Q.それでいい。君は愛に生きろ。僕は一生おちゃらけて生きる。それで、いいよな? A.知らんがな ―We are stranger in town and are here. ―
舞台外『Q.それでいい。君は愛に生きろ。僕は一生おちゃらけて生きる。それで、いいよな? A.知らんがな ―We are stranger in town and are here. ―」
眠らない街と言われる不夜城も、電車に乗れば三十分もしない内に田舎となる。ちょっと遠くへ行けばある意味ぱっと広けた風景には木々や畑や牧場が広がり、木製の電柱さえあり、白黒の獣が「Moo」という鳴き声をする。家畜化された既存の獣から、それとは少し違うピークという動物がいる。初めてその肉を食べた者が感じた味から連想して名付けられたらしい。……ああそうだとも。「ビーフ+ポーク=ビーク」だよ。名前付けた奴安直すぎだろ。責任者出て来い。まあ別に鶏が可愛いからいいけどね。ああ、鶏は可愛いなあ。呆けっとした所が可愛い。首を絞めると白目になる所が可愛い。人間様に家畜化されて喰われる事以外に人生が無い所が可愛い。さあ、元気に走れ。ふふ。ふふふふ……。
その他に草花が住居する崩れた建物や、五人くらいが寝転がれる瓦礫の椅子があるのは、大祭害の名残である。一目見ると荒れ果てていると思うだろうが、よく見ると、意外と落ち着いた心地がするのを覚えるだろう。其処は自然体なのだ。後片付けをする暇がないと言うのが理由の一つだが、それも瓦礫をそのままにしている理由の一つだ。もっと遠い、それこそ世界壁付近の郊外に行けば、ちょっとしたRPGのワールドマップである。植物の生えた鹿や、水で出来た象、燃えている鷹や、首狩り兎など、そんな者と会えるだろう。因みに、これらの動物は例え危険を持つ動物でも無闇に狩るのは共界条約で禁止されている……表向きは……ま、それはさて置き。
そんな郊外の、「ちょっと遠く」の方の一角で、両手を組んで眼を瞑る少女が居た。かれこれずーっと三時間くらいそう突っ立っている。もうすぐお昼だ。
「今日もお祈りかの?」真っ黒とした猫のお爺ちゃんがそう言った。霊寝族だろうか? 高さは大の大人よりも大きく、太さはそれよりもっと大きい。が、如何にも温和そうな顔つきで、月夜の晩にオカリナでも吹いてそうである。彼の後ろでは鳩の翼や鹿の角の様な物が生えた兎がウロウロしている。猫は顎を触りながら尋ねる。「もう何日目じゃのう?」
そう訊かれると、少女は猫へ振り向いて、指を二本立てて、それから少し考えて、やっぱり小首を傾げながらやっぱり三本にする。
「三日?」少女は困ったように笑って首を振る。「三週間か。放蕩息子じゃのう」
少女は僅かに眉をひそめる。
「ほっほ、冗談じゃよの。ちゃんと働いちょるのは解っとろうて」と猫は笑う。獣人にしては豊かな表情だ。「しかし、そろそろお昼じゃ。心配するのはいいが、お腹がすいとろう。一緒に豆で遊ばんか」
少女は自分を右手で指差して、次いで自分の胸辺りを叩いてから前に差し出した。
「いやいや、これは遊び遊び。そう手伝うなどと気負わずに……」
と、そこで猫は台詞を区切った。次いで少女から眼を逸らす。少女もその視線を追いかける。そこには見知った待ち人の姿が居た。銀色の腕輪をした人。
「よぅ、ただーいま」
そう、彼は右手を上げてニヤリとした。ケイだった。
びみ死いハンBAーグを憑グLAW! 米材猟・憎、魂根木、塩小姓、愛、後はお娘の身で多摩湖、小麦子、犯子、乳子など
1.自分の食べて欲しい部分の憎を切り取ります。胸は触るにはいいですが、食べるには脂肪の塊なので控えましょう。1.切り取った憎を塩小姓と一緒に口に挿れ練ります。つなぎは塩が作ります。1.痛めた玉ねぎも口に挿れます。お好みの素材も此処で挿れます。1.腰を振ってパンパンして空気で抜いたら片繰子を眩します。これは焼き目を入れる高価があります。1.頭がフットーしそうなくらい体温を上げます。最初に強火で焼いて憎の表面を固めた後、丸めた種の高さ三分の一程度まで熱湯を入れて蟲〼。息子とに寄り肉汁が蒸発する事を防ぎます。1.1に戻ります。今までの人生を振り返って涙します。1.すっぺらぴっちょん体操を踊ります。1.テトラポッドに萌えよ。1.ネコと和解せよ。1.びっくりするほどユートピア!1.一度も本物の神を信仰した事も無いくせに「神様は役立たず」とか「神様は守銭奴」とか神様を否定するヤパーナ人ってホント何様何だろうね少しは世界史を勉強しなさい現代は頑張れば成功する時代かもしれないけど昔は頑張っても駄目なのが当然で最後には神に祈らなきゃならないのが普通だったのだ江戸時代とかの百姓の生活を考えてもみろ日々の天候で生活が決まる稲が己の命そのものだからなそんな生活してれば神でも何でも祈りたくなるならないのは革命児にて愚者なる英雄かそれか生きるのを諦めた首吊り人だ本当に自分の常識外の莫迦とか本気で夢を信じている莫迦とかを「何言ってんの?」と冷めた顔で虚仮にする御方なんだろうね素晴らしいねそんな御方の信じる者って何だろうね自分かな?∞.などと社会論をぶってる内にお湯が程よく無くなれば完成です。この残りお湯はそのままソースとして止揚できます。後はお皿に吐き出すだけです。
はい、とまあこんな感じで、でっきあっがり❤×無限大数。
「『でっきあっがり❤』、じゃない」ペン、とケイはアニアの頭を叩いた。「人肉ハンバーグとか何処の『封神』だよ」
『毎年の食品廃棄量は生産量に対し三分の一であり処理費用は八千億$必要とか何とか』
「あっそう。飢餓地域にでも投げ込めば?」
『食べないつもりでござるか』
「武士は食わねど爪楊枝」
『…………』
「其処で押し黙るなよ……仕方ない、せめて手を加えさせろ」
『そんな貴方が、私たち人形は大好きです。でも引きます』
「TVを見る時は未来を明るくして現実から離れて見てねっ!」
『そういう冗談も言えるのだな』
「そりゃ、社会人たるものウィットの効いたジョークの一つや二つ……」
そう言ってケイはハンバーグの皿をキッチンに持っていき、何やら料理をし始めた。キャベツをレンジで温めて柔らかくしハンバーグに巻いて、トマト缶と熱湯と適当な野菜とコンソメを混ぜて煮詰めて……。
ケイは自分の寝床に帰っていた。潰れた出版会社の小さなビルを丸ごと買い取った建物だ。これは色々な場所を奔走するケイにとって数ある仮住まいの一つである。内装はこざっぱりとしており、以外にも掃除が行き渡っている。都心部から少し離れた場所に立っており、辺りの建物は多くとも喧騒は夜になれば静まる程には離れている。東に行けば霊界へと繋がる墓場が在り、西に行けば捨てられた人間のリサイクル工場が在り、南に行けば島亀の浮かぶ海が在り、北に行けば誰をも受け容れる世界壁がそびえている。
アニアはそんな部屋の台所を借りて料理をし、出来立てをセンターテーブルに置いた所、ケイにすぱこんっと頭を新聞で叩かれた。丁度帰った時刻が昼でありケイがふと「腹減ったな」と独り言ちたから造って上げたというのに。
「愛が重い。そう、朝っぱらからのハンバーグの様に」
そうケイが眼を離さず料理しながら山戯ていると、「tap」と水を入れたコップがでーぶるに二つ置かれた。先のお祈りしていた少女が持ってきたのである。少女は左手のお盆を胸に寄せ、右手の平をコップに出し出す。アニアはそれを見て少し考えてから、椅子に座って『いただきます』と飲む。
『む、これは。『水温9、硬度30、臭気度2、遊離炭酸20、蒸発残留物190』……そして君の心はプライスレス』
「何だっけその台詞?」
『さあ? 頭にインプットされている情報を自動的にTPOでアウトプットしているだけですから、割と適当な事を言っているかもしれません』
「お前の存在自体が茶乱法螺ンだけどな。イリアの方はもうちと……」
と、彼が割と酷い事を言っていると、そこでケイは背中を叩かれているのに気づいた。少女がアニアを指差して、次いでその指を自分の頬に当てて小首を傾げる。
「あ、そうだそうだ」とケイが指先でアニアに「こいこい」とする。花札ではない。アニアはソレに従い、コップを持ったままこっちに来る。それをケイは肩に抱き寄せて、「これ、お土産」と無造作にアニアを指差した。
そう言うと、少女は手を口に当てて大袈裟に驚いて、次いでくすりと笑って、右手の平を相手に見せ、左手を胸に当て、右脚を引いて、左脚膝を曲げて身を少し下げた。帰依教の挨拶とカーテシーを合わせたような挨拶だが、いずれも違う、彼女の世界の挨拶か?
『而して実はお土産は仮の姿。本当は海の星と呼ばれる孤児院で住む予定なのですが、準備が少し滞っておりまするため今は此処に居るでござる候』そうワケの解らない語尾を並べた後、ふとアニアは気付いたように尋ねた。『貴女、喋られないのですか?』
そう尋ねられると、少女は……。
「………………さあな」暫し待っても少女のメッセージは「あなたをじっと見つめてる」で変わらなかったので、ケイが代わりに肩をすくめて応えた。「『聾者』ではないと思うよ、声には反応するから。まあ路花みたいに超能力者である可能性も無くはないが。医者に出してないし、ホシフルイでも鑑定してないから其処は解らん。別に困ってないから、どっちでもいいけどね。しかし兎も角、喋れんのはたまに困るから、手話教えてる。けどまあ、国際手話なんて上等なものも使えるけど、さっきからやってるのは手前勝手な体現化だな。でも、何となく伝わるだろう?」
『はい、伝わります』
「んや? 解るのか。適当に言ったんだが、流石、モノマネ芸人。ごちゃまぜの塔は砕かれたが、伝えたい心は世界共通。何事も心が原典、なのかねえ?」
『良かったら、私が触手で脳みそをくちゅくちゅして喋られるようにしてやろうか? 気持ちが晴れ晴れとしてすっきりしますよ』
「葉切除でもするつもりかお前は」
『なら、紙とペンで話しては?』
「ふむ、ソイツはメイアンだ。素晴らしい」と、ケイは調理場を離れて、持って来た紙と筆にしたホシフルイを少女に渡した。「さあ、この方にお前の名前を教えてやれ」
そう言われると、ニコリとして少女が絵を描き始めた。達筆である。しかも速い。なのに素晴らしく時間がかかっている。一分くらい経って出来た絵は「贋作・レプリカ専門のアートギャラリー」に出したらある意味場違いな程の出来栄えの青いターバンを巻いた「Het meisje met de parel」であった。何で?
「とまあ、コイツは絵を描かせると途端に遊ぶからソレは迷案なんだ。ああ、言っておくが実はこの絵には意味があってコイツの名前は『リザ』であるとか『マーリア』であるとかヒットラーの孫娘であるとか、そんな探偵小説的展開はないからな」
『ははあ、『知ってるがお前の態度が気に入らない』って奴ですね。意外と腹グロ?』
「ふむ、設定としちゃアリだな。実際は気の抜けるほど純粋無垢だが」
『なら、私のコレ(スピーチバルーン)の様にデジタル化すれば?』
「『したい』って言ってきたらするよ」
『はあ……そういうものですか』そう言って、アニアは自分と同じ背丈くらいの眼をジッと見つめ、おもむろに手を前に突き出して、眼の前でゆらゆら左右に揺らした。少女は「?」とでもいうようにそれを眼で追っていたが、やがて顔も左右に揺らて楽しそうにした、所をいきなりアニアがアイアンクローした。何してはるん。『眼は見えているのですか?』
「さあ、知らん。さっきも言った様に、光以外で感覚してるのかもしれんし……」
『はあ。いえ、眼に光が見えないような気がしたので……』そう言われている少女は何故掴まれているのかも解らずに、かといって特に抵抗する事もなく掴まれたままだった。私は思うますが、逃げる時は滅茶苦茶暴れる癖に掴まれると途端に大人しくなる動物って、アレ何で大人しくなるのでしょうね? シを覚悟するのでしょうか。『もっと、知りたいとか思わないのですか? ケイさんは常々、そういう曖昧さを嫌う事を言っているのに』
「『それはそれ、これはこれ』。金髪だから、胸がデカいからと言って女性を選ぶわけでもあるまい。一辺倒な主人公じゃあるまいし、相手によって会い王を変えるのが普通だよ。俺にとって、コイツはコレでいいのよ。解るかなあ? 解んねえだろうなあ?」
そう言って、優し気にケイは少女のこめかみ辺りをぐりぐり弄った。横髪を耳に掛けさせる。少女がこそばゆい風ではにかんで左眼を瞑る。
『誰かを食べたい気持ちならありますが』
「うーん。それもまた一つの解、か……?」
『仲がよろしいんですね。お二人はどういった関係で?』
「関係は……」
ケイはさてどう言おうかと考えた。というのも、パッと言葉が浮かんでこなかったからだ。友達? 知人? 家政婦? 家政婦はないよ。ケイは無意識に少女を見た。ソレを少女はどう捉えたか、答えを望まれていると思ったのか、少女は暫し考えた後、ケイの横からぎゅっと抱き付いた。可愛い。
『妹?』「知らん」『娘?』「何でよ」『ロリコン?』「待て」『愛人?』「だから待て」『ラボイド?』「怒るぞ」『メイド?』「だったらいいね」『奴隷?』「言い方」『では戦争孤児?』
「どーしても不幸設定が欲しいと見える」ケイが肩をすくめて、次いで、少女の頭に手を置いた。「実は、とある異界の小国の姫であったがとある侵略戦争により敗北し奴隷生活を余儀なくされていたがとある革命軍が奮起して国権を奪い返した際にその革命軍に混ざっていたこの俺が報酬として貰ったのがコイツなのだ」
『マジかよヤッベーなソレ』
「ヤベーよなー」とケイは肩をすくめて笑った。「別にいいじゃん、普通の少女で。むしろ今の世の中、『普通』ってのは貴重だぜ? 人は誰しも個性を求めますが、リアルな噺、無個性で居る方が何時だって難しいと俺は思うよ」
『彼女は少女である。名前はまだ無い』
「その書き出しだとBADENDだったいような」
『しかし『普通』ですか。外連味のある方が貴方は好きだと思ってましたが。非日常な世界では、日常が何よりも愛しいという事ですかね?』
「夜遅く仕事で疲れた男に必要なのは、元気づけてくれる人では無く、黙って隣にいてくれる落ち着ける人なのサ、と? 嫌いではないな。気は合わないが。何せ、俺は立ち止まるのが――とまれ、理由なんてないよ。友達は選ぶモノではなく、気付いたら成ってるモノさ。けどまあそういうなら……むしろ逆だな。人は誰しも夢だの海外だの異世界だの求めるけどさ、そういう奴に限って身の回りの事を知らんのだよな。己の家の庭先に咲く花の名前さえ知らん。もしかしたらソレを知っている事は、異世界に行くよりかも珍しい事なのかもしれん……的な、そんな感じ?」
『よく解りません』
「つまりネットサーフィンして頭でっかちになるよりも、外に出て友達と駄弁ってる方が有益だという事さ。いずれにせよ、彼女は彼女だ。メリュー所の愉快な家族その1、だ。ちょくちょく遊びに来るのよ」
『通い妻ですね。『家政婦は見た』』
「内容は誰も覚えちゃいないだろうけどその一文は有名だよなあ」
そう会話が終わる頃には、ケイの料理は出来ていた。はい、ミネストローネ・ロールキャベツの完成です。皿に盛り付けて、机に置く。実食タイム。
もぐもぐ。
「どうだ、美味いか?」
『悔しい、けど、感じちゃう(びくんびくん)』
「間違ったヤパーナの知識がコロンビアに伝わってますね」
『コ、コリャは……カレーを水分ではなくトマト缶で代用する事により爽やかな酸味のあるピリッとした辛さを演出してひるっ。女子力高い』
「ソロプレイなだけだよ。けど、なら良かった。豆とパンがあればなお良かったが……」
もぐもぐ。
『はんばぐーは如何?』
「まあ美味しいんじゃないかな。どっしりしていて好みだよ」
『うわ』
「折角食べたのに『うわ』って……しかし路花なら平然とカニバりそうだ。やだなあ、最近の若い子は。さとり世代ってレベルじゃねー。違和感あり過ぎて気味が悪い。正直、アレにはもう出来ればもう会いたくないな。何時爆発するか解らない核爆弾を連れてるようなもんだ。いや違うな。常識の違う外国人と密室でいるようなもんだ。しかも実はソイツは文字通り人の皮を被ったナニカで、本当の姿は解らんと来た。なまじ人の姿で溶け込んでるだけ不気味だよ。不気味の谷だ。宇宙人だ。化物だ。バラエティー番組の無菌箱だ。フィクションであるスクリーンの向こう側から出てリアルに介入した貞子だ。いやそれも違う。言葉に出来ない、根源的な不安の種だ。生の人肉を食う様な、常識の崩壊だ。そりゃ、飽くまでも常識で相手にとっては当然なんだけどな。餓鬼はカッとなって刃物出し、虫を食べる文化があり、異界者にとっては人間なんて草食動物よりもちょろい食料なワケで……そしてそうやって嫌に思うのと同じくらい、憧れたり、惚れたり、信仰する奴もいるが……しかし俺は、生理的に、本能的に、ああいうのは、ちょっとなあ」
もぐもぐ。
『そういう台詞、路花さんに面と向かって言ってますよね。そうやってあの人を泣かせるのは、甘えですね。黙っていればいいものを、すぐヅケヅケと悪口を言う。アレですか? スカートめくりする小学生ですか?』
「同属嫌悪という奴ですかねえ。ほら、俺も人の皮被ってますから、何時爆発するか解らん竜を中に入れてる今時の〈重複歩行〉ですからネ。勘の鋭い獣や機械にはソレが解るのか、露骨なり遠回しなり嫌な眼で見られてホントもうね。異国の白人社会に一人だけ黒人で混ざったような、第二次世界大戦中に独をユダヤ人の身分で歩いてる気分というか、ヒットラーをひっ捕らえよーというか、でもやっぱりナチって当事者じゃない人には格好良く映るんだろうなあとか、いやそんな事は置いといて……とまれ、だから仮にも〈海の星〉の家族であるアルトリア・リィラとかいう奴とは進んで距離を取ってたのに、手前の文字通りのモンスターペアレントの所為であんなにはっちゃけて……いやそれは責任転嫁だが……けど白星族にだぜ?、あの白星族に……目が合うたびに殺人鬼か強姦魔かそうでなくとも変態に会ったかのようにビクビクされて、そしてすぐ後に『あっ、ごめんなさい』と本気で、そう本気で謝られるのが、もう憐れで、その優しさが男として情けなくて、こうなるのが解ってたからキレイだなーと思っても敢えて会わなかったのに……まるで風呂場から上がった俺の裸を見られた気分だ、何で逆じゃないんだ、いやそうじゃなくて……ああ思い出すなあ、自閉症の奴は幸せな事はすぐ忘れる癖に不幸な事はずっと覚えているんだ、少なくとも海の星にいたアイツはそうだった、海の星に行ったばかりの俺は気取ってて、ソイツをキチガイ扱いしてよく蹴ったり殴ったりしたもんで、今でも怯えられるんだ、どれだけ過去の己を恥じて悔やんで優しく愛してもな、畜生、タイムマシンに乗れるなら、真っ先にその時代に行ってその愚かな己を首を掻っ捌き――」
そこでケイはハッとした。要らない自分語りまでしていた。
『そして頭を振って、ため息をついた。何だかんだと一匹狼を気取っていても、やはり家族に嫌な眼をされるのは怖いか? まさか! そんなのは今更だ。文字通り指を刺されるくらいの心意気でランナーは、ライ麦畑の住人はやれんよ。ケイはそう思い、軽く笑った』
「おい地の文風に適当に俺の気持ちを語るんじゃない」
『適当だけどいい加減ではないのだぜ。泥人形たるこの俺には貴方の心が手に取るように』
「そーですかい。ま、超能力少女に噺を戻すと……泣いても腐らんからなアイツは。つい愚痴を言ってみたくなる。むしろこれだけ悪口言ってもひっ付いて来るところを見るとマゾかストックホルム入ってんじゃないかと……冗談だ、そんな顔するな、って何それどんな顔だよイルーム顔かよ、とまれ、単に異能者にありがちな不感症だろうよ。まああんまりキツ過ぎると泣くけど……多分、アレはフリだろうな。それこそ泥人形の様な。よくいるんだ、普通の人間の様に振る舞おうとする異能者が。それと同じで、アレも不感症じゃないふりをしているんだろう。無意識化しているから言っても本人は否定するだろうけど。その思考形態を、『鮭よろしく故郷を思い出す感じ』だと心理学者は語るが、さて……」
『後、貴方に気が在るとか』
「まあ在るんじゃネーノ? 吊り橋効果的なアレで。それなりにモテるぜ、俺は」
『自分で言いますか』
「朴念仁を気取るつもりはありませんので。時に、恋愛物語において『主人公が朴念仁じゃないはっきりした性格だと話が其処で終わってしまうので鈍感じゃなきゃ駄目』とかいう声が在るけど、そんなのは三流だね。むしろ何度フラれてもアタックする心意気が大事です。いやホント、何で世の大体の恋愛物語は愛の告白を一回しかしないのだろうね。一年に一回しか受けられない受験じゃあるまいし、何度でもやりゃいいのに。現実でもそれは変わらんと思うが」
『つ新ジャンル『素直ヒート』』
「お前はクールでシュールッスよね」
『アーッハッハッハア! こぉのぽんぽこ狸の愚か者ォ! トントンチキンなこの私様は多重人格でどんな『キャラなり』も自由自在でござるぞーっ!(激笑』
「激笑……)どれだけ笑顔になられても、そこに感情が無きゃただの人形だがな。見た目は普通に見えるだけテンプレな無表情キャラよりなお不気味だ。
まあ、兎角、路花に噺を戻して……それに、彼奴はそんな悪愚痴など気にせんさ。自分がどういう立ち位置か知らん程お気楽でも駄呆でもないから。それにこれでもまだマシな方だぜ? 嫌悪と敵意と殺意を持って本気でぶん殴らないだけ俺は大人だと思うよ。旧世代族にはそれが許されていると本気で思ってる原理主義者が割といるから。それこそゴキブリを見たくらいの宇宙的恐怖ならぬ本能的嫌悪があったりねえ……ホント、ゴキブリって宇宙から来たんじゃないかと。ふと気配を感じるといるんだもん。血に刻まれた違和感や不安を感じさせる」
『K、あなた憑かれてるのよ』
「まあお前に憑かれて食糧費が半端ない事になってるな」
『嫌よ嫌よも好きの内、ってな』
「お前は俺の何を知っているんだ」
『カジらせてもらえば今すぐにでも』
「止めれ」
『DNAを取り込めば』
「何かエロいな」
『そういう発想をする貴方がエロい。知ってました?』
「知っててヤってんだよ」
もぐもぐ。
因みに少女はケイの横で普通に食べていた。笑顔なので美味しいのだろう。彼女はアニアが調理している所を見ていないのだ。物事というものは往々にしてそーゆーものである。遺伝子組み換えなど言われなきゃ解らんし、そもそもラベルが本物である証拠などない。
「しかし、これはお前も同じだぞ」とケイはアニアを見て息を突く。「全く、もう仕事も終わったんだ。好き勝手に擦ればいいのに。アフターケアは御免だぞ」
『『The Tiger Who Came to Tea』はその時じゃないと会えませんよ?』
「一期一会だね。そしてその時間はもう去った。グダグダと長引かせるつもりはない」
ケイはワークとプライベートを分けるタイプだった。だというのにその後もアニアとの関係が続いていた。それが少々、煩わしかったのかもしれない。ソレに対し、アニアは『私は闘い方を学ぶために居るのです』と言った。何度も聴いた答えである。ソレにケイは何時もの様に、やはり肩をすくめて同じような台詞で応う。
「『闘い方』て……。いいか、アニア。確かに少年漫画は面白い」
『なむなむなむ』
「まあ訊くなら聴け。血沸き肉躍る闘い、痺れるような興奮、生と死の境目を見抜き、ギリギリの死線を潜り抜ける快感、達成感、カタルシス……まあそんな自分に酔うのもいいだろう。派手な技や、爽快感のある舞台、騒がしい音楽(BGM)もいいだろう。俺もそういう外連味は好きだ。だが現実はそうじゃないだろう?
働かなくてはいけない、金が無ければ苦労するから。居場所を見つけなくてはならない、休む場所が必要だから。約束を覚えなければいけない、世界と折り合いを付けなきゃいけないから。バトルだけが物語じゃない。むしろそんなものよりも、細やかな事務手続き、文章の書き方、人との接し方、そういう事の方が大切だ。少なくとも、ラブソングの様に愛だけあれば良いと歌うのはオナニーを覚えたばかりの猿な餓鬼だ、愛だけでは卒業は出来ないのだ。何時か世界の全てを救う英雄の幸福論は空虚だ、市民は今の己を救ってほしいのだ。助けるのに理由は要らないとか勝手に身体が動いていたとか言うヒーローはいい加減で幼稚もいい所。RPGよろしく平和的解決を試みもせずモンスターを敵だと見なし御遊び感覚で問答無用で斬り殺したり、派手で見栄えの良いスペクタクルなCGよろしく広範囲大技をぶっ放したり、大口径の銃を乱射して『ワー楽ちい!』というダーティハリーな己の正義の為に他を否定する殺人鬼と変わらない。実際、今、こうやって色々な世界が少なくとも見た目は上手くやっていけてるのは裏舞台あってこそだ。表で踊るばかりの俺達じゃこうはいかん。異世界の言語統制、文明把握、宗教理解、種族分類、移住食確保、仕事提供……数えればきりがない。
兎も角だ。綺麗事やヘ理屈や、或いは何も語らずに闘う事を美化しても、結局、暴力は暴力で、迷惑行為だ。今のこの街じゃ『即席闘技場』なんていう自力救済や切捨御免が認められているが、それも法の追いつかない混沌とした現状に対する止む無しの原始的解決法だ。見た目は華やかで面白いがね、お粗末なもんだ。そりゃ、そういうのは進化主義的価値観かも知れないし、少年漫画なアニメならソッチの方が受けがいい。犬追物や狐狩りに始まるブラッド・スポーツや、実際に傷付いた事も無いのにどの銃が一番強いかとかこういう状況で戦争したら何処が強いかとか駄弁るのは古今東西でやる事だ。戦時の扇動戦争映画がそうである様に。しかし誰かと生きて行くならば、清濁併せ呑み、相手の話をちゃんと聞き、如何に暴力を振るわないかが大切だろうし、振るうくらいなら、近所のゴミ拾いしたりホームレスに握り飯を造ったり世界中にルピナスの種植えたりや円空仏掘ったりNGO入ったりする方がずっと健全で役立つだろう。ましてやこうやって部屋で寛いで心にもない同情を物語るよりよっぽどな。勿論、逆に戦争が望まれる時代だってあるがな。巨大ロボットに乗って9条片手に平和条約なんて、何時もの事さ。何事も何が望まれるかはTPOによりけりだ。女に望まれる姿が、時代によりふくよかだったり細身だったりするようにな」
『つまり、』イリアは少し考えてから言った。『現実はそんなものって言いたいの?』
「どうしてそうなる。違うよ。ハイライトだけを見て、全てだと思うなと言いたいんだ。名言だけを抜き出して、物語の全てを語るなと言っているんだ。『楽しければ良い』、ソレは解る。けど自己満足じゃあまりに虚しい。誰かを楽しませられない奴は、一般人としても役者としても三流だと言っとるんだ。
現実は物語の様にたった一人二人の英雄だけで物事が進むワケじゃない。舞台表で莫迦をやれるのは、何処かで賢い奴がちゃんと取り成してくれるからだ。難しい噺じゃない。極端な噺、インフラが無ければロクな生活も出来やしない。ソレと同じだ。偶像が舞台で踊ったり、商人が品々を売ったりできるのは、その裏でスタッフや中小企業の努力があるからだ。むしろこの混乱した世界では、裏手の奴がいてこその表だろう。消防士や救急士、警察や役所、孤児院や道具屋……スポットライトが当たっていない所でも、カメラが映していない所でも、其処には確かに舞台がある……舞台裏が」
そうだ。本当に凄い奴がいるとするのなら、それはこの世界そのものだろう。この世界で生きる奴らはドイツもコイツもHENTAIだ。怪物や化け物、超能力者や魔法使いまでワンサカだ。そんな莫迦げた喜劇役者を許容してくれる世界そのものが凄いのだろう。
「ま、つまりアレだな。世界の命運をかけた派手な闘いもいいが、大体の奴らにとっては、明日の就活や大学受験の方がずっと問題だという事だな。前者は英雄の問題。一般市民の問題は、後者でさ。ましてや芸術には支援が不可欠だ。それはまさに光と影。照明と暗幕。芸術が何か尊く素晴らしいものだと思ってる奴等には解らんがな。けれどもそんなものは昔は道楽も良い所……そして俺は、蝋燭を光とする影法師だ」
『事実は小説より奇なり、という事ですね。舞台裏というのは時に表より凄まじい。ヒロインがKIMESEKUして瞬き一つせず『Over the Rainbow』にトリップするくらい』
「いやそぉぢゃなくて(そしてあの映画のヒロインはトトであると私は思う)」
『けど貴方は何時もこう言ってるじゃない。『Dignity, always dignity』』
「まーな。そりゃ好きな俳優の私生活を知りたがるのもファンの華だと思うがね。けど、俺は裏方を見せるなんて粋じゃないと思うよ。手前だけが面白いと思ってるNGシーンを流して観客を白けさすくらいならね。ましてや要らんリアル出して面白くなくなるなら、それこそ本末転倒だ」
『けれども貴方の闘い方……』
「何だ?」
『いえ、あー、えぇと……』
「棒読みで躊躇うな。別にお前如きに尋ねられて、穢れるような思い出じゃない」
『嫌味な人ですね。アノンとしてですが、初めて一対一で闘った、あの時だってそうです。本気出せばあんなに無理矢理できるクセに、私をテクニックでさんざんイジメて……』
「それはもういいだろ」
どうやら本気を出してくれなかった事を根に持っているらしい。しかしそれは誤解というものだ。ケイにとって、あれは紛れもなく本気だった。むしろ【竜】の力を使うのは、ケイにとっての負けである。アレはいわゆる最後の手段。手札の外から持ってくる鬼札。ズルだ。自分自身の力で倒してこそ本気である。ケイはそう思っている。尤も、前にアニアに言われた通り、ホシフルイだって貰い者だが、そこはほら、アレなのだ、「それはそれ、これはこれ」……ケイ自身も都合の良い事言ってるのは解っている。
『貴方の本当は、器用貧乏です。『何者にもなれない』――それ故に、色々な役を覚えようとする、そんな小役者です』
「気分は何時でも若者ですから、あっちこっちと道に迷いたくなるんです」
『しかしそれさえもまた道化。バナナの皮で転ぶ様な、計算されたミステイク』そう、アニアは静かに言った。彼を見ていると不安になる。瞬きをしないのだ。するとすれば、それは意識的に、だ。泥人形なので、ともすれば人である事を忘れるのだ。『私達に気取りは通じませんよ。私達は鏡、或いは湖、または月、相対する者の心をするりと映します』
「勝手に見ないでくださいよ、イヤらしい」
『別に隠す事はありませんよ。貴方が多様な台詞を引用する様に、不幸な人など、この世界には一杯います。そういう事を、貴女は知っているはずですが』
「知っているからこうなんだろ?」
『そうですね。そうでした。しかし同時に、そんな中にも、ケイさんの闘い方には『師事』が見られました。貴方の生き方は、全部その人に教わったのですか?』
「ふん、教わってたまるものか。そんなのは既存の神話や伝承から役者をパクる様な、自分の意見を持たない誰かの台詞で語る不細工だ」
『しかしその考え方も誰かに教わったもの』アニアは静かにそう言った。その言い方は、何処か見知ったものを感じさせた。夜海に浮かぶ、蒼い月を。しかしそれは飽くまでも似ているだけで、決して真にはなれやしない。真似すればする程に、それは「真似る」という事実を如実に示す。ケイはその事に、誰にも解らぬように眉をひそめた。『羨ましい』
「何が」
唐突に投げかけられた言葉に眉が浮く。しかしそれもまた誰にも知らせない。
『色々な教えてくれる人がいて』
「ガキなだけだ。誰かに助けてもらえなければ、一瞬も生きていけない負け組だ」
『でも、』
「何だ?」
『お手本になる誰かが欲しい』
「俺もだよ」ケイは口元を触った。というのも煙を吐こうとしたのだ。しかし最近は餓鬼が周りをうろつくので、吸う機会があまりなかった。代わりにケイは溜息を突き、自虐するように笑い、肩をすくめ、「まあ要するに、自分の世界だけで物事を語るのは良くないだろう、という事だな」
『よく解らない』
「解らなくていい。こんなのは結局の所、『性に合うか合わないか』の問題だ」
『『結局』? その答えで貴方は満足なの?『結局』に辿り着いてしまっていいの?』
「それもまた、性に合うか、だ」
時分だって、誰かに言われたから闘っているワケじゃない。ただ、これが一番性に合っていたからだ。よくスポーツ漫画に、『だから~は面白い』とかいう台詞がよくある。しかしそれを見る度に思う。『いや、別に他に面白い奴あるんじゃね?』と。しかしソイツにとっては、それが一番面白いスポーツなのだろう。そういう事だ。
ましてや正義や誰かの為に闘っているわけでもない。ただムカつく奴らが誰かにとっての悪だったというだけで、その悪は皆に愛されない存在だったというだけだ。何時だってそうだ。正義の味方は飽くまで味方。己が正義なワケではない。護る者がそうなのではなく、正義なのは、何時だって護られる側。英雄ではなく、民なのである。むしろ強いと言うのなら、この街自体が強いのだろう。化け物や怪物、果ては神や悪魔が出たって何だかんだで笑い飛ばせる、あんな滅茶苦茶な奴等を許容できる世界が。
(ま、それは二元論か)
そう、ケイは肩をすくめた。丁度、ハンバーグも尽きた。
「で、今回の問答はこんなもので宜しくて?」
『貴方はそうやって何時も煙に巻きます。本音を知られるのが恐いのですか?』
「嫌なら俺の心ごと喰ってみるんだな。けどそうすれば腹が脹れるだけじゃすまないかもな。なんたって俺ァ『貴方の心の中に居る』様なちっぽけな存在じゃあないからな」
『臭い台詞。莫迦じゃないですか?』
「毒舌キャラは苦しいなあ」
『……貴方のいう事はよく解らない。けど、それを解らせようとする、熱意は解る』
「それは上々」
『とくれば、将来の夢は警察ですかね』
「? どうしてだ? ランナーとかじゃないのか?」
『裏方に回って、ケイさんを支えるのもいいかと』
「ハッ、いいよそんなの。何度も言ってるだろ。俺は俺一人で立ち上がるのさ」
『何だか少し寂しいです』
「全てが一つになるのか、それとも一つ一つが個別であるからいいのか……いや、哲学系アニメの典型的主題だな」
ケイはそう言って少女の頭を撫でた。あまり考えていない、無意識の行動だった。少女は小首を傾げてにこやかな顔だった。幸せそうな顔だった。
「チース。ケイーいるかあ?」と、そんな所に不意にドアを開けて、マヌケの声が聴こえてきた。如何にも剽軽そうな雰囲気な男である。「せめて『間の抜けた』って言えよ」
「一文字違うだけで感じがこうも違う、言葉とは不思議なものだな」と、もう一つ、落ち着いた低い声が聴こえてくる。短髪で身体のしっかりした、如何にも爽やか(スポーティ)な男である。「よっ、ケイ。まいど」
「んお、誰かと思えばお前らか……どーも」とケイが座ったままそういう。
「やあ、少女ちゃん、今日も可愛いね。おう、飲み物は要らないよ、すぐ出て行くからね……って何だ、何時もと違う子鬼がおるな。幼女だけじゃなく幼男趣味まであったか」
「おう、マジだ。警察であるこの俺の目の前で事を運ぶとは、何とふてぶてしい奴。これは現行犯逮捕ものだな。いや、お前は『まさかあの子が』なんて感じじゃなく、『何時かやると思ってた』よ」
と男は両者とも軽く笑いながらそう言った。その風貌は、何というか「らしい」。方や飄々として、方や大人びているが、どちらも莫迦みたいな発言をする、旧友という感じだった。
「てかノックくらいしろ莫迦どもめ。俺がお楽しみ中だったらどうするんだ」
「一緒に混ぜてもらうかな。『穴の中でお前のがこすれて気持ちいいぜ』とか」
「何かそれ違う」
「いや俺はそれでいいよ全然。現行犯逮捕が二人に成って手柄も二倍に成るからさ」
「事件が起こる前に止めろ阿保。てか事件ちゃうて。起こらんて。手前の部屋にポンポン女入れるような男は、俺は好きじゃないね」
「でたよ、硬派アピール」
「ピエロかクールか、ちゃんとキャラ固めて欲しいよなあ」
「人間の性格は血液型判断(笑)よろしく一義的ぢゃねーんだよ」
『何ですかコレら』と此処でアニアが入る。
「どうも、バカです。エロゲの主人公によくいる典型的な脇役を目指してます」
「ちょっと待て、それだと俺の人生がエロゲじゃないか。R18じゃないか」
「何? それは法規的に許せないな。肉体が木っ端微塵になるのは許せても、下着を見せるのは許せない。良し、エロいシーンは全部サーモグラフィーにしよう」
「そういうネタは『サウスパーク』でやってろよ。てかその手法、洋画で見たぞ。一人にしか見えなくて、下の部分が赤いのな。言葉足らずを美徳とする大和には白い光よりもエロいわ。ていうか動画監督お前かよ」
『で、結局、何なんですか?』
「あー、大祭害前からの古い友達だよ」
『』
「『えぇっ!? ケイ君に友達がいたっていうのかい!?』ていうのは無しな」
『まだ何も言ってない』
「ま、阿保の方は情報屋で、頭も体も良い方は警察という所だな。一つ宜しくやっとくれ」
「宜しくと言っても、アダルトは駄目よん?」
『はあ、それは残念です』
「まいど」
『まいど』
「さっきからそれ気に入ってんの?」
「やー、ぶっちゃけ意味よく解んないんだけどな。響きが気に入って」
「『毎度ありがとうございます』の『まいど』だから、初見に言うのはちと場違いだよ」
「ほー、流石、無駄に博識だよなあ、お前」
「んで、ソッチの可愛い初物は誰なんだ?『pico』?」
ピコ――ピコ(pico, 記号:p)は国際単位系(SI)における接頭辞の一つで、基礎となる単位の10-12倍(=一兆分の一、0.000 000 000 001倍)の量であることを示す(Wikipediaより)。ソレ以外の何者でもない。世界初の少年愛アニメとは関係ない(戒め)。
「コイツは巷で噂の泥人形だよ」
『本当の事を言っていいのですか?』
「俺は信頼は出来んが信用は出来る奴なんだ」
「自分で言う事か」
「おっと、俺は信頼も信用もできる男だからな? 少なくとも警察たるもの、そういう男を目指している」
『この人、真面目ですね』
「ああ、ソッチはちゃんと真面目だよ。何で俺らと連んでるのか解らん程には真面目だよ」
「俺も真面目だっての」
「抜かせ」
「よく解ったな。抜く方面で真面目だ」
「はいはいそうですね」
「でも、本当、良く出来てるよなあ。命魂創造は大祭害の世でも難しいのに……」
「それは零から創るからだろ。多分、泥人形はそこを『喰う』という行為で生命そのものを模倣してるんだろうな」
「そうなのか?」
『さあ?』
「『さあ』だとよ」
「お前、そりゃ『どうやって思考してるの?』って訊くようなもんだぞ」
「スライムプレイも出来るのか?」
「なあ、お前の第一印象それでいいのか……?」
「大丈夫だって。『ここぞ』という時に本気出すから。後、精も出すから。それが剽軽キャラの宿命です」
「死亡フラグっぽいなソレ」
「お前がそれでいいならまあいいけどさ……」
『色々な人が居るんですね』
「頭おかしいだけだがな」
「おお、流石、泥人形。こんな俺でも受け入れてくれるとは、エロいな」
「何でだよ」
「でも紳士である俺はその無表情で罵倒してくれるのがもっと好きです」
「うわキメめえ」
『このHENTAI』
「三白眼ジト目キタコレ。更に髪を白くして首に包帯撒いて眼帯付けよう」
「おい『変なおじさん』がまた隔離病棟を抜け出したぞ。殺せ」
「解った。この国は子供に優しい国だ。子供を汚す奴には核の死刑を行おう。三権分立など無視して超法規的措置だ。何、法律もちょっと齧ってるから軽い軽い」
「色々と本末転倒な気がするぞソレ」
『因みに私は全身コレ変幻自在ですから、その様な行為に当たる器官はこの私の何処にでもあって何処にもありません』
「『奴の哲学だ……梅毒の錯乱のなかでも!』」
「『まず、穴の在る女性を用意して、この中に棒とゴムを挿れる。棒は一定の刺激に対し謎の白い液体が出てる。なお、男性がEnd of Danseikiであるか及び女性が危ない日か及びゴムに僅かな切れ目があるかどうかは実験者は知らないものとする。さて、この場合の受精率は如何程か』ってやかましいわ」
「一瞬でそれだけの台詞を思いつくお前の方がやかましいけどな」
「後、それよりもAIDSかどうかの実験の方がハラハラして面白そうだ」
「何その無茶苦茶なチキンレース。不謹慎にも程がある」
「言葉にするだけで不謹慎なら、当の本人はまさに歩く恥晒しだな。俺は言葉狩りってのはイカンと思うよ。臭い物に蓋をしてるだけじゃないかと、いやそもそもそれを臭い物と幻想させているのは他ならぬお前らじゃないかと。んなら白人は白痴だぞと。ああいうのが当時の人達の想いを無視して、戦争を何か感動するヘンテコな文学に仕立て上げるんだ。想像力の乏しい奴等だ。そうではなく、違いを無くすのではなく、その違いが悪なら悪のまま、そのままに許容するのが……」
「うおっ、普段、阿保な奴がマジな事言うとキモイな」
「キモイいうなよ傷付くだろ」
「何だ、お前、急に変な福祉論なんてぶり出して。ヤクでもやってんのか?」
「学術という魔法の薬をちょいとね……所で俺達はお前に仕事の噺を持って来たんだが、こうやってグダグダと駄弁っていていいのか?」
「良くないと思うなら不謹慎でも恥でもいいからさっさと言え」
「これは失礼。じゃ、アッチの部屋で3Pするか」と親指で奥の扉を指した。
「何だ、また不味い仕事か。もっと楽なのはないのかね。通行人を数えるとか。何処にでもいる普通の俺にはちと辛いね。チクショウ、何が資本主義だよ。マルクス主義万歳だ」
「しかし、寝たきりじゃ楽しくあるまい」
「場合によるな。だが胸が小さければ確かにツマラ……ってまたそういう噺に持っていく。少し口を減らせ。そうだ、どうせ昼飯まだなんだろう? ハンバーグでも食わんか」
「おおっ、食わせてくれるか。いや、実は自分から言い出すのはどうかと思ってなあ」
「あー、俺はいいわ。そういうのは親しい奴でも受け取らない様にしてるから……」
そう言って男達は席を立ち、ケイもそれに続いて席を、立とうとしたがまだ食事の途中だったので皿を持って行く事にした。何ともシマリの無い事である。
「嘘付け、お前にそんな遠慮があるものか。ガキの前で格好つけやがって……」
「カッコつけると言えば、この前の誘拐事件の時も無駄に身体張って……」
「あの娘、俺に惚れてたよな? アルビノで、華奢で、大人しくて、礼儀正しくて、そのくせ胸が凶悪で……やっぱり手ぇ出しときゃ良かったか」
「部の悪い賭けじゃないと思うぜ、俺は。警察という仕事柄、人を見る目はある。それにあの手の女の子は何だかんだで、父親と同じタイプの男を好きになるものさ。まあ、手を出したらロリコンという事で個人的に牢屋に打ち込むが」
「職権乱用じゃないかね。むしろその少年犯罪防止への熱意は己への戒めじゃないかね」
「まあ、職権乱用が警察の華な所もあるし、子供は普通に好きだよ、俺」
「お前って真面目な様で意外とアレよな……」
「どーでもいいが、俺はその娘に手を出すのは反対だな。お前は真面目になると熱く成り過ぎる。それでいて、莫迦に成り切れないのがお前だよ」
「あっはっは、ブーメランだな。知ってたか?」
「投げっぱなしだから大丈夫だよ」
「やれやれ。こんな男にこそ落ち着ける伴侶が必要と思わんかい?」
「どーだろ。ボケ老人に成るんじゃね? 定年退職した者がその後すぐボケると言うのはよくある噺で……」
「笑えない噺は止めれ」
そんな事を言いながら、三人は奥の部屋へと消えて行った。当然、アニアと少女は三人となった。何やら気まずい雰囲気が……というワケでもなく、別にどうという事はないようだ。アニアという子の身体は流動体。その心は無軌道。一方、少女という子の身体は可憐。その心は純粋無垢。もぐもぐとお食事中である。
『何やら仲が良さそうでしたね。友達なのだろう。どういう人達なのですか?』
そうアニアが少女に訊くと、少女はハンバーグから愛歌にアニアに眼を映し、少しだけ口をもぐもぐしながら考えた後、小首を傾げながら三つ又の食器を持ちながら頭を指差し、そしてクルクルと回した。
……果たして、それは「頭おかしい」という意味なのか、それとも「頭が回る」という意味なのか。こみゅにけーしょんむずかしいです。
(無邪気な邪気って怖いなあ)
そう思ったアニアでだった。ブーメランであった。
『ケイさんもあのお友達も、可笑しな人ばかりですね。全く、やれやれですね。難儀な事です。ならば、ケイが私を助けてくれる分、私も彼を助けなければいけませんね』
そう、アニアは僅かに顔を綻ばせて言った。それを見て少女は何やらしばし考えて、納得したようにニコリとした。何やらって、んなの解らん。けどまー解る事は、だ。時に助けて時に助けられて、そーやって世界は回るという事だ。そーやって世界は出来ている。
「『フゥーハハハッフゥー!』」
――?
「違う違う。こう、『見ててください! 俺の! 変身!』みたいな感じで」
――!
「グレイト!」
「何でアイツのヤパーナ知識はああ偏ってんだ?」
場所は遺跡公園。時は昼飯頃。曜日で言えば休日。此処に居る理由は特にない。ただ、何となくぼんやりしているだけである。人にはそういう時間が必要だ。何もかもに理由を見出す帰属的思考では疲れてしまう。それに焦燥を感じるなら若造で、不安を感じるなら歳だろう。
其処では路花とアノンが何やらごっこ遊びをやっており、それをケイはベンチに座って鳩に餌をやるジジイのような顔でそう言った。ああやって元気に振る舞うのが可愛いとでも思っているのだろうか。まあ天然なのだろうが。そういや女の化粧ってあれだな。女から見て可愛い化粧はあるんだろうが、男性から見てどうなんだろうか。自分を磨こうとする心意気なら立派だが……などとぼんやりと思考を漂わせる。
「その内、自己啓発本を読み漁った中学生よろしく『風よ、雲よ、太陽よ。心あらば教えてくれ。なぜ、この世に生まれてきたのか』何て言い出しそうだ」
「何じゃ、それは?」
「何でしたっけ……機械なんちゃら」
「まあ、ああやって遊びのが子どもの仕事じゃて」
「ふん。大人の俺からすれば『いつまでもあると思うな親と金』という感じですね。むしろ所謂、勝ち組とやらになりたければ、子どもの時分から切磋琢磨せにゃ」
「枯れとるのお」
「枯れてねえ! ……いや、枯れてないです……ってぶっ! お前何す痛い痛い痛い噛むな! お前なああはははは! 止めろ」
アノンがケイの胸に飛び込んできた。ケイはそれを受け止める。アノンは首元に手を回して頭をこすりつけた後、立ち上がり、ケイの右手を取って背後に回る。また首を回して肩に頭を乗せ、そのまま沈み背の後ろに隠れる。するとケイのワキから身体を滑りこまし「頭をなでろー」とでもいうようにケイの頬に頭をぶつける。ケイが手でそれを受けるとそれに頭をこすりつけ、胸や腹にこすりつける。体中にこすりつける。まるで獣の様に、自分の居場所を造るように。そうしてやがて一段落したのか、ケイの膝の上に落ち着いた。
「ふむ、小犬の刷り込みは強いの。ちゃんと巣と親を覚えておる」
「黒ん坊か雌犬か、ヤレヤレだな。メラノは嫌いじゃないけど。全く、所かまわずベタベタするんじゃない。そういう事をしていいのは思春期までだとアレほど「イィナァズゥマァァァ……キィィィィィィック!」あーもー、やかしましいなあ」
と、路花が跳び蹴りをかまして来たのをケイが手の平で受ける。
「邪険に扱わないでくださいよ。泣いちゃうぞっ」
「泣くなら帰れよ……。もう仕事も終わったんだし、つるむ必要もないだろ」
「『閉鎖的な環境で完結して、一人の男性ばかりに意見を仰いで、その男の行く所に人が集まり、その男を中心にして噺が進む』……っていう状況の男役、羨ましくないですか?」
「そーいうのはヤパーナのメイ・クラブでやりなさい。此処は様々な主役が居て、その主役もしばしば脇役になって、次々と端役が入っては出て行く酒場ですから。つまり、未成年はお帰りください」
「べべべ別にケイさんに会いたくてツルんでるわけじゃないんですからね! そ、そう、ケイさん! ケイさんに会いたくて来てるんですからね!」
「ツンデレかと思いきやまさかのストレート」
「バレーは上手いトスがなきゃできませんが、やはりスパイクが花形ですよね」とシャドーボクシング。「けどケイさんも天邪鬼っ。それも『いや俺ガッついてませんけど?』的に外面は草食系男子かましてるけど本当は『一コマで沈める』と静かに内なる闘志を秘めた感じのね。はあっ! 可愛いなあ!(キャー☆」
「『キャー』とか、脱力するなあ……(黄色い声上げるなよ(肩を落として深い溜息))。そして男なのに『可愛い』とか意味解らんから。『強い』にしてくれよ。結局、最後に女が男に惚れるのは、生殖本能的な強さか、母性本能的な愛嬌だけなんだから」
「異能者の私より強い人なんてそういませんし、個人主義の異能者に母性本能など『ワロスwww』かもしれませんがね(HAHAHA」
「けど、何時か君も本当の愛を知っていくのサ☆ アイドルを卒業して行く様にね。いやそりゃ男は純な女の子に弱いけどね。悪い男を知らずにお城の中で過ごして来た世間知らずの一角獣に守られてきた滅菌栽培のお姫様にさ。天然記念物ものだ。好意を向けられている事にも気付かない。けどお前が俺にこうやってくっついて来るのは一過性です。同じよーな餓鬼を幾つも相手して来たからよく解る。子供の頃に甘えられなかった分、俺ぐらいの年齢の親父を捕まえて同一視するんだよなあ。そして大人になるにつれ、徐々に距離を置くのさ。『パパの下着と一緒に洗わないで』とかネ☆ 腐腐、腐腐腐腐腐。保護者的立ち位置って恋愛から近いようで一番遠いんだよねえ。遠いっていうか、追い越しちゃった(てへぺろ☆)的な?『友達→恋人→家族』だもんねえ。え、できちゃった婚? まあそういう事もあります。まー義兄への憧憬や尊敬がそのままLOVEへとシフトする可能性もまー在るっちゃ在るが、けどアレは外に恐怖して巣立ちできないようなもんでして義兄としたらまー嫌な事は無いけどそれは育て手として失敗なワケでそも家族という完結した狭い世界の中で気の知れた奴を好くのは生物としてどーかと僕ァ思うてか『家族』から『恋人』って関係的にランクダウンしてね? でもま、いいんです。それで僕ァお腹一杯なんです。彼女が幸せなだけで僕ァ満足なんです。むしろ異分子が入って穢れてしまう事が、ただただ怖い。そんなのは自分の都合しか考えていない自己満足に過ぎないのに」
「お、おお、何かアダルトな恋愛観ですね……。でもパピーはパピー、ケイさんはケイさんです。一緒にすると怒りますよ」
「はいはい、そーですねー。てゆーかね、家出問題ももう済んだし、俺は暗に折角の休日なんだからお義兄ちゃんなんかと遊ばず学校の友達と遊んで来なさい、って言ってんだけどねー?」
「実は、借金問題の事が学校の友達にバレてそんな怖い人とは距離を置きたいって……」
「いやいや、世界自体が異常な今時、旧人類ならまだしも若人がんな程度の異常で距離作るわけないだろ。ましてや異能者なんて差別の『さ』の字も知らんような莫迦ばかりなのに」
「嘘付くのって難しいです。いえ、実は借金問題のついでにケイさんと一緒になった事が友達にバレて、学校新聞の方達に密着取材してこいって嫉妬気味に言われて」
「何その社会科見学的ノリ。小学生か。インターンか。JKだからって世の中舐めて地元の新聞に載せるとお前ん家にライ麦植えるぞ。舐めるのは男のナニげふんげふん」
「『ケイ(20後半?)は自分の立場が悪くなると、ただその場凌ぎ響きの良い言葉を言ってお茶を濁すか、おちゃらけたマシンガントークで相手が戦意喪失するのを待つタイプである。此処にまさに、一日で終わるような会議を一年使って綿密に行う、大和の国会議員の様な丁寧さを感じた。しかし恐れるなかれ。所詮は井の中の蛙、餓鬼大将、余裕ぶっててもより大きな権力には藻屑の泡である』、と」
「遠回しに皇国莫迦にしてんじゃねー。母国が莫迦なのは母国をそうした奴が莫迦なんだ。アニメが低俗・高尚と思われるようにな」
「やー、ケイさんって結構、人気あるんですねー。まるで学生運動の英雄です」
「それ喜んでいいのかな……(←『学生運動=自分の力量や世界の強さも考えず若気の至りではっちゃけて最終的に内部抗争で自滅』のイメージがある)。俺、おちゃらけてるけど割と社会常識に従ってるつもりなんだけど。むしろアンチヒーローならそうやって崇められて共感されてる時点でもはや本末転倒な気が……」
「おおっ、至言ですな! メモメモ……」
「止めなさい。常識なんて数年や国で変わるのに、何処ぞの馬の骨とも知らぬ奴の言葉を信じてどーすんだと」
「おおっ、至言ですな! メモメモ……」
「阿保か」
「けど、意外とそんなにハッスルしないんですねえ。プロ野球のピンチヒッターとか、小学校で社会福祉や環境問題の講演とか、迷子の異界型のペット探しとか、養子に行った海の家の子達の家庭訪問に行ったりとか、後アレ、たまに何か祠やお地蔵さんみたいなのを造ってますが、アレは何ですか?」
「因みにお地蔵さんは地蔵菩薩という悟教に出てくる神様の一つである。ある意味、天照大神より信仰されてそう。『昔の人もやってたから』と正体も解らず信仰されているカミさまの一つだな。宗教のそういう所、ちとおざなり過ぎるが、俺好きよ?」
「悟教にGOSHはいませんよ、確か。勿論、こういうのは民間信仰によりけりですが。しかし、GOSHと神とカミは違います。悟教におけるカミは神道のカミの神格性を更に落としたようなもので、天道における一生物に過ぎなかったと思います。まあとは言っても、神道のカミ様だってそう神格性は高くありませんけどね。分霊という概念から言うに、人間とはカミ様の分身であり子孫なのです。だから大和神話には古今東西の持つ神話における『人間創造』の話が無く、昭和天皇様の人間宣言も何処かズレているワケであり――そう言えば、GHQが残したとされるG資金とかM資金とかされる秘密資金があるそうですね。『ゴルゴ』や『パイナップル』でやってました。徳川埋蔵金より多そうですね」
「え、アレ、宗教学の噺は何処行ったんだ? 話の脈絡が無さすぎるんだけど……まあどっちにしろそんな噺はさて置き、大災害で〈漂流〉させられた、お前の故郷の言葉で言えば鎮守神や土地神や地主神や守護神と言えばいいのかな、まあそういう神様、じゃないな、カミ様の仮住居みたいなのを造ってるのよ。放って置くと何されるか解らんし。まあカミ様といってもアレよ、『信仰の度合いで強さが変動する』的なよくある設定があるから、故郷から離れたカミさんはそんな問題じゃないんだけどさ。でもジマで強い奴はホント強いし。まあ強い奴は大体しゃんとした性格してるからやはりそう問題じゃないんだけど、問題は何がどうなったかも解らずブチ切れて狂い神になるカミ様で……」
「因みに、お嫁さんの事を『カミさん』というのは、昔はお酒を処女の少女が米を『噛ん』でお酒を造っていたことに由来するそうな。後は鬼嫁よろしく夫である自分をへりくだったり、しばしば山神を女性として見る事から『上さん』と呼んだそうな」
「ヤパーナは社会的つまり仕事の場では男性の方が強いけど、日常的つまり家の場では女性の方が強い気がする。まあとまれ、そういうカミさんには元の故郷に帰ってもらうのが一番だし、そうしないと故郷の土地が弱るからそういう意味でも早く帰って欲しいのだけど、ほら、最近はカミ様にもパスポートとかビザとか転移届けが必要な時代ぢゃん? だから必要な手続きが済むまでどうか問題を起こさずに静かにしてくださいとご機嫌取りもとい色々と交渉をだね……」
「成程! それは大変ですね。そしてめくるめくるの『友人帳』に記された妖怪に名前を返す日々に……」
「人間の成りで千鬼夜行する奴なら知り合いにいるけどな。いやアノンじゃなくて。けど『他の奴に見えないモノが見えるから困るわ~、チョー困るわ~』っていうタイプの話は俺ァよく解らんな。その程度で困ってたらロシアンルーレットで殺される紛争地の子供たちとかどんだけの不幸度だと」
「ケイさんって頭良いですけど阿保ですね。頭でっかちですね。ご飯を残す子供に『世の中には食べたくてお食べられない子供が』云々いう親くらい頭でっかちです。そんなのはズルいですよ。事の重大さを解らない子供に向かって世界がどうだと言うのはまるで煙に巻くような阿保な行いであり――」
「阿保阿保いうなこの阿保。むしろこういう台詞を言うのが異能者だろうに、何で俺がお前にんな事言われなきゃ……だって、そうぢゃないか、人間にだって白色・黄色・黒色と色んな色があるのに妖怪だの何だのというだけ人間を区別するなんて変じゃないか?」
「そういうケイさんは異能者っぽい思考回路ですね。まあそもそも『異能者っぽい』という言葉自体が可笑しいのですけど。アレですね、前から無意識に自分の行っていた行動が何時の間にか『壁ドン』とか名前付けられてて、んである時ソレをやったら『うわ壁ドンだー』とか言われて、そしたら思わず『いやいや俺んな名前付けられてる前からコレやってたし!』って気分になるのと同じですね」
「言いたい事は解るが、お前の言ってる『壁ドン』が元来の意味か派生の意味か解らん」
「引き籠りなどの根暗な人の心の壁を超能力で『ドン!』とムリヤリ破壊する意味です」
「スマン、やっぱり解らん」
「まあ、複重歩行者なケイさんにとってはそこら辺の境界線が曖昧なのかもしれませんねえ。異能者なんかよりずっと珍しい存在ですし」
「ドッペラーって何だ、ドップラー効果みたいにいうな。それにアレだ、見えないモノを見られるのは、むしろ羨ましいぢゃないか」
「まあそういう人じゃないと解らない苦しみがあるんですよ。プライバシーとか侵害されまくりでしょうし」
「んな事言ったら、俺達がこうやって話している今にもそういう奴等に監視されてる可能性が在るって事か?『サトラレ』の世界観だね。こわー」
「因みに私は見えますよ。こう、プラズマ的なアレで」
「プラズマっていっときゃ何でも解決すると思うなよ(放射線的な」
「ほら、ほら、あそこに『ピンクのゾウ』が飛んでます」
「『異能者はガンギマリ』、と(メモメモ……」
「心の目で見るんですよ。瞼の裏で見るのです。ほら、目を閉じると宇宙からの色が……」
「蟲に憑りつかれてますよ?」
「憑りつきといえば、たまーに何か能に使うお面や、象形文字の画かれた紙や、死神代行と闘ってそうな仮面みたいいなのを被ってて、素顔が見えないのがいるのですが、アレは妖怪世界における流行りなのでしょうかね?」
「そういうのを被ってるのは力の弱い霊か、民間信仰によるものだよ。『闇の眷属は光に当たるとマイってしまう』とか、『生前の親しい者に正体を知られないため』とか、『自分の事を思い出させないため(思い出せないため』とかいう設定を何処かで見た様な気がする。仮面舞踏会みたいなもんだね」
「Hmm? 聴いた事ありません」
「俺も言いながら不安に成って来た。他の知識が混ざっているかもしれん。宗教ってこうやってできるんだなあ」
「けど、ハロウィンみたいなものですね。お化けや怪物達とパレードするのです」
「それ『アラハビカ』と設定がごっちゃになってる気がする。ハロウィンはお化けを追い払う祭りだぞ。しかし、追い払う対象であるお化けに仮装した人間を追い払う儀式をする事で実際のお化けも追い払う、というのは面白い儀式だよな。節分と似ている。けど、寧ろこういうイベントって、お化けとか鬼の方が主役だよな」
「『変身願望』という奴ですね。隣の芝生は青く見えるのです。または、闇の世界に憧れがあるのかもしれませんね。殊に今の様な夜でも眩しい世界では。
とまれ、しかし、まあそういうのも大切ですが、何て言うか、もうちょっと巨大な怪物と闘うとか、もっとスペクタクルな事してくれないと絵的に面白くなァ……『コンクリから花が出た』的なちょっと良い噺は社会に疲れた大人には清涼剤に成るかもしれませんが、活気あふれる学校新聞では正直地味過ぎて……」
「何処ぞの『見た目は子供、頭脳は大人』な探偵漫画じゃあるまいし、んなホイホイ事件なんて置きネーノよ。むしろ能ある鷹は爪を隠すだろうし、大体、俺みたいな奴は他にも一杯いるんだ、そう気張っても仕方ネーヨ」
「もっと社会の闇と闘いましょうよ。法で裁けぬ巨悪を討ったり! それが法の守りを拒否する代わりに法の外にいられる治外法権者の仕事です」
「厨二でやれ」
「つれないなァ。そんな事言ってるとベタベタ引っ付きますよ!?」
「勝手にしろよ」
「まっ。この前は不必要にイチャついたら『ハズいから止めれ』とか言ってたのにっ」
「いや、最近、怒るのにも疲れて来て……」
「歳ですね。学生運動とか社会革命なんてのは、所詮は若気の至りなのですなあ」
「そうそう、大人になると自分の限界値を悟って、ってやかましいわ。後、お前の莫迦さ加減に慣れて来たってのもあるし」
「こ、これが噂名高い『倦怠期』ッ!? 大変だ、このままだと飽きられてしまう! ……次からはマジメからヤンデレにキャラなりしてイってみようかな。胸の大きな黒髪のクールなツンデレも好きそうです」
「……本当、世の中には『本物』って奴が居るんだよなあ。天然の道化師ってのは自分がソウだと自己主張なんてしないんだ。本当に、はあ、お前といると元気がロバに運ばれる塩みたいに抜けていくよ……」
「言ってる意味がよく解りません」
「あー、つまり映画の『アマデウス』的なね。知ってる?」
「宮廷勤めな時点でサリエリもフツーに天才だと思います」
「知ってるか。けど一番じゃなきゃ意味がないと」
「モーツァルトはボクサーじゃありませんよ」
「いやそーだけどそーゆーことがいーたいんじゃなくてさー……ああ、もういいや。自分の考えを曲げないからこそ異能者だし」
「元気ないですねー。恋人にフラれましたか?」
「それは一カ月前に片付けたから平気。……いや冗談だって。冗談。居ないよ、いないいない、だからそんな固まるな」
「じゃあ、もし私がケイさんの事を好きだと言ったらどうしますか? 女漫画的にはケイさんみたいなちょっと意地悪だけど本当は優しい男性に恋するのが王道です。悪戯して来る餓鬼大将がムカつきつつも何だか気になっちゃう、複雑怪奇なラブ旋風」
「そういう『好き』は俳優やプロ野球選手に対するソレだと思う。ましてや本当にラブだとしても、前にも言ったろ、学校よろしく狭い世界でラブコメなど下らないと。世界は広いんだ。良い男なんて沢山いる」
「『Of all the gin joints in all the towns in all the world, she walks into mine』」
「それお別れフラグだぞ」
「そんな事言ったら、何にだって上には上が在ると思いますが」
「Huh。そうだな、本当に……」ケイは笑って溜息をついた。路花には何だかそれが、寂しそうに見えた。「なら、お前の好みそうなキャラを演じてるから、妥当だと思うよ。甘えたがりなクセに真面目なタイプには毒を吐きつつ必要最低限の手助けをするのが有効です。別にお前が気になるワケぢゃない。単純に円滑な交流にはそういうのが必要なだけだ」
「べ、別に気になってなんかいないんだからねっ! 仕事だから仕方なく付き合ってるだけなんだからねっ!」
「仕事はもう終わったっつーに。まあ真面目な噺、孤児という手前、単に甘えたいだけだろうよ。自分で言うのもなんだが、能力のある年上にな。高慢でソロプレイヤーな異能者には珍しい事だ。そして何時か、本当の恋を知っていくのサ。『アレが初恋だった』と、何時か思い出す時が来る。あまずっぱーい」
「んや、私の初恋はお父さんですが?」
「今時マジ顔でこんな事言う子がいるんだナア……」
「まあケイさんがお父さん代わりになってくれれば毎日楽しそうですけどね!」
「巫山戯るな。俺はまだ若い」
「問題はファーストキスもお父さんなのかどうかです」
「そう言えば、俺の知り合いの女に『エッチは良くてキスは駄目』って奴が居るんだけど、どう思う? いや十字架教的な処女性の観点から見ると変わった思想だと思ってさあ。娼婦とかにそういうの多いんだけど」
「てか別にケイさんなんて頼りになると思ってませんが?」
「それはそれで傷つくな……」
「アハハ、冗談ですよ。ていうか、私のケイさんに対する考えぢゃなくて、その逆を尋ねているのです。で、どうですか? どう思いますか? 私のこと好きですか?」
「ヤレヤレ、レモン味な台詞を言いおって……まあ、そりゃ悪い気はしないよ」
「えへへー(にこー」
「なんだよ」
「ケイさん♪ ケイさん♪ ケイさん♪ ケイさん♪(と言いつつ頭をケイにゴツゴツ」
「うわあ(にこー、とドン引き)。言っとくが、別にお前だから悪い気しないワケじゃないゾ。女性に良いように思われて良い気になるのが普通だろう? だからそういうラブコメみたいな声出すの止めれ。オジサンには寒気がするよ」
「『その石をしまってくれ。わしには強すぎる』」
「トムジ―サーン」
「ポムだよ」
「あれ?」と、ケイはそこら辺りで自分がニヤケている事に気付いた。ああ、嫌だな、こういう如何にもな日常の幸福は。愚かなる旅人の足を止めさせ、その夢を呆気なく爽やかに打ち砕く。「そしてその慈悲なる魔王が、夢の具現者とはなんと皮肉な」
「?」
「ま、楽しそうで何よりです、ってこったな。どんな状況に成っても、一緒に莫迦やれる友が一人でも居れば割と元気になるもんだ、ってこった」
「私は莫迦じゃありませんよ。テストとか作った先生の記憶を精神分析して何時も満点ですし。いえ冗談です。今時はそういうのは防御策がとられています。ちゃんと素の力で高得点ですよ」
「そもそも超能力が使える時点で俺様みたいな常人には素でも何でもないがな」
「ケイさんだって黒竜で寄生獣ってるじゃないですか」
「是はイーんだよ、強敵が現れないと寝てて俺に影響与えないから」
「わあ、少年漫画チックですね。大魔を持って大魔を討つ、『仮面ライダー』のお約束ですね。まるで闘いしか興味の無い決戦兵器。而してその実態は、使えば使うほど『灰色の男』になっていく『アウリン・システム』だったりして」
「…………」
「そ、そこは否定しましょうよ、怖いなあ」
「まあ、仮にそうだとしても、そうはならんよ。俺はソロプレイヤーだしな」
「そう言いつつ、強敵には使わざるを得ない自分の力量にジレンマを……じょ、冗談ですよ。だからそんな怖い顔しないでください……ね? けど、あの力は凄かったなあ。そうだ、今からその力を見せてくれませんか? そうしたら絵的にも映えますから! ほら、こう、荒野で口笛を吹きながら『アクセス』ッ!、的な感じで」
「異能者って、そういう物凄い力とか好きよなあ。上昇気質が激しいというか、流石の利己主義というか……とまれ、んなホイホイ核兵器使ってたまるか、この平和惚気め」
「平和にしとるのはその過去の者達のおかげだがのう」と、それまで孫を見るオジンの様に和やかにケイと路花のやり取りを眺めていた老猫がそう言った。「ならば快くそれを受け取るのが良かろうて。それに陰気な顔したって楽しくあるまい」
「そう言ってくれる貴方が大好き! もふもふっ。もふもふっ♪」
「ほっほっほ」
(初めて会ったこんな化け猫と馴れ会えるとは、やはり異能者だよなあ。喰われるとか思わんのだろうか。この手の奴は、話の通じる奴の方が危ないんだぞ?)
「まあ、慣れてますしお寿司。そうだ、猫と言えば私の超能力の御師匠さんに神通力が得意な狐と狼と猫を合わせた様なヘンテコな先生が居ましてね、今度、紹介しますよ。もしかしたらケイさんもESPに目覚めるかも知れませんよ?」
「心読むなよ、変態。そしてソレはないよ。その手の試みならやり尽くした」
青春を犠牲にして、とは言葉にしなかった。しかしそのままではどのみち心を読まれると思い、「てか先生のクセに『ヘンテコ』って何だよ」とすかさず別の話題を言った。その試みが功を奏したか、それともその試みさえ読んだ故の結果か(まあ異能者がそんな機転を効かすとはそれこそ心にも思えんが)、路花はそっちの方に応えた。
「人間に化けた姿は中々、クールなのですがね。まあ飽くまでも変化なので姿なんて選り取り見取りですが。てか私が変態なら貴方はチンピラです」
「ヘイヘイ、俺ァどーせチンピラ系ですよ。雨の日にこっそり捨て猫に優しくして好感度揚げるのが精一杯ですよ」
「で、その猫が『Tsuru no Ongaeshi』よろしく美女になって家に来るんですね解ります」
「そんな事もあったな」「え」「けど、子どもはどうにも荒唐無稽で――」
と、ケイは先日の事を思い出す。何時もの莫迦騒ぎとは違う、簡単な仕事だった。いや、正確に言えば仕事でもない。そこに金銭関係はなかった。
↓此処から回想。
「おいこら邪魔するな。邪魔だ、あーもうそんなに濡れて……飲むな!」
ケイは蛇口からホースから水を流していた。その水に跳びついて邪魔するのはアノンだった。そしてそれを見て笑うのは割と良い歳の老婆だった。しかしその雰囲気は英国淑女の様に毅然としており、魂は美しい青年のままで、訛りの無い正しい発音は元は何処か良い所の者だと思わせた。しかしこうもなれば、階級など意味も無いか。
人木だった。異形だった。植物に変異した、それも一等長生きすると言われる「王樹種」であった。装飾好きに言わせれば、「死送槍」や「先見火」とでも言うだろうか。
元から植物である木人と違い、往々に人から植物になった者は脚が根っこになったり腕が枝葉になったりしてその行動力を低下させる。更に変度が進むと思考力も低下、意識の覚醒時間も減って行き、最後には文字通りの植物人間となる。いや、この例は流石に不謹慎か。だがしかし、その耽美的な生の終わり方は一種カルト的なモノがある。最後には美しい花と成り大きな木と成りあるいは名も知らぬ小さな雑草と成り、そしていずれにせよ土に帰って沈黙する。それはこの星の一部と成り、星に還っていくようで、多分に羨ましく思う者がいるのである。
そしてそれはこの者も変わらない。今ではすっかり下半身が動かなくなり、ほとんどベッドの上で生活していた。彼女の代わりに、ケイは庭の植物に水やりをやっていた。何て事の無い、普通の家の、普通の庭である。
「お嬢ちゃんの顔を見てると元気が出るわね。まるで太陽みたい」
「笑えないな、ミセス。太陽が出ている内は寝ないでくれよ」
「オレは地に着いた生活をしているから、その点は大丈夫よ」
「最近は空を飛ぶ植物もいるぞ。進化とは偉大だな」
ケイはそう笑いながら婆さんの庭に水を撒いていた。
敵と華やかに闘うばかりがランナーではない。福祉的な行事も多分にやる。むしろ異界症候群とされる異界の病気は正規の医者さえも忌避する事が往々にあり、疑似科学並に間違った知識が横行しており、異界経験のあるランナーが多分に望まれているのだ。
というわけで、週に一度はこの婆さんの世話をしに来ていた。その度に海の星の奴を連れて遊ばせていた。子ども好きな婆さんであり、庭には踊ったり歌ったりする面白い植物が多く居たからだ。しかしたまたま今日は皆他に用が在り、仕方ないので空いていたアロンを連れてきたのだが……まだまだコイツは飼い馴らせない。まあ、婆さんが喜んでいるのでソレはいいが。
「最近、昔の事をよく思い出すわ。特に、ああいう子を見ると」
「老齢期のハシカですね。俺は物覚えが良くないんで、あまり昔の事は思い出しませんが」
「けれどもそれは美しいわ。昔は美しい。決して変わる事は無く、決して奪われる事は無い。まるで告白出来ない片想いの様。どれだけ楽しい人生でも、どれだけ下らない人生でも、幸福も、不幸も、過去という演出家の手に掛かれば、全ては素晴らしい映画のように美しくなる。百年の怨み辛みも、ただ一人の子の笑顔や、朝日に、束の間の蝋燭の様に消えて逝く。そして同時に寂しくなるのね。『ああ、もう終わりなのか』と。これでも後悔しない演技をしてきたはずなのに……その時にならないと、やっぱり、解らないものね」
「何ですか。時間を無駄にするなとか、そんな感じの老いたる説教ですか?『時代遅れの完璧(A to O ―Absolute Obsolete―)』ですか?」
「オレがもう少し若ければ、そうなったかもしれないわね。けど、もう人生も夕凪の時代に入ってくると、言いたい事もなくなってくる。説教というのは、とどのつまり、自分の理想像を相手に押し付ける行為。相手の嫌な部分を、良い部分にしようとする行為。けれどもこうして老いたる今、今思うのは、ただぼんやりとした夢心地……全てを許容出来る心地。『All's right with the world!』――言いたい事も、無くなって来る」
「言ってるじゃないですか、『言いたい事も言いたくなる』って」
「あらま、ホント」
「冗談ですよ。オゲレツに言えば、閉経したって事でしょ? 勃たなくなったって事でしょ? 『真の悲劇は無劇である』、みたいな――矛盾した噺だ。ま、いずれにせよ、俺はまだまだ若いですから、悩みまくるお年頃ですよ」
「今はそれでいいわ。少なくとも、今は、まだ。子どもっていうのは何時だってそう。幾ら大人が言っても、その時にならないと……あら、あの子、何だか大きくなってない?」
「え? あ、うわっ」見ると、アノンが水を飲んで「スポンジ・ボブ」よろしく膨らんでいた。水風船みたいに爆発しそう。「どうしよう。ホシフルイで吸い出せるかな?」
そう言って、ケイはアノンに近付いて行った。そんな光景を見て、彼女は笑う。
「その時にならないと解らないものよ。何事もね……」
そんなこんなで昼も過ぎ、何とかアノンも戻す事が出来、そろそろ帰る時分になった頃、アノンは帰り際にこんな感じの台詞を手で描いたのだった。
――「それでは御機嫌よう、ミスター・メレス、御機嫌よう。貴方と家族の行く先に、素晴らしき星がありますよう。成就あれ」。
此処まで回想↑。
「――だのに良い所はかっさらう。なに清楚キャラ演じてんだ。『嬢ちゃん』だと? コイツは性別不明どころか性別無ねえし、俺はガキの子守じゃねえ。晩年の孫を見る様な顔しやがって、あのクソジジイ。息子の泣き顔に看取られて死ね」
「息子が居るのか?」
「死んでないけど、一人暮らしから察してくれ」と、ケイは眼を逸らした。でなければ一々顔など出すまい。「兎も角、全く、ドイツもコイツもガキに甘い。まあ、そりゃ子どもが居れば場は和やかになって、色々と噺も進めやすいのは確かです。窓口は女で固めるもの。お道化に可愛い顔を振り撒けば、仕事の縁も上手く回るさ。しかし、一度ガツンとヤらにゃならんね。罪の反対は蜜とノーロンガーヒューマンは言いました。微妙に然り。罪を行う者とは『自分は絶対に大丈夫』と世界に甘えているのです。そう、お菓子売り場で人目をはばからずに駄々をこねる子どものように。『許される』と思っているのだ」
「ならばお前さんが殴るのか?」
「アンタもそう言いますか……」
ケイは溜息交じりに頬杖を突いた。殴るだと? バカな。この挨拶をするだけで通報され、銃を撃っても罪に問われない子供天国で殴るだと? んなの、コッチが殴られるわ。
「お主もまだまだ若いのう。世界に小言を言えるのは若い証。物語とは何時だって反発から始まるのよ」
「小言? いやいやまさか」ケイはそう言って肩をすくめた。何を言っているんですかとでも言う様に。「グチを言えるのはアンタだけですよ、イマ」
そう、ケイは隣の倒れた石柱に居る老猫に言った。真っ黒とした猫のお爺ちゃん。霊寝族だろうか? 高さは大の大人よりも大きく、太さはそれよりもっと大きい。が、如何にも温和そうな顔つきで、月夜の晩にオカリナでも吹いてそうな体である。
彼はイマ。名ではない。彼の者を指す通称の一つである。他にも「シュガー」とか「コーン」とか「エレット」とか「テン」とか言われており、最近はよく遺跡公園に流れる川で釣り針の無い釣りをしているので「タイコーボー」という呼称も其処に加わる。どうやって生活をしているのか誰も知らない。世捨て人か、仙人か、ホームレスか。いずれにせよとても住民に慕われており、頼られており、時に畏怖されており、色々なモノの噺を聴いたり聴かせたりしている。時に黄金狂世界のお偉いさんも会いに来るとか来ないとか。而してその正体は「老賢人」と呼ばれる「42の偉大なる者」の一者である……と噂されるが、本人はそんな事一言も言った事ないし、それ以前に何者でもいいような感じである。因みに噂していたものは「42の偉大なる者」とかいう奴が何なのか全く知らない。というかケイ自身も聴いた事ない。しかし名前だけが一人歩きし「何か凄い存在である」という事が知られているだけである。大災害の世の世界七不思議一つである。因みにその不思議の数は日によって変わる。しかし実際、何処か不思議な雰囲気に満ちており、一度偉大として反応すれば偉大に思えて来る。それは彼が大きいからか、毛がもふもふだからか、それともその眼がそうさせるのか。
目は口程に物を言うというが、その眼に見つめられると中を覗き込まれるような気がしてくる。例えば民族によってはマスクをして眼しか見えないのにカッコいいと言われるように、種族にとって眼とはその存在そのものと言っても過言はない。設定好きの順位好きは束縛、命令、発火、魅了、石化といった魔眼を始め、夜蒼瞳、赫赤眼、金日瞳、銀月瞳、宝瞳、虹瞳などと分類する(勿論、そんな優劣は亀と兎の速さを競わして兎が早いから兎が強いという程度の議論である)。
そしてその寝子族の瞳は星の色をした万華瞳だった。遊色効果の様に見る者の角度によってその虹彩は変わり、同じ瞳は二度と見えない。虹彩の色により見える景色は変わらないと言うが、さて。かくも移り行かれると、その眼で見える世界を覗いてみたくなる。それは何色をしているのだろうか。そんな眼を持った者は、「この前も、そうやって身の回りについて愚痴を言ってたものが居たのう」とぼんやり語る。
「確か、何と言ったかのう。ユーサー・ペン……ペン何じゃったかのう、ペンタゴンとかペンダコとか、またの名をアリとリスとかアクアリウムとかいう名前じゃったかのう」
「え? それって『ブリテン王』?」
「さーのう。何せ似た様な名前だけなら大祭害以前より色々おるて。そしてこの舞台は様々な物語が混入する世界観なのじゃから。まあとかく彼奴は言っとったのよ。『魔術師も無ェ、円卓の騎士無ェ、俺の剣はビーム撃た無ェ。エクス何とかなんて知りゃし無ェし、そして何より女じゃねえ』」
「いや女じゃなくていいだろ」
「『東の国の織田何とかは空飛んだり口から火吹いたり眼からビーム出したり女になってるっていうのに』」
「アレを織田と言えるのだろうか」
「『羨ましい……』」
「そうかあ?」
「『俺も女になりてえ』」
「ソッチかよ!」
「というワケで今度リンゴの島に女性になる魔法をかけてもらうに行くらしい」
「アバルそういう事しに行くとこじゃねえから! つかお前絶対アーサーじゃないだろ! いやいやそれ以前に『アーサー王物語』自体が中世に乱立された騎士道物語の一つ。『アーサー』という名前自体が最近できた新しい名前。魔法や神を否定するワケじゃない。少なくともその元ネタになった何かはいるのだろうし、実際、辻褄は合う。しかし物語におけるそーゆー設定は後付、もしくはよくある己の家名の権威を強化したり証明したりするために使われた英雄や偉人と同じだ。故にお前の存在が偽りである事は明らかです」
「物語だから現実じゃないというのは今更じゃろうて」
「いやまーそーですが。問題なのは作り話が史実だと思われているという点であって」
「現実なんてそんなもんじゃろ。者が語ると書いて『者語』。自分にとって都合の良い物事で歴史を作るのは、国の王も企業の長もそう変わらん。本質的には意味の無い花に意味在る言葉を求めるように。そも如何にしてそれを真実と出来るのか? 歴史と同じ、その時は真実なだけかもしれん。『永遠に偶然外れない占い』なら、それもまた科学と成ろうて」
「それで、現代では名前だけ借りてつまみ食いする様な文学が流行っているワケすか。名前だけ借りた神や悪魔、もはや元の姿も解りゃしない」
「そこはほれ、それこそ神の偉大さろて。彼奴等は如何なる姿にもなれ、如何なる要望にも応えるのよ。時空を超えて皆で作る物語というワケじゃ。まさに大祭害の世界ではないか? ワクワクするのう。『アーサー王伝説』と同じじゃて。実際に『アーサー王伝説』という名の物語があるワケではなく、此方等は様々な物語を収束させて一人の存在を見出している。彼の配下である『円卓の騎士』は別々の伝承から引っ張って来た、元は別の物語の主人公かも知れなかった者達。まさに現実と夢が入り混じる、壮大な物語じゃて」
「けど原点に忠実じゃない方が認められるってーのは、何だかなあ。新しい何かを見つけに行くのが無意味とは言わんが、その為にかつての自分を忘れるのはどうなんスかね。 ソレは結局、何時か昔になる今でさえ『そう』だという事にならないですか? 結局、何でもいいって事じゃないですか? それは愛が無いんじゃないですか?」
「読み手にとってはそれが史実かどうかなど関係ないのだよ。楽しめればいいのだからね。それがエンタェテイメントという奴じゃ。販売機のように消費される、な」そう言って、彼は顎髭を撫でた。猫の顎髭は髭なのか?「そうとも。土台、物語とは何かを主張するものではないのだ。何かを言いたいのなら、面と向かって言えばいい。翻訳や解釈のズレも無いほどに説明してやればいい。教科書や専門書や学校の抗議でやればいい。愛や幸福や平和というものが何なのか、世界的に決めてしまえばいい。だのに架空の世界で、ましてや自分ではない役者に己の言葉を語らせている時点で、敗北は必死なのだよ。――尤も、ソレ以外に手段がのだから彼奴等は物語るのだがな。それとも、自分でも何が言いたいのかよく解っていない……のかにゃ?」
そう、彼はお道化て笑った。こういう時、獣人はズルいと思う。「にゃ?」だってさ。自分の姿に任せてお道化るのは、何か、ズルい。
「振り返るのが恐いか?」そんなズルい獣人は、唐突にそんな事を言った。「一生懸命脇目もふらず走って、いざ振り返ってみて、何も残ってなかった時が恐いか?『コレ』だと信じ進んできた道が、そうでなかった時が恐ろしいか? けれどももうこれ以外に道を見つけるのは遅すぎて、もう最初の志さえ忘れてしまって、もう自分でも本気で志してたかどうかも解らなくて、時が過ぎて、何時かすべて想い出になってしまったら……」
「ハツ!」ケイはその台詞に笑った。「『俺の人生は、台詞を付ける役だった』、と? 儚いねえ。御門違いですよ。前にもそんな台詞を言われましたがね、同じ応えを言いますよ。俺は哲学者じゃない。目の前の事で精一杯。毎日が忙し過ぎて、色々と小難しい事を考える暇など、ありゃしねえのでさ。ましてや想い出にするために、ソレをやっているワケじゃない。生きるために、しているだけでさ。『自分が何の仕事をしたいのか解らない』なんて悩んでいる就職活動期の大学生程、愚かな人種は居ないでしょう。大人が皆、やりたい仕事をやっているとでも? まさか! やりたくなくてもやるんだよ、金を稼ぐ為にな。そして己のやりたい事が他に望まれなければ、金は貰えない。空想じゃお腹は膨れんのだ、望まれない夢想など無意味なのだ。そしてその仕事の意義や意味なんて考えない。刺身の上にタンポポを乗せるような仕事さ。誰もが魔王を倒すというような明確な目的がある勇者じゃないんだよ。
けど、それは何も特別な事ではないでしょう? 往々にして人生というモノはそういうもの。『何をすればいいんだ?』と疑問しつつ、取り敢えず目の前の問題を解決していく。明日の朝食を考える様に。そうやって何だかんだと生きて行くんだ。そうでしょう?」
「……そうか。まあ、そうかもしれんのう」そうケイが言うと、やはりイマは顎を撫でた。良いとも悪いとも思っていない、飽くまでも一つの感想として聴いていた。「ならば何処までも歩くと良い。世界の果てへ、その向こうへ。迷いつつ、恐れつつもなお進め」
「だから、そんな大袈裟なものじゃありませんって」そう、ケイは肩をすくめた。ついで、嘲笑う様に眼を前へやる。「ただ、単に迷ってるだけですよ。解らないから、不安で、とりあえず走っているだけです。前後も左右も解らずに。とりあえず動いていれば、此処でない何処かへ行けると信じて。全く、ヤレヤレだぜクソッタレー。『なんのために生まれて、なにをして生きるのか』。もう人が生まれて何千年と経つというのに、どうして未だに答えが出ないのか。可能性は無限大、それは選ぶ権利があるという事か、それとも亡羊の海に棄てられたという事か、無教養なものがあまりに壮大な芸術作品に相対した時にやる様に自由だ個性だと言い誤魔化しながら逃げているのか」
『私は決まっています。パパのために生きてます』
「わーお、急に起きるなよアニア。このファザコンめ」
能面が膝の上から覗いて来た。そんな無垢な瞳で見られると、思わずその口に何かを突っ込んでみたくなる。いや、男のSAGAだな。
『親の為に生きるのは子として当然では?』
「早くこの子達何とかしないとあの父さんヒモかペドになってしまうぞ……」
「まあ、それも一つの生き方じゃのう」
「『人それぞれ』と? 駄呆ですね。何をしてもいいという事は、何をしても価値はないと同義ではないですか? 泥でも花でも、どーでもいいという無関心ではないですか? 母に献立を訊かれて『何でもいい』という様な子の答え。いやそれは最後に残された逃げ場なのだ。自分の存在の意味への問いを、その答えを、巧妙に誤魔化しているのだ」
「それもまた、一つの感想」
「フン。感想か。まるで他人行儀ですね。アンタにとっちゃ、全てが河岸の火事なんじゃないですか? 戦争がどーの、貧困がどーの、世界がどーの何て物語、アンタは、本当の所は、どーでもいいんじゃないんですかい? 宙天から見下ろす神の様に」
「そうではないよ。ただ、一つだけで生きていく方法を知っとるだけじゃ」
「ハッ!」ケイは大きく笑った。嘲笑うような笑いだった。だがその顔は消えていく、蝋燭の火が消え逝くように。「……ハッ。それが出来れば、どれだけ楽か。『誰かが言った言葉が、気になって惑わされ』ないだけでも、一苦労だというのに」
けれども、己の心意気など、高が知れている。何か守りたい誇りがあるワケでも、救いたい誰かがいるワケでも、死にたく無いワケでもない。ただ、負けたくないだけだ。何かが好きだったからではない、お前は世の中に起こることが何もかも――違う。違うよ。絶対にそんなことはない。なんだって君はそんなことを――じゃあうんと好きなものを一つでも言ってみなさいよ――それは……そりゃあ……――ほら言えない――違う! そこが君の間違っているとこなんだ。親の子への愛情の様に、わざわざ口に出すものじゃないんだ。好きだとか嫌いとか、そんなのは……――でも言わなきゃ伝わらないわ。それとも、目に見えないから大切っていうの? だからそうやって何もかもに目を瞑るの? 耳を塞ぐの? 口を噤むの?――違う。それはただの自己満足だ。勝手に素晴らしい物だと祭り上げるているだけだ。そうじゃなくて、僕は……――自分のせいで汚れるのが嫌なんだ――違う! 違うと言ってるだろう。何もかも違う。こんな世界、俺にとっては間違いだらけ――そうだとも。ああそうさ。何もかも間違いだらけさ――誰にだって解るものか。共感なんてさせるものか――誰にだってくれてやるものか! この幸福も、不幸も、肉と、骨、魂も、そしてこの星も!、全部、俺だけの
――けど、その星に火を灯してくれたのは。
凄い。よく頑張ったね。
――違う。違うよ。別に褒めてもらいたくてやってるわけではない。誰かに言われたワケじゃない。これは俺がやりたくて……
「相談すればいい。ワシではなくもっと良い者がいるだろて。例えば、海の星の彼女とか」
「バカ、からかってんスか? アイツにグチなんて言えますかよ。アイツは、あー……」
「想い人じゃものな」
「はあ!? いや、そんなんじゃ……」
――どうしたの、君、こんなところで。……泣いてるの?
「……そんなんじゃねえですよ」
思う所は一杯あった。偉大で華麗なる「ギャルビー」に対する「老人」風に語ればこう、「彼女には素晴らしい友人がたくさんいる。私が知っている誰よりも大勢いる。しかし、彼女の役に立とうが立つまいが、私もまた彼女の友人の輪の新たなる一員となろう。そう思った」。虚無感を含めればこう、「彼女は誰かのモノになるような人ではない」。テンプレを踏まえればこう、「俺の心の中で生きている? あの人は俺の心には大き過ぎる」。気取って言えばこう、「そも母の世話になるなど、男として認められん」。神話風に言えばこう、「アレなるは『帰る場所』。しかし何時までも生まれた家でいる程、無粋な事はあるまい」、「そうとも、彼女こそが楽園なのだ。而してあの人はあまりにも素晴らし過ぎて、、ただ遠くで見るだけならまだしも、近づくには眩し過ぎる。蝋の羽根を溶かし、蒸発させる。そうともさ。ADAMととEVEが楽園から去った本当の真実、その答えは其処にある、人は楽園を目指すが、いざそこを見つけてしまえば、それが完全無欠だと知ってしまえば、もう自分の入る余地など何処にも無く……そして同時に、彼女なしには生きられないのだから、救えない。片想いとは、かくも熱きものなりや!?」、「そしてそうやって称賛の言葉を口にすればする程、その本質は消えて行く。言葉とは物事を抽出する事に過ぎない。言葉にすればする程、それは欠陥品と成っていく。指の間から零れる星屑の様に。ならばかくなるうえは、その御身の中に我が想いを埋没せしめん!」、「白濁液をかぶせるなど、それこそ穢れだ。黒い文字は消え去って、もはや何も見えない。救えないなあ、俺も、お前も! 入れ込み過ぎるなよ。夢は適当に付き合うのが肝要だ」、「しかしもはや我慢できない。手に入らないと言うならば、いっその事――」、「で、その結果がその青痣か」、「うん、『撃ち返されたよ肘鉄砲』。ぶん殴られた。意外と強いのな、あの人」、「そりゃあーた、あの人は素手で神様と殴り合いするとか言われる人だから」、「え、なにそれこわい」……などと気取った台詞の十や八百は……だがその気取りでさえ彼が想いにするには重すぎ、口にするには言葉は小さすぎ、それでも外に出して汚れるのを恐れ、結局、ケイは口をつぐんだ。LOVEやLIKEではないのだアレは。アレは、何時か見た星の様な、或いは、ふと見た太陽の眩しさの様な、見た目を忘れしかし素晴らしかったと覚えているだけの絵画の様な、そんな夢物語。
アレはきっと、何時までも変わる事は無いのだろう。アレはきっと、誰にも汚される事はないのだろう。それが嬉しくも、寂しくもある。
「救えぬのう。誰もが聖母を求めども、それが誰か一人のモノに成れば、それはもう聖母ではなくなるか。ましてや己の白い欲望を果たしてしまえば、美しき神秘の幕は赤く破られて、その罪罰感と喪失感に己は死んでしまうか。全く、男という奴は……」
「男ってのは偏見スよ。そしてアレはそんなんじゃないです。ただの『養親A』です」
「ほっほ、親ではあるか。……そう言えば、お主も〈海の星〉の拾い子だったのう」
「当時も今も『子』って歳じゃ全然ないですがね」
「じゃが誰しもが慈母たる彼女の前に立つと子に還る。あの懐かしい匂いがそのモノの原風景を思い出させる……あの人は常に相対するモノの過去に存在する」
「『青春の幻影』か、『思い出は億千万』か。まるでお星さまだね。届かぬ想いは夢語、昔を語るは物語。ならばこれは、夢物語。於戯、夢を物語るという事は、さながら片想いする事なんだねえ~、ククク……莫迦らしいッ!『大切なものは眼に見えない』だなんて、そんな戯言抜かす王子さまは死に晒せ。黄色い蛇に噛まれて逝っちまえ。両腕をもがれた欠陥品の貝殻の女神に恋してろ。そのものの真の姿を知ろうとしないで、何が愛かッ! 物語は夢を見させるモノなんてのは、ただの妥協だ!曖昧に都合良く解釈する餓鬼など、物語を諦めの免罪符に使うなど、反吐が出る……」
「そして作家は、今日も現実の姿を晒さず、架空の登場人物に己の正義を語らす、か……いやはや、『我ら役者は影法師』、じゃな」
「カッ! それで良いんだ、それで。姿をバラすのが怖いんじゃない。実がないだけ雄弁なのだ。いずれにせよ、俺は母に甘えるような歳じゃありませんよ」
「年齢で大人になるわけではないじゃろう」
「なら今はどうでさ、俺も少しは大人になれたかな?」
「ふむ、ワシの答えで満足するのかのう?」
「アンタはこう言うんでしょ?『それもまたお前次第』……嫌な言葉だ」ケイは嘲るように肩をすくめた。「辿るべき道がしっかり解っていれば、死さえも恐れないのに。いや解っていれば、そもそも辿る意味はないのか?」
「過程に意味があるのだよ。観客はその者が幸福を得た瞬間ではなく、その者が不幸に虐められる所に心を震わし、ソレを乗り越えた絶頂に涙するのだ」
「オゲレツですね。ドイツもコイツも莫迦ばかりだ。難儀さなあ。世の中は難儀な事だらけだ。しかしてそう思う心もまた『お前次第』……チクショウ、責任転嫁か」ケイは頭を振ってそう言った。ついで、「老猫さん、糸、引いてますよ」
「むおっ?」と老猫が幾何か驚いたように眼を開いた。ケイの言う通り、釣り針の無い釣り糸が引かれていた。つまりこれは引っ掛かったのではなく、己から糸を掴んだという事である。さながら蜘蛛の糸の様に。しかし中々吊り上げられないのは、恥ずかしいのか、最後の誇りであるのか。「むおおお! これは中々大物じゃぞ。ケイ、主も手伝ってくれ!」
「遠慮します。それは貴方様の御仕事。それにそろそろお暇しなければ」
「『なんだ、もう行くのか。神の国は何に似たるか。』」
「『一粒の芥種のごとし。』」
「ほう、流石」
「丹精込めて作ったモノが辛口とか、笑えんがな。大きければ大きいだけ辛いとか」
「なら甘い方がいいのかのう?」
「いえ、甘いものは苦手ですので」
「ひねくれとるなあ」
「ひねくれてねえです」
「面倒臭いなあ」
「面倒臭い男じゃねえです」
「いや『男』かどうかは問題じゃないが」
「とまれ、我は行きますよ。そうです、俺は行くのです。冒険する事自体が何か素晴らしいものだと信じて。目的地も無いクセに。止まると機械の様に寂びてしまうから。さあ、だから行きましょう。何十年の不幸も、一瞬の日の出の美しさに掻き消えてしまう様に。でないと、特売に遅れます」
「ワシより特売の方が大事なんかのう……」
「あすこの肉屋のコロッケは生クリームが奏でる滑らかさと甘さが上質でしてねえ」
「ワシは雑食じゃぞ」
「悪いなイマ、あのコロッケお一人一個までなんだ。というより、俺がいるとアノンが釣られた奴を食いそうだ」そう言って、何時の間にかアノンに戻っていた子どもの首根っこを掴んだ。君は水仙にでもなるつもりか?「ほら、路花も、アノンの髪を三つ編みにするのを止めて、そろそろ帰るぞ」
「ツインテの方がお好きですか?」
「好みはない。だが強いて言うなら毎日髪型や服装を変える女が好きだな。ハッ、とするような感覚がね、目が覚める感覚が好き」
「ほほう? それは幾つも同じ服を持っている設定の漫画に喧嘩を売ってますな?」
「売ってねえよ。単に俺が何をしなくとも勝手に綺麗になってくれる女が好きなだけだ」
「お任せください! 私はケイさん如きが居なくともバリバリ可愛くなりますよ!」
「ありがとう(笑)」めりめり
「頭が痛いっ!(笑)」ギギギ
「(笑顔で……)全く、どーでもいい所ばかり似やがって。俺の周りのガキは皆そうだ。真面目に生きろって言っんのに、どうしてドイツもコイツもこう……」ケイは最後まで言わず、溜息をついて頭を振った。その顔は嫌味を言いつつも、笑っていた。「お前も典型的な元気娘だなあ……まあ、何だかんだで楽しいのは良い事さ」
楽なワケではないけどね――そう言って、ケイは右手で水仙の首を捕まえつつ、左手で路花の頭を掴みつつ、両手に華で遺跡公園を後にする事にした。
「少年よ」そのケイの背に言葉が掛けられた。ああこれは、とケイは思う。BGMがあるのなら、何か静かで低い音楽が流れそうな、あるいは全く無くなりそうな、そんな雰囲気を感じ取る。だからケイは「ハイハイ、心は何時でも少年なケイに何か御用で?」と道化て応う。老猫は目を伏せて台詞を続ける。「お主の世界は、そこに広がっている」
そう言って、老猫は指を「ピン」と立てた。指の先には、青い空。いや違う。指を指す方向など何処でもいいのだ。「何処でもいい」? 何処でもいいのなら、目指す場所もないではないか。「君の好きなようにやるといい」というのなら、それは「君」じゃなくともいいという事ではないか? 何をしても、価値はないという事ではないか?
「『書を捨て、顔を上げよう』ですか?『現実に帰れ』と? アリスもドロシーもバスチアンも、皆、現実に帰って行った。夢はいずれ覚める。朝日が昇る様に――と?」
「捨てる必要はない。それも世界の一つなれば。じゃが少なくとも、今の主の生きる世界は此処じゃ。今在る素晴らしさを解らぬ者に、未来の素晴らしさは解るまい。そして現実であればこそ、現実を変えて往ける。お主の好きそうな台詞で言うなら、そうじゃのう、『古い夢は置いて行くがいい。ふたたび始まるドラマのために』、という所か?」
「止めてくれ。貴方程のモノが、誰かの台詞で語ってくれるな」
「是は異な事。小説家は、小説家だけで物語を描くワケではあるまい。編集家がおり、装丁家がおり、作家はこの世界から、或いは異世界から言葉を得る」
「猫じゃなくて狼だったか。『はてしない物語』スなあ。似合いませんね、そんな台詞」
笑いながらも、ケイは納得いかない様だった。だが故にその台詞が身に染みた。納得いかずとも、例えこの世界が胡蝶の夢でも、何時か忘れる夢であっても、今己が生きる世界は此処である。或いは、無限の劇中劇か? いや、もしくはエッシャー・ペンローズが作りだす様な、円環世界か……。
「似合わんという事は無いじゃろう。どれだけ小難しい学論をぶっても腹は減る。世界がツマラナイと言って物語を描く者は他ならぬそのツマラナイ世界に属する者じゃ。誰もが皆、俗物だ。無論、ワシもな。誰もが他の肉と骨と魂を、世界を、星を食べて生きて行く。我等は皆、泥人形だ。そこの道理を知らない者が、人殺しを非日常扱いし、屠殺を日常扱いする。いや、別に特別扱いするなというワケじゃない。無差別は不感症と裏表じゃ。じゃが少なくとも、それをどうこう言うのは他の者。少なくとも、今は、まだ」
「言うてろ」その台詞に感動するのは、その台詞が素晴らしいからではない。彼が何を言っても、ケイにとってそれはやはり、賢者の語る言葉であった。けれどもそれが、例えば金持ちが金など意味は無いと語るように、嫌味に聴こえないのは、例え彼が賢者ではなくとも、同じ事を言うだろうという奇妙な確信があるからだった。そしてケイはふと、そんな賢者の語った俗物の一人を思い出した。つまり、女になろうとした騎士王の事を。「時に、その女体化希望の莫迦はどうなったんスか?」
「……なんか、死んだ」
儚いなあ。
ケイは自分の知らぬ所で起こった舞台を想った。幾ら異界が混ざったとしても、物語は二つ以上の物を語れなかった。コインの裏表を同時に見られない様に、携帯で二人以上と話せない様に、舞台で二目以上の劇を味わえない様に、ENDがHAPPYかBADかいずれかにしか成れない様に。少なくとも、今は、まだ。
《Hey, ai yo ah turn up? I turn up! OK, hand & hand shake. Shall we dance? Yo turn up? No, I dno’t turn up. OK, wait at minute, we make you laugh. So Shall we dance? Oops, No time listen? No money play? OK, then shout us! We shout, shout & shout your shout!!! ♪ ♪ To the ends of the earth~ and beyond the end~》
ラップのような跳ねるメロディから転調、爽やかなスピードのあるサビへ。ノリの良さとオシャレな感じが奇妙に合わさった曲だった。その曲を奏でるメンバーは大人から子供まで、鉱物族から人間族まで、髪の色や服の装いが結構派手であるが、アレは舞台の視覚効果によるもので、清楚にも可憐にも素早く変わる。曲もまた代わり、次は打って変わってデスボイス。あの女の喉の何処からあんな声が出るのか。
「最近このグループよく見るけど、ポップからヘビィメタルまで、多彩だな」
《おや、気になるかい?》
「そりゃ、仕事柄そーゆーのも知って置かなにゃね。子どもも好きだし。ラノベだから低俗扱いしたり、アニメだから子供の物扱いしたりするのは、それがどれだけ世界で金を産み出してるのかを知らん阿保だ。素直に面白がってろと資本主義に騙された駄呆だ。ま、俺ァ発情期の猿よろしく観客みたいに鳴くのは御免だけど」
《『NO NAMER』、ヤパーナでは『ノナメア』って呼ばれてるね。数は些細な変動はあれど、今のメンバーは『ピアノの礼儀正しくて人付き合いの良い落ち着いたキュートキャラ』『ドラムの落ち着いているけど力強い凛としたカルムキャラ』『シンコーラザー(シンセサイザーに視聴効果を合わせたもの)の中身は美少女と夢見て止まないヘー〇ルな紙袋首元まで被った機人のヒートキャラ』『ベースの黒いロングヘアと不愛想に見えるけど実は努力家で周りを見ているストイックなクールキャラ』『ギターの人獣で吊り目で二尾髪の結構気の強いハードキャラ』『普段はボーっと省エネしてるけど舞台に上がると豹変する長髪がボーカルのパッションキャラ』『サブボーカルの愛らしくて礼儀正しい子どもにしては大人びたポップキャラ』の七役から成ってるね。と言っても、いわゆるレギュラーメンバーはボーカルとベースとピアノと、最近見えるサブボーカルだけだけど》
「あのデカい胸と細い腰でビキニにホットパンツとは……けしからんボーカルだな」
《うわあ、発言が親父臭い》
そう言って相手は笑った。と言っても表情は解らない。ただソレを示す印が出ただけである。その印と同じ場所、つまり空中投影された画面には小さくデフォルメされたドット絵と、その中の人の台詞が浮かんでいた。つまりチャットである。今はこんな成りであるが、実物は爽やか、というか「コイツ怒った事あるのか?」と思うくらい落ち着いた大人の男性である。が、ともすれば浮世離れしたふわふわした感じもして、それ故に若々しく見え青年と間違われたりする事もある。
場所はとある喫茶店。時は昼飯時。ケイは其処でオムライスとアイスコーヒーをテーブルに広げ、TVにしたホシフルイでノナメアというグループの音楽を聴いていた。たまたまチャンネルを変えただけで、意識的ではない。暇潰しである。そんなケイは「親父臭い」という相手に向かって、相手を映す己の携帯に向かって「ほっとけ」と息を突く。
「つか、やけに詳しいのな」
《まとめサイトの引用だけどね。情報屋たるもの、時勢を知って置く事は大切だよ。最近はどんなジャンルでもああいう『場系』が流行っている。プロダクションを造って、アイドルをプールして、色々なキャラを出すんだね。キャラの設定は必要最小限で細かい所は受けて任せだ。まるで貝殻の女神の像の様にね。ノナメアもグループ名というよりたまり場名で、好き勝手やるストレス発散の場所なんだ。コロコロとメンバーが変わり、同じ曲でもメンバーによって色が変わる。だから女性ばかりと思われてるけど、男性も混じるし、種族も人間族だけじゃない。異界者の好みは千差万別どころか憶も兆も行くから、固定化されたものよりも流動化された方がいいんだね》
「ただの回転寿司のような流動食ジャンクフードだろ。高品質を育てる時間がないだけで、数撃ちゃ当たるをやってるだけ。鮮度が落ちれば廃棄処分。しかもそれがさも自分の好みで選んだように見せかけるから性質が悪い。そう言えば、最近はキラーソフトっていうのも無くなったよなあ。アニメも単発連射だし。別にだからと言って斜陽だとか今時のサブカルで喜ぶ奴は格が知れるとか言うつもりはないが、ちょこっと人気になった程度で社会現象(笑)だの神作品(笑)だのいうのを見てると、何だかなあ」
《ははは。そんなのは物を粗末にする若者を見て「第二次世界大戦の頃は~」なんて語るアナクロだよ。評価基準なんて曖昧さ。少なくとも、僕達の視点では。ましてや格の高低などは無く、全ては円環なのかもしれない》
「なら言い変えよう。それは恐れているだけだ。答えを出すのが怖いだけだ。否定を恐れ、曖昧な表現にして評価を客に丸投げしているだけだ。大祭害で精心的支柱を失って、機械や魔術で何でも変われるようになった、今日日の自己同一性型現代病だな。いや、それは昔も変わらんか? 百億年掛けて是なのだ、大祭害如きで人が進化すれば世話は無い。莫迦みたいに騒ぐのは、それを忘れる為の酒か薬か」
《まるで泥人形の様に? それとも自戒?》
「誰でも知ってる事さ。ただ忘れてるだけで」
《『自我』自体が『若い思想』だけどね。そして自我は無意識的。そんな苗木の言の葉で己を語れるのだとしたら、その者はよっぽど簡単な人間なのだろう》
「だから、別にフロイトを言ってるワケじゃないさ。やり直しがきかずとも、何時かは大人にならなくては。『Peter Pan Syndrome』群じゃあるまいし。世界の時は止まらぬのだから。例えなりたい大人が無くとも。少なくとも、それが今此処の理だ」
《”That's what She said”?》
「お前もそんなジョークを言うのか」
《相手が道化なら、コッチもまた道化に成るさ》
「莫迦ばかりだな」
《違いない。けれども、成りたい大人、か。ちょっと前は「自分探しの旅」なんてのが流行ったけど、こんな世界に成った今もまた、熱病みたいにぶり返してるね。生きる価値に連なる、思考を持った人間の新たな主題、「己とは何か」、いやもっと言えば、「己とはこの世界で何する者か」。宗教も哲学も科学も、それを満足させるには至らなかった。ならば、何をすれば満足できるか。流行とは、そんな満足を一時的に見たす薬に過ぎないのかもね》
「莫迦だな。人生とは空っぽの袋に価値を積み込む事なのだよ。意味を求めるな。意味は勝手について来る。故に自分を探しの旅も無駄。幕が降りるまでが舞台なれば、その旅が終わって初めて自分が在るのだから。或いは、舞台を照らす灯が消えて初めて、か。ま、少なくとも、『自分を探そう』と思う自体がもう自分だろうよ」
《成程ね、君らしい解答だ。因みにあのサブボーカル、あの子は泥人形の一体らしいよ》
「うえぇ? ジマで。やけに上手いじゃないか」
《うん、ジママ。そして上手く感じるのなら、技術じゃなくて魅力だと思うよ。まあ噂だし、本当だとしても自分からは言わないだろうけどね》
「亀仙人直伝のお前の検索能力なら調べられるだろ」
《それは野暮というものだよ。空に輝く星は、空に居るから綺麗なのさ》
「だが足を踏み入れた感動は格別だぜ? それとも、女神は欠陥品のままでいろと?」
《さてね。僕は美の奉仕者ではないから。返り値を求めずには居られず、しかれどその数値は『有』か『無』か、意味の無いもの成れば、僕には何とも言えない。けれど敢えて言うのなら、電子の世界に欠陥品の居る場所はないね。……今は、まだ》
「これだけ技術が発達してるのに、四進法コンピュータとか、朝起きて玄関開けたらHAL9000が立っていたとか、そんな事はまだないなあ」
《単純に需要がないからね。人間を造るのなら挿し木の方が簡単だし、精密性に複雑性は要らないし、何より今のままでも上手くいってる。それに勘違いしちゃいけないけど、コンピューターの頭が速い訳じゃない、二進法を使うコンピューターの頭が速いんだ。人間並みの知能を持ったら、結局、人間程の頭と変わらなくなってしまうよ》
「……という設定?」
《さてね。僕は哲学者じゃないから。自我がどうとか意識がどうとかは興味ない。自分の脳が資質と蛋白質で出来てるのか、それとも一平方cmにも満たないICチップか、どちらにせよ返る値が変わらなければ、僕はそれでいい》
そう言って、彼は笑った。無論、実際の表情は解らない。なんなら、その向こうに本当に彼がいるのかさえ。成程ね、とケイは肩をすくめた。真実は違うかもしれない。だが現実がそうであるならば、やはり、そうなのか?
(というのもまた観念論、というか思考停止か。しかし、思考の限界が世界の限界なら……というのも、またありがちか。そもそも、それで満足出来たら……)
と、ケイが暫し考え込んでると、
「あ、あああ、ああああああっ!」
こんなヘンテコな声が掛けられた。
ローチでも出たか、というのは食事店でシャレにならんか。ならPDDでいこう(←)。
非常にどもりながら話しかけてきたのは、円いトレイを持ったウェイトレスの、歳は路花よりも低そうな、頭に木か鹿の様な角を生やした少女だった。そんな彼女に、ケイは愛想笑いで肩をすくめる。
「落ち着きなさいよ。素数を数えてみて?」
「えっ!? え、ええ、ええええと……素数って何でしたっけ?」
「じゃあ、思い出すまで君はこの椅子に座ってなさい」と、ケイは角女の両肩に手を置いて、自分の座っていた席に座らせた。「コーヒーのお代わりは自分で貰うよ」
「す、すみゅ、すすみゃ……進めません」
「ふっ、愛嬌があるから許したげるよ」
そういうケイの表情は、飽くまでも優しい顔だった。路花が見たら愕然とするだろう、自分に対する扱いのあまりな雑さに。いや逆に「何か特別扱いされてるっぽい!」と喜ぶだろうか。異能者というものは何処か阿保もとい抜けてるから。
「それは距離を取っているから言える事だけどねえ」と、そんな和気藹々とした空気の中に、どんよりとしたシケモクの様な声が聴こえてきた。「『人生は近くで見れば悲劇だが、遠くで見れば喜劇だ』っていう奴さ。ドジっ子は直に付き合うと辛いよお? お皿がガンダムに相対するザクみたいに割れてねえ、ハハハ、本当にね、もう……笑う」
シケモク、もとい喫茶店の店長がそう言った。如何にもくたびれたオジサンであり、紙巻を手に持ち「はあ」と息を突く。それを見て角女が「はわわ」とする。
「ごごごごめんなさいっ! 不甲斐ないアルバイトでごめんなさい!」
「”えっ!?」しまった、とマダ男もとい店長がキョドる。つい愚痴を零してしまった。すかさす「あーはは」と愛想笑いで誤魔化す手段を実行する。「いやいや、君目当てで来るお客さんも多いしねえ。苦労が増えたけどそれだけ客層も増えらからプラマイゼ、あー、プラスだよ。男性だけじゃなく女性にも人気があって、オジサンも色めき立っちゃうよ。アレだね、若者言葉で『可愛いは――』ええと、『ジュース』?、『ジャストミート』だっけ?、まあそんな感じだよねー。それに人生に疲れたオジサンには、君みたいな元気のある子が近くに居るだけで生きる気力というか何というか、まあ何て言うか、えーとエネルギッシュ、はセクハラか、あー、まあ、何というか、元気になるんだよ」
結局取りようによってはセクハラになっているじゃないか!、と思う貴方の心は穢れている。兎も角、角女はその甘い台詞を聴いて大きな瞳から潮を吹いた。
「ううう。て、てんちょ~!(泣」
「ああっ、駆け寄ってくるのは良いけど転ば」ビターン。「……ないでね、次からは」
多分、次も転ぶだろうな、とケイは思った。もはやお約束であった。天然「気苦労の多い御仁だ……」と眼鏡のシケ男、もとい店長を見て苦笑した。
因みに、メリケにヤパーナの様な非正規雇用や正規雇用と言った雇用形態の違いはない。よってヤパーナ流アルバイトにあたる言葉は存在しない。しかしまあ雰囲気というか何というか、何かそんな感じのでこの子をアルバイトとして反応してください。閑話休題。
《あ、この子、ケイの知り合いじゃないかな?》
と、電子越しに落ち着いた声でお兄さんがそう言った。ケイはその声に釣られてホシフルイを覗き込む。そこには銀髪褐色の銀地族がギターを弾いていた。
「……ふーん、成程。知り合いが出れば嬉しいな。偶像信仰もこんな感じかね」
本当、この子は何でもやってるなあ、とケイは思い、その行動力に笑った。
「ムカつくぜクソッタレ――――ッ!」「ワーッハッハッハ! さんっじょぉ――っ!」
そんな笑みに悪口と軽口が飛んできた。見ると喫茶店の入り口が開いている。そこには少年と少女が二人いた。どちらもウェイトレスと同じくらいの歳頃。少年は頭に石角、背中に獣翼、脚に枝葉を生やした合成族で、少女は犬耳の人獣だった。二人、というより少女を引き連れた少年はケイの方へ走ってきて、大きな声で叫んだ。
「おいゴルァ! これは一体どういう事だ!」「ごらーごっだー!」
「何だい、君達。まあ甘い物でも食べて落ち着けよ。此処はアップルパイが絶品だぞ」
「今はそれ所じゃない莫迦系! アンタ約束と違うじゃねえか!」「ばかーねえかーっ!」
「『ケイ』は確かにヤパーナで変換したら『系』だがブリティッシュで言っても通じんぞ」
「今度こそ俺を一緒に界異に連れてってくれるって言ったじゃねーか!」「つーかーっ!」
「ほなけんど相手によるってえも俺言うたじょ? 下手したら死にゃし、ほないな事で責任取るつもりはおにゃああらへんよ」
「俺は男だ! 男なら死ぬと解っていても闘わなきゃならない時があるんだよ!」「だってばよ!」「そんなものは自己責任だ、ケイに迷惑かけないぜ!」「どんとらいとー!」
「それで親に怒られるのは俺なんだよ。つーかお前雑魚いから足引っ張るんだよ」
「もっとオブラートに包めよお!ヽ(` Д 、)ノウワァァン」「ざこ! ざこ! ワーン!」「ええい、お前はさっきから五月蠅い!」「ごがつぜみーっ!」
「どっちも五月蠅いよ(Will you two Knock it off?)」
と、席に戻ったケイは頬杖を突いてその漫才を苦笑い気味に眺めていた。すると、
《解ってないなー、ケイさんは! 生きてれば人間は誰だって死ぬんですよ? なら老衰で天寿を全うするより派手に散るのが男ってもんじゃないですか。あ、でも俺達人間の命は残念ながら一個だから、使う時はちゃんと考えないといけないですけどね》
と、携帯から電子音がした。だが先の落ち着いたお兄さんの声ではない。チャットに人数が増えていた。何処か女性っぽい声である。が、これはお兄さんの弟だ。しかし見た目もまるで女の子っぽいのを、実際にケイは在った事ないが、前に見た映像で知っている。色白で華奢で骨張っていない見た目であった。だがそれも無理はないだろう。というのも、
「手前だってまだまだ餓鬼じゃねえか」
《えー何処が何処が? クラスメイトにモヤシ、白カビ、透明人間、ウジ虫、埋め立てゴミと呼ばれて、誰かに触ったら「~菌が移った!」と騒がれて、パン買って来いよと言われたら自腹でパンを買って、ありとあらゆる罪を代わりに引き受ける引き受ける、籠り歴数えで年齢のこの俺の何処が子どもですって?》
この少年はヒッキーであった。路花と同じ年頃であるが、既に前途有望な少年であった。そんな生活であれば、色白で身体つきも女性らしくなるのも無理はない、のか?
「お前のカーチャンも引き籠りかよ……つかそのナチュナルな被虐言動止めれ」
《でも皆そう言ってるからそうなんじゃないでしょうか? 俺が居なければ皆がハッピーになれるんだし、それで円満じゃないですか?》
「またテンプレな事ほざきやがる。言って置くがな、お前程度の変人、割と何処にでもいるからな? 俺はそういう事を知っている。何せメリュー所の仕事斡旋の大半がソーシャルワーク、ヘンテコな人などもう慣れっ子です。……何で俺は荒事の方が得意なのに」
《けれどもそれはケイさんの世界の噺ですけどね。俺の世界の噺ではないです》
「Huh、至言だな。何処へでも良い……一歩踏み出せば、それはもう此処じゃない何処かだ。わざわざ異世界などなくとも、異世界なんて何処にだって存在している。光の先には常に暗闇が在る様に。
しかしどのみち、俺が手前に言う事は同じだ。詰まる所、『もっと上手くやりなさい』。そーやって明るくそーいう事言うから変人扱いされるんだ。何事も用法容量が大切です。人が好過ぎるのもあまり良い事ねーぞぉ……ってうわ、テンプレな人の良いお兄さんの台詞だなコレ」
《天ぷら?》
「歳をとるとむつこいのが苦手になるが、それでも時々食べたくなるよなあ」
《因みに将来の夢は世界平和(LOVE&PEACE)だよ!》
「志は大きいねえ」
《じゃあケイさんは俺の事嫌いだっきゃ?》
「俺は如何にも女性向携帯小説に出てきそうなな兎キャラは好かんじゃけんの」
《偏見ですねえ》
しみじみとした感じだった。この兄にしてこの弟ありというか、彼もまたどんな罵詈雑言もヘラヘラと笑い飛ばしそうだった。だから色々と言われるのだ、とケイは思う。
「しかし、ま、そんな変な言動も、この変な世界なら変ではないか?」
《ていうか、ケイさんだって俺と似た様な事言ってませんでしたっけ?『人の価値は己じゃない誰かが決める』とか何とか》
「誰かに魅せられるように、己は頑張れという噺だ。いずれにせよ、何事も極端はイカン。つーか俺の言動何て事なんて十中八九がハッタリだから、真面目に取られても困る」
《逃走経路の確保は戦略の要ですね、解ります》
「後、無駄口叩かないのも戦術の基本だ」
《敵キャラってなんで一言余計なんでしょうね。「クリリンの事かー!(ドン)」って逆転されるシーンを何度見た事か。まあ無言で何度も斬りかかってきたら俺は逃げますけどね。綺麗な長距離走者の姿勢で夜明けに向かって無言で全力疾走するゾンビとか》
「俺は泣く覚悟があるな。意思疎通の出来ん奴は無理だ俺」
《後、「Boléro」鳴らしながら無言で怒るメー義姉さんというのを考えた》
「お前はアグモンか。それこそ閻魔も逃げ出すわ」
「だが心があれば繋がれる。まるで心を結ぶ『CORD』の様に、或いは電子を繋ぐ『CODE』の様に、な」そう、また新たな声がケイに掛かった。その声はケイの目の前、隣の席に座っていた。「ま、故に絡まり、戻り値はしばしば予期せぬものに成るのだが」
学生で言えば高校か大学か。そのくらいの歳の青年が、腕を組んだままそう言った。彼の前には様々な色で分けられた空中投影画面が走っており、何らかの数字が入力されたり何らかの画像が変化していた。それを眺めながら、ケイは言う。
「そのワクチンアプリの様に?」
「然り。だが理解しようとする事が、俺の愛だ」
彼はプログラミングを行っていた。デジタルは変わった。現代ITに「カチャカチャカチャッターン」なキーボードなど必要ないし、ましてや出し過ぎたウィンドウよろしく空中投影画面を360度に展開する事もない。そも指や足を使う必要もない。全て脳内処理である。その絵面は静止画だ。何事も極めて行けば、地味になってしまうのは仕方ない。なのでせめてものSF気分を出すために、今はスペクタクルな空中投影画面を乱立表示しているのだが、どうだろうか。まあそもそも場所が喫茶店なのでSFも何もないのだが(いや逆にこういう何気ない所から大事件を操作する、というのも乙なもの……?)。加えて言えば、最近のプログラミングは言語さえ必要ない事も稀によくある。絵や建築のようにイメージで組み立てて行くのだ。どうなっているかは、私にも解らない。
「愚者どもに解るか。解るのは、この俺様の様な天才だけ……だっ」その台詞と共に乱立した画面に「COMP」やら「DONE」やら「大変よく出来ました」と文字が出た。「フッ、シーリーコートの出来上がりだ。コイツは周囲のウイルスを自動検索し喰らって自己進化する。かくも、件の灰泥界異のようにな。というより、白血球か。まあ兎も角、コレなら断続的に増殖し変化する悪戯妖精にも対応でるだろう」
「戦闘も可能なのか? 防御機制で精一杯だと思ったが……」
そう言いながら、ケイは棒にしたホシフルイの先を前に出す。それを相手は握る。光も音も何もないが、今、通信的なものをやっており、先に出来たプログラムを穂陽ふるいにインストールしているのである。無線ではない。手が線である。
「フン、今に甘んじて才能はなく努力する事もない愚者と天才かつ秀才である俺様を一緒にするな。天才は常に一歩先を行く。この程度、俺様にとっては昼食前だ」
「流石だな天才。やっぱり天才には敵わないよ。凄い天才だな。流石天才」
「当然だ。俺様は天才だからな」
《ここまでくると、いっそ清々しいですねえ》
弟兎はしみじみした感じで笑っていた。同感だった。
ケイはそんな清々しい男に会うために、わざわざ喫茶店に来ていた。というのも、今度のケイの仕事は電脳世界関係で、彼レベルの物でしか造れないプログラムがあったからだ。
しかし、現実人ならまだしも、この情報化社会にIT屋が直に会うとは珍しい事である。普通はケイと駄弁っていた優男の様に、電子上で事を済ますのが大体である。なおその会う理由とは、単にたまには茶でもしながら駄弁ろうかという程度である。
兎も角、彼は褒められた事を否定せず、しかし一つ付け加える。
「まあ、そのウイルスを造った奴に心当たりがあるからな。対応は楽だった」
「ふん? それは一体誰なんだ?」
「個人情報を言うのは趣味じゃないが……そうだな、『僕様』とかいう変わった奴だ」
「あ、解った。解りました。大変よく」ケイは眼を逸らして苦笑いした。血は争えないという奴か。インストールも終わったので、ケイはお会計を済ませる事にする。「ま、兎も角、これで今回の任務も達成できそうだ」
「オンラインゲームに潜んだ界異生物の捕獲、だったか。電子生物とは、流石異界者だな」
「全くだ。しかしそれならデジタル技術の方も流れ石だ。何もかもどんどん進化していく。もうそろそろ、どんな事件や謎々も、部屋の中で完結するような時代が来るかもしれん」
「『安楽椅子探偵』か。物語は走ってこそ華だと思うが、まあ、今や戦争をロボットで済ませたり、電子的友人を何人も造ったり、己の情報を電子化したり、作家はおろか読者までもロボットで済ます場所もあるくらいだからな。そういうのもSFとしてはありだろう。だが同時に、ソレだけ技術が発達しても何故か俺達はまだ機械に何もかもを任せる気にはなっていない。不思議なものだ。何千億と開発途上国に金を掛けても、何故か全く発展しないくらいの不思議さだ。まあそんな所は援助貴族が中身を抜いてるか企業がODAを消化して儲けているだけか募金豚になっているだけかもしれないが……ま、皮肉は兎も角。全てが機械で統制された『完全世界』の日は来ない。人の欲求に限度がないというワケではない。『Sygdommen til Døden』という奴だよ。来る前に、人は生きる事に飽いてるさ」
そう思わないか?、とでもいう様に青年はニヤリとした。ケイは肩をすくめて応えた。その答えは解らない。解るのは、その時が来た時だけだ。
だからその問いに対する応えは、肩をすくめるのみ。ケイは女の子に電子貨幣で支払い、女の子は――案の定、機械操作でパニくった。この前に現金で支払うとお金をぶちまけて皆でオロオロと小銭を探す羽目になったので今度は電子でと思ったのだが……幾ら技術が進歩しても、それを使う者が進歩しなければ意味ないよなあ、とつくづく思った。
「あーあ、マジ使えねえな灰泥何とか。あのままA∴O∴もぶっ壊しちまえよ」
何処ぞと知れぬ街並みで、学校の帰宅途中と思われる少年がそう言った。その台詞に続いて後の二人も「誰だよアレ倒した奴。解ってねーよな」「俺の親父も食ってくれればよかったのに。毎日酒飲んでバッカでよお」「もっと祭りになると思ったんだが、あんがい呆気なかったよなあ」「やっぱ花火はもっと派手に……」などと言う。
そんな三人組に近寄る影が在った。黒い、というより光がない。しかもその影の主は何処にも居ない。ただ影だけが在った。それは絶えず姿を変え、沼地が泡立つような音を立てる。ぐじゅり、ぐじゅり、と足音の様に。その音に少年達は気付いた。ソレが何者かは解らない。だが「何かヤバい」と言う、奇妙な確信が其処には在った。しかし振り返るわけにはいかなかった。ホラー映画における「見るなのタブー」。振り返ってしまえば、革新が現実になってしまいそうで……。
しかしそもそも此処は現実。恐怖とは何時だって、己の勝手など知らずに手を掛ける。生温かい灰泥が肩にべちゃりと垂らされた。
『Oh pitiful shadow lost in the darkness, Bringing torment and pain to others, Oh damned soul wallowing in your sin...』
同時にぞわぞわと寒気のする冷やっこい灰泥が足元から身体を這いあがる。蛞蝓の様な、百足の様な、芋虫の様な、そんな原始的恐怖、嫌悪感。それは逃れられない運命であり、故に地獄から来た少女は、死に際に発する様な高い声で彼等にこう語るのだ。
『Perhaps... it is time to die?』
「「「ギャアアアアアアアアアqwせdrftgyふじこlp;@」」」
少年達は弾かれた様に灰泥から飛び出した。眼と口と鼻と下の穴から色々な汁を出しながら、振り返る事はない。それでいい少年達よ。若さとは、振り向かない事さ。
(なんちゃって)能面でチロリと舌を出してみる。(こういう事をしている所をケイに見られると、恐らくあの人はこう言うだろう。「お前のパパは自分から喧嘩売ったんだぞ。逆切れしてどーすんよ」とか、「餓鬼の小言くらいサラッと受け流してこそ大人だよ」とか、それか「虱を潰すのなら情報ツールを使うのが今時だ」、か)
アニアは両手から泥々と灰泥を出しながらそう思った。他の者達が物珍しそうに見ているので、そさくさと零した覆水を盆に返すように灰泥を身体に仕舞い込む。
たまには一人で散歩しようと思って外に出たら、しょっぱなからこんな事をしてしまった。海の星の優しいお姉さんからあまり泥人形である様な事をするのはお勧めしないと言われたのに。怒られるだろうか。
(あの人は怒ると恐い)初めて怒られた時を思い出す。あの人が暴力を使う事は滅多にない。しかし使うとなったら初対面の者にも容赦しない。それが厳しさであり優しさでもあった。今時珍しい、本気で殴られる人だった。(それよりもお腹減った( ―_―) =ω)
しかしその思い出はカップ麺の汁と消えた。昨日見た夢を忘れるように。彼はボーっとした奴だった。そんな事よりご飯だ。確か此処ら辺にケイが教えてくれた、飲むと切手の出る銀河コーヒーなるものを始め、木の汁のお湯割りとレモンで作ったマヨネーズを使ったサンドイッチを指す喫茶店が在ったような無かったいような……と、アニアがきょろきょろ歩いていると――ふと眼が吸い込まれた。眼の端、無意識の地平面、電磁波にも似た、ふと何かに気付く振り向き方。眼が合った。
その心を何にたとえよう。ネットサーフィンから散見されたヴォキャブラリーで例えるなら、「父の隠していた『制服コレクション~青春の輝き編~』なるXXX本モノを発掘してしまった」瞬間と言えばいいか、「自分に付けられた名前が父の好きなアニメキャラまたは好きだったクラスメイトから取られたものだと知ったしまった」瞬間と言えばいいか、まあそれはともかく。
一目見て気が付いた。アレが私の――
「ぎゃああああああドッペルゲンガアアアアア▲〇*@※#¥℃$%&――ッ!!?」
うるさい。
~少女移動中・・・・・・(なぅろぉでぃんぐちゅぅなぅ)~
「むむう……。灰泥界異を見てまさかと思ったけど、したりとは。あの莫迦親父め……お前は本当、努力の仕方を間違っちょる」手の平サイズのデジカメと肩から下げられるボストンバックを持った女性がそう言った。服装からするに学生らしいが、高校生、いや大学生か。「しかしてその正体は、写真家なのだ。個人的趣味だけど」とカメラを此方に見せて、照れたように笑って言う。「しっかし、よく出来てますねえ。何処を切り取ってもチャーミー&ビューティフル。本当に私にそっくりだ。いや見た目は『ちょっと似てるかな?』っていう程度だけどね、何て言うかね、雰囲気とか仕草とか、面影というものがね、本当、私の若い頃にそっくり……って今も若いわっ!」ビシッ、とセルフツッコミをした。かしましい婦人である。「あーいや、そういうワケでは……単にあがってるだけよ。『負』に対する『正』方向の人見知りというか……」
つまり、そういう事だった。泥人形にとって彼女とは、つまりそういう事だった。
「しかし、こんなのが街に一杯いるかと思うと、恥ずかしいやら、恐いやら……あ、えーと、気に触ったらごめんなさい」
一人と一者は喫茶店の外に置かれた椅子に座って話していた。机には、一人の方には冷たいアイスコォヒィとホットドッグ。甘味料は一切無し。一者の方には木の汁のお湯割りとレモンで作ったマヨネーズを使ったサンドイッチ。一者は「ほう……」と興味深げに琥珀色の液体を見つめ、一口すすってみた。味は……何と、ほとんどお湯だった。えー、これそういう……。しかしアニアは甘い物が苦手である。メープルシロップであれば今ごろ嘔吐いていただろう。
「何時かやるとは思ってたけど、まさか本当にやるとはなあ」
カラカラとストローで氷を混ぜる。困った顔である。しかし、何処かそれは親が子に対するソレである。「またか」とでもいうような。そんな顔を見て、アニアはこう言う。
てっきり死んでるかと思ってました。
「何でよ」
いえ、パパがそんな感じの事を言ってましたから。
「『パパ』ぁ? あーいや、そこは問題じゃ……えー、そういう設定になってるのか。違うよ。そんな不幸な悲劇じゃないよ。真相はこう。何でもアリになったこの舞台でハタと気付く、自分の力量という奴を。それにすっかり父は腑抜けになり、それに母はそれにキレて『しゃんとしないと顔も見たくありません!』とビンタして家出して、私もそれに付いてった。で、その結果があの灰泥界異、という名の自暴自棄……多分、そんな所」
何かどっかで聞いた事ある設定です。知り合いの超能力少女の義兄が確かそんな……。
「まあ、そういうものでしょ。ある物語を奇抜や独創的といえるのは、それしか知らないからに過ぎないわ。兎も角、死んでる娘を甦らす的な噺ではありません」
まあパパと目合ったのでそこら辺の諸事情は知ってましたがね。
「ま、『まぐわう』!?」
何故、体温を上昇させ動悸を速めるのですか? 貧困な語彙から意味の近い言葉を表記したのですが、何か問題ありましたか? なら言い変えます、互いに食べ合ったのです。
「『食べ合う』!? ……もしかして、ワザとやってる?」
不可解です。その「ワザと」さえもインプットされた性格の可能性がある故に。
「……どのみち、帰結される式は『FATHER=HENTAI』、か」
そう言って彼女は「ヤレヤレ全く」とでも言う様に目を伏せ、首を傾げ、息を付いた。だがそこに不快な気持はまるでなかった。その実、彼女は父の事を嫌ってはいなかった。その母もまた。彼女等がアレに対する気持ちとは、元気だけが取り柄の、困難を知りつつなお走り回る莫迦な男の子に対するソレであった。強い女達であった。と、そこへ、
――BBBBBB……
彼女のポケットから振動が聴こえた。携帯が呼んでいるようである。彼女は「あ、ちょっとタイム、いいかな?」と言って携帯を取り出し、耳に当てた。腕輪や耳当てや脳内ではない、今時珍しい手に持つタイプの携帯だった。しかも二枚貝の様にパカパカ開閉する奴である。「『やーああいう最新鋭の奴もクールだけど、こう何て言うかね、例えば恋人の待ち合わせ、彼を待っている間に携帯をイジってて、彼が来たらふと眼を上げてパタンと蓋を閉じる、そういう一連の動作がね、何か良くないと思わない?』とか何とか言ってた。恋人居た事ないくせに『何言ってんだコイツ』って思った」……とは彼女の友達の談。
「はい、そうです。ええ、ええ、えー……先輩、貴方疲れてるんですよ。先輩はすぐ何事もオカルトと混ぜて――どうでもいいんかい――あー、もうその台詞は効き飽きましたよ。『人は月を目指し、火星を目指し、木星を目指す。それと同じだ。今の神が足らねば別の神を探すのみ。超能力や魔術が日常に成れば、それはもはや『超』でも『魔』でも何でもないのだ。故に我々は今、新たな不思議を望むのだッ!』でしょ? まー私もお年頃ですから、そーゆー非行少年チックな事に憧れたりしますけどねえ。けどそれは頭でっかちに巨視的に見るからそうなワケであって、偏差値の低い高校や中小企業を下らないと――いや、同じですよ、隣の芝生は青く見えるっていうのと、『サイコガン』の漫画見た事無いんですか?『スリルにみちた生活をしている時は平凡な生活を望み、いざ平凡な生活を続けてみるとこんどはスリリングな世界にあこがれる』んだぜ? そしてその二つは同時に描けない。それが物語の現界です――はあ、えっ、あの【黒金】が? まあ最近のネットゲームは難しいですからねえ。というかリアルとは勝手が違って……何、しかもRPGよろしくのパズルで『・・・・うおお? こ、これは・・・・ロバート得意の『押せるけど引けない箱』だぜっ! ううむ、こいつは頭を使うぜっ!』って言われて『んなもんやってられるかクソッタレーッ!』ってキレて中央突破しようとした結果バグ扱いされて凍結処理? あはは、ないわー。で、それを観光しに行くんですか? それとも引っ掻き回しに? はい、はい、私も? 今からですか? えーと……」と言って、彼女はアニアを見た。アニアは「わざわざ訊かなくてもいいですよ」とでも言う様に手の平を出した。「そう。あ、そうですか、解りました。じゃあ今から向かいます。『マルエ・トランキュイリタティス』サーバーの『ホランド』エリアですね、解りました。え? ああ、解ってますよ。『基地』と『墓地』なんて間違えませんって。はい、サーヨー」そう言って通話を切り、パタンと蓋を閉じた。「じゃあ、そういうワケで、いきなりだけどゴメンね、これから寄る所があるから、此処でお別れに成るけど……」
構いません。今日はお話できて良かったです。
「良い子だね。それとも単にフラットなだけかな? おっと、自分に都合の良い女を良い子扱いする男はバッドだぜい? でも、コッチも会えて良かったよ。そうだ、アドレス交換しておく? 見た目は旧式だけど、機能は他のと変わらないよ」
携帯ですか。ケイに買って貰ったのがあります――そう言って、アニアは「にゅるっ」と萌芽させる様に携帯を生やした。何やらミニチュアのアニアが手の平に現れる――はい、どうぞ。コレに電波を飛ばすなり画像を見せるなりしてください。
「はあ、じゃあ、この四次元コードを……」
と、言って彼女の携帯から空中に正六面体の図像を投影を出した。四次元コードとは、「縦」「横」「奥」の立体と「色」の四相からなるコードである。他にも「音」「香」「時」など高次元のコードや単純に面数を増やしたコードもあり、言うまでもなく従来の一次元や二次元(QR)と比べて格段に格納できる情報量が多い……が、正直、ここまで格納量を増やしてもそこまで格納したい情報もそんなになく、ただただ技術だけが先行し、造ったのは人間族であるが需要があり使いこなしているのは専ら異界者であるという、ある意味、人間族にはやや「持て余し気味な技術」なのが実情である。人が技術を造るのか、技術が人を造るのか……閑話休題。
……はい、大変よく出来ました。――と、ミニアニア略してミニアはサムズアップした。
「OK.じゃ、また会ったらお話しましょ?」
会う、とは何時、何処で、何の為に、どうやって?
「友達には予定も機会も目的も要らないのさ」そう言って、彼女は残りのホットドックとアイスコォヒィを片付けて、財布からお金を取り出しテーブルに置いて、ボストンバックを肩に下げて立ち上がり、「それじゃ、また。Star be with you. バイニュ~」
そう言って、ひらひらと手を蝶のように振って、人混みの中に消えて行った。アニアはその蝶が消えるまで、ひらひらと羽根を振り返していた。と、ふとお金を見ると、その金額はどうやら彼女の分と自分の分の両方が在った。どうやら奢ってもらったらしい。
(友達、か)どちらかと言えば家族になると思うのだけど……まあ、「友達」という楽し気な響きが気に入ったので、アニアは彼女を友達とする事にした。(色々な人がいるものだ。何時も礼儀正しいミティカも、お姉さんに成ったら、あんな風に垢ぬけた女性になるのだろうか。……でも、それでもやっぱりあの人は、ここぞという時で失敗しそう)
そう思いながら、木の汁をまた一口飲んだ。やはりお湯である。このしてやられた感は自動販売機で水を買ったあの時に似ている。というか、アレはどういう需要で売られているのだろう。解らない。しかしまあ、雰囲気という者がこの世にはある。映画は映画館で見てこそ映画である。ならばこの木の汁も楽しもうと思えば、楽しめるか。観念論でも、二元論でもあるまいが、まあ、世の中というのは往々にしてそういうものかもしれない。
この世界に楽しい事はない。あるとすれば、ソレを楽しいと感じられるか、感じられないか。この世界がフザケタ舞台だとするのなら、自分達は誰かを笑わせている勝てるはずだ……そう、レモンマヨネーズのサンドイッチをなむりながら思った。
ってうわこのサンドイッチ凄い美味い。木の汁と一緒に食べたらサンドイッチのレモンの酸味が木の汁の仄かな甘さを引き立てて成程木の汁のお湯割りはこのサンドイッチと一緒に食べる事で真価を発揮て「甘さを引き立てて?」ごはあ。
このアニアという子の身体は流動体。その心は無軌道。何か良い事っぽい感想文は、木の汁の汁と消えた。昨日見た夢の様に。そして今、私は、思っています……明日からも、こうして、生きていくのだろうと。
それでは次週、マグロ、御期待ください。サヨナラ、サヨナラ、サヨ☆ナラ……わすれないでね、ともにすごしたひびを、いつまでも――FAREWELL!
――――舞台外 終…………But you know, a new story would bring them a new stage…"Aber das ist eine andere Geschichte und soll ein andermal erzählt werden."




