第4章:揺れる境界線
充は、樹里の挑発的な言葉に動揺しながらも、冷静さを保とうとしていた。
放課後の教室、彼女の囁きはまるで蜘蛛の糸のように絡みつき、充の心を締め付けた。
「私、先生のこと、嫌いじゃないですよ。どうします? この秘密、二人で共有する?」
樹里の瞳には、怒りと寂しさ、そして何か得体の知れない光が宿っていた。
「大島さん、こういうゲームは危険だ。君もわかってるはずだ。」
充は一歩退き、教師としての立場を取り戻そうとした。
だが、樹里は動じず、机に腰かけ、足を軽く揺らしながら笑った。
彼女の制服のスカートがわずかにずれ、肌の白さが目に入る。
意図的な仕草だったのかもしれない。
「危険なのは先生の方じゃない? 母さんと何してるか、知ってるのは私だけでいいよね?」
彼女の声は軽やかだが、言葉の裏に鋭い刃が隠れているようだった。
充は深呼吸し、彼女の視線を正面から受け止めた。
「大島さん、脅迫を続けるなら、僕にも考えがある。君の喫煙の件、黙ってるつもりはないよ。」
樹里の笑みが一瞬凍ったが、すぐに柔らかな表情に戻った。
彼女は立ち上がり、充にゆっくり近づいた。
息遣いが近くなり、彼女の甘い香りが漂う。
指先が充のシャツの袖に触れ、軽く引き寄せるような仕草。
「ふーん、先生ってほんと真面目ですよね。でもさ、私、ほんとに母さんのこと心配してるだけかもよ? それとも…先生、私の体で遊んでみたい?」
その言葉に、充の体が硬直した。
樹里の瞳が輝き、唇がわずかに開く。
彼女の手が充の胸に触れ、ゆっくりと滑り降りる。
温もりが布越しに伝わり、充の心拍が速まる。
「大島さん、止めてくれ。これは…越えてはいけない線だ。」
充は彼女の手を払い、後ずさった。
教師としての理性が辛うじて勝っていた。
樹里はため息をつき、唇を尖らせた。
「つまんないな、先生。じゃあ、ゲームはまだ続けるよ。次はもっと、面白いことになるかも。」
彼女はそう言い残し、教室を出て行った。
充は一人残され、胸のざわめきを抑えきれなかった。
樹里の誘惑は、単なる脅迫を超えていた。
彼女の瞳に宿る熱が、充の心に小さな火種を残した。
その夜、充は江美と再び会った。
今回は、江美の自宅近くの小さなカフェだった。
彼女はグレーのコートを羽織り、窓際の席でコーヒーを飲んでいた。
38歳の彼女は、落ち着いた佇まいの中に、どこか少女のようなはかなさを持っていた。
「谷口さん、こんな時間にまた付き合わせてしまって…。樹里のこと、最近どうですか?」
江美の声には、母としての不安が滲んでいた。
充は、樹里の脅迫や誘惑について話そうか迷ったが、彼女の疲れた表情を見て言葉を飲み込んだ。
「大島さん、樹里さんは…頭のいい子です。ただ、ちょっとした反抗期かもしれない。心配しすぎないでください。」
充は丁寧に、しかし心からそう言った。
江美は小さく微笑み、コーヒーカップを手に持ったまま、窓の外を見つめた。
「谷口さん、私、時々思うんです。樹里にちゃんと向き合えてるのかなって。私が離婚したせいで、彼女、傷ついてるのかもしれない…。」
江美の言葉に、充は胸が締め付けられるのを感じた。
彼女の指がカップを握る力は、どこか不安定だった。
充はそっと彼女の手を握り、温もりを伝えた。
「大島さん、あなたは精一杯やってる。樹里さんも、いつかその愛に気づきますよ。」
カフェを出た後、二人は夜の街を歩いた。
江美の肩が震えているのに気づき、充は自分のジャケットをそっと彼女にかけた。
彼女の瞳が揺れ、充を見つめた瞬間、二人の距離が縮まった。
路地の暗がりで、江美の手が充の腕に触れ、彼女の吐息が近く感じられた。
「谷口さん、私、こんな気持ちになるなんて…。」
彼女の声は囁くように小さく、充の心を揺さぶった。
二人は互いの温もりに引き寄せられ、唇が触れそうになった瞬間、江美がそっと身を引いた。
「ごめんなさい…まだ、準備ができてなくて。」
充は頷き、彼女のペースを尊重した。
「大丈夫です、大島さん。無理に進める必要はないですから。」
その夜、充は帰宅しながら、江美の温もりと樹里の冷たい視線が交錯する感覚に苛まれた。
樹里の誘惑、江美の過去、そして自分の心の揺れ。
全てが絡み合い、充は何か大きな出来事が近づいている予感を抑えきれなかった。
数日後、樹里の行動はさらに大胆になった。
放課後、彼女は充を校舎裏の物陰に呼び出した。
夕陽が差し込み、彼女の黒髪が輝く。
「先生、母さんと会ってるの、知ってるよ。キスしそうだったよね?」
彼女の言葉に、充は息を飲んだ。
どうして知っているのか。
樹里はスマホを取り出し、画面を見せた。
そこには、充と江美が路地で寄り添う写真が映っていた。
「これ、バラされたら大変だよね? 先生、教師失格だよ。」
充の顔が青ざめた。樹里は近づき、指で充の唇をなぞる。
「でも、私が黙ってる代わりに…今度は、私の誘いに乗ってよ。」
彼女の体が密着し、柔らかな曲線が充の体に押しつけられる。
息が熱く、彼女の瞳が輝く。
充は拒否しようとしたが、写真の脅威が理性をつぶす。
「大島さん…これは…。」
言葉が途切れ、樹里の唇が充の首筋に触れる。
彼女の手が滑り込み、布の下の肌を探る。充の体が震え、抵抗が弱まる。
彼女の動きは巧みで、充の弱い部分を的確に刺激する。
息遣いが乱れ、熱が体を駆け巡る。
樹里の指が絡みつき、充の反応を引き出す。
甘い痛みが広がり、充は目をつぶるしかなかった。
その夜、充は一人でその感覚を思い出し、混乱した。
樹里の誘惑は、予想外の深みに彼を引きずり込んでいた。




