【プロローグ】
そこには熱があった。
風が熱を帯び、大気を熱が覆い、周囲が熱に震え、存在の全てを高熱の力によって引き込んでいく。
その中心に人影がある。
燃え盛るような闘志を発する瞳を持つ少年だ。
全身を纏う揺らめく炎が、その瞳を更に猛らせる。
炎が溢れ出る元は突き出した手の中にあった。
剣だ。刀身が炎よりも色濃い深紅に染まっている。
《燃やせ、心を!》
剣が光りながら言葉を生み出した。
言葉を聞いた少年は更に炎を高まらせていく。
そして剣の切っ先を前方へと向けた。
そこには一人の少女が立っていた。
酷く狼狽した様子だ。今起こってる現象を目の当たりにして固まっている。
尚も激しさを増していく炎を見て、やおら動き出した。
最初に動作したのは唇だった。しかし第一声はまともな音を出さなかった。
少女は一度唇を舐めてから軽く噛み、渇きと震えと消すと今度こそ喉から絞り出した。
「何なんですの……あなた『たち』……!」
少女は言い終わると同時に腕を振り上げた。
それだけで虚空だった場所に四本の巨大な氷の槍が姿を現す。少女の腕から伝っていく、冷気がそれを生み出していた。
辺りの熱にも溶かされない鋭い氷だ。
少女の腕が振り下ろされると、全ての氷の槍が一斉に少年へと向かっていく。まとわり付く熱気をも裂いて飛翔する。
対する少年は動かなかった。
激突する。だが氷は身体を貫く前に、その役目を終えていた。
少年の炎が眼前で唸りを上げて防いでいたのだ。
槍の切っ先を瞬時に溶かすと一気に槍全体に回り、衝突で生じた強風となって霧散していった。
少年は何事もなかったかのように一歩を前へと踏む。
そして応じる。少女から問いに、だ。
それも声は二つあった。
少年と剣のどちらもが答えを繋ぐ。
「オレは……!」
《我は……!》
加速する。
一歩を踏む度に纏う炎が脚元から踊りだすように飛び出し、本体よりも前に出る。また背後にも噴き出し、それが炎の壁となって少年の身体を後押していた。
躍動していく。付き従う熱を引き連れて。
炎が行く。
重なり合う声と共に。
『――炎の反逆者だ!!』