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過労で倒れかけの騎士団長を「カツ丼」で救ったら、なぜか溺愛され始めました。  作者: 水凪しおん


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エピローグ「祝祭の夜空と揺るぎない未来」

 ルカ商会が王都の食の中心として揺るぎない地位を確立してから、数年の歳月が流れた。


 秋の豊かな実りを祝う大規模な収穫祭の日、王都の中央広場は人々の熱気と歓声で埋め尽くされていた。色とりどりの旗が風にはためき、楽団が奏でる陽気な音楽が街の隅々にまで響き渡っている。広場の中心には、ひときわ巨大で立派な木組みの屋台が設営されており、そこからは空高く、香ばしい油と甘辛いタレの匂いが立ち昇っていた。


「さあ、カツ丼の出来上がりだ! 列を崩さずに順番に受け取ってくれ!」


 活気あふれる声とともに、次々とどんぶりが客の手に渡っていく。ルカ商会が総力を挙げて出店したこの屋台の前には、平民から職人、商人、そして普段は高位の衣服に身を包む貴族までもが、身分の垣根を越えて一つの長い列を作り出していた。誰もが皆、黄金色に輝く衣と鮮やかな半熟卵が乗ったどんぶりを受け取ると、満面の笑みを浮かべてそれをかき込んでいる。


 その光景を、ルカは屋台の奥から感慨深げに見つめていた。彼の顔立ちには以前のような不安げな影は微塵もなく、多くの部下を束ね、人々に活力を与える商会の主としての威厳と、穏やかな自信が満ちあふれている。


「商会長、南方の商人から白穀物の追加分が到着しました」


「よし、すぐに炊き上げの準備にかかってくれ。今日は一人でも多くのお客様に、私たちの料理を届けるんだ」


 ルカの的確な指示のもと、厨房の空気は熱く燃え上がり、料理人たちの無駄のない動きが次々と最高の料理を生み出していく。


 夕闇が迫り、広場を照らす光が松明の炎へと移り変わる頃、一日の激しい喧騒がようやくひと段落した。ルカが火照った額の汗を手ぬぐいで拭っていると、背後から近づいてくる重厚な金属の靴音が聞こえた。振り返らずとも、それが誰のものかルカにはわかっていた。


「今日も素晴らしい働きだったな、ルカ。王都中の人間が、君の料理によって腹を満たし、心からの笑顔を浮かべていた。治安を守る私にとって、これほど頼もしい光景はない」


 銀色の甲冑を身にまとったレオンハルトが、誇らしげな眼差しでルカを見つめていた。彼の顔には、祭りの警備という激務を終えた後の疲労よりも、愛する者が成し遂げた偉業に対する深い喜びが満ちている。


「お疲れ様です、レオンハルト様。皆さんがカツ丼を食べて笑顔になってくれる。あの雨の夜、私が小さな食堂で初めてあなたに料理をお出しした時から、私の願いは一つも変わっていません」


 ルカが柔らかな笑みを向けると、レオンハルトは優しく頷き、ルカの手をそっと取った。


「少し、場所を変えよう。君に見せたいものがある」


 レオンハルトに手を引かれ、ルカは喧騒の残る広場を抜け出し、王都の街並みを見下ろすことができる高い城壁の上へと向かった。


 城壁の上を吹き抜ける秋の夜風は心地よく冷たかったが、繋がれた手から伝わるレオンハルトの体温が、ルカの体をしっかりと温めてくれていた。眼下に広がる王都の街並みには、数え切れないほどの家の明かりが星空のように瞬いている。


 その時、夜空を劈くような甲高い音が響き、真っ暗な天空に大輪の花火が打ち上がった。赤、青、黄金色の光が夜空を染め上げ、少し遅れて腹の底に響くような重低音が空気を震わせた。


 花火の閃光に照らされたルカの横顔は、息を呑むほどに美しかった。レオンハルトはその横顔を見つめながら、静かに口を開いた。


「ルカ。君の料理が、あの無数の明かりの下にいる人々の生活を支え、活力を与えている。君はこの王都にとって、そして私にとって、暗闇を照らす確かな光そのものだ」


 レオンハルトはルカの体を自分の方へと引き寄せ、その背中に両腕を回した。分厚い甲冑越しにも伝わる彼の大きな鼓動が、ルカの胸の奥で静かに共鳴する。


「私一人では、決してここまで来ることはできませんでした。あなたが私の盾となり、共に歩んでくれたからこそ、私は私の信じる道を進むことができたのです。あなたがいてくれたから、今の私があるんです」


 ルカは両手をレオンハルトの背中に回し、その大きな背中を強く抱きしめ返した。互いの存在が、もはや自分自身の命と同等か、それ以上に大切なものとなっていることを、言葉にせずとも深く理解し合っていた。


 次々と打ち上がる花火の光が、重なり合った二人の影を石畳の上に長く伸ばしていく。王都の歓声が遠く風に乗って聞こえる中、レオンハルトはルカの額にそっと唇を寄せた。


「これからも、共に生きていこう。君が作り出す温かな匂いのする場所が、私が永遠に守り抜くべき、ただ一つの居場所なのだから」


「はい。あなたと共に歩むこの先には、きっと温かい未来しか待っていませんから」


 ルカの声には、一切の迷いがない確かな響きがあった。


 一つの小さな食堂から始まった奇跡のような軌跡。食を通じて結ばれた二人の魂は、幾多の困難を乗り越え、完全なる結実を迎えた。王都の夜空に咲き誇る光の華の下で、ルカとレオンハルトは互いの温もりを深く確かめ合いながら、これからも永遠に続く希望に満ちた道を、共に歩み続けていくのだった。

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