になった。後で散々後悔したが、徐々に人間の頃の記憶は無くなり、ついには自分の名前も忘れ、やがて犬程度の知能では不幸という概念が解らないのでやがて彼は考える事を……とかいう噺が在ったやうな無かったやうな。
しかし成りたくてなったワケじゃない者もいるし、一介の中年セールスマンが朝起きたらいきなり蟲になっていた事もいたり、ナニが無くなって胸が膨らんでも子を産めない元男もいるので、全くの偶然かもしれないし、変身が完全に欲望を満たすとも限らない。ましてやその欲求や欲望の「本気度」がどれ程か調べようがない。
噂程度なら、本当、色々ある。二十四時ピッタリに鏡に話しかけると無意識の自分が出て来て入れ替わるぞーとか、成りたい自分の設定を本に書いてソレを抱いて屋上からアイキャンフライするとそのキャラクターになれるぞーとか、自分の欲望を他者に教えると変身できなくなるのでその為にはバレた奴を×しなきゃいけないぞーとか、変身した者をカーニバルすると変身できるぞーとか、まあそんな噂のレベルだ。他にもとある研究では、異常な世界を許容出来る精心であるとか、門から変身させる放射能的な何かが出ているのだとか、生物に備わっているDNA的な何かが先祖返りの様に甦ったのだとか、MPLS的な生命が進化した姿だとか、異界者がもたらした病気のせいだとか、ありえない超常をすんなり許容できる頭の螺子が外れやすい莫迦もとい適応力の高い者がなるとか何とか。
しかしいずれにせよ、真偽の程は確かめ様がない。ただ、大祭害によるものだという事が一般的な了解であり、また望の門に近いほど変身の影響は大きいようだ。
(そしてそんな異能持ちである己を特に変だと思わない時点で、コイツも大概アレだな)
とケイは前の先に座る彼女を見て言った。紙コップに入ったメロンソーダを念動で無重力よろしくぷかぷかと浮かばせて遊んでいた。
「こうやってジュースから世界を見ると、世界がその色に染まって何かステキ」
「ふん、『Here's looking at you, kid』……ってか? 仕草は相応に可愛いが、食べ物で遊んじゃダメだぞ。日常の所作が汚い女は良くない」
「楽しい食卓はありだと思います」
と、下をちろりと出してソレを食べる。ケイは「華やかなのは悪くないがね」と、そんな事を言って肩をすくめて軽く笑う。
「ま、それは置いといて……兎も角、精神感応出来るのか?」
「え? あ、はい、出来ますよ。けど相手に寄りますね。人には『絶対恐怖領域(ATフィールド)』よろしく境界結界があります。これは心の壁でして、意思ある生物なら誰でも持っていて、意志の強いモノのソレを突破するのは難しいです。心理学における『超自我』や『防衛機制』みたいなものですね。それに電波が届く距離に限度がある様に、これまた心理学の名を持った、『自我領域』外では何も起こせません。まあ、心は物理的な距離を超えますが……兎角、ですから頭の中でダイナマイトを爆破したりは難しいです」
「ふーん、そういうタイプか。俺のは読めるか?」
「ふふん♪ 私くらいのエスパーともなると本人でも忘れた短期記憶に残された深層意識の記録を辿ることだってできますよ。けどケイさんレベルだと厳重に保護された嘘を掴ませるという何ともイヤラシイ事をしてきそうです」
「そんな意地悪はしないよ……わざと見せるようなイヤラシイ記憶はあるかもしれんが」
「あはは、そうですか。けど勝手なEMPATHYは犯罪以前にマナー違反です。どれくらい違反かっていうと、勝手にネットの履歴見るくらいに違反です」
「あーそりゃヤバい。ヤバいヤバいヤバい」
「そのくらいの常識センスは私にもあります、多分。それに共感呪術は送受信、深淵を覗くなら以下省略、見ると共に見られます。下手に精心接続すると逆に狂気を送り込まれる事もありますしね。Mp値が低くて対抗判定に失敗して発狂した方や炎の壁に特攻して心経が焼き切れた方もいますし。そしてそういうのは往々にして痕跡が残りませんから、自然死か病死扱いされます。怖いですね」ネット世界において新しいウィルスが出来れば新しいワクチンが出来る様に、更にそのワクチンを超えるウイルスが出る様に、更にそのウイルスを超えるワクチンが出る様に、この手のやりとりはイタチごっこである。心を読んで罪を犯す超能力者がいれば、逆に攻性防壁を張り巡らせてそれを阻止する機械屋がいる。上には上がいるという事だ。なので「超能力とかズルして無敵モードやん」とかにはならない。他にも「バグ」とか「チート」とか「TAS」とかいるから。いわゆる「ひどいレベルでバランスが取れている」。因みに路花の強さは一般より少し上、とでもして置いてくれ。「それになまじちょっと見えると、全てを知ろうとしてしまいます。ゲームの攻略本があると少しだけ見ようとしてついつい完璧を目指して全部見てしまうのと同じですね。知れる故に疑心暗鬼になってしまうのは、『知る者』に対するよくある皮肉です」
「あー、解るわ。楽しむ事が二の次になるんだよな。成程、そういう設定もあるのか」
「まあそもそも心を明文化できるほどイメージの強い人なんてそうそういないんですけどね。例えば、眼を開いて見るのと同じくらい明確に瞼の裏に人の顔を思い浮かべられますか? 普通は出来ないですよ。ましてや人の思考は生ものです。推敲と校正を繰り返し加工し包装した物語じゃないんです。聴こえたとしても、大体、スキャットマンとかゲームカセットを半挿しにした様な感じになるまするでしょうね。噛んだ……。こ、この様に、思考は噛み噛みですので、統合失調症の方が描いた絵以上に読解困難かと。私の様に感受性が高ければ問題ないですけどね。とまれ、だから物語でよくある『人の心が解って辛い』なんてのはまあないです。むしろ聴覚過敏症みたいなのが多いかと。或いは『先天性R型脳梁変成症』とか……」
「精神感応って脳でやるのか?」
「んー、それは発電方法がそうであるように能力者によるかと。まあそんな感じで、コチラとしても安易に繋がりませんから、ご安心を」
「あん? もしかして気ぃ使ってるのか? 別に読んでもいいぜ。俺は公明正大、隠し立てするような事は一切ございません」ケイは両手を広げてニヤリとそう言った。「まあ良かった。今回の仕事は、読めなきゃ困るからな」
「そうですか。頑張ります」路花も頼られている事にはにかんだ。「でも、ホント、色んな人、っていうか『者』がいるようになりましたねえ」
路花は窓の外を見ながら言った。そこには伝説の生物や怪物と言った人外が余所行きの服を着て、歩道を歩いたり歩道を飛んだり、車に乗ったり信号待ちしたりしていた。
「そーだな。けど莫迦騒ぎ以前だってUMAとか未開人やまだまだ謎が一杯だった。そういう事は忘れちゃいかん、今いる場所が特別だと勘違いしない様に。まあ尤もそういうのは意図的に隠されているのかもしれんが」
「『MIB』ですね!」
「んん? まあ、そうだなあ……」言いたい事は少し違うが、特に自分の意見を強いるつもりもないのでそれで流した。「その手のオカルティな都市伝説や陰謀論や予言やはこんな世界になったせいか流行ってるよなあ。超古代文明や古代宇宙飛行士説がどうの、黒目の子どもや下水道の巨大鰐がこうの、ネッシーやモケー何とかが云々ビッグフットや河童がどうこう、ヘッジスの水晶髑髏はUFOのエンジンだったと科学者が受信するし、現界連合は啓明結社や友愛結社が作ったと言うし、大祭害は千年王国の前触れだって言うし、新しい七不思議を造ろうと言うし、この街はエシュロンやカノッサ機関の実験場と言うし、鬼門(望の門)はエリア51よろしく宇宙人が降り立った場所だと言うし、『夢の国』ならぬ『デスティニーランド』と言う奴もいるし、YAP因子は宇宙人の証と言うし、自殺波動受信したりスパイラルマターリしたり夢の中であった天使を探して無言の腹パンされたり授業中にいきなり『セ〇クス!』って叫んで窓から飛び降りたり――そしてそれらを否定できんし」
そして何より現界連合はこの事態を予測していたという噂がある。大祭害が起こった後、世界を組織的に統一し異界との平和交渉を始めるのにどれ程の時間を要したか。僅か一週間である。少なくとも、COMICが気負うような軋轢や人種問題は殆ど無かった。パニックになって暴徒と化していたのは民衆だけで、界連の上部役人達は異界という突然の来訪者とのファーストコンタクトに鉛玉ではなく事前に用意したカンペを読み上げる様な紳士的台詞を提供した。尤も事はそう避難訓練のように行かないワケで、そこから更に綿密に安定した今の平和な状態(少なくとも見た目は)になるにはまた数年を要したし、今もなお異界を有する街々(G07)の利権を狙う小競り合いは絶えないし、一方街はんな事知らんとでもいうように国から独立している気もあるし、新たな新参異界者が絶えないのでその度に色々とやっているのが大人の事情という所だが。
いや別に、利権争いを憂うつもりはない。時代錯誤な英雄思想の元に「人類VS異世人」をするよりかは、今のなあなあな方がずっと楽だ。むしろそのような思惑が様々に絡まる方が、生物学的進化には健康だろう。生物? ソレは人類の事か? まあいずれにせよ、しかしそれもまた、巨視的に俯瞰すれば些細な事だ。それは村と街と国と星の違いである。無論、問題は往々にして文字通りバグのような些細な事から始まるものだ、何もかもを客観視していては危険である……いずれにせよ。
まあ、飽くまでも噂である。ソレを調べようとする物好きなフリーのカメラマンもいるが、それこそ黒衣の男(MIB)よろしく行方不明になるとかならないとか。さて置き。
「すわ、この前真っ白ハウスに3メートルの宇宙人が火星攻撃仕掛けたらしいですよ?」
「え、ジマで?」
「じまじま。アブダクションされたポルガ博士がタンホイザーゲートからビームアップされてオーロラを纏い竪琴座の弦を一本切って月世界からまっさかさま……」
「何か色々混ざってないか?」
「『サラダボウル』って奴ですね。『るつぼ』じゃあないですよ。まあ『闇鍋』かもしれませんが。もう世界の中心は人間じゃあないんですねえ。此処は『ワンダーランド』か『ランドオブオズ』か。それとも灰羽の一角獣が出る『ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド』? 逢魔ケ刻は何時でもドーゾー」
「俺は最初から中心だと思っていないがな。『人類VS星の意思』なんてのは大怪獣映画のテンプレだが、人類如きに星がどーこーできると思ってんのかと。ナルシストも程々にしろって。『実はネズミやイルカの方が人間より賢くて、愚かに見えるのは演技だったんだよ!』、なんてこともあるかもしれないし」
「『な、なんだってー!』……ケイさん、『貴方疲れてるのよ』」
「演技でも憐れむような視線は止めれ。ま、別にいいんでネーノ? 人間が居なくなってもヘーキヘーキ。別に困るようなことじゃないって。『生命をもてあそぶのは楽しいよね』ってよく人は人類を特別扱いしますが、そんなのは西洋化した人種の例に漏れない十字架教的世界観です。原罪という奴です。不幸自慢はマイナス面で一番に成ろうとする自己陶酔です。人類なんて普通だよ。云十億年生きて死さえも経験した事ないんだから。遺伝子情報にすりゃCDーROM一枚分程度しかないんだから。ちっぽけでなければ、おっきな存在でもない。ただのホモ・サピエンス、天多居る生物の一種類でしかない。絶滅していなくなってもそれでも世界は回るさ。それをマジで『マジ』にやってるのならそれは異常者……かつての英雄や独裁者も、そういう意味では異能者だったのかもしれないなあ」
「まあ、確かに最近の人間は尊大ですね。世界を救うとか滅ぼすとか、お前はジャンプ畑の住人かと。それはちと我等が晴れ星を舐め過ぎです。現実と妄想の区別がついてません。我等が日の当たる青い星は母の様に優しく、父の様に雄大です。人類にこの世界は壊せません。自然が汚れているように見えるのは人間にとって悪く見えるだけであり、星にとっては一つの状態に過ぎない、星は清濁併せ呑みます、神の様に全てを許容します。ましてや世界平和だとか滅亡とか、それは英雄の幸福論です。或いは何時かも知れぬ幸福を約束する政治家の幸福論です。一般人の幸福は、今、此処で、お腹を膨らましてくれる事です。もっと大きな目で事を見ましょう。『人間ってそうじゃないだろう』。『勝手に人間が絶滅したとしても、何がいなくなろうが、星は相変わらず元気に50億年も生きていく事でしょう』。『世界を侵略すること、それから、人間社会を侵略すること、この二つは、まったく別の行為だと理解することだ』。『【ほとんど無害】!』――来世はナメクジですかね?」
「やだなあ、そんな世界観。ナメクジには悪いけど」
「人間とは何ぞやと」
「人間の定義か? その為には言葉の定義から始めなければな、などとウィトゲンシュタインを言ってみる。けど人間って凄いですね。こんなに高度なくせに年中生殖可能とか。神話ではよく『三分の一』が使われますが、かつての人間族の数は百億以上……三分の一が死んだって三十億程度になるだけ、絶滅には程遠い、例え千分の一だってどーって事ないぜ。まあとは言っても絶滅する時は恐竜よろしく呆気なく絶滅するでせうし、百億は大祭害前の数ですが。現在の旧人類の世界人口ってどれくらいだったかな。一億か千万だっけ? ま、それでもレッドリストに載るには程遠いな。何て巨視的に世界平和や世界滅亡を語るのは、英雄の世界論だろうが……ま、兎も角、
サルの遺伝子はヒトに九割以上似ているらしいが、人間じゃない。遺伝子は関係ないだろう。アレは思考が出来ない。『オペラント条件づけ』における『スキナー箱』の様な状況を想像してみると簡単だ。例えば、『木の実が欲しい猿が居て風が吹いて木が揺れて木の実が落ちた』とする。この時、大抵の猿は『風が吹いて』に注目して、ソレ以外の理由を考えないんだな。しかし実際は『木が揺れて』の部分であり、その理由を導くには『木を揺する』でも構わないし、何なら『木を切り倒し』ても構わないのは、人間なら解るだろう。人間はそこの『因果関係』を考えて、新しい手段を考えられるんだな。しかし考えられない、というか思い付けないのが猿だ。だから一見賢そうな行為、例えば高い所に上るのに他の猿を踏み台にする様な行為も、そう賢いワケではない。それは『スキナー箱』よろしく偶然の産物から慣れでやっているワケであり新しく考え着いたワケではない。けれども人間はそこにほとんど0から辿り着く。そこが人間、思考生物なんだな――というような事を、何処かの大学の心理学的な講義でゆーとった」
「な、何かケイさんが賢そうな事言ってます……」
「覚えてるだけだがな。それにまあ、観念論なCOMICならばロボットでも気分次第で人間になる。けど学術的に言うなれば、意味世界の有無・共有・発展、媒介要因の把握、情報を本や絵の物で残す、表情、言語、貨幣、料理、歌、自慰、芸術、創造、空想、疑問を持つ事、二本の足と手を持持つ毛と爪と牙の持たない者、はたまたお前の言う様に無意味に意味を見出す者か、あるいは神への信仰の有無か」
「GOSHかあ。ケイさんは敬虔者ですか?」
「特定の宗教家じゃないが、無宗教とは言わないな。クリスマスもバレンタインもやるし、腹痛でトイレに駆け込んだら神に祈るし、この世界を創った何か大きな存在くらいはいるんじゃないかなあと夢見てる。特に聖歌や讃美歌はやっぱり良いねえ。言葉が解らなくとも良いもんだよ、そのメロディーだけで何か来るものがある。うん、俺は宗教家じゃないけど、神様は好きだよ。何だかんだ言って、アレは幸福になろうとする者達の結晶だからねえ、それで悪かったらそれこそ嘘だ。疲れた時に祈ると泣いちゃうぜ。まっ、大体の人間族の価値観は十字架教的だろうて。むしろ無宗教を気取って狂信者を虚仮にする方が宗教的かと。それこそメディアやサイエンスという宗教に……。それに居る事に気付いてないだけかも知れないしな。お前風に言うのなら、己の限界が神の限界です、か? それにいると思った方が楽しい、かな? ま、いずれにせよ、『ただ名ばかりがシャボン玉のように膨らんだ、夢幻の恋人』への片想いに水を差すなんて、無粋な噺さ、ククク」
「ははあ、成程。私もケイさんの様に何か特定の姿を宗教に入っているワケではありませんが、GOSHが大好きですよ。世界というモノは偉大です。超神秘的なモノではないかもしれませんが、けど、そういう何か大きな存在は信じてます」
「ふーん、異能者にしては珍しいね。彼奴等は大抵、自分しか信じてないから」
「うーん、そうですかねえ? それは自分を信じているのではなく、自分の信じるGOSHを信じているだけでは?」
「はあ、成程。それこそ世界観の違い、か」
「まあでも、人に愚かでいる事を強いるGOSHはちょっとえんがちょーですね。罪と罰と、十字架と布施を強いるGOSHは」
「あはは、そうだな。レストラン営業のくせに客を躍らせる店は御遠慮だ。神様の値段は銀貨30枚、その重さは21gかな? けど神を莫迦にしちゃいかんぞ。ただ何となく生きていられる今の俺達が、神が、もとい人の造った『神』がどれだけ必要とされているか解るまい。今だってそうさ。祈る以外に道がない者がいる。神を侮辱する者は、語る言葉は無く、ただ生きる為だけに生きて逝き、インフラも罪と罰の概念もない、その日暮らしの食事さえばい菌に腹をやられて死ぬというロシアンルーレットである者を知らぬ阿保でなければならない。ま、アレは安心と平和を与えるのだ。誰だって全知全能を望むものさ。誤らぬ道標という奴を。順従であれば悩まなくて済む。神を否定するのもまた同意。『神などいない』という道標を望むのだ。何時だって大体の生き方はそんなものだ。物事は何時だって大きな力で決まるものだ。神を信仰する宗教も大統領を仰ぐ政治もそう変わらん。そして何時だってその輪から外れた者は異端とされ、今を覆す『英雄』がいるのであり、平和に退屈するのもまた常である」
「『呑み込む太母』って奴ですね。人間の尊厳の回復的な」
「というか『祭り』だな。革命なんてお祭りだ。魔女狩りが流行ったのは恐怖や悪意からだけではない、それが人を熱狂させたからだ。誰かを差別したいのはソイツを貶めたいからじゃない、ただ騒ぎたいだけだ。騒いでいりゃ楽しいし、何かを考えず悩まずに済むし、一体感は心地良いし、一体であれば、妬んだり、悔んだり、寂しんだりする事もない。大体の奴はそんな程度。SNSでコメ打ったりデモ活動するのと同レベル。やってる事は今も昔もそう変わらん。まあ画面越じゃその熱さは伝わらし、皮肉な事にネットで世界が通じ合っている今よりも電話もない昔の時代の方が熱狂度はダンチだが。魔女狩りなんて、今日日流行らんだろ? 姿だけで発狂させる能力者は別として」
何でもかんでも簡単にできるから、自力のある長続きする伝説級の流行が生まれないのかもなあとか、自分達で流行らせたという思い入れがでないのかなあとか思ってみる。
「大災害が起こってから数カ月は流行りましたけどね。終末論的な噂が流れて、自殺症候群なんてのも流行りましたし」
「けれどもそれこそが解答なのだ。そんな事が起こりながら、何だかんだで今日がある。ソレは幸いなのか、不幸なのか。アレ程の祭りでも、世界を、神を止揚するには至ら何だ。形而上である神の概念レベルが落とされて日常の存在に堕とされても、それは神以上の存在を見出すだけだったとは、皮肉な噺だ。全く、ヤレヤレだぜクソッタレー」
「よく解りませんが、GOSHが日常の存在になっただけでMYSTのMISTが晴れるなら、俳優のMYTHはありえませんよ。確かに、ソレを自明とするかどうかは大きな違いの様に見えます。しかし、TPOにより妖精だって『良き隣人』だったのです。無知性と宗教性は別問題です」
「然り、だな。物理化学を無宗教という奴は、そこん所を知らんのだ。その無知こそ宗教と知らずに。そういう事は何度も過去に繰り返してきたはずなのに、どうして気付かないかねえ? それこそが、正しく神の御力か? 全く、ヤレヤレだぜクソッタレー。
――ふん、噺が逸れたな。兎も角、何を人間と見なすか、その理由は様々で、ある文化ではナメクジが『人間』、人間と呼ばれる立ち位置なのだろう。少なくともソレが主流で、当然なんだ。平和が獣の様に争い騙る事を否定するように、今見るとヘンテコな絵が当時の流行であったように。それは無知蒙昧とか発展途上だとか、そういうワケじゃない。ただの違いだ。『Human』と『人間』か、あるいは『白人』と『黄人』の違いだろう」
「後、黒人は勿論、緑人も赤人も限りなく透明に近い青人も言語化不能の色人もいますね」
「サイケデリックだなあ」
そして同時に、彼等を殊更「人間」扱いする必要は何処にもない。テンプレな物語は異形を指し彼等が人間かどうかを問うが、そんなものはこの舞台ではアナクロと言っていい。人間至上主義じゃあるまいし、脱十字架教な人間賛歌じゃあるまいし、電気羊の夢にこだわる必要は何処にもない。別に人間じゃなくともいいのである。というか生物学的に見れば人間なんて生物の一種族でしかないわけだし、そう威張る事も悲観する事も無い。まあ、それがエンターテイメントという奴だし、違いという奴は大事だけどね。
「はあ、成程。イーミックな視点ですね! 私もイーミックを耕すのは上手いですよ。もし貴方が大公爵様なら、私は持てるだけのイーミックを献上します。いやあ、終盤の爆弾を抱えて太陽に突っ込むシーンは泣けたなあ……『イーミック』って何ですか?」
「知らずにソレっぽい言葉使うんじゃないよ。わざわざ修飾しなくとも、ちゃんと応えるさ。長ったらしい言葉は要らん」
「『戦争反対!』で皆が納得できればいいのにね」
「いや、アレはほら、エンターテインメントだからね、騒いで面白くしなきゃ」
「えー」
「因みに、『イーミック』は内部の者の立場に則して考える見方だ。その逆は外部の世界主流な視点である『エティック』。つまり仰望と俯瞰、主観と客観だな……世界主流っていうのも変な噺だが。例えば現代人は戦争映画を何か泣ける感動作品のように思いがちだが、当時の人にしてみれば感動も何もない、恐怖すらない、ただただ逃げる事に必死な一瞬の出来事だったかもしれない。そういう『視点の切替』って日常的にも大切な事だと思いますよ。日常のコミュニケーションや物語を読む時や、特に戦争映画を駄目と言いながら戦争映画に感動する様な資本主義の娯楽主義野郎にはね。まあ尤も、生の戦争や人間の死体はおろか喧嘩すら経験した事ない奴が作った戦争映画に誰もが感動しちゃうのが今時ですが。リアリティって本当なんなのだろうねえ。クオリティは、作り手じゃなくて受け手の限界で決まるけど。むしろ戦争は喜劇だと俺は思うね。いや笑劇だ。『よし・だめ・ひけ』と敵性語を使えなかった御国も負けた途端に手のひらを返したように『アウト・セーフ・よよいのよい』、これを笑劇と言わずして……と現代文の授業をやってみる。
しかし成程、大祭害は戦争だったな。何もかもを打っ壊してそのエネルギーで黒洞から成る事象の地平面さえ超えようとする様に。大祭害はありがちなラスボスの言うような『全てを始まりに』的な事をやったワケだ。そして此処は怪物の踊る『衆愚の町』――或いは、邪神の戯れる『アーカム』、逃げ場のない『アルファ・コンプレックス』、姿忘れた『ワンス・アポン・ア・タイム』。『異形都市』も『神経塔』も『秀真国』も『Forest』も『リトルビッグプラネット』も、『キーブレード』片手に『漂流』して衛星放送で喝采だ。
しかし同時にその程度。そんな大祭害も外ではスクリーンの向こう側だ。『トゥルーマン』だ。『コンバットモルモット』だ。大震災が数年で想い出になり、昔の戦争は映画の中だけの神話になり、現在進行形の戦争でさえ河岸の火事になる様に、大祭害も今じゃ御伽噺、日常系――科学がどれだけ発達しても宗教が無くならない理由が此処にある、人間は根本的に阿保なのだ。まるで目の前で火事や交通事故が起きてるのに自分の眼ではなく携帯の画面越しに見る様な楽しみ方。ただの花火だ。そうやって撮ってる奴等を撮った方がまだマシだろうね。それとも、娯楽に貶めて眼を逸らしたいのか」
「けど、世界壁の外だって異界が流れ込んでいると聞きますよ?」
「まあな。異界漂流は望の門の周りが特に多いと言っても、やはり何事も例外はある。世界壁だって完璧じゃないしな。しかし中には都市伝説とか酔っ払い見間違いとされるくらい少数な場所もあるし、執拗に無かった事にしようとする機関もある。それは、大祭害以前でも変わらんだろう。それこそ太母の様に、MIBの様に」
「その点、貞子さんは凄いですね。スクリーンから出て来るもん。あの日常にポンと出て来る違和感、思わず後ろを振り返りたくなる不安感。『Drag Me to Hell』よろしく異界と断絶しているのが洋画で、『呪怨』よろしく日常と連続しているのが邦画ですね」
「而してどちらもコメディーだったりする」
「メリケはエド・ウッドの創ったサメ映画でも見てればいいんだっ!」
「ああ、何を言われても映画作りを止めない彼はまるで新聞王に全面攻撃を受けたオーソン・ウェルズの様だったよ(適当言ってる」
「死と生の連続はSHINTOでもありますね。そんな私が最近、好きなホラーは『E.T.』……アレは良く出来てました」
「それ多分『E』じゃなくて『P』だと思う。
てーか俺のこと偏見思想とか言ったくせに、お前だって偏見してるじゃないか。そういう諸外国の一部を捉えてさも一般に見なすのは感心せんなあ。人気になった漫画や小説を見て他のもそうだと判断するくらい性急だ。そういう奴が『ヤパーナは同調主義』だとか『メリケは自由の国』だとか勘違いしちゃうんだ。そりゃ学問の第一歩とは客観視だし、何もかもを型にはめた方が簡単だし、何より話のネタにもなるってもんさ。だけどそりゃ物事の流派なんて云百とあるのに、刀や盾の正しい持ち方とか弓矢や銃の正しい撃ち方とかで云々言ったり、十字架教は偶像崇拝禁止だとか魔術と魔法の違いだとかを語ったり、『Run』を『走る』や『Go』を『行く』としか訳せなかったりするような浅見で矮小で想像力の乏しい小学生だね。魔法使いや超能力者はよく物語のネタになって個性的なものもあるけれど、だからといって安易に定義付けるのは解せないと思いますなあ。つーかどーせ一般人にはそのコアな軍事設定が正しいか間違ってるかなんて解りません。それが真理。一般常識さえ危ないのに。まあそれを真理なままなのはどーかと思うが。
いずれにせよ黄猿も畜群も長い物に巻かれるのは一緒だし、この国であるメリケだって自由の国とか言いながら超絶学歴主義の白人主義の保守的の表現規制な所だしちょと郊外行けば村八分がある『おい今って何年だ?』レベルでド田舎だぞ。格差社会がはっきりしてて、物乞いはいるし十代の女の子でヤクやってる奴もいる。ヤパーナさん家のホームレスは物乞いせずに自分で働いて偉いですねえ、って阿保にしてんのか。最近のは和ホラーもアクション寄りでホラーというよりサスペンスだし。つーか全員が全く同じ頭を持ってるワケじゃあるまいし、その国独自の共通認識なんてあるワケないじゃないか。国の名前なんて時代によって変わりますし、同じ言語だからと言って皆仲が良いとは限りませんし、同じ宗教だからと言って同じ世界観とは限りません。自動車が右側通行とは、ラフランスが愛の国とは、猫が自堕落とは、外人が金髪とは、限らないのです。ニワトリは空飛ばない。ペンギンも空飛ばない。象は飛ぶけど。ま、TVやネット何かの知ったか知識が全てと思い込み何もかもを一括りに語るのは危険だという事です」
「人の考え何てTPOで変わりますよ。最初から最後まで己の正義を信じる一辺倒な主人公じゃないんですから」
「人の心は天気予報……てかTPOって死語じゃね?」
「あ、そう言えばケイさんTVで見ましたよ。霊子さんに蹴られて白目向いてましたね」
「あのキャスター次会ったら『Singin’ in the Rain』のリズムでボコッてやる……」
ケイはパンをスープにグリグリと押し付けた。それを見て路花は苦笑いする。
「でもそう言うならケイさん、『緑の切符』持ってるんですか?」
「世界壁のか? 持ってるよ、あんま使わんがな」
先に言った様に、大祭害は現界の存在を移動させた。つまり和国のものが米国に、豪州のものが中国に、査証も関所も完全無視して、本人の意思確認もなく移動してしまったのだ。砂漠の遺跡が太平洋のど真ん中に出たとか、月の裏側が竹林に現れたとか、七面鳥の山に箱舟が落ちたとか、太陽の塔が歩いたとか、伝説の桜の樹の下から屍体が這い出たとか。世界の七不思議が本当に不思議になったとか、序の口である。だから「Kinkaku-ji」が墺国にあったり伊勢丹が経営してたりする。いや別にヤパーナが核の炎に包まれたわけではない。そのせいもあってかただでさえ別世界から何言ってるかワケ解らん者が大勢来たのに様々な外国の言葉が入り乱れ言語統制が滅茶苦茶になり、界連は何処の世界の何処の国を主要言語とするか泣き叫びながら激論し、神話好きのマニア達はバベルの塔の再来と言い、言葉巧みな者達はこれで裏舞台の住人達は嫌でも表舞台に上げられたのだなどと言っているが、けれどもこれは別の物語。
大袈裟で勝手で滅茶苦茶な国際交流が行われたことで各国は大混乱。無理やり帰ろうとする者がいたりその隙に乗じて税関を突破しようとする者がいたり。結局、各国はこれ以上の混乱を起こさせないため門周辺に「世界壁」を建設、通行を制御して勝手に入出できないようにしたのだった。是を上空や地中から抜ける事は出来ない、壁のZ軸が二次元的な空間になっており高さの概念がないからだ。是を瞬間移動で潜る事は出来ない、W軸を現空間に纏めているからだ、勿論トンネル効果も不可能。物・霊的破壊は出来ない、そういう設定だからだ。尤も、その世界壁を造ったのは黄金狂であり全世界の総意ではない。そして同じように、「越えられない」という設定も総意ではない。
実験場と揶揄する者もいるが、まさしくそうだ。世界壁に囲まれた実験場。此処は蠱毒ならぬ界毒か。神話の最終決戦じゃあるまいし。しかし実際はそんなモデル生物よろしくな鬱々とした気分は街にはないし、むしろ騒がしい。というか莫迦である。学園祭の延長のお祭り騒ぎである。それもそれでどーかと思うが。勿論、真面目な奴だっている。どんな役をやっているかは、者それぞれだ。
因みに、そんな異文化交流によって料理や芸術などは大きく躍進した。それは異界の物を取り入れるだけでなく、既存の物も注目された。その国で全く注目されていなかったモノが他国によって褒められて母国も手の平を返したように褒めるのと法則である。ここにおいて自国にさえ忘れ去られていた伝統芸能や宗教、学問、技術、あるいは神や悪魔や妖精などが異界者の手によって復活され、研究され、研磨され、日の目を見るようになったのだった。活気を失った商店街やシャッター街もそれを機に町興しを大々的に行っている。伝統的な寿司を食べずに欧米のハンバーガー最高などと無抵抗に外来文化を礼賛する時代は終わったのだ。まあ西欧が異世界に変わっただけかもしれないが。
勿論、ANIMEやCOMICで流行った作品を何か勘違いして宣伝に使い古き良き街並みが非常に微妙な空気に成るのもまたお約束と言えようが。内輪で流行ってもね、所詮は内輪なんですよ。井の中の蛙ですよ。アングラですよ。サブカルですよ。ネットアイドルをリアルに引きずり出すようなもんです。ゴールデンではなくナイトだし、レッドホワイトでも2、3個が限度です。拡散するのが速いからそれなりに映えますがね、熱量はそんなにありません。魔女狩りで人は殺せますが、ネット流行で人は殺せません。いやまあ殺せるっちゃあ殺せますが、流石にあの狂気は無理でしょう。勘違いしてはいけません。期待してはいけません。自国の偶像が他国でも流行しているワケではないのと同じです。市民権を得て来たとかトンチキな事言う輩もいますが、そんなら昔の方がまだ流行ってました。ましてや例え受けてもなんちゃって流行に乗る若者者は金を落としません。僕はね、そういう事は言いたいんです。最近は本当、ネットで流行してたら世界主流だったり世界の事はネットに全部乗ってると思う輩が居ますからね。ヤレヤレですよ。何が社会現象だよ。何がグローバルだよ。まるでネット以前はグローバルじゃなかったみたいに。ネットがない世界でも世界大戦を二回も起こしたんだ。海を渡って十字架教が栄えたんだ。ネット=グローバル化という奴は、全く、世界が狭すぎる。ネットなんざ怖くねえ! 自撮りじゃ何も解らんですよ。隣の席の気になるあの子の電話番号がネットに載ってるとでも? ハッ。だったら僕ぁわざわざあんな学校になんざ行きませ……え!? 載…ってる? 彼女のアドレスが載ってる? しかも目隠しした裸体と一緒に載ってるぞ! エリーゼのゆううつで載ってるぞ! 本番は別料金で載ってるぞぞ!! いやっほぉおおおおおおお!!! ネットで世界と繋がってる! そう、iPhoneならね! ネットを使うっていうのは詰まる所宗教さ! 免罪符を貰って社会復帰する事と変わらねえ! よーしこれで僕も卒業だ! これが僕の卒業証書だ! いっけえええ僕のマグナアアアアム!
そんな夢を見た。起きてとなりを見た。自分の写真が一枚も無い卒業アルバムがあった。目から涙がこぼれた。そんなわびさびのある学校生活を送りたくない人は今すぐ今から言う電話番号へアクセスだ! 今なら歌い手()の二次アイコンみたいな顔にマジでなれるぜ、いやホントマジで! え? 今じゃ無かったらそうじゃないって? まさか! 僕あ昔も今もあんなアイコン顔さ! いやホント! え? 偶像崇拝? 原理主義? 何語ですかそれ? 人の言葉で喋ってください。
また因みに、異界の文化も飛んできており、そういうものは昔っからの「文化遺産保護制度」に則り保護されるのが普通である。架空の制度ではない。既存の制度である。後、「独占禁止法」なんかもある。これは現界にも当てはまり、持ち運び不可能な文化財が何処ぞに飛んだり、その国が異界騒動で保全困難な時は当時国や別国が責任もって保護する事になっている。そうした場合、現界連合より多額の予算が降りるらしい。なので何処ぞの文化委託制度よろしくKINKAKU―JIが南の地にあったりなかったり。戦争のドサクサに紛れて美術品が流出というのは、その界隈ではよくある噺だ。
「羨ましいです。私も欲しいんですが、保護措置の身分ではどうにも難しくて」そんなケイの思考を他所に、「bubble ble」とジュースを鳴らしながら路花がそう言って来た。「親が元々は中つ国の方に住んでたらしくて、だから一度見られたらなあと」
「トールキン?」「じゃなくて葦原の」「ああ、ポケモンとかいう妖怪のいる」「それ何か混ざってません? ……まあ、兎に角、其処です。一度でいいから、帰ってみたいなあ……」「ほーえー。奇遇だな、俺は生まれも育ちも解らんが、数年前まではそこにいたんだ」
「解らないんですか?」
「まーの。親の顔を知らないのは、大祭害以前でも別に珍しい事じゃないだろ? まあ少なくとも、現界人だとは思うよ」
「はー、そうですか。オリエンタルな感じでしたから亜大陸の何処かだと思ってました。それもかなり過酷な土地で、モンゴルァやパミィルやトルクメニメニ辺り。もしくは中東辺りでゲリラやってそう」
「まあ確かに物心ついた時には既に食い物が無くて殺した敵の人間を食って生き延びる程度の紛争地で銃撃ってたけどな」
「え」
「何てのは冗談だよ。冗談冗談。本当に冗談。けど中央大陸かあ……広々として良い土地だけどなあ。雄大な草原をバックに馬で一駆り、贅沢だねえ」
「私は生まれも育ちもコッチです。いわゆる日系ですね。といっても孤児院に居る事から解るように、顔もよく覚えていない両親はJOHATUしてしまったらしいですが」
「ほーか」
じょーはつと聴いても、ケイはさほど驚かなかった。親がいない事なんて大祭害以前からでも珍しくない。ましてや悪魔怪獣なんでもこいの怪物ランドでは況やだ。
「因みに文字通り(リテラリー)で」
「ほ、ほーか」
珍しくない。珍しくない。
前述のとおり色々な者達がごちゃ混ぜになってしまった為、その援助のために様々な福祉組織が作られた。ソレ等は界連主体のものがあれば非界連のものもあり、営利的なモノもあれば非営利的なものもある。そこでは例えば生活保護、働き口、見受け引受者等を提供しており、最低限の生活を行えるように援助している。
その中で特に多かったのが流浪者の発生である。祭禍のおかげで言葉も概念も解らない状況に陥った大人や、親とはぐれてしまった子がいた。そんなわけで身元引き受けや取り敢えずの衣食住を提供する福祉施設が多く急造されることとなったのである。その需要は界異が絶えない今も変わらず多くある。現在、路花の住む孤児院もそんな福祉組織によるものの一つであり、特にこのような行き場を無くした者達に仮住居と養護者である仮親を与える福祉形態を「大祭害被害者に対する生活場所提供制度」と言い、ソレに従い路花がいるような孤児院の総称である灰色の天使の連盟に出てくる家の名に由来する「みんなの家」を筆頭とするランナー協会や秘密結社ができ、「叩け、さすれば開かれん」とする「大きな家」と「家族」が出来上がったのである。「共界存権宣言(Many-worlds Declaration of existence Rights)」でも第3条において保障されてる。
しかし何分急造な所があり、また毎年需要に反して手不足で、金銭も豊かでなく、何より雑多な者達が一同に同じ屋根の下に住むため様々な問題点がある。その様な者達の数は多いため集団で生活する事を余儀なくされたり、場所によっては劣悪な環境だったり、しかし文字通り千差万別な者々に対応するには時間もかかり、しばしば同種同族の集団ができ差別的な衝突が起こったりと色々する。しかし、それはまた別の話。
「お義姉ちゃん、とてもいいシト(ひと)。私、お義姉ちゃん、好き」
「何で急に片言なんだよ」
「ちょっとキャラにアクセントを……やー、こうやってまともに人と話せたのは何か久々なものでして。ここ一ヶ月逃げてたものですから」
ああ、早くお家に帰りたい……と路花は遠い眼をして言った。
「やれやれ、色々な世界が混在するのが今時というのに、お前が望むのは『There's no place like home』か。なら、さっさと帰られるようにしないとな」
「けど、色々と冒険したから家の価値が解るワケで」
「難儀なもんだな。冒険中は、家さえも『此処じゃない何処か』か」ケイはそう言って被りを振った。「まっ、乗りかかった船だ、暇があれば俺も手助けしてやろう」
「えぇっ、いいですよ、私の問題ですし……」
「子どもがあまり寂しい事を言いなさんな。何時の時代の何処の場所だって、大人が子供にやる事はそう大して変わらないよ。こんなのは、断れないお節介として嫌々受け取っときゃいいんだ。それに俺も……まっ、あの場所の餓鬼だしな」
そう言ってケイは肩をすくめ、軽く笑った。路花もそれに応えて笑った。少しひねくれているけれど、悪い人では無さそうだ――テレパシーではないが、路花は心でそう思った。
――――第壱幕 第弐場 終