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傲慢貴族の跡取りスペアな俺は割と危ない状況のようです。取り戻した記憶を駆使して努力していただけですが領民に慕われてました

掲載日:2026/02/21



「こんな服では外を歩けないではないか!!」


ガシャン!!


「きゃぁ!!」

 思い切り投げつけた服が、ちょうどお茶を持ってきたメイドに直撃し、持っていたトレイを巻き込んで床に落ちた。


「も、申し訳ありません!! すぐに片づけを――」

 お茶を持ってきたメイドが慌ててしゃがみ込み、落ちて割れてしまったカップやソーサーなどを手に取る。


「貴様……」

「ひっ!!」

 そのメイドの前に立ち、拾っているメイドに向けて威圧するように低い声を上げる。


「ど、どうかご慈悲を!!」

「部屋の中を汚しおって!! 許さんぞ!!」

「きゃぁ!!」

 手を振り上げ、メイドを殴ろうと振り上げた手。その手を見てメイドは観念したのか目をギュッと瞑った。


 しかし、少し時が経っても一向に身体の何処にも痛みが走る事が無い事に気が付いたメイドは、硬く閉じていた片目を少しずつ少しずつ開いていく。


 すると、先ほどまで叩こうと手を振り上げていた片手を、反対側の手が抑え込むようにして阻止し、それどころか、本人を殴ろうとしているようで、必死にそれをこらえようともがいている姿が目に入った。


「ぼ、坊ちゃま?」

「くっ!! な、何なのだ、貴様は誰だ!! この私に何をしようとしている!!」

「坊ちゃま!! ど、どなたと話しをなさっておいでですか!!」

「うるさい!!」

「ひえっ!!」

 せっかく心配して声を掛けて来てくれたメイドになんてことを言ってしまったのかと、自分自身もびっくりしてしまい、慌てて目の前のメイドと距離を取った。


「な、なな、なんだ!! この気持はなんだ!! 俺はいったい何を考えている!!」


「ぼ、坊ちゃん!!」

「うるさい!! 坊ちゃんと呼ぶな!! 俺は……俺は……誰…………だ?」

 そんな事を考えた瞬間に、フッと意識が遠のいた。




「……うっ?」

「え? ぼ、坊ちゃん!! 気が付かれましたか!? だ、誰か!!」

 少し眩しいなと思いながら目を開けると、俺はどうやらベッドの上に寝かされているみたいで、天井ではなくちょっとだけ贅沢に(しつら)えられた天蓋が見える。


「こ、ここは……」

 声を出してはみたけど、喉が渇いているみたいで、スカスカな枯れた声しか出てこない。


「な、なん……だ?」

 辺りをきょろきょろと見渡すと、ちょうど立てつけられている姿見が目に入る。


「え? これは……俺だよな……」

 ようやく思い出してきた記憶、それは14歳になったばかりのアルタカ・バルサートが今まで歩んできた人生で、国中でも武力の誉れ高き高位貴族の1つ伯爵家の次男で、父は国家の安全を担う騎士団の1つを任されているし、兄は剛毅ながらも人を率いていくための魅力がある人物で、周囲からも期待されているし、父も母も認めているし、兄本人も次期当主になると自覚を持っている。


 対する俺はというと、剛毅な兄に似ているのは力を振う事が得意という事だけで、次男という立場を利用してやりたくない事には背を向け、気に入らない事は無視し、挙句の果てには自分でしたことを平気で人に押しつけようとするという、いわばお荷物的な存在であり、怠惰な生活がたたって体は肥えてしまっていていくら力を使う事が得意という事があるとはいえ、お世辞にも容姿が良いとは言えない。


 髪色は父から譲り受けたブロンドであり、瞳は母から譲り受けた深い蒼色。3つ離れた兄には婚約者がいるし、来年には結婚するという話も出ている。


 しかし、自分には結婚する相手すらもまだ見つかっていない。義務となっている貴族の教えを受けるために通うことになった王都に有る唯一の王立学園に通っているのだが、容姿とこの性格があだとなって、未だに婚約させて欲しいと言ってくる家は無かった。



 そして一番つらいところが、2年前に弟が生まれたのである。この弟は俺の育て方が間違っていたと感じた両親が、しっかりと教育する事を念頭に、既に専門の家庭教師を付けていて、年中一緒に居て既に教育が始まっていると聞いている。


――つまりは、今の俺は完全に要らない子じゃないか……。

 思い出せば出すほど、今の状況がまずいことがはっきりとしてくるが、今の俺にはソレを何とかする方法が思いつかないでいた。


コンコンコン


「坊ち――いえ、アルタカ様……」

「え? あ、入れ!!」

「……失礼します。主治医の先生がお越しくださいました」

「あ、はい」

「???」

 考えこんでいたことも相まって、突然掛けられた声に戸惑い、変な答え方になってしまった。そんな俺の事を入って来たメイドが不思議そうな顔をして見てくる。


「では診させて頂きますね」

「……どうぞ」

 主治医というのだから医師なのだろうし、俺は言われるがままに近づいて来る老年の男性に身を委ねた。




「大丈夫ですね。特に……変わったところは見当たりません」

「そうですか……」

「はい。安心しました。何しろ7日程お目覚めにならなかったので……」

「え? 7日も!?」

「はい」

 意識の無かった期間が長いという言葉にビックリして、瞬間に部屋の隅に佇んでいたメイドへと視線を送る。


 すると視線を送られたメイドがこくりと一度だけ大きく頷いた。


「とは言え、少しばかり気になる事もあるのですが……」

「気になる事?」

「えぇ……。あ、いや。これは言わない方がよろしいかと思いますので……」

「……なるほど、いえない事なのですね」

「…………」

 こういった問いに安易に答えることが出来ない医師は、額からジワッと汗をかいて来る。


「安心して欲しい。今ここに居るのは俺とあなただけだ。今の事は誰も聞いていない」

「し、しかし……」

「すまん」

 医師が淡淡と慌てるのに気にせず、佇むメイドへと声を掛ける。


 音もなくスッと近づいてくるメイド。その顔を見て確認する。


「えっと……エルだったよね?」

「え?」

「君の名前はエルじゃなかったかい?」

「そ、そうでございますが……」

「うん。合っていて良かった。すまないが医師せんせいをお送りしてくれ。いいかい? ここには俺と医師しかいなかったから、エルは話を聞いていない。そうだね?」

「えっと……、は、はい。わ、私は今、呼ばれたのでお部屋に入って来たばかりでございます」

「うん。じゃぁよろしく」

「かしこまりました。では医師せんせい

「…………」

 未だに俺の事をじっと見つめてくる先生。俺はソレにこくりと頷いて応えた。


――さて……と。どうしようかな……。

 医師が部屋から出て行った後にベッドから出て、裏庭が見える窓辺へと移動して考える。


――なるほど、つまり俺は今、危ない状態に居るわけだ。さてどうする『(まさる)』。どうやらここはあの有名な『転生してきた異世界』のようだぞ。


 そう。


 俺はこのアルタカ・バルサートという少年が生きて来た14年という記憶の他に、別の世界で生きていた記憶を持っている。


 いや、正確にはアルタカ・バルサートという少年の記憶に、記憶として流れ込んで来たというべきか……。


 前の記憶では、歌う事が好きで、目標に向けて頑張っていたんだけど、どこかへ移動している途中できおくが途絶えているから、俺はたぶんそこで生を落としてしまったのだろう。


 まぁ、何か大きなものにぶつけられてとか、この世界に来る前に綺麗な女神様に会ったとか、そういう所謂テンプレってヤツをまったく覚えていない事からすると、きっと俺はそう言うのには全く関係なく、前の人生ではそれが寿命だったという事なんだろう。


 いくら考えても想いだせないものは仕方がない。それよりも、今のこの状況はちょっとまずいかもしれない。


 何しろ――


「アルタカ様?」

「おっと!?」

「あ、失礼しました。何度かノックをしましたがお返事が無かったものですから、お気づきになられたばかりという事もあって、失礼ながら勝手に入らせていただきました。この罰はいつもの様に鞭でぶっていただいて――」

「え?」

「は?」

「いやいやいや!! 打たないよ!? え? いつもの様にって……あぁそうか……」

 いつの間にか部屋の中へ入っていたメイドのエルが、俺のすぐそばまで来て手には鞭を持ちつつ、うるんだ瞳を俺に向けている。


 そうなのだ。俺が小さい頃から一緒に育ってきたメイドのエルでさえも、この『俺』は身勝手な癇癪の犠牲者となる仕打ちをしてきている。


 今のこの状況を考えれば、エルにはソレが『居いつも通り』なわけだ。


「エル」

「はい……どうぞ。今日はお尻ですか?」

 後ろを向いて突き出してくるが、俺はそれを見ない様にと視線を外した。


「君を打ったりはしない。いや、今後はそんな事をしない。今まですまなかった……」

「え?」

 エルに向かって頭を下げる。


「お、おやめください!! メイドの私になど頭を下げるなんて事はしてはいけませんよ!!」

「いや。こんなことで許されるとは思っていない。でも、けじめはつけなければならない。今まで本当にすまない……」

 改めて頭をさらに下げると、あわあわと慌てていたエルがちょっとだけ俺に近づき、俺の両手をそっと取った。


「……どうしてアルタカ様がそのような事を急になさるのか分かりませんが、このエルは確かに謝罪を受け取りました。ですから、もう頭を上げてください」

「……わかった」

 提げていた頭を上げると、エルは静かに微笑んでいた。


「アルタカ様が私を名前でお呼びになられるのは久しぶりの事でございます。もう何年になるでしょうか……」

 俺とエルは主従という事を考えなければ、幼馴染と言っていい。歳も2つしか違わないから、俺が小さい頃は本当の姉の様に感じ接していた。


 いつしか俺がエルを名前で呼ばなくなったのは、家の者たちが俺に対して『スペア』という言葉を言わないまでも、そういう態度で接してくるようになったからだ。


 俺は俺なのであって、決して『スペア』ではない。幼いながらもそう思い始めていた俺は、それから反発をし始めた。


 まずは執事やメイドの事をそれまでは名前で呼んでいたのを『お前』という呼称に変えた。


 俺の方が、お前たちと比べると身分が上なんだぞと、その対応で知らしめることにしたのだ。

 そこからはもう止められなかった。反発する俺の態度を受けて、更に使用人たちは俺を蔑んだ目や態度を返してくるようになった。


 それは家の中だけではない。今通っている王立の学園の中ででも俺はそれを止めないでいた。いやエスカレートさせていったのだ。


 そうして今に至るわけだが、弟が出来るまでは俺の素行の悪さも『スペア』だからと目を瞑ってくれていたのだろう。


 しかし今は違う。俺がいなければ、弟がいるのだ。



「エル」

「はい。なんでしょうか?」

「俺は変わる」

「え?」

「俺は今日から『生まれ変わる』んだ。ついて来てくれるか?」

「……何がとは言いませんが、どこか……。いえ。わかりました。このエルはアルタカ様を信じて付いてまいります!!」

「……ありがとう」

 俺はエルの両手をとり、ぎゅっと固く握った。



 そうだ。俺は生きる。全力を尽くして、今のこのアルタカ・バルサートの人生を生き残ってやる!!


 俺はそう心に堅く誓ったのだった。




                                        了

お読みいただいた皆様に感謝を!!


以前お知り合いになった方のために書いた作品なのですが、この続きも一応想定はして書いております。しかし、今後使う予定が無くなったため、こちらで使用していいと許可をいただきまして、掲載・公開することにしました。


続きが気になる方――すみません執筆予定はないですm(__)m

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― 新着の感想 ―
ちょっとぉぉぉっ!? ここで終わりって、ご飯をお預けされたワンコ状態なんですけど……………。 これからどんな知識チートをしていくのか、とか、エルが実はMだったら(・∀・)、とか、気になる~。
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