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過労で倒れかけの騎士団長を「カツ丼」で救ったら、なぜか溺愛され始めました。  作者: 水凪しおん


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第8話「不正の露見と権力の行使」

 レオンハルトの行動は迅速かつ容赦のないものだった。


 ルカの食堂を後にしたその足で、彼は騎士団の本部へと戻り、直属の信頼できる部下たちを秘密裏に招集した。騎士団の中でも特に情報収集能力に長け、実戦経験も豊富な精鋭たちだ。レオンハルトは彼らに事情を簡潔に説明し、ただちに大商会バルクとその背後にある市場の元締めの繋がりを徹底的に洗い出すよう命じた。


「我々が守るべき王都の市民が、不当な圧力によって生活を脅かされている。これは単なる商取引の揉め事ではない。巨大な資本と権力による明らかな暴力だ。いかなる不正も逃さず、徹底的に証拠を集めろ」


 レオンハルトの低く抑えられた声には、静かだが恐ろしいほどの怒りが込められていた。部下たちは一糸乱れぬ敬礼を返し、影のように王都の街へと散っていった。


 一方、ルカの食堂は休業を余儀なくされていた。店の入り口には「仕入れの都合により、本日はお休みさせていただきます」と書かれた木の札がかけられている。


 ルカは厨房の隅で膝を抱え、火の落ちた暗い暖炉を見つめていた。普段なら、肉の焼ける香ばしい匂いや、油が弾ける心地よい音が絶え間なく響いているはずの空間が、今は嘘のように静まり返っている。その静寂が、ルカの心をより一層孤独と不安で締め付けていた。


『レオンハルト様は必ず解決すると言ってくれた。でも、相手は王都でも有数の大商会だ。彼にこれ以上の迷惑や危険をかけてしまったら……』


 ルカが不安に押しつぶされそうになっていた頃、レオンハルトの部下たちは王都の地下で確実に網を絞りつつあった。


 数日後、騎士団本部にあるレオンハルトの執務室に、分厚い報告書が積み上げられていた。そこには、バルク商会が行ってきた数々の悪事の詳細が克明に記されていた。他国からの輸入品に対する不当な関税逃れ、市場の元締めへの多額の賄賂、そして弱小商人や農民に対する暴力的な脅迫と借金の強要。ルカへの嫌がらせは、彼らの常套手段のほんの氷山の一角に過ぎなかった。


「……やはりな。これだけの証拠が揃えば、もう言い逃れはできないだろう」


 レオンハルトは報告書に目を通し、鋭い視線を窓の外へ向けた。


 翌朝、王都の商業区にあるバルク商会の巨大な屋敷は、突然の騒乱に包まれた。


 太陽が昇りきらないうちに、完全武装した数十名の騎士たちが屋敷を完全に包囲したのだ。先頭に立つのは、冷徹な空気を身にまとったレオンハルトだった。彼の銀色の甲冑は朝の光を反射して鋭く輝き、その存在感は圧倒的だった。


「何事だ! 我が商会にこのような無礼な真似をして、タダで済むと思っているのか!」


 寝間着姿のまま慌てて飛び出してきたバルクが、顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。その背後には護衛の男たちが武器に手をかけて立っている。


 しかし、レオンハルトは表情一つ変えることなく、バルクを一瞥した。


「バルク殿。あなたと市場の元締めに対する、関税法違反、贈賄、並びに市民への不当な脅迫行為の容疑で、即刻身柄を拘束し、この屋敷を捜索する」


「なっ……! でたらめを言うな! 証拠があるのか!」


 バルクがうろたえながら叫ぶと、レオンハルトは部下から受け取った分厚い帳簿の写しを無造作に突きつけた。


「これはあなたの金庫からではなく、あなたが賄賂を渡していた役人の隠し金庫から発見されたものだ。金の流れはすべて記録されている。それに、あなたが不当に圧力をかけた商人たちの証言もすでに取ってある」


 バルクの顔からみるみるうちに血の気が引き、土気色へと変わっていった。膝から崩れ落ちそうになる彼を、騎士たちが素早く両脇から押さえ込む。


「連行しろ。市場の元締めも同時に拘束し、不正な流通網はただちに解体する。正規の手続きを踏んで、滞っている食材の流通を直ちに回復させろ」


 レオンハルトの命令が下されると、騎士たちは迅速に動き出した。王都の商業を裏で牛耳っていた悪の根源は、こうしてあっけなく、だが完全に絶たれることとなった。


***


 その日の午後、ルカの店の扉が静かに開かれた。


 疲れ果ててカウンターに突っ伏していたルカが顔を上げると、そこには少し埃にまみれながらも、清々しい表情を浮かべたレオンハルトが立っていた。


「終わったよ、ルカ。市場の流通は正常に戻った。明日の朝には、君が望むだけの食材が手に入るはずだ」


 その言葉を聞いた瞬間、ルカの目から張り詰めていた涙がせきを切ったようにあふれ出した。


「レオンハルト様……! 本当に、何とお礼を申し上げたらよいか……。私のために、そこまでしてくださるなんて……」


 ルカは両手で顔を覆い、しゃくり上げながら感謝の言葉を繰り返した。レオンハルトはゆっくりと歩み寄り、その大きな手でルカの震える肩を優しく包み込んだ。


「礼を言うのは私の方だ。君の料理がなければ、私はとうに倒れていた。君を守るのは、私にとって当然の義務であり、何よりも強い願いなのだから」


 レオンハルトの低い声は、深い愛情と慈しみに満ちていた。ルカはその温もりに触れながら、この小さな店の中だけでは、彼も、そして自分の料理を愛してくれる常連客たちも守りきれないのだということを、強く痛感していた。

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