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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

リムーヴ

作者: 流山忠勝
掲載日:2026/03/21


 中学二年生のとき、私は殺された。

 いや、正確には変わったというべきかもしれないが、私にとっては殺されたという表現が正しい気がしてならない。


 あの日を境に、私は本当の自分が分からなくなったのだから。


 幼少期の私は絵に描いたような問題児だった。とにかく自己中で、他者のことなんて一ミリも考えようともしない最低な子だった。


 最初は、好奇心旺盛な元気が有り余っている明るい子として認知され、それが大人たちや同年代の子たちの間で広がっていき、遊ぶ人が増えていったが、次第に「変な子」「元気すぎる子」として認識された目が向けられるようになっていった。


 蟻を殺すことに達成感を覚えたり、幼稚園の大人たちにいたずらを仕掛けたり、母の作った料理をわざと「まずい」と言ったり、そんな問題行動ばかりを起こして困らしていた。


 当時の私には、「自分の赴くままにやりたいことをやり、同時に大人たちから注目を浴びたい」という欲望があったが、結果的に言えば一部を除いて周りの子たちからは白い目で見られたし、親にも大層迷惑を掛けた行為であっただろう。


 しかし残念なことに、「自分が楽しければそれで良い」「注目されたい」という安楽な思考回路は治らなかった。


 数年後、私は小学校に入学した。

 だが、小学校を幼稚園の延長線上だと勘違いした私は、ろくに授業も聞かずに遊び惚けていた。周りの子たちは徐々に自分の置かれた新しい世界に適応していったのだが、私自身は不適合者のままだった。


 突然「遊んで!」と授業前の先生にちょっかいを掛けたり、特別授業で班のリーダーになるのは自分だと泣き喚いたり、自分の気に入らない生徒を筆箱やリコーダーで殴って従わせようとしたり、バッタのような蟻よりも大きな虫たちを殺して楽しんだりしていた。


 そうした具合でかなりの頻度で異常な行動をとっていたために、父も母も学校によく呼び出されていた。私は「なんで二人が謝るんだろう」と不思議に思いつつ、「次はどんなことで遊ぼうかな」と短絡的に考えていた。


 学業は偶然にも算数以外は上出来な成績だったため文句は出なかったが、クラブ活動や宿題を定期的にサボっていたり、日誌や委員会活動日誌に落書きを施していたりと、そのことでも先生には怒られた。

 けれども、私は「ギャーギャーうるさいなこの人。疲れないのかな」としか思わず、一切反省しようとはしなかった。それでも、両親や先生に褒められることについては、素直に喜んでいた。


 週に一回の習い事でも私は変わらなかった。もともとやっていた習い事は、習字、フットサル、体操、スイミング教室というふうにあったが、習字も体操も素行不良で半年も経たずに辞めてしまったし、フットサルは「チームプレイをしろ!」とコーチがよく怒鳴るので、一年くらいでやる気が無くなって辞めてしまった。


 スイミング教室には二歳の頃から通っていたおかげか、自然と馴染んで続けられていたが、些細なことでしばしば喧嘩を起こしていたため、ここでも両親が頭を下げることが多かった。


「本当にどうしたらいいのかしら……」


 母は私をいつも天地が裂けるんじゃないかと思うくらいの勢いで猛烈に叱った後、父と一緒に家族会議を行っていた。そのときにこの言葉が必ず聞こえてくるので、私は「母さんが気にしなくてもいいのに……」とおかしく思いながら流行りのオモチャやゲームで遊んでいた。


 これらを読んでみて分かるように、小学生の頃の私は、どこをどう見てもクズな野郎だった。だから、後からツケが回って来た可能性は十分にある。


 小学校六年生になって進学塾に入り、度々講師との口論を起こし、親からの執拗な勉強の押し付けによるストレスの急増に耐えながら、私は中学受験に挑んだ。


 残念なことに第一志望の地元有名校に合格はできなかったが、第二志望の某大学付属中学校に入学することができた。

 ただ、入学してからの私の精神状態は極めて異端だった。


 授業中に好きな曲の鼻歌を歌いだしたり、同じ男子勢でふざけあってバカ騒ぎしたり、不謹慎なショート動画を見たり、小テストの点数でいちいち競い合って一喜一憂していた。これまで通り、何度も先生に注意され、危うく反省文を書かされそうにもなったが、ずる賢く身に着けた言い訳の数々で、どうにか難を逃れていた。私のことを毛嫌いする先生や生徒は当然いたが、そんなのがどうでもよくなるくらい私は楽しんでいた。


 今思うとこのときの私は調子に乗っていたのだ。明るく生きていければ、自分が楽しければどうでもいい。めんどくさいことは嫌いだ。「受験はもう始まっている!」「どうしてできないの?」「ちゃんとしなさい。もう中学生なのよ?」などと言ってくる上から目線な大人たちの声や視線が鬱陶しくて仕方がなかった。


 知るかよ、そんなの。

 そのらしさだとか、変な規則を強制するな。

 これが当時の私が心の中で押し殺していた、嘘偽りのない感想だった。


 そんな私にとって大きな転機となったのは、世界的な某ウイルスによるパンデミックだった。


 強制的な休校により、行く予定だった修学旅行や勉強合宿、オープンハウスといった行事が悉く潰れ、友達との人間関係も一度リセットされ、暇な時間が多くなっていった頃だった。


 当時、私が使っていたパソコンは学校の支給品だった。そのパソコンを使って課題をこなし、学校側の準備が整ったら、リモート授業を実行に移すことになっていた。


 ただ、なんと言うべきだろうか。そのパソコンはどこか気味が悪かった。


 最初はいたって普通のパソコンだった。サイズが小さめで年季があり、多少の傷が残っているくらいで、変に気になるところは全然なかった。

 だが、使用開始からちょうど一週間が経過したある朝、異変は起こり始めた。


 最初の異変は朝九時に起こった。リモート授業開始の初日、朝のホームルーム中にピロン……と軽快な電子音が聞こえたときだった。

『おめでとうございます。ありがとうございます』

 こんな文言が突如として画面の中央に表示され、数秒後、すぐに消えた。


「なんだ今の?」


 見覚えは一切なかった。このときは昨今話題のコンピューターウイルスだと思い、セキュリティ設定とネット環境を確認したが、特にそのような害悪なものが入り込んだ形跡はなかった。


 それからというもの、私のパソコンでは奇怪なメッセージがまあまあな頻度で表れるようになった。例えば、私がそのパソコンで学校以外のサイトにアクセスすると、たまにこんなメッセージが画面に表示されるようになった。


『幸運なあなたへ、矯正を受けてみませんか?』

 思わず目を逸らして「うげぇ」と呟いてしまった。

 なんて不自然な文章なのだろう。純粋にそう思った。


 やっぱりコンピューターウイルスにでも罹っているのか、ただの不可思議な広告か、そう思った。しかし、設定等を調べ直しても異常は見つからなかったし、セキュリティは安全そのものと表示されていた。

 「まあ、実害は今のところないし大丈夫か」

 私はこのとき、危機感を一切持っていなかった。


 またある日、パソコンを使って課題レポートを作っていると、今度は画面右下のお知らせからこんなメッセージが出ていた。


『そろそろ童は除去しましょう』


 身体が一瞬にして強張った。得体の知れない気色の悪さを心に植え付けられたような気がした。私はそのメッセージを無視した。

 ほぼ同じ頃には、当時使っていたスマートフォンに、パソコン上の学校専用アカウントから、毎日のように「変われ」というメッセージが来るようになっていた。これに悍ましい何かを無性に察した私は、アカウントをブロックして対応した。


 正直、全部意味が分からなかった。「こういうウイルスというのは、性欲を発散するサイトにつながるリンクを出したり、設定上の警告メッセージが出たりするのではないのか?」という疑問が私からは離れなかった。


 パソコンの取扱説明書を読んだり、対処法をネットで調べても、解決方法は全く見つからなかった。アカウントの方で学校側に問い合わせても、「知らない」の一点張りだった。父や母に言っても、コンピューター上に異常は発見されないので、何の対応もしてもらえなかった。


 この新手のコンピューターウイルスと思われるものは、他のウイルスとは違う未知の存在であり、私はそのことにだんだん不気味さが増していくのを感じていた。


 その例の不気味なパソコンを使用し始めて1カ月半が経った頃だった。私は自分の部屋の椅子に腰掛け、若干の不安はありながらもパソコンの電源を付け、パスワードを入力してリモート授業のURLをクリックした。もうすぐで朝九時を時計が指す頃だった。通常であれば先に入室している先生が待機しているはずであり、そこでホームルームが始まるまで待つのだが、この日は様子が違った。


 入ったリモート部屋は真っ暗だった。画面には先生のユーザー名は入っておらず、この部屋のホストは空欄になっていた。


「ん? 先生まだ入っていないのか?」


 早すぎたか? 

 いや、いつもはこの時間帯には自分も含めて三、四人のクラスメイトと先生がいるはずだ。そう思っていた時だった。


「……チャット?」


 画面に表示されているチャット記号に、メッセージが一件届いているのが目に入った。しかしそれは通常ならあり得ないことだった。今は自分以外に誰もこのリモート部屋に入室はしていない。


 妙に嫌な予感がした。けれども、見ないわけにはいかない。

 私は自然と震える手を懸命に抑えながら、メッセージを開いた。


 最悪なことに予感は的中した。


『おめでとうございます。赤色のスイートピーが咲きますよ』


 それを見た瞬間、私は背筋に猛烈な寒気が通ったのを肌で感じ取った。この淡々とした正体不明の文言には見覚えがありすぎた。


「は? 意味分かんないって。また、このパソコンの不具合? いや、やっぱウイルス?」


 冷静にはなれなかった。口調は荒くなり、頭は混乱に満ちていた。


 しかもこの日は、信頼のできる父も相談のできる母も仕事で家にはいない。インターネットや説明書を使った対処をするか、パソコンをシャットダウンして再起動する他ない。


 粟立つ皮膚に元に戻れと願いながら、とりあえずは一旦この部屋から退室しないと……そう思い、「退出する」と書かれたボタンをクリックする。


 が、「本当に退出しますか?」というお決まりの文言が表示されない。いや、そもそも、クリックができなかった。


「えっ、嘘。なんで?」


私は何度もガチャガチャと操作を促したが、全く反応がない。


「ちょっと、やめろよマジで。動けよ!」

 私がそう叫ぶとまたチャットに何かが書き込まれ、私宛に送られてきた。そのメッセージはどういうわけか、何の操作もしていないのに画面に大きく表示された。容赦なく私の目には、あの気味の悪い文章が映ってくる。


『やっぱり、あなたは幸運です。さあ、禊を行いましょう。生まれ変わるのです』


 声にならない悲鳴が口から洩れた。一度瞼を閉じてから再度見てみても、文章は変わっていない。決して見間違いではない。


 本当に気分が悪かった。底知れない邪悪というものをチャットから肌で感じ取れてしまう。呼吸が荒くなり、朝のアラームのような動機が打たれる。


 あまりにも危険だ。これは自分では対処不可能だろう。


「……まずいよな、まずいよなコレ? 流石にこれは手に負えないんだけど!? ちょっと、父さんに連絡しないと……いや、まずはパソコンの電源を切ってみてから……」


 完全にパニックに陥った私は、腕を伸ばして電源ボタンを押そうとする……が、その瞬間、パソコンの電源が何の前触れもなくプツリと消えた。


「え?」


 まだ押していない、という思考回路が出来上がった直後、それは訪れた。


 真っ黒に染まった画面に砂嵐が映り、不規則な電子音が鳴った。

 過敏になった聴覚と視覚がすべてパソコンに注がれ、時間の流れが驚くほど遅くなり、やがてその音は大きくなっていく。


 そのわずか数秒後、パソコンから黒い何かがこちらに近づいてきた。

 全身の細胞と直感が全速力でこの場から離れろと頭の中で警鐘を鳴らし始める。

 だが、なぜか金縛りにでもあったかのように私はその場から離れられなかった。全く体が脳の指示に従おうとしなかった。


 徐々にその何かは拡大していき、やがてその姿が露わになり、瞳孔に反射される。


「……手?」


 謎の黒い手がパソコンからズッと現れ、筆舌しがたい不思議な存在感を放っていた。それは路地裏の漆黒やトンネルの闇のような雰囲気に似ていた。相変わらず私の体はピクリとも動かない。


 突如、この世の全ての音が消え、時が止まり、本物の静寂が周りを包み込んだ。


 何の間もなかった。気づいたときには、私の頭に寸分の狂いもなく、黒い手が突き刺さっていた。直感でそう感じ取れた。と同時に、私は今すぐにでも叫びたくなった。


 前が見えなくなり、鼻の感覚が消え、耳も機能しなくなった。悲鳴をあげようにも口が行方不明となり、全身に最大級の不安感が走った。

 次の瞬間、私の心の奥底で聞くに堪えない絶叫が響き渡った。


 悪夢そのものだった。これ以上ないほどの苦痛が全身を暴れまわる。


 嫌だ。やめろ。やめてくれ。


 血が夥しいほどに飛び散ってはいないようだった。目を潰されたわけではなさそうだった。


 それでも、脳内に無数の歪み、迷い、嫌悪が混ざり合った不快感が流れ込み、声にならない嗚咽が無限に漏れているような感覚が生まれていた。私は自らの深層で何度も届かない発狂を繰り返した。圧倒的に不愉快だが、それ以上に自分の本性が勝っていた。死にたくはない、と心の内側から外側まで強大な振動が駆け巡っていく。


 頭が壊れてしまいそうで、自分が死んでしまいそうで、人として何かを失う気がして、だから滑稽な抵抗を自然と行ってしまった。それが一番精神を蝕むというのに。

 朧げな意識の中で、突然怪物によって悲惨な最期を迎える、映画や漫画のモブキャラたちのシーンが流れ始めた。


 ……自分もあんな惨めな人生の終末を辿るのだろうか?


 ……ああ、もう何も、わからない。


 私は何もかもを放棄し、薄くなった反発心を完全に失くした。

 意識は闇に沈み込んでいった。





 どれくらい時間が経ったのだろう。私は何かが起きたぞと急かされるように、バッと目を覚ました。

 私は自分のベットの上にいた。勢いよく目覚めた直後だったので、何度も瞬きを繰り返す。息があり得ないほど荒かった。胸の中がかき乱されているようで吐き気がした。

 また、どうやら皮膚の隅々に至るまで汗が付着しているようだった。


 頭を触ってみる。特に傷はなく、血も付いていない。おかしな感触もない。強いて言えば抜け毛がごっそりとあることくらいだろうか。十数本は取れてしまっている。

 部屋の時計を確認すると、まだ始業の20分前だった。


 夢か?

 あれは夢だったのだろうか?


 そうだ。きっと、全部悪夢だったのだ。なーんだ、それだけか。

 私は心から安堵した。


 さて、速やかに下へ行かなければ、《《一人が遅れれば皆に迷惑がかかる》》。

 そう思い、私は一階のリビングへ向けて、階段を降りていった。



 数カ月後、私は再び学校で授業を受けられるようになった。一旦は例の感染症も収まり、規則はありながらも学校へ足を運べるようになった。


 またいつもの通りの学校生活が始まった。


 ……というのは大きな間違いだった。

 私はあの日から、あの悪夢を見たその日から、私の世界そのものが一変したのだ。


 私は一切人と喋らなくなった。


 以前のように、わざと大きな声で騒ぐことは無くなった。テストで一喜一憂もしなくなった。前よりも課題を余裕をもって出すようになった。先生に悪く見られないように振る舞うようになった。ミスをしたときは同学年だの先生だのに関わらず、すぐに「ごめんなさい」「すみません」と頭を下げるようになった。それどころか、うるさい教室の連中を目にする度に「何やってんだあいつら?」と思うようになっていった。


 授業も前よりなんとなくまともに聞くようになった。休校前は先生の話を聞く振りをしていたというか、テスト前以外は真面目に取り組めていなかった気がする。だが、今は違う。先生の目が怖い。こいつらは授業をちゃんと聞いているのか、課題をやっているのか、先生たちに従順なのか。そうでないやつは悪い点をつけてやろう。人生を台無しにしてやろう。そのような品定めをする邪悪な眼が、怖くて仕方がなかった。


 関わるエンタメの種類も変わっていった。ついこの間まで好きだったはずの子供向けアニメや漫画を、私の脳は受け付けなくなった。それどころか、「こんなものが好きだったのか」と毛嫌いするようにまでなったのだ。


 昔のオモチャにも完全に興味が無くなった。どれほど精巧なグッズや人形を見たり触れたりしても、ただのガラクタとしか思えなくなった。


 そうなると今まで付き合っていた友達たちとも馬が合わなくなるわけで、「お前、何なんだよ。マジで」と面と向かって言われることになった。


「なんで全然話に乗ってこねぇんだよ。なんでさっきから黙って見てんだよ」

「お前、何だよその目。なぁ、何考えてんだよ!?」


 だがそう言われても今の私には何も響かなかった。この人たちはまだ人様に迷惑を掛けているのか、まだ騒いで、変なものに感情をすぐ切り替えられて、真面目に勉強をしようともしないで。


 本当に馬鹿だなぁ。適応しないと死んでしまうのに。


 私は自然と心の中で、彼らをそう軽蔑していた。


「お前、変わったよなあ」


 ある日の放課後、職員室に担任の荷物を運ぶのを手伝っているときだった。私の担任は関心したような表情でそう言っていた。


「こないだのリモート三者面談でも、親御さんが喜んでたよな。成績も上向いてきたし、礼儀も前とは見間違えるほどよくなった。この調子で頑張れよ!」


 担任は自分のことのように顔を明るくしながら私のことを褒めてくれた。私は「はは、そうですね」と苦い笑いを浮かべながら頷き、荷物を所定の場所に丁寧に置いた。


 理由は不明だが、大して嬉しくはなかったことだけが、私の記憶にぐらつきながらも、残っていた。





 ……そして、私は今に至るのです。

 ここまで読んでくださった皆さんは分かりましたでしょうか?

 私はあの黒い手に頭を貫かれてから、どうにも体がおかしいのです。

 あれから胸を張って「好きだ!」と言えるようなものに出会ったことはありません。何も、本当に何も感じない。心をどこかに置いて来てしまったような気がいつもするのです。


 無理やり良さそうに振る舞って、偽善者の顔を張り付けて、人のためになることをするようになって、親や大人たちの声に、何故か反抗したいという思いが無くなって、反発しようにも脳のプログラムが、口という伝達体が、それを許さないのです。まるでずっと前からそうであったかのように、私は世のためになる行動を最優先で行っているのです。


 昔の知り合いや親戚からは「人が変わったみたいだ」とよく言われます。


 その通りなのです。《《私はきっと、あのときに死んでしまったのです》》。以前のような最低な人間としての私は消え、代わりに新しい私へ生まれ変わったのです。きっと、そのはずなのです。

 いや、絶対にそうでなければならないのです。じゃないと、説明がつかないのです。


 中等部から高等部へ、高等部から大学生へ、大学生から社会人へ。


 目まぐるしく立場が変わり続けても、もう昔のような心と脳を持つことはありません。


 今もこの世の下僕として、動き続けている私ですが、それに不満を持ったことはありません。


 けど、なぜかずっと胸の中がシンとしていて、生きている実感が全くないのです。何をしても、心が満たされないのです。穴が腹に大きく開いていて、常に自分の願いや気持ちが外に流れ出ているようで、居心地が悪くて仕方がないのです。


 あのときに、いじくられてしまった私はもう「ワタシ」という人間ではないのかもしれません。死んだ個体に成り代わった、別人な気がしてならないのです。


 ここまで読んでくださった皆さん。どうか、お願いします。私の問いに答えをください。


 本当の自分はどこにあるんですか?


 私という人間は偽物で、最早、人間ですらない存在なのですか?


 今の私は、このまま生きてても幸せになれるのでしょうか?


 いつかは、昔のような心を取り戻せる日が来るのでしょうか?


 どうか教えてください。


 頼むから、教えてください。


 どうか本当にお願いします。一生のお願いです。


 誰か、私に教えてください。


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