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梅雨の傘

作者: 緋鏡

「聞いてないぜ…」

 下校時刻も過ぎた放課後の昇降口で俺は立ち尽くしていた。

 梅雨前線に入り数日が経ち久し振りに今日は1日お天道様が顔を見せると天気予報のお姉さんに言われたのが今朝の8時。そして今は予報のあった日の夕方6時。まんまと外してくれやがったのだ。

 確かに俺が図書室で熟睡する時は晴れていたが今がダメなら意味がない。

「今じゃ誰も居ないよな…」

 置き傘もしていない身としては濡れるの覚悟で行くしかないか…

「こんな所で何してるの?」

 振り返って尋ねてきた人物の顔を拝もうあわよくば傘にありつけるかも…って何だ。

「お前か。神楽」

「何がお前か…よ生来の変な顔が余計に変になってるわよ?」

「いちいち五月蝿いんだよお前は」

 こんな奴に一瞬でも借りようとした俺が馬鹿だった。元来の石頭と口達者が合わさるとどうしようもなくなるのだ相手にしないほうが身の為だ。

「どうせ傘を忘れて呆けてたんでしょ?入れて欲しいならそう言いなさい」

「そんな事はないぞ」

「雨に濡れて風邪引いたら誰が看病させられると思ってるの?」

「…よろしくお願いします」


「てか何でこんな時間まで残ってたんだ?」

 結局置き傘に入れさせてもらい帰途へと着いた俺達。他愛もない会話を弾ませるしかする事がないのだ。

「生徒会の仕事よ。誰かさんみたいに居眠りしてた訳じゃないから」

「!お、俺は居眠り何かしてないぞ?!」

 何故バレた?

「頬に本を枕に寝てましたって描いてあるわよ」

 慌てて本を枕にした方を隠すが意味は無いだろう。

「そ!それにしても生徒会って何をしてたんだ?」

「な、何だって良いでしょ!アンタには関係ないわよ!」

 何故いきなりキレるんだ?

「そんな怒るような事なのか?」

「だから関係ないって言ってるでしょ!」

 路上を歩きながら一つ傘の中で喧嘩する。まるでカップルだな。

「…今日だって先に帰ってると思って残ったのに…」

「何か言ったか?」

「な、何でも無い!」

 小声でボソボソ言われても良く分からないんだがな。

 しかし、カップルか…コイツ彼氏とか居るのか?黙ってれば見てくれは良いし、何かと周りには女友達が集まって来る。俺の友人が言うにはなかなかに評判も良く、何処のクラスのだれそれが告ったという噂も聞く。なのに浮いた話しが無いのは何故だろう?

 心に決めた人が居るのか、それとも隠れて付き合っているのか判断に着かない。

 …まぁ俺には関係の無いことだが。

「あ、紫陽花もう梅雨だもんね」

「綺麗な藍色だな」

「…ねぇ紫陽花の花言葉って知ってる?」

「?知らんな」

 いつの間にか二人とも紫陽花の側で足を止め眺めていた。

「色々有るんだけどさ」

 綺麗な笑顔で俺を見上げ

「お互いに当てはまるのが一つだけあるんだ」

 近いのに決して手に取れない存在

「“辛抱強い愛情”」

 姉さん。


「何言ってんだよさっさと帰ろうぜ腹減った」

「情緒が無いわねもうちょっとロマンを持ちなさいよ」

「腹が膨れたら探してみますよ」

「可愛くないの!」

 家に着くまで後数分。周りに隠すように繋いだ手も後少しでほどけてしまう。願わくばこの偽りの恋仲が誰にも邪魔されませんように…


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