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第1章.出会い

「ヤバイ…なにもやって無い!」


そう気付いた時には既に遅かった…だってもう学校だし!

僕は今更ながら後悔している。

僕の名前は桐生拓哉(きりゅう たくや)ここ、私立高野高校に通う2年生だ。

何を忘れたって?聞いて下さい。

今日は数学のテストの日。


別にテスト何て…どうでもいいじゃん!


って思ってる、そこの君!甘い、甘いよ!

うちの数学の教師ピカリこと狩野の制裁は生半可なことでは無い。赤点を採ろうものなら何をされるか分かったもんじゃない。

間違いなく皆の前で晒し者にされる…考えただけでも身震いがした。

とりあえず今出来る事に全力を向けよう!

僕は教科書と睨み合った。


「おっす!拓」


教室では大勢の生徒の話し声が聞こえてくる、ほとんどの内容が今日のテストに関する話題だが…。


「ん?優か…」


自分に掛けてきた声に僕が顔を上げると、そこにはニヤニヤ笑って立って居る同じ学年で一応?友達の藤原優(ふじはら すぐる)がいた。


「お前、まさか今頃になって勉強か?」


優は僕の顔を覗き込んで呆れ果てた素振りで話し掛けてきた。


「…うっ!忘れてたんだよ」


僕は優の顔を見ず、相変わらず教科書と睨み合いながら答える。


「馬鹿だなぁ!相手はピカリだぞ」


優は更に僕の方に身を乗りだし話し掛けて来る。


「分かってるよ!邪魔だからあっち行けよ!」


僕はムッとして優に言った。


「おお、怖っ…まぁ頑張れよ!」


優は僕の背中を軽く叩くと、自分の席に戻って行った。


…分かってるよ、僕は心の中でもう一度呟く。

以前、ピカリのテストで成績が悪かった生徒は、授業中ずっと教壇の前に正座させられていた…しかも丸一日!何としてもそれだけは避けたかった。

僕は再び教科書に目を戻した。…神よ本当に貴方が居るのなら助けてくれ!僕は心の中で必死に祈った、既に勉強は手につかない…残された道は神頼み!

時間だけが刻々と過ぎて行く。



…神様の意地悪!


僕は神に向かって言葉に出来ない様な暴言を吐いた。

自分のせいだと頭で分かっているが、とりあえず誰かにぶつけたかった。


「…今時、こんな嫌がらせってアリか!」


日頃30数名が使用している教室。

今は僕以外誰も居ない。この学校は設立してから百年近く経つらしい。

その間に改築なんてことはされていない…実際聞いた訳では無いが、建物の状況をみれば自然と分かると言うものだ。校舎のあちこちにはすきま風が入り込み、壁は人の手垢、落書き等で汚れている。

よく床が抜けて誰かが怪我をしたなんて話もちらほら耳に入った。極めつけは雨が降ると校内の至る所にバケツが用意される…そう、この学校雨漏りするのだ!

学校というか建物事態の半分も機能していないこの校舎は、設立当初からの歴代の校長の怠けぐせが原因だ。

現に僕は、この学校の校長という者を入学式以来見た事が無い。

噂では毎日ゴルフ三昧らしい。

当然、教室内も例外ではない。

至る所に年季を感じさせる構造になっている。

そんな中で僕は今、自分の机に顔を突っ伏して座っている。

目の前にはプリントの山、山、山!只でさえ集中力が他人よりいささか劣る僕がこんな状況に耐えられる訳が無い!


こういう状況をみても分かると思うが、当然のところ僕は赤点を採ってしまった。

やはり困った時の神頼みでは何も起きない!つくづく身を持って体験をした。

あのテストの後、ピカリに呼び出されこのプリントの山を贈呈された。


「全部終わるまで帰るなよ!」


ピカリは冷ややかな目で僕に言った。しかも残念な事にこういう時に限って居残りは一人だけ…。


いつも一緒にいるはずの優も…


「拓〜頑張ってな!じゃあ♪」

なんて言ってさっさと帰ってしまった。


親友なら一緒に残ってくれよ!


僕は帰り行く優の後ろ姿を眺めながら訴えた。


そして教室に残るはピカリと僕だけ…。

しかもピカリときたら、


「終わったら教務室に来い!」


それだけ言うとさっさと教室を出ていってしまった。…冗談じゃない!何様のつもりだ!


青春は今しか無いんだぞ!僕の青春を返せ!


僕はピカリに向かって拳を握り締め言ってやった…ただし心の中で。


「今日中に帰れるかな?」


僕はプリントの山を見て頭を抱えた。

窓からみえる景色はいつの間にか日が落ちて暗くなっていた。


辺りが薄暗くなった事に気付き、時間が気になって自分の腕の時計を見てみる、ちょうど19時を回ったところだ。


「うわっ…もうこんな時間か!」


僕は帰り仕度を始めた。

終わるまで帰るなよって言われたけど、やってられるか!


それでもこの時間まで残ってたんだから小言の一つで終わるだろう、まさか本気で全て終わらすまでなんて言わないだろう。

と考えながら鞄に道具を適当に投げ込み急いで教室を後にした。


…それにしても夜の学校ってホント不気味だよなぁ。


薄暗い廊下を歩きながら一人呟く。ぼろぼろの校舎の雰囲気に、天井で古くなった蛍光灯の薄明かりが、更に不気味さを何倍にも増している。


…さっさとピカリに挨拶して帰ろっと!


僕はブルッと身震いすると、さっきよりも足早に歩き出した。


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