第3章.侵食
「…思ったより傷が深いな」
押さえている指のすき間から、ぽたり、ぽたりと血が滴り落ちる。その足下には血溜まりが出来ている。
普通の人間なら既に死んでいてもおかしくない量の出血だ。
…まだ宿主を死なす訳にはいかないからな!
アシュレイは苦笑し、押さえていた手を静かに離す。
いつの間にか、肩口の傷は何事も無かった様に消えていた。
闇の者と融合した者はいろんな恩恵を得られる…その一つ超再生だ。
…よし!もういいだろう
アシュレイは満足そうに頷く。
…しかし参ったな、もうアイツらに嗅ぎ付けられたか!
アイツらとは先程戦った相手…タイロン。
はっきり言って相手が本気で来たらまず間違いなく勝てない…逃げるどころか瞬殺されるかも知れない!
それ程、今のアシュレイ達と力の差がある。
酷だが…宿主には頑張ってもらわないとな!
言い終わると同時に、アシュレイの身体は闇へと溶け込む。
後には何も残らない。
先程までの喧騒が嘘の様に辺りは静まり返った。
後には乾いた風が吹き抜けているだけだ。
…同時刻
「…アシュレイも地に落ちたもんだな!」
墨を溶かした様な闇の中、紅い瞳が妖しく光る。
その紅い瞳以外何も映す事の無い闇。
「はい…あの状態ならば何時でも…」
「ふっ…人間界に逃げ込んだのが、奴の運のつきだな!」
「…はい」
「いかに奴の力が脅威だといっても、人間ごときと意識を共存している用ではな!」
渇いた笑いが辺りに響く。
「…忘れるな!裏切り者には死を…」
「裏切り者には死を…」