子供の話
段々と暖かくなり始めた5月4日、本が大量に積み重ねられている部屋の中に置いてある机の近くで中学生位の白いワイシャツにジーンズ姿の色白な少年が安楽椅子に座って黒い本を読んでいる。
しばらくするとトントンと階段を降りる音が聞こえ平淡な声がとんできたきた。
「ネイ掃除をしますから、店の外に出るか地球から退去して下さい」
「ん~、これを読み終わったら動くよ黒羽くん」
黒羽と呼ばれた黒一色のワンピースを着た長身の女性が顔に感情を全く出さずにネイと呼んだ少年の座っている椅子を下から持ち上げようと手をかける
「まってまって、分かったから椅子ごと外に投げようとしないで」
ネイは急いで安楽椅子から降り本を持ったまま外に出た。
10分ほどして中から入ってきても良いですよ、と黒羽の声が聞こえネイは店の中に入る。
全く店の内装は変わってないのだがホコリはなくなっている。
「ずいぶん部屋がキレイになったね~、流石黒羽くん」
ネイが部屋の中を見回しながら黒羽を誉める
「脅迫されるまで動かなかった貴方に誉められてても嬉しくありません」
黒羽はそう言って背を向けて早足で2階へ行ってしまう。その背を見送りながらネイは呟いた。
「素直じゃないねぇ」
5月4日、夕焼けでオレンジ色に染まった空の下。公園で僕は1人でブランコを漕いでいた。僕の名前は土浦優太と言いこの公園の近所、歩いて5分ほどの所に住んでいる小学2年生だ。
とっくに帰る時間は過ぎているのだが僕はしばらくブランコをキィキィと漕いでいた。どうしてだか分からないが最近両親の仲が悪くなっている気がするのだ。そのせいで家の中の空気が悪くなって居心地が悪い、だから家に帰りたくないと僕は思っているがそこは小学生なために真夜中に家に帰る行為もお金的にできない。仕方なく家に帰るため歩き出した。
明日は子供の日で一年前はみんなで楽しめる祝日だったのに今年は嫌な祝日になっちゃうかもしれないそんな不安を少しでも薄くしたい、そんな気持ちもあって遠回りをした。
今は珍しい家と家の間の裏道に入っていった。
少し歩いて僕は裏道はこんなに長かったっけと違和感を覚えた。しかし開けた所が見えその考えを止める。
開けた場所を見渡した僕は固まった。なぜなら、明らかに見覚えがない場所に立っていたからだ。
そこには古ぼけた木の看板がかけられた店らしき年期のはいった木造の建物があり看板には筆で書かれたと思われる達筆な字で『運命屋』と書かれているがなんと書いてあるか分からないが好奇心で引き戸を開けて中に入ってみる。
店の中には大量の本が一本の真っ直ぐな道を形作っておりその奥にある机の側の安楽椅子に中学生くらいのお兄さんが白いワイシャツに黒いジーンズという微妙な格好で黒い本を読みながら座っていた。
「おかしいな、今日はお客は来ないはずなんだが。まあいい、たまにこうゆう事もある。特に子供は入りやすいからな」
お兄さんは何か意味の分からないことをぶつぶつと呟いた後僕の方に歩いてきて笑顔で話しかけてきた。
「君は本は好きかい?」
「うん、好きだよ」
「そうか、じゃあこの本のどちらか1冊をあげよう」
お兄さんはそう言った後に指をパチンッと鳴らした。すると僕の目の前に白い本が2冊、横並びに現れた。
僕はなんとなく左の本を取った。
「じゃあその本をあげよう」
優しい声で言いながらお兄さんはもう1冊の本をしまう。
「ありがとうお兄さん!」僕ははしゃぎ、走って店を出た。すると僕は家の前に立っていた。
手に持っていた本も無くなっている。
夢だったのかなと思いながら僕は家に入った。
次の日、朝起きるとお母さんとお父さんが珍しくリビングのソファーに2人で座っていた。
時々笑顔で笑いあっている。リビングの入り口に立っていた僕にお父さんが気付き手招きをする。僕はお父さんとお母さんの間に座らせられた。そして申し訳なさそうに話した。
「ごめんな、父さんたちが喧嘩してて。居心地が悪かったろう。」
お父さんはそこで言葉を区切り優しい声で続ける。
「父さんたちは仲直りしたからな、今日は久しぶりに外食しよう」
僕はお母さんとお父さんに抱きついた。
ネイは赤い本を安楽椅子に座って読んでいた。そして呟いた。
「少し優しいことをすると後味が良いな。しかし当たりしか出さないのは疲れるなぁ・・・」
こんにちは、流れ星愚者でございます。今回も稚拙な文を読んで下さりありがとうございます。
前の運命の本棚を見てないとわかりずらいところがあることをご容赦下さい。
短いあとがきですがありがとうございました。