王国を滅ぼす悪女予定の気弱令嬢は、壊滅エンドを回避したい
「オーッホッホッホ!」
赤く燃えるような色の空に、女の高飛車な嗤い声が響き渡る。
高台に優雅に立つ女は、空と同じ鮮やかな紅色の長髪を華麗に靡かせ。
吊り上がった深紅の瞳は、目の前で轟々と燃え上がる町並みを愉しげに見下ろしている。
そこはかつて、女が住んでいた国だった。
様々な店や露店が並び、活気に満ち溢れていた王国は、今やもう見る影もなく。
たった一人の女の手によって崩壊し、無残にも焼き尽くされようとしている。
その惨憺たる有様は、女以外に生きている者はいないことは明白だった。
「あぁ、愉快だわ! なんて爽快なのかしら! 私を裏切った当然の報いよ。そしてようやく……アハハハッ!」
女は顎の下に掌を当て、心から愉しそうに嗤い続けている。
――その女の名は、ユーフェミア・ボルドウィン。
ボルドウィン侯爵家の一人娘。
私は、その女をよく知っている。
――何故なら。
その女は、『私自身』だったからだ――
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「――はっ!?」
ガバッと飛び起きた私の身体は、全身汗でびっしょりだった。
急いで周りを見回すと、そこはいつもの見慣れた自分の部屋で。
額に浮かんだ大粒の汗を腕で拭うと、私は大きく息をつく。
「……ゆ、夢……? あぁ、良かっ――」
良かった、の言葉を飲み込み、私は今見た夢を思い返す。
とても、とても鮮明な夢だった。
色も音も匂いでさえも、真に迫るくらいの描写だった。
「今のは……ただの夢なんかじゃない。あの感覚は……〝予知夢〟!?」
私は、物心ついた頃から何度か〝予知夢〟を見ているのだ。
それは、夢を見た日から一週間以内に確実に現実となって起こっていた。
その〝予知夢〟のお陰で、王国に訪れた危機を救ったこともあるのだ。
今回見た〝予知夢〟も、一週間以内に現実となるのだろう。
「私がこの国を滅ぼすだなんて……そんなの嘘よ……。国ひとつを壊滅させるくらいの強大な力が私の中にあるとは思えないわ……」
しかし、今まで見た〝予知夢〟は一度も外れたことがないのだ。
なんとかしなければ、私の大好きな祖国が、『私自身』の手によって滅ぼされてしまう。
「どうにか……どうにかしなきゃ……」
私は必死で寝起きの脳を回転させ、解決策を模索する。
けれど今までの〝予知夢〟は、何とか回避しようと動いても必ず起こってしまっていた。
王国を突如襲った『流行り病』もそうだ。
事前に〝予知夢〟で知ったのは良かったけれど、その病の情報が皆無で予防策が分からず、結局は王国全域に『流行り病』が蔓延してしまった。
しかし私を信じてくれた国王の妙案で、前以てその病の症状に効く薬を大量に製剤していたので、病にかかった者達へ迅速に配ることができた。
そのお陰で幸いにも死者は出ず、被害は何とか最小に抑えられたのだ。
だから、私が王国から逃亡しても、部屋に監禁し手足を動けなくさせても、〝予知夢〟で見たことは絶対に起きてしまうだろう。
……そうなると、私がこの世界からいなくなるしか――
「……そんな……。そんなの嫌よ……」
私の家族にもう二度と会えなくなるなんて、絶対に嫌だ。
それに、私の大切な〝あの人〟に会えなくなるなんて、それも絶対に――
「……相談、してみようかしら……」
ポツリと、自然とその言葉が私の唇から洩れる。
このまま自分の頭だけであれこれ考えても、後ろ向きな私では悪い方ばかりへ思考が向かうだけだ。
家族には、〝予知夢〟のことはまだ言えない。
ありがたくも私を大切にしてくれる彼らにそのことを告げれば、必ずショックを受けるだろう。
冷静な判断ができなくなるだろうし、何より家族を悲しませたくない。
そうなれば、相談できる人はただ一人――
私はベッドから起き上がると、急いで出掛ける支度を始めた。
朝食を食べた後に向かうは、このブラックウェル王国の、〝あの人〟がいるお城――
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「面会の手続きも踏まず突然会いに来たこと、誠に申し訳ございません」
「いえ、謝らないでください。僕と貴女の間柄にそんな手続きは必要ありませんよ。貴女が僕に会いたいと思った時に来てもらえたなら、僕としてはとても嬉しいです」
色とりどりの美しい花が咲き並ぶ、王城の庭園にて。
頭を深く下げた私に、翡翠色の長いサラサラな髪を後ろで結んだ、綺麗な琥珀色の瞳を持つ男性は、穏やかに微笑みながらそう言ってくれた。
「ありがとうございます、ハミルトン様」
彼はこの王国の王太子、ハミルトン・ブラックウェル殿下。私の婚約者だ。
私は侯爵家の娘なのに、何故王太子であるハミルトン様と婚約できたのか。
直接には聞いていないけれど、私が〝予知夢〟の内容で何度かこの国を救い貢献したからだと、家族と私は思っている。
ハミルトン様から直々に婚約の申し込みを書簡で戴いた時は、「えっ!?」と家族揃って叫び、心底驚いた。
間髪入れず家族揃って頬をギュッとつねり、「痛いっ!」と同時に叫んだことは、今では家族の間で笑い話となっている。
婚約を断る理由もなかった私はそれを承諾し、彼と交流を深めてきた。
優しく利発な彼と会うたび、私の中で彼の存在が膨れ上がっていって。
そして現在、私の心の大部分が彼の存在で埋まってしまっている。
そんな大切で愛しい彼だからこそ、私が見た〝予知夢〟を正直に話そうと思ったのだ。
彼に対し、常に誠実でありたい。
それに、聡明な彼なら、何か『解決策』を思いついてくれるのではないかという期待も少なからずあった。
――それによって、私と彼が永遠に離れることになっても。
彼が熟考の末決断した結果なら、私はどんなことでも受け入れると心に決めていた。
目の前で椅子に座り、淑やかに紅茶を嗜んでいる彼に、私は話を切り出した。
「実は、ハミルトン様にご相談があるのです」
「相談ですか? えぇ、もちろんお聞きしますよ」
「ありがとうございます。それは――」
私の話を黙って聞いていたハミルトン様の顔が、徐々に険しくなっていく。
話し終えた私の目をしっかりと見ながら、彼はおもむろに口を開いた。
「貴女の見たその夢は、〝予知夢〟で間違いないのでしょうか?」
「はい。普通の夢と違い、とても鮮明でよく覚えていますから。一週間以内に、私に何らかの変化が生じ、この国を滅ぼすでしょう。まさに『悪女』のように……」
「小さな虫一匹も追い払えない貴女がそんなことをするなんて想像もできません。可愛く叫んで、震えながら僕に抱きつく貴女の姿を思い返すと尚更です」
実際に思い返しているのか、フッと頬を緩めたハミルトン様を見て私の顔が熱くなる。
「む、虫は本当に苦手なのです……」
「ふふっ、可愛らしいお人だ。それに、誰に対しても優しく謙虚な姿勢を見せる貴女が、王国が燃え上がる様を高笑いをしながら眺めているなんて、到底信じられません。その彼女は本当に貴女だったのですか? 貴女によく似た別人の可能性も十分あります」
「いえ、あの容姿と声は確かに私でした。紅い髪はこの国では珍しいですし、私が私自身を見間違えるはずありませんもの……」
「そう……ですか」
私は、自分の容姿が嫌いだった。
父の髪の色である黄金と、母の髪の色であるマゼンタが合わさった燃えるような紅い髪と、祖母似の吊り上がった目つきのせいで、初対面の人からは勝気で我が儘で傲慢な女だと思われてしまうのだ。
実際の私は、思ったことを口にできずに溜め込む、気弱で引っ込み思案な情けない女なのに……。
そんな私でも、ハミルトン様は最初から突き放さず、
『貴女は、自分の言葉で他人が傷付くのが嫌なんですよね。貴女の優しく温かな言葉で救われた人は何人もいます。僕もそのうちの一人です。そんな貴女が、僕はとても愛おしいですよ』
と肯定し受け入れてくれて、彼のお陰で私は自分自身を少しだけ好きになれたのだ。
「父上――国王陛下に、そのことを伝えるのは最終手段としましょう。陛下はこの国を大切にし、愛しています。だからこそ、この国を滅ぼすであろう貴女に対し、容赦はしないはずです。伝えたと同時に処刑もありうるでしょう。貴女の〝予知夢〟は確実に当たると知っている陛下ですから」
「はい……。そうですね……」
「何がキッカケで、貴女がそのように変わってしまうのか……。今のところまったく見当もつきません。ですので、ユーフェミア。突然で申し訳ありませんが、今日から王城で寝泊りしていただきます」
「えっ?」
「僕は公務以外の時間、ずっと貴女の傍にいます。貴女に少しでもその兆候があったら、すぐに対処できるように。貴女のご家族には、『王子の婚約者として本格的な礼儀作法を学ぶ』という趣旨で外泊の許可を戴きましょう。早速連絡を取らなくては」
「はっ、ハミルトン様!」
トントン拍子で話が進み、私は慌ててハミルトン様に声を投げた。
「はい、なんでしょう?」
「そっ、その……ハミルトン様はご迷惑ではないのですか? 私が傍にいることで重荷になるのでは――」
「そんなことは決してありません」
私の言葉を遮り、ハミルトン様は真剣な口調でキッパリと返してきた。
「正直に言いますと、僕は今、心が舞い上がっているんです。週に一度程度しか会えなかった貴女に、毎日会えるのですから。……貴女は嫌でしたか?」
途端にシュンとするハミルトン様に、私は慌てて首と両手を左右に振る。
「えっ? いえっ、そんな……! 私もとても嬉しいです! 嬉しすぎて心臓が破裂しそうなくらいにっ!」
「あははっ。本当に破裂しないでくださいね?」
嬉しそうに目を細めて笑うハミルトン様に、私も自然と笑顔になる。
――その時だ。
「ちょっとハミルトン、そこにいたの? 捜したじゃない、もう!」
若い女性の声が飛んできて、そちらに目を向けると、肩まである黒髪の女性が走ってくるのが見えた。
女性は一直線にハミルトン様のもとまで来ると、両腰に手を当て頬を膨らませる。
「今日はこの城の中を案内するって約束だったじゃない! あたしずっと待ってたんだからね!?」
「もうそんな時間でしたか。申し訳ありませんでした」
女性が私の方をジロリと見、キッと睨みつけてくる。
彼女は異世界から迷い込んできた、『瑠奈』という名の異国の女性だ。
この世界では、稀にだが別の世界から人が迷い込むことがあるのだ。
彼らのことを、ここでは【迷い子】と呼んでいる。
【迷い子】が現れた場合、その現れた場所の管轄である国が保護し、【迷い子】を元の世界に帰す手段を探すのだ。
無事に帰すことができたら、その国に重宝な〝恵み〟が与えられると言われている……らしい。
親から聞いた話なので、詳しいことは分からないけれど。
【迷い子】であるルナさんも例に漏れず、城の者や貴族達が彼女を元の世界に戻す方法を懸命に探していた。
「ルナ様との約束がありましたのに、時間を取らせてしまい申し訳ありませんでした」
「いえ、大丈夫ですよ。僕にとって、貴女との時間が何より最優先ですから」
ニコリと微笑みそう言うハミルトン様を見て、ルナさんはますます髪と同じ黒の瞳を吊り上がらせて私を睨む。
「早くいきましょ、ハミルトン! 約束でしょ!?」
「えぇ、約束は守らないといけませんね。――ユーフェミア、部屋を用意しておきますから、少しここで待っていてください。僕が推薦する侍女を迎えにいかせますので」
「ありがとうございます、ハミルトン様」
ハミルトン様は私に微笑むと、静かに席を立つ。
「あっ、待ってよハミルトン!」
ルナさんは最後にもう一度私を睨みつけると、ひと足先に歩くハミルトン様の後を追っていった。
二人の遠ざかる姿を見ながら、私は小さく溜め息をつく。
ハミルトン様に隠し事はしたくないと思いながら、彼には決して言えない懸念点が一つだけあった。
それは、彼女――ルナさんのことだ。
ルナさんは、ハミルトン様に好意を抱いている……と思う。
いきなり知らない国に迷い込んで、知り合いもいない寂しさと不安から、優しくしてくれるハミルトン様に甘えたい気持ちもあるのだろうけれど……。
彼に対する甘え方はそれ以外の感情もあると、自分の女の勘がそう告げていた。
それに、彼女は美人だ。
女の私が一目見てそう思うのだから、どの男性もそう思うに違いない。
そんな彼女に好意を向けられ、誘いかけられたら……嫌がる男性はまずいないだろう。
『私を裏切った当然の報いよ』
夢の中で、私はそう発言していた。
私を裏切った相手が、ハミルトン様だったら……?
「……っ」
浮かんだ思考を頭を振り、必死でかき消す。
仮にハミルトン様へ正直にそれを伝えたとしても、彼は笑い飛ばしてキッパリと否定をするだろう。
「ハミルトン様は、【迷い子】であるルナさんを、王族の『責務』として大切にしているだけ……。そう……ただ、それだけよ……。私は彼を信じるわ。信じてるから……」
ハミルトン様が呼んだ侍女が迎えに来るまで、私は何度もその言葉を反芻し、気持ちを落ち着かせていたのだった……。
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翌日からハミルトン様は、自分が発した宣言どおり、公務以外はつねに私の傍にいてくれた。
行く当てのないルナさんもお城に住んでいるので、すれ違った時の彼女からの視線がチクチクと痛かったけれど……。
でも私は、今まで以上にハミルトン様と一緒にいられて、とても幸福で満たされた気持ちだった。
夜眠る際も、ハミルトン様は私が寝付くまでベッドの脇の椅子に座り、見守ってくれた。
自分の寝顔を見られるのは恥ずかしくて、ハミルトン様に自室へ戻るよう何度か促したけれど、頑として聞き入れてくれなくて。
彼とお喋りしているうちに、いつの間にか眠ってしまっていた。
だから翌朝目が覚めた時、ハミルトン様が昨夜と変わらず椅子に座って私を見ていることに驚いた。
そしてすぐに、彼の様子がおかしいことに気付く。
「……ハミルトン様……?」
彼は、いつもの穏やかな表情ではなく、酷く強張った顔つきで私を見つめていたのだ。
怪訝な色を含んだ私の問いかけにハッとしたハミルトン様は、すぐに微笑みを浮かべた。
「おはようございます、ユーフェミア。貴女の寝顔が可愛くて、一晩中眺めてしまいました」
「えっ……」
ボッと灯が灯ったように顔が熱くなった私を見てクスリと笑ったハミルトン様は、椅子から立ち上がると私の手を取る。
「ユーフェミア……大変申し訳ありません。今日からしばらく、貴女の傍にいることが難しくなります。ですので一人での行動は避け、部屋から出る時は、貴女につけた侍女と必ず行動を共にしてください。約束してくれますか?」
「え……? は、はい……わかりました」
「大丈夫です。貴女を決して〝予知夢〟のようにはさせませんから」
ハミルトン様は真剣な表情で頷くと、私の手の甲にそっと口付けを落とし、部屋を出ていった。
(……急に公務が忙しくなったのかしら……。私が眠っている間に、誰かがそのことをハミルトン様に伝えに来たのね、きっと……)
私はそう自分に言い聞かせつつも、彼が見せた強張った顔が脳裏をよぎり、漠然とした不安は消えなくて。
(……まさか……)
頭に浮かんだ思考を慌てて振り払い、代わりに自分にも何かできることはないかと考える。
思案の末、お城の書庫に手掛かりはないか探してみることにした。
自分の感情を制御できる方法が分かるかもしれないし、もしかしたらルナさんを元の世界に帰す方法が見つかるかもしれないと思ったからだ。
書庫の書物はハミルトン様がすべて読破したと聞いているけれど、あんなに沢山の書物があるのだし、万が一見落としているものもあるかもしれない。
彼の約束はちゃんと守りたいので、私のお世話をしてくれている侍女さんに頼み、書庫まで一緒に来てもらうことにした。
「ありがとうございます、一緒に来てくださって。お手間を取らせてしまい申し訳ございません」
「いえ、まったく問題ございません。それと、わたしには砕けた口調でかまいません。しがない一介の侍女ですので」
「……えぇ、分かったわ。そうさせてもらうわね」
「……どうされました? 何か懸念でも? わたしに遠慮なく話してくださってかまいません」
顔には出していなかった筈だけれど、侍女さんは察し良く私が悩んでいることに気付いたようだ。
「えっと、その……実は……。今朝目が覚めると、ハミルトン様が私を見て強張った顔をされていて……」
「はい」
「そ、その……。わた、私……私……っ」
「落ち着いて、深呼吸をしてください。ゆっくりでかまいません」
私は侍女さんの言うとおり、深く息を吸って吐いて気持ちを落ち着かせると、思い切って言葉を出した。
「……いっ、〝イビキ〟や〝ヨダレ〟が出ていたのかも……! それでハミルトン様、私に幻滅してしまったんだわ……!」
「ぶっ!」
途端、侍女さんが盛大に吹き出した。
「ちょっ……なんで吹き出すの? 私は真剣に悩んでいるのに!」
「コホン、大変失礼いたしました。その点に関してはまったく問題ございません。どうかお気になさらず」
「そ、そうかしら……? 実は半目で白目剥いて口も半開きでお腹ボリボリ掻きながら眠っていたとか――」
「ぶふっ!」
「あっ、また吹いたわね! 私が真剣に――」
「いえ、その点に関してもまったく問題ございません。一寸もお気になさらず。わたしの生命に懸けて断言できます」
「そ、そう……? 貴女がそれほど言うのなら……」
そんな話をしながら書庫に向かう途中、廊下で騎士二人が話していた内容に、私は思わず動きを止め固まってしまった。
「王太子殿下、朝からあの【迷い子】と一緒にいたな。しかも先ほど、最小限の護衛を連れて二人で外出されたぞ。【迷い子】のはしゃぎっぷりったらなかったな。殿下に腕なんか絡めたりしてさ」
「あぁ。【迷い子】じゃなかったら、不敬罪で捕まってたぞ。殿下も殿下だよ。婚約者がいるのに他の女にうつつを抜かしてさ。城下町にお忍びデートでも行ったのかね?」
「しっ! 声を落とせよ。それこそ不敬罪で捕まっちまうぞ」
「おっと、危ない危ない」
騎士二人が声を潜め合って廊下の向こうに歩いていく後ろ姿を、私はボンヤリと眺めていた。
「――ユーフェミア様」
侍女さんの声に、私はハッと我に返り振り返る。
「あ……ご、ごめんなさい。少しボーッとしてしまって」
「あの者達のくだらない戯れ言は気にする必要はまったくございません。気にするだけ時間の無駄です。貴重な人生の時限が大変勿体ないです」
侍女さんのハッキリとした物言いに、私は思わず吹き出し笑ってしまった。
「ふふっ、ありがとう。確かにそのとおりね。私は私の今できることをしなくては」
「はい」
(――そう。気にするのは、すべてが解決したあとよ。今は、私がこの国を滅ぼさない方法を見つけるのが先。優先順位を間違えてはいけないわ)
ツキツキと痛む胸を押さえながら息を吐き、二人のことは心の片隅に置いて、私は書庫で一日を過ごした。
夜は、侍女さんが私についてくれた。
「ご安心ください。わたし、こう見えても強いので。あなた様を守ることなんて朝飯前のチョチョイのチョイです」
「まぁ……ふふっ。とても頼もしいわ。お陰で安心して寝られそう」
「安心して良い夢を見てください」
「……えぇ。本当にありがとう」
私は侍女さんに感謝の言葉を伝えると、痛む胸はそのままに、そっと目を閉じたのだった――
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次の日も、ハミルトン様は朝からルナさんと一緒に出掛けているようだった。
「護衛が一緒とはいえ、二日連続で二人で出掛けるなんて、絶対何かあるだろ」
「昨日の一日デートで親密度が上がったんじゃないか? 【迷い子】の彼女、腕を絡めるだけでなく、殿下に抱きついてたしな。今日も殿下は公務がお休みだし、また一日コースかも。ユーフェミア様が知ったらどう思うか……」
「常に忙しく娯楽をする暇もない殿下だから、たまには羽目を外したいのかもな。美人だけど見た目がキツいユーフェミア様より、美人で見た目が可愛い【迷い子】に寄り道か。殿下も『男』だったってことだな。親近感が湧くじゃないか」
「ははっ、確かに」
書庫に向かう途中、昨日の騎士二人が廊下でそう話しているのを聞いて、私は知らず溜め息をついていたようだ。
「ユーフェミア様」
侍女さんの呼びかけに、私は振り向くと慌てて首を左右に振った。
「私は大丈夫よ。容姿に関しては昔から言われ慣れてるから気にしてないわ。今日も書庫に一日いる予定だけど、私のことは気にしないで自分のお仕事をしてね」
「問題ありません。ユーフェミア様をお守りすることがわたしの務めですから。いつまでもお付き合いいたします」
「ふふっ、頼もしいわ。ありがとう」
侍女さんの優しさに感謝しながら、私は書庫へと入った。
昨日はこれといった収穫はなかったので、今日こそはと意気込んで本棚を調べていたところ、一冊の古ぼけた書物に目が止まる。
それを手に取り読んでいくと、遥か昔、この国に『悪女』が現れたことが書かれてあった。
彼女はこともあろうに、相思相愛の婚約者がいる王子に恋慕の情を抱いてしまい、彼を手に入れるために婚約者を殺めようとしたのだ。
それをすんでのところで阻止した王子は、愛する婚約者を手にかけようとした名も知らない彼女に激怒し、すぐに処刑を決行したという内容だった。
彼女の最期の言葉は、
「貴方は私を心から愛しているのに、私を裏切った! 赦さない……死んでも赦さないわ!! 必ず貴方を殺してあげる。そして『あの世』で一緒になりましょう? 貴方と私は誰にも邪魔されることなく、永遠に愛し合い続けるのよ!」
という、狂気に塗れた台詞だったらしい。
「裏切った……」
その一文に、己の胸がズキリと痛む。
「どうされましたか? ユーフェミア様」
「あ……いえ、なかなか探しものが見つからなくて」
「焦る必要はありません。今日が見つからなければ明日もありますので、ゆっくりとお探しください」
「……えぇ、ありがとう」
私は侍女さんに感謝の気持ちを込めてニコリと微笑むと、手に持つ書物を急いで戻し、別の本棚へと向かったのだった。
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結局今日も目ぼしい情報は見つからず、就寝の時間を迎えた。
(早くなんとかしないと、〝予知夢〟を見た日から一週間が経ってしまうわ。明日こそ必ず情報を掴まなくては……)
「明日は城下町の書店や図書館を回りたいのだけれど、いいかしら?」
「かしこまりました。わたしがいれば何もまったく問題ないのですが、念のため護衛も手配しておきます」
無表情でサラリと実力を顕示する侍女さんに、私は思わず吹き出してしまう。
「ふふっ、ありがとう。貴女には本当に感謝しているわ。私についてくれたのが貴女で良かった」
「それは勿体ないお言葉です」
「明日もよろしくね。おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい」
彼女のお陰で幾分か気持ちが楽になった私は、目を閉じると訪れた睡魔に身を委ねたのだった――
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傍で気配を感じ、ふっと目を開けると、そこには椅子に座るハミルトン様の姿があって。
私は急いで開けた瞼を下ろした。
部屋の中は薄暗かったから、私が起きたことは気付かれてはいないはずだ。
(ハミルトン様……。私の様子を見に来てくれたのね……)
侍女さんの姿が見えなかったので、私が眠ったことを確認した後、自分の部屋に戻ったのだろう。
私を気にかけてくれた嬉しさに胸が一杯になり、彼に声をかけようか迷っていた時だ。
「ハミルトン」
ハミルトン様の背後から女性の声が飛んできた。
彼を敬称なしで呼ぶその声は……ルナさんだ。
「ルナ。どうしたんですか、こんなところまで来て」
(え……)
ハミルトン様も……呼び捨てでルナさんの名前を言った……?
「だって、昼間あんなに愛し合ったのに、夜に別の女のところに行くなんて立派な浮気じゃない?」
ルナさんの鼻にかかった甘えた声が、私の耳に不快に響く。
(え? 愛し合った……? それって――)
恐る恐る目を開くと、ハミルトン様の後ろから腕を回して抱きつくルナさんの光景が目に飛び込んできた。
「すみません。少し事情があって、彼女の様子が気になって……。でも、愛しているのは貴女だけですよ」
ハミルトン様が回されたルナさんの手を握り締め、彼女のすぐ耳元で愛の言葉を囁く。
(……いや……)
「嬉しい……。ね、もう一回言って?」
「ふふ……甘えて可愛いですね。貴女が望むなら何度だって言いますよ」
(やめて……おねがい……)
しかし、無情にもハミルトン様は、私の一番聞きたくなかった言葉を紡ぐ。
「ルナ、貴女を愛しています」
「私も愛しているわ……ハミルトン」
「いやあぁっ! やめてぇっ!!」
私は張り裂けそうなほど痛む胸に耐え切れず、閉じた瞳から涙を流し大絶叫していた。
『――そうよね、辛いわよね? 貴女を裏切ったこの男が憎いわよね? その気持ち、十分わかるわ』
不意に、私の内側から誰かの声が聞こえてくる。
『貴女の〝意識〟を手放し、私に寄越しなさい。そうすれば、この男に一矢報いることができるわ。いえ、この男だけでなく、横恋慕してきたその女にもよ。怖がらなくていいわ。さぁ、私にすべてを委ねて――』
その女性の声は、私の中で優しく響く。
それは、高級な砂糖菓子のように、甘く蕩けながら身体に深く染み込んでいって。
(〝貴女〟に身を委ねれば、この酷く苦しい思いはなくなるの……? あぁ……それなら一刻も早く――)
「――いけません、ユーフェミア! 惑わされないでください!!」
私が彼女に〝意識〟を渡そうとした瞬間、ハミルトン様の鋭い一声が胸に突き刺さった。
「貴女が見ているのは、幻――【幻影】です! 本物の僕はここにいます! 僕の声にだけ耳を傾けてください!」
(げん……えい……?)
「そうです、貴女の中にいる『悪女』に騙されてはいけません! 僕が心から愛しているのは、ユーフェミア……他の誰でもない、貴女だけです!!」
(……っ!)
涙に濡れた両目を開けると、ハミルトン様が私の手を握り、必死な形相で私を見つめていて。
「ハミルトン……さま……」
「ユーフェミア、貴女の強い意思で貴女の中の『悪女』を抑えてください。僕が必ず彼女を消滅させます。どうか僕を信じてください!」
『ユーフェミア、その男の言うことに騙されちゃ駄目よ! 貴女はその男に裏切られたの! 目の前で見たでしょう!? その男と別の女が睦み合うのを! 私が代わりにその男と女に制裁を加えてあげるわ。そしてこの国にもよ。だから安心して貴女の心を私に委ねなさい!』
「……私……は……」
「ユーフェミア……!!」
私は、私の名を切実に呼ぶハミルトン様の温かな手をギュッと握り返した。
「私は、ハミルトン様を信じます!!」
『畜生、この馬鹿女が……っ!』
私の中で、『悪女』がもがき暴れて外に出ようとしているのがわかった。
身体中の千切れるような痛みに耐え、それを必死で抑え込む。
――不意に、私の身体が温かいものに包み込まれた。
ハミルトン様が、私を強く抱きしめていたのだ。
そしてハミルトン様は、唇を動かし長い詠唱を唱え始めた。
彼の身体が黄金の光を帯びて熱くなっていき、彼に包まれる私の身体も同時に熱くなっていく。
『ギャアアァァッ!! 畜生ちくしょうチクショウッ! あと少しだったのにいぃッ!!』
私の中で『悪女』の断末魔が響き渡り、やがてその〝存在〟は、霧のように跡形もなく消えていくのを感じた。
「……ユーフェミア、大丈夫ですか?」
「あ……は、はい……。大丈夫……です」
呆然としていると、ハミルトン様が私を抱きしめたままそっと声をかけてきた。
「良かった……。貴女が無事で……本当に良かった」
ハミルトン様は大きく安堵の息をつくと、私を再びきつく抱きしめる。
「ハミルトン様……?」
「すみません……ユーフェミア。困惑していますよね? 実は貴女の中に、昔処刑された『悪女』の〝意識〟が入っていたんです。貴女の精神と身体が彼女と相性が良かったのでしょうね。強い【憎しみ】と【復讐】に囚われていた彼女は、処刑され死んでも〝意識〟がこの世を彷徨っていました。そのまま長い年月が経ち、自分と相性が最適な貴女を見つけてしまった……」
「あ……『悪女』って、もしかして……。昔、この国の王子の婚約者を殺害しようとして処刑された……?」
「はい、そうです。ご存じでしたか。彼女は【復讐】と自分の【願い】のため、貴女の中で息を潜め力を蓄えていました。貴女が〝予知夢〟を見られたのも、彼女の力の影響です。恐らく、貴女が産まれた時から入っていたのでしょう。長い刻を経て十分な力を蓄えた彼女は、最後の仕上げとして貴女に【幻影】を見せ、弱った貴女の〝意識〟を乗っ取り、貴女を意のままに操ろうとしました」
「……!」
「ですが、貴女が僕を信じてくれたから、彼女を消滅させることができました。本当に……ありがとうございます」
そう言って、私の首筋に顔を埋めてくるハミルトン様に、私は戸惑いながらも疑問を投げかけた。
「あの……ハミルトン様は、どうやって私の中に『悪女』がいることに気付けたのですか……?」
「貴女が眠っている時に、彼女の〝意識〟が現れたんです。そして彼女は僕にこう言いました。『もうすぐ貴方と私は永遠に一緒にいられるわ。ようやく……ようやくこの刻が来たわ。もう少しよ、待っていてちょうだい』と」
「え……」
「冷めた表情といい、そこにいるのは明らかに貴女ではありませんでした。彼女の言葉に既視感を感じた僕は、書庫で読んだ『悪女』の話を思い出したんです。彼女は僕を、恋慕した王子の〝代わり〟として見ている……。そこで、この国を滅ぼすのは貴女ではなく彼女の〝意識〟だとわかった僕は、彼女を消滅させるために、【迷い子】を元の世界に帰す手段を急いで探したんです」
「え?」
(私の中にいる『悪女』を消滅させるために、ルナさんを元の世界に帰す……? それとこれと一体どういう関係が……?)
私の頭上に疑問符がいくつも浮かび――ハッと気付く。
「それは……ルナさんを無事に帰すことができたら、『その国に重宝な〝恵み〟が与えられる』という言い伝えと関係がありますか……?」
「はい、そうです。ここだけの話ですが、王家の血筋の者にだけ、その〝恵み〟が使用できるのです。国民には、国全体に〝恵み〟が与えられると想起させた方が、【迷い子】の帰還に協力的になってくれますからね」
「そうだったのですね……。その〝恵み〟とは……?」
「それは、『浄化』の力です。毒や穢れ、邪気や悪霊を完全に払うことができる、【迷い子】帰還と同時に神から与えられる力です。その力があれば、『悪女』を消滅させることができる……僕はそう考えたのです」
「あ……! だから昨日と今日、ルナさんとお出掛けされていたのですね。元の世界に帰す方法を見つけ、その場ですぐに彼女を帰し、〝恵み〟を貰うために……」
「っ、知っていたのですか?」
私の言葉に、ハミルトン様は両目を見開き驚いた表情を見せる。
「――知っていたも何も、お馬鹿な騎士二人が殿下達のことをあれこれ言っていたんですよ。不敬罪とユーフェミア様を不安にさせた罰として、あの馬鹿たれ阿呆どもは一年間の減給にしてほしいですね。それでも全然足りないですが」
ハミルトン様の背後から侍女さんの声が聞こえ、そこで私はようやく彼女がいることに気が付いた。
「いっ、いつからそこに……!?」
「ずっとここにいましたよ。ユーフェミア様が就寝され、自分の部屋に戻ろうとしたのですが、何か妙な胸騒ぎがしたのです。昔からわたしのそういう勘はよく当たるので、扉の外でしばらく様子を見ていたところ、急に苦しそうに呻き出したので、急いで殿下を呼びに行ったのです」
「丁度僕が城に戻ってきた直後でしたから、間に合って本当に良かったです」
「そうだったのですね……」
侍女さんのその第六感は、〝予知夢〟も想定外だったということ……?
だから〝予知夢〟が外れ、私はこの国を滅ぼさずに済んだ――
「本当にありがとう……! お陰で危機を乗り越えられたわ」
「いえ、礼には及びません」
侍女さんは首を横に振ると、キッとハミルトン様を睨みつけた。
「殿下も殿下ですよ。そういうことなら、きちんと事前にユーフェミア様へ説明をしてください。あなたにも減給を希望しますね」
「そ、それは申し訳ありません……。自分の中に『悪女』がいるなんて聞かされたら、ユーフェミアが不安で堪らなくなると思ったんです。そんな辛い思いをさせたくなくて……」
「ユーフェミア様なら、殿下の言葉をちゃんと受け止められましたよ。勝手に決めつけるなんて、さらに減給を希望します」
「……そう、ですね……。大変申し訳ありません……」
王太子であるハミルトン様に歯に衣着せぬ物言いをする侍女さんに、私は慌てふためく。
「だっ、大丈夫ですよ、私は!」
「いえ、彼女の言うとおりです。結局貴女を不安にさせてしまった……。本当に申し訳ありません」
身体を少し離して頭を下げるハミルトン様に、私は急いで首と両手を左右に振る。
「いえ、そんな全然……っ」
「ここは赦さなくていいところですが……。ユーフェミア様の優しさに感謝してくださいね、殿下」
「はい、仰るとおりです……」
「えぇっ!? そっ、それ以上は……!」
(王族への不敬罪で侍女さんが捕まってしまうわ……!)
「――あぁ、ユーフェミアが心配していることなら大丈夫ですよ。公にはしていないのですが、彼女は僕の従姉なんです。結婚して王家から抜けていますが、侍女の仕事が好きらしく、ここで働いていまして。僕は幼い頃から彼女に大変お世話になっているので、頭が上がらないんです」
「えぇっ!? そ、そうだったのですね……」
侍女さんを見ると、彼女は私に向かって軽く頭を下げた。
「殿下とは従姉ですが、身分関係なくこの城の侍女ですので、これからも今までどおり変わらない態度で接してくれたら嬉しいです」
「……えぇ、もちろんよ。これからもよろしくね」
「……っ。ありがとうございます」
いつも無表情な侍女さんの口元に微かに笑みが浮かび、私も嬉しくなって笑顔になった。
そこで、はたと気付く。
「ハミルトン様が『浄化』を使えるようになったということは、ルナさんは元の世界に帰れたのですね?」
「はい、無事に。彼女、とても喜んで帰っていきましたよ」
「えっ、『喜んで』……? そ……その、ハミルトン様と別れることに寂しがっていませんでしたか? ルナさん、ハミルトン様をお慕いしているようでしたから……」
私がドキドキしながら訊くと、ハミルトン様はフッと口の端を持ち上げ答えた。
「彼女、僕を自分の兄と重ねていたようです。雰囲気がよく似ていると。お兄さんととても仲が良いそうですよ。腕を絡めたり抱きついたりは普通だったそうです。それをやってきたので注意したら、『兄と思って、クセでまたやっちゃうかも。ごめんね』とあくびれずに言っていました」
「そ、そうだったのですか……」
私は思わず安心の息を吐いていた。
ルナさんがハミルトン様を異性として見ていなかったことと、彼女が無事に元の世界に帰れたことの意味を含めて。
彼女のあの睨みは、単純に兄のようなハミルトン様を取られるという嫉妬だったのだろう。
安堵と同時に、ある不安が脳裏をよぎる。
けれど今回の出来事で不安を溜め込まないと決めた私は、思い切ってハミルトン様に尋ねた。
「あの……ハミルトン様。私の中にいた『悪女』のお陰で〝予知夢〟が見られていたということは、これからはもう〝予知夢〟が見られなくなってしまいます。私はただの平凡な『令嬢』になります……。それでも……それでも、貴方のお傍に……貴方の婚約者のままでいてもいいでしょうか……?」
シン、と沈黙が部屋の中を流れる。
痛い静けさに居た堪れなくなり、ハミルトン様の顔を見れず下を向いた私を、ふわりと温かい腕が包み込んだ。
「何を馬鹿なことを言っているんですか。僕は〝予知夢〟が見られるから貴女に婚約を申し込んだのではありません。貴女だからこそ、婚約を申し込んだのです。こんな不甲斐ない僕ですが、これからもずっと傍にいてくれますか?」
ハミルトン様の低く囁かれたその言葉に、私の涙腺が崩壊した。
「もっ、もちろんです……っ。不束者ですがよろしくお願いいたします!」
私の泣きながらの返答に、ハミルトン様はさらに強く私を抱きしめる。
「――イチャイチャは二人きりの時にやってください。わたしに大量の砂を吐かせる気ですか」
呆れたような侍女さんの声に、私はあわあわと顔を真っ赤にさせる。
そんな私を見て、ハミルトン様は子供のようにくしゃりと顔を緩め、幸せそうに笑ったのだった――
Fin.
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