彼等はこうして舞台で踊る ―The Sleeping Swan Nutcracker―
第伍幕 第壱場『彼等はこうして舞台で踊る ―The Sleeping Swan Nutcracker―』
時はもうすぐ。場所はもうそば。役者は二つ、小道具は一つ。人間、ナニか、愚者の石。誰も見ぬ舞台で会話する。
「おはよう、『我が麗しの貴婦人(My Fair Lady)』。天使の卵。象牙の子よ。今まで生み出したのは全部で41。そしてお前で42。先に生まれた兄姉も存分に育っている事だろう。丁度、愚者の石も尽きた。時間だ。さあ、『愚者の行進(When The Fools Go Marching In)』を始めよう。最後の幕を上げるとしよう。拍手は幾らか。野次は幾らか。精々莫迦に踊ろうではないか。何、既に舞台は道化ばかり。今さら指を刺されても構うかよ」
男はそう笑った。それは楽しむようでもあり、己を嘲り皮肉るようでもあった。ソレを見る子どもは、起きたばかり故に眠たげだが、それでも親のマネをしてみたくって、
「そうですね、お父様」
そう、可愛らしく、にへらと笑った。
《Fipo fipo satel ser. Ehtiw fipo satel ser(馬が馬が駆けて行くよ 白い馬が駆けて行く).
Wid Ehtiwid tyel zilurl (鳥よ 白い鳥よ 伝えておくれ あの山を)
Brout loredy tu armo(越えて愛しいあの娘まで)
Derleno rethlu, cresfilo shalian, aerao laerlum arat tut fi kinc,(夜の天幕 月の照明 風の音楽に乗って星が降る時)
Ha vido firen. Ha vido firen.(私も此処で踊っている 私も此処で踊っている)》
何時か再び会えたなら 貴女の日々を歌ってくれ 私はそれに合わせて踊ってみよう
例え姿形が変わろうとも この歌と踊りとは 何時までも変わる事は無く 例え忘れる事に嘆いても 嘆きもまた想い出なれば
歌え 踊れ 全ては廻り星の様に
この世に愛などというモノは無く この世に幸というモノはない あるのは心 あるいは貴女 それを感じる私達
故にこの愛と幸は永遠に
軽快で楽しい音に詩が載って街を踊る。これはウェンリーの故郷辺りの古い言葉で「Arwevar:『(促す意味で)さあ』『楽しもう』」といった意味を語源とする「Arvalim」という音楽である。原始的な音楽で、その音楽は調子も歌詞も即興である。故に現在進行形で曲に歌詞を、歌詞に曲を入れるため、慣れない者にはとてもとても難しい。だが別に難しく考えなくとも良い。力を抜き、流れに任せ、頭に浮かんだ言葉と調べを紡いでいけば、不思議とコレが合ってくるのだ。まるで以心伝心、あるいは自分の思った通りに世界が動いてくれるように、はたまた世界が少しだけ自分に優しくなってくれた様に。そうなるともう、すとんとハマった時の心地良さは最高であり、まさしくその時だけの歌が出来上がり、皆で造る一体感は素晴らしく、観客もまたその世界を受け入れて、まるで辺りを一切の楽、自分達の世界を構築していくようで、これ以上ノれる音楽もそうそうない。――異界書房刊『私の愛したモノ達・音楽編・Ⅶ』より抜粋。
その調子は何処となく地中海やケルトンに似ており、弦楽器と打楽器が軽快なステップを生み出している。いえごめんなさい、偏見です。弦楽器主体で軽快に使えばどれもケルトに聴こえると言う偏聴です。けどやっぱり異国情緒ってステキな響き。何か、こう、良いですね。民族舞踏ってノリノリになれます。
私は目と耳と閉じ口を塞いで生きて行こうと思いました
もうこの世界とお別れしようと思いました
けれどもそうするとアナタともお別れしないといけないから
それは哀しい事だと思いましたから
それだけをもって私は今も此処にいようと思うのです
因みに、ここでいう「アナタ」とは誰か特定の単一の「アナタ」ではなく、不特定多数、或いは全世界に対するものと解釈される。所で愛の詩は天多あれど、大体はそれってどれも誰か「個人」に対するものですよねえ。そうじゃなくて何か、「世界中の皆、愛してるZEッ!」なロックな詩がもっとあってもいいと思います。閑話休題。
路上演舞をやっていた。ウェンリーがENGLISHでもJAPANISEでもない故郷の言葉で歌いながら、身体一杯を使って踊り意思を表現する。而して激しく艶めかしく地面を打つ足は、何処かフラメンコに似ている。腕や脚を振る度に、腕輪の様に付けた鈴が鳴る。頭帯も髪紐も解いた髪が身体に添って流れる。衣装も引き締まった身体が生える締まった服に、動きの生える花弁の様なギザギザ外套だ。その横で流夜もまた踊る。しなやかで滑らかな動き。両手を上げて脚を曲げる。回転し飛び跳ねる様は鹿のような足取りで、それでいて静と動を知っている動きはエレガントだ。衣装は和国を思わせる長い振袖で、動きは繊細ながらダイナミック、しかし色撒く香りは艶やかだ。それに道化師よろしく仮面で顔を隠しているのだから、神秘的な妖精だ。それをアルルカは弦を弓弾き演出している。その大きな図体とは相反して、その奏でる音は軽やかだ。お遊びがありながらもそれは教養あるお遊びであり、此処が公的な儀式の場なら厳かな音楽もやるだろう、という事が音楽の知識のある者には予想できる。そしてそんな三者をリィラは遠目に見つめていた。壁際で手を手を後ろで組みながら、楽しそうな顔で笑っている。見よ、前方に平和の図がある。誰か知らぬが、のどかに街に踊っては笑い興じている。声がここまで聞えて来る。負けた。これは、いいことだ。そうなければ、いけないのだ。かれらの勝利は、また私のあすの出発にも、光を与える。
我等は道化。浅ましき者が着く最後の場所。何も持たず、故に失わず、何者にも囚われない。顔は見るな、仮面を見ろ。彼等は軽い、己の形を留めて置けない程に、雲がそうである様に。我等は神さえ笑い、人を笑わす。神を忘れさせる程に。
あや、そんな長い装飾語は無用か。「楽しい!」、それが伝わればそれでいい。「それでいい」? いや、それは還元主義さ。「~に過ぎない」などはただの思考停止に過ぎず、完成とはただの妥協だ。思考し続けていれば何処までもいける。例えば物語が、何でもいいから書いていれば続いて行くように。だが、今はただ楽しもう。今は、まだ。神の肉と血で飼われる羊の様に。国と力と栄えとは、限りなく汝のものなればなり。彼等のプレイも好調だ。オーディエンスの熱狂は恐いくらいだ。まだ俺達の時代は始まったばかりだ。そんなメッセージが彼等の口から飛び出していく。本物のMUSICが、此処にあるのだ。
そうやって踊ったり歌ったり奏でたりする見て笑っている者は彼等達だけでない。何処からか集まって来たのか、猫は俊敏さを生かして高く跳び、花たちは身体を揺らして歌を歌い、鉱物は身体を叩いて音を奏で、よく解らない物体がそれを見てワッと手を叩く。これぞ異類交流。歌と踊は世界共通か? 否、はっきり言おう、それは違う。歌と踊が嫌いな種族だって巨万といる。けれども、まあ、今は、彼等の楽しい顔に免じて許してくれ。
で、何でこうなってるかと言うと。暇潰しというか何となくノリでウェンリーが踊ろうと提案し、アルルカと流夜が悪ノリした感じである。それが彼等の平常運転だ。リィラはちょっとその無軌道さについて行けず離れてしまったが、今は楽しくそれを見ている。
曲調は思いついたように変わって行き、ヒップホップなブレイクからハードボイルドなタップ、エレクトロテクノなアニメーション、殺す気マンマンなカポエイラ、電子ドラッグなテクノトランス、果ては「技術論理」が「星明かりの空」で「チェケラ」し、「貴方だけ」にナイトコアし、「凛と咲く花」のように和ロックが奏でられる。いや、特に流夜と呼ばれる演舞は最高だったね。侍魂! 着物! 振袖! 白拍子! 芸者! 三味線! 傾奇! 迫力満点。でも凄い綺麗。静かに動悸が速まるっていうの? ドキドキする。動きがもう何かキレッキレ。眼力が凄い。アレに見つめられたら男も女もイチコロだね。「踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らな損々」。噂に聴く大和の「ウズメ」や「オクニ」もあんな感じなのかね? いやあ何に対してもそうだけど、極めた者っていうのは美しいねえ。刀剣の様だ。可愛い女の子がね、可愛く踊ってもツマランのですよ。CUTEよりBEAUTEに。「ビシッ!」と決める手足の動き。花ではなく華の輝き。カッコいいなあ、たまらんですよ、シビれるね。ありゃプロじゃないかなあ……と、後にそれを見た人が満足そうに熱く語っていて、私も生で見たかっと言うのが、後で聴いた感想です。※劇場内での携帯の電源はご遠慮ください。デジタル画面越しではこの熱さは伝わりません。ただし突然のフラッシュモブは歓迎します。選りすぐりの後方支援が貴方を十二分に魅せましょう(語り:NO MORE 映画○棒)。……と、そんな流夜が踊りの輪から抜け出してきた。
あぁ、集中力が続かない。最近、遊んでばかりいたからなあ。真剣と書いてマジと呼ぶ顔をするのは疲れます。「熱い!」と思いっきり叫びたい。勿論、そんなのは無粋だ。だらしない。「Dignity, Always Dignity」。雨ニモマケズ風ニモマケズ、役者たる者、常に優雅たれ。本当にカッコいいものは、水が滴ってもカッコいい役者なのだ。と、リィラさんだ。
「やあ、リィラ。どうだい、俺はカッコいいかい?」
「ええ、カッコいいですよ、流夜さん。とても綺麗です」
「GOOD、それは上々ですぜ」
そう言って、流夜はリィラの隣で背を壁に預けた。少し疲れた。しかし汗を一つもかいていない。そこはやはり、やはり……何だろう、役者かな?
「あの二人、何時もあんな感じなんですか?」
「そだね。会えば何時も莫迦やってるよ。だからコッチは何時も止める役でさ」その言葉を聴いて、流夜が応える。しかも何時ものヤンチャじゃなくて、真面目でクールな歳上を気取っている。だから先の言葉も嘘である。本当は一緒に莫迦やってる。「闘う時もさ、ほら、あの子武器造るの得意ジャン? それで一緒になって闘って、街壊したりねー」
「あー、はは」容易に想像できます、というふうに苦笑いする。この前なんて何かの漫画で見たらしい圧力鍋地雷造ってたし。「そうですか。ふーん、知り合い多いなあ」
「者付き合い苦手?」
「はあ、まあ、他者の顔見るの苦手で、ほとんど名前と顔が一致しなくて、それにこの国は『目を合わせない=不誠実=信頼できない』って文化があって色々と勘違いされて……」
「『金髪は莫迦』、みたいな? ははあ、それは御愁傷。それでいてこの国のレッテル業者はどーもこの国が世界の中心だと地で信じてる所があるから困ったもんだ。文化衝突は、どの場所もどの時代もあるものだなあ。けれど言われる内が華ってものさ。『星の数ほど 女はあれど 月と見るのは 主ばかり』」
「はあ、詩ですか。なら私はこう返します。『薔薇も牡丹も 枯れれば一つ 花であれこそ 分け隔て』。そりゃあ、自分なんかエルフっていう有名種族に似てますから、ちやほやされる事はされますが、その分、宗教関係で割と世知辛い仕打ちを受ける事もありまして。勿論、宗教にも色々宗派が在って、皆が皆ではないですけど、でもやっぱり、色々と……」
「ははあ、成程。嫌われるのが恐いと」
「えっ、いや、別にそんな事は……」
「いやいや、苦手なことくらい誰だってあるさ。そう恥ずかしがらなくていい。むしろ苦手な事の一つや二つあった方が、愛嬌があるというものさ」
「でも、上手くやりたいです。そうすれば、世界ともっと良く付き合える気がするから」
「けれど実際はその逆。出来る事が増えれば増える程、世界との折り合いはつけ難い。知らなくていいのにね、この世界の何処かで戦争がある事、食べ物の無い国がある事、自分が一つ幸せになる度に何処かの誰かが一つ不幸になってる事。知らなければ、こんなに幸せな事はない。幸福とは、迷わぬ事。畢竟、一般人の目標とは『吾唯知足』、満足できるか否であって、それ以上、例えば世界平和や滅亡で悩むのは『唯我独尊』、英雄の幸福論さね。普通の餌を貰う子羊は、何も悩まず愛の歌を歌えばいい。天多ある音楽が歌う「あなた」の様に。恋を歌って、愛を奏でて、腰を振るように踊ってろ……おっと、少しオゲレツだったかな。
だが、嘘だとは思わない。『生命、宇宙、そして万物についての究極の疑問の答え』――それは『問わない』。宇宙開闢の状態がそれだ。無、それだ。羊の様に、或いは奴隷の様に、安らかなる者、或いは余裕の無い者は、哲学をしない。不幸に疑問しない。悩まないという事が、『ほんとうの幸』であるのだ」
「でも、何が『ただしいみち』か解りませんから。それに歩く道くらい自分で選びたいですから。それに知れば知るだけ、想い出が彩ります。違いがあるとすれば、それは白と虹の違い程。……必ずしも、出来上がる絵が素晴らしいとは言えませんが」
「『人生は意味だ、願望じゃない』、か。まるでバブルが崩壊した後の様な、或いはプロパガンダの様な、切羽詰まった考え方だ。しかしそれもまた上々。『それもまた』、か……自身の無い台詞だ。それが本当の幸福であると認めるのは、誰かの幸福を否定せねばならないだろうに。ましてや許容など、それは隙間があるよ言う事で、ならば完璧な幸福ではないのだ……だが、究極の疑問を問う己自身が曖昧では、どうにも……だが、いずれにせよ、『それもまた』、としておこう。個人主義を社会主義的に押し付けて来る者に惑わされる、倒錯的な人生よりは。『Life can be wonderful if you’re not afraid of it. All it takes is courage, imagination… and a little dough』だ」
「お金はあればあるだけ良いと思います。詩で心は膨れても、詭弁で腹は膨れない。難病にかかってもうだめだとか、借金地獄でもうだめだとか、交通事故でもうだめだとか、原発吹っ飛んでもうだめだとか、そういう物理的な悲劇は同じく物理的な喜劇じゃないと救えないのでは? 気分次第ではないんです。少なくとも震災現場に入った事も無いのに『頑張れ!』なんて歌われるくらいなら、偽善でも利用でも資本主義でも権力の犬でもいいので状況を良くして欲しい所です。それこそ精神的な気前の良い事や何時かの幸福を言うのは聖人の幸福論。一般の人は、ましてや難民は、物理的な今日の白いパンとワインを望むのではないでしょうか。今日日、お金が無いのを誤魔化して『清貧』など流行りませんよ」
「あっはっは、リアリスティックなエルフさんだ。経験論?」
「私はマシな方ですよ。見た目が曲りなりにも宜しゅう御座いますノデ。大祭害により色々なモノがこの世界に漂流しました。けれども見た目が化物な者でも、元の世界では英雄だった人もいたでしょう。しかし彼等は倒された。類まれた運動能力も心から愛する神様も、火薬と銃で呆気なく。『Look for it only in books, for it is no more than a dream remembered, a Civilization gone with the wind』――何事も消えて逝く。朝日の様に、夜月の様に、この国の先住民の様に。或いは西洋剣術の様に。かつての恐竜の様に。そして何時かのロボットの様に」
「『illegal Immigrants MUST go back home!』って?」
「けれどもそれを哀しむ事は無いのです。仕方のない事なのです。我等は皆が寝静まった夜に一人、星を客に、風を詩に、月をスポットライトに踊る束の間の影法師。愚者の役者。子供のころ何時か見た彗星を追っていく。光の先にある闇を目指し。そしてその夢が終わればまた別の夢を追う。星座を繋ぐように、何処までも。夢は目的地ではなく、目的地への燃料に過ぎない。其処だけに立ち止まってはいられない。己の故郷の場所を見失い、旅立った由縁を忘れ、目的地など無くとも、ソレが何が解らずとも、ソレが素晴らしいものだと信じて、神に祈る様に――
大祭害など、ソレと同じですよ。やってる事は大して変わりません。大きいか小さいかの違いです。それを奇抜だと言うのなら、それは世界が狭いのです。世界史や物理学を紐解けば、派手な戦争映画なんかより、ずっとリアルでトラトラな事実がそこに在ります。
「あっ、あー。それは頭でっかちな見方だぜ? 例え井の中の蛙でも、大会の鯨でも、それがその者の世界の全てならやはり同じ『世界』だ。神がそうである様にね。見知らぬ百億の命より、たった一の我が子の命の方が大切な人だっている。そしてそれは、世界が狭いとか、広いとか、そういう噺じゃない……少なくとも、旧人の見方じゃね」
「それはそうですが……けど、戦争映画を語る者の、実にどれほどがメテオの強さや兵器の恐ろしさを、確かな数値で語れる者がいるだろうか。いやいない。精々、感動するか怒るだけ。それだって一過性。だから何時まで経っても成長しない。表面だけ解ったふり。同じようなラブソングが流行する。気付かずに操られるプロパガンダと同じだ。而して皮肉な事に、それ故に、悩まぬ故に、今日のハンバーガーも美味しいのだ」
「皮肉屋だなあ。意外と毒舌だ」
「う……。周りの人が元気過ぎるのがいけないんです。私が殊更、毒なワケでは……ゴニョゴニョ」と、リィラは少し自分を恥じる。そんな野蛮な考えを。しかしそうやって恥じるという事は、この街の人を嘲る事と同意であり、そんな事は海の星の考えと反し、しかしそもそも自分如きにあの人の叡智は解らない……嗚呼、ジレンマ。「けど、本当、凄いなあ、って思います。私の知らない人が、色々いるんだなあ、って」
「そういうもんさ。『All the world's a stage.』、俺達は何処にいようとそれなりに相応しい役をやっていく。而して同時に、舞台は俺達が居なくたって勝手に始まり勝手に終るものでもある。しかしそれでも、立ち止まればそれでいいのに。一番を目指さなくとも生きていける。そして大体はそれでいいし、一番だから良いというワケでもない。だが莫迦な奴は、ソレ以外に生きる動機付けが出来ないんだな。燃える事が生命のエネルギーなのだ。そして俺もまた……。だから魅せ付けてやるのさ、無視できないくらいに、輝いて」
だから自分は刃を振るう。「彼」の見たい、最高の己を魅せ付ける為に。己の行動原理はただソレのみ。他の難しい事はその次だ。今は解らない事ばかりだけど、信じるこの道を突き進むだけさ。だから己はあの大きな背中を追いかけるのだ。今はまだ、その光の影にいるだけで精一杯だが。何時かは前に跳び出して、この私の姿を――
リィラはソレを聴いて、「そうですか」と相づちを打つ。
「私は、そういうのは理解しにくいかな。つまり、『やらなきゃいけない!』って思う生き方が。世間から離れた森の生活は、私が生きていたあの世界は、そこでぼんやり生きていければそれで良いという世界でしたから。丁度、光に照らされる、花の様に」
リィラは思い出す、あの人の台詞を。「見ろよ、あの月を、あの星の輝きを。俺達がどれほど幸福になろうが、世の中がどれほど絶望しようが、あの星々の位置を1ミリだって変えられまい。そういう事に、俺は安心するんだ」――何時かそう言っていた、兄の台詞を。
(「God's in his heaven. All's right with the world」)何時の間にか頭に入っていた言葉を思い出す。誰が言ったのか知らないし、ソレが全文かも解らない。(或いは、「いいえ、飛とんだってどこへ行ったって野はらはお日さんのひかりでいっぱいですよ。ぼくたちばらばらになろうたって、どこかのたまり水の上に落おちようたって、お日さんちゃんと見ていらっしゃるんですよ」……幸福の定義がどれだけ時代と場所で変わろうと、ソレを望む心は変わらない。それこそが、人の願う……)
そして自分など、その天多輝く星の一つの、天多天多の生きる命の一つに過ぎない。ましてや自分はこの世界で大きな事をしようとは思わないし、出来るともあまり思わない。望むのならば、その日その日を楽しめれば、それで……。と、そんな事を考えていると、流夜が「えー?」とニヤリとする。
「ウェンリットからは上京してきた田舎人よろしく現界に来てとてもはしゃいでたって聴くけど?」
「それは世を忍ぶ仮の姿! 本当はビックリして『はわわ』してただけのあわてんぼうですっ!」果たしてそれは誤魔化しになっているのかいないのか、あ、いえ、本当の事でしたね。「ま、まあ、こんなごちゃ混ぜの世界じゃあ、驚くのも仕様がないかと」
「あはは。そだねー」そう流夜はからからと笑った。同意だとでもいうように。「ま、別にいいんじゃない? うわ『別にいい』だって。何だソレ無責任かよ。しかしまあ、誰もが少年漫画の主人公じゃあるまい。確固たる信念もなく、大体は何となく生きて行くのさ。生きていくだけで良い、至言だね。むしろソレ以外を目指さなくちゃ価値を見出せない、満足できない方が無粋なのかも。ま、取り敢えず何かを言って置けば舞台は進む。者が語れば、嫌でも物語は進むのだから。本当の終わりは、もう何も語れなく……」
そこで、流夜は言葉を止めた。其処で止めるのは失敗だったと流夜は思ったが、リィラに不思議に思って声をかけられる前に、「リィーラぁー!」、リィラが声かけられた。
「リィラも何か踊ってよ! こういうの、得意でしょ?」
ウェンリーがそう言った。相変わらず何も知らない花のように笑ってら。その様は天使の様で、或いは崖の先で踊る愚者の様で。
コッチを見ながら踊っていると、身体が傾いて転げ落ちてしまいそうだったけど、何も言わないで、黙ってやらせておいた。子供っていうのは、仮に駆け出そうものなら、それをやらせておくより仕方なくて、何にも言っちゃいけないんだ。落ちる時は落ちるんだけど、何か言っちゃいけないんだよ。本当を言うと、大声で叫びたいくらいだったな。それほど幸福な気持だったんだ。なぜだか、それはわかんない。ただ、彼女が、星色の衣装やなんかを着て、ぐるぐる、ぐるぐる、回りつづけている姿が、無性にきれいに見えただけだ。全く、あれは君にも見せたかったよ。
憧愛、世の中にこれ以上語るべき事が在らんや? そうだとも。どれだけ小難しい事を並べたって、きっと、俺達が最後に辿り着く場所ってのは、こんななのだ。チクショウ、なんて綺麗な世界なんだ。ああ、なんて綺麗なんだろう。どれ程の長大な台詞も、努力も、勝利も、夢も、希望も、一人の無垢な少女の笑顔には、決して敵いやしな……だが、哀しいかな。其処で止まれないから、「走る者」なのさ。或いは、その美しさ故に……それを聴いて、リィラよりも早く、流夜が言った。
「『じゃあ、行っておいで――僕はここのベンチにいるから。君を見ててあげる』。回るがいい。青い小鳥の様に、木馬の様に、或いは世界の様に、星の様に」
そんな気取った台詞を言って、ニヤリとした。その台詞に、リィラは苦笑する。
「その台詞じゃあ、貴方は白い部屋に入れられますよ?」
「ふっ、それが昔の物書きの、一種のステータスなのだ。今の物書きは現実との乖離が足らん。ちょっとお茶目するだけで厨二病だなんて言っちゃうんだからな。ああいう奴等の世界の狭さには困ったもんだよ。世の中には、もっと変な奴がいるんだぜ?」
「えー」
「冗談冗談。さあ、兎も角、言っておいで。笑っておいで。私もそれを見て笑うから」
流夜はそうニヤリとした。リィラはその言葉に台詞で応えず、困ったように、だが可笑しそうに笑って応え、輪の中に入って行った。
それと同時に打ち合わせたかのように音楽が転調。白星族ときたら妖精を文字って「Valse des fleurs」か「Les Sylphides」か、それとも幻想的な「The Dying Swan」か、「menuet」でも「Farandole」でもいい。え、どれも悲劇だって? やだなあ、気のせいですよ。下二つなんて種類名ですしゲームの方ですよ。美女に悲劇なんて求めてませんよ。女性は目を輝かせるのに限りますから。まあ、だから愛の後の転落が映えるのであり桜の花が落ちるスピードは秒速五センチ……とまあ茶番は兎角、どんな優雅なフォークダンスをやるのかな……と思いきや、アップテンポでノリの良い調子は変わらない。しかもこの曲調は……ジャズ? 何故そこでジャズ?「3,2,1… Let's jam」と合図をし「銃と薔薇」の歌が「サンバ・テンペラード」ばりにステップを踏む。しかも微妙にフュージョン風味。上手い、様に成ってる。キュートよりビューティに。美人は何をしてもカッコキレイ。エルフにジャズか。まさに異類交流。
「楽しいね。いや本当、楽しいものだ。明日を嘆かず、現在を妬まず、過去を悔やまず、歌って踊って毎日を過ごせれば、これ程に素晴らしいモノもそうないだろねえ」
流夜はそんな舞台を見て、そう小さく笑った。勿論、流夜は知っている。それは「ほんとうの幸」の一つに過ぎない。何を望み、何を望まぬかは者それぞれ。少なくとも、現在の、此処は。そして何より、幾ら楽しくても、楽しい事ばかりでは、やがて飽いてしまう事も知っている。例え夢の様な物語でも。だから者は常に夢見る。新しい夢を。違う夢を。自分の夢を。何度も天幕を掛ける夜の様に。それが素晴らしい事だと信じて。あるいは虚無と忘却から逃げるように。しかし、しかし、しかし……。
「『朝来夢見し 酔いもせず』。今の此の舞台は、既に夢。これはさながら起きながらにして見る白き夢。眼を開いて見る夢。物語が現実になってしまったこの舞台。はてさて、人はこの『眠らない街』で何を夢見えるのだろうか」
神秘のベールは取り払われ、秘密は日の下に晒された。娘の衣服は取り払われ、柔らかな肉が知らされる。「神の不在」は否定され、「妖精の不可視」は否定され、「人間の特別性」は否定され、かつての「幻想の信仰」は無くなった。はたして、これは妖怪や妖精が権利と自由を得たと喜ぶべきか、それとも幻想と夢が現実と成ってしまったと怒るべきか、神が地に落ちたと哀しむべきか、人が天を目指す事を楽しむべきか。その答えは余りに煩雑として一重に言えない。けれども、
と、ふと、けれども、と、流夜は宙を見上げた。蒼い空。
けれども、、こんな世界になっても空は蒼い。朝は明るくて、風や水は気持ち良くて、「雨上がりの夜空」には星が瞬く。それだけで、「上を向いて歩こう」と思える流夜だった。
そして、
(……?)それでもやはり、夢を見る者がいる。夢の中で夢を見る、「デイ・ドリーム・ビリーバー」が。何かに気付いて流夜はアルルカに眼をやる。カポエイラしているアルルカも既に気付いており、流夜に頷く。そしてその隙をつかれて、頬にウェンリーの「正義の鉄拳」を叩き込まれる。趣旨変わってるぞ君達。(全く持って救えない。全く持って、バカばっかりだ。俺も、お前も。だが、世界を廻す者とは、そういう者か。応ともよ。「莫迦にされる」か、「莫迦たる」か。役者の違いは、そこだけだ。だがな、覚えて置け、お前等ばかりが役者だと思うなよ)
そうニヤリと笑い、流夜の腕が「刃散リ!」と照明した。
《以上、「宇宙人を乗せた少年の空飛ぶ自転車が飛ぶ鳥を落とす勢いの野鳥保護の会に落とされた事件」でした。次のCMの後は異界あるあるシリーズ。今回は「人外のおにゃのこ好きさん」が送る「ゾンビあるある」をお送りします。ガーターベルトがエロい花嫁ゾンビや寝不足スッピンなカサカサ肌、隣人が尋ねてきたと思ったら齧られちゃったというDOUTEIの夢を撃ち砕く金髪お姉さん。いや、むしろ齧りたい(?)健全小学生(故)が続々登場。助けて映倫。中でも面白いのが服の乱れたゾンビ化した女子高生をかくまってゾンビになった無職の男性が感染したのですがその経路が何と男性の恥ぶふぅっ! あ、しつれいしま、いや、ちょ、あかん、ツボった、ぶはっ! 駄目だこれちょっち止めピ―――――― ~都合によりティファニーで音楽をお楽しみください~》
「##%;```;@――p=pd\\アアア|::*///…!!」「これくらいどうって事ないですよ」「072-633-5566」「それくらい警察でやってくれますよ?」「(。ω。)_(:3 )∠ 」_ \(゜ロ\)? (/ロ゜)/?^ o^/」「そうですね。手を差し伸べてくれれば助けるけど、それが出来ない者もいる。これだからお節介は難しい」「b3o99=-2m」「いや、どういたしまして」「フレクナククナミマコ」「えっあー、握手はいいです。その言葉だけで……え、文化? 礼儀? 伝統? そう。じゃ、まあ、えー、はい」
ケイはそう言ってて差し出した。すると相手はその手を握った。少し痛かった。
「では、Have a good one。貴方と家族に、温かな陽のあたる場所がありますよう」そう言って、ケイと相手は分かれた。相手が見えなくなったと同時に、社交辞令な愛想笑いがふっと嘘の様に消え去る。「やれやれ、蝿人と握手するのは流石に勇気がいるな」ところで蝿がよく手足をこするのは何故か知っていますか? アレはグルーミングと言われる行動で、その効果は衛生及び身体機能を保つためやフェロモン分布、栄養摂取など多彩です。蝿の場合、壁や天井に張り付くために手足を清潔にするんですね。で、そのグルーミングはしばしば舐めて唾液で行われるわけで、まあ蝿ともなるとばい菌が一杯で、そんな人蝿に握手されるのは常識が行方不明の握手会いやでも蝿人っどうなんだろやっぱ蝿の本能ってあるのかな解らない僕には解らない蝿と人が一つだと今の僕には理解できないアーイン「それにγ方面のマイナー種族は訛りがきつくてよー解らん。早急に世界語的言語が望まれる」道を教えるだけでも一苦労だ。超能力者なら精心感応で言語の境界もこえられるのだろうか。「お前はどうなんだ? 俺の言ってること解ってんのか?」
――?
「全く、可愛い顔してりゃ許されると思ってからに」そう、ケイは棒状のホシフルイを回しながらアノンを見た。アノンはぐったり猫を持ち上げていた。上半身を掴んで持ち上げるとスリンキーのように伸びた。「面白いか、それ?」
そうケイが訊くとアノンは振り向き、能面でこくりと肯いた。
ぐったり猫は別名「たれねこ」とか「モチ猫」とか呼ばれ普段は普通の猫とそう変わらないが伸ばすと異様にびろーんと伸びる。歳を取るほどびろーんとして老猫などそれはもう凄いびろーんぷりで高層ビルからびろーんしても地面に足が付く。その愛らしさから女学生には大変人気があるとか飲み込むと喉に詰まらせて大変危険だとか何処を斬っても金太郎飴みたいに同じ顔が生えるだとか時速120kmの大型トラックにぶつけても物ともしないとか血圧管理がどーなってるか不思議だとか。常日頃ぐったりしており動いている所や食べてる所などは見られず彼等にとってはナマケモノでさえハタラキモノだ。研究では光合成で生活してるとか何とか言われ「PLANT CAT」とか呼ばれる。しかし一番驚くべき事はこんなにも無防備なのに死骸や天敵が見られないという事でありにもかかわらず絶対数が増えすぎるという事はなく――異界書房刊『私の知らない野生動物・Ⅲ』より抜粋。
《死者300名にも上る事故でしたが、内200名は自動復活、内70名は初めから死亡、内30名は蘇生されたようで、結果的に死者は0でした。ただ蘇生された30名は著しく人格や記憶に障害があり病院はちょっとしたバイオハザード状態に……》
ケイは街角の階段に座って、ホシフルイ彼から流れて来るラジオをぼんやりと聴いていた。灰泥に関する記述は無い。今まで合ったので三十件、路花の義兄の件のような大粒を除くと十二件、だがそれらはほとんど現場に行く前に解決されているか、無邪気な邪気がほとんどで、アノンの様に無害そうな奴もいれば、逆に尻に敷かれている奴もいた。
何だか空振りな気分。まるでゴドーを待っている気分である。あるいは自分って本当に必要なの?、という気分。これどーなんでしょうね。物語の主人公は何だかいっつも一生懸命だけど、他の人が解決するだろうとは考えないのだろうか。それとも自分が居なきゃ始まらないと思っているのか。果たしてそれは責任感? それともナルシー?
「ま、そんな事はどうでもいい」ガリッ、とケイはロリポップを噛んだ。「理由も無しにやる人助けじゃない。仕事なんだ。言われたからやるだけさ。しかし、このまま探してて黒幕に会えるのかねえ。部下を出すだけ出しといて、己は引っ込んだままか。莫迦をする割りには、中々に用心深い」
ケイは地面にしゃがみ込み、頬を腕に当てた。息を深く吸って、深く吸う。身体の空気が入れ替えられる。さて、一休みしたら次は何処へ行こう……と考えていると、何時の間にかアノンがケイの隣でしゃがんでいた。しゃがんでケイの眼をジッと伺う。
「だからあまり見るなというに」ケイはそう言い、アノンの髪に手を伸ばして、こめかみをぐりぐりやる。するとアノンもまた、ケイの髪に手を伸ばしてきた。「何だ、またマネっこか? 最近ひどぉ俺のマネするようになったな。それも灰泥の学習能力か?」
そう言いながらアノンの髪をぐしぐしとやると、アノンが立ち上がった。怒ったか?、と思ったがそうではなく、ケイの背中に圧し掛かって来た。同時にケイはピクリと構える。
「おまけにやたらくっつくし。可愛さアピールか? かまってか? 全く、可愛い奴め。いいな、お前、惚れそうだ。あー本当に可愛い。可愛い可愛い。滅茶苦茶可愛い」
が、それ以上の動きは無かった。というのもアノンが何か仕掛けてくると思ったのだが、ただ乗っかって来ただけだった。ケイは心にもない事を言いながらホシフルイでアノンの頭をポクポク叩いた。それに、アノンがとても重いと構えたのだが、予想以上に見た目通りの重さだった。これでも結構な重量のものを喰っている(喰わせている)はずだが、質量さえも操作可能なのだろうか。全く、何てデタラメな……。まあ尤も、その不可思議を問うにはこの世界はあまりに不可解、というかズサンだが。
「小さい子が何かに触れるという事はとても大切な事です。それはそれに触れている自分に触れる事であり、つまり自分自身を確かめる重要な過程なのです。何かそんな感じのを『鏡像段階論』で言ってたような無かったような」
「ほー。じゃあこうやってコイツが俺の頭をベシベシ叩いて来るのは幼児の感覚運動期のいわゆる循環反応という奴ですか?」
「あるいはそうかもしれませんね。ある種の行動を繰り返すことによって、世界との関係を造り上げて行くのです。子どもというのは凄いですね。誰も教えていないのに、貪欲なまでに社会との関わり方を学んで行く」
「しかし何時かは馴化していく。慣れていく。生まれたばかりの無知の脳はどんな言語にも反応し、どんな言語でも学んでいくが、しかし大人になるにつれて、そのような能力は失われていく。果たしてそれは成長なのか、退化なのか」
「もしかしたら泥人形というのは、ずっと幼児なのかもしれませんね」
「『永遠の少女(pie in the sky)』か。絵に描いたような彼女は空から落ちてきた……中々に詩的なボーイ蜜GIRLじゃないか。仕上げにクリームを入れて大人味だ」
「それ『スー☆サイド』じゃないですかね?」
「だが何度も言っているが、今の時代、容姿なんて児戯に等しい。コイツが見た目通りのガキとは限らんし、この手の化物は見た目と中身は一致しないからな?」
「えー? でも子どもみたいにくっついてきて可愛いじゃないですか」
「自己主張激しいこの国じゃソレはどーだかね。女性に『お人形さんみたい』とか言ったらダブルラリアット食らうぞ(個人差があります)」
「アノンちゃんはそんな事しませんよ。きっと優しく抱き付かせてくれるはずです」
「いや『Alien Nine』みたいに強制共生するつもりなのかもしれんぞ。それか隙を見て俺を喰うつもりなのかも。確か『Shadow Star』という漫画があってだな……」
「ソレ全滅エンドじゃないですかヤダー。せめてあの睡眠導入剤みたいな『マテリアルフェアリー』の方がまだマシです」
「それかなり貶してね?」
「そんな事はっ! ……やー、明らかに異常な事が起こっているのにテンションは盛り上げる気一切なしの逆にシュールな空気感は好き何ですけどねえ。アニメとしては……」
「お前は『灰羽』とか『ARIA』とか好きそうだな」
「ヤー。けど私は『バナナ魚』や『皇国ガーディアン』や『ファイアーバード』や『PROPHECY』や『スラダン』や『デュアルスピカ』や『グラップラー』や『NHK』や『おざなり』や『めぞん』や『イコ』や『ワンダ』や『ポポロ』も好きですよ。PCゲーなら『交響曲の雨』、Web漫画なら『セガチュー』ですかねえ。あの素材の多さと調理の仕方には、いやあプロって味ですなあ。普通に物語も面白いですし……うーん、余白が足りない。語る程に物足りなさを感じて行くのは、いやはや攻略本の境地ですかな? 況や、名台詞を書き出すおや。たった一行や二行程度じゃあ、その物の本質は語れません。漫画や小説の面白さを語るなら、況や技術の美味さを語るなら、今の流行だけでなく、せめて単発でも一千万部以上売れた奴くらいは読まないといけませんよね。それも十カ所くらいの国に十人くらいの訳者に翻訳されるくらいの世界的に有名な奴。何だかんだ言って、売れたという事は世界に認められたのと同義ですから。映画ならせめて『AFI映画ベスト100』とかのランキングを五週くらいはしないと」
「まあそうだな。最近の耳学問な神話ネタゲームも、大学レポートよろしくなウィキペディア知識じゃなくちゃんと出展元の文献を読むくらい……、え、五週、五週ですか? うーん、人生にはもっと外に色々な事があると思いますよ?」
「世の中には物語が多すぎます。飽和してます」
「あーそれはある。いやマジで。ホントマジだ。けど、ジャンル滅茶苦茶だなあ、お前」
「勧めてくれる人達が節操ないものですから。フリゲやウェブゲも面白いですよね。『輝けぬ金色』や『夜の騎士』や『廃都の』や『まもも』や『汁増え井戸』や『螺穿孔魔王』や『エイプリルフール』や『エンジェルのうつわ』や『月夜に響く』や『洞窟』や『ひよこ』や『夜明け』や『タオル』や『コープス』や『パール』や『盗賊』や『海賊』や『らんダン』や『ナルキ』やら。学校の友達集めて『僕と契約してマジカロイドになってよ!』とかしてみたいですねえ。ただし難易度ベリーイージーで。ハッ、ソシャゲで、仮想現実で入手したクリーチャーを複合現実に召喚して闘わせたり自分と合体変身して別のプレイヤーと闘うって設定のゲームを思いついた!」
「残念。そういうのもうあるんですよ」
「マジでか。最近の世界は進んでるなあ。あー、後は『あやかし』や『G線上』や『神咒神威』や『装甲悪鬼』や『本当の愛』や『憎悪の空より来たりて云々』やらも好きですね」
「おっと、R指定ゲームが入っているが大丈夫か?」
「えっ、そんなのありませんでしたよ?(ニッコリ)」
「ランナーに年齢制限はない(汗)。しかし、他によって己を確かめる、ね。ある鏡像論曰く、『生まれたての幼児は自分の姿を知らない。鏡を見た時、初めてコレが自分だと知るのである。つまり人は誰しも、「己以外のナニカ」を持って己の姿を知るのである。それは姿だけでなく意識もまた同じ事。父や母といった他者を鏡として、「他者に対しての自分」を造り上げていくのである』……とか何とか。その点において、『Cogito ergo sum』はありえない。他が在らなければ、自もまた在りえないのだから。
後、因みに何度も言ってるけど、者の年齢は見た眼じゃ解りませんよ? コイツはこんな成りしてるが実際はとてもおじいさんかもしれないし、有機生命体かもよく解らん。逆に灰泥界異を考えるなら、数えでも1歳に満たないかもしれない」
「ケイ素生物という奴ですね解ります。けど子どもでなくとも触れ合いはとても大切です」
「『心地良い肌の暖かさも刺激である以上実は痛みで、辛い時と一緒で傷付いている。誰かと付き合うという事は、そういう事なのだろう』」
「ケイさんの手は冷たいですねー。身体が冷たい人は、心が温かいそうですよ?」
「そりゃそうだろうな。俺の身体には星が燃えてるから」
「ははー、それはさぞ綺麗な心でしょうね。触りたくなるのも無理ないです」
と、そこに『Qoo』とそこに聴き慣れた効果音。
「何だ、また腹減ったのか? 三時間前に食ったばかりじゃないか。燃費悪いなあ」ケイはアノンを乗せたまま肩をすくめた。次いで辺り見渡し、長細い芋虫を見つけ、「ほれ、このモンゴリアン・デス・ワームなんてどうだ? 良い色じゃないか」そう言ってケイがアノンに差し出すと、アノンが口を広げる。慌てて芋虫を引っ込める。「冗談よ。まー食事はもうちょい我慢しろ。何なら料理でもしてやろう。これでも結構、上手いんだぜ? けど今は、コレでも食べてな」ロリポップをアノンの口に入れた。入れつつ、しかしまあ凄い悪食だ、と独り言つ。何でも食べる。石ころでもそこら辺の草でも虫何でも。しまいにゃ自分の指まで食い出すんじゃないかこりゃあ。それは消化の問題だけではない。免疫とは自己と非自己を分ける一つの要因であり、故に外からのものはあらゆるものを異物として排除する。しかしこれが経口摂取と成ると、不思議と身体に取り込まれる。このような働きは、未だに謎が多い。しかし彼の泥人形はまるで全身が口であるかのように対象を摂取する。しかも拒否反応が起こらない。「抗う力」ではなく「容する力」。第二世代の奴等ならまだしも、自分達の様な一世代以下には受け入れがたい方向性だな。「作り方はこうだ。先ずはバターでフライパンを熱し、その上に中心をくりぬいた食パンを乗せる。くり抜いた中に卵、ハム、チーズを乗せ、くりぬいたパンで蓋をする。後はこんがり焼いて塩コショウでもかけたら出来上がりだ。生卵が潰れていいなら、フライパンで押し潰すと平たくなって食べやすいぞ。とにかく簡単なのが売りだな。どうだ、美味そうか?」
と訊いても返事らしい返事はしない。アノンはケイに乗っかった当初の目的を忘れた様に、びろーんとケイの背中で伸びていた。それを見てケイはまた肩をすくめる。懐かれるのは悪い気はしないが、疲れるのとソレは別問題。アットホームな空気は、どーもねえ。せめてボディランゲージより声でランゲージしてほしいものだ。恋に焦がれて鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が何とやら……って恋はしないよ。喋らないキャラに恋い焦がれるのは、アレだ、ミロのヴィーナス効果だ。シントースピリットだ。勝手に可愛くしてんじゃねえ。
(ある程度のコミュしか取れないし、未だに名前も解らない。もしかしてそもそもないのか? せめて親許が解れば、灰泥界異にも近づけるのかもしれないが……)
見た目通りでないと解っていても、子どもに無理やりどーこーするのは気が引ける。情というものだ。路花の感応も効かんし。
アノンを見る限りそうたいした知力はなさそうだが、コチラのいう事をある程度理解している。コレが良からぬ欲望を持った者に渡ればいいように使われるのは想像に容易い。それこそ犬や猫の様な愛玩動物にも、黙って言う事を聴くミート奴隷にも、強くて頼もしい相方にも。ソレは対象に好まれる容姿へと化ける事により保護欲さえも湧き上がらせる。男にとっちゃ文字通り降って湧いたヒロインだ。望まないわけないさ、そーいう性的に所有できて、自分に無条件の承認と必要をくれる誰かを
(それとも逆か?)
例え今は愚者であれ、順当に成長して行けばすぐに飼い主を上回るだろう。その許容量は並の存在の比ではない。相手に取り入る事によって、その下で知性や技術を吸収する。様々な者に取り入る事によってその多様性を獲得し、互いを取り込める性質によりそれらを一体化させる事も可能。「自分の力ではなく、相手の力で物事を成す」、それは古今東西時代を問わずよくやられた手段だが、生き方としてそれをやるとは。何より恐ろしいのはその呆気なさ。何年も何年も努力の結晶を、呆気なく横から掠め取っていく。過程は要らない。結果など既に持っているものから奪えばいい。「魔法のコンピューター」の様に、「全ての贈り物のバッテリー」の様に。超能力や魔術といった「才能」で喰っていく奴等にとっては皮肉な噺だ。……全く、良く出来た作品だな。
(まるで寄生生物だな。『Parasyte』か? 人間論は異界者にゃ受けが良いが。いや例えるなら『Needle』か。落ちものであれ以上に古い作品を俺は知らん)
ラブクラフトの『狂気の山脈にて』にもそんな奴いたなあ、とぼんやり思う。やれやれ、物語とはかくも……。
だがこの子がケイに牙をむくようなそぶりはない。むしろとても従順だ、コチラのいう事を理解するのならばだが。しかしこれは日常でもある事だ。例えば人に飼われる犬、DOG、アレは一対一なら普通に犬の方が強いだろう。しかし彼らは人間に対してよく従い命令の下に置かれる事で安穏を得る。アレの心境は一体どういうものなのだろうか。何時か徒党を組んで反逆しに来るんじゃなかろうか。
「などと思考実験してみたり」幾ら考えても実験の域を出ない。その時にならなければ解らないのだ。ケイは観念したように空を見上げた。「で? ゆんゆんきたか電波娘?」
「えー?」電波じゃないですサイコですー……アレ? と言いながら路花はもう一度意識を集中させて右人差し指を空に向ける。波数良、深度良、明度可、感度優秀、指向度不可、定度もっと不可……うーん、波が混線して気持ち悪い。急に感度悪くなったなあ。「『Moon river, wider than a mile. I'm crossing you in style some day~♪』」
なんて歌を歌いながら、今日も今日とて路花は灰泥人形を探索していた。その様はまるでフライング・ヒューマノイド。鉄の翼も無く、機械の駆動音も無く、その身を動かす事も無く、路花は何もない空に浮いていた。そこでは反重力装置だってひっくり返る。
(そりゃ、何らか理論はあるんでしょうがね。数値を弄ってTVゲームのキャラを浮かせるように。全く、反則だな)
いや果たしてそれは飛んでいると、浮いていると言えるのか。揚力でも浮力でも、質量操作でも磁力操作でも重力操作でもありはしない。その身体には如何なる力学的作用が見当たらない。ましてや面に衝突するという現象を拒絶しているワケでもありはしない。余剰次元からひもで吊るされているのでなければ、特定の質量中に方向性を持った分子運動面を造ってもいない。力点と作用点との間に、彼女と彼女以外との間に何ら空間的変動は見られない。少なくともホシフルイはそのような作用を観測しない。
だというのに宙に居るのだ。「飛べるから飛べるのだ」とでもいうように。この時点で、世の物理学者は三つに分けられる。興奮するか、無視するか、その他諸々。そして今現在ソレをぼんやりと眺めている彼はというと、そう言う姿を見ていると、思わずため息をするような疲れを覚える。何でかって? だってそうだろ?
あの子は軽々と空を飛ぶ。たった一人の力で、誰の手も借りずに。人がどれだけ頑張ったって、飛行機で精一杯だったというのに。世の中には、手前が七回生まれ変わったって出来ないであろうことを、たったの三分でやってのける奴がいる。そして、あの子はその類だ。ああいうのを見てると、本当、莫迦莫迦しくなってくる。何がって? そりゃ決まってる。マジメに生きる事がだよ。「天才とは、99%の努力を無にする1%のひらめきの事である」っていう奴だよ。まるで報われないレベル上げさ。上限が違うんだ。土台から違うんだ。持たざる者はどれだけの時間と金を積んだって、あんな風に飛べやしな――
(バーカ)ケイはかぶりをふった。(あんなガキに嫉妬してどーすんよ)
そんな自虐はとうに卒業した。どうして出来ないかではなく、重要なのは、ならばどうやるか、だ。ケイは軽く笑って路花に言う。
「早くしろよー」
「しますよー」
「でないと空飛ぶリードシクティス的何かに喰われるぞー」
「えー?」「白鯨(Moby-Dick)」だったら会ってみたいですけどねー。決して征服されぬ雄々しき自然の象徴……彼になら食べられてもいい(うっとり)。ピノッキオになるのはムムムですが。そう言えば、最近、雲の鯨が異世界から来て世界中をふわふわ飛んでるそうですね。私はまだ会った事ないですが……空飛ぶ雲の鯨って憧れちゃいます。その上に古代のお城や都市なんかあったりしたらもう――なんて路花は一人キャッキャする。「異界の生物は凄いですねえ。コッラの世界が霞んじゃいます」
「『異なる』とは対象との境界があって初めて生まれる。根源的には原子の塊である人と獣との違いは何? はたまた『異なる』とは対象と見比べて初めて生まれる。ならばこの世界こそを対象とするなら、むしろ異界なのは昔のあの頃?」
「それは言葉遊びでは?」
「どうかな? 海を渡った事のない奴らにとっては海の向こうは異界だっただろう。今回はそれが世界の向こうだっただけ。宇宙の神秘だって1%も解けちゃいないんだ。そー考えると、何でも小さく思えてくる。いやそもそも本当に『異世界』などあったのか。ソレは初めからこの世界に在ったのではないか。混入したのではなくただ気付いただけではないのか。頓痴気な観測至上主義で実証主義な量子力学の様に、この蒼い星が『丸い』と言われて初めて丸くなった様に、あるいは並行世界が一つになっただけかもしれない」
「『シュレディンガーの猫』的な?『何処にでも無く何処にでも在る』的な。浪漫ですねー」
「あの人はそれに反論したんだけどな。あの論理は色々な人の解釈があります。
『確率で決まるぜ』派がボルン。『多世界とか並行世界とかがあるんだよ』派がエヴェレット。『生きてるし死んでるよ』派がコペンハーゲン。『箱を開けた瞬間に運命石の扉の選択のうんぬんが世界線と波動関数の収束がどうこうして』派がノイマン。『神はサイコロを振らない』がアインシュタイン。『そもそも『死』って何さ』派がウィトゲンシュタイン。『実は俺達も箱の中』派が釈迦の手の上。『世界の未来は既にプログラムされているんだよ!(ナ、ナンダッテー!』派がマトリックス。『我思う、ゆえに猫あり』派がデカルト。『死は生の一部である』派がノルウェイの森。『そうだ、猫に訊こう』派がドリトル先生。『ナンセンス(嘲笑』派が意味の過剰による逆説的無意味文学。『面白ければいい(ドン!』派が少年ジャンプ。『別にどうでもいよ。俺の世界には関係ないし、そんな事より明日の就職試験の方が問題だよ』派が一般人。
んで『ぬこの生死が俺達に関係する訳ないじゃんバーカwwwm9(^д^)プギャー』って皮肉ったのがシュレーディンガー。しかしそう言ったら本丸の物理学者も大真面目に考えだしてこれにはシュレちゃんも苦笑い(/デェェェェン\)、ってのがこの噺のオチ。結局、あの人は『『1+1=3』って事もあるっちゃあるよねー』的な事をマジで言いだした頓痴気物理学会に嫌気がさして物理学を止めましたとさ、って噺。何か孫引きする奴らのせいでエバーやボロンやコパンと同じ『何でもアリ論理』みたいに勘違いされてるけど。新手の『フランケンシュタイン・コンプレックス』ですかね。これも『オリジナルなきコピー』という奴か。寂しい事だ。つーか、観測至上主義とか実証主義とか不確定性理論とか、それ本気で言ってるんですかねえ? まるでその結果が人の努力ではなく偶然の結果だとでもいうみたいに。『科学は現代の宗教』、いやまさに。神様を無意識に信じていたあの牧歌的な優しい時代に逆行してるんじゃないかと……。どーでもいいけどシュレディンガーってシュレッダーとかレーヴァテインとかと名前似てなくない?」
「本当にどーでもいくてワロタ。あ、でもアレって、実際には『剣』とか『槍』とか『肝臓』とか言われてないの適当に姿を描かれてる当たり、噺は同じ事かもしれませんね」
「まさに『変身』だな。神話化する科学だ。神は何処にでも潜んでいる。神秘そのものが神なれば、光の先には常に闇が在る様に……否定される事さえも神の意志か?『神は死んだ』という台詞さえも神にとっては織り込み済みか」
「『ラピュタは滅びぬ、何度でもよみがえるさ、ラピュタの力こそ人類の夢だからだ!』。深い台詞ですね。GOSHは有意識と無意識を繰り返す螺旋階段。曖昧故に無限大?」
「まあ聖書なんてルサンチマンの自己満足拭きのティッシュだけどな。嫌いじゃないけど。それに都合の良い設定を創りやすいし、致し方ないのかもしれませんがね。そして何にでも因果関係を見出したがるのが呪術的思考であり、名前だけが一人歩きしているのが物語であり、笑う猫がチェシャであり、笑われるのが物理学であり、開けてみるまで解らないのがチョコレート箱なのである」
「でも超能力はそんな大層なものじゃないと思いますけどねえ。だってこの世界には大祭害前から凄いものが一杯あるんですから。蜘蛛は糸吐いて、蝶は一回溶けて、宇宙の神秘は未だに無限です。一昔前は飛行機だってあり得なかったし、万有引力だって初めはオカルト扱いされましたし、けれども今が在るんです。超能力だってそんなものですよ。何時かは当たり前になっていきます。そしてまた別の何か凄い事に驚きます。繰り返しではありませんよ? 星の様に回りながら、手の届く範囲を広げるのです。まるで事象の地平面の様に。ジュール・ナントカさんは『人間が想像できる事は、人間が必ず実現できる事だけだ』って言いますし……あれ、少し違うな、これじゃウィトゲンシュタインだ、まあ兎に角、それを言うなら、生きてる事自体がファンタジーですよ」
「そんな事言い始めたら何もかもがファンタジーだ。だが出来ない奴らにとっちゃ眼に見えて甘い葡萄なんだぜ? 他が欲して認める手前の力を、あまり無意味と言ってやるなよ」
「でも、超能力者だから威張るのは、なんか偉そーじゃないですか?」
「別に? ま、そーゆー嫉妬野郎もいるけどな。でもそりゃ先天性か後天性の違いだろ。むしろ努力を礼賛して結果はどーでもいーとかいう奴の方が俺はヤだね」
「ふふん、そー言って私の事が羨ましーくせに、とか何とか言ってみたりして」
「精神感応か?」
「いえ、心理学です(コロコロ……(行為判定は1d100+「心理学」値で判定(目標値90以上で成功(一般人の目標値は25(で、その結果……↓」
「ほーか。なら、言ってろ」と、ケイは肩をすくめた。その顔は何時も通り飄々として、路花には何を考えているか解らない。「けど、本当、それはまさに夢の力だ。あらゆる可能性を秘めた単一の可能態は観測される事によって無限の現実態と変身する……それは実証主義と自然学のごちゃ混ぜか?」
「あはは、それは凄い設定ですね。でもどんな設定を言われても、私には解らないですよ。生まれた時からずっとこうで、これが当然でしたから。ソレを否定する事は、ヤパーナ人が天皇を否定するくらい可笑しいです。そりゃ、解ろうとするのは愛ですけどね。でも、私にとってはやはりただの生体機能です。鳥だって空を飛ぶのに、そりゃ人間だって空くらい飛びますよ」
「お前は人が呼吸するのと超能力者が手も触れずに者を動かすのが同じだというのか?」
「『The foundation of psychic abilities is one's conviction.』」
「『天才とは無限の肯定』か。ありきたりだな。『ファルスとは、人間の全てを、全的に、一つ残さず肯定しやうとするものである。凡そ人間の現実に関する限りは、空想であれ、夢であれ、死であれ、怒りであれ、矛盾であれ、トンチンカンであれ、ムニャ/\であれ、何から何まで肯定しやうとするものである』ってか? 随分と曖昧だ。両腕を失ってはしゃぐ『ミロのヴィーナス』並みに曖昧だ。ヤパーナ人は無宗教と言いながら少年漫画で『人助けに意味はねえ』と喋る無意識の十字架教徒くらい曖昧だ」
「あのシーンって一巻のシーンと同じなんですよねえ。三周してやっと気付いた」
「だから何だよ」
「成長とは素晴らしいなって。まあ兎角、信じる事が曖昧だと言うのなら、人の存在自体が曖昧ですよ。誰だって心で物事を決めるのですよ? 信じる心は無限大! 気合と根性と確信とノリがあれば、割と大体の事は出来るはずです」
「そのメソッドで行けばガンギマリは奇跡がこの胸に溢れてアイキャンフライだな。大体、昔の人はマジで神様を信じてたんだ。それなのに神様は出なかった。そういう事だ。ましてや愛の歌を歌ってこの世から戦争が無くなれば苦労しネーヨ」
「う? んムし、ソレはアレですよ、平和を望む以上に戦争を望む力が強いという事です。この世の幸福に限りがあるのではごぜえません。幸福とはただの言葉、教科書など無いのです」
「救済のイメージを一つに出来ないだけだろ。一神教ならそれもできんじゃねーの?」
「けど神様云々は、歴史に伝わってないだけです。『本当は大祭害以前から魔術が在ったけど人間政府が隠していたのだ』なんていうメン・イン・ブラック的御伽噺のは現代でもある都市伝説じゃないですか。或いは、世界の確信に負けたのです。人が無数の細胞からできてるように、星だって無数の生物からできた生物です。星の常識に負けたのです。
人が夢見る様にこの星にも意識が在って超能力とはその意識に介入する技なのだ! という設定を今考えた。或いは実はこの世界はゲームの中で魔術とはそれにハッキングする術であるとか言う設定も可。第四の壁を突破する的な……」
「それなんて『マトリックス』? 或いは『ガイア理論』か、知ってると思うが『無意識で心は繋がってる』という意味の『集合的無意識』はオカルトだからな。アレの原義は『人の心の始まりは皆同じ』という噺だ。人ってのは、一つに成る事に憧れるよなあ。そして社会で生きて行く事によって色々な色に染まっていくのだなあ……」
「ああ、知ってます知ってます。ユングやフロイトの作った元型って奴ですよね。あれ甘くて美味しいですよねえ」
「うぜえ(笑)」
「笑顔で(泣)。でも私は原義の方がオカルティだと思いますけどねえ」
「何を『オシャンティー』みたいに」
「其れかアレですよ、並行世界では飛んでるんじゃないですかね? この世界がオンラインゲームではなく、据置の様な一つずつのソフトとしてあるのなら、主観では飛んでいて、客観では落ちてるという事に……あー、すみません、自分で言っておいて何言ってるかよく解りません」
「言いたい事は解るけどな。要するに、『many-worlds』を踏まえた『Cogito ergo sum』だろ? まあそんなゲームがあるとすれば物凄いとかいうレベルじゃない並列処理だがな。選択肢なんてアナログで無限に広がって行くというのに。頭おかしい。まあ『流れよ我が涙、と警官は言った』という奴もありますが」
「『トべよおおおおおおおおおおおおおおおおおお』!」
「と言って彼女は屋上から飛び降りましたとさ。目出たし目出たし」
「その時のスパイラルマターリで頭打った時に顕現したPSIが此方です。超能力というのは世界のバグなのだっ」
「そうなのか?」
「いやだから私は先天的異能者ですってば。何、『本当なら俺も飛んでみようかな』みたいに期待してるんですか。止めてくださいよね。最近、割とマジでそーゆー方、というか新興主教があるんですから。そしてケイさんと私はもう友達なんですから、死なれたら泣いちゃうぞっ!」
「お前が死んでも俺は泣かんけどな。そういう死亡イベントはリアルでもう慣れたし。忘れないではいてやるけど」
「ううん、忘れてもいいの。たまに思い出してくれれば、それで……或いはケイさんに『オーバーソウル』するから」
「お前の超能力どんだけチートなんだよ…」
「『ワシの超能力は百八式まであるぞ』。こんな能力など氷山の一角、大いなる樹の枝葉に過ぎん。アレですよ、積木やトランプの遊び方は無限大、的な。そういえば『つみきのいえ』とかいう映画がありましたよねえ。郷愁、懐古、あの頃――古今東西、何故、人はこうもノスタルジアに憧憬するのか。どれだけ人が進化しても、人には思い出す何時かが必要なのかもしれませんなあ」
「そうだな。異能は『進化』ではないのかもしれん。むしろ逆。積木がその原始性故に無限の可能性を持っている様に、全と一を同義として……まあ、今時には『異能者は振り向かない』という冗句があるけどな。彼奴等は往々にして刹那主義らしい」
「私は別にそうじゃないですけどね。『異議あり(Objection)!』です」
「因みにどーでもいいが、自分でネタ振って置いて『流れよ我が涙』って言って元ネタが解る人どれくらいいるのだろうな」
「どーでもいいなら話題を振るなー。そりゃあ、普通にいると思いますけど? SF文学賞の二大巨頭、ネビュラ賞の最終候補にまでいったのだから」
「(異能者(お前ら)の普通は普通じゃないとあれほどry)けど、最近の奴らはそういう文学賞も見ずして、物語を語るからなあ。たまには本物を見てみろと言いたい。おっと、アニメやゲームを軽視しているワケじゃないぞ? アレ等も多く賞に選ばれるからな」
「フィクションなのに本物とはこれ如何に……まあ、文字通りコウノトリが赤ちゃんを運んで来るのが今時ですけどねー」
「時に、お前の超能力の技名や使用法の発想源は皆そんな漫画とかゲームからなのか?」
「んム? うーん、皆が皆じゃないですけど、『今何時? そうね大体ねー』。ケイさんだって、頭でっかちに衒学する台詞は何処かの本や人からの台詞でしょ?」
「No way! そんなワケ……」
「けれども言葉は誰かによって学ぶもの。それは無意識の内に刻まれる……」
「ウッセーての。非現実族が学を語るな。『波動エンジン』使って『波動砲』でも撃ちそうな机上人が。因みにとある舞台の『ワープ・バブル方式』という瞬間移動は全宇宙の十倍のエネルギーが必要らしいぞ。まるで『ぼくのかんがえた』莫迦みたいな数値だな。つか莫迦だろ。そのエネルギーは何処から来てるのか。それも確信だと言うのか?」
「『わたしの戦闘力は530000です』。ほら、言葉にするならこんなに簡単」
「――――」
「そ、そんなに脱力しないでくださいよ。アレですよ、『人の言と書いて信』的な、信じる力は無限大というか……」
「いや、何だ……」
ケイは言葉に詰まった。脱力などしていない。呆気にとられたのだ。言った言葉にではない。ソレを言う態度にである。何時もコレだ。彼等は何時だって簡単に言う。
ケイは思わず顔をしかめた。初めてではない。これだけは慣れない。彼等は疑問しない。彼等はあまりに当然だ。「空が青い」とでも言うように「内角の和が360度の三角形」を語る。「赤い青」を、「丸い四角」を、「一匹の十匹」を、「世界中の黒い鴉」を、「永久機関バター猫」を、「周辺が合計10cmの正三角形」を、「無限」を、「無」を語る。言葉では描けよう、夢でさえ描けない事を。そして彼等にとって、現実は言葉の延長線に過ぎない。
「全く。お前ら第二世代にとっては、神でさえ信仰の対象足り得ないのかもしれないな。ただの隣人と同じならば。もはやそこには、神秘的な神格はありえない。ただの凄いスポーツ選手や俳優と同じだ」
「んム? それはどうでしょうか。物理化学はGOSHを殺したように見えますが、それは単にアインシュタインが神になっただけの事です。勝戦国の神が敗戦国のGOSHに取って代わるという、数多のMYTHが代々やって来た事をしただけです。故にこうやって大祭害が起こりGOSHに当たる者達が現実に現れても未だに宗教は無くならない。何故ならMYTHとは生命の主題、世界の見方、具現化した思想、自己であり拠り所あり羊水の海。人の数だけ『ほんとうの幸』があり、既存のGOSHが信仰の対象足り得ないなら別のGOSHを探すだけ。かくも人が月を目指し、火星を目指し、もっともっと先へ行くように。光の先には常に闇が在る様に、神秘そのものがGOSHなのです。妖精や精霊が日常に成れば、やはり別の非日常の妖精霊を見出すだけです。何故なら妖精霊とは、未知そのものなのだから。そう思わない人は、科学がGOSHを殺したとか、妖精霊が日常に成れば信仰足り得ないとか、一神教も多神教になるとか言ってますけどね。進化主義的には多神教が進化したものが一神教らしいですが。むしろそういう人達こそが現代の『無意識の宣教師』ですね。けど十字架教なら、全面的にGOSHを前に押し出さない宗派もあります。偶像信仰はイターンです。GOSHを胸の内に秘めるのです。本場で『Oh,my God!』と言う人は意外に少ないです。
そう、宗派があります。同じ国にも多様な民族がいる様に、一言に『詩』や『花』と言っても多様な色が在る様に。『GOSH』というのはただの言葉。少なくとも実際に見た事の無い人には言葉です。けれどもそれ故にGOSHは無限です。つまり信じれば何だってGOSHに成ります。我等には感知できない夢故に、GOSHは無垢なる永遠です。『何か大きな存在』です。ただそこには信仰が在るのみです。信仰とはGOSHです。宗教とは信念です。生命がデジタルな画一でなければ、GOSHは何時までも無限です。そういう意味では、政治家も俳優も偶像もGOSHを否定する己の正義もMYTHに変わりません。MYTHの数だけGOSHがあり、未分化の無垢なる透明の光が万華の光の相を持って初めて私達の眼に映る様に、その意味においてGOSHは多様な姿となり、此処に置いてGOSHは全知全能の全と一の根源無限の存在と成るのです。例え神が欠陥に見えようとも、神を捉える我々が欠陥であり、それは神の一欠片に過ぎないのです。
しかし、ならば見えない故に無限なのか? 両手を失った欠陥品の女神の様に? 応えは、YES! YES,YES,YES! ある意味でYES。何故ならばッ!『祈る』という動作そのものがGOSHでありGOSHの証明だからです。無に有を見出す事が祈りなれば、絶望に希望を見出すことが祈りなれば、神の姿形呼び名は問題ではありません、神も神も神も神も神も、皆、『願われる神(a Star You Wish upon)』なのです。神の真偽は別として『いたらいいな』と願望させる事が神の御力だからです。――というのも一つの宗教であり、なれば考え方に過ぎませぬが。むむむ。万能の神を見出すには、我も万能たらねばならぬか? 言葉はあまりに無力。言葉とは、所詮、思想を抽出したものに過ぎない、けれども、それ故に美しさが……でも……むう、無教養なものにも解るのが神だと言うのに、コレは些か……己の無力が哀しい。世界の全てを語るには、言葉はあまりに遅すぎる――いずれにせよ、信じる人にとってはソレが正義です。それを否定するのは救いが必要な時に手を差し伸べなかったくせに神様しか救ってくれなかった人を莫迦にしているただの無粋なイヤーンって事です。サンタを笑う大人ぶった子ども達は取り敢えず砂漠のキツネに『as perdu』の仕方を教えてもらいなさい。
……って友達のとてもとても神様好きのクリスマス・ナタレイアータシオンちゃんがアジってた。残念ながら意味はよく解りませんでしたが、熱意はありました」
「御演説、ありがとうございます。なら、私はこう申しましょう。だから、それを語る態度が『ソレ』なんだよ。文章の奇抜さではないんだ。見境なしに、明日の天気のように語ってしまう、お前の態度が『ソウ』なんだ。あらゆる既存常識が無くなってるんだ」
「……えーと、スミマセン、言ってる事は解るのですが……教科書で読んだ事あるし……」
「経験としては解らん、か。いや、別にいいんだ。君は君のままで美しいって事さ」
「何ですかソレ。ロリコンですか。『常若の國』ですか」
「そーかもねえ」
ケイはお道化る様に肩をすくめた。つくづく思う。考え方が違うのだ、根本的に、次元的に、概念的に。成程、これが新世代である由縁。ステージが違うモノ。「一人で生き抜く強さを持つ者」。彼らに比べれば、自分達など道化に過ぎない。自分は事あるごとに問いかける。戦争の是非、科学の未来、心の意味、自分の価値。だが解り切った事ならば、わざわざ問いかける事はしない。それを問いかけるのは、ただ「己は他のような無知ではない」と、必死になっているだけだ。必死にこの可笑な舞台に慣れようとする愚者だ。むしろ、真似れば真似ようとするほど本物との違いが――。
(……って、本物って何だろな)
本物でなければ偽物か? ソレは違うだろう。例えそうだとしても、その偽物に価値があるか、意味がないか、それは別の物語だ。そも本物を「本物」と思い込むのもまた別の噺。路花にしても一度だって、自分の能力が「正常」とも「異常」とも言っていない。それを勝手にどうこう論じているのは――
「『Normal is just a setting on the dryer』、か」
「『ふつうというのは乾燥機の設定のことですよ』?『Speed of Dark』ですか?」
「ほう、流石無駄に博識だ。というより本の台詞に繋げる時点で中々本の虫か」
「いえ『SF名文句・迷文句』とかいうサイトで知りました。私はネットで動く」
「『ネットは広大だわ……』」
「けど卵の中身もちゃんと知ってますよ。メーやん(※メリお義姉ちゃんの事)は色んな本を持ってますから。同じ類ので言えば『Flowers for Algernon』は勿論、『The Curious Incident of the Dog in the Night-time』とか『An Anthropologist on Mars』とかなんてのもありましたよ」
「そりゃー、随分な『マリーの部屋』で。まるで一つの本のレビューを調べていて他の本の言及があったからそれも読んでみようとして芋づる式に揃えた様な品揃えだ。お金と時間があるって羨ましいね。世界の数は多過ぎる」
「後、色んな方達が物置代わりにしてるせいもあります。しかしIdiotな人って考え方がロマンチックですね。『光がどれだけ進んでもその先に暗闇がある。だから暗闇の方がずっと速い』、何て。はあ、ステキ。そう言う考え方は、ちょっと憧れちゃいます」
「『Idiot』は差別用語だぞ」
「ちゃあ『わるぢゃあのむ』とよふのわとーてすが?」
「『はなびらのまい』踊って上げる」
「わーい仲良く混乱だー。でもそんな事言ったら『Cyclopia』なんてガチの障害ですよ。けど誰かがどうこう言おうと受け入れられているのが事実です。全ての物を愛でる対象と見るのなら、この世界は愛に包まれる。偉い人は言いました、『汝の敵を愛でよ』。そうすれば神話世界の戦争も一晩で終わります」
「まるでANIMEのヒロインの様にか? 工房の餓鬼が気分で嫁を変える様に? Huh!『…それもラブ。…これもラブ』。然り、だね。女は星の数。一つの純愛物語に感動したらまた次の純愛物語が待っている。薄い本で好きな脳内娼婦を取っ替え引っ替えするのと同じだ。お手軽だね。円光かよ。金はかかるか? 餓鬼だねえ。本当の愛なんざ語らんが、チャラ男という奴がいるのなら、物語を読む奴全員がチャラ男だ。Char男だ。或いは、資本主義万歳か。恋も消費商品だ。『ひとりの処女の微笑』は、プライスレス。
そんなのは、自信と自我の欠落だよ。『これこそが私の神だ!』と言うべき哲学も思想も持たない故だ。神様を取っ替え引っ替えする無神論者と、唯一神を莫迦みたいに信奉する狂信者……さて、愚かなのはどちらかねえ? ましてやティーンエイジャーを集めて偶像崇拝など、所詮は道楽、お遊びだ。そんな奴には、一生、本当の価値は解らんよ。ま、解らないからこそ色々な女で遊べるわけだし、それが受けてるのは事実だがね。星も綺麗に線引けば、星座にでもなるってもんか? 糸で繋ぎ合わせれば愛でたいか? 笑えんか」
「私は好きな人にスカートめくりする様なツンデレも餓鬼だと思いますけどねえ。自分の事を見て欲しい甘えん坊と変わりません。そんな事しなくてもあの人は何時でも見てくれてますし、それに、良くやった事にはちゃんと褒めてくれますよ。
ふっ、『愛など要らぬ!』と言いながら、誰よりも愛に餓えた男、彼は女を莫迦に、母に、最終兵器『あばばば』にさせる子どもの様」
「そりゃ誰の事言ってるのかな? お?」
「さあ、誰でしょうねえ(遠い眼」
「ふん、そりゃお前は良いだろうよ。出来が良いんだから。お前には解らんよ。見守ってくれるのは、見てくれるのは良い事だけどな、それが主にな事だってある」
「えー?」
「何でもない。兎角、可愛ければ何でもいいのだ。他人の不幸は蜜の味。白生地の美。最近は戦争ネタや障害ネタも商業として使っちゃうんだから……ま、そりゃ昔も変わらんか」
「『障害を乗り越えた素晴らしい人間!』っていうよりも『障害を利用して同情を勝ち取った凄い奴!』の方が夢があっていいと思いますけどね」
「えー? それ夢あるか?」「ありませんか?」「まあ忘れられるよりもネタにされる方がいいのかねえ。例え萌え漫画や小説にされて、娯楽消費にされても」
「価値観や権利観の問題ですね。ヤパーナじゃ奇形者(Freak)をTVで出すと視聴者は差別だ何だと五月蠅いですが、メリケじゃむしろ差別しない事自体が差別、TVに出演する機会を奪う方が悪いのです。私もその感性に同意ですね。そんなのはいわゆる先進国と非先進国を比べて後者の未開文化を穢れない無垢なる文化だと礼賛する進化主義と同じレベルです。『どうだ明るくなったろう』って喧しいわ! 異形者だって個性の一つなのです。むしろチョバイ(Fleek)と褒めるべきです。無かった事にするのではなく受け容れるのです。在って良かったと思わせるのです。褒め殺すのです」
「結局、殺すんかい」
「やはり比較でしか者は物を語れないのか。それが非現実的であればあるほど『隣の芝生は青く見え』、曖昧になって、何か素晴らしいモノに思えるのか」
「何だ、解ってるじゃないか。その通り、それが好まれるのはそれは夢物語だからだ。前に言ったろ。そういう特殊が好かれるのは、絵や文章の世界に居るからだ。『Cyclopia』なんて画像検索してみろよ。常人にはイヤーンな画像が一杯出て、よくも知らずに流れで萌えとか言ってるなんちゃって人外好きの夢をぶち壊すには十分だ。現実の芸能人と同じだよ。『偶像はクソしない』と同じ原理。『Idiot』『Deformity』『Disability』『Misery』『idiot beauty』が可愛いんじゃない。絵に描かれた、もっと言えば可愛く絵に描かれた奴等が可愛いんだ。可愛く描かれているから可愛いんだ。獣人や単眼など、リアルで付き合うとなったら気持ち悪くって仕方ないよ。気持ち悪くないとしたらそりゃ単に人外度が足りないだけって噺だよ。そんなに不幸が可愛いなら福祉施設に行って働けよ。別にTVの中に悲劇を求めずとも、ホームレス程度の悲劇なら一匹や二匹駅の構内に転がってるぞ。悲劇的な感動なんて割と何処でも起こってるぞ。現実に見た事もないくせに、理想ばかりデカくなって。動物園じゃないんだぞ、って……あー、また社会派な事言ってるな。これじゃ左巻きな奴等と同じだ」
着ぐるみを見てみれば、ソレはよく解るだろう。どれだけ細密にキャラクターを模した着ぐるみでも、やはり嫌悪感を覚えてしまう。それはその着ぐるみが不出来だというワケではない。恐らく、違和感があるのだろう。「何か違う」という不気味の谷が。それを可愛く迎合できるのは、画面という次元境界があってこそだ。実際、リアルの獣人を見た人達には、往々にしてこんな感想が在る。
――予想以上に獣っぽい!
……まあ、こんな感想は大分、コミカルな方だが。兎も角、実際にANIMEのようなデカ眼で鼻無しで頭でっかちな奇形げふんげふんハイカラな者がいたら、多分に引く事であろう。尤もその違和感さえなくなってしまえば、もう現実と何も変わらないのかもしれないが。因みにこの舞台ではそんな「ANIME人」が普通に居るので今ではそんなに気にならなくなっているらしい……若者は。
つーか「Cyclopia」、アレは多分、顔の部分は頭に入ってないのではないだろうか。マスクをしてゴーグルを被っているのにソレ以外の記号部分でカッコいいなどと認識しちゃうミロスの愛神理論と同じである。あるいは吊り橋効果よろしく恐怖と衝撃と胸のトキメキをを混同しているか……閑話休題。
「ま、詰まる所、『貧乳はステータスだ』とか言ってる奴等は十中八九がドーテーというこったな。その場のノリで言ってんだ。実際にヤるとなったらあんなの楽しさもあったもんじゃない。獣人の穴に突っ込むとか感染症が怖くて正気じゃない。頭おかしい」
「ちょくちょく上司が下ネタを挟んできます。どうにかなりませんか?」
「じゃあ言い変えよう。野良犬は野良のままの方が可愛いという事だ」
「そんな事言ってると性格がバレますよ。大丈夫、路花はケイさんに心配かけませんから」
「言っておくが、お前の巣は教会だからな。子犬の世話なんて見てやんないぞ」
「Boy! 舐めた口を効くんじゃない。これでも教会の娘。そんな簡単なヒロインじゃない」
「おや、それは失礼しました」
「んや、でも結構助けられてますし、惚れるべきなのかなあ?」
「そんな論理的思考で惚れられても……そして助けるのはお互い様だ」
「それにしても、差別用語って誰が決めてるんでしょうね?」
「無意味に悪意を見出した人。魔女狩りならぬ言葉狩りと呼ばれる現代の宗教の一つです。だから君も被差別者を見たら存分に蹴飛ばすと良いよ。だって社会的弱者って国が公認してるんだからね」
「仲良くしましょうょぅ……」
「まあ異能者も一部じゃ障害者や奇知GUYや邪教徒と変わらん扱いされてんだがな」
後天的ならまだしも、先天的異能者や異形者は旧世代人から病気持ちや悪魔憑きとされる事が多々ある。実際、異能者の中には言葉を選ばずに言えば公害に侵された奇形児のような姿をして生まれる者も居り、絶望する親は少なくない。加えて、変異を言い訳にして暴力行為を行ったり、変異してないのに変異のせいにして犯罪を起こす輩が目に付くのもそれに拍車を掛けている。
しかしそれと同じか同じ以上に割と楽しんでいる者がいるのも事実である。むしろ普通の人に出来ない事をやってのける自分を誇らしく思う者すらいるのだった。そのような者はちょい悪を気取って怪物君にもなろうとする者が割といる。ハメを外して怪物化、個性を出すため怪物化、ぶっちゃけノリで怪物化、上司にぶちギレて怪物化、流行に乗って怪物化、虐められた生徒が怪物化、生徒の親が怪物化、怪物が怪物化。なお元に戻れる保証はなく、そんなわけで今日も悪魔人間や妖怪人間が街を歩く。はぁ~さっぱりさっぱり。で、この子は他と違う事を許容できる娘らしい。彼女は照れたように「えへへ」と笑う。
「いやーそれほどでも」
「貶してないが別に褒めてもない」
「特別扱いされると少し照れちゃいます。ケイさんは私の事どう思ってますか?」
「食べちゃいたいくらいとっても可愛い女の子」
「冗談だと解ってても照れちゃいます」
「ま、兎も角、アレだな。何が異常か、正常かなんて、ソイツの勝手という事だし、ともすれはそれは『サヴァン』のようにソイツの個性の一つなんだ、異常である事が『アイデンティティー』な奴もいるだろう。ましてやキーウィが空から地へ生活を移したように、ソレが能力を得るための必要な進化だとするのなら、それを障害と見なすのは誤りだろう。尤も、進化が必ずしも優れているというワケじゃないがな。けどそれを病気と見なすのは『確証バイアス』、『ヒューリスティクス』――確かに『ふつう』に合わせていれば何となく上手くいくだろう、でも、それじゃダメな時もある」
「だからって暴力まで進化だとされるのはイヤーンですけどね。この世界には色々な者物が溢れましたが、ソレを免罪符にして差別を正当化するのは嫌なものです。『報道の自由』と『中傷の自由』をごっちゃにしちゃいけません。個々人が自分勝手して世紀末に成るよりは、総意とは言わずとも、社会的に是か非かな区切りは必要だと思います」
「お前は社交的な異能者だよなあ、本当。根っ子は知らんけどね。しかしそういうなら少しは世間における自分の立ち位置も考えて欲しいがね。何せ奴等ときたら自分の力の原理とか気にしないんだから。何時かチェルノっても笑えんぞ。そりゃ、解らないから『超』能力なワケで、物理化学は経験則なワケで、常人の魂や脳の働きさえ解らないのにソレを問うのはあんまりだし、ぢゃあ銃社会はどーなんよって噺だが」
「『自然選択』、『インテリジェント・デザイン』、『異界の現出により人類が強制的に進化させられた』、『空飛ぶスパゲッティなんちゃら』。さあ、好きなものを選ぶのです」
「そーいや、『量能力者は宇宙人』、何て説もあったっけ。超能力者の髪は緑色~♪」
「『妖精作戦』ですね。約束の日『ID4』に宇宙から来る存在を『UFOの夏』に『複合生命体』と成って『I Don't Want to Miss a Thing』を歌いながら『神の杖』で『青星の公転を早め』る『宇宙大作戦』が始まるのです(べんとらー」
「『サライ』じゃ駄目か?」
「それだと役者がカメラのない所でタクシー使うので駄目です。それよりも『マインドシーカー』をやりましょう。超能力が身に付くらしいですよ?」
「あれ詐欺じゃねーか」
「でも私、正解率100%ですよ?(どやぺかー」
「あれは超能力訓練ではなく選別だったのかー(『どやぺかー』?)。ソシャゲでもしてた方が時間の有効活用だな。まあ現実にはどっちも0だが。つまり死ね」
「たった二言が彼の苛立ちを如実に示していた。本気で取り込む所を想像すると、割と可愛らしい場面が浮かんだ……と路花は睨んでくるケイさんに怯えながら地の文します」
「つか色々設定混じってないかそれ? まあありゃ等はSFの原点みたいな所もあるが」
「でも私は『超能力者は自分の精心世界を物質世界に顕在化させている』という設定を推奨します。奇抜じゃないですよ? とあるゲームの世界では己の精神世界を現実化させる『流出』と言った設定があります。また現実でも1920年代英国ではロバート一家の娘が自分の父親を己の『固有結界』に閉じ込める事件がありました。メリケの詩人Emily Dickinsonも言うちょります。
『The Brain — is wider than the Sky —
For — put them side by side —
The one the other will contain
With ease — and You — beside —
The Brain is deeper than the sea —
For — hold them — Blue to Blue —
The one the other will absorb —
As Sponges — Buckets — do —
The Brain is just the weight of God —
For — Heft them — Pound for Pound —
And they will differ — if they do —
As Syllable from Sound —』
『ぼくたちの頭はちょうど神様と同じ重さ』なのです。己の限界が世界の限界。言葉、認識、許容の限界であり、故にGOSHの限界なのです。逆に言えば、己の限界が広がるほど神の力はいやまし、ならば想像もまた現界を越えて現実に成るのも可笑しな事ではないはずです。例え物語が偽りでも心は確かに熱く成る様に。精心力はオカルトではありません、確かに世界を励起状態にせしめるのです。而して己以外に誰かがいる事は事実。こうやって私の喋る『言葉』さえ己以外の誰かの物を真似した現象なのだから。ならばつまり世界とは、世界とはつまりそう、世界とは海に漂う泡の様なモノなのです。本棚にある本の様なモノなのです。人の身体が無数の細胞で出来ている様なものなのです。だからつまり己の世界とは宇宙に浮かぶ無数の星の一つなのです。実無限が無限にあるのです。だから超能力とは、とは、とは、ええーと、つまり……むむむ」
「『つまり』、なんだよ」
「ま、待ってくださいよ。圧迫面接じゃないんですから。人の思考は生ものなんです。物語じゃないんです。何十年も構成を考え伏線を組み込んで推敲と校正を繰り返し加工して包装したものじゃないんです。噛む事だってありますし、名言には時間が掛かります。人生とは何時だって即興劇なのです。まあそこを少なくとも見た目は軽くやってしまうのがプロがプロ足る由縁なのですが、兎も角、だからお時間を下さい。批評は受け付けますが出来ればあまり悪意と敵意の籠った駄目出しで虚仮にしないで下さい」
「しないよ別に(そんな詩を暗記して不意に朗読できる時点で虚仮でも何でもないし」
「だから、えー……はっ、鮃居た! 間違えた。閃いたッ! つまり、そう、超能力とは、世界と世界の衝突(Culture Shock)! おしべとめしべの第三種接近遭遇(Boy Meets Girl)! 夢と現実の交錯軌道(Head On)! 原始星が産まれるような星と星の核融合(Sense Of Wonderland)……つまり爆発的星生成――隕石なのですッ! METEORなのです! スパイラルマターリなのです! 恐竜滅亡なのです! 境界突破なのです! 常識が汚染されるのです!『な、なんだってー!』。わーこわい! ケイさん助けてっ!(へるぷみー」
「脳病院に逝け(思考が踊ってくるくるパーだな、星の回転の様に」
しかしその思考回路は独創ではない。心霊現象の世界では何世紀も前から「物質化現象」という奴がある。己の内在宇宙、心象風景、精神世界を現実化すると言うのは、何も奇抜な設定ではないだろう。その手な設定には、頭の可笑しい本丸には、とてもじゃないが如何なる空想描きの漫画家も夢想具現化のアニメ家も敵いはしない。何故って、彼奴等はマジでイっちゃってんだから。何処にって、アチラ側に。パラダイスに。その意味で、「神は死んだ」と言えるだろう。救済の形は一つではない。神はバラバラにされたのだ。
それどころか今や異界の混入する世界観だ。ならば超能力とは境界を超える力、「トンネル効果」とでも言おうか。天多の物語がそうである様に、ジブリ系アニメの登場人物が何らかの「穴」を通って異世界に行く様に、鉛筆で紙に絵をかく様に、己の精神世界である内在宇宙を顕在化しているのかもしれない。尤も、「流出」も「固有結界」も「物質化現象」も、何処まで行っても頭の空回りした机上の空論でしかないのだが。
しかし机上という舞台の上で踊るのが今我々の世界である。そんな既存の物語世界や非既存の異世界が流れてくるのが今時である。二次元上の紙の上に我等は踊る。
さて、思考実験のお時間だ。路花は超能力を使える以外は至って普通の、体重50kgにも満たない少女である。だというのに超能力のあの莫大なエネルギーは何処から来るのか。四次元や十二次元といった高次領域からの流出か、生命の樹といった原初領域からの汲上か、多世界からの横領か、オカルトな意味での集合的無意識からの拝借か、ヒルベルト空間やイマジナリー空間という理論世界からの運用か、それとも夢や想像といった架空世界からの創造か、それとも脳は空より広く海より深くとでもいう様に、神と同じ重さとでもいう様に、内在宇宙とでもいうべき世界があるのか。己の限界が世界の限界。それは感覚だけで出来た主観世界。多世界。己の精神の世界。そしてこの宇宙が無数の星で出来ているように人の身体も無数の細胞で出来ており、その一つ一つの細胞にも内在宇宙があり、その一つ一つの内在宇宙の中にもこの世界のように星や生命と言った存在が在り、その存在の中にも宇宙があるのなら、まさに実無限が無限に、いや待て、全ては一に括られるのか?――万有引力とはただ「地面に物が落ちる」という「現象」に、「万有引力」という名の「ナニカ」を想定したに過ぎない。そのメカニズムは自然に妖怪や精霊を見出す思想と何ら変わりない。違うのはそれに意思があるかどうかである。しかし今や妖精や精霊はこの世にあり、つまり現象は確かな存在となって具現した。現象でさえ一個の生命体に過ぎないのか?――神の居ない世界。それは共界の無い世界。夏の夜の夢の妖精達は目に見えず、故に世界の外側に居り、機械仕掛けの神となる。妖精は影の世界、故に現実世界を見渡す神の視点。しかしそんな時代ももう昔。神の不在性は砕け散り、人の王は野へ下る。神が自明と成り、境界が無くなり、王を失った世界の辿り着く場所は何処なのか。それとも人の心に制限がないのなら、既存の神以上の何かが生まれるだけか? 神秘が物理化学と成る様に――何処を経由するのか。声でさえ音波であり、光でさえ電磁波である。だがその手の力は往々にしてその中間領域に一切の物理的変動を起こさない。存在一つ一つ、他者それぞれに世界が在り、その世界に直接影響を及ぼしているのなら。瞬間移動とは「移動」ではない、アレは速度を伴わない、正確に言えば瞬間「出現」。心が物理的な距離を跳び越える様に、というものが紙上に絵を描く様に現れるなら――そしてそのエネルギーは何処に行く。エネルギー保存の法則を無視した世界。世界は何時か飽和する。大祭害による強制的な進化。進化的に安定した戦略が必要だ。ワイルドカード? 規則や定義の無いゲーム。いやそもそも法があるのか――如何にしてそれを成すのか。「神」とはただの言葉であり不確かな存在だ。少なくともそれを見た事の無い者には。いや見た事のある者の間でさえ、その感じ方には「ゆらぎ」がある。そのゆらぎは量子力学よろしく観測の種類により如何様にも姿を変える。丁度、「世界五分前仮説」よろしくゲームや物語の世界が無から何千年もの歴史を持てるように。クオリアが己の世界の総てで在る様に。夢の世界が如何なる荒唐無稽なナンセンスもセンスする様に。王の赤が過程を吹き飛ばし結果だけを得る様に。夢の世界の流出。夢と現実の境は何処にある? 宇宙開闢。無から有が生み出される。ほら、「光あれ(イェヒー・オール)」と呟けば――
(莫迦な)ケイは頭を振った。(「無料の昼食」じゃあるまいし)
しかし……そう思いつつ、ケイは自分の胸を強く掴んだ。「Never say “Never”」――「『ありえない』なんて事はありえない」。ケイはそういう事を知っている。人類は自分の身体の事すらよく解らんのだ。ましてや異界が混在するこの世界、現界の物理法則はその前にはあまりに無力であり、実際、現界の物理法則は異界の物理法則に侵食されつつあるらしい。もう少しすると、炎に水を掛ければより温度が上がると言う事も在りえるかも知れない。世界は「そーなんだ!(Eureka)」で満ちている。それは大祭害以前でもそう変わらん。その点では、路花の言う通りだ。一昔前は飛行機だってあり得なかった。そうだ。時が経てば、こんな世界だって、日常に成っていくんだろう。
それでも頭でっかちの哲学者は其処で今日も世界に問うのだろう。解答のない問題を。何処まで行っても問題提起だ。それしか出来ない。コバエの様なクレーマーと変わりない。くらやみの速さの様に、未知の闇は常に既知の光の先にある。その「天上の薔薇」に何時か辿り着けると信じて、暗闇の、暗幕の、宇宙の、閉じた眼の、星虹の中を駆け抜ける。家族の優しさ、友の心配、教師の忠告、見知らぬ者の拍手や野次をありがとうと振り切って、ソレが何か素晴らしい物だと信じて、花(Phyllo)と剣(Filo)と愛(Philo)を持って知に相対する、世界を穿孔し先行し閃光するために、証明し正銘し照明するために、「陽のあたる居場所」を勝ち取るために。夢遊病の様に。自己満足の愚者が駆け抜ける。あの「白色の絶頂」に何時か辿り着けると信じて。
そういうもんだ。そうだろう? ケイは肩をすくめた。莫迦らしいと思った。愛おしささえ感じる程に。そして次いで、路花に対しニヤリと笑った。
「しかしカッコよくなりたいなら、路花君ももうちょい役に立ってほしいもんだね。やる気が空回っても空は飛べん。ま、見てる分には楽しめるが」
「アノンちゃんがいるじゃないですか。別に私なんて要らないんですよ……(遠い眼」
「自虐るなよさとり妖怪」「人間族です」「ならせめて戦闘面で何とかしましょう。発熱も放電も純粋衝撃もでできんだから、冷凍能力も使えるんだろ? 灰泥には冷凍が有効だ。コミックよろしくな炎出せるのに何故か氷出せない魔法使い(笑)じゃないんだから。プランクの法則の云々が伝熱がどうこうして冷凍化とか」
「またそーやって皮肉ゆー。確かに物理化学的には分子運動の振動・停止で炎熱・冷凍も出来ますが、超能力でやる冷凍が分子運動の結果なのか私には解りませんよ? 電子レンジで解凍できるからって冷凍できるワケじゃないでしょうし。まあ私は出来ますけど。けど何分、分子をつまむのはあまり慣れてなくて」
「それ慣れてる奴は人間止めてるがな」
「『俺は人間を止めるぞジョジョー!』。ところで超能力者は人間ですか?」
「その問いはナンセンスだな。『お前は人間だ』という人間至上主義のクソ噺も結構だし、そも人間の定義なんて誰も知らん。識別は必要だろうけど」
「しかし冷凍能力を組み込むとすると、技名を考えなければいけませんね」
「要るか?」
「技名は大切です。名前とは魂の叫びです。心の刃です。ここで負けたら試合前から終了です。ハガキ職人の私は捻った名前でないと満足できない身体に成っているのです」
「無音詠唱とかカッコよくね?」
「実用性で言うなら長ったらしいマジックよりマシンガンですね」
「けど長々と駄弁るアクションシーン何て俺は御免だぞ」
「まあ確かにイジけヒーローなど湿気てますね。ヒーローならウダウダゲジゲジくっちゃべらずに敵を倒せと。『ジュワッ!』しか言えない『Ultraman』を見習うがいいです」
「彼は何故か無口説が一般的な割にはよく喋る礼儀正しくてお茶目な宇宙人(Needle)だけどな。『フッフッフッフ』じゃねえよ。それに自己主張という意味では昔の漫画の方が五月蠅かった気がするし……良くも悪くも、情熱的だったのかねえ」
「うわ、『昔は良かったのお……』なんて校長先生が言いそうな雰囲気です。逃げろー」
「そんな事言える程俺は世界を生きちゃいない。しかしむしろ今時の者は視覚に頼り過ぎなんだよ。かつて『世界劇場(theatrum mundi)』という思想が流行った。それは『舞台はスクリーンの向こう側』という意味じゃない。当時では十分なお芝居の劇場は無く、装置はそこらの岩花で舞台は大地で照明は太陽であり、そんな中では役者と客の境目は無く、まさに役者も客もひっくるめた地続きの一つの世界だったのだ。台詞が大きな力を持ち、言葉から無限の世界を想像でき、故に客は十人の舞台の中に万の軍勢を見る事が可能であり、如何様な場所にも時代にも舞台はその世界の様相を変えられた。しかし今は、映画の間はお静かに。スペクタル至上主義となり、聴く劇ではなく観る劇となり、客は他の客に邪魔されず、知識にかかわらず安定した劇を見られるようになり、故に想像の余地は無くなった。此処に客は観客以上の行いをする必要は無くなり、晴れて『And all the men and women merely audiences.』となるのである。いや、何も正悪を問うワケじゃない。ただ単に、そうだというだけだ」
「なら尚更シャウトはカックイーンです。様になります。キマります。腸がぶちまかれます。まあ何というか、気が引き締まるじゃないですか。剣道みたいなアレですよ。それに気持ちが良いですし、祝詞みたいな何かいい感じの効果を受けられる気がするんです。ケイさんだって叫んでいるじゃありませんか。アレは気合を入れる為ではないのですか?」
「あー、ありゃ俺の役者不足だ。声に出した方がホシフルイと連携しやすいんだよ。確かに喋ってる方が華やかだが、戦闘的には無駄な処理作業だ。無言劇でも立ち回れるのがベストなんだ。喋るにも体力使うし、叫んだら何出すか丸わかりだし。まあソレを利用して言ったのと違う技をかませばいいんだが」
「『カッコいい』は全てにおいて優先されます」
「ヤパーナじゃ良いかもしれんが諸外国じゃ流行らんのでネーノ? メリケはヤパーナの技叫びはよー解らんらしいし。『やーやー我こそはー』とか言ってる内に斬られるっての。アレは『HERO IS HERE!』と言ってるのかな。『Kilroy was here』的な」
「名乗り文化ですかね? 歌舞伎的な、傾奇的な」
「というか名付け文化じゃね?」
「じゃー私の必殺技にも名前をっ」
「『よく冷え~る』」
「ヤダ」
「(二つ返事……)じゃあ『エターナルフォースブリザード』」
「効果『相手は死ぬ』」
「じゃあ『絶対零凍破』とか『羅王冷波』とか」
「効果『世界が死ぬ』。虚無る。オリジナリティが欲しいですね」
「『オリジナリティ(笑)』とか。如何にも近代的な概念だな。そんなものは一世紀にも満たない『若い思想』だ。無教養な外見しか見ない奴がモノクロ映画を見て『完成度が低い』とか言いそうな未来と世界の広さを知らないお子ちゃまだ。或いは作品はたった一人の作者からできてるとか信じる純情浪漫だ。無論、阿保にも解るように造るのが大量生産社会の暗黙の了解だがね。しかし奇抜性や元ネタを語るならせめてランキングに乗ってる古典名作くらい呼んで来いとね。早漏はイカンよ君」
「またそうやって皮肉ゆー。確かに『個性』なんてのは近代的ですし、外来語ですけど、物事は往々にして過去の繰り返しであり、何処でもやっている事なのです。中世西洋ではヤパーナの様に感情を表に出すのを嫌いますし、フードポルノはルネッサンス時代の十字架教的食欲の絵描きと関連付けられます。ふむ、そうですね、フードポルノは十字架教的です。ネットに上げる事により世界と繋がり、存在的価値を回復するのです。個性だって江戸時代でも根付というものがあってですね、ヤパーナは昔から細部に違いを、むしろそういうのが……えー……あー」
「無理して難しい話しなくていいぞ」
「む、無理じゃないです! わたし頭悪くないですっ!」
「知ってるよ。つか邂逅一番で俺の体重を計算した時から察してるよ」
「? ……あ。あーあーあー。あれですか。まあ、あれくらい普通ですよ」
「これだからなあ」
「兎に角、そうやってケイさんの意見を押し付けられる気は毛頭ありませんからねっ! 全然ないんだからね!」
「名付けを望んでおいてその言い分はこれ如何に」
「んぐ……」
「冗談だよ。じゃあ真面目に、そうだなあ……既存の念能力は『精神(Psycho)』や『炎熱(Pyro)』なんていう接頭辞と『能力(Kinesis)』の合成語だから、冷凍の意味の接頭語の『Cryo』と合わせて『クライオキネシス』とかいいんじゃね?」
「可愛いのがいいな」
「君は今のままで十分可愛いよ」
「はいはい(苦笑)。でも統一性が欲しいです。例えば、私には電撃技で〈ビガ×ビガ〉という技があります。どんな技かっていうと、何かこう、ビガビガします」
「ならカチコチするから〈ガギ×ガギ〉とか」
「氷撃カチカチッ!〈ガギ×ガギ〉! グッドですね。じゃーそれでいきませうっ」
「まあそんな名前を気にするより実力の方を気にしてほしいもんだがね、形から入るのを悪く言うつもりはないが」
「ぐふぅ」路花は空中でぐらりと揺らいだ。「スミマセン、あまりお役に立てなくて。で、でも、私もケイさんみたいに強くなろうとしてるんですよ? ケイさんのマネして、先ずは食生活からと思って、例えば、手の平四つ分の生鼠を丸呑みしたり」
「おいコラそれイメージで語ってるだろコラ(んな事した事ねーよ……お前の前では)。
ま、そりゃ俺はそこらのランナーより心技体全て優れている。皮算用じゃない。実績だ。必要以上に自虐しても意味ないからな。けどそうでなくちゃ困る。俺はお前らみたいなガキんちょがシンバルモンキーよろしく手を叩いて不細工に笑っている間にも努力してるから。いや努力を礼賛するワケじゃない。何故って『プロ』ってのは皆、天才で努力家なんだ。『友情・努力・勝利』なんてそんなのはわざわざ言う事も無い。努力なんて当たり前だし、才能がなきゃ努力は実らないし、その努力を始める時期にしたってそれこそ幼稚園からじゃないとあまりに手遅れなレベルだ。よくあるだろ?『一年間みっちり浪人すれば上位の大学もきっと入れます』とか何とか言う台詞。そりゃそうだろう。けどお前が勉強している間にも、相手も勉強してるんだ。努力は上位へ割り込むための前提条件。飽くまでもただの前提。それを忘れちゃイカン」
努力なんて当たり前、その台詞は自分に言い聞かせるようでもあった。しかし同時にケイは知っていた。この娘はそれが当たり前でない役者だ。秀才ではなく天才、ソレが異能者。努力など必要ない。彼女はまだ子どものくせに、大人のケイと対等だ。それこそ少年漫画よろしくポットでの新人が十年選手の汗と涙と努力の結晶を無慈悲に呆気なく爽やかに打ち砕く様に。一年二年どころか一週間もせずに世界を救ってしまうような、そんな才能を持った側の立役者。そして今の時代、そんな彼女でさえ端役になるのが日常である。そんな事は知っている。ケイでなくとも、誰だって。
しかし当の本人は、ソレを聴き、「がーん」と酷く傷ついたようだった。まあ才能があると言ってもそれは飽くまで原石があるという事だけ。例え種が良くとも、水をやらなねば咲かない。そして何余地、そんな才能ある宝石などそこら辺に転がっているのが今時である。だからケイはその反応を見て、
(あーミスった)
とケイは顔に出さず思った。これでは能力も無いのに先に生まれたからと言って威張る上司と同じである。年功序列、弊害か安定か。
反射的に嫌味を言ってしまった。これだから気の知れた奴と話すのはどーも苦手なのだ。仲良くするほどに警戒が解けていく。そしてその事にハッとする。徹夜勉強明けの試験中に思わずほんの少しだけ眠ってしまった、そんな感覚。まあ、元々仲良くしようとしたのは自分からなのだが……やれやれ、作法の知らぬ天然物は恐ろしいものだ。
ケイは溜息をつき、しかしそんな路花に苦笑して、肩をすくめて言った。
「冗談だよ。あまり自分を過小評価するな。謙虚なのは美徳だが、ここは米国、声を大にしたって悪くはない。俺の悪口は、コレはアレだよ、お飴が好きそうな言葉で言えば『Tsundere』って奴だよ、本当はとても助かってる。俺なんて、見ての通り騙し騙しの演劇だ。出来る事と言えば走って飛んで叩くだけ。その点、お前は中々に優秀だ。痒い所に手が届くっていう感じだな。やっぱりいいな、空を飛ぶのは。この前の連携、目の前に瞬間移動させてぶん殴る、アレもかなり爽快な思いさせてもらった。あの敵の顔と言ったら、ククク。正しく超能力という名の種も仕掛けもある奇術は、俺にはできん」
「え、そ、そうですか? あ、でも、それは私の力ではなくて生まれつきの……」
「なんだ、『その手の悪口』を言われたことがあるのか」
「そりゃ、誰だってあると思いますが」
その手の悪口。一言で言うのなら、つまりこんな悪口だ。「どうせ超能力のおかげだろ」。何時かの時に言っただろうが、異能者や機械者や異形者が文字通りレーザービームで投球したり人体の制限速度が法律で明文化される今日この頃、そんな時代では、異能や改造や異形を行わない所謂『生身の試合』や『生の勝負』といったものがある。
それは突然現れた異形に対する差別的なまでの穢れ無き無垢なる身体への手放しの礼賛であり、力を持たない者の負け犬の遠吠えであり、しかし何より、かつての己にとっての平和な時代を、突然何もかも変わってしまった古き良き時代を嘆き哀しむ望郷への声なのだった。別に彼等は頭が固いワケでも、意地の悪いワケでもない。ただ、彼等には安らぎの時代があったのであり、時代の流れについていけなかっただけである。
「莫迦だな」それにケイは肩をすくめる。「そんなのはご都合主義の物語を非難するのと同じだ。物語自体がご都合の塊だっていうのに、その解釈こそご都合主義だ。何せ者語る物語は全て、デウス・エクス・オーサーだからな。物事には常に上がいる。ソレと同じ。まさか、お前だって気にしてるワケじゃあるまい?」
「はい、気にしてませんよ。これが私の普通ですし、どう言われたって変えられないし、変えるつもりありませんからね。ただ、正当に評価してくれないと、相手も私を使う時に困りますから。ちゃんと修行シーンとかあれば様にもなるのかもしれませんが」
「しかし『Dignity, always dignity』――プロというものは誰かに夢と希望を与えるのが役であって、同情やお涙を頂戴する仕事じゃない。努力や練習を観客に魅せるのはナンセンス、舞台裏を見せるのは粋じゃないのだ。『俺の人生は、台詞を付ける役だった』。そういう事だ。『スーパーヒーロー』然り『戦隊ヒーロー』然り『仮面ライダー』然り『魔法少女』然り、彼等は誰に拍手・野次されようと、その素顔を仮面に隠し闘うのだ。そうじゃない奴は作家がリアルの写真を公開するくらい無粋だね。ま、物語じゃなくて作者が好きって奴もいるし、それを抜きにして文学論はやれないけどね。でも、それでも俺は他者の台詞で語ります。『竹竿を振り廻す男よ、君はただ常に笑われてい給え。決して見物に向って、「君達の心にきいてみろ!」と叫んではならない。「笑い」のねうちを安く見積り給うな。』『君の噴飯すべき行動の中に、泪や感慨の裏打ちを暗示してはならない。そして、それをしないために、君の芸術は、一段と高尚な、そして静かなものになる』。
それがランナーの本当の0号規約……いや規約にさえ書かない生き方、心構え、心意気……ライ麦畑の愚者は、誰かの優しさをありがとうと振り切って、皆が寝静まった誰もいない暗闇の舞台で、崖っぷちの観客席に向かって全力疾走するのだ」
「じゃあ、その事を私に言ったら駄目なのでは? それは舞台裏をバラす事では?」
「しかしその台詞自体が物語で語られた事でね」ケイは笑って頭を振った。「結局、彼はファースには成り切れなかったのだな。彼の勇敢に屋根に這い上るピエロは、物語で己の主張を書いてしまったんだ。『汝等を見よ!』と言わずにはいられなかったのだ。無意味が無意味である意味をひけらかしたのだ。だから、彼は『敗北者』だ。己の信念の美しさに負けたのだ。そして、こうやって愚痴々々とやる己もまた……。
物語の大いなる矛盾だよ。自分の主張を書くのが物語なのに、それを魅せ付けちゃ無粋なのだからな。宗教臭くなったり、説教臭くなったりすれば、それはもう物語じゃない、自己啓発本だ。聖書か経典でやれという噺だ。喜劇であれ、悲劇であれ、笑劇であれ、物語は娯楽作品、エンターテインメント、面白くなくちゃいけない。
それでいて作家は全くの露出狂だ。甘えん坊だ。全裸の莫迦だ。認めて欲しくってたまらない。物語なんて黒色の自己満足です。読者に食わせるスカトロです。『人間失格』とか言いながらそれでいて誰かに見てもらいたいような、そんな救えないお道化だ。そしてそれでいて誰もが思うのさ、『お前如きに解ってたまるか』。ああ救えない。まるで餓鬼が親や教師や社会にやるような微笑ましい感受性だ。パンク・ロックさ。ツッパリさ。ツンデレさ。探偵小説よろしく、彼奴等はその芸術の価値が、その不可解さにあると思ってるんだ。誰かに解られてしまったら、やはりそれはもう敗北なのだ。神は地に落ちるのだ。救えないだろ? 今時の、殊に第二世代のランナーは知らんがな、それ以前のランナーはそうだったのだ。『誰に解るものか』と、俺はその程度じゃないぞと言いつつ、解ってくれる誰かを欲したのだ。……って、心理学者がゆーとった。それこそ『余計なお世話だ!』って噺だがね。
そうして中途半端に仮面を被った結果、往々にしてやってくるのは下らない共感ばかり。その読者は、表面だけ知ったかような悪友や、ベタベタと惚れてきた女と同じだ。それこそお道化だ。殊に資本主義ときたら、それを適当に料理して金儲けする。そして無教養な奴らはそれで喜ぶ。解ってるよ、そんなのは啓蒙主義だ。進化主義だ。だが、たまには誰かが言ってほしいよ、『お前如きに、解ってたまるか』と。
つーか結婚して夫婦になってもお互いの事は解らない事だらけなのだ。たった十万文字や百億文字や千冊や万冊の小説を読んだくらいで相手の事が解るなど、おこがましいにも程がある。故にキョーカンなんて表面上の知識で姿を固定化された時点で、もう作家の敗北なのさ。ま、良い気になるのは勝手だけどね。つか何と闘ってるか解んないけど」
「Hmm……難しいですね」
「解ってないくせに」
「Auu、ごめんなさい。適当に言ってました」
「それもまた矛盾だ。孤独の勝利だ。それは誰にも認識されない勝利。故に何処まで行っても自己満足。救えないな。全く、ムカつくぜクソッタレー。なら俺達に出来る事は、やはり『不可解』なのか? 無教養な阿保どもが絵画を見て『何かよく解らないけど凄い』とでも思わせる様に。『人それぞれ』だと妥協する様に。いや違う、違うんだ。あるのは『一種類の不明』だけ。『人それぞれ』が言葉が手の平から砂の様に零れた結果なら、ならば、全ての砂を無くせばそれは一つだ。如何なる感想をも許容しない。拍手も野次も何もない。ただただ圧巻。言葉は無用。幼児が生まれた時に泣く様な原初の感動。必要なのは他の追随を許さない、圧倒的な演技。同じ舞台に立つ役者さえも観客にしてしまうような、華麗なる星のような……そうすれば、観客は息を飲んで押し黙る」そう言って、彼は思い出す。文字通り目に焼き付く、あの剣戟を。奮う刃は相手を選ばず、奮う刃に意志はない。正義も悪も主張しない。「その点、お前はやっぱり凄いよ。ああ、凄い凄い。何が凄いって手札が多い。ソレは多ければ多いほど良いです。使う者の頭が宜しければ。そしてトランプにおいて数の眼の低さは、決して傷にはなりません」
ケイはともすれば意味が解らず小首を傾げられそうな台詞をさもソレっぽく言ってお茶を濁した。ちょっと頭の良さげな単語を含ませれば大抵は喜ぶ。そしてその時点の語る気持ちに偽りはないのだ、語り終わればすぐ消えるが。しかし、路花くらいならその程度ではただの言葉遊び(ナンセンス)としてガッカリされるかもしれない。……が、
「え、えー? そうですかあ? やーそれ程で……あ、えーと、『I am MariStella’s child. What would I do if I couldn’t do like this?』」
などと「Hell of a butler」な気取った台詞を言いながら、路花は空中でブルーのオーバーなんかを着て木馬に乗ったようにぐるぐるぐるぐる回った。全く、あれは君にも見せたかったよ。喜んでいる様で何よりである。
路花にとって一番嬉しい事はしゃんとした大人に褒められる事である。しゃんとした大人とは力の大小にかかわらず胸を張って誰かに貢献しているあるいはしようとする意志のある者である。自分だけの事だけしか考えない者はゴキブリのクソより御免である。
そんな路花の座右の銘の一つは『雨ニモマケズ』。「ミンナニデクノボートヨバレ ホメラレモセズ クニモサレズ」なモノになりたいと割とマジで思っている。しかしやはり褒められたら嬉しいのは如何せんともしがたいものがある。何せ褒められたい盛りの子どもなのだから。その褒められた時の胸から奥から湧き上がる光の泡の如き暖かさは寒さの冬の暖炉の火の温かさにも似て心臓の運ぶ血液の様にじんわり四肢指先まで沁み渡る。他者の言葉、それこそはまさに人の生きる活力である。
いや、違う。この温かさは何時もと違う。この心まで沁み渡るような温かさは……。
(ハッ! まさかこれが……KOI!?)
「吊り橋効果ですよ」
「ぎゃー!? 心読まないでくださいよっ!」
「拝啓、時下ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。さて、厳正な選考の結果、残念ながら採用を見送りましたことをご通知します。今回はご希望に沿う事が出来ませんでしたが、路花様のより一層のご冥福をお祈りいたします」
「不採用通知的お断りマジで止めてくださいマジで。ていうかそれ死んでます」
「何だお前、俺に親の面影でも見出したか? 甘えたいのか? 強い男に動物の本能が疼くのか? ガキめ。貴様の恋など正しい意味でのハロー効果とかザイアス効果とか単純接触効果とか感情バイアスとか通販番組で『あ、これいいかも』とでも思うような一目惚れに過ぎん。いったん距離を置いて十年間じっくりことこと冷静に煮込んでそれでも好きならまたチャレンジして百回砕け散った後それでもプロポーズするなら受けましょう」
「『それでも好きだ!』な精心大事。それくらいで冷めるなら恋じゃないのさ(血涙)。例え何度フられても何度でもコクるくらいするべきですね。『響子さ~ん好きじゃあああ』的に。まあ告白が大事なのは解りますがね。結婚とは人類を100憶とすると100憶C2で約1/5E+19の確立で行われる儀式なのですから。ただし一夫多妻制とかは除く」
「(相変わらず異能者らしいスパコン脳だな)因みにヤパーナでは告白してからデートだが、メリケでは複数人とお試しデートしてから単独の告白と行く。そこを勘違いしたヤパーナ人がすぐメリケ人と寝るから和国の女はチョロイと言われ――まあそんな噺はとまれ、恋愛漫画なら告って成功したらその時点でストーリー終わるしねえ」
「『ストロベリー100%』は二回も付き合って別れてますぜ? ふむ、アレって意外と硬派な噺です。最近のラブコメは一回告白して成功したら『末永く幸せに暮らしましたとさ』的に終りますけどね。そんなのは『嘘だッ!!』」
「とまれ、俺は恋だの何だのに本気になるのは餓鬼か童貞の時分で十分だよ。因みに俺的には大勢の女性に詰めかけられるより、大勢の男友達で一人の女性を取り合う展開の方が好きだがなあ。楽しいぞ? そして負ければ潔く引くのもまた男。『Louis, I think this is the beginning of a beautiful friendship.』」
「けどケイさんだって女性に好かれて嬉しくないはずがない。『わかってる…路花わかってる…! ホントはケイさん路花の気持ちわかってるって事わかってるぞ』ぉ!(❤×千個」
「なあアノン、何か食べたいものはないか?」
「無視はないんじゃないかな……」
「大体ラブだのライクだの『あいあいあいお猿さんだよー』ってもうねアホかとバカかと。どーせ生殖本能垂れ流しの餓鬼の恋愛など所詮はイヤーンな事したいだけだろ? そりゃ性的同意年齢の設定なんてTPOで変わるし不純異性交遊は学生の華だ。『これもまた人間の姿だ、おどろく事は無い』。だけど人生ってそれだけじゃないだろ。快楽堕ちとか色を好む英雄か世界の狭い薄い本の中だけだ。んな動物的な欲動よりも気持ち良い事なんて一杯あるぞ。いや魔法の薬ぢゃなくて。名役者なら電車の踏切を間にして『イヤーンより面白いことを知ってしまいました』あって叫んでみやれ。なのに本当の恋も知らず『イヤーンな事したら一皮むけて大人になりました』ってやかましいわ。十代の恋愛なんて90%が性欲だ。人類の三分の一は強姦で生まれたんだ。どーせお前等なんてお父さんに裸の写真撮られてネットに流されたり教師に教育と称されて身体触られたり散歩コースのゴールはホテルだったり夏の厨房なんて放課後に『なんでもおまんこ』とか『オマンコシヨウ』とか兎よろしく年中発情期で発条気でナニを捻じ込んで白濁液を注ぎ込んでアァ想像しただけで気持ち悪い非処女なんて歩く精子を溜めた頭多袋だ吐き気がする如何なる『学問なんかより、ひとりの処女の微笑が尊い』のだ嗚呼人間って奴はもっと尊いんじゃないのかよガッカリさせないでくれよヤル気無くしちまうよアッチでパコパココッチでパコパコパコパコパコパコパコパコパコパコパコパコパコパコパコガラパコスショトウ」
「文化構造主義的に言葉とは人生ッ! つまりそう考えるケイさんが、親父腐!」
「親父腐!?」
「ていうかケイさんはそーゆー噺を一少女である私に聴かせて何がしたいんですか? セクハラですか? HENTAIですか? ファッションHENTAI何ですか? またはそんな事も気兼ねなく話せるほど好感度が高いとみていいんですか?」
「勘違いしてはいけないよ。自分の今日の下着から一人遊び事情まで教えてくる女性は、手前に気があるのではなく手前に話しても別にどうでもいいと思われてるだけだからね」
「そういう経験が?」
「無きに下非ず。まあ安心しろ。女関係は潔白だ。何故なら俺は美品に傷つけじゃなくてEであー」とケイは言葉に詰まった。いや、ケイが本当に「ソレ」なワケじゃない。男として機能し無いワケじゃない。単に下ネタをかますのが躊躇われただけだ。本当だ。いやまぢで。ちょべりぐで。しかし路花は「『イデア』?」と小首を傾げて来る。「いや、何だ……悟りを開けば、木星に行けるのかな、とか何とか思ったり」
「『悟り』……『木星』……ふむ、把握した」
「スラング使うの止めれ」
「んやー、そですね、想いは物理的な距離と時間を越えますから、『核融合なんて目じゃない』ですから、行こうとすれば行けるかも? まあ戻って来られる保証はありませんし、設定を詰め込み過ぎて『ばいばい、ジュピター』よろしく空中分解するかもしれませんが」
「そうか、ソレは怖いな……じゃあ、何時かお前の裸を見せてもらうかもしれんな」
「何かナチュラルにセクハラ発言してきたこの人怖い」
「俺はこういう発言しても普通に返事して来るお前の適応力が怖いがな」
「まあ、今時は変な人ばかりですしお寿司」
「そういうもんか。まあ、冗談さ。冗談ばかりがこの俺さ。本気で熱くなれん、煤だらけの不完全燃焼さ」
「そですか。まあ私の台詞もケイさんよろしくお茶乱気ですから安心してください。大体、ケイさんは付き合い甲斐が悪いのです。猫みたいに風来坊を気取るのはいいですが、たまには素直に喜んでくれないと、育て甲斐もないってものです」
「おい、おいおいおい。もしかしてお前さんは、餓鬼のくせにこのお兄さんをペットか何かと勘違いしてるのかな?」
「異能も持ってないのに頑張る姿が可愛いかったり、ぞなもし?」
「だから何で女性は男性に可愛さを見出すんだ。男なら格好良いだろと……まあ、仲が良いのはいいけどさ。それでも付き合ってくれるのなら、お前は良い女なのだろうよ」
「むむむ。煽てたってそう簡単に私の好感度は上がりませぬぞ。私は『優しいね』とか『可愛いね』とかテキトーな事言ってりゃ好感度上がるレア度の低い美少女ゲームヒロインとは違うのだよ、レア度の低いとはヒロインとは! ……本当ですよ?」
「ハイハイ。じゃー、手荒い方法でも使ってみますかねえ?」
「襲ってきたら張っ倒します。念動で挽肉にして電子レンジでチンします」
「この子怖い。まあ俺はそう言われると襲いたくなる天邪鬼なHENTAIだけど。痴漢されてる女性とかって非日常的な色気があるよね(もしかして:NTR」
「ぶっちゃけすぎだろてめーです! ならぶっちゃけついでにはちゃけてやろう、ロリータで何が悪い! 君の初恋は『かぁどきゃぷたぁ☆さくらちゃん』だろ!?」
「久々にワロタ。こういう奴は20世紀少年のくせに今なお映画が作られる『DB』や『エバー』や『青ダヌキ』や『ポケモン』がどれだけ化物かを解らないんだよな。昔の『本物』の名作を知らない今のニワカはこれだから困る。ましてやネットで持て囃されるアニメなど謂わば回転ずし……ネットだから流行るのは当たり前で、腐るのも早いのよ」
「『私はそれでいいと思っています。誰かに読んでもらるなら、あの販売機のようでも』。けどあの子以外のヒロインに恋する人はさくらちゃんを見た事が無いに違いない。もうその可愛さときたら、まさにどこで止めても可愛いよっ! 仕草の一つ一つがハラショーだよっ! 最近は動画を止めて見るのが個人的な流行です(メー義姉様の次に」
「えーと、青色の『ちよ父』みたいなのといる髪が青色のデスクトップマスコット……」
「言いたい事は解りますがあの生物はちよ父とは全く似ていません。多分、それは『伺か』とか『MATERIAL』とか呼ばれるアプリに出て来る『Ghost』というキャラクターの内の『偽春菜』『任意』『何か』とか言われる子の事です。いわば『お前を消す方法』のイルカ的アレ。『ラブ+』とか『シェルノサージュ』とかなぞ伺かの派生に過ぎんのだよ。ぶっちゃけ時代先取りしすぎじゃないかと。デジタルに何か箱庭的なイートハーブ……パラダイスを見出すのは、割と昔からある事ですねえ……」
「それよりも、古今東西で女性に愛玩動物のような立ち位置を求める男性がある事の方が問題だ。頭撫でたり、過保護したり、同情したり……ああ、気持ち悪い」
「それが資本主義ですから仕方ないです。まあ、私は女の子だからといって勝手に弱い者扱いしてきたり、無理矢理無垢性を押し付けて要求して来る男の人はちとイヤーンですけど。でも女性の私も遊びますしお寿司、強くは否定できない……。けど最近のあの手のソフトは凄いですね。一ヶ月くらい前まで流行ってた『アデヴ』とかいうアプリの子は学習型AIが搭載されていて同じキャラは殆どなく、直立した前後・左右・上下の六枚絵が在ればどんなポーズだって取ってくれたんですから。ところで、何でアデヴなんでしょうね? 太ってないのに」
「確か『アデヴ→アダムとエバ』、『アプリケーション→アップル・ロケーション』みたいなよく解らん言葉遊びだった気がする。でもアレ電子ドラッグよろしく妄想と現実が付かなくなって引き籠ったり自殺する奴が絶えなかったから停止させられちゃったんだよなー。既にインストールされたアプリまで消去しろっていうし、折角可愛く育てたのに……まあホシフルイにデータ吸わせて隠してるからいいけど」
「ホシフルイさんマジ便利ッス。でも確か、今時のオンラインゲーマーの中では、削除されそうになってコンピューターから逃げ出したAI達がネットの片隅で集まってスラムを造って生きているとかいう噂がありますよ。オンゲーで敵キャラや味方キャラとして出て来るとか、魂を引きずられて植物人間になっちゃうとか」
「まるで『デジモン』みたいな噺だな。いや、どちらかというと『電脳コイル』?」
「後どうでもいいですけどさくらちゃんって原作じゃ眉凛々しいですよね」
「本当にどうでもよ過ぎてビックリだな。後ソイツあのひっつき虫がウザいから嫌い」
「映画面白いじゃないかっ(おこ)! あの植物何て言う名前なんでしょうね?」
「放射状の黒い奴を言ってるなら、それは小栴檀草っちゅー奴や」
「へー。流石、物知り」
「(単に機人や攻殻よろしくホシフルイを通じて脳内ネット通信できるだけだが、良い方に思われた方が得だし黙っとこう)まあ噺を戻して、つまりロリータの話、アレは酒の味を知らぬ餓鬼がアルコールをがぶ飲みするみたいなもんだ。いい歳こいてパフェを食べる様なもんだ。無粋だよ。まっ、人の好みをとやかく言わんし、君が可愛いのは認めるがね」
「さらっと甘い言葉を言ってる所を見ると、この人も相当な助さんだという事が解ります」
「社交術だよ。深い意味は無い。俺は可愛い女の子より綺麗な女性が好きだな。ましてや可愛いだけの女で満足できるのは見た目しか知らぬ文字通りのDOTEです。色を知っている奴ならば、もうちょっと視野を広くしたい者ですな。ソレに見た目で言っても、俺は『だ・である調』でカッコ強い女が好みです。『レベルを上げて物理で殴る』、みたいな」
「何だ、やっぱりメー義姉様ですか」
「違うってのぶん殴るぞ」
「(笑)じゃあ歌って踊れる人魚の一番若いくせにピチピチしてない歌が上手い緑の人」
「……? あー、スマン、俺でも解らん。少女漫画ものか? ならせめて解るのは、『鏡で変身』したり『バトンで魔法』使ったり『マグカップから妖精』が出てきたり『TOKYOタワーから異世界』に行ったり『TOKYOで猫ゴッコ』したり『マイメロディ』歌ったり『ホスト部』やったり『クレヨン』描いたり『ハート』集めたり『月に代わってお仕置き』したり『きらりとレボリューション』したりいや久々に見たら可愛いなヒロイン色々と衣装変わって元気があってよろしいですそれに『プリティでキュアキュア』したりやっぱり初代が一番だな次点でハートキャッチでもぼくは神山満月ちゃん! そしてそのいずれも何故か最終回まで見た事ない。別に嫌いなわけじゃないのだが……そう言えば、最近、最後まで見たアニメってないなあ。大人になるほど、何故か子ども向けの作品が印象的に感じる。『メルヘンで天国』や『何とかの法則』のOP聴いてたらなんか憂鬱になったよ。全く、ヤレヤレだぜクソッタレー」
「うわーい(;ー◁ー)」
「これくらいで『うわーい』とか、最近の奴はTV見ないんだな」
「最近の人はランキングに乗る人気作品しか見ないからな。フロンティア精心が足りません。『見る』というより『見せられている』? 映画館も斜陽ですからねえ。というより、世の中が何か倦怠感に満ちている気がしてならない」
「『最近のアニメは萌えばっかりだ』とか言う奴は、アニメの所為ではなく単に貴方がそういうアニメしか見ないだけです。映画でのヤパーナの『静かにしましょう主義』はよく解らんね。大衆娯楽なのだから高尚化するより一緒にワイワイ騒いで見る場所にすりゃ良いのに。後、ウィキ〇ディアで『魔法少女は第二次性徴からの大人への変身』とか何とかマジな解説してて笑った事がある」
「解釈の仕方は様々だらな。アレにかかれば鼠の白い手袋も白人主義に早変わりだ。そんな私の好きなアニメは、やっぱり『FOOLY COOLY』だな! 一番面白いってわけじゃないが、一番好きだね。あの嵐の様な青春の一時が、たまらなく愛おしい」
「あー、ギターぶん回す奴。如何にも学生運動気質な古臭い若者が好きそうな奴だ。俺ぁアレ『現実に帰れ』って奴だと思うんだけど。『勇気出して告ったけどヒロインには既に好きな人が居て置いてけぼりにされましたァ』的な?『よく考えたら俺いらないな』をスタイリッシュにした感じ。棚から牡丹餅な落ちものヒロインと借り物の力で何だかんだで進んで行くが最後にゃどのヒロインも離れ離れ……ハーレム主人公に対する風刺だね」
「まさに『青春の幻影』だな。自分がやらなきゃいけないと思い込むワンマン主人公に対する風刺だ。過ぎ去る時は何時までも美しいなあ。手が届かない故に永遠なのか」
「そんな思考回路で、よくそんな明るい自分を演じれるものだ」
「実は明るい路花さんなのはケイさんの前だけで、家に帰ると他所から借りてきた猫の様に大人しかったり」
「そーいうのはお兄さん同情したくなっちゃうから止めてくれ」
「けれどもそういうシチュエーションに男性は憧れるのでは?」
「うーん、それよりアレだな。ぎゅーって力いっぱい抱き締めて来る子が好きかな。一途な激しい愛情? 抱き締める時のあの柔らかくかつ温かくも苦しい程の圧力感がね」
「むむむ。それは嬉し恥ずかしーしーレモンな路花ちゃんには難易度高い……」
「じゃあアレだ。ベッドの上で自己満足しながら『○○さん……っ! ○○さん……っ!(❤×一億兆』て好きな人の名前を思いながら痙攣するとか、口を口で塞いで泣かせながら服を脱がすとか、目隠しした奴の口にナニ突っ込むとか、あんなに暴れてたのに挿れると大人しくなったじゃねえかとか、裸+外套だけとか、どうでもいいがSMときたらレオタードの女王様を連想する奴がいるがまだまだだね、やはり通はまだあげ初めし前髪の林檎のもとに見えしとき着物が乱れて御代官様する和風SMですよ雪と快楽は女性を三倍以上に美しくすると思うんだけどどう思うああ汚い快楽は無しで」
「そういうのはいいです(ニッコリ)」
「クールだね、ステキだね。ま、冗談だよ。助けを乞う様な女性は御免だね。助けるのが面倒なワケじゃない。土台、俺如きの世話で喜ぶ女なぞロクな……あー、じゃなくて、俺は物臭だから無理だよ。SNSだって仕事が無きゃずっと放ったらかしなんだ。女性は勝手に幸せになってもらう方が都合がいいよ。その為には、やはり強くなくちゃ」
「ふん、解らなくもないな。キュートよりもビューティーに。大魔王を前にして『レオナ姫』が胸を隠すのを止めるシーン何か惚れちまうぜ。戦闘中に恥ずかしがってる暇なんてないよな。ちと擦り切れるくらいの低音で『撃てえええっ!』とかシビれるな」
「言っておくが、今さら方向転換されても扱いに困るからな」
「『キャラなり』……どうせケイさんはスペード派でしょうね。かくいう私もスペード派」
「…………」←言ってる事は解るが敢えて黙ってる。
「ふん、だが真面目な噺、イーミックな視点という奴だ。現代常識から幼女のヌード写真を持っていたらただちに豚箱へ『SLAM DUNK』どころかSF的光線中で社会的抹消だが、当時の常識からすればそれは『純粋無垢』の象徴であり、一般的な題材であり、十三歳でも適齢期だったかもしれないのだ。かくも胸の大きさが大地の豊かさであり生命の象徴であり女性の包容力であったかのように。それが古今東西の芸術観念であり、同時にしばしば莫迦にされる主題だ。人の常識なんぞそんなものだ」
「……どうでもいいが、芸術論とは言え女の乳について喋ってて恥ずかしくないのか?」
「素面で物語の台詞は言えませんよ」
「御尤も。ならば、そうとも、移ろいやすい故に何らかの支柱が必要なのだ。故に『何が』とか『どうして』とかそんな問いはナンセンス。どうして男の乳房は見せて良くて女の乳房は駄目なのか。どうして豚殺しは良くて人殺しは駄目なのか。その理由は」
「次にお前は『そうした方がエンターテインメント的に悪役が解りやすいからだ』と言う」
「そうした方がエンターテインメント的に……ハッ!」
「えへへー♪」
「はいはい。まあそれもあるな。解りやすいのは大切だ。殊に消費者の思考を停止させるほど時代が早く変わり場所が広がる大量消費社会ではな。いやそれは昔からか。どっちが悪か正義か解らない戦争はつまらない。46億歳の星の意志さんはポット出の人間を何故か親の仇の様に敵視する。お約束に手の内をばらすのが王道漫画。愛しか歌えないPOPソングが無くならないのは大衆が望んでいるからで、解らんと売れんからだ。芸術じゃないんだからな。餓鬼にも阿保にも売れなきゃならん。だから今日も恋愛ソングは『アイアイアイアイ』とお猿さんを歌う。愛とは解りやすい資本価値であって、同時に曖昧故に不変であり普遍であり不限であるからだ。愛って言っときゃ何とかなるのさ。勿論、そんなのは気分次第の奴だけで、現実の戦争とか貧困とか、物理的悲劇に居る奴にはどうにもならんのだが」
「『俺の歌を聴けぇーッ!』」
「そーゆー奴に限って言葉の暴力と物理の暴力の違いを知らんのだなあ。火薬と銃の戦争と知識と鉛筆の戦争、どちらも変わらんと思うのだが」
「超能力者ならカンニングも簡単」
「そーゆーのは教師も超能力者ですぐバレるから止めとこうね? 上には上がいると言う言葉を知りなさい。ま、兎角、そしてそれを知らない奴らは『マンネリ』だとか『さっさと会えよ』だとか言うのだが、そりゃ『近くで爆竹やるな』と言いつつ『最近の戦隊モノはCGでリアリティが無い』というようなもんだと、原発問題と同じだと……さて置き。
けど一番の理由はその理由は『駄目だから』だと私は思います。同時反復じゃない。社会が『そう』だと言ったら『So』なんだ。当然だから理由もないのだ。正誤とは多数決で決まるんだ。『貴方を殺さないから殺さないでください』という暗黙の了解だ。ソレが失われれば世界は核に包まれてヒャッハーに成る」
「軍隊アリの集団自殺である『死の渦巻き』という奴があってだな(もしかして:White Wilderness←いや、アレは確か新天地の為の勇気の讃歌)」
「『気楽に殺ろうよ』というCOMICがあってだな」
「あの短編集面白いですよね。『事実と相違する。遠距離上方を受光せよ。分裂していく浮遊水滴集団をふちどる朝の光を。ただちにこの位置から移動しなければ,生命活動停止あるのみ』。ロリータが何か言ってるだけなのに、無駄に文章がカッコいい」
「まあ当時はアレが適齢期だったのかもしれんがな。ヤパーナの明治なんて十二~三歳で成熟だ。しかしアレをロマンスと言えるのかね。あんなの『盗んだバイクで走り出して事故って死んだ厨房の噺』的な若さ故の過ちじゃないか? アレをカンドーと見なすのは、情緒豊かというか、頭が晴れやかというか。文章は放送禁止コードでろでろの昼ドラともすれば官能小説物だし、五日で結婚から死ぬまでやるスピードライフルだよ。まあ、『Roman Holiday』は一日ですがね」
「『ロミジュリ』は好きですか?」
「嫌いじゃないけど、死ぬのは御免だ。喜劇が良いよ。『ヴェニスの商人』の方がまだマシだ。あるいは『セビリアの理髪師』のような。その方が、安心して興に乗れる」
「ふむ。死ぬのは嫌ですね。運命は打破するものです。『シャウトシャウトシャウト』! しかし物語というモノは、明確な正義と悪がいて、その衝突と浄化によるカタルシスが世間受けするわけでありまして……事実は小説より奇なりと言いますが、小説の方が、よっぽど生きていくのは難しそうです」
「奇抜でも何でもないよ。ありふれた結果さ。ロリータとかアレだろ。青春時代にそーゆー経験がなかった奴の自己満足だろ。ソイツが学生服を着てたらなおソレだな。現実と妄想をごっちゃにしてはいけませんよ。まるで青春の押し売りだよ。売春だよ。自分より若いアイドルにヒャッハーしちゃって……全く、情けない」
「最近は転生ゴッコというのがあるらしいですよ。文字通り生まれ変われるらしいです」
「もう何が何やら。けど女性なら『かわいい』より『きれい』だな。そういう女性を口説くのが燃えるのだし、現実を見るなら、即戦力のあるしっかりした女性が良い、何時までも子供のままでいられるワケでもあるまい。そりゃ、お前は子供でもよくやるし、年齢でどうこう言うのは時代錯誤もいい所だし、異界者にその価値観を押し付けるのもまた無理矢理だというものだろうが。しかしパッションな子女に惹かれるというのは、何かアレだ、自分が疲れてるから元気づけられたいという老人みたいな考えで何か嫌だ。それよりも大人の静かな物腰で何もかもを抱擁してくれる知性と気品と礼節の在る淑女が……アレ、これ結局、甘えたいだけなのか?」
「ケイさんは、普段はちゃんとしてますけどたまに根を詰め過ぎて破裂するタイプですね。そんな時がアタック☆チャンス! 優しくサポートしてあげましょう。しかしそういう人はプライドが高いので、此方からは決して話しかけず、相手がリラックスする流れにそってさりげなく気配りするのがベターです。そうすれば貴方の存在感もグッとUP!『コイツがいるだけで安心する』というのがが大和男性には良かですね。強い一時の押しより、弱い常時の押しを。恋は先ず、意識させる事から始まります」
「誰がお前に弱みなど見せるかバーカ。俺の安住の地は決まっておるのだ」
「メー姉様?」
「ありゃ誰からも好かれるだろ。俺は違うけどな」
「天邪鬼ですねえ。本当は若い燕のくせに」
「ちげーわい。コレは、アレだ、『他と違う俺格好いい』っていう奴だ。インスタントラーメンを茹でずにバリバリ食べる快感だ。だから、好きとか嫌いとかは、関係ない」
「一の失敗を十の失敗で隠すスタイル? 因みに私は強くて大きくて頼れる人が好きですね。『あしながおじさん』みたいな人が安心できます」
「『あしながおじさん』なんてそれこそ『ソレ』じゃないか。毒牙一発」
「どうしてそうヒネクレタ見方するかなあ」
「遊びなら楽な方がいいけどな、真面目にするならお堅い女だ。ま、俺は『幸を共に歩む女性』ではなく『不幸を共に歩んでくれる女性』が好みです。幸せにしてくれるからじゃない、不幸でも構わないという伴侶がね」
「何か深い気がする! 私もヒーローに助けられっぱなし奴隷ヒロインよりは奴隷の売り手組織を壊滅させるぐらいのマルドゥックな活劇が良いですね。成長シーンがゾワゾワします。けどそれって相手を幸せにする自信がない予防線では?」
「心読まないでくださいよ」
「読んでませんにょ」
茶番休題(ここからも茶番)。
「ま、せめて途中で燃料切れにならないくらいにはならないとな」
「な、ナニをー! ケイさんなんてホシフルイさんがいなければただの人間族! 私がちょっと本気出せば脳味噌物理掌握でイチコロなんですからね!『私が両手をひろげても お空はちっとも』飛べる。瞬間移動も可能。正に高みの成層圏見物! ケイ様は精々そこで綺麗でも無い音で唄っているがいいですわフハハハハハ!」
「お前のたんこぶでサーティワンアイスクリーム作っちゃる」
ワンニング・グッドモーニング! 路花は水に溺れた子犬の様にわたふたした。いや待て待て冷静になれ。クールだ、クルクルクールになるんだ「Don’t panic」。コッチは三十m以上も高い空を飛んでんだ。地べたを這う獣如きに鳥を捉えられるワケが――
路花の横を影が過った。その進行方向は下から上。路花がその軌跡を追うと、「おっと、行き過ぎた」そこには跳び上がったケイがいた。「ワー!」と逃げようとする路花を縄が捉える。ホシフルイが変化したのだ。そしてそのまま固まってケイの足場と成る。
「うーむ、二人分支えるとは流石「きゃー! ひゃー! ひー!『命が危険だ 命キケーン!』」筋力では持てないくせに超能力では持てるってのは、ホントどういう原理な「ひあー たーすーけーてー」そのエネルギーは何処から来「や、やるなら優しくし……ああっ! やっぱりダメ! ダメだぃょぅ! 怖いよーぅ……」まさかお前が言う通り全部が全部腹に溜めたカロリーじゃあるまいし……」
そうケイは路花に言ったが、当の本人はテンパって「ななな殴りますか!?」と助けを懇願して聴いてない。ケイは「殴ったら泣くだろ」と肩をすくめ、次いでホシフルイを「Crack」と折って「ほら、これ使え」と路花の頭に突き刺した。
「イタイ!?」「ホシフルイが触覚になってくれる」「バリ3?」「5じゃね?」「これちゃんと抜けます?」「抜けるからあまり触るな、脳みそフリるぞ」「えー! ちょ、イヤです、怖いです、早くぬイテテテテテテテ」途端、路花が何やらエクスタシったように痙攣しだした。片目が勝手に変光し口が金魚の様にパクパクする、そして、「コチラバックベヤード。アマテラスハ非核三原則により自国ノ核爆番使用ニ賛同セズ、然レド核ノ使用権ニ興味アリ。コレデマタ戦争ガ起コセルナ、HAHAHA」何か路花がバグった。ワケの解らぬことを供述する。
「路花、ちょっと黙れ。何かヤバい情報が流れてる、おい止めろ、マジで止めろ、俺はそんなB級アクション映画に関わりたくない!」ケイはソレを聴いてギョッとし、路花を無造作に叩き始めた。鼻をつまんだり口を閉じたり頭を揺らしたりする。「くっ、コレはアレか、ヤパーナの伝家の宝刀を使うしかないのか……!」そう言い、ケイは手を固めた。拳ではない、それは刀。手刀。路花の頭を狙い……斜め四十五度! その手刀は空を斬り裂き鋭い音と共に放たれる(どう見ても×す気マンマン)。が、「『わっ! わー、ビックリしたあ。どうしましたか?』」
素早く路花が反応し、その攻撃を白刃取り、というより手刀取りした。いやというより、というよりも、そもそも彼女は路花ではなく、この、朝凪の海を感じる瞳は――
「あ、あれ? メリューか?」
路花の片目が変光するように眼の色が変わっていた。
今や路花は路花ではなかった。知的で落ち着いた、静謐と言う言葉がピッタリな「お姉さん」という雰囲気だった。……あ、いや別に路花が知的じゃないワケじゃないが、まあ比べるとやっぱり、うん……まあそれは兎に角、路花はお道化るようにニコリとして、
「『当たり。ビックリしました?』」
「アンタがビックリしてたじゃないか」
「『そうでした』」
そう軽く笑うと路花も笑う。どうやらすっかりメリューの心身が反映されているようである。これは一体、どういう事か。
「『憑依』か? ソイツはそんな事まで出来るのか。本当、手札が多いなあ。少年漫画じゃあ、『能力は一人につき一つ』が原則なのに」
「『それも出来ますが、是は精神感応の上位互換、『同調』ですね。まあ上位互換と言っても、解離性同一性障害の一歩手前で非常に危険な状態なのだけど』」
「泥人形よろしく、か?」
「『アレは他の魂による超新星爆発や黒洞よろしく自重崩壊ですから、少し……。まあ大丈夫ですよ、入っているのが私ですから、『……きこえますか…きこえますか…ケイさん…メリューです…今…あなたの…心に…直接… 呼びかけています』的に考えれば』」
「アンタがそういうネタを振るとは思わなかったな」
「『今時の子ども達はこういうのが好きで……けど、そうですね、路花の思考傾向がうつっているのでしょうか。ですが、変ですね、路花の意識にかかわらず繋がるなんて』」
「ホシフルイを頭にブッ刺してんだが、ソレが原因かも」
「『また無理な事を。もっと可愛く扱ってくれないと』」
「やってるさ、俺なりの愛情表現で。ソレにお前は何時も言ってるだろう?『優しい』のと『甘やかす』のとは違うと」肩をすくめてそう言った。「で、何か用ですか?」
「『ああ、そうですね。お茶会をしている場合ではなかったですね』」と、雰囲気が変わった。朝凪のような、嵐の前の静けさのような。「『けど私から言うよりコッチの方が早いかな。周波数を合わせますね。路花、お願い。…………路花?』」路花もといメリューは傍から見るとアレなように一人芸をし始めた。もう一人の自分に話しかけ、自分の尻尾を追うような不毛なやりとりをしたのだが、最終的に、「『……えい』」
BZZZZT!、っと何やら路花がショートした。そしてケイが「お、おい、大丈夫か?」と流石に心配した瞬間、
「《NNN臨時ホ――ソ――――ッ!》」
また路花がバグった。「ZZZZZAP」と砂嵐音にも似た音が路花の口から路花の声ではない声で出て来る。ソレは徐々に寝ぼけ眼の焦点が合うようにクリアになっていく。やがて聞き覚えのあるゴーストの声が囁いてというか叫んでくる。「《毎度よろしくコチラ『ナンチャッテ・ニューク・ネットワーク臨時放』略して『NNN』! 今日もホットでフレッシュでニュークなニュースを~~って時間無い? 了解! 何と今現在、今巷で人気の『灰泥人形界異』の黒幕さんと回線が繋がっています! ANIMEよろしく『速くTVを付けて!』なーんて言われてタイムリーにこの番組が見れた人は今日一日良い事あーあハイハイ時間がプッシュしてるんでしたねー。ではぶっつけ本番、彼に代わってみまみSHOW。ダディさん、ダディーさSSSSSSSSSSSSSSSS》」
思わずケイは片目を瞑った。酷い連続音が発せられたからだ。といっても路花の不調ではない。どうやらニュースの言う黒幕とやらが回線を乗っ取ったようだ。次いで聴こえてきたのは、ゆったりした(というかぼんやりした)声と、大人の声。
「《お父様、繋がりました》」
「《ん、宜しい。では……やあ、淑女及び紳士の方々、初めまして、調子は如何かな? 私が此度の灰泥人形、A∴O∴のパラノイア集団の言う所の『小人界異』という奴の黒幕、『我等芥の神様』、言うなればそう、【人形王〈ピュグマリオン〉】! 公共メディアなんかで世間様に顔出しするのは初めてだからちょっと緊張するよ。ところで――
空から落ちて来るヒロイン! 突如現れる怪獣! 闘いと混乱に満ちる街! 私の興奮が少しでも伝わったかな? まあ別に伝わらなくても勝手に始めるけど。え? 何? 界異を起こした主題? コレだから素人は。少年漫画と同じだよ。人を殺すのに高尚な理由などあるものか。ただ何となく、何となくだよ。『今日は天ぷらの気分』ってくらいに何となくだよ。つーか教えるか。ただ、何だ、まあ敢えて言えば、できれば大いに騒いでほしい。月夜に悪魔と踊れ……時間だ。それでは始めよう。You ain't heard nothin' yet! It’s―」
BLAAAAAAAAAAAAME!、と爆発した。路花ではない。かといってニュースでもない。ケイの横で爆発していた。上空にいなければ見えない程の距離だが震える空気の振動が伝わるほどの大爆発。その光はすぐさま炎と音と煙に変わり、またやがて者々の悲鳴に変わるだろう。ケイの方は呆気に見つめるだけで、まだそれを声に変えられない。だからニュースの音は変わらず流れる。
「《おい、テープを回すタイミングが早すぎるぞ。これじゃ喜劇じゃなく笑劇だし、此処は欧米で英国じゃないし、ラフ・トラックなんて無いんだぞ?》」
「《えー? あぅ、ごめんなさい、お父様。まだ少し、ふ、ふわあ~……》」
「《やれやれ、まだ寝ぼけてるのか? まあ仕方ない。長い台詞を噛まずに言えただけで満足しよう。何せ、役者は噛まない事が前提だからな。いやあ、練習した甲斐があった!》」
「《物語の役者は、台詞の練習などしないのでは?》」
「《ん? ……あ。あー、あー、あー。まあ、細かい事はいいだろ。ともかく、だ。さあ! 幕は上げられた。楽しみ方は自由、大いに騒いでくれ。ではまた。Good Luck》」
「《はい、ぐっら~く♪》」
「《……………………》」
「《…………………………………………》」
「《……ん? これもう念線切ったのか?》」
「《はい、切りましたよぉ。オチはどうしましょうか?》」
「《さあ? 適当に爆発でもすればいいだろ。さて、これが終わったら何をしようかな》」
「《今から皮算用ですか?》」
「《出来る者は常に十歩先を考えるのだよ。次はもっとギャグめいた事をしよう。そうだなあ、そうだ、規制しまくる倫理委員会に喧嘩を売るために、媚薬を撒き散らす怪物とか、殺傷能力はないが触れただけで妊娠する怪物、とか造るのはどうだろう。『フィロソマ、受精完了』、みたいな》」
「《えっちなのはいけないと思います》」
「《私は大きな子どもに夢を与える紳士だ。気になるあの子を物にしたければ何時でも寄付金を受け付けて》KIIIIIIIIIIINE!!!」
と、放送事故よろしくな回線は突然切れてしまった。正常で清浄な音響に戻る。その事に事に爆笑していたらしいニュース側は回線が回復した事に気付き、「《すわ! やあ、然しもの私も眼玉抉ってナニを突っ込むのはちとドン引き……あ、えーと、ハイ! というワケで黒幕さんからのお電話でしたー!》」と先までのぼくのかんがえたさいきょうのぷれい談議は無かった事にされた。「《やあ何か変態もとい大変な事になってきましたねえ。さてこの界異に黄金狂世界や現界連合、そして我らがランナー達がどう行動するのでしょうか。我々はこれからもというか現在進行形で追って参ります。では一旦……あ、そうでした! 今回のニュースは黒幕さんからアプを貰ったのでありまして、我々NNNが界異を示唆したとか協力したとか騒ぎ立てようとかは一切しておりません。ですが面白い話題なら何時でも募集しておりますので皆さんも振るってご応募ください! 電話番号は円周りTTTTTTTTTTTTT》」
思わずケイは引いた。酷い不協和音が発せられたからだ。といっても回線が乗っ取られたワケではない。今度は路花の不調である。次いで聴こえてきたのは、「《ツ――――……》」という心音が止まった様な音。次いで、「ブッ」と電源が切れ、そして空飛ぶ少女は夢から覚めたように堕ちていく。「……っておい」ケイは驚きつつも落ち着いて対処した。ホシフルイを解きつつ自分に寄せ、路花を抱えて着地する。
「出会いといい、今といい、何時も唐突だな、全く。……大丈夫か、路花」
やれやれと肩をすくめながらも、そう路花を気遣って言葉をかけ、手の甲で頬を叩く。アノンもケイの肩越しに何時もの呆とした顔で見つめる。やがてゆっくり路花は眼を開き、
「『路花は?』」と自分自身の事を訊いた。
「怪我はない。恥ずかしさで心の傷は出来そうだが」
「『そう、なら大丈夫ですね』」そう言って、ふとケイの腕に居る事に気付くと、くすりと笑ってから地面に降りた。「『超自我が飛んだのか……思ったより混線している。路花でこれなのだから、きっとさっきの周波合わせた機器は軒並みトんだでしょう』」
「後、超音波染みた閾下信号も飛ばされてた。よく読めなかったが、『Emgage』だとか『Fack you』だとか『A good gay to XXX is tod―」後の言葉は爆音でかき消された。どうやらまた何処かで爆発が起こったらしい。「こりゃマジだな」
「『そう。ならこれ以上の念信は止めましょう。路花まで侵されたら困るから』」
「そうなったら薄い本だな」
「『薄い本?』」
「忘れてくれ。その前にメリュー、俺はどうする?」
「『始まりに変わりなし。着地点はソチラに。他に何か?』」
「……いや、ない」
「『本当に?』」
「そんな寂しそうな顔しても頼らんからな」
「『残念。じゃあこれで……ん? どうしたの、アノンちゃん』」メリューはジッと見つめるアノンを見返して言った。ケイが事前に報告していたのだった。メリューはしばしアノンを見返し、不意に、「『それは私の答える事ではないですね』」と言った。次いで優しく微笑んで、「『ただ、それが貴方の決めた事ならば、私で良ければ見ててあげる』」
穏やかにそう言った。その言葉にどう思ったか、アノンもまたしばしメリューを見返していた。ただケイだけが話に付いていけず、「何だ? コイツは何て言ったんだ?」とメリューに対しそう尋ねた。それに対しメリューは笑ってこう答えた。
「『貴方の事が好きだってー』」
「んなの見りゃ解る」
「『あら、そうですか』」くすくすと笑った。幼い顔にしては優しく雅な笑みだった。「『兎も角、いよいよ劇も最終幕という所。舞台に乗り遅れぬように……期待しています』」
「ああ、魅せてやるぜ」
「『ええ、見ていますよ』」そう、やはり微笑んで、「『じゃあ……Break a leg』」
「ん、God be with you、なんて今更か、じゃ、Star be with you……じゃあな」
それで台詞は終わった。そしてアノンが立ち上がった。
「『どこへ行こうというのかね』」
言ってケイは口を閉じた。んなお約束な台詞を言わんでも。そんな気持ちは露しらず、アノンはアッチとでもいうように指をさす。狙ったか狙わなかったのかそこはトイレ。
「花でも摘むにか、『琺瑯の眼の乙女』?」ケイは外套を脱いで地面に敷いて、その上に路花を寝かせる。「放浪者よ。お前が俺に近づいたのはホシフルイの為か? それとも偶然か? まあそんな事はどうでもいい。物語など偶然と運命の相互作用、結果論な必然だけ。それよりも問題は……」そして立ち上がり言った。「税抜き。『でりこっこ』1$」ケイはアノンの「?」というボケっとした表情を無視して続けて述べる。「『ミートエリア』53$。『昇竜房』79$。『パンタジスタ』28$。『レスラリア』190$。まだまだあるぞ。コレだけ食っといてコッチにゃ一口も食わせもせず『はいさよーなら』は、ちょっとツれないんでネーノ?」ケイは皮肉っぽくそう言った。しかしアノンは平常運転、ぷいと無視して、ケイに腕を掴まれたまま窮屈そうにズルズル前に進もうとする。それに対しケイは、「冗談、冗談だよ。可愛くて餌付けしたんだ、値段は要らんよ……だが、」
と手を離した。いきなりだったからか、アノンがたたらをふんで、コケる。立ち上がって「何をするのか手前コラ」とでもいうようにケイを振り返ると、その額にホシフルイが向けられていた。銃の形をしたホシフルイ、敵意を弾丸にして撃つ形。
「コッチも仕事でな。勝手するというのなら俺はお前の敵になる。だができればやりたくない。まあ情という奴だ。それに、お前は可愛いしな」肩をすくめてニヤリとした。「お前はどうだ? 俺達の敵になるのか? 俺の事はカッコいいか?」
しかしその瞳に油断は無い。指は引き金にかけられ、銃口は必死の瞬間を狙い撃つ。敵になると言うのなら、それは躊躇いなく凶器と成る。そして同時にこんな事を考えている。「コイツ全然瞬きしないな」と。その瞳は変わらず、その夜の海の様な蒼さでケイを見返す。相手の奥を見透かそうとするように、またそれによって逆に自分の奥を見させようともするように。あるいはケイの瞳に映る自分に、自分自身を見るように。
道化た瞳。何も考えていないような。一体、お前は何をしたい? それに応えるように、アノンはゆっくりと立ち上がった。
「敵意はない」
「なら――」
「けど、愛がある」
「何?」
アノンがケイに抱き付いた。蜥蜴人間の素早い動きに反応したケイも、これにはほとんど反応できなかった。唐突だったからではない。その動きがあまりに自然だったからだ。子が親に甘えるような無為さ。不自然さが全くなく、その動きは無意識。
――命令されたからじゃない。私がそうしたかったから。
ケイは驚いてアノンを離そうとした、が、その前にアノンからゆっくりと離れた。その腕は異形だった。己の体躯ほどもある破壊の形。それは色鮮やかな黒色だった。血である。アノンのではない。ケイのである。ケイは自分の腹部をなでる様にして触れた。欠損はすぐさま治るものではない。というより、向こう側が見える程で――
「あん……?」これにはケイも堪えたようだ。身体を震わせ、アノンを見て、しかしニヤリと笑って言った。「お前、いきなり、コレはないだろ……」
子どもの瞳に敵意は無かった。ただケイを見返すだけだった。人を食っているのか、呆けているのか。
(なんて道化た眼をしてやがる)何も考えていないような。あるいは「それでもいい」というような。(くそ、だからガキは嫌なんだ。コッチの気も知らないで、何時も勝手に――)
それ以上の思考は続かない。泥の海に引きずり込まれるように沈んでいく。光を映す視界はぐらりと揺れ、すぐに何も見えなくなった。
《WUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUWWWW!!!》
災害警報を知らせるが如く、けたたましい騒音が街全体に鳴り響いた。それは異形が出現した標。ヤバい奴が現れた緊急警報。うるせい奴らがバカ騒ぎを始めた舞台の始まりの合図である。
幕が上がると共に入り乱れるは歓声と光。闇鍋の如くあらゆる役者が目マ狂しく掻き混ざる。壊れた街路灯が役者を照らす。その役者は何も人間族とは限らない。
「うわわ、灰泥が一杯」「『何が始まるんです?』」「『第三次世大戦だ』……ぢゃなくて、今から防衛戦って所かなあ、ねえアルルカ」「まさか。最初から親玉に殴り込みだ」
四者四様、リィラからアルルカは灰泥人形を倒しながら進んでいた。当てはない。進行は楽し気に銃を撃っているトリガーハッピー(ウェンリー)に任せている。
果たしてそれは夏の夜の夢の莫迦騒ぎ(スケルツォ)か、はたまた禿山の一夜であるか。ダッタン人は剣で舞いながらギャロップし天国地獄大地獄。気の抜けたうぃりあむ・てるーが「命を大事に」と言いながらK.626並の鬼気で高速でタイプライターを打ち付ける。おお、友人よ、調べを変えていざ声高らかに打ち上げん。我等が歌うは歓喜の詩! 楽よ 愛しき天の光よ 天津楽園の娘よ 迎えよ 我等は火の様に酔いしれて 貴女の秘部へと埋没する 汝が手ば結ばん 白も黒も皆友ぞ 奇しきあやに 生きとし逝くる者皆友ぞ 汝の柔らかな肢体の中で。
街は今やイカれた遊園地の暗夜行路。空はスモッグの暗幕に暗く、方や地上は硫黄の火の照明に輝かしい。建物、車、信号、木々、道路、通行者、およそ何処を見ても壊れ傷付いていないものはない。ランナーや特機隊は各々の目的に沿って動いている。敵は上から布を被ったような百鬼夜行。泥だか影だかわからない不気味な不定形のお化けである。のっぺらとしたそれに形があるなら、それは取り込まれた者か物か。それらは獣も蟲も機械も果てはお化け同士さえも取り込んで、もはや自分でも何者か解らない。小さなものは手乗りから大きなものは怪獣までうあーうあーと学生運動をしている。ダウンフォール作戦を決行する。
《WARNING! It‘s EQ『HOMUNCULUC:ID/C―126 R/B+er』.The event in various place ex――》
警報が界異の詳細と発生地点を放送する。訳すると「警告! 緊急クエスト発生『小人界異・C―126号 難度B+以上』 界異は都市各域にて発生しなお拡大中――」。
「四人パーティーで闘うのは体力的に不安じゃないですか?」そんな放送が響く中、リィラはそう他のランナーと協力する事を提案する。するとウェンリーが「RPGの基本は四人です。異論は認める」と何か言う。それに対し流夜は「協力プレイは面倒スなぁ」という感じ。三者三様別々の意見、しかし最後に彼等は皆同じ方向を見た。見られた者はこうぼやく。「君達、俺は君達が思ってるほど年上じゃないからな?」
だが年長者のアルルカは慣れた様に指示を言った。
「俺の意見を選択。二手に分かれて、戦力が乏しければ道端のランナーを引っ掛けろ」
「わ、分かれるんですか?」
「心配かリィラ? 何、俺達は割と強キャラだ。そう簡単に退場しないさ」「フラグ一丁入りましたー!」「ウェンリーうるさい」「ちゃんと黒人を仲間にしろよ?」「流夜最近はそれ使えないんだ」「まあご想像の通りそいつ『ニャル』ですけどね」「敵味方識別無しか?」
「い、いや、そうじゃなくて……」
「あん? あー、ソッチか。まあ無茶しなければ大丈夫だろ。いざとなりゃウェンリーを盾にすればいい」「『オッケェー。我が命に代えても』(親指グッ」「冗談だ」「は、はあ……」「それに――」
そう言ってアルルカは眼を遣った。そこには巨大なビルがある。それでリィラとウェンリーもそれに気付いた。ランナーと灰泥が争う中、それを物ともしない腹に来る地響きが伝わって来る。戦車? 戦闘機? 怪獣? 地震? 地響きはいよいよ大きくなり、次の瞬間、目の前の建物を粉砕して姿を魅せた。
『PGYAAAAAAAAAAAAAA!』『うわあああああああああああああっ!?』
虫の声とソレを見た者の声が激しく和音る。現れたるは怒りで我を忘れ眼を日の如く燃え上がらせた蟲の王、邪魔する者は蒼き衣を纏いし者さえ押し潰す装甲車、「強引グマイウェイ」で我が往く道にあるものは全てを喰らうハングリーワームだ!
「うわあっ!」とウェンリーは驚いて立ち尽くすリィラの腹にタックルしつつ回避した。キャタピラよろしく硬質に突起した百足脚が混凝土を削りつつ二者を横切る。その脚を文字通り目と鼻で見るその恐ろしさときたら鼻先にチェーンソーを突きつけられたようであり――恐怖で意識が戦術的撤退を発令しないのは幸運だった。竜巻のような巨大装甲蟲は脇目もふらず走って行き、後にはポカーンとその尻を見つめるランナー達が残された。
そんな中、アルルカは何事もなかったように台詞を続ける。
「それに、アレを追う役が必要だしな」
「え、えーっ? じゃあアレ私達がやるんですか? 別に他の方達でも……」
「そりゃお前等より上手くやる奴は一杯いるさ。だが俺はお前達の踊る姿が見たいの」
「え、えー?」
「ああもう可愛いなあリィラは! 困った顔が超キュート!」「煩い」「ま、なるようになるさ。NEVER SAY “NEVER”!(GO,GO!」「何時も楽しそうねえ貴女は」「楽というワケじゃにゃいけどにゃ」「そうですか。……はあ。全く、ヤレヤレだぜ。そんなに楽しそうに言われたら、断るワケにもいかないじゃないですか」「Yeah! それでこそリィラ! 我らが白星! んじゃまあ、そろそろ茶番も終わりにして、他に出し抜かれる前にヤってやりますか!」
そう言って、ウェンリーは足を踏み下ろした。出番だぞとでもいうように、大地を踏み鳴らし心臓を鼓動させるように。その想いに応えるは放電、発熱、鮮烈閃光。
「出ろ! 撃進の陸番(COM/RⅥ)――〈LD―12000〉!」
その宣言と同時にその鉄の馬、というより「小さな恐竜」が現れた。地面に構築されたのはデコ助野郎が「ピーキー過ぎてお前にゃ無理だよ」とでも言われそうな、真紅の概念二輪だ。しかし一人乗りである。ので「ちょっと待っててね」と言って、不意にウェンリーが後輪の上にある装甲を蹴飛ばし折ってしまった。
「はい、どうぞ」
「えー? それ折っちゃって大丈夫なの?」
「Ya.概念武装だからすぐ治る」その言葉通り、すぐに折られささくれだった部分は滑らかな形へと変わった。ウェンリーはリィラをその部分に乗せ、自分は運転席に乗る。ゴーグルをかけ、同じものをリィラにも渡す。髪が絡まると危ないので髪ゴムも渡し、リィラは髪を高い所で一尾にする。「振り落とされない様にしっかり掴まっててね」「あ」「何?」「私こういうの乗った事ない」「大丈夫。足元を絞めて、逆らわず身体を倒して、後は流れで。ぎゅっと私にしがみついてね。ビビッて腰を浮かす方が危ないから。ま、私を信頼しなせえ。さあ行くよ。『乗り遅れたら困るぜ』」
その通り、既に周りは呆けておらず、ランナーや特機隊は駆け抜けて行った装甲蟲を追っていた。これ以上、前座にもたもたしていられない。
「じゃ、行ってきますわ。日光仮面も切り裂き抜刀斎もお元気で」「あ、頑張ってください」
「応、ソッチも頑張れよぉ」「頑張ってねー、ってそれは薫殿がキレるでござるよ」
「あはは、冗談冗談。よーし行くぞ」
ウェンリーは鍵を押してエンジンをかけた。冷気を引く超伝導モーターに電気が走る。女神に息を吹き込まれたように心臓を鼓動させる。車輪に眼を奪われるような蒼碧の光が放電する。出発の準備は整った。さあ行くぞ。イグニッションON! 電料コック開! チョーク引! キック! 3、2、1……ッ!
「『Engage』!」「あっ、あんまり速いのはやめっ、キャ――――ッ!?」
ウェンリーは行き成り全開加速にした。流れる様なクラッチでトップギア。電撃車輪の小さな恐竜は唸りを上げ高速徹甲弾のような加速力でリィラの悲鳴を連れ、金紅の照明と銀蒼の電影の軌跡を彗星の様に描き残し、すぐさま遥か彼方へと消えて行った。
「けたたましいなあ。『大丈夫だ、無事に行ったようだよ』ってか?」
「『ある男が偶然出会ったとびっきりの美女と一夜を過ごしたその朝、起きると女性はいなくなっていた。何か盗られたというワケではなく、ただ先に帰ったようだ。しかし男もまた帰ろうと思い身づくろいのため洗面台に向かうと、鏡には口紅でこう描かれてあった。『Welcome to the world of AIDS!』」
「洒落にならん……」アルルカは二者を見送って肩をすくめた。次いで、おもむろに空を見上げる。「ま、ガキはあれくらいで丁度いい。世の中を引っ掻き回すのが仕事なれば。さて、では大人の俺達は……もう少し上に行ってみますかな」
上? と、流夜もその動きにつられて空を見た。すると、
[UNK>>ANY()] [EOF]
音を吹き飛ばす音というのか、そんな音が鳴り響いた。意味も何も無いくせに容量だけはデカかった。しかしそれは大気を震わさず電子メールの要領で送られてきたのであり、加えて強制受信であり、電子機能を持つ機人は鍵も配線用遮断器もガン無視され文字通り頭が爆発し、そうでないものは神経が物理的に焼き切れるか放射能よろしく発狂した。尤も、それは抵抗値と許容量の少ない者の証拠である。アルルカと流夜にはその程度の存在など問題ない。とは言っても、呆けっとしていた流夜は不意打ち気味に「ぎゃっ!?」と静電気に痺れる様に飛び跳ねたが。次いで、
[UNK>>ANY()] Goin' home, goin' home, I'm a goin' home; Quiet-like, some still day, I'm jes' goin' home. It's not far, jes' close by, through an open door―[EOF]
とその音の主は公共放送をやり始めた。その容量の凄まじい事。安物の機人はその音だけで処理速度が鈍る鈍る。しかも相手の回線速度も優先度もお構いなしで送り付けて来るもんだから、もはやただのウイルスである。そのくせ、流夜には解る、相手はノリノリで歌ってる。自分でも意味さえ解っちゃいないだろうに、その歌が何か素晴らしい物だという感じだけで歌ってるのだ、あの物体は。あの空で悠々と月か星の様に浮くアレは。
そこには大きな影が在った。アレは何だ? メテオか? ミサイル? まあどっちも変わらんが。兎も角、アレはUFO。え、UFO? 先の巨大装甲蟲に勝るとも劣らない未確認浮遊物がそこに在った。空を映す高層ビルのように蒼く浮かぶプリズム。何でも八面体でファーファー鳴いているのを記憶している。我は全てを楽にする。否楽そのものすらも感じ得ない。日月を切り落とし天地を粉韲して不可思議の太平に入る。死んでこの太平を得る。太平は死ななければ得られぬ。爬行する鉄の王女。絶えず自壊する泥の人形。結合せよ。反発せよ。地に満ち己の無力を知れ――――破道の九十「黒棺」。南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏。ありがたいありがたい。ミョウバン可愛いよミョウバン。
「行くぞ、流夜、ファブラ。粋にやろうぜ」
アルルカは笑う能面で言った。それに対し流夜は「Turn me on♪」とニヤリとし、ファブラは《如汝望》と静かに告げた。
――――第伍幕 第壱場 終




